徒然雑記

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新シリーズ

『ずっと友達でいてね』と言っていた女友達が友達じゃなくなるまで ★★★★   



【『ずっと友達でいてね』と言っていた女友達が友達じゃなくなるまで】  岩柄イズカ/maruma(まるま) GA文庫

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男だと思っていたゲーム友達が、実は白い髪がコンプレックスの内気な女の子だった!?
引っ込み思案な少女と織りなす、もどかし青春ラブコメディ!

「シュヴァルツって、女子……だったの……?」
オンラインゲームで相棒としてやってきたユーマとシュヴァルツ。男同士、気のおけない仲間だと思っていたが……リアルで対面した“彼”は、引っ込み思案な女の子だった!?
生まれつきの白髪がコンプレックスで友達もできたことがないという彼女のために、友達づくりの練習をすることにした二人。“友達として”信頼してくれる彼女を裏切るまいと自制するが、無自覚で距離の近いスキンシップに、徐々に異性として意識してしまい……。
内気な白髪美少女と織りなす、甘くてもどかしい青春グラフィティ。
ふぁーー。これはイイなあ、主人公とヒロインの初々しさに心洗われてしまいそう。
杉崎優真と上城ゆいがはじめて出会ったのは、リアルではなくオンラインゲームの中でした。その頃はまだ中学生の年代だった二人ですけれど、現実でうまく人付き合いできずウチに籠もって自然と他人を拒絶して生きていました。それはゲーム上でも同じで、なるべく人と関わらないようにしながら遊んでいたのです。そんな中で偶々一緒に行動するようになった二人は意気投合、ゲームの中で相棒として一緒に遊ぶようになったのです。
それまで他人を遠ざけるようにして生きてきた優真にとって、相棒…シュバルツと過ごす時間は自分の価値観を塗り替えてしまうほど楽しく、彼と遊ぶことをきっかけにして現実での自分の在り方も変えてみようと思い、努力を重ねることになります。以降、優真のリアルは見違えるように彩りを変えていきました。上手く行っていなかった家族関係も良い形で回るようになり、優真は自分の人生を変えるきっかけになってくれたシュバルツをリアルでは会った事もないけれど親友と思うようになったのです。
このように、二人はお互い本名も本当の顔も知らないネット越しの関係だけれど、そんな事は関係ないくらい信頼を寄せ合う友達同士だったのです。でも、そんな二人だからこそ、もっと相手の事を知りたい、もっと仲良くなりたい、と思うことは必定だったのでしょう。
高校への進学を機に、お互いのリアルの情報を話し合った時偶然、自分たちが同じ学校に通うことになっていて、家も思いの外近所だとわかったとき、リアルで会おうとなったのもまた当然のことでした。
でも、それはシュバルツ……ゆいにとっては途方も無い勇気がいる事でもありました。
白い髪という他人にない特徴のせいで、幼い頃からいじめられていたせいで、酷いトラウマとコンプレックスで他人とまともに目を合わせる事も喋ることもできない、対人恐怖症に近いものを抱えているゆいにとって、人と会うために外出するということは本当に勇気のいることでした。
その相手が、自分を受け入れてくれるのか。この白い髪に変な顔をしないか、今まで女の子だというのを黙っていた事を怒らないか。不安や恐怖でどれほど胸を締め付けられていたでしょう。足が震えていたでしょう。
でも、その勇気を振り絞るだけの絆を、優真に会ってみたいという願いを抱くほどに、出会う前の段階で二人の仲は深まっていたんですね。
そうして出会った男の子は、彼女の想像を超えるほどに優しく、自分の怯えや痛みを理解してくれる人でした。
他人とうまくコミュニケーションを取れない時期が長かった優真にとって、ゆいの焦ってうまくしゃべれない様子やそんな自分に嫌悪を覚えて余計にパニックを加速させていく姿は、身に覚えのあることで、だからこそどうすれば彼女の緊張を紐解いていけるか、よく理解できていたんですよね。
上から保護する形ではなく、寄り添って傍らから支える形でゆいと交流していく優真のそれは、もうパーフェクトコミュニケーション以外のなにものでもありませんでした。これから高校に通うというくらいの年齢なのに、ほんとよく出来た子だわー。
でも、同時にみたこともないきれいな女の子にドキドキしてしまう思春期の男の子であることも間違いではなく、相手が女の子だとわかった途端に初めて友達と会うというそれとは違った浮ついた気持ちになってしまう自分に、下心をどうしても抱いてしまう自分に嫌な思いを抱いてしまうところなど、誠実でもあり可愛くもあり、いい子なんですよね。
そんな男の子に対して、ゆいがどんどん心を開いていくのも当たり前で、高校に進学する前にゆいの人と接することへの忌避感を弱める練習として、いろんな所に連れ出して一緒に遊んでくれる優真への信頼が加速していくのである。しばらくしたら、もうべったりと懐いて無防備なくらいにくっついて離れなくなってしまった所なんぞ、ワンコみたいな所もあり、可愛らしくて仕方ないんですよね。
そりゃもう、優真も困る。
優真の義姉がまた破天荒な人物で、自分でブティックなんかも経営している才媛なんだけれど、このお姉さんがまた良い相談相手になってくれるんですね。
お姉さんの手で、それまで人前に出る事がなかったので髪の手入れや服装など野暮ったい格好しかしていなかったゆいが、見違えるように身だしなみを整えられて、素材だけでも傑出していたのに、それを磨ききった形でとてつもない美少女として完成されて出てきた彼女を、ただでさえ全力でしっぽを振りながら懐いてきてくれるゆいにグラグラしていた優真がノックアウトされないはずがなく、完全に女の子として意識するようになってしまうのである。
最初に、恋をしたのは優真の方だったんですね。でも、友達として慕ってきてくれるゆいにこんな気持を抱いてしまうのは不誠実なんじゃないか、こんな下心を抱いて接してしまうのはダメなんじゃないのか、と悩む少年に率直な助言を与えてくれるのがネネお姉さんなのである。
まあ、傍から見ていてお互いを深く信頼していてピトッと引っ付きながら恋にもまだ至らずにふわふわと寄り添ってる二人は、初々しいやら尊いやら、見ていてたまらなくなる関係なだけに、ネネさんが悶絶するのもよくわかるんですよねえ。
下手に手を出さなくても、意識するかしないかの境目で甘酸っぱい雰囲気をたたえている二人は、応援せずには居られないでしょう。悩める少年に細やかなアドバイスを与えるのは、ほんと良いアシストでした。
この時点では、まだゆいは恋に至ってはいなかったんですよね。優真のことが大好きで大好きでたまらなくて、彼のことを信頼しきって頼りにしきって彼の喜ぶことなら何でもしてあげたい、と思うまでになっている彼女ですけれど、それはまだ恋じゃなかったのである。
それは、どうにも自分を異性として意識しはじめているらしい優真の様子に気づいて、優真は自分が彼女として付き合ってくださいと言ったら喜んでくれるかしら? なんて悩み始める姿からも明らかでした。
彼女のそれが恋ならば、そんな風に優真のためだけに、彼が喜んでくれるから、という理由で彼女になろうとなんてしなかったでしょう。
でも、そうした些細な機微に気づくのが、ネネの助言で腹を決めてゆいと一緒にいると決めた優真だったんですね。彼女が自分のことを好きになってくれたら嬉しいし、好きになって貰うために頑張るし努力するつもりだったけれど、これはちょっと違うんじゃないか、と。
ちゃんと察してあげられる。無分別にがっつかずに、しかし安易に拒絶せずに、彼女の心の動きをしっかりと理解してあげられる優真少年のそれは、本当に良く出来ていたと思います。
ゆいへの友情と愛情と優しさが、気遣いが、心配りが、行き届いているんですよね。こんなイイ男の子はいないですよ。
そして、そんな彼の良さを、素晴らしさを一番理解しているのもまたゆいなんですよね。彼がどれだけ自分のことを大切にしてくれているか、想っていてくれているか。これまでも十分伝わっていたけれど、それがオーバーフローするくらい自分の器を満たして溢れ出して、そうして彼女はついに自分の中のドキドキを発見するのである。
彼のことを考える時、思う時、自分でも制御できないくらい心が弾むことを、押さえきれないくらい胸がドキドキしはじめる瞬間を、彼女は自覚するのである。
恋が、そうしてはじまるのだ。

この物語は、二人の男の子と女の子がかけがえのない親友になり、そこから恋がはじまるまでの過程をとても丁寧に柔らかく描き出してくれたとても素敵な作品でした。
作中時間としては結構短いんですよね。学校が始まるまでの春休みの期間。でも、そんな短い時間だけれどとても密度の濃い、人生が書き換えられていく、人の心が、想いがページをめくるように進展していく様子が描かれたものでした。色づく季節、とでも言うんでしょうか。ああ、春なんだなあ。
まさにこれ、タイトル通りのお話でした。

ここからは、恋しはじめた二人のお話。高校という新しい生活に、二人で踏み出すお話であり、意識せずには居られなくなった初々しく可愛らしいカップルのお話。
ぜひ、ここからの二人のお話、読んでみたいです。もう、二人共めちゃくちゃ可愛かったッ。

岩柄イズカ・作品感想

プリンセス・ギャンビット ~スパイと奴隷王女の王国転覆遊戯~  



【プリンセス・ギャンビット ~スパイと奴隷王女の王国転覆遊戯~】  久我 悠真/スコッティ  電撃文庫

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奴隷王女×スパイが挑む、学園に集う傑物との王座を賭けたロイヤルゲーム!

【王位選争】――次代の国王の座を王の子たちが奪い合うロイヤルゲーム。
傑物ぞろいの王族が通うロアノーク王立学園に足を踏み入れたのは、奴隷の少女・イヴ。現王と奴隷の間に生まれ、このゲームに巻き込まれた頭脳明晰な才女。そして、彼女を補佐する少年・カイは、国益のために傀儡政権の樹立を狙う敵国のスパイだった。
人間の本質をさらけ出す数々の頭脳戦。候補者同士が《騙し》《謀り》《裏切り》《潰し合う》、このゼロサムゲームの先に待ち受ける揺るぎない真実とは――?
女王になれなければ無惨な死と嘲笑を運命づけられた少女と、彼女を利用しようとするスパイの少年――奇妙な共謀関係にある二人による、命を賭した国奪りゲームが始まる。

こういう知力を振り絞り、駆け引きや謀略を駆使して相手を陥れ、場を支配して勝利を目指すゲーム系の物語というのは、ポッとでの真面目さ誠実さだけが売りの主人公では乗りこなせない。そのせいか、在る種の超常的な精神の持ち主や知力チート、曲者食わせ者といった常人とはかけ離れた突き抜けた人物が主人公になることが多い。賭博黙示録のカイジみたいな俗物の塊みたいなのはむしろ珍しい方なんじゃないだろうか。
同じ作者でもアカギの方だったり、【賭ケグルイ】の蛇喰夢子みたいな向こう岸に渡ってしまっている狂気を孕んだ人物が主人公というケースが、このたぐいの作品では多い傾向にあるんじゃないだろうか。そして、怪物たるその主人公たちゲームを、物語そのものを支配して対戦相手を、観客たちを、読者たちを魅了し夢中にさせてしまう。
そんな主人公たちは、怪物であるからこそ人知を超えたキャラクターである。彼ら彼女らは得体が知れず図りしれず未知であり理解が及ばない存在だ。だからこそ、畏れを抱きその狂気に魅せられてしまう、引き寄せられてしまう。絶対にわからないそれを理解したいと思ってしまう、もっと見たいと思ってしまう。
未知であるからこそ、彼らは魅力的であると言える。
だから、この手の作品の主役となる人物が得体が知れず、正体が知れず、何を考えているかわからない、というキャラクターであるのはむしろ方向性としては王道であると思うんですよね。
しかし、奴隷王女であるイヴの未知は、はたして魅力的だろうか。彼女の理解できない部分をもっと覗いてみたい、と思うだろうか。
奴隷という生まれにも関わらず、人を手玉に取り言葉巧みに取り込んで本人の意思のまま操ってみせる人身操作の手腕。それを元手に奴隷である彼女を買った主人を籠絡し、とても奴隷とは思えない境遇を得て教養や知識を得て王女らしい品格を手に入れたという彼女。それは、生まれながらの資質だったのか。彼女はどうして、王位を狙っているのか。いったい、その腹のそこで何を考えているのか。味方につけたスパイである主人公に語った内容はその奥底を見せること無く、上辺だけで踊っている。彼女が何を考えているか、何を思っているか、その薄ら笑いの向こうで何を望んでいるのかわからない。
わからなさすぎて、なんだか遠い。遠すぎて、共感を抱かない。ゲームのプレイヤーとして読者側の登場人物という感じがあんまりしないんですよね。
だから、誰にも肩入れできることもなく、淡々と目の前で繰り広げられるゲームを眺めている感じ。その勝敗に一喜一憂ができない。ぼんやりと眺めている。
ゲーム自体が面白ければ、そこから没入できるのだろうけれど、ルールばかりがぐるぐるとこねくり回されて、プレイヤー同士の攻防にそこまで動きを感じられなかったりする。
そもそも、奴隷王女の事前の予告どおりにしか状況は進まない。そこには予想外も予定外もなく、彼女が言った通りに事が運び、彼女が言ったとおりに他の人間たちは物事を考え、行動し、発言する。
こうなってこうしたら、彼らはこう考えこのように行動するでしょう。と彼女は語り、で、そのとおりに話が進む。
でも、だからといって奴隷王女すごい、というふうには感じられないんですよね。彼女が言った結果ありきで物事が進んでいるだけで、最初から脚本展開としてそう決まっていたから、というくらいにしか見えないんですよね。そこに彼女の説明、予告がそのとおりになる論理に説得力を与える、補強する状況や背景、論理はあまり見えず。
だから、カタルシスのたぐいを感じることがなかった。
ゲームにも関わらずドキドキもワクワクも出来なかった段階で、まあこれはあんまりあわなかったかなあ、というところで。


わたし、二番目の彼女でいいから。 ★★★★★   



【わたし、二番目の彼女でいいから。】  西 条陽/Re岳 電撃文庫

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俺たちは「二番目」同士で付き合っている――危険な三角関係の行方は?

「私も桐島くんのこと、二番目に好き」

俺と早坂さんは互いに一番好きな人がいるのに、二番目同士で付き合っている。
それでも、確かに俺と早坂さんは恋人だ。一緒に帰って、こっそり逢って、人には言えないことをする。
だけど二番目はやっぱり二番目だから、もし一番好きな人と両想いになれたときは、この関係は解消する。そんな約束をしていた。
そのはずだったのに――

「ごめんね。私、バカだから、どんどん好きになっちゃうんだ」

お互いに一番好きな人に近づけたのに、それでも俺たちはどんどん深みにはまって、歯止めがきかなくて、どうしても、お互いを手放せなくなって……。
もう取り返しがつかない、100%危険で、不純で、不健全な、こじれた恋の結末は。

これは凄いっ、凄い作品が来たぞッ!
タイトルやあらすじから、爽やかな青春モノとは裏腹のドロドロの男女関係をねっとりと描いてくれそうなラブストーリーとして期待を募らせていたのですが……。

期待を遥かに上回る不純で倒錯的で不健全な恋物語だったっ! これは本気で凄いし、それ以上にやべえよ、やべえよ、不健全だよ、倒錯してるよ!
でも、恋物語なんです。ドロドロの泥沼のような話でありながら、予想外に青春の物語でした。恋に盲目的なほど全力な若者たちの物語でした。
でも、性癖歪んじゃってるよこれーー!!

二番目だけれど恋は恋。早坂も桐島も、二番目の恋を決して疎かにはしていない。たとえ一番ではなくても、その好きは本気の好きだから。みんなには秘密にしているとは言え、二人は彼氏彼女の関係だから。
この時点で倒錯しまくっているのだけれど、主人公の桐島くんがまた性癖歪んでるんですよ、こいつやばいよ。彼が密かに思いを寄せている橘ひかりにはもう既に彼氏がいるという。その彼氏と思しき男の人と一緒の親密そうな写真を、橘は毎日のようにSNSにあげているのだけれど、桐島はマメにそれをチェックしているのだ。好きな人が自分以外の男と仲良くしている、という胸が掻き毟られそうな写真を食い入るように見入って嫉妬に血を吐きそうになって悶えながら……この男、その狂おしいまでの嫉妬心に恍惚となっているフシがあるんですよね。
……それ、寝取られ属性だよ!!
もう趣味習慣になっていると思しき桐島のその行為を、もちろん早坂あかねは知っていて、同時に嫉妬もしている。二番目の好きな彼が自分以外の女に夢中になっている姿に、いずれもし彼がうまく言って一番目に好きな彼女と上手く行ったとしたら、喜んで送り出してあげると決めておきながら、心定めておきながら、早坂あかねは嫉妬に狂うのだ。脳髄を、焼け付くような妬心に湯だたせるのだ。
そしていずれ、橘ひかりもまた、桐島のそんな性癖を、自分のSNSを偏執的にチェックして嫉妬心を募らせている実情を知ってしまうのだが、この娘は……橘ひかりはドン引きするどころか、むしろ前のめりにその事実を利用して、彼の嫉妬心をかき乱すことになる。
彼女の過去、そして現状が徐々に明らかになっていくことによって、この娘もまた倒錯と執着に囚われまくって歪んでいる娘だとわかってくる。

早坂あかねも、橘ひかりもイラストデザインからすると小悪魔的というか自己主張の強そうな娘に見えるのですが、早坂の方は大人しくて引っ込み思案でクラスのマスコットみたいな可愛い系。橘ひかりの方は無表情で感情的にならない人形のようなクールな美少女。と、決して押しの強いタイプの少女ではないんですよね。
それは、基本的に桐島と二人きりになっても変わるわけじゃない。二人共、猫をかぶっているわけじゃなくて、それが決して器用ではない彼女たちが表で出せる顔だから。
でも、桐島相手には心許せる相手だからこそ、隙を見せてくれて緊張を解した顔を見せてくれる。でも、それ以上に恋という感情が彼女たちを急き立てるのだ。冷静さを、理性を、取り繕うべき外面を、恥ずかしさを、何もかもが引き剥がされていく。
でももし、その恋がお互いを見つめるばかりの落ち着いたものだったら、彼女たちはもっと冷静に穏やかに自分の中に芽生えてくる恋心を制御できただろう。
でも、桐島を含めて早坂あかねも橘ひかりも、その根源に在るのは好きな人が絶対に自分のものにならない、という焦燥であり、狂おしいまでの嫉妬心だ。
それでいて、その恋は届かない所にあるわけじゃない。恋する人は、触れられる近さに居てくれる。その身体を捕まえていられる、抱きしめていられる場所にいてくれる。なんなら、心だって寄せてくれている。一番目だろうと二番目だろうと恋は恋だ、好きは本当の好きなのだ。でも、独占だけはできない。その人の心は、自分だけのものじゃない。いつだって、自分と違うあの人に向けられている。それが正気を発狂させる。なまじ、触れられるだけに抱きしめられるだけに、夢中になって求めてしまう。
そうなると、容易に理性は剥がれていく。夏の外気にさらされたアイスクリームのように、とろとろと溶けていくのだ。そうなれば、現れるのは剥き出しの欲望だ。独占欲だ。この人を自分のものにしてしまいという、原初の欲望だ。
この作品が倒錯しているのは、そうした溶け切った理性の果ての感情が誰か一人の一方的なものではなく、少なくとも桐島くんと早坂あかね、そして橘ひかりの三人の間で完全に共有されてしまっているところなんですよね。そして何より、その狂おしい感情を抱え込んでいる事を三人共が認めあっている、知っている、わかっている、という所なんですよ!
そして、お互いに彼氏彼女という関係を見せつけることで、一番目に好かれているという事を見せつけることで、決して結ばれないという現実を見せつけることで、見せつけ合うことで恋敵を、恋する人を嫉妬で悶え苦しませて、悦に浸るのである。
もう、倒錯してる以外のなにものでもないよ、これ。
そしてその倒錯は、四人目の当事者。早坂あかねが一番に好きな人、橘ひかりの付き合っている人、そして桐島くんが最も信頼し信頼されている人物が、同一人物であることがわかった時に、そしてその人と橘ひかりとの本当の関係が明らかになった時に、圧倒的なまでに加速していくことになる。

改めて見ても、もうむちゃくちゃエロいんですよね、この話。あらゆる場面にエロスが充満している。でも、決して直接的なエロがあるわけじゃないんですよ。誰も裸になんてならないし、肉体的接触もせいぜいキスが一番上。
でも、死ぬほどエロい。好きという気持ちが募りすぎて、理性がポロポロと剥離していく早坂あかりのエロスが、果たしてどれほど突き抜けているか、これは見てもらわないとわからないだろう。理性が吹き飛んでしまった時の男女が、どれほど獣のようになってしまうのか。頭から冷静に考える機能がなくなってしまうのだ。目の前に好きな人が居て、その人に触れるという事実だけが体中を支配する。その甘くてとろけていくような快感が、天上にも登るような心地が、ここには余すこと無く描かれている。
そして、橘ひかりとの逢瀬はそれにも勝る官能だ。部室の奥に眠っていた恋愛ノートと呼ばれるかつてのOBが書いたという、女の子と仲良くなれるという頭の悪いゲームを、橘ひかりに請われて二人きりでプレイしはじめたときの、あの頭が茹だっていくような時間と空間。ねっとりと、理性が蛇のようなものに絡め取られ動けなくなっていく空気感。
甘く囁かれる声が吐息が、全身を痺れさせていく。触れる指先が、唇が、舌先が、理性をドロドロに溶かしていく。体温が際限なくあがっていくのが、目の前にモヤがかかって目の前にいる人のことしか見えなくなっていく様子が、目に浮かぶようだ。ただ、目の前の人を求める原始の感情。
これを、官能と言わずしてなんというのだろう。
ってかこれもう、官能小説だろう!?

そして、それだけ理性を蕩かせながら、その相手を彼も彼女も独占できないのだ。自分だけのものに出来ないのだ。三人とも、人並み以上に独占欲が高く深いにも関わらず、心も体も手に入れられるのにそれを別の人に分け与えなければならないのだ。その狂いそうな感情を、この子たちは甘く苦い飴玉のように舐り尽くしている。苦しみながら、悦んでいる。
なんて、不健全!! 不純! 倒錯的!! 

ラストシーンの橘ひかりのあの台詞は、その極地でもあり、同時にタイトルに多重層の意味を持たせる構成の凄まじい妙を見せつけるすごすぎる台詞でもあって、あれを見せつけられたときには思わず放心してしまった。全身が痺れて震えるほどに、キてしまった。完全にヤられてしまったと言ってイイ。
うわああああ! もう、うわああああ! ですよ。叫ぶしかねえ!

なんかもう脳内物質がぶっ飛んだ。ヤバいですよ、これ。やばいやばい。すげえラブストーリーが来た!! 来たぞーー!!

悪役令嬢、拾いました! しかも可愛いので、妹として大事にしたいと思います 1 ★★★   



【悪役令嬢、拾いました! しかも可愛いので、妹として大事にしたいと思います 1】  玉響なつめ/あかつき聖 アース・スターノベル

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転生者として、ファンタジー・ゲーム知識を魔法に生かし、“幻影"という二つ名で知られるジュエル級まで上りつめた冒険者アルマは、ひょんなことから“追放された悪役令嬢"イザベラを拾う。イザベラの身の上話を聞いて
「この子……前世の漫画の子だ! 」
と一瞬大混乱の彼女だったが、漫画よりも謙虚かつ聡明なイザベラを気に入り、引き取って妹にすることを決意。イザベラは庶民の生活を学びなおし、「自分にとっての幸福」とは何かを考え始める。そこへ元婚約者である王子がやってきて……

ちょっと王子側の動きがガバガバすぎて、ほぼほぼ自滅だったんじゃないだろうか、これ。
いわゆる婚約破棄のシーンは省略されてなかったものの、追放された悪役令嬢を主人公が保護して、という流れから逆襲に転じて王子の断罪と令嬢の名誉回復までの展開、早かったなあ。
いやね、最近は令嬢追放から主人公に拾われるにしても、新天地で令嬢自身が主人公として頑張っていくにしても、肝心の婚約破棄にまつわる一連の事件は話の都合上後回しにされてしまったり、逆にサクッとプロローグで片付けられてしまったり、と喫緊の問題としてあんまり扱われないことが多かったので、本作のようにそこに焦点を当てて追放から逆転裁判までを一連なりのお話として第一巻でやっちゃうのは昨今珍しい部類なのかも、と思いまして。
わりと、それ以外の話に横道それることなかったですからね。
令嬢のイザベラが冒険者で主人公のアルマに保護されてから、平和な日常をアルマの元で過ごしてイザベラが落ち着き、またアルマに懐いてこれまでの次期王妃として固められていた価値が解きほぐされていく、という話の流れがありましたけれど、具体的に特徴的なイベントがあったわけじゃないですからね。
作中時間ではそれなりの期間、王都から放置されていたようですけれど、展開としてはわりとすぐに王都から王子が襲来してきて、という話になりましたし……当事者の王子が自分で突撃してくる、というのも珍しいなあ。それも改心したとか事情があったとかじゃなく、勝手に飛び出してきてイザベラを勝手に連れ戻しにきたという勝手っぷりで、勝手勝手。ガキか、この王子。
これはもう放っておいても早晩王子周りはダメになってたんでしょうけれど、一方的に婚約破棄された事で名誉を失っていたイザベラの名誉回復、あとこんな王子を野放しにしていた王国首脳部にナシをつけるため、アルマはイザベラの保護者として仲の良い冒険者の青年二人組と王都に乗り込むのであった。
これ、ただの冒険者なら無謀だけれどジュエル級という王族も一目置かなくてはならない、在る種の権威ある存在であったアルマが権威振りかざしてうちの妹いじめるやつに一発食らわしたる、と直接暴力じゃないけれど、口撃で一言一発かましたる、という勢いで乗り込む話でしたね。
いやまあ、こういう場合は権威も必要なんですけど。あの王子の教育に失敗していた時点でどうしようもないんだよなあ。エドウィン君も、最初の態度酷すぎたのであんまり弁解の余地ないと思うんだけれど。心改めたとはいえ。いや、こんな好青年ならもうちょっと最初のあの歪みまくった態度はマイルドな描写にしておいた方がよかったんじゃないだろうか。好感持てる要素なかったぞ。

珍しいと言えば、主人公のアルマは女性なのだけれど、拾ったイザベラの可愛さに夢中、は夢中なんだけれど、それとは別に友達以上恋人未満の冒険者仲間が居て、わりとベッタリなんですよね。
イチャイチャしてるとまでは言わないけれど、まだ拾われたてで不安もあるだろうイザベラが、拠り所であるアルマが別の男性に気もそぞろ、というのは凄く可愛がってくれてるにしても、不安定な時期だけに大丈夫だったんだろうか。なんか姉に理解の在る即座に出来た妹、みたいな振る舞いをしていましたけれど。

寄り道せずに、サクサクっと婚約破棄から始まったイザベラの追放事件を一巻で解決。と、なってしまったのであんまりアルマの冒険者としての強さはアピールされなかった気がします。イザベラの庇護者としての振る舞いに終始してましたしね。冒険者としては宝石級という権威を振りかざす事で自己主張はしていましたけれど。

まあ肝心のイザベラがこれで完全に国元から自由になって、悪役令嬢でなくなってしまったので、ある意味元貴族のただの妹になってしまったのだけれど、これからどう話広げていくんでしょうね。

王都の外れの錬金術師 ~ハズレ職業だったので、のんびりお店経営します~ ★★★   



【王都の外れの錬金術師 ~ハズレ職業だったので、のんびりお店経営します~】  yocco/純粋 カドカワBOOKS

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ハズレ職だけど家族や精霊に支えられ、ほのぼのモノづくり生活!

ハズレ職を理由に家を追い出され、孤独に生を終えた少女は、子爵家の次女・デイジーとして転生する。
だが、今世の職業もハズレの「錬金術師」。怯えるも、今世で待っていたのは家族からの温かい言葉と、真新しい錬金道具!
しかも、希少な「鑑定」を持つデイジーにとって、実は天職で……!?

国家相手にポーションを売ったり、精霊の加護で楽々素材が集まったり、たまにはパンを作ってのんびりしたり……。

チートな錬金術師の明るく楽しい毎日が始まります!

前世で家族から望まれぬ職業を神から授かってしまい、家族から捨てられ病で寂しく孤独にこの世を去ってしまった主人公。生まれ変わっても、前世の記憶があるからこそ、その時のトラウマが彼女を怯えさせていたのも無理ない事なのでしょう。
それが、今世でも同じように望まれた魔術師ではなく、錬金術師というハズレと言われている職業を授かってしまったなら、なおさら前世の恐怖が蘇ってきてもおかしくないはず。
魔術師の家系であるプレスラリア子爵家は、宮廷魔術師を排出する魔道の大家でもあり、一族はみんな魔術師の職業を受けていた中での、全く別の職業ですからね。
さらに錬金術師という職業は、過去には多大な業績が残っているものの、誰もそれを引き継いでおらず、今いる錬金術師はせいぜいが低品質のまともに使えないポーションを作るくらいで、一般にろくでもないハズレ職と見做されているらしい。
それにも関わらず、怯え悲しんで部屋に閉じ籠もってしまった娘を普通に心配して、傷ついただろう彼女のことを絶対守ってやるのだ、と両親が決意するあたりはまだ、親として当然のこと(その当然を出来ない貴族も多いのでしょうけれど)、としてそれだけではなく、デイジーが就いた錬金術師という職業そのものも否定せずに、デイジーが望んだからではありますけれど、娘が錬金術師として学ぶための教材をかき集めてきて、彼女が自分の職業を誇れるようになるための環境を整えてあげようとした、というのは魔術師という別系統の大家であるからこそ、そこにこだわらない柔軟性はお父様尊敬できる人だなあ、と思う所でありました。
デイジーとしても、前世とは裏腹の家族の厚い愛情はトラウマを払拭する温かいものだったでしょう。嬉しかったでしょうね。それどころか、錬金術師として大成するために手厚い援助までしてくれて、とやる気MAXになるのも無理からぬこと。高価な道具類も揃えてもらい、古い錬金術の本なども手に入る限り入手してもらったわけですから。

しかし、デイジーに鑑定という余人にない精密というか解説付き測定方法が備わっていたからとはいえ、錬金術初心者向けの本を読んで作れる程度の普通のポーションも、現在の錬金術師は作れていなかったって、どれだけ他の錬金術師は不勉強で怠け者で不見識だったんだろう、と首をひねってしまいます。
肝心の錬金術も、蒸留水を作ってそこに草をみじん切りにして容器に放り込んで、加熱するだけ、というのが基本ベースなんですよね……小学生の理科実験でしょうか?
沸騰するかしないかの瀬戸際を見極めて火力調整しつつ、数時間ほど温めるだけで素材から抽出できるエキスが、高品質のポーションとなるという……なんだろう、このコストのわりに得られるリターンの破格さは。部位欠損の回復までできるポーションが水に漬けて温めるだけで出来るって、簡単すぎないですかね!? これなら、鑑定なくても普通に試行錯誤してたら易易と出来るレベルに見えるんだけれど。もうちょっとこう……錬金術というからには高度なそれを見せてほしかった気がします。繰り返しになりますけれど、これなら小学校の理科室でできそうw

錬金術の内容はともあれ、両親の手助けもあり、幼い時分にもう将来の夢を描いてそれに邁進できる、というのは幸せな人生でありましょう。錬金術のアトリエを作って、そこでお店をやるんだ♪ とだけいうと、子供の夢のお話そのものなのですけれど、彼女は既にポーションを含めて、この国にはないパンをはじめとした食べ物を作って国王一家に献上したり、モンスターとの戦いでポーションを配り歩いて後方支援で実績をあげたり、と功績をあげてるわけで、夢物語じゃないんですよね。
幼女が戦場に勝手に入ってきて、ポーションを配り歩くとかちょっとどうかしてる状況だとも思いますけれどw

デイジーはまだ年齢二桁になる前に、献上品などで得た収入を家で貯蓄してくれていたものを使って、早々にお店を建てて独立。他の子供達、デイジーの兄や姉たちも学校の寮に入ることになり、一気に幼い子供達が手元から離れていき、寂しそうなパパさんの姿がちょっと沁みるシーンでした。
まだ年齢でいったら小学生くらいだろう子供達が、みんな家を出ていっちゃうって親としては寂しいどころじゃないだろうなあ。いくらなんでも早すぎて、若干かわいそうになってしまった。子供達に深い愛情を注ぐことを厭わない両親なだけに、なおさらに。
こうなっては、もっとどんどん子供を作って寂しくないようにするしかないよね♪

 


シャーリー・ホームズと緋色の憂鬱 ★★★★   



【シャーリー・ホームズと緋色の憂鬱】  高殿円/雪広うたこ ハヤカワ文庫JA

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2012年、オリンピック開催に沸くロンドン。アフガン帰りの軍医ジョー・ワトソンは、早々に除隊したものの、物価の高さと仕事のなさに鬱々としていた。このままでは路頭に迷ってしまう。そんな折、友人ミカーラからフラットシェアをすすめられた。シェアの相手はシャーリー・ホームズ。ちょっと変わった女性だという。だが、実際に会ったシャーリーは、ちょっとどころではなく変わっていた。乗馬服に身を包んだ清楚な美貌、人工心臓を抱えた薬漬けの身体、初対面で経歴を言い当てる鋭い観察眼、死体置き場で寝起きする図太い神経。なにより驚いたのは、彼女が頭脳と電脳を駆使して英国の危機に立ち向かう、世界唯一の顧問探偵であることだった。 ベイカー街221bで同居を始めてまもなく、ヤードの女刑事グロリア・レストレードが訪ねてきた。死体がピンク色に染まる中毒死が続発しているらしい。いまだ無職のジョーはシャーリーに連れられて調査に赴く。それは二人がコンビを組む、初めての事件だった。 表題作に短篇「シャーリー・ホームズとディオゲネスクラブ」を加えた、目覚ましい独創性と原作への愛に溢れた、女性化現代版ホームズ・パスティーシュ登場!
登場人物全員女性! 高殿さんの作品はもっとガンガン読みたいんだけれど、なかなかタイミングがなかったんだけれど、いざ読み出すとめちゃくちゃ面白くてサクサク読めてしまうので、まずページさえ開けばいいんだよなあ。

冒頭からアフガン紛争帰りの軍医ジョー・ワトソンの登場で引き込まれてしまう。本来のワトソン君もアフガン戦争帰りの軍医だったのに、舞台が現代になっても変わらずアフガンに首突っ込んでるイギリスになんだかなあ、という気持ちになる。まあ、現代のアフガン紛争は9.11を端緒にはじまった対テロ戦争の一貫でアメリカ主導だったんだけれど。でも、巡り巡ってそもそもこの地域の紛争がはじまった原因はイギリスだからな!
というわけで、時代背景はがっつり現代。2012年のロンドンオリンピックが開催されている真っ盛りの頃。それでももう10年前になるのだが。
高殿先生、めっちゃロンドンに取材にいっている上に短期だけれど実際に旅行じゃなくて住んだりもしてたんじゃなかったっけか。それだけに、ロンドンの情景描写にはリアルな色彩と息遣い、そして生活感を感じさせるものがあって、眼に心地よい。
とはいえ、ワトソンちゃん、戦地から帰って早々就活に失敗して引きこもるわ、金なくて住む所もなくて、モルグ……病院の死体置き場に勝手に潜り込んで、死体袋を寝袋代わりにして宿代わりにする、というすげえことを平然とやらかしてくれるのだが、そこで図らずも同じく死体袋に入って仮眠を取っていたシャーリー・ホームズと運命の出会いをかますのでありました。
出会いの絵面が酷いなんてもんじゃないんですがw
ホームズシリーズのワトソン君と言えば、凡人の聞き役として頭脳明晰なるホームズ氏の推理に実にわかりやすい反駁と疑問を呈してくれる狂言回しの王様みたいな存在で、この作品におけるワトソン女史も普段のホームズの奇行に苦言をていして常識を諭したり、事件の推理パートに際してはわかりやすい答えにとびついて、と実にワトソンしているワトソンなのである。見事なワトソンっぷり、と言っていいでしょう。
しかし、彼女が平凡か、凡人か、というと……実際の所シャーリー・ホームズに勝るとも劣らない奇人なんじゃ、と疑ってしまうんですよね。ダメンズ趣味なのを除いても。
いや、その前に物語の主役であるシャーリー・ホームズを語らねばなるまい。
自分には心がない、と語る彼女は、胸に人工の心臓が埋め込まれた半機械化人間である……いや、マジで。ただ心臓疾患で人工心臓を胸に埋め込んでいる、というだけならアンドロイド呼ばわりはしないのだけれど、彼女の場合その心臓がどうにも特別性である上に、ネットワークと繋がりミセス・ハドソンというAIと連携していたりするんですね。
ハドソン夫人が人間じゃないんですけど! というのもアレなんですが、シャーリーの電脳との繋がりっぷりが、2012年が舞台なのに一人だけ攻殻機動隊!
ハドソン夫人も「Hey Siri!」とかでは済まない異様に高度なAIですし。ちゃんと元のハドソン夫人という人間は居たらしく、亡くなった彼女の人格モデルを用いているAIらしいのですが、いずれにしてもシャーリーってばホログラムとか普通に使ってるし、技術レベルがひとりだけ100年単位でおかしくないですか? という様相なんですよね。
ワトソン、なんで気にしてないんだ? なんかもうそういうものなんだ、とさらっと受け流しているのですが、彼女の受容力ってちょっと異様なんですよね。
シャーリーのどこかロボットじみた非人間的な挙動、停滞した感情、絶世の美貌が余計に人形めいた雰囲気を増しましているところなど、最初の頃こそシャーリーの異様さがワトソンの目を通じて浮き彫りになるのですけれど。
ワトソンとのシェアハウス生活の中で、一見してわかりにくい中でシャーリーは実は結構表情が動いていたり、感情的な部分が見え隠れしてくるんですね。家族……姉の突拍子のなさに振り回され、自分に与えられた役割に頑ななほどに拘る意地の張り方、そして自分の存在意義、生きる価値についての苦悩など、シャーリーの人間性、人間臭い部分は後半に行くほど顕著に見えてくるのである。
んで、面白いことに逆に平凡な人間に見えたワトソンの異様さがチラチラと見えてくるんですね。その人生の岐路に、いつも男の影がある、男運の悪い要領も悪いお人好しのハーレクイン好きの医者崩れ、というわりとダメっぽい女性という姿の奥底に、シャーリーと普通に友人として付き合えている、シャーリーを取り巻く異常な環境を特に気にせず受け入れて何の隔たりもなく一緒に暮らしている、という所からなにやらワトソンという女性の得体のしれなさが垣間見えてくるんですね。
それは、彼女のアフガン紛争での戦地での経歴が明らかになった時に、はっきりと突きつけられるのである。
いや、ジョー・ワトソンのアフガン時代のプロフィールがちらっと開示された時の、あのゾッとするような感覚は忘れられない。アフガンでなにやってたんだ、このワトソン女史!? そして、なんで平然とした顔でロンドンに戻ってきてるんだ?
巻末の中編で、シャーリーの姉がワトソンの人となりを危惧して個人的に喚び出して面談したその気持も、その危惧も、ワトソンという女性の中にある異様さを見せられると、わからなくもないんですよね。
そんな姉に呼び出されたワトソンを、めっちゃ心配するシャーリーが可愛いのですが。あの姉のちょっとやべえくらいの変態っぷり、人間として明らかに踏み外している人格を身内としてこれ以上無く思い知っていたら、そりゃ心配だわなあ。ジョー・ワトソンが喰われちゃうッ!(性的に)と焦りまくるシャーリーは十分以上に人間らしくて、可愛かったです。
個人的に、シャーリーって妹属性強いし、ワトソンからも普段からよくお世話されているのを見ると、妹属性強い感じがして、イメージとしてはチンマイ容姿を連想してしまうのですが、実際はワトソンよりも背が高い女性としては長身のスラリとしたスタイルなんですよね(ブラはしなさい)。
イメージはメチャクチャ綺麗だけれどちびっ子、なんだけどなあ。

っと、事件の方はシャーロック・ホームズ最初の事件である「緋色の研究」のシナリオとはだいぶ異なっていると思われる。主要人物が全員女性になっている、という事もあってかもちろん、刑事であるレストレード警部や被害者、犯人も全員女性となっている。てか、レストレード警部、ママさんデカなんですが。シングルマザーで、子供もいる中国系の切れ者刑事で、仕事が忙しい時はなんでか子供をシャーリーとジョーのアパートメントに預けていく、という最初からの親密さ。
まあそれはそれとして、事件の方は殺害方法がわからない、被害者たちの共通点がわからない、という謎の連続殺人事件。そもそも殺人なのか、それも連続殺人なのかすらわからない状況で、にも関わらず連続殺人事件じゃないかと想定して動いていたスコットランドヤードは素直に優秀なんじゃないか、と思う。被害者の全員が女性ということもあるのだけれど、様々な意味で女性的な事件であり真相であったと言える。これ、解決側が男だったらなかなか平静な顔して推理とかしにくかったんじゃないだろうか。
と、本作の注目点はこの連続殺人事件が単発の事件ではなく、最初から某教授が絡んでいた、という所なんですよね。宿命の敵は、既にシャーリー・ホームズと運命の糸によって結ばれているのである。そして、その運命に対して、シャーリーは決して超然としていられない。彼女は真実に怯え、IFに苦悩し、正義を果たすことが正しいのか迷い果てている。
そんな彼女を、ジョー・ワトソンは傍らで見守ることになる。果たしてジョーは、シャーリーの友人で居られるのか。その異様な受容性は、彼女たちを救うのか突き落とすのか。
いずれにしてもこの物語において、ライヘンバッハは既に約束された未来なのだ。

そこに至るまでに起こるだろう様々な物語が、シャーリーとジョーの冒険は想像するだに楽しみなんですけれど、まだ続刊一冊しか出てないんですよね。コロナが収まらないとロンドンを訪れることも難しいでしょうし、首を長くして待ちたいところです。その前にバスカヴィルを読まねばですが。


高殿円・作品感想

厄災の申し子と聖女の迷宮 1 ★★★☆   



【厄災の申し子と聖女の迷宮 1】 ひるのあかり/桜瀬 琥姫  ドラゴンノベルス

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死闘と混沌に満ちた迷宮を攻略する最強冒険者は現地生まれの狩人だった!

神が創りし迷宮のある世界。狩人の少年シュンは、現代日本から召喚された双子の少女ユアとユナと成り行きでパーティを組んで迷宮を攻略することに。銃と剣と魔法で戦うRPGのような迷宮で、シュンの"狩り"が始まる! しかし、それは、異世界からの召喚者、果ては神までもが驚愕を超えて苦笑するほどの超絶廃プレイそのものだった――!?
コミカライズの連載がはじまったのを見たのですが、これが一話からえらい面白い内容だったので、原作の方はどうなのかな、と読んでみた次第。
なぜか、漫画が連載されているのは【B's-LOG COMIC】だったりするのですが。まあ【カドカワBOOKS】などからも漫画化されて連載されてる作品が多い雑誌なのですが、だいたい女性が主人公の作品が多いので、本作みたいに男の子が主人公で、というのは珍しいというのもあったのですが。
そもそも、異世界転生モノでありながら純粋な現地人が主人公という点から結構珍しいと思うんですよね。それも、転生者の若者とパーティーを組む形での。
主人公のシュンは、若いながらも育ての親たちの仕込みで名うての狩人として、そしてソロの冒険者として活動する少年でした。
この世界では、孤児にはダンジョンを探索する義務が課せられていて、シュンもその義務を果たすために故郷から旅立ち、潜ったダンジョンでこの世界の神が行っている悪趣味な遊戯の存在を知ることになる。自分たちもまたその神の遊びの駒であるということも。
そして、異世界……この場合は地球から神が毎年のように集団召喚によって、少年少女たちを呼び寄せ、無理矢理に神がプロデュースしたダンジョンの探索に投入されているということを。
シュンは、そこで召喚された学生たちに混じって、ダンジョン攻略を行うように命じられるのだった、という内容。まあそこまでも細かく紆余曲折あるわけですけどね。

このシュンという少年が歳のわりに達観しているというか、ずっと独りで活動してきたせいか非常に狩人として研ぎ澄まされていて、まさにプロフェッショナルなんですよね。
突然、異世界に転生させられチートを与えられたといっても右も左もわからないところから、いきなり命がけのダンジョン攻略を強いられた学生たちの素人丸出しの姿を比べると、転生モノのテンプレとかスラング、用語、概念から全然知らないものの、冷静さを失わずにじっくり観察を重ねながら黙々と目的を達していくシュンの様子がまた頼もしいのである。
狩人という生業ゆえの我慢強さ、慎重さがそのまま廃人プレイ紛いの行動に繋がっていくのは面白かった。予断を持たないが故に安易に不可能と判断せず、検証と実証を繰り返していくところとか。
また現地人で銃なんて存在自体知らなかったのに、弓や弩の延長にある遠距離武器だと把握するやどんどん使いこなしていくところとか。

そして興味深いのがヒロインとなる双子の姉妹なんですね。双子キャラにも色々あると思うのですけれど、双子といっても個性が正反対だったり見た目は一緒でもキャラや性格は随分違っていたり、とヒロインとして扱われるキャラクターは特に個々の個性を重視した形で描かれることが多いと思うのですけれど、本作のユアとユナはぶっちゃけ全く差別化する様子がないのである。
双子二人セットで描かれると言うと、最近では【クロの戦記】の双子エルフのアリデットとデネブが思い起こされるけれど、二人セットで掛け合いという点でもユアとユナはアリデットとデネブもコンビと良く似てるんだけれど、なんだかんだと姉と妹で性格が違っててちゃんと二人別々にわかるように描写されている双子エルフと違って、こっちの二人は完全に不可分の二人一組で描かれていて、区別する様子が見受けられないんですよね。完全に二人で一人、という様相を呈している。
挙句の果てには、あの合体ですからね。あんなの、個々に自律した意識があったら出来ないことでしょう。生まれる時に無理やり二人に分けられた、という双子の妄想はあながち間違っていないのかもしれない。
いや、こういう自分自身と双子の姉妹との間で自己と他者であるという認識が曖昧になっている、という双子キャラはたまに登場したりしますけれど、それがメインヒロインとなるとちょっとお目にかかったことがない気がする。
とはいえ、二人差別化されていないとはいえ、双子というひとくくりでみるとこれが面白いキャラなんですよね。喋ってる内容はアーパーでお調子者というのは、プロというか職人気質なシュンと案外相性が良くってこの双子がいると雰囲気も自然と明るくなっていますし。
見るからに幼く実年齢からしても同世代と比べてもかなりちんまい双子は、シュンをして庇護欲を湧き立たせるのか面倒見よく扱っていますしね。……まあ過労死寸前になりそうな何日も跨ぐような長時間戦闘を当然のように強いたり、と現地人らしく労働基準法の概念は存在しないので、儲かるし強くなるけれどブラック!という環境なのですがw
とはいえ、双子もクラスメイトたちから見放され、そのままなら衰弱死するか魔物に殺されるかという運命を辿るはずだったところを、シュンに拾って貰って生きる術、戦う術を教えてもらい、一緒にパーティー組んでくれたという恩もあり、最後まで運命を共にする気満々なのですが。

しかし、悪質なのがこのダンジョンを運営して、無理やりプレイヤーを現地や異世界から引き込んで遊んでいる神様である。シュンたちがゲームマスターが本来想定していないクリア方法やモンスター攻略を行った際は、あとで修正してモンスターの強化をしてたりするんですよね。
バグや不具合をなくすのはわかるんですけれど、攻略されたから二度目はないように強化するって単純にGMとしてズルいし卑怯な気がするんですよね。
本気でダンジョンを攻略させる気があるとは思えないムーヴしてるんですよね。とにかく、どんどん脱落者を出すような運営ばっかりしていますし。
でも、シュンの国の偉い人には日本人らしい名前の人もいるらしく、ちゃんとクリアしてダンジョンから出ることの出来た者はいる、という体になっていて、それが新たに召喚された若者たちの希望になっているんだけれど……どこまで本当なのやら。
今の所駒に過ぎないシュンたちは、神様の言われた通りにダンジョンを攻略していくしかないし、シュンからして孤児の義務を果たしてダンジョン攻略を終えてさっさと帰る、くらいしか思っていないようなので、神様への反発とかはないみたいだけれど、さて果たして本当にダンジョンの攻略は可能なのか。
あとがきだと、どんどんとあの少年神の顔色が青くなっていくそうなので、ちょっとザマァ展開も期待できるかも?

刹那の風景 1.68番目の元勇者と獣人の弟子 ★★★☆   



【刹那の風景 1.68番目の元勇者と獣人の弟子】 緑青・薄浅黄/sime  ドラゴンノベルス

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二度目の人生は棄てられ勇者、三度目の人生は獣人のわんこ族と旅に出ます。

68番目の勇者として異世界に召喚されつつも病弱で見放されていた杉本刹那は、23番目の勇者カイルからその命と共に大いなる知識と力を受け継ぎ、勇者の責務からも解放される。三度目の人生にしてようやく自由を得た刹那は、冒険者として生きていくことに。見るもの全てが新しい旅の中で生まれる出会いと別れ、それが彼とそしてこの世界を変えていく。

不知の病で若くして死んで、異世界に転生させられたと思ったらそこでも同じ病気で動けず、ってどんな地獄なんだ。
絶望のダブルバインドですべてを諦めてしまった刹那の前に現れたのは、23番目の勇者だというカイル。かつて、同じように勇者から力と知識を受け継ぎ悠久の時を生きてきたカイルは、二人分の勇者の力と長く生きた知識と経験を刹那に託してこの世界から消失する。
一時間にも満たない僅かな邂逅でありながら、まるで生来の親友のように或いは兄弟のように打ち解けたカイルと刹那。それでいながら、同じ時を生きることが出来ず、託すという形でカイルは刹那に未来を与えて去っていった。
まさに、一期一会の邂逅だったのだ。
世界を旅したい、生まれてこの方病室に閉じ込められつづけた刹那が抱いた願いは、こうして異なる世界で叶えられることになった。でもそれは、一所に留まること無く流離い続ける旅から旅への人生が約束された、ということでもあるんですよね。
実際、最初に冒険者ギルドに登録して居を構えた街では、良き出会いに恵まれ続ける。ギルド長には随分と親切にされて良く面倒を見てもらったし、宿では女将(?)に我が子のように慈しんでもらった。そして、まだ冒険者として右も左もわからない刹那に、臨時パーティを組んだベテラン冒険者は冒険者としての様々な心得や心構え、ノウハウを教授してくれて、先々の心配までしてくれた上で刹那を一廉の男として見込んでくれた。
それでも、刹那は居心地のよかったこの街を、旅立っていく。それはこの国ではひどい扱いを受ける獣人の子アルトを拾い弟子にした事がきっかけだったかもしれないけれど、アルトと出会っていなくても早晩旅立っていたのは、ベテラン冒険者のアギトの誘いを丁寧に断っていたことからも明らかだろう。
刹那の風景というタイトルは、主人公である刹那のいる風景というだけではなく、彼の一所に留まらない人生の常に移り変わる景色を表してのことなのかもしれない。
悠久の時を生きることになる青年の人生の旅路を、刹那の風景と名付けるのもまたどこか詩的じゃないですか。

この物語は、主人公刹那の人生の旅路を描いたお話だ。きっと、長い長い話になるのだろう。人と違う時間を生きることになった刹那は、本質的に人の集まりの中に留まることが出来なくなった存在だ。彼の人生は、一つの場所で送られることはない。でもだからなのだろうか、彼の物語はどこか人との出会いに比重が傾けられているように見える。
上記したように、彼の旅立ちは最初からかけがえのない出会いに恵まれ、そして別れを内包していた。長く付き合うことも出来ただろうギルド長やアギトさんと言った人たちとも、惜しみながらも手を振って別れを選んだ。これからもきっと、刹那の旅には出会いと別れが寄り添い続けるのだろう。
そんな中、奴隷商人に虐げられていた獣人の子供を刹那は引き取ることになる。アルトという名の獣人の子は刹那に懐き、この子は弟子という形で刹那の旅に連れ添う。
最初、もしかして実は女の子の可能性も、とボロボロの風体や栄養不良からの成長不足から性別がわかりにくくなっていたものだから、ちょっと期待したんですけれど、一緒にお風呂に入って丸洗いする、という誤解しようのない入念な確認作業が介在してしまったために、性別誤認という可能性はきっぱりとなくなってしまった。
とはいえ、男の子だろうと女の子だろうとアルトの可愛さはかわらない。なんかもう、健気で一生懸命慕ってくる幼い子供の可愛らしさはなんなんでしょうね。無条件で庇護欲が湧いてくる愛おしさに、ギューッと抱きしめてあげたくなる。きっと、そうすれば向こうも嬉しそうに抱きついてきてくれるだろうから。
でも、刹那はアルトを目一杯可愛がりながら、最初からいつか大きくなって自分の手元から巣立っていく日の事を考えているんですよね。アルトが一人前になり、師匠の自分が心配する必要がないくらい自立して、旅立っていく日のことを思い描いている。それを、とても嬉しいことだと考えながら。
それは、刹那にとっては寂しくても哀しくはない、良き別れ、なのでしょう。今は、懸命に離れまいと抱きつき手を握ってくる幼子を優しく包み込みながら。
刹那のこの穏やかで優しく、しかしどこか遠い精神性がこの作品の空気感を形作っているような気がします。
果たして、刹那が一人の弟子を連れながら歩く世界が、次に見せてくれる風景はどんなものなのか。
どこか切ないような、落ち着くような、穏やかな気持ちにさせてくれる作品でした。


となりの彼女と夜ふかしごはん ~腹ペコJDとお疲れサラリーマンの半同棲生活~ ★★★☆  



【となりの彼女と夜ふかしごはん ~腹ペコJDとお疲れサラリーマンの半同棲生活~】  猿渡 かざみ/クロがねや 電撃文庫

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となりの彼女が「おかえりなさい」と「いただきます」を言ってくれる生活。

大手スーパーの文具部門で新任マネージャーとなった俺・筆塚ヒロトは、仕事漬けの毎日にすっかり憔悴しきっていた。そんな俺の唯一の楽しみは、深夜帰宅後につまみを作って酒を飲むことだけだった、んだけど……いつの間にか、隣に住む腹ペコ女子・朝日さんと賑やかな半同棲生活をすることになってました。

「し、深夜に揚げ物は犯罪なんですよ!」
「今夜こそ誘惑に負けませんからね…!」
「こんなに美味しいなんて優勝ですぅ…」

優勝――それは大切な人と美味い料理で食卓を囲う瞬間のことを言う、らしい。
腹ペコ女子があなたの暮らしを彩る深夜の食卓ラブコメ、召し上がれ!

いやこれ、腹ペコJDと深夜ご飯食べるのがメインじゃなくて、職場の総合スーパーで働く模様を描く方がメインのお仕事モノじゃないですか。
てっきり、仕事で疲れ切って帰ってきたところを、JDとイチャイチャしながらご飯食べて癒やされる日常ものというスタイルかとタイトルや粗筋から想像していたのですが、思っていたよりもかなりガッツリお仕事モノでした。
突然前の部署から慣れない文具部門のマネージャーをやらされて、売上も現場管理も部下との関係も何事も上手くいかず疲弊しきった主人公ヒロト。そんな彼が疲れ切って自宅のマンションに帰ってきた時、隣室のJDが居酒屋で鍵をなくして困っていて、縁あって彼女を部屋に入れて深夜ご飯を振る舞うことに。
そこで実に美味しそうにご飯を食べ、缶ビールを飲む朝日さんと愚痴を言い合うなかで、ヒロトは朝日さんに職場での部下への姿勢にお叱りを受けてしまうのです。
不本意だった部署の移動に余裕を失った事と不満から内向きになったことで、部下とちゃんと向き合わず現場を把握せずいい加減な仕事をしていた事に気付かされたヒロトは、心入れ替え今の部署のマネージャーとしてやるべき事をやり、部下ともちゃんとコミュニケーションを取って、おかしくなっていた現場を立て直し始める。
まあ言ってしまえばこういうことか。だいたい誰が悪いかというと、文具部門がおかしくなったのはヒロト自身の問題だし、彼のモチベーション管理を全くせずに放り出した人事部門の問題だし、しわ寄せは全部現場に来ていました、というのは仕事あるあるだよなあ。
実際、ヒロトはほぼ現場の人間の信頼を失っていたので、いきなりあんな新しい事をはじめようとしても、知らん顔されても不思議なかっただろうに、よくまあ助けてもらえたものである。パートの人たち、聖人だろう、これ。
まあ破綻状態にあった現場の環境が改善される、となったら協力するのもやぶさかじゃないのかもしれないですけど、いきなり一人でやろうとされてもねえ、というところもあるし。今まで現場出てこなかったのに、いきなり顔出すようになって特に話通さず相談もなく勝手にあれこれ動かされだしたら、相手が偉い人でもなんやねん、と思っちゃうんじゃないでしょうか。
去年の売上の百%超えも、前年がよっぽど低かったんじゃない?と意地悪なことを考えてしまう。
正直、心改めたからってそれからの彼のやり方はうまいもんじゃなかったと思います。本当にパートの皆様のお陰サマサマじゃないでしょうか。

さてJDの朝日さんとのお話の方ですけれど、女子大生っつっても高校卒業したばかりで右も左もわからない上京したての初々しい女の子、というわけじゃなく。そんな娘を餌付けしてご飯食べさせて癒やされる話、というふうではなく、朝日さんもう二十歳になってるんですねえ。なったばかり見たいではあるんだけれど、酒が飲める年齢である。
というわけで、夜食作って一緒にご飯食べて一緒にパカパカとビールの缶開けながらゲームしたり愚痴言い合ったりと二人して管を巻く、これ普通に宅飲みじゃないですか?
合コンの居酒屋で鍵なくして、部屋に入れなくて困っていた朝日さん。なんかぐだぐだな理由でヒロトの部屋に入り浸り、というほど図々しくはなく、むしろ申し訳無さそうに家事手伝ったり、と決して居心地良さそうにしているわけではなかったので、あんまり半同棲とかそういう雰囲気ではなかったですね。後半、住居侵入トラブルがあったあとは別の人の部屋に避難してしまったから、結局ヒロトの部屋にいたのは3日程度でしたし。
ただ、変に半同棲なんて言わず、夜中に宅飲みしてぐだぐだになって、ついつい二人して寝落ちして朝になってた、という実際の状況の方がよくある話である分生々しくて二人の間の雰囲気としては良かったんじゃないでしょうか。意図せず同じ部屋で寝ちまった、というのが何度か続いた方が意識してしまう所も大きいでしょうし。
それに、朝日さん、なんか最初こそ頼りなかったものの、よりどころ無くフラフラしてる女子大生じゃなくて、学生ながらしっかりと稼ぎを持ち、それ以上に自分の生き方をしっかりと見定めている大人の女性だったんですよね。むしろ、今現在迷走して鬱屈を溜め込んでしまっていたヒロトよりも、ここぞというとき大人びていたかもしれない。だからこそ、ヒロトは彼女の芯ある言葉に影響を受け、自分を見つめ直すことになったのですから。
とはいえ、彼女の方も自分の生き方を定めていたとはいえ、周りからそれを叩かれ否定されることも少なくなく、彼女の方もまたヒロトに負けず劣らず精神的に疲弊していた部分は少なくなかったのでしょう。
彼が困り果てていた自分を助けてくれたこと、そりゃもう美味しい夜食を振る舞ってくれて、お酒かぱかぱ煽る余裕をくれたこと、色々と吐き出させてくれたことは、間違いなく救いであり、張り詰めていたものへの癒やしだったのでしょう。他でもない彼に、自分の書いた2冊の本についての講評を求めたのは、彼が抱えていた仕事の苦しみの中に自分が耐えているものと共通したものを見出したから、だからこそこの人の意見を聞きたかった、というのもあるのでしょうけれど。
優しくしてくれた彼にこそ、自分の選択を認めてほしかった、という風に見えたのはラブコメフィルターの働きですかね。

あと、最後のは間違いなく犯罪なので、ちゃんと警察に通報しましょう。勝手に取引のネタにするの、余計に拗れると思うし、朝日さんの身の危険に直接関わるだけに、拙いんじゃないかなあ。



聖女様は残業手当をご所望です ~王子はいらん、金をくれ~ ★★★☆   



【聖女様は残業手当をご所望です ~王子はいらん、金をくれ~】 山崎 響/伊吹 のつ エンターブレイン

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教皇・王子・ギャングにお嬢様。みんなまとめて叩きのめします!
儚げな美貌と強大な聖魔法を持つ心優しき聖女ココ・スパイス……というのはあくまで表の顔。素顔の聖女様は引退後を睨んでちまちま貯金に励む超しっかり者だった。それもそのはず、ココはもともとはストリート・チルドレン。「他人をあてにせず、自分の力で食って行く」その矜持は聖女になった今でも変わらない。教皇の威光? 王子様からのラブコール? ギャングの魔の手? どんな相手だろうが、気に喰わなければありとあらゆる手段で叩きます!

「ジジイ、毎年毎年一時金でごまかしやがって! いつまでも日給銅貨八枚でこんな仕事をやっていられるか!? 今年こそベースアップを要求する!」
「いい加減信仰心を身に着けんか聖女! 日給月給の聖職者なんておぬしだけじゃ!」

教皇だろうが王子だろうが遠慮なし! いつだって自分を忘れない、規格外聖女ココちゃんのドタバタ日常コメディ登場!

日給銅貨8枚って、完全にブラックですよね!? と、作中で描かれた貨幣価値からしてもこれ日給じゃなくて時給換算じゃないの? という薄給ですからね。
むしろ、聖女様の春闘って正当行為じゃないの? と思う所なのだけれど、これ教皇の爺さんの悪意とかじゃなくて、ちゃんとした教会の事情があるらしい。
なんだかんだと、この僅かな小遣いの金額で受け入れているあたり、ココって別に金にがめついとかじゃないんですよね。本当の守銭奴だったら、ココのあのイイ性格と才覚なら金の集めようなんて幾らでもありそうですし。傍若無人で頭の回転が早く、多分聖女として召し上げられずそのまま路上ぐらししていても、路地裏の顔役の一人にでも成り上がってたんじゃないか、というアグレッシブさからしても、教会の運営にいっちょかみして集金システム作り上げても不思議じゃない悪党の素質はありそうなんですよね。
それが、与えられた小遣いだけをコツコツと貯めて、18歳での聖女という役割の年季明けに備えているあたり、あんまり無茶無道はする気ないんだなあ、と。
あれだけ自由に振る舞って、教皇はじめとした教会の偉いさんたち相手にも権威をもろともせず言いたいこと言って行儀作法なんざ知ったこっちゃねえとばかりにふんぞり返っているけれど、別に教会に対して反逆してるって訳じゃないんですよね。むしろ、明日をもしれないストリートチルドレンという身の上から、衣食住ちゃんと面倒見てくれる聖女という立場に拾い上げてくれた教会にはちゃんと感謝してるっぽいんだなあ、これが。
なので、聖女という役割も放り出すことなく、本性表すのは限られた身内の前だけで外ではキッチリ猫かぶって立派な聖女として振る舞っていますし、あれで教会への帰属意識はちゃんとあって客観的に見るとかなりちゃんと聖女やってるんだよなあ。
まあ、それも12年聖女やったら引退できる、という年季明けの制度があるから、拾ってもらった恩返しもそれで返し終えて、あとは自由! 娑婆への脱出! と目論んでいるようですが。
その普段からの大暴れっぷりから、魔王のように畏れられているココですけれど、教皇様はじめとして叱り怒りながらも、わりとみんなそんなココに順応してるというか、ある意味慣れちゃってるのが面白いw
もちろん、その低い出自もあって蛇蝎のように嫌っている層もあるんでしょうけれど。ココは喧嘩売られたら百倍返しが基本みたいな所がありますからね。変なちょっかい掛けて痛い目見た連中は多いんじゃないでしょか。作中でもモノ知らずの新人貴族娘に絡まれて、逆に徹底的に泣かす! をやらかしていますし。完全に周囲の反応が、触らぬ神に祟りなしのヤバイ奴に喧嘩売りやがったぞあの娘、でしたからね。むしろ周りがココにしばかれる娘相手に「ざまぁ」だったの、色んな意味でココに毒されてやしないでしょうかw
わずか6歳のときまで路上で逞しく生きてきたココ。そこから聖女として召し上げられ、今14歳。ということは、既に路上生活していた時期よりも聖女として生活してきた日々の方が長くなっているにも関わらず、覚えた行儀作法や淑女教育は身につかず……いや、猫かぶってる時の様子を見るとほぼ完璧に身についているはずなのに、それがあくまで外面にしかなっていないの。三つ子の魂百まで、というべきか、登場人物みんなが思っているように、生まれ育ちゆえにあの性格根性になったんじゃなくて、あれ生来の性格だろう!? というのは間違ってないんでしょうね。
一方で、その幼児時代の親に捨てられ地べた這いずって生きていたストリートチルドレンの頃の辛さ、世間の冷たさ、底辺の生活の酷さはココの中で今も忘れられることなく息づいていて、ふとした瞬間、含蓄ある言葉が飛び出したりするんですよね。
一時、教会を飛び出したときもあっさり下町生活に馴染んでいましたし、彼女の魂は今も路地裏にあるのかもしれません。
だから、聖女の年季明けたら下町で暮らす気満々なんですよね。この国の王太子セシルとの結婚話があるにも関わらず。
このセシル王子も、ココの本性をがっつり知っている人物にも関わらず、むしろそのイイ性格なココを面白がって嫌がる猫を構うみたいにして毎度からかってくるココの天敵なのですが……。
いや、ココ様ってばけっこう満更じゃないじゃないですかw
あれだけ毛嫌いして面と向かって罵倒して追い払おうとしながら、実は全然嫌いじゃないどころか、あのイイ性格なところ気にいっていて、満更じゃないって可愛いか!
本気で王子と結婚する気はないものの、王子が自分に構ってくるのは聖女と結婚するという政略とココの本性を面白がっているだけで、女性としては見られていないんだと期待しないようにしているとか、可愛いか! 王子関連が唯一、ココの可愛い面が見られる所っぽいんですよねえ。
まあ、マジで王妃になるの嫌がってるんですが。聖女と違って年季明けはありませんし、一生自由が束縛されてしまうわけですから。
果たして、王子は甲斐性見せれるんですかね、これ。王子も軽薄に見えてちょっと踏み込むのビビってるところあるみたいですし。王子とのラブコメももうちょっと見てみたいですよ♪

田中家、転生する。 ★★★☆   



【田中家、転生する。】 猪口/kaworu ドラゴンノベルス

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家族いっしょに異世界転生。平凡一家の異世界無双が始まる!?

平凡を愛する田中家はある日地震で全滅。
異世界の貴族一家に転生していた。
飼い猫達も巨大モフモフになって転生し一家勢揃い !
ただし領地は端の辺境。魔物は出るし王族とのお茶会もあるし大変な世界だけど、猫達との日々を守るために一家は奮闘 !
のんびりだけど確かに周囲を変えていき、日々はどんどん楽しくなって――。
一家無双の転生譚、始まります !

一家丸ごと異世界転生! いやこれはなるほど。異世界転生モノでまず最初に気になってしまうのはやっぱり元の世界に残された家族の事なんですよね。特にまだ十代の若者、それも一人っ子なんかが事故やらで死んでしまったら、残された家族のそれからの事を思うと胸が痛いものがありました。
それを思うと、一家丸ごとで転生してしまうというのは、元の世界への心残りが一つ解消されるパターンなんですなあ。まあ冷静に考えると、元の世界では一家丸ごと全滅しているわけですから、悲惨極まりない話では在るんですけれど。
まあ、転生することになった田中家の人たちは楽天的と言うか根っから明るく呑気な性格なのであまり引きずることはないようですけれど。
ある日突然、前世の記憶を一家みんなが思い出す、という展開はまあ生まれた時から記憶があるとこの場合混乱してしまいますので、自然な成り行きというべきなのでしょうか。
でもこれ、ある意味パパさんとママさん、生まれ変わっても結ばれていたということなのですから、何気にロマンチックなシチュエーションなんじゃないですか?
あと、特徴的なのが猫である。猫でかいな!!  完全に猫という名の巨大生物じゃないですか。これだけデカイ猫ってもはや虎なんじゃないですか? 猫科がデカイとそれもう猛獣ですよ? じゃれつかれると普通に死にそうなんですけど。
幸い、この猫たちは元の世界に居ることから半ば妖怪みたいな存在で非常に知性的であり、田中家の人々を慈しんでいたので、ちょっと機嫌が悪くなると猫パンチ、などという危険もなさそうなのですが。
でもこういう人間よりも巨大な質量を備えてしまうと、不思議と猫というよりも犬的な挙動に見えてしまうんですよね。犬みたいな忠実な振る舞いとはもちろん違うのですけれど、自由気ままで自分たちこそが一番偉くて人間たちは下僕!という風な振る舞いを見せる猫らしいところが目立たず、自分よりも小さな存在を護るように気を配って動くようすなんか、大型犬っぽく見えるんだよなあ。

とまあ、記憶が戻ったことで皆の無事(?)を喜ぶ田中家の人々。呑気だ。
でも、本人たちのこののんびりした善良温厚な気質とは裏腹に、田中家が転生したスチュワート伯爵家は、魔物が侵攻してくる辺境を任された貴族であり、これが想像以上に過酷な土地なんですよね。
実際、周りの辺境領は統治する貴族家が軒並み破綻していて、スチュワート伯爵家も長女のエマが偶々開発に成功した高級絹と、商材を的確に稼ぎに変換してくれるお抱え商人がいなけりゃ、一家総出で内職してても早晩財政破綻していたくらいですしね。
それに、魔物の恐ろしさがゲームのモンスターのようなちゃちなものと違って、まさに存在そのものが厄災級。突然、湧いて出てくるところといい、強さの基準がまともに人間の手に負えるものじゃないところといい、魔物の侵入が「ハザード」と呼ばれるのに相応しい脅威であり、それと真正面から向き合っているのが辺境地域なんですよね。
スライム戦でここまで絶望的でエグいことになる戦いは、早々見たことなかったですわ。場合によっては生きたまま喰われるの前提で生き残りの選別をしなければならない、ってそれまでのんびりコメディやってたのが嘘のような緊迫感と絶望感で、そのギャップが凄かった。普段あれだけ呑気にすごしているのに、いざという時あれだけの覚悟を備えていたわけだ、スチュワート伯爵家の人々は。

彼らと知り合い、それまで宮廷政治の陰湿さから精神の均衡を崩し家族間の仲も壊れかけていた王妃とその子供たちは、スチュワート家の人々の明るさと善良さ、その純朴さに心救われることになるのですけれど、それだけではない辺境に暮らす者たちの覚悟と、彼らの置かれた過酷で理不尽な状況を目の当たりにすることで、国内の政治的な不均衡と向き合うことになっていくのか。
ちなみに、スチュワート家こと田中家の人々は腹芸とか全然できないので、政治的にはまったくアレなのですが、彼らの場合はそのアレさがまた武器となっていくんだろうな、これ。
次からは辺境から王都に一家乗り込んでの大騒動になるようなので、彼らの動向によって何がどうシッチャカメッチャカになるのか、楽しみです。
しかし、長男と次男と結婚してくれそうな相手、出てくるんだろうかw

主人公じゃない! 01 ★★★☆   



【主人公じゃない! 01】  ウスバー/天野 英  エンターブレイン

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「ただのサブキャラ」がゲーム知識で世界を塗り変える!

女の子をかばって車に轢かれ、「俺」はRPG世界の「レクス」に転生していた。
あらゆる分野の技能を備えたイケメン・レクスだが彼は序盤のお助けキャラ。
低過ぎる成長率、残念過ぎる固有技、器用貧乏過ぎるステータスでレクスが無双出来るのは最初だけ。
あっという間に役立たずになってしまう危険性を前に俺は決意した。

「世界を救う」ことも「魔物との命懸けの戦い」もゲームの主人公様に任せて、のんびりしよう!

これは「主人公」を探す凡人が、なんだかんだで世界を救う英雄になってしまう物語

ゲーム序盤の最強キャラが、中盤以降なんだか使えなくなってきてお役御免、後方待機、予備役入してしまうのはゲームあるあるだよなあ。
というわけで、RPGのそんな序盤のお助けキャラへと転生してしまった主人公。いや、主人公じゃないのか。タイトルがタイトルなので主人公という言葉使いづらいな、これ。
というわけでゲームの主人公じゃないけれど、この物語この作品の主人公はこの序盤最強キャラのレクスである。最強キャラなんだけれど、無双できるのは序盤だけ、というだけあって兎に角ステータスを中心にショボい要素が満載で、あんまり最強キャラという感じがしないのは上手いなあ、と思うところ。実際、序盤の負けイベントでレクスではどうやっても太刀打ちできないような敵キャラもどんどん出てくるので、むしろレクスの低すぎるポテンシャルでどうやって不可能を可能にするか、という雑魚キャラ縛りプレイ的な展開の方が多くて、これがまた面白い。
それにしても、レクスの成長率はすでに終わってる状態だし、そもそもの初期の素質が周りの特別ではない冒険者たちと比べても貧相を通り越して酷いの一言で、周りの有望さと自分の悲惨さを比較してしまってのたうちまわるレクスさん、可哀想だけど面白すぎるw

これは、自分を主人公だなんて、間違っても勘違いできないよなあ。

でも、実体がどうあれ内実がどうあれ、レクスという人間の内面がどうあれ、彼の姿は周りの、特に冒険をはじめたばかりの少年少女を中心とした冒険者パーティーの面々からしたら、レクスこそが勇者であり主人公なんですよね。

自分は主人公なんかじゃない。

それを、主だった登場人物みんなが痛感して、自分は特別ではない事を噛み締めている。でもそれで挫折して膝を折ってしまうのではなく、レクスも、そしてラッドたち若き冒険者たちも諦めること無く自分が主人公になれない世界でも強くなる事を目指す。それを彼らに促したのが、それぞれお互いなんですよね。
ラッドたちは、レクスという世界のシステムを覆す可能性を見せてくれる憧れの冒険者の姿に心を滾らせ。
レクスたちは、ラッドたち初心者がひたむきに頑張り、自分の訳のわからないだろう指導についてきてくれる一途さに魂を震わせられて。
自分は主人公じゃない、という絶望を乗り越えるのである。いやあ、面白い。

レクスは現状ではレベル50という序盤の街では突出したレベルの持ち主なんだけれど、実は同じレベル50まで成長する他のキャラと比べたらステータス的にはせいぜいレベル30相当。そして、ここからも殆ど成長の余地がない。
現状で既にイベントボスだけれど、レクスではマトモに戦っても勝てないような敵が出てくる状況なので、ここで行き詰まっている、と言ってもいい。
ならばレクスが武器にすべきなのは、この世界の常識にはない外から来たゲームプレイヤーの持つ埒外のゲーム知識。ゲームシナリオの方はかなりぐちゃぐちゃになって早々に役に立たなくなりつつあるので、彼が活用しようというのはプレイヤービルドの知識だ。この世界の人間が経験則や曖昧な勘で行っていて効率的とは程遠い、場合によっては成長が行き詰まってしまうレベルの上げ方をしている中で、最適にして最強のビルドを素質の優れたラッドたち初心者パーティーに叩き込んで、彼らを世界最強のパーティーへと育てていく、という目標。
これ、ゲーム知識をふんだんに利用したものではあるのだけれど、意外とその訓練模様はゲームゲームしたものじゃなくて、スポーツ選手に施すような成長戦略っぽいんですよね。
スポーツ医学やスポーツ人間工学なんかが発展した現代では、必要な部分だけ伸ばすための練習法、みたいなものがあるけれど、満遍なくすべてを鍛えるのではなくそれぞれ個人の特性に合わせた、ジョブに合わせた最適なビルドを組んでいく、というのはむしろ生々しい生きた訓練法という感じがして、このへんの描写は面白いなあと思うと同時にそんな風に感じさせる所が上手いなあ、と思うところでした。
ラッドくんの、レクスへの捻くれた憧れがまたイイんですよね。可愛い。
顔を突き合わせているときはおっさん呼ばわりで突っかかってばかりなのに、陰では師匠とか読んでるの生意気なのに健気で可愛すぎやしないですか?w
本来のシナリオでは死んでしまうはずのレクスの妹の、レシリア。この娘だけが唯一、レクスの中身が実の兄とは別人と知っている、ある意味レクスの相棒キャラなのですがこの娘はブラコンを拗らせているのか、それともレクスの中の人に対して拗らせているのか。なんかややこしいことになってるなあ。レクスの肉体の方は実の兄のもの、というのもややこしいのを加速させている気がするぞw


「私と一緒に住むってどうかな?」 1.見た目ギャルな不器用美少女が俺と二人で暮らしたがる ★★★☆   



【「私と一緒に住むってどうかな?」 1.見た目ギャルな不器用美少女が俺と二人で暮らしたがる】  水口敬文/ろうか HJ文庫

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放課後はふたりで同棲・・・・・・のための家づくり!?

手先が器用な男子高校生・高村劉生と、料理だけ上手な不器用美少女・伏見扇奈は親友同士。家に帰りたくない事情のある二人は、古民家をリフォームし、放課後の居場所にしようと動き出す。
すると、「二人きりなら思う存分イチャイチャしまくれる! 」と気付いた扇奈が劉生に猛アピールを開始!!
一緒に食卓を囲んだり膝枕したりと、友達から同棲カップルのような雰囲気に……!?
いつも一緒なのにじれったい、傍目バカップルな二人が繰り広げるイチャイチャDIYラブコメディ!!

これ、タイトルだけ見たら最近流行りの同居モノかと思ったら、まず同居するための家をボロボロの空き家状態からDIYして直しましょう! というお話だったのか。そもそも、主人公別に同居するつもりとかさっぱりないし!

幼馴染同士の扇奈と劉生、二人にとって思い出ある扇奈の祖父が生前に暮らしていた家が、長く空き家になっていたため今度取り壊されることになったと聞いた二人は、この家を暮らせる状態まで直して取り壊すという判断を撤回して貰おうと考える。
とはいえ、家をまるまる一件リフォームするのを高校生二人でどうにかするのは流石に難しいと思うのだけれど、流石にいきなり職人顔負けのスゴ技、とかは使うこと無く、二人は高校生が出来る範疇であれこれとボロボロになった畳や障子、壁紙や庭などに手を入れていく事になる。
意外と堅実だ。
まあ技術だけじゃなく、家をリフォームするとなると材料費も馬鹿になりませんからね。工具の類もあまり持っていないみたいですし。実際、作業の大半が庭の雑草抜きだったりして、扇奈が早々に根をあげたりも。地道に雑草抜き続ける劉生、飽きて放り投げないところとか結構偉いよなあ。
電気水道ガスとインフラも止まっている中なので不自由も多いのですが、それでも弁当を持ち込んだり、井戸から水を汲み上げて上手く工夫してお湯を沸かしてお風呂に入ったり、バラしてあった耐火レンガを使って竈を作りキャンプみたいに料理作ったり、とこれはこれで本格的な秘密基地作りみたいなノリで、二人きりの時間を楽しむ劉生と扇奈。
さても周りからはバカップル呼ばわりされ、実際傍から見るといちゃついているようにしか見えない二人ですが、現状付き合う様子は皆無なんですよね。
扇奈の方はもう劉生しか目に入っておらず、必死にアプローチしているのですが。
この娘、なんでか友達もおらずぼっちなんですよ。これだけコミュ力あったら昔なにかやらかしてても高校生にあがったところで変わってくると思うのですが、劉生にべったりひっついていることもあってか他に友達一切おらず。劉生の方はそれなりに友人がいるのにね。
そもそも、扇奈が孤立してしまったのは周りよりも早く二次性徴を迎えて、突出して一人だけ成長して大人っぽい女の子の身体になってしまったために、男の同級生たちからは酷い色眼鏡で見られ、同性の女の子たちからもハブられ、本人もかなり心傷ついた状態で孤立してしまったんですね。
そんな彼女を、変に女扱いせずに友達として接し続けた劉生だけが、傍で扇奈の親友で居続けたわけだ。これ、劉生自身けっこう意識して女扱いしてなかったみたいなんですよね。そのせいで扇奈が孤立してしまい、彼女が自分の女らしさを強く気にしてしまっていた事も気が付き理解していたため、彼女が嫌がることを避けながら扇奈の傍らに居続けたという気遣いの男なのである。
惜しむべきは、思春期を迎え高校生になっても、その当時の意識のまま扇奈に接してしまっている事なのでしょう。これまでの経緯から、劉生の優しさや気遣いに惚れ抜いた扇奈はそのまま異性として彼の事を好きになり、だからこそ自分が女性である事を受け入れて、むしろ女の子らしさや色気を武器にして劉生にアプローチしまくるようになっている。
のだけれど、劉生は扇奈を女の子扱いするのは彼女を傷つけることだと思いこんでいるので、扇奈の必死のアプローチを徹底して無視してスルーしてるんですね。
単純な主人公の鈍感、というわけじゃなく、ある種の気遣いの結果、というのがまた残念な現状維持に落ち着いてしまっているわけだ。大切にしているからこそ、気をつけて適切な距離を保っている。保ってて、あのイチャつきっぷり、という時点で劉生の距離感の方もだいぶ狂ってはいるんでしょうけれど、それでも肝心の所ではどうしても距離が詰まらず扇奈は空回りしつづけるのである。
いやもうそれ、はっきり告白したらいいんじゃない? と、思う所なのですけれど、それが出来ないのが彼女の不器用極まるところ、なのでしょう。

登場人物それぞれが、親に対して不満や不平、距離の隔たりを感じているのですが、さてそれがただの反抗期なのか、親にも問題があるのか。
まあ問題があるのは確かなのですが、子どもたちが思っているほど親の側に愛情がない、という訳でもないようで。少なくとも扇奈の親子関係の方は親と娘両方の不器用さが拗れてしまっている、というくらいなのでしょう。劉生はちょっと父親のダメさ加減が子供側からの視点ではかなりあかん所なのですが、これ父と母の夫婦間ではまた違う了解があるのかもしれないので、なんとも言えず。
ただ寺町奏の方はこれ両親に完全に失望してしまっているので、ここが一番修復無理っぽいのかなあ。
ともあれ、扇奈のパパさんは頑固で融通きかなさそうだけどちゃんと娘を心配してるし、条件付きとはいえ家のリフォームも許してくれたので、理解ある親の範疇なのでしょう。どうせ、高校生二人でちゃんとしたリフォームなんて無理に決まってる、という判断はわりとまっとうにも思えるし。
ただ、この残念な娘さんに対して劉生はかなり得難い理解者なだけに、邪魔するのではなくむしろ積極的に娘を応援して貰ってもらう方針に変換した方がいいと思うんだがなあ。
父親の方も、あれこれ娘空回りしてないか?と気づいた節もあるので、娘のポンコツ具合を承知すれば劉生みたいな物件は逃がす手はないと思うのだけれど。

しかし、このタイトルとなってる台詞の使い所は面白かった。散々引っ張っといてそこでタイトル持ってくるかー。そして、タイトルにするぐらい密かに気合入った台詞にも関わらず、劉生の塩な対応である。……どんまい。


水口敬文・作品感想

ウィッチ・ハンド・クラフト ~追放された王女ですが雑貨屋さん始めました~ 1 ★★★☆   



【ウィッチ・ハンド・クラフト ~追放された王女ですが雑貨屋さん始めました~ 1】  富士 伸太/珠梨 やすゆき MFブックス

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追放された元王女は、異世界の魔導書でチートな雑貨屋さんはじめます!?

王家において最も重要とされる攻撃魔法の威力が弱いため、辺境の屋敷へ追放されてしまった心優しい元王女ジル。
そんな彼女が絶望の中で見つけた異世界の魔導書は、膨大なモノづくり知識であふれており、あっという間に彼女を虜にした。
さらにジルが趣味として始めた服飾づくりは、彼女の繊細な魔法と相性抜群で、誰にも真似できない職人技が発揮される!
彼女が作り出すオシャレな麦わら帽子や、ローブをリメイクしたワンピースなど、今までになかった作品の数々は、町の人々を魅了していく。
「自分の作った服や小物を店で並べて、みんなに手に取ってもらいたい!」
雑貨店を開くことを夢見て奮闘するジルの姿に、いつしか共感した人々が次々と押し寄せてきて――!?
服作りで人々を笑顔にするジルの楽しいセカンドライフ物語、ここにはじまります!!

異世界の魔導書ってKindleですかそれ!? まんま電子書籍、ではなく現代から遥か未来の銀河系全体に文明を広げていた時代のツールらしく、AlexaみたいなAI付き。いやでも、銀河系時代のAIの癖に喋る内容が今と大して変わらないんじゃないの? こう融通が利かない感じの決まりきった文言を差し込んでくるあたりとか、思いっきりそれらしい。ジルも一々対応せずにスルーかぶった切って指示飛ばすあたり、即でAlexa対応慣れちゃってるなあ、現地文明人にも関わらずw
しかし無料で読めるアーカイブが666冊ってのは多いようで凄く少ない気がするんですけど、友禅染めの本とかかなり専門性の高い書籍なんかもあるようで、これだとすぐに読み切ってしまいそうだなあ。

先日【バズれアリス】という作品を読みまして、これが非常に面白かった。なので、これを書いた作者さんの他の話も読んでみたいなあ、と思って調べてみたら【人間不信の冒険者達が世界を救うようです】の作者さんだったんですね。これ、小説の方は読んでいないのですけれど、コミカライズされていてそちらの漫画の方をチラチラと読んだことがあったわけです。
で、他にもこの【ウィッチ・ハンド・クラフト】が最近新たにシリーズとして出ていたために手にとってみた次第。
【バズれアリス】でも思ったのですけれど、この作者さん、雄大な風景描写の中に登場人物を落とし込んで、凄く印象的なワンシーンに切り取ってみせるの、凄く上手いんですよね。
王家から追放され、絶望のまま一人旅をしていたジルが旅の絵師であるイオニアと出会い、いっときの間共連れに旅をした際。彼女は王族の証でもある特徴的な目立つ髪を指摘されて、無造作に自分の長い髪を断ち切ってしまうのですけれど、そこでイオニアが改めて髪を切りそろえて整えてくれるのです。
それは未だ王族としての戒めに囚われていたジルの意識をどこか解放してくれる行為であり、肩口で揃えられた短い髪型は威厳ある王族から、等身大の少女に彼女を戻してくれるジルにとっての最初の転機でもありました。
その髪を整えるシーンが、また印象的なんですよ。
誰も通らない街道のど真ん中。雲ひとつない青い空の下で、折りたたみの椅子に座らされて白い布を被った少女の背後に立った一人の男が、器用に髪にハサミを入れ、櫛と微風の魔法で梳いていく。
ある少女が生まれ変わるワンシーン。
こういうシーンがあると、なんだかグッと物語の中に入っていけるんですよね。

このあとジルは押し込められる先の古い森の中の屋敷で、かつて慕っていた亡くなった伯父の残した言葉を見つけ、ここで王族としてではなく一人の少女として新たに生きていく決意を抱くのですが、その前にイオニアの出会いと、あの髪を散髪して貰う事がなかったら屋敷で素直に心新たにすることが出来ただろうか、と思うと王族としての体裁を切り落としてくれたあのシーンは、最初の転機そのものだったんじゃないかなあ、と思うのです。

さて、かつて伯父が暮らした屋敷で独りで生きていく決意を固めたジルですけれど、その屋敷が置かれている森に隣接する街、ジルが足繁く通い生活拠点とするこのシェルランドもまた他とちょっと違う特徴のある街でした。
魔法は攻撃手段であり、それ以外の目的で魔法を使用するのは不謹慎、という意識が強く根付いている王都を中心とした中央と違って、この街ではちょっとした生活での利便性や、物作りや様々な仕事の作業などを効率良く進めるため、人の手では難しい事を成すために魔法を使うことを忌避しないどころか推奨されてる雰囲気が当たり前になってる街だったんですね。
さらに、街に住む人達の一人ひとりに、クリエイター的な気質や文化芸術を尊ぶ意識が根付いている。工夫を凝らし、常に良いものを生み出そうという意識。新しいものを見出し、改良を加え、改革をもたらし、見たこともないものを作り出そう、楽しもう、愛でようという感覚。
それはまだ個々の人々の意識の中で胎動しているもので、大きな流れにはなっていないのですけれど、何かの萌芽が垣間見える街だったのです。
それは、常々ジルが両親に否定され頭から押さえつけられていた考え方と似たものであり、街の人達と交流するうちに彼らの中に、自分の内側で燻っていたもの、この追放された先で吐き出そうとしていたものと共通のものが存在することに気づき、ジルは大いに奮い高ぶるのでした。
言うたら、同志がいる! てなもんで。
ジルがやりたいと思ったことは、魔法を道具として利用しながら、伯父が残してくれたAlexaもどきによって得た外世界の知識を触媒に、自分が好きに思い描いた衣服や小物などのファッション系雑貨を取り扱う雑貨店。
そこで、街で出会った行商人のマシュや職人たちと協力して、まだ誰も見たことのない新しいファッションを創りだし、それをきっかけにして街ぐるみでニューウェーブを押し広げていく。
街自体が文化芸術の発信地となっていく、その号砲がジルの出現によって打ち鳴らされたのです。

図らずも、かつて彼女の伯父が数年間、この屋敷で暮らしていた時に。彼はここでレストランを開いていたんですね。そのレストランを訪れた街の住人たちの中に、とても革新的で何よりも美味しく楽しかった料理、食事の体験を通じて、新しいものに挑戦したい、自分の手でもっと凄いものを、素敵なものを創り出してみたい。関わってみたい、という意識が根付いて、大きな下地になっていたんですよね。
それが、ある意味かの伯父上の弟子でもあったジルが訪れたことで、開花の時を迎えたというのなら、それはとてもおもしろいことじゃないですか。

武器兵器としての魔法を使うことが出来ず、全く違った魔法の使い方を模索し、新しい自分の生き方を見つけたジルですけれど、一方で彼女の所属する魔導王国は完全に軍事国家の様相を呈していて戦争の気運も高く、また内部からも反乱軍が起こったりと不穏な空気は高まるばかり。
そんな情勢の中で、果たして悠長に文化の発信地なんてしていられるのか。なにやら、革命軍というワードも出てきていますし、ここから物語がどう転がっていくのか。色んな意味で楽しみです。

サイレント・ウィッチ 沈黙の魔女の隠しごと ★★★★   



【サイレント・ウィッチ 沈黙の魔女の隠しごと】  依空 まつり/藤実 なんな カドカワBOOKS

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奇跡に詠唱は要らない――気弱で臆病だけど最強な魔女の物語、書籍で新生!

〈沈黙の魔女〉モニカ・エヴァレット。無詠唱魔術を使える世界唯一の魔術師で、伝説の黒竜を一人で退けた若き英雄。
だがその本性は――超がつく人見知り!? 無詠唱魔術を練習したのも人前で喋らなくて良いようにするためだった。
才能に無自覚なまま“七賢人”に選ばれてしまったモニカは、第二王子を護衛する極秘任務を押しつけられ……?
気弱で臆病だけど最強。引きこもり天才魔女が正体を隠し、王子に迫る悪をこっそり裁く痛快ファンタジー!

コミュ障ッ!! いやもう筆舌に尽くしがたいコミュ障ッ!!
ってかこれもう対人恐怖症の域じゃないですか? 人見知りとかいう段階じゃないんですけど。人混みとかで死んじゃいそうなんですけど!?
人見知りとか内気とかコミュ障を標榜するキャラクターというのは珍しくないですけど、ここまでガチに他人とコミュニケーション取れないレベルで怯えてキョドってアバババ、となってるキャラはそうそういないと思いますよ。だって、コミュできないもん! それが況してや主人公て!
これは同じ七賢人のルイス氏のあのパワハラ紛いの上からガンガン命じて叱って怒って、というのがある意味正解なのかもしれない。やりすぎるとストレスで死んじゃいそうだけど。
何かと問題はあるけれど実は最強、というキャラクターは大体能力を発揮するときはキリッとなるものなんですけど、モニカの場合はそれすらもないですからね。
世界で唯一無詠唱魔法を使えるようになった、というのも人前でマトモに喋れないから、喋らなくていいように、という理由があるように、キョドって狼狽えている時でも魔術使えるようしてるだけで、魔術使うときだけ冷静になるとか意識が切り替わる、という事もありません。ひたすら、アババババとなりながら魔術使ってます、この娘。
しかも、無詠唱なものだからナニカ起こってもこの娘が魔術使っているとは一切疑われないし、本人は本気で怯えてビクついているのも確かなので、確かに完璧なサイレントだなあ、これ。

こんな娘を、人が一杯居て他人と嫌でもコミュニケーションを取らなければならない学園に放り込んで、さらに王子の護衛だか監視だかをやれ、と命じて放り込むルイス氏、ガチ鬼畜である。わりと真面目にモニカのストレス死を望んでるんじゃないだろうか。
とはいえ、モニカの実力を一番理解しているのも同僚であり同期でもある彼なわけで、本人の臆病な性格をして諸共しない、そんな状態ですらしっかりと成果をあげてしまう、結果を伴ってしまうモニカのスペックの高さ、能力の際立ちを、ルイス氏が一番わかってるんですねえ、これ。
ルイス氏自身は本気で不本意みたいですけれど。

というわけで、同僚に無茶振りされて無理やり学園に放り込まれたモニカ。任務とか言われても何も出来るはずもなく、周りに絡まれ鈍臭さからトラブルに巻き込まれ、怯え慌てて逃げ惑っているうちに、強引に無茶振りされた問題解決を半泣きになりながらサクッと成し遂げてしまったために、なぜだかトントン拍子に王子に近づき生徒会の役員に就任してしまうことに。
本人意図せず、右往左往してたり、現実逃避して得意な数学に没頭してたら、なんでか上手く行ってただよ、というなかなかに意味不明なムーブである。
この娘、本気で能力は抜群に高いだけに、無茶振りされるのが一番イイんだろうか。ビビリだから、命じられたら逆らえないし。七賢人という魔術師として最高峰の地位にあり、一代ながら貴族位も貰っているだけに本来なら学園でも王族以外なら誰にも謙らなくていい地位にあるはずなのに、徹底したパシリ根性、何かあったら這いつくばってごめんなさい、してしまう卑屈さがこびりついちゃってる娘なだけに、言われたら逆らえないという所がありありと。
なんか、ギャップがほんと面白いなあ、モニカは。

どうやら、彼女の対人恐怖症気味な性格には過去に受けたDVの影がまとわりついていて、ある種の精神的外傷がもとになっているっぽいんですよね。さすがに原因が原因なだけに、簡単に他人に慣れろ、とは言えないですし早々変わることは無理でしょう。数少ない友人とも決裂してしまった、という傷も抱えているみたいで、誰かと仲良くなる事自体怯えている節がありますし。
それでも、当たりこそキツいものの率直に物言ってくれて色々とかまって世話してくれるクラスメイトがいたり、厳しいものイイながら誠実に対応してくれる生徒会の先輩がいて、と……なんか当たりキツい人ばっかりだなあw
ただ、こういうキツい人は正直な人とも言えるので、むしろ当たりが柔らかかったり親切で優しかったりする人の方がどうにも怪しい気配がプンプンするんですよね。顔は笑っているけれど目は笑っていない的な。その筆頭が第二王子で、明らかに闇深そうな何を企んでいるのかわからない怪しい人物なんですが、この人が一応のヒロインになるんですかねえ。
他にも何を考えているかわからない怪しそうな人がわんさかと居て、モニカに心休まる暇なさそう。いやまあ、相手が怪しかろうがそうでなかろうが、誰だろうと人である以上心休まらないっぽいのですが、モニカさんは。
でも、ナニカ助けられたり好意で何かしてくれたりしたとき、その時は慌てふためき何も言えなかったとしても、ちゃんと後でも「ありがとう」と必死にどもる口を動かしてお礼を言う勇気を持ち、それを果たすことが出来るだけ、モニカは臆病なだけな心の弱い娘じゃないんだなあ、というのがわかって、あのシーンは何気にくるものがありました。
ありがとうと言われた方は特に響くものはなかったのかもしれませんけれど、モニカ本人は大変に勇気を振り絞って発した一言だったんですよねえ。

さても、言動はポンコツを通り越してもう不審人物なモニカが、そのくせやってる事を見るとテキパキと眼の前の問題を解決して、陰の任務も着々と成功させるための立ち位置を確保している、という本人まったく意識していなくて半泣きでもうやめたい帰りたいと嘆き呻いてやっぱり泣いているのに、結果だけみると有能極まる動きしている、というギャップの面白さ。
ストーリーとしては、まだ導入編。あれ?こんな途中で終わってしまうの?と驚いてしまったほど、話のキリもつかないところで終わってしまった1巻ですが、これシリーズ通して大きな一つの話を終わらせるロングスパンな作品なのか。ともあれ、続き気になります!

打撃系鬼っ娘が征く配信道! ★★★☆   



【打撃系鬼っ娘が征く配信道!】 箱入蛇猫/片桐 TOブックス

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バイト先が全て潰れてしまった少女は、親友のプロゲーマーに誘われて、「スクナ」として配信者になることに!選んだゲームは広大な自然広がるファンタジーの世界なのに勧められたのは物理特化の「鬼人族」に打撃武器!?だが超人級の身体能力をもつ彼女にはドンピシャリ。軽々と使いこなし、生き生きと敵をなぎ倒す!普段のゆるい雰囲気とは裏腹なその姿に、気づけばリスナーは一万人越え!?噂を聞きつけやってくる強敵も、金棒一本に全ての力を込めて迎え撃つ――

「それじゃあ、今日も配信やっていこ~」

解き放たれた鬼っ娘がモンスターを狩りまくる、冒険配信ファンタジー開幕!
書き下ろし短編収録!

おおっ、これ元の人間としての身体能力が図抜けているが故に、フルダイブ式のゲーム内で突出したプレイヤースキルを発揮できるというタイプのお話なのですが、このスクナこと菜々香はガチのリアルチートじゃないですか。元トップアスリートとか軍人とかじゃなく、彼女自身リアルで何か業績をあげているわけでもないのですが、単純に身体能力が異常。人間離れしている。というか、これ突然変異種じゃねえの? 作中でも超人体質、みたいに言われているし。
これ普通にスポーツの道に進んでいたら意味不明なレベルの世界記録保持者になってそう、なのだけどそういった道へは進まなかったんですよね。それどころか、中卒フリーターで現在無職の21歳、という中々厳しい人生を歩んできている所で察するものがある。
と言っても家庭環境が頗る悪かった、という訳でもないようなのですが。両親が早くに亡くなってしまったのが一番大きいのでしょうけれど、引き取られた先を含めて周りに居た人達はむしろイイ人たちだったようなので、我武者羅に働いて働いて働きまくるという人生に突入してしまったのはこのナナという娘の不器用さゆえだったのかもしれません。なんか、かなり肉体労働系の仕事に偏っていたみたいですし。現実社会で思いっきり振るうことの出来ない自分の力を持て余した結果として、体力を発散する方向へと突き進んでしまった、みたいな?
もう少し自分の力を有用に使うやり方もあったんじゃないか、とも思えるんですけどね。まあ本人は不満には思っていないようですし、フリーターとはいえアホみたいに仕事掛け持ちして働きまくっていたせいか、金に関しては困らないだけ稼いでるみたいですけど。
それでも、一番仲の良い親友と言ってもイイだろう相手と一年近く顔を合わすこともないくらい、連絡もなかなか取り合えないくらいまで働きまくっていた、というのはやっぱり不器用を感じてしまう所だなあ。
ともあれ、それだけ突っ走って脇目も振らず生きてきた彼女が、唐突に生まれた空白、バイト先が全部潰れるという偶然によって出来てしまった暇な時間に、ようやく周りを見渡す余裕を持てたのか。
久々に会った親友のリンに誘われて、彼女がプロゲーマーとしてプレイしている完全没入型、フルダイブのゲームへと誘われ、その世界ではじめて自分の力を全力で震える環境に出会うのである。
……と言っても、まだレベルの低い段階ではむしろ彼女の身体能力の発揮を阻害する形になってしまっているみたいなので、現状では全力で動ける、には程遠いみたいなのだけど。

ゲーム配信というのは実のところ全然見たことがなく、文化そのものが未知なのだけど、「わこつ」とかそっち系では共通のネットスラングなのか。他の配信系ネタの作品でも見たけど。
独りで、或いはパーティーでゲームを進めていくのみではなく、配信する事に寄って視聴者に見られ、彼らのコメントに反応しながらゲームに挑んでいくスタイル、というのは会話の入り方というか、コメントからいろんな情報が飛んできながら、という展開になるのでちょっと雰囲気違いますねえ。
とはいえ、本作はまだこの配信型特有というべき特徴というか、そういう形式であってこそのナニカ、それを武器にした魅せ方、をまだ感じるところまでは行っていないのですが。
しかし、ナナって友人たちの幼少期の回想を見ると、かなりの口数少ない表情の変化があまりないタイプのぼんやり天然不思議ちゃん系なんですよね。
当人視点だとただの脳筋系マイペース型なのですが、幼児の頃のキャラだととても配信のために常に喋りながらあれこれするタイプには見えないので、だいぶキャラ変わったように見える。
まあバイトの内容を見ると接客系もかなりこなしていたようなので、そういう経験の蓄積による変化もあったのかもしれないけど。でも、あの幼児の頃のキャラも面白かっただけにその路線も見たかったかなあ。とはいえ、あれを一人称の主人公でやるのは、配信も含めて難しそうだけど。

今の所ソロプレイで進んでいるけれど、親友との合流もあるだろうし、パーティープレイになっていくんだろうか。小難しいことをせずに、まずぶん殴るという棍棒金棒での打撃スタイルはなかなか面白かったです。

五人一役でも君が好き ★★★★   



【五人一役でも君が好き】 壱日千次/うなさか MF文庫J

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好きな人が五人で一人のフリをしていたので、全員カノジョにしようと思う。

(あ、高校生活、終わった……)
入学早々に肥だめに落ちて死にかけ、絶望していた僕を救ってくれたのは、誰もが憧れる完璧な生徒会長、近衛・R・知佳さん。
当然のように恋に落ちた僕は、彼女の隣に並ぶため、そこから猛烈な努力を始める。
学校底辺の成績から学校トップへ。死に物狂いの勉強のすえ、なんとか会長の補佐になることができた。
だが、僕はそこで知ってしまう──完璧な会長の姿は、実は特技の違う五つ子が五人一役で演じていた虚像だったのだ!
僕が好きだった彼女は存在しないのだろうか?
そうじゃない。好きな人が、五人に別れただけだ。だったら──

好きな人が五人で一人のフリをしていたけど、気づかないふりをして全員彼女にしようと思う。

これ全然同一人物に似せようとかしてないだろう!! 五人ともキャラ立ち過ぎているのはともかくとして、そのキャラクターを一切隠そうとしてないし! なんでこれバレないんだ!?w
双子の入れ替わり展開はまあわりとよくあるネタだと思うんだけれど、まさかの五人姉妹で一人を演じるという大技をかましてきて、いやあんまりと言えばあんまりの力技な展開に大ウケなんですけど!
それだけならまだ普通のコメディと言えたのかもしれませんが、ここから凄いのが主人公のアグレッシブさである。
中学で野球で名を馳せた牧原大河はスポーツ推薦で入学を決めた直後に事故で腕を怪我してしまい、野球選手として再起不能になってしまう。将来はプロ野球選手確実と言われた才能を潰され、挫折を味わった彼は、しかしそこで運命と出会う。
元々ストイックに自分を鍛えるスポーツ選手だったせいか、大河って努力を厭わないんですよね。恋を原動力に、スポ選故に学力最底辺だったのをわずか数ヶ月で学年2位まで駆け上るという尋常でない奮起を見せている。
その努力の方向性を、この男とんでもない方向へと差し向けてしまうのである。
生徒会に入るために学力を爆上げしてみせた大河(学則で成績優良者が生徒会メンバーに推薦される仕組みになってる)。その過程で知佳さんとも幾度も接触するのだけれど、その度に彼女の違う側面に触れて、その度に惚れ直していくのだが……その違う側面ってつまるところ別の姉妹に入れ替わってる時の近衛さんだったわけですね。つまり、大河はちゃんと全員に惚れて心奪われているのである。
そして、偶然近衛さんが五人の姉妹間で入れ替わり立ち代わりして一人の近衛・R・知佳という人物を演じている(いやあんまり演じてはいないけど!)事を知ってしまうのだ。
そこからが大河の凄い所で、五人のことそれぞれ好きになったのだから、これはもう五人全員と付き合って、最終的には五人とも結婚してハーレム作ってやるんだ、と決意するのである。
ハーレム展開というのは大概、なし崩しや八方美人に振る舞っているうちに何となく許されて、という展開が多いのだけれど、牧原大河という男は積極的に五人全員と付き合うために策を練りだすのである。
と言っても、近衛姉妹の弱みを握って陥れて、みたいな卑怯な真似をするのではなく、わりと正攻法なんですよね、彼のやり方って。
ごくごくまっとうに、彼女たち全員に自分に惚れてもらえるように、好感度が上がるような振る舞いを心がける、という女性へのアプローチとしてはこれ以上無い正攻法なのである。
また、五人全員と付き合うためにはフィジカルは重要、収入も五人分養えないといけないから高収入の仕事を目指さないといけない、さらに五人と正式に結婚するためには奥さん複数持っても大丈夫な国に移住しないといけないから、海外でもつぶしの効く仕事を選ばないと、ということで医者を目指し、さらに中東付近で通用するようにアラビア語を学び、と肉体と学力をビシバシ鍛え始めるのだ。
五人全員と付き合うために、小賢しい小細工をするのではなく、まず自分を鍛え上げるという発想に至るのが何とも面白く、それでいて五人全員と組んず解れつえっちい事もしたいから、と亜鉛の摂取を心がけたり、五人まとめて相手できるように体力つけようとしたり、下心も満載なんですよね。
この主人公ほど一途で純真にストイックに純情に、欲望に忠実かつ誠実な男はなかなか見たことないよ!?
これで、近衛姉妹の全員にべた惚れ、というのは本当に間違いなく、その恋心はまっすぐでキラキラと輝いているくらいなので、その誠実なくらいの純真な恋心がなぜかダイレクトに五人全員と付き合うという下卑びた方に全振りしているのが、なんかもう面白くて仕方ない。
それに、単に好感度を稼ぐために心にもない事をしているというわけではなく、大河という青年が根っからの善人であるのは、折に触れて何の思惑もなしに赤の他人を助けたり、誰かのために真剣に怒ったり、体を張って他の人の努力を守ったり、という振る舞いが彼が本物の好青年である事を伝えてくれるのである。
そんな彼が夜神月ばりの悪い顔して「計画通り!」と、ハーレムを作るためのあれこれを成功させてほくそ笑むの、そのギャップがなんとも面白いと言うか可愛げがある主人公なんですよね。
実のところ、大河がやってた事って近衛姉妹が五人一役をやっていたのを前から知っていた、というのを黙っていただけで、ほかは本当に正攻法に誠実に彼女たち一人ひとりに接してまっとうに惚れて貰ったので、別にそれほど後ろ暗いことはないんですよね。
彼女たちの秘密の入れ替わりしているのを知っているのを利用して、上手いこと好感度アップのためのアピールをしていたけれど、そもそも近衛姉妹が嘘ついていたことも、覗き見していたことも、彼女たちにも後ろ暗いところはあるわけですしねえ。その嘘を巧妙に罪悪感として利用してハーレムオッケーに持ってこうとしたのは、まあズルいと言えばズルいのかもしれませんけれど、ある意味ここはお互い様でもありますしね。
大河の下心がバレてしまったときも、実はそれほど彼女たちの好感度には影響しなかったと思うんですよね、これ。卑怯なやり方で好感度あげてたら、そりゃ幻滅されたかもしれないけれど、彼女たちが大河に惚れた所に大河の嘘はなかったのですもの。
いや、さすがにあのバレる展開は予想外もいいところでしたが。これはまさかまさかの展開でした。伏線もちゃんと仕込んであったのかー、あれは気が付かなかったぞ。
そして、大きな人生の挫折を経験した、そしてそこから文字通り這い上がった、その這い上がる奮起の、一度心そのものが死んだも同然だった大河の心を生き返らせてくれた、再誕させてくれた近衛・R・知佳という女性への恋を前にして、もう彼は二度と心折れたりしない。
彼は不屈の男。そしてその怪物級な欲望に一途で忠実な男。
牧原大河は諦めない。
近衛姉妹ハーレムを、諦めない。
何気にマジに好感度下がってないっぽいので、あとはホントにハーレム願望を受け入れて貰えるかどうかっぽいんですよね。なんか争奪戦がはじまりそうな勢いですし。
いやー、こっからどんな展開になっていくのか。衝撃的なラストと相まって、続き、めっちゃ読みたいぞッ!!

壱日千次・作品感想

八城くんのおひとり様講座 ★★★☆   



【八城くんのおひとり様講座】  どぜう丸/日下コウ オーバーラップ文庫

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「私に、一人の過ごし方を教えてほしいの!」
ぼっちを極めた俺・八城重明にそう頼んできたのは、リア充グループの人気者・花見沢華音だった。
周りの友人に合わせてリア充でいることに疲れたという華音に、俺は一人で楽しく過ごすための“ぼっち術”を教えることになるのだが――その結果、華音に師匠と呼ばれて妙に懐かれてしまい!?
さらに華音との交流がきっかけでリア充たちの抱える問題に首を突っ込まざるを得なくなり――!?
ぼっちの達人とリア充たちが繰り広げる青春ラブコメの最先端、ここに開幕!


なかなか厚かましいですよね、「私に、一人の過ごし方を教えてほしいの!」って言ってくるのって。ボッチの拗らせ具合によっては、喧嘩売ってんのか、と言われそうな話ですし。とはいえ、こうやって堂々と面と向かって質問して来れるのが、リア充と言われる人種のコミュニケーションに対するハードルの低さなんでしょうなあ。フットワークの軽さ、と言ってもいい。
事前に別のぼっちに同じことを質問しようとしてマルっと無視されているにも関わらず、メゲずに聞いてくるわけですから。
その無造作さ、場合によっては無神経とも取られかねないコミュを、同じリア充グループ内では取れないんですよね、なんでか。合わせて自分を消費してバランスを取らなければ、コミュが成立しない。
こうやって無造作に声をかけてくる、という事はそういう気遣いをしなくていい相手と認識している、とも取れるわけで。
最初は華音にとって八城重明というクラスメートは、まあその程度の相手だったわけだ。名前も覚えてないような相手だったわけだし。
仲良くなってからも、顔色を伺う必要があんまりなく気軽に付き合える相手、と認識しているのだろうけど、いずれにしても別枠ではあるんですよね。普段付き合いのリア充グループとは。そっちに引っ張り込もうとはしていないわけですし。そうやって別の対応が出来る相手を作る、というのは一つの集団の中でだけ時間のすべてを費やすよりも、そりゃあ気分がリフレッシュできるだろう。世界を一つに固定しないというのは賢い生き方である。世間が狭い学生の身なら尚更だ。
ぶっちゃけ、その時点で華音の目的は達成されているんですよね。一人の時間というのは、華音にとってそこまで重要な代物ではなかったと言えるかもしれない。まあ偶に気が向いた時に独りで過ごす手段を身に着けた、という意味では尚更悪くはないのだけど。
も一人の威堂智風についても、傾向は違っても方向は一緒だ。八城と知り合うことで、一つの世界という閉塞に風穴があいた。外を敵視し殻を固くしていた智風にとっては、違うコミュニティと交流を持つようになったことで鬱屈から開放されることになる。周りの見え方から変わってくる、というやつだ。そうなると、今まで居た元のコミュニティに対してももっと柔らかい見方が出来るようになる。華音も、元のグループに感じていた窮屈感が和らいでいったんじゃないだろうか。好循環である。
なるほど、リア充グループの中心である羽鳥くんが、二人の不調を感じながら自分ではどうしようもなかったので、八城には感謝している、と言ったのも納得である。こればっかりは、同じコミュニティの一員である羽鳥には、如何ともし難いものだからだ。というか、この高校生、人間関係に対しての理解が深すぎるんじゃないだろうか、えらいやつだ。

ちなみに、肝心の八城くんのおひとり様講座の内容については、あまり感銘を受けるものはなかったなあ、うん。なんか時間の潰し方、という感じのものが多くて、一人を楽しむ、という時間の有意義な使い方、という感じではなかったですからねえ。これに関してはお一人様の先人である【お前ら、おひとり様の俺のこと好きすぎだろ。】(富士見ファンタジア文庫)の春一氏が、まさにお一人様の達人、という感じで独りで過ごす幸せな時間を極めていたので、どうしてもそれに比べてしまって……。
まあでもさ、八城くんのそのお一人様の楽しみ方って……自分それ、独りで楽しんでたんじゃないんじゃね? というアレでしたからね。それら、他の誰かさんから教えてもらって、一緒に堪能してたわけですから、究極的に独り関係ないヤツですもんね。
……見方によっては、華音たちに教えたそれって自分たちのデートコースじゃねえかw

あれ? この八城くんってもしかして、と思ったのはわりと早い段階でしたよ。いや、あからさまになんか怪しかったですからね。八城くんとしては、別に隠し立てもなにもしてなかったのかもしれませんが。
ぶっちゃけ、八城くんのどこがボッチなんだ、と思うところもありまして。クラスで誰かとつるんでなかったらぼっちになるんだろうか。そもそも、やたらコミュ力高いのは結構一目瞭然だった気もするのだけど。
八城くん本人が、自分をぼっち、と規定している、というのもあったのでしょうけれど。これに関しては、彼に限らず登場人物の全員が、ぼっちかリア充かでどちらかじゃないといけないみたいに自分を規定してレッテル貼り付けていた印象もあるんですけどね。
そこまで拘らんでも、と転校生佐藤柚月を巡るトラブルを介して思ったり。八城くんの主張はロジックとしては理解できるんですけどね。柚月も、ぼっちを脱却したいと思っている人種だからこそ誰よりもぼっちとかリア充というレッテルに拘っているところもありましたから。
でも、自分じゃダメなんだ! と、そこまで力強く主張しなくても、と思ったり。
いずれにしても、羽鳥くん、あれは聖人か何かなんだろうか。後のフォローも含めて、対人能力が神なんですけど。

というわけで、真打ちは最後にやってくる、メインヒロインも遅れて最後に姿を表す、ってやつでした。すげえ、いきなりラブラブのラブコメになったぞw
二人の少年少女の甘酸っぱい幾つもの初めてを重ねていく物語。他人とうまくコミュニケーションをとれずに自分の殻に閉じこもっていた少女が、急かさず先走らず同じペースに合わせて寄り添ってくれる初めての男の子に、恋をしてしまうお話でした。
これ見ると、八城くんの懐の深さはまたべらぼうなんですよね。相手のペースに合わせることが難しいし、そもそも人によってペースが違うという事を理解できる人の方が珍しかったりする。この娘、ヌエのそれは時間の流れが違うんじゃないか、というくらいペースが異なっているのに、八城くんはそれを見つけ出すことに成功してるんですよね。
ヌエからしたら、人生で唯一のジャックポットですよ。生涯に一人出会うか否か、というような相手ですよ。そういう相手とこの歳で出会える、というのは幸運であり幸福であり。そして、それをおめおめと逃さないだけの、勇気がこの娘にはちゃんとあったわけだ。
あまりにもベストカップルすぎて、ちょっと他の娘入り込む余地はなさそうですなあ、これ。はい、残念でした華音さん智風さん。まああんまりにもラブラブすぎて、華音たちも割って入る気にもならなくなってしまったようですが。まー、あれだけピュアに一途に恋する少女してたらねえw
というわけで、裏章の甘酸っぱさにはちょっとアテられてしまうほど、遅れてきた真打ちは強力でした。
メインヒロイン、てのは別に最初から出てりゃイイってもんじゃないんだなあ。



祈る神の名を知らず、願う心の形も見えず、それでも月は夜空に昇る。 ★★★   



【祈る神の名を知らず、願う心の形も見えず、それでも月は夜空に昇る。】  品森 晶/みすみ MF文庫J

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失われた英雄の呼び名を、この世界はまだ知らない。

世界を滅ぼす邪神の眷属への対抗手段である“遺物”。
それを扱う才能を持たぬ【亜人】を純血人類たる【貴族】が従属させ、確固たる身分制度が敷かれた時代。
そんな千年後の世界に蘇った英雄・セロトは、人類の衰退ぶりに愕然としつつも、とある問題の解決のため、貴族の身分を得て、全ての叡智が眠るという【学院】に通い始める。
しかし、入学時の検査で遺物適正が最低ランクと判明。
劣等貴族と侮られることになるが、実技で実力の片鱗を見せていき……?
これは悪夢のような世界と、苦痛に満ちた虚構、そして闇を裂く微かな希望についての物語。
『幻想再帰のアリュージョニスト』の著者が贈る純血のハイ・ファンタジー。


主人公が多重人格ならぬ多重存在? 人格だけじゃなくて意識から身体から全部入れ替わるのである。変身じゃなくて、完全に別の存在が入れ替わるのだ。
セロト、アド、ドーパという三人の存在が出現するのだけれど、彼らが表に出るためにはそれぞれ、三人いるヒロインが求めることによって、表に出てくるんですね。
これだけだと召喚、みたいにも思えるのだけれど、良く良く見ていると元々不確定で曖昧な存在をヒロインが観測することで、彼女たちが望んだ形で主人公が実体を得ているようなのだ。
主人公たちはヒロインたちが望むように振る舞い、彼女らが乞い願うような在り方でヒロイン達と接し、この世界と相対する。
こう言うと、主人公たちは主体性も個性も何もないヒロインの願望の写し鏡、みたいにも思えるのだけれど……いや、実際そういう存在に近いのだろうけれど、一方で彼らにもちゃんと自意識と人格もあることがややこしさを増している。決して、ヒロインたちの人形ではないのだ。
とはいえ、露骨にその行動原理に影響を受けるし、彼女たちの精神状態によってはもろに煽りをくうこともある。
物語の主体は、セロトたち三人の主人公サイドではなく、リエミア、アンジェリカ、ミードの三人のヒロインたちの方にあるのかもしれない。アドを含め主人公たちは多くを語り、行動も積極的に起こすけれど、物語の行方を左右するのは女性陣の判断であり迷いであり暴走だ。
究極、彼女らの願いによって行動基準を整えている主人公たちは、物語を牽引し得ない。
彼女たちの願望を投影された存在である彼ら主人公。そもそも、主人公が作者や読者の願望を投影される対象として描かれる存在であるのなら、これ以上無いくらい主人公らしい主人公たちなのかもしれない。一つの露骨なくらいの回答として描かれている、のだろうか。

この三人の主人公、名前がセロト、アド、ドーパなんだけれど、これってセロトニン、ノルアドレナリン、ドーパミンという三大神経伝達物質がモデルっぽいんですよね。
それぞれの神経伝達物質が果たしている役割が、ちょうどそれぞれのキャラに当てはまるように造形されている。面白いことに、三人のヒロイン達の精神状態がこのセロトニン、ノルアドレナリン、ドーパミンの過不足によって引き起こされる状態とも対応してるんですよね。
ドーパと対応しているミードの状態が一番ヤバいといえばヤバいのですけど。凄く真剣深刻に精神の破綻、廃人化の危機について語っていたのに、いざ一線を超えて廃人になったと思ったら、弟依存症の姉堕ちってこれシリアスなんでしょうか、ギャグなんでしょうか。判断できないんですけど!?

いやもうなんか全体的に話は濃密に描かれていくのですけれど、とにかく読むのに凄まじいカロリーを必要としました。なんか凄く読みにくいのよ。シーンから別のシーンに移動する際にとっかかりが全然ないように見えるものだから、なんかやたらと唐突に場面転換が起こってるように感じるんですよね。凹凸が全然ない壁をクライミングするみたいな感じで、とっかかりがないのですよ。だからか、話が進んでいるのに読んでるこっちの意識が置いてけぼりにされてしまって、なんだか訳が分からなくなることがしばしば。かなり注意深く気をつけながら読み進めないといけないので、読むことそのものに疲れてしまいました。
こういう作風みたいだから、仕方ないんでしょうけれど。

肉の原見さん ★★★☆   



【肉の原見さん】  竹井 10日/あるみっく MF文庫J

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お肉大好き原見さんは、肉以外愛せない!

「JCとメシを食いに行ってくれ!!」唐突に“未来の俺”を自称する老人が現れて俺に懇願してきた。もちろんこんな怪しい話には取り合わなかったものの、むりやり連絡用のアプリを入れられてしまった――ってなことがあったんだよね~、と幼馴染の原見に話すと何言ってるのかわからないという顔で行くのを止められる。当然か。でもどんなJCが来るんだか気になって当日待ち合わせ場所でアプリを開くと、指定の場所は高級焼き肉店。「お肉だね!?早く!! お肉だよ!?」そしたらお肉大好きな原見が超絶乗り気に!? 待て待ていくらなんでも怪しすぎるだろこれ!? だけどお肉が地球を救う!? 少し不思議なグルメラブ・コメディ、開幕


マジでただひたすら肉食ってるだけだったんですけど!?
そして、ただひたすら肉を喰うマシーンと化している原見さん。この女、幼馴染で八百屋の娘、という以外の情報がほぼ「肉を食う女」という以外皆無に近いんですけど!?
肉ならば無限に食える女。肉を喰う店に入って肉以外を喰うこと(特に野菜)へ憎しみに近いナニカを抱いている女(八百屋の娘)。肉の食い方については一家言以上のナニかを持つ女。あらゆる高級肉料理店の常連と化している女。肉について語らせたらいくらでも多弁になる女。肉を喰うためなら何がどう辻褄のあわない事態が起こっても気にしない女。
つまり、ただひたすら肉を喰う女、それが幼馴染の原見桃さんである。
……こいつ、主人公とどういう幼馴染関係なのかもちゃんと話題にあがってこないんですけど!?
いやこれ、主人公の美澄渚の家庭環境ってかなり錯綜したものになっていて、普通に幼馴染がいるのが若干疑問に思えてくるものでもあるんですよ。原見さんとの幼い頃のエピソードとか一切語られないし、隣に住んでるという環境でもなさそうだし。ちょっと謎があるんですよね。

そして、怪しい老人(自称未来の自分)の指定によって肉屋に初対面のJCと肉を食べに行ったことで……なぜか世界が改変されるという結果が!
肉食いにいったら歴史が変わっていて、肉食いにいった美澄くんと原見さんとJCの雛鶴の記憶だけが元のまま変わっていないとか、どういう理屈なんだ? ほんとに肉食ってただけだぞ?
これは肉屋に食いにいったことで因果が変わる、というわけではないのは、次の話で別の肉屋に別のJCペコリーヌと肉を食べた際には、すでにペコリーヌと出会っていた時点で時間軸がネジ曲がっていた事からも明らかなので、ほんとどういう事なの? という話なんですよね。

ちなみに、食べに行く肉屋は一話の鉄板焼屋、二話のシュラスコと両方実在のお店である。秋葉原の肉の万世タワー10階、って今は営業していないのか。
いやこれ、値段すげえんですけど! 自分の金じゃないからって、原見さん食いすぎなんじゃね!?と思うくらい高いんですけど。JC雛鶴があまりに値段の高さに震えが止まらなくなってますけど、こんなん学生じゃなくても震えが止まらんくなるわ! 
「シャトーブリアンのあとだと普通の黒毛和牛はデザート感覚で食べられるね!」
震えが止まらんくなるわ!
いやでも、肉スゲえわ。めっちゃ美味そうだわ、肉。考えてみると、こんなガッツリ肉食ってないわ、最近。料理の中に肉が入っているというのはそりゃ珍しくないけど、こんなガッツリ肉がメインの料理って食べてないわ。
読んだ時晩飯後だったのですが、あまりに美味そうな肉の焼き具合に、こう匂いまで漂ってきそうで肉の柔らかさと焼き加減が伝わってきそうな肉語りに肉を焼く描写に肉を喰うレポートに、肉……肉喰いたい! てなりましたからね。
まあそのあとで、こいつらの食べた料理の値段の総額を想像してヒュンとなるのですけど。特に原見、コース料理をハシゴてどういう事なの? ロースとヒレの食べ比べって正気なの!? ちなみに、コースそれぞれ2万円とか3万円とか超えております。最初の注文の段階ですでに三人前で10万円超えてたんですけど。それからどれだけおかわりした? マジでなんぼ掛かったんだ!?
そしてそういうのを一切気にせず、ひたすら肉を喰うことに傾注する原見桃の肉への凶暴なまでの食欲の恐ろしさよ。ちょっとでも邪魔すると殺されそうなくらいの殺気!
……この人、確かヒロインなんですよね? ガチで肉しか食ってないんだけど?

そして、二話目は別のJCペコリーヌちゃんと行くシュラスコというブラジルらへんの南米料理のお店。肉串! シュラスコって食べたことねーわ!
というわけで、常連の原見さんの案内のもと初体験のシュラスコ料理のお店「バルバッコア」での肉三昧! いや、どんだけ喰うんだよ!? いくら食べざかりにしても限度があるぞってくらい食べてるんですけど! 若者ってそんなに喰うのか? 異次元の原見さんはともかくとして、彼女に引っ張られて美澄とペコリーヌも尋常じゃなく食ってるぞこれ。あー、でもこんないろんな肉が次々と皿の上に来るとか、食べるわなあ、食べるよなあ。肉のラインナップがすげえですわ、美味しそうですわ。ジューーって肉汁が〜〜。

結構、展開としては驚きというか何事!? なことが起こっているはずなんですけど、そういうのを押しのけてなんかもう「肉!」でした。文字通り肉喰うだけでしたが、それだけ何となく満足感を与えてくれる非常に肉肉しい密度のグルメレポートでした。
主人公の美澄くんも、竹井作品の主人公らしくいつもの奇人変人なのですが、肉を喰う原見さんの押し出しの強さが尋常じゃないだけに、あんまり目立たない……というのは冷静に考えると狂気だなあ。
なんか、肉を食いにいかないと世界が滅びる的な未来が待ってそうなのが……え? 肉食いに行くのに原見さんを連れて行かない、というハードモードをクリアしないと行けないの?
肉食いに行くけど原見お前留守番な! とか、じゃあ死ね!でバッドエンド直行じゃないの? 普通に殺されて終わりじゃないの? 無理ゲーじゃね?
あと、さらっと巴御劔さんが登場していて、吹いた。ちなみにこの巴御劔という人は竹井10日作品の大半に登場する(名前が違う場合もあるが)非常に重要なキーパーソンである。彼が登場したということは、彼の干渉がある世界なのかこれ。

それはさておきなにはともあれ……肉、喰いてぇ。
人よ、人類よ、肉を喰え! という思想に染め上げられる肉ノベルでした。肉でした。


竹井10日・作品感想


 
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(オーバーラップノベルス)
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(オーバーラップノベルスf)
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(ダッシュエックス文庫)
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(ダッシュエックス文庫)
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(ダッシュエックス文庫)
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(ダッシュエックス文庫)
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(ダッシュエックス文庫)
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(ダッシュエックス文庫)
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(MFブックス)
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(MFブックス)
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(MFブックス)
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(MFブックス)
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(KADOKAWA)
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11月22日

(MFC)
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(MFC)
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(MFコミックス アライブシリーズ)
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(MFコミックス アライブシリーズ)
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(MFコミックス フラッパーシリーズ)
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(モーニング KC)
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(モーニング KC)
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(モーニング KC)
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(ガンガンコミックスJOKER)
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(ガンガンコミックスJOKER)
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(ガンガンコミックスpixiv)
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11月20日

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(富士見ファンタジア文庫)
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(富士見ファンタジア文庫)
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(富士見ファンタジア文庫)
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(富士見ファンタジア文庫)
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(富士見ファンタジア文庫)
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(富士見ファンタジア文庫)
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(富士見ファンタジア文庫)
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(TOブックス)
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(TOブックス)
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(TOブックス)
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(TOブックス)
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(GCN文庫)
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11月19日

(ヤングジャンプコミックス)
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(ヤングジャンプコミックス)
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(ヤングジャンプコミックス)
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(ヤングジャンプコミックス)
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(ヤングジャンプコミックス)
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(サンデーGXコミックス)
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(サンデーGXコミックス)
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11月18日

(ガガガ文庫)
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(ガガガ文庫)
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(ガガガ文庫)
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(ガガガ文庫)
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(ガガガ文庫)
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(ガガガブックス)
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(少年サンデーコミックス)
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(少年サンデーコミックス)
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(少年サンデーコミックス)
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(少年サンデーコミックス)
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(少年サンデーコミックス)
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(ヤンマガKCスペシャル)
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(ヤンマガKCスペシャル)
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(ヤンマガKCスペシャル)
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(ヤンマガKCスペシャル)
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(ヤンマガKCスペシャル)
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(ヤングチャンピオン烈コミックス)
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11月17日

(電撃の新文芸)
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(電撃の新文芸)
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(電撃の新文芸)
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(星海社FICTIONS)
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(星海社FICTIONS)
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(星海社FICTIONS)
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(星海社FICTIONS)
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(KCデラックス)
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(KCデラックス)
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(KCデラックス)
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(KCデラックス)
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(KCデラックス)
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(アフタヌーンKC)
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(マガジンエッジKC)
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(マガジンエッジKC)
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(マガジンエッジKC)
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(講談社コミックス)
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(講談社コミックス)
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(フロース コミック)
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11月16日

(アース・スターノベル)
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(アース・スターノベル)
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(アース・スターノベル)
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(アース・スターノベル)
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(アース・スターノベル)
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(アース・スターノベル)
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11月15日

(富士見L文庫)
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(富士見L文庫)
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(富士見L文庫)
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(富士見L文庫)
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(富士見L文庫)
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(富士見L文庫)
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(Gファンタジーコミックス)
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11月12日

(GA文庫)
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(GA文庫)
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(GA文庫)
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(GA文庫)
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(GA文庫)
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(GA文庫)
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(GA文庫)
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(宝島社)
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(星海社COMICS)
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(ゲッサン少年サンデーコミックス)
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(ゲッサン少年サンデーコミックス)
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(サンデーうぇぶりSSC)
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(ビッグコミックス)
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(アース・スター コミックス)
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(メテオCOMICS)
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11月11日

(裏少年サンデーコミックス)
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(アクションコミックス(月刊アクション))
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11月10日

(BLADEコミックス)
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(BLADEコミックス)
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(BLADEコミックス)
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(MFコミックス アライブシリーズ)
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(電撃文庫)
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(電撃文庫)
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(電撃文庫)
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(電撃文庫)
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(電撃文庫)
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(カドカワBOOKS)
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(TOブックス)
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(TOブックス)
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11月9日

(ドラゴンコミックスエイジ)
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(ドラゴンコミックスエイジ)
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(角川コミックス・エース)
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(角川コミックス・エース)
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(角川コミックス・エース)
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(角川コミックス・エース)
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(KCデラックス)
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(KCデラックス)
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(KCデラックス)
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(KCデラックス)
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(シリウスKC)
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(シリウスKC)
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(シリウスKC)
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(シリウスKC)
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(シリウスKC)
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(シリウスKC)
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(シリウスKC)
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(講談社コミックス)
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