我が姫にささぐダーティープレイ (講談社ラノベ文庫)

【我が姫にささぐダーティープレイ】 小山 恭平/ファルまろ 講談社ラノベ文庫

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文武両道なエリート少年・鎧塚貝斗は、生徒会副会長として『王』たる存在を支えることに喜びを見出していた。
だがある日、彼は異世界に転生してしまう。
そこで出会ったのは、騎士公爵家の一人娘、ラライ・アッフィードだった。
名門王立女学園に通う彼女は、家柄だけは優秀なものの、学問ダメ武芸ダメ努力なんて大嫌い、さらには性格も悪くて友人もゼロな問題児。
それでも生徒会長になりたいという彼女。
そんな彼女が、執事となった貝斗に下した命令は――
「執事くんが私のライバルみーんなの足を引っ張ればいいんだよ!」
そして貝斗は、ダメお嬢様のためライバルの少女たちを籠絡し……!?
いずれ王とならんとする少女のために執事が暗躍する物語、開幕!
おおぅ、これマジもんの汚れ仕事、汚れ役、ダーティーのタイトルに偽り無しだわ。
面白いのは、この汚れ仕事を請け負うカイトは決して悪人ではなく、他人を貶める事を喜ぶ悪意の持ち主でもないというところ。なので、彼に騙され籠絡されていく少女たちがそれで不幸になり堕落していくかというと……いや、堕落と言えば堕落するのかもしれないけれど、むしろ彼女らの人生は好転することになるのだから興味深い。当然、彼女たちだけが幸せに感じる特殊な環境や状況、というわけじゃありませんよ? 一般的に見ても、色んなすれ違いや硬直化や取り巻く状況の劣悪さが改善されて、より良い状況へと転がっていっているのは確かな話ですし。
ただ、その彼女たちの幸せが目的で彼のダーティープレイがなされたのではなく、あくまでそれは姫の目的を叶えるため。姫たるラライの邪にして堕落した思想を、実現するための道路の舗装に過ぎない、というのがまた実に歪んでいる。実際、カイトってば何人か食っちゃってる(性的に)わけだし、口八丁手八丁で騙しているのは事実ですしねえ。
仏心もある、罪悪感もある。ただし、それを帳消しにしてでも面白さ優先、興味関心優先。その最優先が、今や彼の姫たるラライの人並み外れたクズい野望を自らの力量で実現させる、という方向へと向かってしまっている。
有能な人が陥りがちな、自分の能力をフルで使い尽くしてみたい、それも馬鹿げてるくらい野放図な目的を達成するために……という、野望・欲望。それも自分の目的ではなく、自分が王と認めた相手の野望を叶えるという王佐の欲。
まあ彼の場合、とても王佐なんてものではなく……なんだろうね。黒幕、というには王に目的も野望も預け切っているし。まさしく、汚れ役というのが相応しいのか。しかし、ただただ自分の力だけで無能な王を一代の英傑へと仕立て上げる、というのは彼のような人間をして、身震いするほどに楽しいお仕事なようで。そのためなら、どんな悪事もどんな善行も変わらぬスタンスで成し遂げ利用し切る、というのだから……前言を翻すことになるがこの男、やはり稀代の悪人である。
しかし、あとがきにもあるようにどんな裏の思惑、裏の意思があろうとも、その行為に救われた人にとっては救世主以外の何者でもないわけだ。そんでもって、この娘らの場合、それが利用するために行われた救済であると知ったとしても、それで裏切られた!と怒ったり反意を示すかというとそんな事はなさそうなんですよね。それくらいに、彼女らの人生は大きく好転していて、過程の事情に揺るがされないほどに彼女らにもたらされた結果の状況は決定的なものになっている。
カイトのいわゆるダーティープレイ(汚れ仕事)が決して軽薄でも生半可なものでもないことがよく分かる話だ。ちょいと騙して利用して、使い捨てにするつもりならこうは行かないだろう。
このクズいことこの上ない主従の顛末、どうなっていくか大変見もので面白そう。続きが楽しみ楽しみ。

小山恭平作品感想