徒然雑記

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新シリーズ

「私と一緒に住むってどうかな?」 1.見た目ギャルな不器用美少女が俺と二人で暮らしたがる ★★★☆   



【「私と一緒に住むってどうかな?」 1.見た目ギャルな不器用美少女が俺と二人で暮らしたがる】  水口敬文/ろうか HJ文庫

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放課後はふたりで同棲・・・・・・のための家づくり!?

手先が器用な男子高校生・高村劉生と、料理だけ上手な不器用美少女・伏見扇奈は親友同士。家に帰りたくない事情のある二人は、古民家をリフォームし、放課後の居場所にしようと動き出す。
すると、「二人きりなら思う存分イチャイチャしまくれる! 」と気付いた扇奈が劉生に猛アピールを開始!!
一緒に食卓を囲んだり膝枕したりと、友達から同棲カップルのような雰囲気に……!?
いつも一緒なのにじれったい、傍目バカップルな二人が繰り広げるイチャイチャDIYラブコメディ!!

これ、タイトルだけ見たら最近流行りの同居モノかと思ったら、まず同居するための家をボロボロの空き家状態からDIYして直しましょう! というお話だったのか。そもそも、主人公別に同居するつもりとかさっぱりないし!

幼馴染同士の扇奈と劉生、二人にとって思い出ある扇奈の祖父が生前に暮らしていた家が、長く空き家になっていたため今度取り壊されることになったと聞いた二人は、この家を暮らせる状態まで直して取り壊すという判断を撤回して貰おうと考える。
とはいえ、家をまるまる一件リフォームするのを高校生二人でどうにかするのは流石に難しいと思うのだけれど、流石にいきなり職人顔負けのスゴ技、とかは使うこと無く、二人は高校生が出来る範疇であれこれとボロボロになった畳や障子、壁紙や庭などに手を入れていく事になる。
意外と堅実だ。
まあ技術だけじゃなく、家をリフォームするとなると材料費も馬鹿になりませんからね。工具の類もあまり持っていないみたいですし。実際、作業の大半が庭の雑草抜きだったりして、扇奈が早々に根をあげたりも。地道に雑草抜き続ける劉生、飽きて放り投げないところとか結構偉いよなあ。
電気水道ガスとインフラも止まっている中なので不自由も多いのですが、それでも弁当を持ち込んだり、井戸から水を汲み上げて上手く工夫してお湯を沸かしてお風呂に入ったり、バラしてあった耐火レンガを使って竈を作りキャンプみたいに料理作ったり、とこれはこれで本格的な秘密基地作りみたいなノリで、二人きりの時間を楽しむ劉生と扇奈。
さても周りからはバカップル呼ばわりされ、実際傍から見るといちゃついているようにしか見えない二人ですが、現状付き合う様子は皆無なんですよね。
扇奈の方はもう劉生しか目に入っておらず、必死にアプローチしているのですが。
この娘、なんでか友達もおらずぼっちなんですよ。これだけコミュ力あったら昔なにかやらかしてても高校生にあがったところで変わってくると思うのですが、劉生にべったりひっついていることもあってか他に友達一切おらず。劉生の方はそれなりに友人がいるのにね。
そもそも、扇奈が孤立してしまったのは周りよりも早く二次性徴を迎えて、突出して一人だけ成長して大人っぽい女の子の身体になってしまったために、男の同級生たちからは酷い色眼鏡で見られ、同性の女の子たちからもハブられ、本人もかなり心傷ついた状態で孤立してしまったんですね。
そんな彼女を、変に女扱いせずに友達として接し続けた劉生だけが、傍で扇奈の親友で居続けたわけだ。これ、劉生自身けっこう意識して女扱いしてなかったみたいなんですよね。そのせいで扇奈が孤立してしまい、彼女が自分の女らしさを強く気にしてしまっていた事も気が付き理解していたため、彼女が嫌がることを避けながら扇奈の傍らに居続けたという気遣いの男なのである。
惜しむべきは、思春期を迎え高校生になっても、その当時の意識のまま扇奈に接してしまっている事なのでしょう。これまでの経緯から、劉生の優しさや気遣いに惚れ抜いた扇奈はそのまま異性として彼の事を好きになり、だからこそ自分が女性である事を受け入れて、むしろ女の子らしさや色気を武器にして劉生にアプローチしまくるようになっている。
のだけれど、劉生は扇奈を女の子扱いするのは彼女を傷つけることだと思いこんでいるので、扇奈の必死のアプローチを徹底して無視してスルーしてるんですね。
単純な主人公の鈍感、というわけじゃなく、ある種の気遣いの結果、というのがまた残念な現状維持に落ち着いてしまっているわけだ。大切にしているからこそ、気をつけて適切な距離を保っている。保ってて、あのイチャつきっぷり、という時点で劉生の距離感の方もだいぶ狂ってはいるんでしょうけれど、それでも肝心の所ではどうしても距離が詰まらず扇奈は空回りしつづけるのである。
いやもうそれ、はっきり告白したらいいんじゃない? と、思う所なのですけれど、それが出来ないのが彼女の不器用極まるところ、なのでしょう。

登場人物それぞれが、親に対して不満や不平、距離の隔たりを感じているのですが、さてそれがただの反抗期なのか、親にも問題があるのか。
まあ問題があるのは確かなのですが、子どもたちが思っているほど親の側に愛情がない、という訳でもないようで。少なくとも扇奈の親子関係の方は親と娘両方の不器用さが拗れてしまっている、というくらいなのでしょう。劉生はちょっと父親のダメさ加減が子供側からの視点ではかなりあかん所なのですが、これ父と母の夫婦間ではまた違う了解があるのかもしれないので、なんとも言えず。
ただ寺町奏の方はこれ両親に完全に失望してしまっているので、ここが一番修復無理っぽいのかなあ。
ともあれ、扇奈のパパさんは頑固で融通きかなさそうだけどちゃんと娘を心配してるし、条件付きとはいえ家のリフォームも許してくれたので、理解ある親の範疇なのでしょう。どうせ、高校生二人でちゃんとしたリフォームなんて無理に決まってる、という判断はわりとまっとうにも思えるし。
ただ、この残念な娘さんに対して劉生はかなり得難い理解者なだけに、邪魔するのではなくむしろ積極的に娘を応援して貰ってもらう方針に変換した方がいいと思うんだがなあ。
父親の方も、あれこれ娘空回りしてないか?と気づいた節もあるので、娘のポンコツ具合を承知すれば劉生みたいな物件は逃がす手はないと思うのだけれど。

しかし、このタイトルとなってる台詞の使い所は面白かった。散々引っ張っといてそこでタイトル持ってくるかー。そして、タイトルにするぐらい密かに気合入った台詞にも関わらず、劉生の塩な対応である。……どんまい。


水口敬文・作品感想

ウィッチ・ハンド・クラフト ~追放された王女ですが雑貨屋さん始めました~ 1 ★★★☆   



【ウィッチ・ハンド・クラフト ~追放された王女ですが雑貨屋さん始めました~ 1】  富士 伸太/珠梨 やすゆき MFブックス

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追放された元王女は、異世界の魔導書でチートな雑貨屋さんはじめます!?

王家において最も重要とされる攻撃魔法の威力が弱いため、辺境の屋敷へ追放されてしまった心優しい元王女ジル。
そんな彼女が絶望の中で見つけた異世界の魔導書は、膨大なモノづくり知識であふれており、あっという間に彼女を虜にした。
さらにジルが趣味として始めた服飾づくりは、彼女の繊細な魔法と相性抜群で、誰にも真似できない職人技が発揮される!
彼女が作り出すオシャレな麦わら帽子や、ローブをリメイクしたワンピースなど、今までになかった作品の数々は、町の人々を魅了していく。
「自分の作った服や小物を店で並べて、みんなに手に取ってもらいたい!」
雑貨店を開くことを夢見て奮闘するジルの姿に、いつしか共感した人々が次々と押し寄せてきて――!?
服作りで人々を笑顔にするジルの楽しいセカンドライフ物語、ここにはじまります!!

異世界の魔導書ってKindleですかそれ!? まんま電子書籍、ではなく現代から遥か未来の銀河系全体に文明を広げていた時代のツールらしく、AlexaみたいなAI付き。いやでも、銀河系時代のAIの癖に喋る内容が今と大して変わらないんじゃないの? こう融通が利かない感じの決まりきった文言を差し込んでくるあたりとか、思いっきりそれらしい。ジルも一々対応せずにスルーかぶった切って指示飛ばすあたり、即でAlexa対応慣れちゃってるなあ、現地文明人にも関わらずw
しかし無料で読めるアーカイブが666冊ってのは多いようで凄く少ない気がするんですけど、友禅染めの本とかかなり専門性の高い書籍なんかもあるようで、これだとすぐに読み切ってしまいそうだなあ。

先日【バズれアリス】という作品を読みまして、これが非常に面白かった。なので、これを書いた作者さんの他の話も読んでみたいなあ、と思って調べてみたら【人間不信の冒険者達が世界を救うようです】の作者さんだったんですね。これ、小説の方は読んでいないのですけれど、コミカライズされていてそちらの漫画の方をチラチラと読んだことがあったわけです。
で、他にもこの【ウィッチ・ハンド・クラフト】が最近新たにシリーズとして出ていたために手にとってみた次第。
【バズれアリス】でも思ったのですけれど、この作者さん、雄大な風景描写の中に登場人物を落とし込んで、凄く印象的なワンシーンに切り取ってみせるの、凄く上手いんですよね。
王家から追放され、絶望のまま一人旅をしていたジルが旅の絵師であるイオニアと出会い、いっときの間共連れに旅をした際。彼女は王族の証でもある特徴的な目立つ髪を指摘されて、無造作に自分の長い髪を断ち切ってしまうのですけれど、そこでイオニアが改めて髪を切りそろえて整えてくれるのです。
それは未だ王族としての戒めに囚われていたジルの意識をどこか解放してくれる行為であり、肩口で揃えられた短い髪型は威厳ある王族から、等身大の少女に彼女を戻してくれるジルにとっての最初の転機でもありました。
その髪を整えるシーンが、また印象的なんですよ。
誰も通らない街道のど真ん中。雲ひとつない青い空の下で、折りたたみの椅子に座らされて白い布を被った少女の背後に立った一人の男が、器用に髪にハサミを入れ、櫛と微風の魔法で梳いていく。
ある少女が生まれ変わるワンシーン。
こういうシーンがあると、なんだかグッと物語の中に入っていけるんですよね。

このあとジルは押し込められる先の古い森の中の屋敷で、かつて慕っていた亡くなった伯父の残した言葉を見つけ、ここで王族としてではなく一人の少女として新たに生きていく決意を抱くのですが、その前にイオニアの出会いと、あの髪を散髪して貰う事がなかったら屋敷で素直に心新たにすることが出来ただろうか、と思うと王族としての体裁を切り落としてくれたあのシーンは、最初の転機そのものだったんじゃないかなあ、と思うのです。

さて、かつて伯父が暮らした屋敷で独りで生きていく決意を固めたジルですけれど、その屋敷が置かれている森に隣接する街、ジルが足繁く通い生活拠点とするこのシェルランドもまた他とちょっと違う特徴のある街でした。
魔法は攻撃手段であり、それ以外の目的で魔法を使用するのは不謹慎、という意識が強く根付いている王都を中心とした中央と違って、この街ではちょっとした生活での利便性や、物作りや様々な仕事の作業などを効率良く進めるため、人の手では難しい事を成すために魔法を使うことを忌避しないどころか推奨されてる雰囲気が当たり前になってる街だったんですね。
さらに、街に住む人達の一人ひとりに、クリエイター的な気質や文化芸術を尊ぶ意識が根付いている。工夫を凝らし、常に良いものを生み出そうという意識。新しいものを見出し、改良を加え、改革をもたらし、見たこともないものを作り出そう、楽しもう、愛でようという感覚。
それはまだ個々の人々の意識の中で胎動しているもので、大きな流れにはなっていないのですけれど、何かの萌芽が垣間見える街だったのです。
それは、常々ジルが両親に否定され頭から押さえつけられていた考え方と似たものであり、街の人達と交流するうちに彼らの中に、自分の内側で燻っていたもの、この追放された先で吐き出そうとしていたものと共通のものが存在することに気づき、ジルは大いに奮い高ぶるのでした。
言うたら、同志がいる! てなもんで。
ジルがやりたいと思ったことは、魔法を道具として利用しながら、伯父が残してくれたAlexaもどきによって得た外世界の知識を触媒に、自分が好きに思い描いた衣服や小物などのファッション系雑貨を取り扱う雑貨店。
そこで、街で出会った行商人のマシュや職人たちと協力して、まだ誰も見たことのない新しいファッションを創りだし、それをきっかけにして街ぐるみでニューウェーブを押し広げていく。
街自体が文化芸術の発信地となっていく、その号砲がジルの出現によって打ち鳴らされたのです。

図らずも、かつて彼女の伯父が数年間、この屋敷で暮らしていた時に。彼はここでレストランを開いていたんですね。そのレストランを訪れた街の住人たちの中に、とても革新的で何よりも美味しく楽しかった料理、食事の体験を通じて、新しいものに挑戦したい、自分の手でもっと凄いものを、素敵なものを創り出してみたい。関わってみたい、という意識が根付いて、大きな下地になっていたんですよね。
それが、ある意味かの伯父上の弟子でもあったジルが訪れたことで、開花の時を迎えたというのなら、それはとてもおもしろいことじゃないですか。

武器兵器としての魔法を使うことが出来ず、全く違った魔法の使い方を模索し、新しい自分の生き方を見つけたジルですけれど、一方で彼女の所属する魔導王国は完全に軍事国家の様相を呈していて戦争の気運も高く、また内部からも反乱軍が起こったりと不穏な空気は高まるばかり。
そんな情勢の中で、果たして悠長に文化の発信地なんてしていられるのか。なにやら、革命軍というワードも出てきていますし、ここから物語がどう転がっていくのか。色んな意味で楽しみです。

サイレント・ウィッチ 沈黙の魔女の隠しごと ★★★★   



【サイレント・ウィッチ 沈黙の魔女の隠しごと】  依空 まつり/藤実 なんな カドカワBOOKS

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奇跡に詠唱は要らない――気弱で臆病だけど最強な魔女の物語、書籍で新生!

〈沈黙の魔女〉モニカ・エヴァレット。無詠唱魔術を使える世界唯一の魔術師で、伝説の黒竜を一人で退けた若き英雄。
だがその本性は――超がつく人見知り!? 無詠唱魔術を練習したのも人前で喋らなくて良いようにするためだった。
才能に無自覚なまま“七賢人”に選ばれてしまったモニカは、第二王子を護衛する極秘任務を押しつけられ……?
気弱で臆病だけど最強。引きこもり天才魔女が正体を隠し、王子に迫る悪をこっそり裁く痛快ファンタジー!

コミュ障ッ!! いやもう筆舌に尽くしがたいコミュ障ッ!!
ってかこれもう対人恐怖症の域じゃないですか? 人見知りとかいう段階じゃないんですけど。人混みとかで死んじゃいそうなんですけど!?
人見知りとか内気とかコミュ障を標榜するキャラクターというのは珍しくないですけど、ここまでガチに他人とコミュニケーション取れないレベルで怯えてキョドってアバババ、となってるキャラはそうそういないと思いますよ。だって、コミュできないもん! それが況してや主人公て!
これは同じ七賢人のルイス氏のあのパワハラ紛いの上からガンガン命じて叱って怒って、というのがある意味正解なのかもしれない。やりすぎるとストレスで死んじゃいそうだけど。
何かと問題はあるけれど実は最強、というキャラクターは大体能力を発揮するときはキリッとなるものなんですけど、モニカの場合はそれすらもないですからね。
世界で唯一無詠唱魔法を使えるようになった、というのも人前でマトモに喋れないから、喋らなくていいように、という理由があるように、キョドって狼狽えている時でも魔術使えるようしてるだけで、魔術使うときだけ冷静になるとか意識が切り替わる、という事もありません。ひたすら、アババババとなりながら魔術使ってます、この娘。
しかも、無詠唱なものだからナニカ起こってもこの娘が魔術使っているとは一切疑われないし、本人は本気で怯えてビクついているのも確かなので、確かに完璧なサイレントだなあ、これ。

こんな娘を、人が一杯居て他人と嫌でもコミュニケーションを取らなければならない学園に放り込んで、さらに王子の護衛だか監視だかをやれ、と命じて放り込むルイス氏、ガチ鬼畜である。わりと真面目にモニカのストレス死を望んでるんじゃないだろうか。
とはいえ、モニカの実力を一番理解しているのも同僚であり同期でもある彼なわけで、本人の臆病な性格をして諸共しない、そんな状態ですらしっかりと成果をあげてしまう、結果を伴ってしまうモニカのスペックの高さ、能力の際立ちを、ルイス氏が一番わかってるんですねえ、これ。
ルイス氏自身は本気で不本意みたいですけれど。

というわけで、同僚に無茶振りされて無理やり学園に放り込まれたモニカ。任務とか言われても何も出来るはずもなく、周りに絡まれ鈍臭さからトラブルに巻き込まれ、怯え慌てて逃げ惑っているうちに、強引に無茶振りされた問題解決を半泣きになりながらサクッと成し遂げてしまったために、なぜだかトントン拍子に王子に近づき生徒会の役員に就任してしまうことに。
本人意図せず、右往左往してたり、現実逃避して得意な数学に没頭してたら、なんでか上手く行ってただよ、というなかなかに意味不明なムーブである。
この娘、本気で能力は抜群に高いだけに、無茶振りされるのが一番イイんだろうか。ビビリだから、命じられたら逆らえないし。七賢人という魔術師として最高峰の地位にあり、一代ながら貴族位も貰っているだけに本来なら学園でも王族以外なら誰にも謙らなくていい地位にあるはずなのに、徹底したパシリ根性、何かあったら這いつくばってごめんなさい、してしまう卑屈さがこびりついちゃってる娘なだけに、言われたら逆らえないという所がありありと。
なんか、ギャップがほんと面白いなあ、モニカは。

どうやら、彼女の対人恐怖症気味な性格には過去に受けたDVの影がまとわりついていて、ある種の精神的外傷がもとになっているっぽいんですよね。さすがに原因が原因なだけに、簡単に他人に慣れろ、とは言えないですし早々変わることは無理でしょう。数少ない友人とも決裂してしまった、という傷も抱えているみたいで、誰かと仲良くなる事自体怯えている節がありますし。
それでも、当たりこそキツいものの率直に物言ってくれて色々とかまって世話してくれるクラスメイトがいたり、厳しいものイイながら誠実に対応してくれる生徒会の先輩がいて、と……なんか当たりキツい人ばっかりだなあw
ただ、こういうキツい人は正直な人とも言えるので、むしろ当たりが柔らかかったり親切で優しかったりする人の方がどうにも怪しい気配がプンプンするんですよね。顔は笑っているけれど目は笑っていない的な。その筆頭が第二王子で、明らかに闇深そうな何を企んでいるのかわからない怪しい人物なんですが、この人が一応のヒロインになるんですかねえ。
他にも何を考えているかわからない怪しそうな人がわんさかと居て、モニカに心休まる暇なさそう。いやまあ、相手が怪しかろうがそうでなかろうが、誰だろうと人である以上心休まらないっぽいのですが、モニカさんは。
でも、ナニカ助けられたり好意で何かしてくれたりしたとき、その時は慌てふためき何も言えなかったとしても、ちゃんと後でも「ありがとう」と必死にどもる口を動かしてお礼を言う勇気を持ち、それを果たすことが出来るだけ、モニカは臆病なだけな心の弱い娘じゃないんだなあ、というのがわかって、あのシーンは何気にくるものがありました。
ありがとうと言われた方は特に響くものはなかったのかもしれませんけれど、モニカ本人は大変に勇気を振り絞って発した一言だったんですよねえ。

さても、言動はポンコツを通り越してもう不審人物なモニカが、そのくせやってる事を見るとテキパキと眼の前の問題を解決して、陰の任務も着々と成功させるための立ち位置を確保している、という本人まったく意識していなくて半泣きでもうやめたい帰りたいと嘆き呻いてやっぱり泣いているのに、結果だけみると有能極まる動きしている、というギャップの面白さ。
ストーリーとしては、まだ導入編。あれ?こんな途中で終わってしまうの?と驚いてしまったほど、話のキリもつかないところで終わってしまった1巻ですが、これシリーズ通して大きな一つの話を終わらせるロングスパンな作品なのか。ともあれ、続き気になります!

打撃系鬼っ娘が征く配信道! ★★★☆   



【打撃系鬼っ娘が征く配信道!】 箱入蛇猫/片桐 TOブックス

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バイト先が全て潰れてしまった少女は、親友のプロゲーマーに誘われて、「スクナ」として配信者になることに!選んだゲームは広大な自然広がるファンタジーの世界なのに勧められたのは物理特化の「鬼人族」に打撃武器!?だが超人級の身体能力をもつ彼女にはドンピシャリ。軽々と使いこなし、生き生きと敵をなぎ倒す!普段のゆるい雰囲気とは裏腹なその姿に、気づけばリスナーは一万人越え!?噂を聞きつけやってくる強敵も、金棒一本に全ての力を込めて迎え撃つ――

「それじゃあ、今日も配信やっていこ~」

解き放たれた鬼っ娘がモンスターを狩りまくる、冒険配信ファンタジー開幕!
書き下ろし短編収録!

おおっ、これ元の人間としての身体能力が図抜けているが故に、フルダイブ式のゲーム内で突出したプレイヤースキルを発揮できるというタイプのお話なのですが、このスクナこと菜々香はガチのリアルチートじゃないですか。元トップアスリートとか軍人とかじゃなく、彼女自身リアルで何か業績をあげているわけでもないのですが、単純に身体能力が異常。人間離れしている。というか、これ突然変異種じゃねえの? 作中でも超人体質、みたいに言われているし。
これ普通にスポーツの道に進んでいたら意味不明なレベルの世界記録保持者になってそう、なのだけどそういった道へは進まなかったんですよね。それどころか、中卒フリーターで現在無職の21歳、という中々厳しい人生を歩んできている所で察するものがある。
と言っても家庭環境が頗る悪かった、という訳でもないようなのですが。両親が早くに亡くなってしまったのが一番大きいのでしょうけれど、引き取られた先を含めて周りに居た人達はむしろイイ人たちだったようなので、我武者羅に働いて働いて働きまくるという人生に突入してしまったのはこのナナという娘の不器用さゆえだったのかもしれません。なんか、かなり肉体労働系の仕事に偏っていたみたいですし。現実社会で思いっきり振るうことの出来ない自分の力を持て余した結果として、体力を発散する方向へと突き進んでしまった、みたいな?
もう少し自分の力を有用に使うやり方もあったんじゃないか、とも思えるんですけどね。まあ本人は不満には思っていないようですし、フリーターとはいえアホみたいに仕事掛け持ちして働きまくっていたせいか、金に関しては困らないだけ稼いでるみたいですけど。
それでも、一番仲の良い親友と言ってもイイだろう相手と一年近く顔を合わすこともないくらい、連絡もなかなか取り合えないくらいまで働きまくっていた、というのはやっぱり不器用を感じてしまう所だなあ。
ともあれ、それだけ突っ走って脇目も振らず生きてきた彼女が、唐突に生まれた空白、バイト先が全部潰れるという偶然によって出来てしまった暇な時間に、ようやく周りを見渡す余裕を持てたのか。
久々に会った親友のリンに誘われて、彼女がプロゲーマーとしてプレイしている完全没入型、フルダイブのゲームへと誘われ、その世界ではじめて自分の力を全力で震える環境に出会うのである。
……と言っても、まだレベルの低い段階ではむしろ彼女の身体能力の発揮を阻害する形になってしまっているみたいなので、現状では全力で動ける、には程遠いみたいなのだけど。

ゲーム配信というのは実のところ全然見たことがなく、文化そのものが未知なのだけど、「わこつ」とかそっち系では共通のネットスラングなのか。他の配信系ネタの作品でも見たけど。
独りで、或いはパーティーでゲームを進めていくのみではなく、配信する事に寄って視聴者に見られ、彼らのコメントに反応しながらゲームに挑んでいくスタイル、というのは会話の入り方というか、コメントからいろんな情報が飛んできながら、という展開になるのでちょっと雰囲気違いますねえ。
とはいえ、本作はまだこの配信型特有というべき特徴というか、そういう形式であってこそのナニカ、それを武器にした魅せ方、をまだ感じるところまでは行っていないのですが。
しかし、ナナって友人たちの幼少期の回想を見ると、かなりの口数少ない表情の変化があまりないタイプのぼんやり天然不思議ちゃん系なんですよね。
当人視点だとただの脳筋系マイペース型なのですが、幼児の頃のキャラだととても配信のために常に喋りながらあれこれするタイプには見えないので、だいぶキャラ変わったように見える。
まあバイトの内容を見ると接客系もかなりこなしていたようなので、そういう経験の蓄積による変化もあったのかもしれないけど。でも、あの幼児の頃のキャラも面白かっただけにその路線も見たかったかなあ。とはいえ、あれを一人称の主人公でやるのは、配信も含めて難しそうだけど。

今の所ソロプレイで進んでいるけれど、親友との合流もあるだろうし、パーティープレイになっていくんだろうか。小難しいことをせずに、まずぶん殴るという棍棒金棒での打撃スタイルはなかなか面白かったです。

五人一役でも君が好き ★★★★   



【五人一役でも君が好き】 壱日千次/うなさか MF文庫J

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好きな人が五人で一人のフリをしていたので、全員カノジョにしようと思う。

(あ、高校生活、終わった……)
入学早々に肥だめに落ちて死にかけ、絶望していた僕を救ってくれたのは、誰もが憧れる完璧な生徒会長、近衛・R・知佳さん。
当然のように恋に落ちた僕は、彼女の隣に並ぶため、そこから猛烈な努力を始める。
学校底辺の成績から学校トップへ。死に物狂いの勉強のすえ、なんとか会長の補佐になることができた。
だが、僕はそこで知ってしまう──完璧な会長の姿は、実は特技の違う五つ子が五人一役で演じていた虚像だったのだ!
僕が好きだった彼女は存在しないのだろうか?
そうじゃない。好きな人が、五人に別れただけだ。だったら──

好きな人が五人で一人のフリをしていたけど、気づかないふりをして全員彼女にしようと思う。

これ全然同一人物に似せようとかしてないだろう!! 五人ともキャラ立ち過ぎているのはともかくとして、そのキャラクターを一切隠そうとしてないし! なんでこれバレないんだ!?w
双子の入れ替わり展開はまあわりとよくあるネタだと思うんだけれど、まさかの五人姉妹で一人を演じるという大技をかましてきて、いやあんまりと言えばあんまりの力技な展開に大ウケなんですけど!
それだけならまだ普通のコメディと言えたのかもしれませんが、ここから凄いのが主人公のアグレッシブさである。
中学で野球で名を馳せた牧原大河はスポーツ推薦で入学を決めた直後に事故で腕を怪我してしまい、野球選手として再起不能になってしまう。将来はプロ野球選手確実と言われた才能を潰され、挫折を味わった彼は、しかしそこで運命と出会う。
元々ストイックに自分を鍛えるスポーツ選手だったせいか、大河って努力を厭わないんですよね。恋を原動力に、スポ選故に学力最底辺だったのをわずか数ヶ月で学年2位まで駆け上るという尋常でない奮起を見せている。
その努力の方向性を、この男とんでもない方向へと差し向けてしまうのである。
生徒会に入るために学力を爆上げしてみせた大河(学則で成績優良者が生徒会メンバーに推薦される仕組みになってる)。その過程で知佳さんとも幾度も接触するのだけれど、その度に彼女の違う側面に触れて、その度に惚れ直していくのだが……その違う側面ってつまるところ別の姉妹に入れ替わってる時の近衛さんだったわけですね。つまり、大河はちゃんと全員に惚れて心奪われているのである。
そして、偶然近衛さんが五人の姉妹間で入れ替わり立ち代わりして一人の近衛・R・知佳という人物を演じている(いやあんまり演じてはいないけど!)事を知ってしまうのだ。
そこからが大河の凄い所で、五人のことそれぞれ好きになったのだから、これはもう五人全員と付き合って、最終的には五人とも結婚してハーレム作ってやるんだ、と決意するのである。
ハーレム展開というのは大概、なし崩しや八方美人に振る舞っているうちに何となく許されて、という展開が多いのだけれど、牧原大河という男は積極的に五人全員と付き合うために策を練りだすのである。
と言っても、近衛姉妹の弱みを握って陥れて、みたいな卑怯な真似をするのではなく、わりと正攻法なんですよね、彼のやり方って。
ごくごくまっとうに、彼女たち全員に自分に惚れてもらえるように、好感度が上がるような振る舞いを心がける、という女性へのアプローチとしてはこれ以上無い正攻法なのである。
また、五人全員と付き合うためにはフィジカルは重要、収入も五人分養えないといけないから高収入の仕事を目指さないといけない、さらに五人と正式に結婚するためには奥さん複数持っても大丈夫な国に移住しないといけないから、海外でもつぶしの効く仕事を選ばないと、ということで医者を目指し、さらに中東付近で通用するようにアラビア語を学び、と肉体と学力をビシバシ鍛え始めるのだ。
五人全員と付き合うために、小賢しい小細工をするのではなく、まず自分を鍛え上げるという発想に至るのが何とも面白く、それでいて五人全員と組んず解れつえっちい事もしたいから、と亜鉛の摂取を心がけたり、五人まとめて相手できるように体力つけようとしたり、下心も満載なんですよね。
この主人公ほど一途で純真にストイックに純情に、欲望に忠実かつ誠実な男はなかなか見たことないよ!?
これで、近衛姉妹の全員にべた惚れ、というのは本当に間違いなく、その恋心はまっすぐでキラキラと輝いているくらいなので、その誠実なくらいの純真な恋心がなぜかダイレクトに五人全員と付き合うという下卑びた方に全振りしているのが、なんかもう面白くて仕方ない。
それに、単に好感度を稼ぐために心にもない事をしているというわけではなく、大河という青年が根っからの善人であるのは、折に触れて何の思惑もなしに赤の他人を助けたり、誰かのために真剣に怒ったり、体を張って他の人の努力を守ったり、という振る舞いが彼が本物の好青年である事を伝えてくれるのである。
そんな彼が夜神月ばりの悪い顔して「計画通り!」と、ハーレムを作るためのあれこれを成功させてほくそ笑むの、そのギャップがなんとも面白いと言うか可愛げがある主人公なんですよね。
実のところ、大河がやってた事って近衛姉妹が五人一役をやっていたのを前から知っていた、というのを黙っていただけで、ほかは本当に正攻法に誠実に彼女たち一人ひとりに接してまっとうに惚れて貰ったので、別にそれほど後ろ暗いことはないんですよね。
彼女たちの秘密の入れ替わりしているのを知っているのを利用して、上手いこと好感度アップのためのアピールをしていたけれど、そもそも近衛姉妹が嘘ついていたことも、覗き見していたことも、彼女たちにも後ろ暗いところはあるわけですしねえ。その嘘を巧妙に罪悪感として利用してハーレムオッケーに持ってこうとしたのは、まあズルいと言えばズルいのかもしれませんけれど、ある意味ここはお互い様でもありますしね。
大河の下心がバレてしまったときも、実はそれほど彼女たちの好感度には影響しなかったと思うんですよね、これ。卑怯なやり方で好感度あげてたら、そりゃ幻滅されたかもしれないけれど、彼女たちが大河に惚れた所に大河の嘘はなかったのですもの。
いや、さすがにあのバレる展開は予想外もいいところでしたが。これはまさかまさかの展開でした。伏線もちゃんと仕込んであったのかー、あれは気が付かなかったぞ。
そして、大きな人生の挫折を経験した、そしてそこから文字通り這い上がった、その這い上がる奮起の、一度心そのものが死んだも同然だった大河の心を生き返らせてくれた、再誕させてくれた近衛・R・知佳という女性への恋を前にして、もう彼は二度と心折れたりしない。
彼は不屈の男。そしてその怪物級な欲望に一途で忠実な男。
牧原大河は諦めない。
近衛姉妹ハーレムを、諦めない。
何気にマジに好感度下がってないっぽいので、あとはホントにハーレム願望を受け入れて貰えるかどうかっぽいんですよね。なんか争奪戦がはじまりそうな勢いですし。
いやー、こっからどんな展開になっていくのか。衝撃的なラストと相まって、続き、めっちゃ読みたいぞッ!!

壱日千次・作品感想

八城くんのおひとり様講座 ★★★☆   



【八城くんのおひとり様講座】  どぜう丸/日下コウ オーバーラップ文庫

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「私に、一人の過ごし方を教えてほしいの!」
ぼっちを極めた俺・八城重明にそう頼んできたのは、リア充グループの人気者・花見沢華音だった。
周りの友人に合わせてリア充でいることに疲れたという華音に、俺は一人で楽しく過ごすための“ぼっち術”を教えることになるのだが――その結果、華音に師匠と呼ばれて妙に懐かれてしまい!?
さらに華音との交流がきっかけでリア充たちの抱える問題に首を突っ込まざるを得なくなり――!?
ぼっちの達人とリア充たちが繰り広げる青春ラブコメの最先端、ここに開幕!


なかなか厚かましいですよね、「私に、一人の過ごし方を教えてほしいの!」って言ってくるのって。ボッチの拗らせ具合によっては、喧嘩売ってんのか、と言われそうな話ですし。とはいえ、こうやって堂々と面と向かって質問して来れるのが、リア充と言われる人種のコミュニケーションに対するハードルの低さなんでしょうなあ。フットワークの軽さ、と言ってもいい。
事前に別のぼっちに同じことを質問しようとしてマルっと無視されているにも関わらず、メゲずに聞いてくるわけですから。
その無造作さ、場合によっては無神経とも取られかねないコミュを、同じリア充グループ内では取れないんですよね、なんでか。合わせて自分を消費してバランスを取らなければ、コミュが成立しない。
こうやって無造作に声をかけてくる、という事はそういう気遣いをしなくていい相手と認識している、とも取れるわけで。
最初は華音にとって八城重明というクラスメートは、まあその程度の相手だったわけだ。名前も覚えてないような相手だったわけだし。
仲良くなってからも、顔色を伺う必要があんまりなく気軽に付き合える相手、と認識しているのだろうけど、いずれにしても別枠ではあるんですよね。普段付き合いのリア充グループとは。そっちに引っ張り込もうとはしていないわけですし。そうやって別の対応が出来る相手を作る、というのは一つの集団の中でだけ時間のすべてを費やすよりも、そりゃあ気分がリフレッシュできるだろう。世界を一つに固定しないというのは賢い生き方である。世間が狭い学生の身なら尚更だ。
ぶっちゃけ、その時点で華音の目的は達成されているんですよね。一人の時間というのは、華音にとってそこまで重要な代物ではなかったと言えるかもしれない。まあ偶に気が向いた時に独りで過ごす手段を身に着けた、という意味では尚更悪くはないのだけど。
も一人の威堂智風についても、傾向は違っても方向は一緒だ。八城と知り合うことで、一つの世界という閉塞に風穴があいた。外を敵視し殻を固くしていた智風にとっては、違うコミュニティと交流を持つようになったことで鬱屈から開放されることになる。周りの見え方から変わってくる、というやつだ。そうなると、今まで居た元のコミュニティに対してももっと柔らかい見方が出来るようになる。華音も、元のグループに感じていた窮屈感が和らいでいったんじゃないだろうか。好循環である。
なるほど、リア充グループの中心である羽鳥くんが、二人の不調を感じながら自分ではどうしようもなかったので、八城には感謝している、と言ったのも納得である。こればっかりは、同じコミュニティの一員である羽鳥には、如何ともし難いものだからだ。というか、この高校生、人間関係に対しての理解が深すぎるんじゃないだろうか、えらいやつだ。

ちなみに、肝心の八城くんのおひとり様講座の内容については、あまり感銘を受けるものはなかったなあ、うん。なんか時間の潰し方、という感じのものが多くて、一人を楽しむ、という時間の有意義な使い方、という感じではなかったですからねえ。これに関してはお一人様の先人である【お前ら、おひとり様の俺のこと好きすぎだろ。】(富士見ファンタジア文庫)の春一氏が、まさにお一人様の達人、という感じで独りで過ごす幸せな時間を極めていたので、どうしてもそれに比べてしまって……。
まあでもさ、八城くんのそのお一人様の楽しみ方って……自分それ、独りで楽しんでたんじゃないんじゃね? というアレでしたからね。それら、他の誰かさんから教えてもらって、一緒に堪能してたわけですから、究極的に独り関係ないヤツですもんね。
……見方によっては、華音たちに教えたそれって自分たちのデートコースじゃねえかw

あれ? この八城くんってもしかして、と思ったのはわりと早い段階でしたよ。いや、あからさまになんか怪しかったですからね。八城くんとしては、別に隠し立てもなにもしてなかったのかもしれませんが。
ぶっちゃけ、八城くんのどこがボッチなんだ、と思うところもありまして。クラスで誰かとつるんでなかったらぼっちになるんだろうか。そもそも、やたらコミュ力高いのは結構一目瞭然だった気もするのだけど。
八城くん本人が、自分をぼっち、と規定している、というのもあったのでしょうけれど。これに関しては、彼に限らず登場人物の全員が、ぼっちかリア充かでどちらかじゃないといけないみたいに自分を規定してレッテル貼り付けていた印象もあるんですけどね。
そこまで拘らんでも、と転校生佐藤柚月を巡るトラブルを介して思ったり。八城くんの主張はロジックとしては理解できるんですけどね。柚月も、ぼっちを脱却したいと思っている人種だからこそ誰よりもぼっちとかリア充というレッテルに拘っているところもありましたから。
でも、自分じゃダメなんだ! と、そこまで力強く主張しなくても、と思ったり。
いずれにしても、羽鳥くん、あれは聖人か何かなんだろうか。後のフォローも含めて、対人能力が神なんですけど。

というわけで、真打ちは最後にやってくる、メインヒロインも遅れて最後に姿を表す、ってやつでした。すげえ、いきなりラブラブのラブコメになったぞw
二人の少年少女の甘酸っぱい幾つもの初めてを重ねていく物語。他人とうまくコミュニケーションをとれずに自分の殻に閉じこもっていた少女が、急かさず先走らず同じペースに合わせて寄り添ってくれる初めての男の子に、恋をしてしまうお話でした。
これ見ると、八城くんの懐の深さはまたべらぼうなんですよね。相手のペースに合わせることが難しいし、そもそも人によってペースが違うという事を理解できる人の方が珍しかったりする。この娘、ヌエのそれは時間の流れが違うんじゃないか、というくらいペースが異なっているのに、八城くんはそれを見つけ出すことに成功してるんですよね。
ヌエからしたら、人生で唯一のジャックポットですよ。生涯に一人出会うか否か、というような相手ですよ。そういう相手とこの歳で出会える、というのは幸運であり幸福であり。そして、それをおめおめと逃さないだけの、勇気がこの娘にはちゃんとあったわけだ。
あまりにもベストカップルすぎて、ちょっと他の娘入り込む余地はなさそうですなあ、これ。はい、残念でした華音さん智風さん。まああんまりにもラブラブすぎて、華音たちも割って入る気にもならなくなってしまったようですが。まー、あれだけピュアに一途に恋する少女してたらねえw
というわけで、裏章の甘酸っぱさにはちょっとアテられてしまうほど、遅れてきた真打ちは強力でした。
メインヒロイン、てのは別に最初から出てりゃイイってもんじゃないんだなあ。



祈る神の名を知らず、願う心の形も見えず、それでも月は夜空に昇る。 ★★★   



【祈る神の名を知らず、願う心の形も見えず、それでも月は夜空に昇る。】  品森 晶/みすみ MF文庫J

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失われた英雄の呼び名を、この世界はまだ知らない。

世界を滅ぼす邪神の眷属への対抗手段である“遺物”。
それを扱う才能を持たぬ【亜人】を純血人類たる【貴族】が従属させ、確固たる身分制度が敷かれた時代。
そんな千年後の世界に蘇った英雄・セロトは、人類の衰退ぶりに愕然としつつも、とある問題の解決のため、貴族の身分を得て、全ての叡智が眠るという【学院】に通い始める。
しかし、入学時の検査で遺物適正が最低ランクと判明。
劣等貴族と侮られることになるが、実技で実力の片鱗を見せていき……?
これは悪夢のような世界と、苦痛に満ちた虚構、そして闇を裂く微かな希望についての物語。
『幻想再帰のアリュージョニスト』の著者が贈る純血のハイ・ファンタジー。


主人公が多重人格ならぬ多重存在? 人格だけじゃなくて意識から身体から全部入れ替わるのである。変身じゃなくて、完全に別の存在が入れ替わるのだ。
セロト、アド、ドーパという三人の存在が出現するのだけれど、彼らが表に出るためにはそれぞれ、三人いるヒロインが求めることによって、表に出てくるんですね。
これだけだと召喚、みたいにも思えるのだけれど、良く良く見ていると元々不確定で曖昧な存在をヒロインが観測することで、彼女たちが望んだ形で主人公が実体を得ているようなのだ。
主人公たちはヒロインたちが望むように振る舞い、彼女らが乞い願うような在り方でヒロイン達と接し、この世界と相対する。
こう言うと、主人公たちは主体性も個性も何もないヒロインの願望の写し鏡、みたいにも思えるのだけれど……いや、実際そういう存在に近いのだろうけれど、一方で彼らにもちゃんと自意識と人格もあることがややこしさを増している。決して、ヒロインたちの人形ではないのだ。
とはいえ、露骨にその行動原理に影響を受けるし、彼女たちの精神状態によってはもろに煽りをくうこともある。
物語の主体は、セロトたち三人の主人公サイドではなく、リエミア、アンジェリカ、ミードの三人のヒロインたちの方にあるのかもしれない。アドを含め主人公たちは多くを語り、行動も積極的に起こすけれど、物語の行方を左右するのは女性陣の判断であり迷いであり暴走だ。
究極、彼女らの願いによって行動基準を整えている主人公たちは、物語を牽引し得ない。
彼女たちの願望を投影された存在である彼ら主人公。そもそも、主人公が作者や読者の願望を投影される対象として描かれる存在であるのなら、これ以上無いくらい主人公らしい主人公たちなのかもしれない。一つの露骨なくらいの回答として描かれている、のだろうか。

この三人の主人公、名前がセロト、アド、ドーパなんだけれど、これってセロトニン、ノルアドレナリン、ドーパミンという三大神経伝達物質がモデルっぽいんですよね。
それぞれの神経伝達物質が果たしている役割が、ちょうどそれぞれのキャラに当てはまるように造形されている。面白いことに、三人のヒロイン達の精神状態がこのセロトニン、ノルアドレナリン、ドーパミンの過不足によって引き起こされる状態とも対応してるんですよね。
ドーパと対応しているミードの状態が一番ヤバいといえばヤバいのですけど。凄く真剣深刻に精神の破綻、廃人化の危機について語っていたのに、いざ一線を超えて廃人になったと思ったら、弟依存症の姉堕ちってこれシリアスなんでしょうか、ギャグなんでしょうか。判断できないんですけど!?

いやもうなんか全体的に話は濃密に描かれていくのですけれど、とにかく読むのに凄まじいカロリーを必要としました。なんか凄く読みにくいのよ。シーンから別のシーンに移動する際にとっかかりが全然ないように見えるものだから、なんかやたらと唐突に場面転換が起こってるように感じるんですよね。凹凸が全然ない壁をクライミングするみたいな感じで、とっかかりがないのですよ。だからか、話が進んでいるのに読んでるこっちの意識が置いてけぼりにされてしまって、なんだか訳が分からなくなることがしばしば。かなり注意深く気をつけながら読み進めないといけないので、読むことそのものに疲れてしまいました。
こういう作風みたいだから、仕方ないんでしょうけれど。

肉の原見さん ★★★☆   



【肉の原見さん】  竹井 10日/あるみっく MF文庫J

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お肉大好き原見さんは、肉以外愛せない!

「JCとメシを食いに行ってくれ!!」唐突に“未来の俺”を自称する老人が現れて俺に懇願してきた。もちろんこんな怪しい話には取り合わなかったものの、むりやり連絡用のアプリを入れられてしまった――ってなことがあったんだよね~、と幼馴染の原見に話すと何言ってるのかわからないという顔で行くのを止められる。当然か。でもどんなJCが来るんだか気になって当日待ち合わせ場所でアプリを開くと、指定の場所は高級焼き肉店。「お肉だね!?早く!! お肉だよ!?」そしたらお肉大好きな原見が超絶乗り気に!? 待て待ていくらなんでも怪しすぎるだろこれ!? だけどお肉が地球を救う!? 少し不思議なグルメラブ・コメディ、開幕


マジでただひたすら肉食ってるだけだったんですけど!?
そして、ただひたすら肉を喰うマシーンと化している原見さん。この女、幼馴染で八百屋の娘、という以外の情報がほぼ「肉を食う女」という以外皆無に近いんですけど!?
肉ならば無限に食える女。肉を喰う店に入って肉以外を喰うこと(特に野菜)へ憎しみに近いナニカを抱いている女(八百屋の娘)。肉の食い方については一家言以上のナニかを持つ女。あらゆる高級肉料理店の常連と化している女。肉について語らせたらいくらでも多弁になる女。肉を喰うためなら何がどう辻褄のあわない事態が起こっても気にしない女。
つまり、ただひたすら肉を喰う女、それが幼馴染の原見桃さんである。
……こいつ、主人公とどういう幼馴染関係なのかもちゃんと話題にあがってこないんですけど!?
いやこれ、主人公の美澄渚の家庭環境ってかなり錯綜したものになっていて、普通に幼馴染がいるのが若干疑問に思えてくるものでもあるんですよ。原見さんとの幼い頃のエピソードとか一切語られないし、隣に住んでるという環境でもなさそうだし。ちょっと謎があるんですよね。

そして、怪しい老人(自称未来の自分)の指定によって肉屋に初対面のJCと肉を食べに行ったことで……なぜか世界が改変されるという結果が!
肉食いにいったら歴史が変わっていて、肉食いにいった美澄くんと原見さんとJCの雛鶴の記憶だけが元のまま変わっていないとか、どういう理屈なんだ? ほんとに肉食ってただけだぞ?
これは肉屋に食いにいったことで因果が変わる、というわけではないのは、次の話で別の肉屋に別のJCペコリーヌと肉を食べた際には、すでにペコリーヌと出会っていた時点で時間軸がネジ曲がっていた事からも明らかなので、ほんとどういう事なの? という話なんですよね。

ちなみに、食べに行く肉屋は一話の鉄板焼屋、二話のシュラスコと両方実在のお店である。秋葉原の肉の万世タワー10階、って今は営業していないのか。
いやこれ、値段すげえんですけど! 自分の金じゃないからって、原見さん食いすぎなんじゃね!?と思うくらい高いんですけど。JC雛鶴があまりに値段の高さに震えが止まらなくなってますけど、こんなん学生じゃなくても震えが止まらんくなるわ! 
「シャトーブリアンのあとだと普通の黒毛和牛はデザート感覚で食べられるね!」
震えが止まらんくなるわ!
いやでも、肉スゲえわ。めっちゃ美味そうだわ、肉。考えてみると、こんなガッツリ肉食ってないわ、最近。料理の中に肉が入っているというのはそりゃ珍しくないけど、こんなガッツリ肉がメインの料理って食べてないわ。
読んだ時晩飯後だったのですが、あまりに美味そうな肉の焼き具合に、こう匂いまで漂ってきそうで肉の柔らかさと焼き加減が伝わってきそうな肉語りに肉を焼く描写に肉を喰うレポートに、肉……肉喰いたい! てなりましたからね。
まあそのあとで、こいつらの食べた料理の値段の総額を想像してヒュンとなるのですけど。特に原見、コース料理をハシゴてどういう事なの? ロースとヒレの食べ比べって正気なの!? ちなみに、コースそれぞれ2万円とか3万円とか超えております。最初の注文の段階ですでに三人前で10万円超えてたんですけど。それからどれだけおかわりした? マジでなんぼ掛かったんだ!?
そしてそういうのを一切気にせず、ひたすら肉を喰うことに傾注する原見桃の肉への凶暴なまでの食欲の恐ろしさよ。ちょっとでも邪魔すると殺されそうなくらいの殺気!
……この人、確かヒロインなんですよね? ガチで肉しか食ってないんだけど?

そして、二話目は別のJCペコリーヌちゃんと行くシュラスコというブラジルらへんの南米料理のお店。肉串! シュラスコって食べたことねーわ!
というわけで、常連の原見さんの案内のもと初体験のシュラスコ料理のお店「バルバッコア」での肉三昧! いや、どんだけ喰うんだよ!? いくら食べざかりにしても限度があるぞってくらい食べてるんですけど! 若者ってそんなに喰うのか? 異次元の原見さんはともかくとして、彼女に引っ張られて美澄とペコリーヌも尋常じゃなく食ってるぞこれ。あー、でもこんないろんな肉が次々と皿の上に来るとか、食べるわなあ、食べるよなあ。肉のラインナップがすげえですわ、美味しそうですわ。ジューーって肉汁が〜〜。

結構、展開としては驚きというか何事!? なことが起こっているはずなんですけど、そういうのを押しのけてなんかもう「肉!」でした。文字通り肉喰うだけでしたが、それだけ何となく満足感を与えてくれる非常に肉肉しい密度のグルメレポートでした。
主人公の美澄くんも、竹井作品の主人公らしくいつもの奇人変人なのですが、肉を喰う原見さんの押し出しの強さが尋常じゃないだけに、あんまり目立たない……というのは冷静に考えると狂気だなあ。
なんか、肉を食いにいかないと世界が滅びる的な未来が待ってそうなのが……え? 肉食いに行くのに原見さんを連れて行かない、というハードモードをクリアしないと行けないの?
肉食いに行くけど原見お前留守番な! とか、じゃあ死ね!でバッドエンド直行じゃないの? 普通に殺されて終わりじゃないの? 無理ゲーじゃね?
あと、さらっと巴御劔さんが登場していて、吹いた。ちなみにこの巴御劔という人は竹井10日作品の大半に登場する(名前が違う場合もあるが)非常に重要なキーパーソンである。彼が登場したということは、彼の干渉がある世界なのかこれ。

それはさておきなにはともあれ……肉、喰いてぇ。
人よ、人類よ、肉を喰え! という思想に染め上げられる肉ノベルでした。肉でした。


竹井10日・作品感想


婚約破棄された令嬢を拾った俺が、イケナイことを教え込む~美味しいものを食べさせておしゃれをさせて、世界一幸せな少女にプロデュース! ~ ★★★★   



【婚約破棄された令嬢を拾った俺が、イケナイことを教え込む~美味しいものを食べさせておしゃれをさせて、世界一幸せな少女にプロデュース! ~】  ふか田 さめたろう/みわべ さくら PASH! ブックス

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森の奥に住まう人嫌いの魔法使い・アレンは、「魔王」と呼ばれ周囲の人々から恐れられていた。
隠遁生活を送る彼はある日、行き倒れた令嬢・シャーロットを拾う。
彼女は無実の罪で婚約破棄され、祖国から逃げてきたのだという。
それを聞いたアレンは、かつて仲間と信じていたパーティに裏切られた苦い経験を思い出す。
17歳、搾取されっぱなしの彼女の話を聞いて、アレンは決意する。
自分の屋敷に住まわせて、……イケナイことを教え込む、と。


この娘はほんと、絶対に幸せにしてあげなければならない!!
と、思わず使命感にかられてしまうほど、シャーロットという娘の不憫さと純粋無垢な健気さ、幼気なさが極まっていて、なんかもう全力で過保護にしてあげないと。甘やかしてあげないと。この世界には素敵なものがいっぱいあるんだと教えてあげないと、という気になってしまう。
べらぼうにかわいい、かわいい、ひたすらに可愛い。
こんな可愛くて優しくてイイ娘が、天使のように女神のように素直でイイ娘が、これまで筆舌しがたい境遇の中で虐げられてきたというのが信じられない。搾取され、踏みにじられ、苛められ、人扱いされなくて、何の楽しいことも幸せなことも経験せずに生きてきたんですよ。
自由にしていろ、と言われたら何をしていいかわからなくてひたすら床の木目を数えているような娘なんですよ?
どれだけこれまでの人生、自由与えられていなかったんですか。
そんな娘が、酷使され続けた果てに政略結婚の駒にさせられた挙げ句に冤罪で毒婦に仕立て上げられて処刑されそうになったわけです。
何の自由意志も許されていなかった、何も判断させてもらえなかった娘が、このときはじめて自分の意思で行動したのでした。自分の意思で決断し、思い切って逃げ出して、生きたいと願ってボロボロになりながら国外まで脱出して、追手に追われながらも空腹に擦り切れながらも、諦めずに逃げ続けて、アレンの住まう森の奥の屋敷の近くに行き倒れるまで逃げ延びたのである。
シャーロットは、アレンに出会った時点でちゃんともう選択はしていたのです。ただ無抵抗にしていて横から勝手に救われたのではなく、ちゃんと自分の力で逃げ出した、自分の意思で生きたいと願った。ここまで諦めずに、頑張った。
アレンが助けるのに、十分なものを最初の時点でこの娘は示していたんですね。

もっとも、最初はアレンも捨て猫を拾った、くらいの感覚だったのでしょう。自分が嫌われ者、という自覚はあっただけに、ある程度世話をして元気を取り戻せばすぐに出ていくだろう、と必要以上にかまうつもりもなく……まあ、捨て猫をあれだけせっせと世話して面倒見て心身充実せさて出ていけるようにしようとしている時点で、この男根っからの世話好きという事が暴露されてしまっているのですが。
ともあれ、最初はそっけない態度でいようとしたアレンですが、シャーロットがこれまで過ごしていた境遇を、虐待され続けた過去を、どこか不均衡で不安定で常識を知らないシャーロットの様子から伺い知り、また彼女の口から詳しく聞くことで、怒涛のごとく前のめりになっていくのである。
その不憫さと裏腹に、シャーロットがあまりにもいい子でありすぎるのも拍車をかけて、

「あかん、この娘は幸せにならんとあかん!!」

というスイッチが入ってしまうことに。
まあこれ、アレンが特別、というわけではなく、以降登場する人物の殆どが、シャーロットの人柄を知り親しくなった途端に、この娘は幸せにならなあかん!モードに突入するので、むしろシャーロットの方が筋金入り、というべきなのでしょう。
あまりにも影響が周辺に及びすぎて、若干シャーロットをご本尊とした宗教法人が誕生しそうな勢いもあるのですが。

ともあれ、この幸せというものを全く知らず触れたこともなく経験したこともない少女に、とにかく贅沢をさせて美味しいものを食べさせてお洒落させて遊ばせてあげて、世間一般ではちょっと背徳的な夜中にこってりした夜食を食べてみたり、一日中ごろごろ時間を浪費したり、アイスクリームを大きな器でこそぎ取りながら好きなだけ食べてみたり、という悪いことを、イケナイことをさせて堕落というものを体験させてやりたい、という欲求に素直に驀進する主人公アレンは実にこう……良い魔王っぷりでありました。
若干、そのままやりすぎるとシャーロット、ぷくぷく際限なくふくよかになっていかないか!?という心配もあったのですけれど、元々アレンのもとに現れた時のシャーロットは長年の虐待もあってそもそももっと太らないと、肉が足りない!という状態だったのでこれはこれでよし。

そうして、溺愛と言っていいほどシャーロットを猫可愛がりして彼女のために、様々な幸せな体験を味わわせていくアレン。途中から乱入してきた妹も加わって兄妹揃って、さらに街で親しくなった面々も参加して、シャーロットが幸せを感じてくれるイベント盛りだくさんでお送りします、という風になっていくのだけれど、そんな中で段々とアレンのスタンスも変わってくるんですね。
他の誰でもない、自分がこの娘を、シャーロットを幸せにしてあげたい、という気持ちが知らず知らず彼の魔王の言動を侵食していくのである。
最初は拾った猫を扱うように、やがて過保護なくらい溺愛して囲い込んで、いったい何目線だよ、と妹たちに突っ込まれるくらい、保護者目線だったのがいつのまにか、掛け替えのない大切な人への接し方へと変わっていってるんですよ。本人はまだ自覚ないようなんだけど。
また、シャーロットの方も自分を助けてくれた、という以上に虐待されてきた人生から自分自身に価値を感じる事が出来なくなっていた自分の心をすくい上げてくれて、幸せって何かを教えてくれたアレンに対して、そりゃただの恩人なんて思いで済むはずもなく。
二人の想いの交錯が、また甘酸っぱくてキュンキュンさせられるわけですよ。アレン以外の面々もシャーロットを幸せにしなくては教団の面々である以上、彼女の初めての恋は当然彼女の幸せにも通じるわけですから、全力で応援体制ですからね。
アレンも自覚あんまりないくせに、こちらも全力で臆面もなくお前は自分が絶対守るから安心しろ!みたいな事を言っちゃえる、さすがは魔王様というべき傲岸不遜のイケイケっぷりなので、色んな意味で頼もしい人なので、この揺るぎない幸せ空間に安心して浸ってられそうです。
またシャーロットを不幸にしようという何かが現れたら、アレン筆頭に街中総出でタコ殴りだろうからなあ、安心安心w
もうひたすらイチャイチャしててください。


オタク同僚と偽装結婚した結果、毎日がメッチャ楽しいんだけど! ★★★★   



【オタク同僚と偽装結婚した結果、毎日がメッチャ楽しいんだけど!】  コイル/雪子 電撃の新文芸

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同人女子とドルオタ男子の、偽装結婚から始まる楽しすぎる結婚生活。

同人作家という秘密以外は普通のOL・相沢咲月は、ある日イベント会場で突然プロポーズされた。相手はメガネ姿のドルオタ……じゃなくて、イケメン同僚の滝本さんで!? 偽装結婚から始まる幸せ結婚生活物語。

これは面白いなあ! 面白かった!
偽装結婚というタイトルになっているけれど、作中で自分たちで言っているように「シェアハウス婚」と表現した方がしっくりくるような関係なんですよね。
相沢さんも滝本くんも、二人共仕事ではバリバリのやり手ビジネスマンでありながら、プライベートではそれぞれどっぷりとハマったオタクでもあるという、公私を見事に使い分けている社会人。ビジネスマンとして非常に優秀な人らしく、二人共コミュニケーション強者と言っていい人種ではあるんだけれど、同時に他人を必要としない独りで居ることを全く寂しく思わない人種でもあるんですよね。だから、決して恋人とか結婚相手なんかを必要とはしていないんだけれど、同時に他人と一緒に過ごす事に苦痛を覚えるというタイプでもない。友人も少なくないし、他人との距離感のとり方が抜群に上手いんですよね、だからこういう人種って、最強なんだよなあ。
おまけにこの二人って、かなり強度の高いオタクなんだけれど、自分のテリトリーであるジャンル以外でも好奇心を抱き楽しめるタイプなんですよね。だから、自分の知らない未知のジャンルの話をされても、むしろ目をキラキラさせてそれは面白そう!と食指を伸ばせるのである。
だから、相沢さんも滝本くんも自分のテリトリーの話を相手にしても、疎ましがられるどころか本当に心の底から楽しそうに話を聞いて一緒に面白がってくれるものだから、話が弾む弾む。
おまけに二人共距離感のとり方がべらぼうに上手いから、変に強引に自分の好きなものを押し付けたりしないし、かと言って遠慮して遠ざけたりもしない。ごく自然に、自分の興味あることを話題に出して盛り上がり、また相手の興味あることを訪ねて盛り上がり、未知のジャンルに知見は広がり思わぬ見地から自分のジャンルへの考察が深まったり、と独りで楽しんでいた事が二倍三倍になっていくかのような生活がはじまってしまったのだ。
そりゃ楽しい!
それ以外の普通の生活空間の共有も、お互いまったくストレスを感じない距離感をごく自然に取れているんですよね。相手が忙しそうなら邪魔せず、そうかと思うとちょっとした気遣いでかゆい所に手が届く手助けをさり気なく行き届かせることで、ああこの人と一緒に暮らしてて良かった、という想いがふつふつと湧いてくる。楽しいだけじゃなく、嬉しいと思うことが毎日の中に増えてくる。

人生、充実してる! 毎日が楽しい! なんかもう、ハッピー! という風になっているのが伝わってきて、思わず読んでいるこっちにも多幸感のおすそ分け。なんかもう本当に楽しそうで、人生にハリがあって、素敵だなあと思わず微笑んでしまいました。

そんでもって、実は滝本くんの方が前から相沢さんの事が密かに好きだった、というあたりがまた絶妙なんですよね。好きだし異性として恋はしているけれど、今の生活が想定以上に楽しすぎて、大好きな相沢さんが自分と一緒に暮らしていることで滅茶苦茶楽しそうにしていてくれることが嬉しくて、そんな時間と空間を壊したくなくて、現状維持に満足している滝本くんが何ともいじらしいのです。
彼としては、今の所今以上を望んではいないんですよね。今の段階で幸せ過ぎる、というのもあるのでしょうけれど、彼女のほうがとても楽しそうでいるのにそれを壊したくない、と思っているあたりが健気でいいんですよ。それでいて、問題を抱えている相沢さんと実家の家族との関係に、一石を投じるつもりでいるあたり、ちゃんと「結婚した」という事実を彼はともすれば相沢さんが想像している以上にしっかりと背負っているんじゃないかな、これは。責任云々じゃなくて、もっと相沢さんには幸せになってほしい楽しく居て欲しい、という気持ちから生じているようにも見えるのだけれど。
これってでも、十分以上に「愛情」ですよねえ。そう思ってしまいます。
思わぬところから突然お付き合いとかを経ずに結婚からはじまった関係だけれど、最初から楽しいで満ち満ちた関係になってしまったわけで、そこからさらに二人は本当の意味での家族になるのか。このサキの進展が色んな意味で楽しみな、そして現状ですでになんかもう見てて楽しいオタク夫婦のスターティングでした。

しかし、イケメンくんのドルオタというのはなかなか今まで見たことなかったカテゴリーで興味深かった。相沢さんみたいな、クリエイター方のオタクではないんだけれど、本格ドルオタって凄まじくアグレッシブで行動的でパワフルなんだなあ、と感心するばかりでした。
どんなジャンルでも、突端を行くオタクの人はやっぱりスゲえなあ。

スライム倒して300年、知らないうちにレベルMAXになってました ★★★☆   



【スライム倒して300年、知らないうちにレベルMAXになってました】  森田季節/紅緒 GAノベル

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現世で過労死した反省から、不老不死の魔女になって、スローライフを300年続けてたら、いつの間にかレベル99=世界最強になっていました。
生活費を稼ぐためにこつこつ倒してたスライムの経験値が蓄積しすぎたせいみたいです……。
そんな噂はすぐに広まり、興味本位の冒険者や、決闘を挑んでくるドラゴン、果ては私を母と呼ぶモンスター娘まで押し掛けて来るのですが――。

「だから、道場じゃないんだから道場破りに来ないでよ……」

冒険に出たことないのに最強……って、どうなる私のスローライフ!?

アニメの方がもうどストライクで好みな上に大変面白かったので、原作の方も読みたくなり手を出してしまいました。元々森田季節先生のゆるい系の作品は好きな方なんですけど、ちょっとお高いレーベルだったので何となく手を出しあぐねてたので良い機会でもありました。
それにしても、森田さんの作品がアニメ化されたのってこの【スライム倒して300年】が初めてだったのかー。もうベテラン作家の域に達しているので意外と言えば意外なのですが、言われてみるとアニメ映えする作品ってあんまりなかったかもしれない。すごく軽い作品もアレば、通好みだったり、人間の業や人生観をえぐるように掘り下げた作品など、多種多様あるんですけどね。

そういう意味では本作は軽妙洒脱なカテゴリーの作品なんですけれど、そんなライトなノリの中にもちゃんと「人生」という生きること日々を過ごすこと生活すること、という普遍にして不変の営みへの哲学が土台の部分にしっかり根付いているのが垣間見えるのが、森田先生の作品らしくてなんか好きですわー。
尤も、その哲学の自己主張は極めて低いんですけどね。でも、主人公のアズサには人生哲学というものがしっかりと芯となって通っているので、彼女の言動にはぶれない指針が伺えるのです。だから、ここぞという時の判断に迷いがなく明朗快活なんで、なんかこうスッキリしてるんですよねえ。

にしても、一巻でレッドドラゴンの結婚式まで行ってたのか。フラットルテまで一巻の段階で登場してたのね。フラットルテが登場するのってアニメでは中盤くらいでしたぞ。アニメの方ってこうしてみるとかなり丁寧に作ってたんだなあ。

それまで300年間一人でのんびりと暮らしていたアズサに、レベルが99である事が発覚してしまった事がきっかけで、次々と家族が増えることに。
一人で誰にも煩わされずにのんびりと生活することにも何の不満もなかったアズサ。300年間生きてきて、寂しいとか辛いとかホントに一切思っていなかったようで、これはこれで満ち足りた生活ではあったんですよね。
でも、レッドドラゴンのライカをはじめとして、次々と一緒に暮らす家族が増えていくという大きな変化が訪れる中で、アズサはその変化を喜びとして受け入れて、新しい家族を歓迎するのである。もちろん、一緒に生活すること、一緒に過ごすことが楽しい、新鮮である以上に彼女たちと過ごす時間に幸せを感じるからこその歓迎なのですが。
幸いにして、家族として加わってくる面々は人外ばっかりで、不老不死のアズサと同じ時間を過ごすことの出来る面々ばかりで、生きる時間のギャップみたいな問題は最初から排除されているわけですが。
アニメが面白かった分期待値も高かったのですが、なんかもう期待以上にほわほわとした空気感で、家族と過ごすなんでもない日常への多幸感が素晴らしい作品でした。スローライフと銘打ちながら、やたらと働きまくる物語が絶えない中で、本作は本当の意味でスローライフを完成させているといえるのでしょう。無理しない、頑張りすぎない。かと言ってだらだら……はしているけれど、充実感のあるダラダラなんですよね。家事は家族と分担して、負担とせずに楽しくこなしているし。いい加減で適当にするのではなく、ゆったりとして余裕を保ちながらもやるべき事はきっちりやっているからこその、気持ちの良い日々なんだろうなあ、これ。それが、家族と一緒にわいわいと笑い声が絶えないなかで毎日が流れていく。何十年何百年続いても、飽きないだろう退屈しないだろうただただ幸せな日々。もっとも、エルフのポンコツ娘、ハルカラみたいなトラブルメーカーもいることだし、様々な方向からトラブルやら御祝い事やら新しい出会いやらイベントやらが飛び込んでくるので、変化がない生活とは程遠い賑やかさになるわけですが。
なにはともあれ、思いの外楽しくてあったかくて思わずニコニコしてしまう、実に心地の良い作品でした。
しかし、ベルゼブブの姐さん、ほんと面倒見良くて頼りになって良いお姉ちゃんだなー!
なるほど、彼女が主役のスピンオフが出来るのも納得だわ。
ちょうどシリーズの何冊かが割引セールしていたので、まとめて購入。このままちょくちょく読んでいくぞーー。


秘密結社デスクロイツ 1 ★★★☆   



【秘密結社デスクロイツ 1】  林 トモアキ/ まごまご 星海社FICTIONS

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「秘密結社デスクロイツ」ーー100年先を行く超科学技術を有し、かつては世界中に支部と魔の手を広げた悪の一大組織は、今やたった5名の街角秘密結社となっていた。

結社廃業の危機を救うため、細々と真面目に悪事を働いていたデスクロイツ四天王筆頭・不夜城織太(ふやじょう・おるた)のもとに、「世界防衛機構ジャスティス」のヒーローたちの正義の手が迫る!

美少女だが性格や言動に難ありばかりのメカ少女&魔法少女&美少女戦士(スーパーヒロインズ)相手に、織太とデスクロイツは悪の組織と矜持を守るため迎え撃つーー!!

『ミスマルカ興国物語』『戦闘城塞マスラヲ』の林トモアキが贈る、誠実悪役主人公VS残念正義ヒロインズのバトルラブコメ、開幕!!

ラブコメなの、これ!? そう言えば作者の林トモアキさんってこれまでたくさんシリーズ書いてきたけれど、その中にラブコメってあっただろうか。【レイセン】でヒデオが死んだ目になってた記憶くらいしかない気がするんだがw
でも、そう考えると同じデスクロイツ四天王の一人、ブラックアリスことクラエは仄かにオルタに恋している子なので、いまだかつて無いくらいラブコメ環境は整っているのかもしれない。
え? スーパーヒロインズの三人? おいおい、まず女子力を人並みの半分くらいは確保してからな(笑
クラエが人並みかどうかはさておいて。

幼い頃、ヒーローに憧れた純真な少年は、今は家業の悪の組織の大幹部、四天王の一人として学業の傍ら細々と悪事を働いていた。
と言っても、家業を嫌がっているわけじゃなく、真面目な性格ゆえか今や零細と化してしまった組織をちょっとでももり立てようと頑張っている。さりとて、野心を燃やしてもう一度デスクロイツを世界的な悪の組織に、などと考えているわけではないようで。地に足がついていると言えばそうなんだろうけど、それでやってる事は悪の組織の幹部なのだから色々と特殊は特殊だよなあ。
それでもオルタに関しては、家族でやってる自営業なんだからそれを維持するために頑張るというのはある種当然なのかもしれないけれど、不思議なのはクラエの方である。怪人であるブラックタイガーさんはデスクロイツが隆盛の頃から残っている古参の人なのだけど、クラエについてはどうもデスクロイツが斜めに傾いてから入ってきた娘のようなんですよね。
なんで悪の組織なんかに入ったんだ? それも、いつ潰れるかわからん斜陽の組織に。給料ちゃんと出てるんだろうか。デスクロイツって収入、首領である姉ちゃんの百合エロ漫画の原稿料と親父であるマッドサイエンティストの発明品くらいなんじゃないか? これだと一家族養うので精一杯なんじゃないだろうか。偶にでっかい悪事に成功すると、どこからともなく利益を得た企業体から賄賂が流れてくるみたいだけどw
いつか、ブラックアリス加入のエピソードも描かれるんだろうか。
ちなみに、組織で一番やべえやつは満場一致で姉ちゃんであるブラックアビスである。でも、組織の首領としてよりも、漫画家としての方が姉ちゃんやべえよなあ。スーパーヒロインズをひっ捕らえてきた際に、口にも出せないむごたらしい仕打ちwを彼女たちにやりまくってるのって、首領としてじゃなくて漫画家としてですもんね。
そして、世間一般にスーパーヒロインズの百合エロ漫画が公開されていく、というトドメw
ちゃっかり、そのスーパーヒロインズがモデルとなったエロ漫画を楽しみにしているオルタくんはちゃんと男の子していてかわいいです。そして未成年にも関わらず十八禁漫画を読んでいるオルタくんは、さすが悪の組織の一員!とも言うべき悪行!

そのオルタたちデスクロイツのささやかな悪行を食い止めんと、というよりも悪の組織をぶっ潰して名をあげようという正義の心はどこへやら、むしろ功名心名誉欲ライバルより目立ちたい、という正義の味方としてなかなかにガバガバなメンタリティを持ったヒロインズの襲撃!
もうこれ、襲撃と言った方がいいですよねですよね?
うん、ヒロインズと言うけれどヒロインか?と言われると全力で苦笑しちゃいますよね、女子力! そして可愛げが足りない、圧倒的に皆無!
残念ヒロインと言われるのもむべなるかな。
色々と我欲むき出しすぎだろう、この娘たち。そして本来なら能力的にはかなり強いにも関わらず、むしろその残念さ故にデスクロイツことオルタくんにあっさり負けてしまうその残念っぷり。オルタ、別に悪辣で狡猾な罠、とかそこまでえげつないの仕掛けてないですもんね。ちゃんと悪の組織らしい大胆な割り切りっぷりは見せてますけれど、地道と言えば地道ですし。
果たして、この端から端まで残念極まるこの娘たちを相手にラブコメとか出来るんだろうか。
ヒーローと悪の組織として対峙対戦するだけだった一巻と違って、次からはヒロインズの私生活の方に切り込んでいく様子なので、プライベート同士でかち合うことで本格的にラブコメがはじまる、とイイなあというくらいのニュアンスで。
しかし、メカ系の装備装着ヒーローに魔法少女はわかるんだけど、最後の美少女戦士ってジャンル的に曖昧ですよね。これセーラームーン系っぽいんですけど、セーラームーンってそもそもカテゴリーとしてはどこになるんだ? 将来的にプリキュアに至る変身ヒロイン系にあたるんだろうか。
考えてみると、それぞれジャンルが違うヒーロー系ヒロインがチームになってるのって、こうしてみると面白いなあ。いや、チームというにはチームワークが酷いけど。彼氏とか居たら無理やり別れさす!とか言ってる怖い人達だけどw







俺は星間国家の悪徳領主! 1 ★★★   



【俺は星間国家の悪徳領主! 1】  三嶋与夢/高峰ナダレ オーバーラップ文庫

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好き勝手に生きてやる!
なのに、なんで領民たち(あいつら)感謝してんの!?

星間国家アルグランド帝国――その辺境惑星を治める伯爵家に生まれ、幼くして当主となった転生者リアム。
彼は善良さ故に奪われ続けた前世の反省から、今度は奪う側である「悪徳領主」となって民を虐げようとするのだが――
「こんなの搾り取ろうにも、搾りかすも出ねーよ!!」
受け継いだ領地はこれ以上虐げようのない荒れ果てっぷりだった!
虐げても大丈夫なようにと、まずは領地を繁栄させていくリアム。
それでもできるだけ悪徳領主らしく振る舞うのだが、何故か民からの好感度は上がりっぱなしで……!?
悪徳領主を目指してるのに名君と崇められちゃう勘違い領地経営譚、開幕!!

他人を省みることなく、自分の思う通り好き勝手に生きる。と言われると、まあ眉をひそめてしまいますよね。そんな生き方をしてるやつなんて、ろくな人間じゃないという風に思ってしまう。
ただ、この好き勝手に生きる、というのが意外とポイントだったりする。どんな風に振る舞うことが、その人にとって快感なのか、不快なのか。気持ちよく痛快に感じるのか、居心地悪くどうにも満足に思えない事なのか。
人それぞれなんですよね。
とある悪魔。案内人を名乗る謎の男によって、星間国家の伯爵家の嫡男に生まれ変わらせてもらったリアム。さても彼は、自分の前世を悪意をもって踏み躙った犯人が案内人である事を知らず、また生まれ変わった先でも不幸を撒き散らし自身も不幸になる事を期待され、悪徳に興じて生きるように誘導された哀れな犠牲者、であるはずだった。
のだけれど、リアムという男はもう根っからの小市民なのである。そもそも、悪徳領主のイメージからして、時代劇の悪代官とかその程度の代物しか想像できない。かつて前世で様々な相手からあれだけ搾取され続けたにも関わらず、今度は自分が奪う側に回ってやる、と決意しているにも関わらず、自分から奪った連中を真似したりしよう、という発想がそもそもないんですよね。
だから、本物の悪徳、邪悪に比べるととてもじゃないけれど悪行らしい悪行が出来ないのである。そもそも、領民たちから搾取するために、まずは領地を発展させようという発想からして、悪徳領主としてはおかしい。
本物の悪徳領主なら、領主を継いだ際にどれだけ領地が荒廃し領民達が酷い暮らしをしていても、気にせずさらに搾り取ろうとしていたでしょうしね。
小市民であるがゆえに、根が善良であるが故に、どれだけ好き勝手振る舞うにしても、人でなしとしての振る舞い自体が居心地悪いし不快に感じてしまうのだ。好き勝手生きているのに、しんどい思いをしたり気分悪くなったり面白くないのに我慢し続ける、という状態になってしまうのは本末転倒ですもんね。
なので、リアムが好き放題やりたい放題することが、そのまま領地の発展に繋がり皆の幸せに繋がっていく、というのもまあ必然なのかもしれません。
本人は大いに悪行を成し、悪徳領主として皆を苦しめ高笑いしているつもりなのが、滑稽といえば滑稽なのですが。
なまじ舞台が星間国家というやたらスケール大きい世界観なのも影響しているのでしょう。中近世のファンタジー世界と違って、技術力や文明文化の未発達によって不便を強いられる事が一切ないのもあってか、星間貴族たちの放蕩っぷりは小市民では想像すらできない規模になっているので、リアムの想像力ではどれだけ贅沢しても、この世界の一般常識からすると非常に慎ましく質実剛健に見えてしまうんですよね。不必要な贅沢や意味不明な浪費は、ストレスや不愉快に感じてしまうというリアムの性質もまあ、大いに影響しているのでしょうが。
リアム本人としては、満足そうだからいいんじゃないでしょうか。実際、彼としては人の意見は聞かずに自分の意見をゴリ押ししてやりたい放題やってるつもりですし、決して他人を慮ったりもしていませんし、優しさとか情愛、慈しみの心なんて持っているつもりもないし、それを他人に与えているつもりもないのですから。彼からしたら、ちゃんと他人は利用しているし搾取しているし踏み躙っているつもりなのである。立派に悪徳領主をしているつもりなんですよね。
善意にほだされているわけではないんだよなあ。

全体としては、個々のエピソードを深く掘り下げていくでもなく、さらっと流すようにサクサクと描いていくので、スピーディーではあるのですがじっくり味わうタイプではないのでしょう。個々の登場人物についてもスポットがあたるわけでもなく、モブキャラに至っては名前すらなくリアムの言動や実績に対して、リアクションするだけの単位に過ぎないので、ほとんど印象にも残りませんでした。
まあ案内人が本来の思惑と逆なことになってどんどん酷い目にあっていくのは、実にざまぁな感じになっていて善き哉という風情でしたが。



神は遊戯に飢えている。1 神々に挑む少年の究極頭脳戦 ★★★☆   



【神は遊戯に飢えている。1 神々に挑む少年の究極頭脳戦】  細音 啓/智瀬といろ MF文庫J

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『キミ戦』の細音啓最新作。人類VS神々の至高のファンタジー頭脳戦!

暇を持て余した至高の神々が作った究極の頭脳ゲーム「神々の遊び」。永き眠りより目覚めた元神様の少女レーシェは、開口一番にこう宣言した。
「この時代で一番遊戯の上手い人間を連れてきて!」
指名されたのは“近年最高のルーキー”と注目される少年フェイ。二人が挑む「神々の遊び」は難易度高過ぎで完全攻略者はいまだ人類史上ゼロ。なぜなら神様は気まぐれで、とっても理不尽で、たまに理解不能だから。だけどそんなゲームだからこそ、心から楽しんで遊ばなきゃもったいない!
ここに、天才ゲーム少年と元神様の少女と仲間たちによる、至高の神々との究極頭脳戦が幕を開ける!

ゲームってのは色々な楽しみ方があるけれど、やっぱり同じ土俵にアガって対戦する事は楽しみ方の中でも一番肝心な部分なのだと思う。一方的に格下、雑魚、無力なものを蹂躙したり弄んだりして自分の能力に酔いしれたり、相手の無力さをあざ笑ったりするようなやり方はそれはそれで一つの楽しみ方なんだろうけれど、それは一人遊びの領域だ。
本来、神が人間に与える「試練」というものは、神話なんかでも良く見受けられるけれど、同じように一方的な代物で、上の立場から人を見下ろして翻弄するようなやり方で、試練を乗り越え神にその偉業を讃えられ恩寵を賜るとしても、結局一方通行なことが多いんですよね。
そこには対等な関係なんて存在しないし、双方が共に楽しいなんて感情は生まれないだろう。

でも、ここで出てくる神様たちは、実に楽しそうだ。
まだ二戦、つまり二柱の神様とのゲームしか見ていないけれど、両方ともゲームマスターである神様は心からゲームとして、参加した人間たちとの対戦を「楽しんでいた」。
そこに、人間たちを見下す感情は存在しないし、そこにあるのはあくまでGMとプレイヤーとしての関係であり、立場の上下は見えない。神様たちは、対等な遊び相手として人間たちとの遊戯を心から堪能している、ように見える。
そんな楽しみにドハマリしすぎて、自分もGMじゃなくてプレイヤーとしてゲームに参加したい、人間と一緒に遊びたい、神様と遊びたい、と受肉までしてしまったのが、元神様の竜神リーシェ様である。
ガチ勢だ。
そんなガチ勢に、パートナーとして選ばれたのが主人公のフェイである。彼はまあ、天才なのだろう。頭の回転が早く、観察眼に優れ、集中力の塊であり、何より自他の能力の活かし方の柔軟性が段違いである。つまるところ、神々の遊戯を熟すことが非常に上手い。
でも、上手いだけじゃあこんなにリーシェに気に入られる事はなかっただろうし、波長も合わなかっただろう。結局、同類なのだ、この少年は。
人間たちにとって神々の遊戯は、どちらかというとお仕事だ。人が住む世界をより住みやすくするため、開拓して住める土地を広げるため、遊戯によって得られる能力はとてつもない恩恵となる。それを取得するため、人々は必死になって遊戯に挑む。そこに真剣さや必死さはあっても、ゆとりはあまりないだろう。ゲームの難易度が高いことに顔を顰め絶望することはあっても、ヒャッハーと喜ぶことはないだろう。
でも、フェイは違うんですよね。彼だけは、人間の中で純粋にゲームをゲームとして楽しんでいる。遊戯を遊戯として堪能している。神様たちとの勝負に、対等の立場で挑戦している。神と人、彼我に差を設けず、GMとプレイヤーとして向き合っている。
そう、彼だけが神様たちと「一緒に遊んでいる」という感覚なのだ。難易度だって、そりゃ理不尽すぎたら困るけれど、単に難しいというのなら攻略し甲斐があるってもんで、むしろ面白くテンションアガってしまうタチなのだ。
ガチ勢である。
ゲームは同じ舞台に立ってこそ面白い。自分の側だけ楽しんでいても片手落ちだ。対戦相手も自分と同じように、自分以上の楽しそうなら、こっちだってより楽しくなってくる。自分の考案したゲームを「楽しんで」くれたら、嬉しいなんてもんじゃないだろう。
一緒に、チームメンバーとして戦えたなら、尚更だ。リーシェがどれだけ、フェイと出会えて嬉しかったか、あのテンションの高さも納得である。

ルールも勝利条件も、ゲームの渦中で自分たちで探り当てていかなければならない、というのは相当に難しいと思われるけれど、それで楽しそうなら見ているこっちも楽しくなってくる。不可能を可能としてしまうような神プレイに、一緒に戦う人間たちが、その配信を見ている視聴者たちが、一気にテンションあがり熱が生まれ、盛り上がっていく様子は実にこう、ゲームしてる!という感じがして、心地よかった。
神様たちの理不尽も、横紙破りのズルとかじゃなくて、ちょっと楽しすぎてテンションあがりすぎてはっちゃけちゃった、という可愛げの賜物なので、これも愛嬌てなもんじゃなかろうか。
さても次回からは、同じ人間たち側の中でも最上位クラスの辣腕歴戦たちが名乗りを上げて、現れてきそうなのでこれはこれで面白そう。
そして、フェイがかつて出会った、彼にゲームの楽しさを教えてくれたという謎の女性の正体は、どうして彼女がリーシェと似ているのか。そこのところも、掘り下げていくのだろうか。いずれにしても、2巻の展開を御覧じろ、てなもんで。



虚ろなるレガリア Corpse Reviver ★★★★   



【虚ろなるレガリア Corpse Reviver】  三雲 岳斗/深遊 電撃文庫

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少女は龍。少年は龍殺し。 日本人の死に絶えた世界で、二人は出会う!

その日、東京上空に現れた巨大な龍が、日本という国家の崩壊の始まりだった。
魍獣と呼ばれる怪物たちの出現と、世界各地で巻き起こった“大殺戮”によって日本人は死に絶え、日本全土は各国の軍隊と犯罪組織に占領された無法地帯と化してしまう。
ヤヒロは数少ない日本人の生き残り。龍の血を浴びたことで不死の肉体を手に入れた彼は、無人の廃墟となった東京から美術品を運び出す“回収屋”として孤独な日々を過ごしている。
そんなヤヒロを訪ねてきたのは美術商を名乗る双子の少女ジュリとロゼ。二人がヤヒロに依頼したのは、魍獣を従える能力を持つという謎の存在“クシナダ”の回収だった。
廃墟の街で出会った少年と少女が紡ぐ、新たなる龍と龍殺しの物語、堂々開幕!


ドラゴンものはデビュー作以来って、【コールド・ゲヘナ】のことかー! 懐かしいなあ。って、あれはファンタジーじゃなくてガッツリSFでしたけどね。それ以上に人型ロボットものだったじゃないか。ド派手で何よりスピーディーな高速戦闘は読み応えたっぷりでのめり込んだのを覚えています。まさか20年以上経ってもこうして第一線で活躍し続けているとはさすがに思いもしませんでしたが。というか、そんな先のこと考えもしなかったんだけど。

さても今度の新シリーズは、前作の吸血鬼モノだった【ストライク・ザ・ブラッド】から、龍と龍殺しの物語。ドラゴンスレイヤーというのは本邦でもファンタジー小説やゲームの黎明期から活躍するある意味勇者の代名詞。かのドラゴンクエストからして竜王殺しの話でしたし、それよりも前、ファミコンのアクションゲームでも黎明期からドラゴンスレイヤー的な作品は山程ありました。ライトノベルでも、ロードス島戦記や海外から翻訳されたファンタジー小説なんかでもドラゴンスレイヤーとは最強の戦士、みたいな感じで常に最上位に位置し続けたジョブなのではないでしょうか。
吸血鬼に並ぶ、王道とも言えるでしょう。
しかも、本作の主人公ヤヒロのそれは現代に合わせて様々な形にアレンジやら改造やらされた龍殺しのそれらと比べると、むしろ原典に近いんですよね。古典的と言っていいくらい正統派な形で誕生した竜殺し、と言えるのかもしれません。

魍獣と呼ばれる謎の化け物たちの出現に加えて、世界中の国家、組織、個々の人々からの虐殺によって国家として日本は滅び、民族として日本人は絶滅した。
日本列島は都市の廃墟に魍獣が跋扈し、その縁側で世界各国の軍隊が基地を置く滅びの地と化していた。という、ポストアポカリプスものと言えなくもないけど日本限定終末後、というなかなか類をみない壮絶な世界観である。
でもこれだと、世界中が滅びてしまった後に比べて、他の世界の国々は健在なので物資の面では不足がないので、ガンガンとフルスペックの軍隊をアクションの中に放り込めるんですよね。その上で住民の被害を考えないで、日本の各地各都市各名所を戦場にして吹っ飛ばせるという自由度の高さ。なにしろ無人ですからー。日本人絶滅してますからー。文句はどこからも出ませんね、善き哉。

そんな根絶やしにされたはずの日本人の生き残り、主人公の鳴沢八尋には目的がある。死んでも成し遂げなければならない目的だ。死なないけど。
その死なない身体になった原因と、目的がまた覚悟決まりまくっていて壮絶極まりないんですよね。
まだ十代の若者にも関わらず、背負っている業が重すぎる。彼にとってはこれまでの人と関わらない、関われない孤独ですら、禊だったのかもしれない。
でも、彼はここで出会ってしまうのである。さて、その運命の相手がクシナダヒメであったのか、それとも悪魔(ベリト)の双子の方だったのか。
何もかもが双子の目論見通り、ではあったものの、なにげに双子との邂逅こそがヤヒロにとっての転換点だったのは確かなんですよね。それを運命と呼ぶのは恣意が介在しすぎているか。
でも彼女たちに目的と企みはあり利用する気満々でも、扱いとしては誠実であり好意的であり、駒とか道具扱いじゃなく、ちゃんと同じ人として、共犯者として、仲間としてベリトの双子のみならず、ベリト隊のなかなかに個性的な面々は接してきてくれてるんですよね。
孤独のまま走り抜けるつもりだったヤヒロにとっての、初めての仲間というべき人たち。
日本人の生き残りとして迫害され続けてきたヤヒロにとって、経験のない好意的な交友は戸惑い狼狽えるしかないものだったのだけれど、それでも仄かに嬉しそうで、ついつい警戒を緩めてしまう姿はチョロいとは言うまい。可愛らしいくらいじゃないですか。
憤怒と罪悪感にだけ塗れて生きて死ぬには、まだまだ若すぎるんだから。
にしても、ジュリエットとロゼッタの双子のキャラクターは良かったですねえ。半分マフィアみたいな連中ですけど、天真爛漫でどこか喰えないジュリに、クールでそっけないようでイイ性格しているロゼと、強烈な存在感を残してくれた二人でした。まさに天使のような小悪魔、といった周りを翻弄するジュリの明るさもとらえどころのなさも魅力的なのですが、クールなロゼみたいな子がデレるのは是非見てみたいなあ。
この二人に比べると、メインヒロインの彩葉は裏表のない真っ直ぐな性格していて、色んな意味で汚れていないなあ、とw
ただ行動力というかパワフルさは全然負けてないんですよね。結構グイグイくるタイプだぞ、この娘。こういうブレのないストレートにまっすぐ進める子でないと、超ヤベえレベルの凶悪なヤンデレには対抗できないのかもしれない。

初っ端からしっかりと強烈な世界観を叩きつけると同時に、そこで躍動するメインとなる登場人物たちの存在感を確立し、壮大なストーリーの始まりを強く意識させる。一巻目としては文句なしの、長期シリーズの開始を確信させる盛大な号砲でありました。このあらゆる意味でも面白さと安定感は、さすがとしか言いようがない期待の新シリーズでありました。


宮廷医の娘 ★★★☆   



【宮廷医の娘】  冬馬 倫/しのとうこ メディアワークス文庫

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凄腕の闇医者×宮廷医の娘。この出会いが後宮を変える—中華医療譚、開幕!
黒衣まとうその闇医者は、どんな病をも治すという——。

由緒正しい宮廷医の家系に生まれ、仁の心の医師を志す陽香蘭。ある日、庶民から法外な治療費を請求するという闇医者・白蓮の噂を耳にする。
正義感から彼を改心させるべく診療所へ出向く香蘭。だがその闇医者は、運び込まれた急患を見た事もない外科的手法でたちどころに救ってみせ……。強引に弟子入りした香蘭は、白蓮と衝突しながらも真の医療を追い求めていく。
どんな病も治す診療所の評判は、やがて後宮にまで届き——東宮勅命で、香蘭はある貴妃の診察にあたることに!?

法外な治療費を毟り取る黒衣の無免許医というと、ブラックジャックを想起しますがモデルではあるんだろうか。
舞台は中華風異世界の平原国。中華ファンタジーではないっぽいんですよね、ファンタジー要素ないですし。それとも異世界モノだったら全部中華ファンタジーの範疇になってしまうんだろうか。
ともあれこの平原国、文明レベルは中近世くらいに見えるのですけれど医療水準についてはかなり高そうなんですよね。そもそも、医療科挙という国家試験が存在し医療に関する国家資格があるという時点で、医学に対しての社会的な意識や地位が高いということですし、技術に関しても簡易的な外科手術なんかも行われているようで、基礎的な知識もある程度共通認識として共有されてるんじゃないだろうか。
香蘭はそんな国の元宮廷医の家系に育った医師一族の選良。幼い頃から医学を志ざす、というよりも医学そのものにのめり込み夢中になっていた。人形遊びで人形を分解して外科手術ごっこをしている時点で相当である。今は医療科挙の突破を目指し勉学に励む堅物な生真面目な娘なのだけれど、その女子力を完全に放り捨てた脇目も振らない性格と医学についての好奇心は、闇医者・白蓮との出会いによって見事に刺激されることになってしまう。元々の医学への好奇心がなかったら、平原国で常識とされる医術とはステージが異なっている白蓮の医術をああも純粋に受け止める事は出来なかっただろうし、貪欲に吸収しようとも思わなかっただろう。秩序や枠組みを重んじるように見せかけて、必要とあらばわりとうっちゃってしまえる性格なんじゃないだろうか、この娘。マッドの気質あり、と睨んでいる。
さて、そんな香蘭に色んな意味で目をつけられた医師・白蓮。彼の正体については何者かとは明言されていないのだけれど、明らかに現代水準の医療技術と知識を身につけている以上、中華風異世界版『JIN-仁-』さんなんだろう。医局政治への嫌悪感をむき出しにしていることから、白の巨塔紛いの政争に巻き込まれた経験があったのかもしれない。皮肉屋で世の中を斜に構えて見ているなかなかに性格の歪んだイケメン医師である。
評判のぼったくりに関しては、マジぼったくりで金持ち庶民で区別せず、きっちりと高額報酬を受け取る姿勢は徹底している。金持ちからはふんだくるけれど、貧乏人からは金とらないよ、的な古典的な名医な在り方からは傲然と背を向けている。
かといって守銭奴なのかというと、そういうわけでもなく。ただ、現代レベルの医療をこの文明レベルの世界で行うには、それ相応の元手が掛かるということなのだ。技術費さっぴいても原材料費とか諸経費相当掛かってるんじゃないだろうか。薬や医療器具など金に糸目をつけていないみたいだし。
現代の日本だって、健康保険や高額医療費制度などで控除されている分を取っ払ったときの医療費のはめっちゃ高いよ。なので、白蓮の請求する治療費は法外とは言えないのだろう。
でも、庶民相手でも手心は加えないけれど、むしり取れる所からはより毟り取ってるよね、これ。というわけで、金にがめつい面は着実にあると思われる。
そんな医は仁術とか知ったコッチャないね、という姿勢の医者に弟子入りした堅物の医師の卵の娘が主人公の物語である。

病気に怪我に、それらにかかり負ってしまう患者たちには、病気になるに至る背景があり、また負った怪我によって見舞われる事情がある。香蘭は、医師の卵として病気や怪我よりも患者の抱える問題に踏み込み、その解決に奔走することになる。人と向き合うのが医者の仕事だと言わんばかりに。
当初、白蓮に対してその仁術に背を向ける在り方に反発していた香蘭だけど、弟子入りしてからはさっさと全幅の信頼を師に置いてるんですよね、この娘。そう書くと思い込みの激しい娘に見えるんだけど、案外と柔軟というか師の合理性に判断基準を置くようになっているからなのか、思い込みから暴走して失敗してしまうというような事はなかったんですよね。まあ、思い込みが強いなんてのは医療では致命的なだけに、いろんな可能性を考慮しながら物事を見るという姿勢をちゃんと確立しているということなのかもしれませんが。自身の正義感をたぎらせているときでも、相応に師にお伺いを立てていますし。そういう所、育ちがいいっていうんでしょうね。

最後の話で早速というべきなのか、宮廷の奥に入り皇太子―東宮の寵姫の治療に携わることで、宮廷政治の闇に踏み込んでしまうのですが、東宮の知遇を得たこともあり、今後は宮廷と下町を平行に舞台にしながら話は進んでいくんだろうか。
個人的には、なんかすでに東宮と友達だったという白蓮の過去も気になるんですけどね。医療器具などを作れる職人を探し出したり、抗生物質などの薬品を作り出したり、そういう医療体制を立ち上げられるほどの生活基盤や人脈を整えるまでには、相当の苦労があったはずですし。多分、身一つでこの世界に放り出されたんでしょうしねえ。
いずれ、そっちの話も出てくるんでしょうか。




キミに捧げる英雄録 1.立ち向かう者、逃げる者 ★★★   



【キミに捧げる英雄録 1.立ち向かう者、逃げる者】  猿ヶ原/こーやふ MF文庫J

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熱さとエモさ爆発の新時代ファンタジー!

精霊が紡ぐ「英雄録」──それは、この世界の誰もが憧れる至高の英雄譚がいくつも記されている書物。何の取り柄もない僕アイル・クローバーは、英雄録に「主役(えいゆう)の一人」として名を刻んだ同郷の英雄ベルお姉さんに「私の弟子になってみない?」と持ちかけられることに。「他の誰も期待してなくても、私だけはアイルちゃんに期待している」。その言葉を糧に、姉弟子シティさんとの絶望的な実力差や魔導書イゼゼエルとの悪夢の関係に直面してもあがき続ける。主役と端役、期待と絶望、臆病と無謀──言い忘れてたけど、これは僕が「最高の主役(えいゆう)」になる物語だ。

臆病ってのは戦場に立つ者の資質としては決して悪いものではない。無謀に身を任せてしまう事もないし、慎重に用心深く立ち回ることが出来る。生き残るための資質として臆病というのはむしろ有用な性質と言えるだろう。
でも、アイルのそれは臆病は臆病でもただのビビリでただのヘタレだ。怖いことがあれば目を伏せて、恐ろしいことがあればうずくまって、震えて動かず怖い何かが通り過ぎていくのをひたすら待っているだけの、根性なしだ。怯え縮こまり迫りくる危機からも現実からも逃避する。小心者だ。
いやさすがにこれはヒドい。何者にもなれず、何者にもなろうとしない、こんな少年が主人公というのはさすがに見ていてキツかった。なんで、主役になりたかったんだろう。こういう自分を変えたいから主役に成りたかったのか、それとも主役に成りたかったからこういう自分を変えたかったのか。
その辺、語られていただろうか。ちょっと記憶に残っていない。
何故か、そのアウルを幼馴染のお姉さんは期待している、と目をかけていた。そして十年経ってなおそれは変わらなかったらしく、英雄になった彼女はアウルに弟子になってと声をかけてくる。そんなベルお姉さんの期待に縋るように、彼は主役になるための旅に出るのだった、無謀にも。
だって、十年間このアウルくん、何か一人で変わろうと努力していた様子ないんですよね。何か鍛えてた? 何か克服しようと積み上げていたものはあった?
なにもないまま、手ぶらでベルの元を訪れるのである。あれだけ卑屈に自分の在りようにまったく自信を持てないままで。
……なんでこの子が選ばれたんだろう。なんでベルはこの子に目をかけたんだろう。真剣に謎であり、疑問でした。
その疑問に対しては、ちゃんと相応しい答えが用意されていて、ヘタレのアウルだからこそベルが求める相手だった、という合理的な理由ではあったんですよね。それはそれで、ヒドい理由であり、いくら卑屈で根っから惨めさをまとっているようなアウルにしても、怒って然るべき理由だったのですが。
でも、それ以前になんでこの子強くなれたんだろう。彼が奮起し、自分の中の臆病者としての方向性を転換することが出来た、覚醒できたその前の段階から、彼はぐんぐんと強くなっていってるんですね。それは、魔導書イゼゼエルというイレギュラーであり悪魔であり相棒である彼と出会ってしまう、その前から。
なにもないアウルでも、あんな簡単に短期間に、メチャクチャ頑張ったとはいえそれは誰でも出来る範疇の努力だったはずなのに、なんでか強くなるんですよ。普通の兵士の何十人分何百人分とかいうなかなか突拍子もない基準の数値で表示されながら。
いやいや、こんな子に勝てない、というかまとめて蹴散らされる普通の兵士ってなんなんだろう。ベルから強くなるためのアイテムを渡されたお陰でもあるんですけど、それこそ普通の人からしたらなんかズルい代物だよなあ。
アウルに与えられていた役割は、まあヒドいものでした。でも、直接陥れられたとか謀略によって嵌められたというわけじゃなくて、結局これってただの実力差であり本人の力不足であり自覚のなさが要因なんですよね。そこまで、悪辣な話だとは思わない。与えられた舞台で踊れなかった方が悪いと言うだけの話じゃないか。
そして、アウルはその舞台でちゃんと自分で踊ってみせた。それだけのことである。それだけの事を成し遂げることがどれだけ大変か、という話でもあるんだけれど、アウルには十分お膳立てが成されていたわけですし、ベルの思惑と違ったとしてもわりと至れり尽くせりな立ち位置だったんじゃないだろうか。
臆病者が勇気を出した。それは称賛されるべき事だとは思うけれど、悪者が偶に善行を施したら注目され褒められる、みたいな感じで真っ当に頑張り勇気を出していた、まとわりつく視線や期待に藻掻いて藻掻いて、それを振り払ってみせたシティちゃんをもっと褒めてッ。
まあそんな感じであんまり主人公に好感を持てなかったので、後半の展開は多少驚くところもあったけれど熱く感じるとかまではいかなかったかなあ、というくらいで。


エルフに転生した元剣聖、レベル1から剣を極める ★★★  



【エルフに転生した元剣聖、レベル1から剣を極める】  大虎 龍真/屡那 角川スニーカー文庫

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魑魅魍魎、悪鬼羅刹を滅し―― その先にある剣の頂点に再び!!
 剣を極められず無念の思いを抱えたまま最期を迎えた男は、神の力を借りエルフの少年ハークの姿となって異世界に転生。
目覚めて早々出会った虎丸と旅立つと、道中で三人組の男に襲われてしまう。剣術が一切通用しないピンチに陥る中、ハークは「この世界は面白い」と笑みを浮かべつつ、どうにか男たちを倒し、王国東の都ソーディアンを目指す。
 情報収集のためハークが街中を探索していると、エルフ・ヴィラデルと刃を交える事態に。そんな中、世界最強の青龍が都に襲いかかる!! ハークは街を守るため立ち向かうのだが……。
 剣の頂きを目指す異世界剣戟ファンタジー、開戦!!

戦国末期から江戸時代にかけて剣に生きた大剣豪。転生する事で名前を失ってしまうのでそれが誰かは明言はされていないのですが、わりとあからさまに情報出しているので読んでいたら彼が誰だったかはほぼほぼわかるんじゃないでしょうか。
ともあれ、寿命を迎えてなお剣に未練を残した男がその淵で希ったとき、謎の存在にスカウトされ別世界で魂を失ったエルフの少年の肉体にその魂を宿す形で転生を果たすことになる。
間違っても肉体派とは言えない線の細い体力もないエルフの少年になったわけだけれど、肉体そのものが別人になったにも関わらず、剣を振るう際に違和感とかはなかった模様。補正とかされていたのだろうか。
しかし、その剣の技の冴えは些かも減じていなかったにも関わらず、彼が乗り移ったエルフの少年を付け狙っていたチンピラ三人組に襲われた際に、ハークを名乗ることになった剣士は予想外の苦戦をするはめになる。
この世界はレベルがすべて。レベルがあがるごとに身体能力があがるどころか、肉体の強度まで増すというレベル絶対世界なんですよね。さすがに、剣の達人が奮った刃がチンピラの肌を切り裂けずに弾き返される、というなかなか意味不明な光景を目の当たりにするとは思わなかった。どういう理屈なんだ?
ここまで来るとゲーム風のシステムが機能している世界、と考えた方がいいのかもしれない。これだけレベルが絶対的な意味を持つとなると、戦うための技術を育てるよりも近視眼的にひたすらレベルを上げる事に終始されてしまって、技量については軽視されてしまっている世界なんだろうか。
結局、ハークも苦戦しながらチンピラどもを倒すことで経験値を得てレベルがあがった事によって最低限の戦うために必要な力を得ることになる。逆に言うと、レベル1のままではチンピラ相手でもギリギリだったわけで、ハークの前世からの剣聖としての技はそこまで無双を約束してくれるものではなかったわけだ。レベルがあがって他のレベル高い連中と同じ舞台に立つようになった際には武器になるんだろうけれど。
そもそも、戦国時代の剣豪が主人公の作品なんだけれど、高度な剣術論が飛び交う剣戟アクション、というわけじゃないんですよね。その手の薀蓄なんかは一切皆無だし、本格的な剣術としての理合や術理、動作について語られるわけではなく、剣豪というそれっぽい雰囲気に終始しているので、そっち方面はあんまり期待しない方がいいかもしれない。
そもそも、剣対剣の対人戦というのは殆ど発生せず、というか最初のチンピラ戦だけじゃないだろうか。いきなりラスボス級のモンスターとのイベント戦闘みたいなのがクライマックスでしたからねえ。
ヒロインはこのヴィラデルというエルフの女偉丈夫になるんでしょうか。どうやら、彼女がハークを邪魔に思って始末しようとした、というのはエルフの少年の誤解、思い込みにすぎなかったようで……この少年、勝手に思い込みで自殺してしまったのか。なんかどうしようもない子だったんだなあ。
本来のヴィラデルという女性は、苦労してきた酸いも甘いも噛み分けてきた人物でありながら面倒見の良い姉御タイプみたいで、旧ハークも随分と面倒を見てもらったようなんですよね。旧ハーク少年がどうやら面倒くさいタイプだったみたいだから、いい加減鬱陶しかったと思うのですけれどそれでも嫌な顔をしながらも声をかけてきてくれるあたり、親切な人だと思うんだけどなあ。
中身が剣聖になったハークも、旧ハークの遺言のおかげでヴィラデルのことを誤解してしまっているおかげで塩対応に終始しているのだけど、誤解が解けたら解けたであんまり相性は良さそうじゃないんですよね。中身がアレなおかげで完全に自立した大人であり他人の助けを必要としない強烈な個であり男であるために、変に世話好きなのもお姉さん顔してマウント取るのもハークからしたらウザいだけになっちゃうだろうし。このヴィラデル、果たしてヒロイン枠に入るんだろうか。
むしろ、相棒である虎の虎丸が人化してヒロインと化す方がまだありそうである。なんか、三下属性なのがネックと言えばネックなのだけれど、ハークは生涯添い遂げる相棒として厚い信頼を寄せているわけですしね。

しかし、このハークくん、なんでまた自前の技を一つも見せないまま、他人の真似である示現流の技を必殺技で奮っているんだろう。てか、この示現流の技って、なんかアクションゲームで出てきたものなんじゃ……。



クラスに銃は似合わない。 ★★★☆   



【クラスに銃は似合わない。】  芝村 裕吏/さとうぽて MF文庫J

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相棒は拳銃とAIの妹? 芝村裕吏が贈る予測不能の学園潜入アクション!

突然だが、世界初の完全無欠のAIな妹を持つ兄は、高校生になると何を始めると思う? 俺は妹・瑞穂の膨大な維持費のため、大金を稼げる殺し屋になる…はずだった。だけど会社が自分の仕事適正を護衛と見いだしたから、今俺は中学校に潜入し、ある少女を秘密裏に守る任務を遂行中だ。コードネームはPP01。そしてなぜか相棒は妹(口うるさい)。妙に可愛過ぎる護衛目標に接近(仕事だ)すると、妹がぎゃーぎゃーと騒ぐ(やかましい)。ちょっと都合の良いラブコメ展開を期待したが、そもそも甘い任務を用意されるはずがなかったわけで――では、こっそり銃を忍ばせて、クラスで任務を始めよう。

AIの妹って、AIが勝手に妹を名乗ってるとか、実妹が電脳化してしまいAIになってしまった、とかじゃあないんだ。これ、文字通り電脳人類じゃないですか。科学者である父親にとって、ネット上で人体錬成シミュレーションされた非実存にして電脳上に実在している存在。史上初のネットベイビー。それが瑞穂である。さらっと流されちゃってるけれど、ちゃんと自我、人間としての自意識が生まれちゃってるの、どえらい事なんじゃないのか。
この超存在のAI妹の扱いが、日本政府にしても社会にしてもアホすぎる。そんな社会悪に仕立て上げて叩いて終わり、みたいなレベルの存在じゃないし研究じゃないし、結果じゃないでしょうに。
人類の未来が間違いなくネジ曲がる存在だろうに、ほんとに何考えてんだか。なんでここまで物事を矮小化してしまえるのか。
生み出した科学者の父親は社会的に抹殺され、家で役立たずになっているそうだけど、第三国に拉致られても全然不思議じゃなさそうなんだけどなあ。
莫大な維持費、生存費が掛かるという妹のために、死にものぐるいで働きまくっているという母親も結構謎の存在である。いやだって、必要な金額の桁が尋常じゃないじゃないんですよ。スーパーのレジ打ちとかパート業とかで賄える話じゃないでしょうし、一体何の仕事をしてるんだ?
そもそも、この妹の瑞穂って母親からすれば自分関係ないところで夫がこさえてきた娘なんですよね。しかも、非実存。でも、主人公の語り口によれば母親は彼女を実の娘としてちゃんと受け入れ愛していて、だからこそ彼女を生かし続けるために過労死しそうな勢いで働いているわけで……地母神か。
主人公も主人公である。高校一年生、いや訓練期間とかから考えると中学生の段階で関わっていたのか、この裏稼業を営む「会社」とどのようなツテを使って働くことになったのか。何があったら、中学生が暗殺業なんぞを営んでいる会社で働く縁が生まれるんだ?
まあ作者の他のシリーズでも、普通の会社の採用試験受けたら傭兵会社の戦闘単位の指揮オペレーターになってた、などという顛末もあるので、どこに裏稼業の世界に入り込むルートが埋設されてるかわかったもんじゃないのだけれど。
それに彼自身、スペックが意味不明なところあるんですよね。みっちり訓練は受けたみたいだけど、受けたからってあんなに動けるの? それ以前に、周りには舌打ちにしか聞こえないレベルで圧縮された高速言語で妹と雑談してる段階で、ちょっと意味不明なところあるんですけど。この子、常態的に超加速思考を行ってるってことなの? 脳改造とかされたみたいな話全然ないんですけど。肉体的にはノーマルのはずなんですけど。
特に、この主人公、スペックが凄いとかいう話は一切していなくて、やることなすことさらっと流すのでなんか普通に誰でもできる当たり前のことなんじゃないか、と錯覚しそうになるけれど、かなり無茶苦茶意味不明な動きとかしてますからね?

しかして、この少年、現段階ではまだ見習い以前。今回の護衛案件はテストであって、実際の仕事ですらないのである。訓練自体はみっちり受けているからして、素人っぽい戸惑いは一切ないのだけれど、やはり初仕事ということで勝手がわからないところや、自分に適正がないんじゃないか、という疑念を抱えながら探り探りやってるんですね。これを初々しいと取るべきか、それとも実は熟れてるんじゃ、と思うべきか。内面的には迷い悩み、ながらなんですけどねえ。
実際、彼はエージェントでありながら護衛対象の少女である谷城祥子にどんどん感情移入して肩入れしていってしまう。いや確かに彼、あんまりこういう仕事向いてないよ。仕事として徹しきれない、割り切れない。毎度、あれだけ依頼人に情を持っちゃったら持たないぞ。
一見するとクールに徹しクレバーであろうとしているように見えるし、いざとなったら多分本当に「選択」してしまえる、妹の方を優先するだろう「覚悟」を備えちゃっているのがまた苦しいんですよね。感情に振り回される未熟ものなら、情けないで済むのだけど。
下手にプロに徹してしまえるだろう鋼の芯を持ってしまっているのが、余計に辛みを抱えている。こういう人物は、本当に選択しなければならないギリギリまで、なりふり構わずあらゆる手段を講じて、自分自身を容易に損なってでもやれることをやってしまおうとするからだ。場合によってはやれないことまで強引にやれる範囲に引きずり込んでみせる。
妹ちゃんが必死に、本当になりふり構わず必死にがむしゃらにこの兄が殺し屋の道に進もうとするのを止めたのは、多分大正解なのだろう。そっちの道に進むには、この兄は危うすぎる。いくらでもやらかしそうだ。本気で、人を殺すこと自体はなんでもない、と思っている所なんぞ尚更に。

それはそれとして、この兄、女たらしであることは間違いないんですよね。あれだけ安易に女の子に対して「かわいい」を連呼するとか、ちょっと考え無しすぎる。そんなに本気で可愛いとか言われたら、意識しちゃうの当然じゃないですか。しかも、この谷城ちゃん、学校では孤立気味なんですよね。人恋しさに飢えているところに、隙間なくビシッと寄り添うわけですよ。精神的に。
そりゃ、出会って数日で即転んでもおかしくないですわ。谷城ちゃん、ちょろいかもしれないけど、これは責められない。これは心ぐらつく。
元々、兄が分析していたように谷城ちゃんってかなりこう、面倒くさいタイプなんですよね。いやなるほど、確かに妹瑞穂とその面倒臭さの方向性とか似てるかもしれない。容姿も結構似せてきているの、意図的なんだろう、イラストデザインとか。
その面倒臭さが、丁度ハマるところにハマると恐ろしいほどチョロい合致になっちゃう典型だなあ。兄の性格が、その面倒臭さを受け止めるのにピッタリすぎてるんだ、これ。


事件の方は、なんか突然前触れ無く、異形の「モンスター」が現れたことで「お!? う!? えお!?」と面食らってしまった。これ、どういう方向性の作品だったんだ? 
そういえば、初っ端から電脳人類たるAI妹という存在が爆誕している世界だけに、こんな超常的な存在が出現しても不思議ではなかったのかもしれないけれど、作中の登場人物たちも警察も兄妹が所属する裏稼業のやべえ会社の人たちも同じように「お!? う!? えお!?」と面食らっていたので、この作中世界的にもあまりにもイレギュラーで異常な出来事だったのだろう。
おかげさまで、このモンスターと戦う兄の姿が冒頭の描写にあるお嬢様の目に止まり、物語はこの兄妹が裏稼業の任務から任務に渡り歩いていくエージェントものから、やや異なる方向へと舵を切ったみたいなのだけど。
犯人も意外といえば意外。いやなんでこいつがそんな力持っていたの? というこの事件の異常さに繋がっている。
これ、本当にどういう方向性の物語になるんだろう。2巻が出ないことには判断できないぞ?
それはそれとして、日常と非日常がぐるぐるにかき混ぜられた、主人公のちょっと外れた独白やら自問自答に味が出ている、面白い作品でした。個人的には芝村さんには「大軍師」の方を優先して欲しいとも思うのですけれど。


男女の友情は成立する?(いや、しないっ!!) Flag 1. じゃあ、30になっても独身だったらアタシにしときなよ? ★★★★   



【男女の友情は成立する?(いや、しないっ!!) Flag 1. じゃあ、30になっても独身だったらアタシにしときなよ?】  七菜 なな/Parum 電撃文庫

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永遠の友情を誓った親友ふたりが――ふとしたきっかけで〈両片想い〉に!?

 とある田舎の中学校で、ある男女が永遠の友情を誓い合った。1つの夢に向かい運命共同体となった二人の仲は――特に進展しないまま2年の歳月が過ぎる……!
 未だに初恋がこない陽キャ女子・犬塚日葵と、花を愛する植物男子・夏目悠宇は、高校2年生になっても変わらず、二人だけの園芸部で平和に親友やっていた。
「悠宇が結婚できなかったら、アタシが責任取ってやんなきゃねー」「日葵がそれ口走ってから、おまえの兄さんが『義弟くん!』って呼んできて辛いんだけど」
 ところが、悠宇が過去の初恋相手と再会したことで、突如二人の歯車が狂い出す!? 果たして恋を知った日葵は「理想の友だち」脱却なるか?

それはそもそもから恋だよ!
惹かれ惚れ込み独占しようとする。恋愛という枠組みに押し込むことで形にしてしまうことを恐れ、友情という雛壇で飾ることで何時までも変質させることなく、維持しようとする心は純情の粋じゃないですか。
あまりにも大切なものは、はっきりと形にしないほうがいいんですよね。形質を得てしまうと、それははっきりと明晰になるけれど、同時に形を失うというリスクを負うことになる。
これを日葵は非常に自覚的にやっている。彼氏を作って即座に別れる、というアレだ。人間関係を、一度付き合う、彼氏彼女になるという「形」を現出させることで、否応なく誰にでも分かるように破壊しているのだ。そうして、人間関係を終わらせている。
こういうことをしている娘だ。尚更、壊れてなくなってしまう可能性のある「恋愛」の成立を怖がる事も理解できる。曖昧模糊にしておくことで、友情という枠組みにおさめておくことで、彼女は大切に悠宇との関係を護っている。
でも、それはもう最初から恋だよ。
若者の時ほど、人は衝動的で十代でのお付き合いなんて続かないのが当然(その考え方には頷けないものがあるけれど。人間、どれほど年取ったって衝動的だよ)、という意識があるからこそ、30になってもお互い独身なら結婚しようぜー、なんて言い回しで婚活期間ゴール地点(近年ではもう三十路程度若い若いまだ折り返し地点になっている気がするが)での目標確保を狙っているのかもしれないけれど、この日葵さん……やや俗欲に堕している節がある。わりと、我慢が効かないタイプなのだ。友情という枠組みの方に自分を隔離して悠宇との関係を維持しようとしていながら、他の誰かが悠宇の恋愛圏に入ってくるとそれに全然耐えられなかった。耐えられなくて、友情枠から転げ落ちんばかりに身を乗り出して恋愛圏に割って入ろうとしだしたのだ。
覚悟も何も決まっていない。
そりゃ、だいたい見通している次兄は怒る。この人はどちらかというと狂気サイドの人に見える。線を引っ張ったアチラ側だ。
そんなアチラ側からの理屈なら。本気で勝ち逃げを狙うなら、日葵は決して恋愛圏に首を突っ込んではいけないのだ。友情枠、それも親友枠で居続けないといけない。恋愛圏とは交わらない、しかし恋愛圏よりも上位の、不可侵の、唯一絶対の、一番で居続けないといけない。
恋愛圏なんていう、同じ土俵で戦おうとしてはいけないのだ。それでは、恋敵と勝負になってしまう。そもそも勝負にならない高みを掴み続けないといけない。達観して悟りを開き、何もかもを覚悟して受け入れて受け入れなければならない。最後には、自分の所に戻ってくるのだから、という確信を、一切の疑念のない確信を抱き続けなければいけない。
まあそこまで来ると、狂気の領域で、その狂気を親友同士で共有しないといけない、なんて感じなんだろうけどさ。
あんまり達し尽くしてしまうと、いい加減恋とか愛とか友情とか、分けるのが不可能なくらい溶け合ってしまうのですけれど。定義なんて、どうでもよくなっていくのだけれど。

その点、日葵は至るには俗すぎるんですよね。目の前の欲望に弱すぎる。だから、容易に自覚してしまった恋心に振り回される。自分こそが悠宇にとっての唯一無二だと確信できない。彼氏彼女という関係の形がないことを不安に思ってしまう。キスや肉体関係を証として求めてしまう。
その意味でも、この娘は普通の女の子なのだろう。
ところが、悠宇の方は日葵よりもよほど覚悟決まってたんですよね。日葵のことが唯一無二である事について一切ブレなかった。自分の人生を、生涯を、一生を、この娘に捧げるのだと決め込んでいた。悠宇も日葵ほど俗じゃないけれど、頭がおかしいわけでもイッちゃっているわけでも、果てに達しているわけでもない普通の子だ。でも、覚悟は決め込んでいたんですよね。
おかげで、二人の友情という枠は続いてしまった。彼らは親友であり続けることになった。最後の最後に確実に勝ちを掴むために。
日葵にとってはなかなかの修羅の道だけど、果たして安易に目の前の餌に食いつかずに、最後まで我慢できるのか……この娘本気で目の前の欲望に弱そうだからなあ。
悠宇が日葵とも関係を大切に思っているからこそ、安易にセフレみたいな関係になるのに抵抗を覚えているのが案外とネックで、もう大親友だし莫逆の友なんだし子供でも作っちゃう? くらいの摩擦係数がゼロの関係になれば日葵の欲も安定しそうなんですけどね。
ただ、悠宇も覚悟決めている一方で、達観しているわけじゃなく普通に日葵の事を女の子として好き、という恋愛感情があるので、彼らの親友関係って表と裏が存在しているだけに、何がどうなっても、キスしてもセックスしても子供作っても結婚しちゃっても、二人は無二の親友なのは変わらないなんていう行き着く所に至っちゃった関係じゃないだけに、決して強固な関係じゃないんですよね。
今回、日葵が自覚しブレた途端にレッドゾーンに突入してしまったみたいに。だから、悠宇が下手に日葵と一線超えるようなスキンシップは避けているのは、間違いじゃないのでしょう。
でも、それだけ薄氷の上を歩いているとなると、決着は思いの外早いのかもしれない。少なくとも、30までは全然持たんでしょう。どこにでもある男女の当たり前の関係に落ち着くのか。
男女の友情は成立する?(いや、しないっ!!) とタイトルで反語で断言してるくらいですしねえ。

何にせよ、陽キャの完璧超人に見えて、メンタル弱々な日葵が果たして完走できるのか。二人の決着がどういう形でつくことになるのか。先がめちゃくちゃ楽しみなラブコメのスタートでした。うむ、面白いぞ!!

七菜なな・作品感想

 
8月3日

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(電撃文庫)
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(電撃文庫)
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(電撃文庫)
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(カドカワBOOKS)
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(カドカワBOOKS)
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(カドカワBOOKS)
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(カドカワBOOKS)
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(講談社)
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(ドラゴンコミックスエイジ)
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(ドラゴンコミックスエイジ)
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(角川コミックス・エース)
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(角川コミックス・エース)
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(角川コミックス・エース)
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(角川コミックス・エース)
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(電撃コミックスNEXT)
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(講談社コミックス)
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(講談社コミックス)
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(講談社コミックス)
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(KCデラックス)
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(KCデラックス)
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(星海社COMICS)
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(ブレイドコミックス)
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(ブレイドコミックス)
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7月8日

(KCデラックス)
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(KCデラックス)
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(シリウスKC)
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(シリウスKC)
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(シリウスKC)
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(シリウスKC
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(宝島社)
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7月7日

(SQEXノベル)
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(SQEXノベル)
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(幻冬舎文庫)
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(アフタヌーンKC)
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(ガンガンコミックスUP!)
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(ガンガンコミックスUP!)
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