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新人作品

母親がエロラノベ大賞受賞して人生詰んだ せめて息子のラブコメにまざらないでください ★★★☆   



【母親がエロラノベ大賞受賞して人生詰んだ せめて息子のラブコメにまざらないでください】  夏色 青空/ 米白粕 富士見ファンタジア文庫

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俺のことが好きすぎる母親のせいで、人生がハードモード過ぎる!

母・美礼が書いた母×息子の近親相姦エロラノベが大賞を受賞した。なぜか俺が受賞したことになってた。……いやふざけんな!? しかも同期受賞の現役JK作家は俺が好きなあいつで――あ、終わった。人生詰んだわ。

後半に行くほど加速度的にテンポが良くなりリズムに切れ味が増していくぅ。いやこういう勢いマシマシの畳み掛けるようなテンポのコメディは結構好みなんで楽しかった。
最初の頃は結構手探り感あったんですよね。
なにしろ、大賞を受賞したものの、ヤベえ内容過ぎて社会的に死ぬので息子に自分の身代わりになってくれ、と頼む(事後承諾)母親とか、完全に毒親に見えるじゃないですかー。
しかもなかなかいい具合に壊れたお母様で、あんた世間体とか気にするようなタイプじゃなかろうに。書いたの小説じゃなくてノンフィクション(予定)のつもりだったんじゃないだろうか、と思えてくるぐらい、ガチの息子ラブ。ってか、この主人公これまで貞操は大丈夫だったんだろうか。わりと真面目にこの母親危ないと思うんだけど。
ともあれ、母親の身代わりに作家としてデビューする羽目になった霜村春馬。その名も「種付けプレス」というどこに出しても恥ずかしい雄大無辺なペンネームである。昨今エロ小説家でもエロ漫画家でもこれほどダイレクトなペンネームの人、なかなかいないんじゃないだろうか。
と、思ったらこの業界キメセク先生とか立ちバック先生とか緊縛セーラー服先生とか、同類は枚挙にいとまがないようで。この世界のライトノベル業界どうなってるんだ!?
というかこれ、わりとエロラノベの社会的立場が確立されてるんじゃないだろうか。エロラノベ部門とか大々的に他のジャンルに負けない勢いで出版社あげて授賞式とかやってるわけですし。
キメセク先生がラノベ界の神として崇め奉られてるくらいなんだし。

それはそれとして、授賞式を通じて先輩作家たちと知り合い、そこで業界の闇ならぬラノベ作家たちが抱える心の歪みや人生を傾がせる後悔を目の当たりにするのである。
授賞式直後の新人作家に何を背負わせているんだ、と言いたくなる先輩たちの絡みっぷりだ。受賞作の改稿とかデビューにむけての準備とか本当なら忙しいんじゃないんかい!
なぜか、速攻で作家人生を賭けて先輩作家との執筆バトルに挑むことになってしまった種付けプレス先生。まあ春馬は本当は種付けプレス先生じゃないのですし、自身デビューに向けて何度も投稿して三次あたりで容赦なく落とされる日々を送るラノベ作家志望に過ぎないので、むしろ自分の可能性を突き詰めるための手段として、千里エビデンス先生とのバトルは登竜門でありラストチャンスにも成り得る機会であったわけですけれど。
ともあれ、家庭の事情から家族愛を徹底して否定する千里先生。それは、家族愛をテーマにした種付けプレス先生の受賞作や、同時受賞した同級生のカリン先生の作品のテーマを根底から否定するものであり、骨子を捻じ曲げてでも改稿しろ、と迫る千里先生に敢然と否を突きつけるために必須の決戦ではあったわけだ。
このあたりから物語が軌道に乗ったのかスイスイと話が転がり始める。それに合わせて、作品そのものの勢いが加速度的に増していくんですね。会話掛け合いのテンポがどんどんと早くなり、ボケツッコミの連鎖も畳み掛けるようなリズムへと発展していく。
主人公の春馬も、母親に振り回されているだけの受け身の主人公ではなく、こいつはこいつでわりと言いたい放題思ったことを言いまくるヤバいやつなんですよね。先輩だろうが大人だろうが関係なし、勢いとノリで思ったことをズバズバと指摘し、言い放つ一言居士。年下や後輩という立場に甘んじで言葉を濁したりしない、なかなか度胸の据わった男なのでツッコミの切れ味たるや辻斬りもかくやという所なのである。
わりと勢い任せに生きているような節もあるし。
そもそも、彼が小説家としてデビューを目指しているのは、同級生で読書仲間で高嶺の花である同級生、今となっては同期の作家となった凛夏に、一端のプロの作家になって告白するぜ、という志?からだったはずなのに、この男そのへんの動機のこと途中から忘れてやしなかっただろうか。目の前の執筆バトルやら何やらに夢中になって、どんどん凛夏の扱いが雑になっていってるしw
まあ、この凛夏さんが面白いことに雑に扱われることで輝く系のヒロインだったのですが。

実は売れっ子イラストレーターだったという引きこもりの妹も含めて、この母にこの子あり、と言った感じで母一人子二人のこの霜村家、ほぼほぼ勢いとノリだけで生きてやしないだろうか。最初の頃は母親だけ変なのかと思ったけれど、ちゃんと親子だったよこの一家。
というわけで、後半あたりになるとほどこの霜村家が作品のノリを支配してしまったかのような怒涛の勢いで、小ボケとネタが叩きつけられツッコミが応酬し、なんかもう大騒ぎでついつい楽しんでしまいました。
はじめの段階では母親がアレすぎるし、シモネタもポンポン放り込まれてちょっと引き気味に読んでいたのですが、勢いつき出してからはなんだかもう面白くなってしまって、いやあこういうパワフルさ、強引なくらいの勢いはコメディ作品には大事ですよね、というのを再認識した次第。
これだけドタバタやってくれたら、ひたすら楽しかったです。


恋は双子で割り切れない ★★★★☆   



【恋は双子で割り切れない】 高村 資本/あるみっく 電撃文庫

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いつまでも、ただの幼なじみじゃ居られない。初恋こじらせ系双子ラブコメ!

我が家が神宮寺家の隣に引っ越してきたのは僕が六歳の頃。それから高校一年の現在に至るまで両家両親共々仲が良く、そこの双子姉妹とは家族同然で一緒に育った親友だった。
見た目ボーイッシュで中身乙女な姉・琉実と、外面カワイイ本性地雷なサブカルオタの妹・那織。そして性格対照の美人姉妹に挟まれてまんざらでもない、僕こと白崎純。いつからか芽生えた恋心を抱えてはいても、特定の関係を持つでもなく交流は続いていたのだけれど――。
「わたしと付き合ってみない? お試しみたいな感じでどう?」
――琉実が発したこの一言が、やがて僕達を妙な三角関係へと導いていく。
初恋こじらせ系双子ラブコメ開幕!

これ、あらすじだと琉実の一言から波乱のラブコメがはじまるかのような語りになっていますけれど、実はこの一幕があったのは中学の時。この物語がはじまる高校一年の時点では、なんと琉実と純はすでに別れているのである! そして、純は那織と付き合っているのである! それも、琉実のたってのお願いで。冒頭からこの双子と純の三人の独白から物語ははじまるのですが、このはじまった時点で三人の関係が絡みに絡まった沼に首まで浸かった状態、というのはちょっと凄まじくないですか?
端からここまで拗れた関係ではじまったラブコメは覚えがありませんわ。
試し読みして、初っ端からのあまりの濃さに躊躇なく予約してしまいましたが、このビリビリくるような感触は間違いありませんでした。むちゃくちゃ密度濃くて想いが深さゆえに拗れまくった面白いラブコメだ!

物語はこの三人が交互に一人称視点で語ることで進んでいくのですが、さらに面白いのは状況だけじゃなくてキャラ描写そのものにもあるんですよね。一人称ってのは、その対象となる人物の心象と語りによって表現されていくものなんですけれど、これびっくりするくらい三人が三人ともその語り口が全然違うんですよね。頭の中身がまったく違うというか、思考の成り立ち方というか色彩というか、とにかく考え方の質がそれぞれ三人とも全く違うのである。これ、ここまで一人称を毛色違うようにそれぞれの特色持たせて描いてる作品ってなかなかないんじゃないだろうか。
特に異質なのが、妹の方、神宮寺那織でこの娘、頭の中身がほんと並と違うんですよね。根本的にメチャクチャ頭いいんだろうなあ、というのがひと目でわかるし、思考の密度が異様に濃いのである。その知性の大半をサブカル方面に費やしているとはいえ、根っこの部分の思考の速さ、広がり方は天才と呼ばれる人種のそれなんだろう。サブカル方面とはいえ、教養の深さは尋常じゃないし、なんだろう、気取ってるわけじゃなくナチュラルにシェークスピアの引用を使いこなしてる人種と同じ類なんじゃないだろうか。
ただ、頭がよい人特有の自分は全部わかっている、という万能感に若干なりと彼女自身、那織自身が振り回されてる感があるんですよね。三人の関係を俯瞰し、姉である琉実の想い、幼馴染である純の抱いている想いを見通した上で、主導権を握って状況を整えてコントロールしようと目論んでいるのが彼女なのだけれど、案の定というべきか、自分がどう見られていたか、どう思われていたかについては自分で勝手に合点してしまっている所があって、それが彼女を若干迷走させることになるのである。
いやこれ、最後に至る前に教授から、純の初恋は自分である、と知らされたから良かったけれど、知らないまま動いていたら、彼女が導き出していた結論は違ったんじゃないだろうか。
最初から最後まで全部自分はお見通して思い通りに引っ張り回しましたよー、みたいなしたり顔してましたけれど、結構な方向転換したんじゃないだろうか、これ。
終わってみると、このタイトルってほんと秀逸なんですよね。
琉実は、妹に初恋している幼馴染をいきなりの告白で横から掻っ攫った事への罪悪感から、一年で別れを告げて、今なお純に恋している妹の那織と付き合って貰うことで罪を精算し、無理やり恋を割り切ろうとしたものの、未練を引きずりに引きずることになる。
純は、那織を掴まえられず初恋を諦めようとした所で琉実に告白され、付き合っているうちに本当に好きになったのに突然別れを告げられて、初恋がまだくすぶっている那織と付き合うことになって彼女のコトも今改めて好きだと自覚して、どんどん割り切れなくなっていき苦しむことになる。
那織の動向はなかなか謎なんですよね。この娘、地の文でも現実の方でも実に雄弁多弁で怒涛のようにいろんなことを喋っているし、考えているのだけれど、その多量さで本当に何を考えているかについては微妙に迷彩かけている印象があるんだよなあ。姉の気持ちには気づいていて、純が今も琉実に未練があることにも気づいてた。ただ、幼い頃から中学の頃まで純が自分に恋していた事は知らなくて、自分のことを一生懸命追いかけていることにも気づいていなかった。自分がずっと好きだった人が、自分のことをずっと好きで、その独特さ故に他人ともちょっとした距離感を感じていた自分をずっと追いかけてくれていた、と知った時の那織の様子と来たらもうメロメロじゃないですか。
でも、この娘がそれからしようとした事は、その恋を独占することじゃなかったんですよね。こいつ、お姉ちゃんの事も好きすぎるだろう。そして、根っからの享楽主義者なのか、これ?
この娘だけ、割り切れないなら割り切らなきゃいいじゃん! というスタンスなんですよね。そのために、企み謀ってみせたわけだ。一旦関係をリセット、するんじゃなくて。三人が抱いている「好き」という気持ちを詳らかにして、お互いの中にあった誤解や思い込みを解消してみせたのだ。その上で、引けない所までお互いの関係を踏み込ませてしまわせた。
割り切れないからこそ、一旦双子両方と別れて距離を置こうとした純の退く根拠を雲散霧消させてしまい、自分たち双子の事がどうしようもなく好きだという気持ちだけを引っ張り出してみせた。
琉実についても、純が義理で自分と付き合っていたという誤解を解き、燻ぶらせている未練を後ろめたさを消し去って、姉ゆえに妹たる自分に感じていた責任感や引け目も感じないように状況を整えた。まあ、姉妹関係については琉実は一歩退こうとする気持ちはなくなったものの、余計に妹への愛情を拗らせてしまった感があるようにも見えるのだけれど。
ともあれ、那織は割り切れない恋を苦しいもの、辛いものじゃなくて、割り切れなくていいじゃん! 三人ともお互い胸の内をさらけ出しあった、好きという気持ちも全部ぶちまけた。機会は平等、チャンスも同等、ならばあとは楽しくラブコメしよう。恋を楽しめ、好きにときめけ、駆け引きは後ろ暗さなく、誘惑は正々堂々と。牽制は笑ってつつき合え。てなもんで、こう泥沼でネガティブに陥りそうな要素を見事なくらいにふっ飛ばしちゃったんですよね。
いやあ、すげえわ。琉実も純も苦笑いしながら、こいつには敵わねえ、と誇らしく思うのもよくわかる。色んな意味でとんでもねーヒロインでした。エロいし、エロいし。エロすぎじゃねえかい、この天才巨乳w

生中のオタクを軽々と突破した、深層の趣味人とも言うべき那織の語りは元より、その影響を濃く受けている純も、普通の体育会系JKであるはずの琉実も、微妙にサブカルの沼にハマっているところがあって、会話や地の文の各所にサブカル系の引用やネタが散りばめられていて、普通に読んでてもやたらと濃厚で読み応えある文章でありました。
その上で、さらに濃いキャラたちの生々しいような躍動感のあるような、息遣いを感じる学生生活に、溌剌としたデートなど外で遊ぶ様子に、趣味に生きるじっとりとした日常感。
読み終えたときには、もう久々に「読んだわー」と満腹感を感じさせてくれる、満足度マックスとなる作品でした。いやー、読んでて楽しい作品は多々アレど、こんな濃厚さで楽しさを味わわせてくれる作品は滅多ないですわー。色んな意味で最高でした。良かった良かった。
そして、ぜひ続きが読みたい。ある意味、制限解除されたこの三人の然るべきラブコメ、読んでみたいです。

少女と血と勇者先生と ★★★   



【少女と血と勇者先生と】  蒼木 いつろ/POKImari 富士見ファンタジア文庫

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蘇りし勇者の指導の下、勇者候補の少女たちは激突する

勇者・クロムは世界を救い、そして死んだ筈だった。 だが《生ける屍》として現世に呼び戻され、少女より「私を《勇者》にしてください」という願いを受ける。その願いの裏には、ある悲しい理由が隠れていて――

これって世界を救う勇者の話なんだけど、作品としては世界はわりとどうでもいいって感じなんですよね。あくまで、勇者という立場にまつわる個人のお話。
勇者クロムと、彼の後継となる新たな勇者候補生の三人の心の納得の話なのだ。進行上、世界は瘴気が漏れ出てくる裂け目の侵食によってピンチなんだけど、あくまで舞台設定でしかなくて、刺身のツマなんですよね。究極的に、メインの登場人物たちにとって世界を救うというのは前提でしかなくて、それを成すための「勇者」という立場に対してそれぞれが抱いている複雑な心境を整理し昇華していく事が話の肝となっている。
そこには、根本的にこの世界の裂け目が出来るのを止めるとか、人柱や生贄も同然である勇者というシステムを変える、という意思は存在しない。与えられた役割を敷かれたレールの上を走った上でゴールまで走って使命を果たす、だけなんですよね。
クロムは仲間を戦いの中で無為に失い、勇者として生きてきた意味を見つけられず虚無を抱えたまま死ぬことになる。その上で死霊術師の友人にアンデットとして期間限定で復活させられ、仲間の妹を勇者候補として鍛えて本物の勇者に仕上げるよう頼まれ、妹を立派に育てることで勇者という存在が人類にとってどれだけ大切かを見つめ直し、次世代の勇者を育てる事で自分が生きてきた意味を見出す、納得を得て満足して消えていってしまうのですけれど……。
登場人物たち当事者の間合いに入って見ていれば、それは生きた意味の証明、大切な人の遺志や在り方を受け継ぐ継承の物語として整っているのだけれど、一歩後ろにさがって世界の物語として見ると世界の危機は何も変わっていなくて、勇者という生贄のシステムが変わらず引き継がれ、封印が成功しても短いスパンで裂け目が復活して同じことが繰り返されていく、という地獄めいた状況が続いていっているだけ、に見えるんですよね。
新たな勇者となりクロムとともに再び封印に成功し、師匠の名誉を回復したライラ。でも、また何年かすれば同じように裂け目は復活し瘴気が溢れ魔物が増殖しだしたら、また同じ旅に出て聖剣が使用者の生命を削る代物である以上、今度は助からないかもしれない。また新しい勇者候補が選ばれ、ライラはその娘に高潔な遺志を継承するのかもしれないけれど、これって現状維持が続いているだけで何か救われているんだろうか。
この世界に生きている人たちは、生き延びることが出来た。つかの間の平和を掴むことが出来た。確かな勝利だ。クロムは納得して眠り、ライラは哀しみを抱きながらも師匠の名誉を回復し目的を果たした。勇者候補だったリーリアとゼシアも、それぞれ抱えていた迷いや疑念を晴らし、彼女たちも心の中のモヤを払い昇華できたと言っていい。彼ら個人としては、大いに成すべきを成してるんですね。
ただ世界観としてはあまりにも行き詰まっていて、物語としても一定のレールの上での事として完結していてそこから逸脱することがなく、何とも閉塞感を覚えて息苦しいと感じるものでした。
続刊があるとしたら、この閉塞をなんとか打破して欲しいところなのですが。


武装メイドに魔法は要らない ★★★★☆  



【武装メイドに魔法は要らない】  忍野 佐輔/大熊 まい 富士見ファンタジア文庫

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銃の存在しない異世界で、そのメイドはあまりに最強。

元・民兵の仲村マリナは転生した異世界で辺境公女のメイドとなる。異世界に存在しないハズの銃火器を繰り出し、遍く刺客を圧倒するマリナ――公女に仕えるただのメイドは、現代兵器で魔導士の軍勢をも凌駕していく!
全然最強じゃない、最強じゃないよ武装メイド!
いや、彼女マリナに与えられた能力は規格外と言っていいものなんだけど、それ以上にこの異世界側の戦闘に携わる人種が意味わからん強さすぎ。その中でもとびっきりなのが「騎士」たちである。
こいつら、もう人間じゃないだろう。「超生物」という他ない意味不明さである。
いや、意味不明ではないんですよね。理屈のわからない強さというわけじゃないんですよ。ただ単純に純粋に硬い、速い、強い。なんですよね。
……騎士全員「アイアンマン」じゃないのか、これ?

なので、マリナが引っ張り出してくる現代兵器、勿論この異世界では未知の武器であり相手の想像の埒外にあるものではあるのだけれど、ファンタジー世界に近代兵器を持ち込んでくるような作品と違って全く無双とか出来ないんですよ。拳銃とかアサルトライフルとか程度は、鼻で笑う豆鉄砲。そもそも、小火器類は最初から出番すらありませんからね。
初手『ブローニングM2重機関銃』である。12.7ミリ徹甲弾。最初からもう対人兵器の範疇はみ出してるんですが。いや、最初は人間相手じゃなくて魔獣相手というのもあったのですが。
これがいきなり通じない! 初っ端重機関銃持ち出して速攻効かないって、なんぞそれ!?
と、このこの時点で現代兵器無双とは程遠い、ある意味ガチの戦争ものだという事を実感させられたのですが……。
マリナさん、その火力もうロアナプラの婦長じゃなくてヘルシングの婦警の方じゃありませんか!?

ともあれ、この異世界での「騎士」階級ってほんとにヤバいんですよ。この世界の戦争って下手すると現代戦よりも地獄じゃないのか。
理不尽な意味不明な理屈で攻撃が通じない、というのと違って純粋に「硬い・速い・強い」というヤバさは、シンプルであるが故に余計に強さを実感できるので、ただただ怖いんですよね。
なんというか、地べたから戦闘ヘリを見上げているような、対地攻撃機に追い回されるような圧倒的な力によって蹂躙されるような怖さというべきか。
しかし、戦争映画なんかでは兵士たちはその地べたを駆け回り、建物の間を行き来し、ビルの屋上に駆け上がったり、路地を車で突っ走ったりしながら、その圧倒的な力の権化に対して抗い反撃していくのである。
硝煙のたなびく中を潜り抜け、地面を匍匐で這いずり、崩れ落ちるビルの瓦礫を乗り越えて、降り注ぐガラスで血まみれになりながら、泥水の中に身を隠し、反撃の機会を伺うのである。
工夫を重ね、罠を張り、策を仕掛け、敵を自分のフィールドへと引きずり込んで、叩き潰す。
それこそ正しく都市戦闘であり、ゲリラ戦術であり、弱きが圧倒的強者を地面へと引きずり下ろすジャイアントキリングだ。
その意味でも、本作はファンタジー世界を現代兵器で無双するたぐいの物語ではなく、武装メイドに憧れた民兵崩れの少女が、誇り高く意地汚い「戦争の猟犬」と呼ぶに相応しい戦いを繰り広げる、戦争小説なのである。

同時に、本作こそ崇高なる少女と少女の物語。ガール・ミーツ・ガールの粋である。
主人公のマリナは日本人として生まれるものの、彼女の生きた時代の日本は内乱によって分断され、軍閥とイデオロギーに支配された戦闘集団が日々理由らしい理由もなく、血で血を洗う戦争を繰り広げる地獄のような世界だ。彼女はそこで生きるために民兵となり、ひたすらに殺し殺しおのが心を絶望によって殺され、ついに体もボロくずのようになって殺された、という境遇の娘だ。
そんな彼女の憧れは、拾った漫画で見かけたキャラクター。武装戦闘メイド。確たる志も理由もなく殺し殺されを続ける日々に精神を擦り切らせた彼女にとって、武装メイドとは心より敬愛する主人の為に戦うという、胸を張って生きることの出来る、誇りを持って戦うことの出来る、そんな職業だったのだ。今の糞みたいな生き方をしている自分にとって、手の届かない夢。
そんな世界と自分に絶望しきった彼女の魂を、引き寄せ形の体に定着させたのがエリザベートという没落した貴族家の娘であった。
マリナは少年兵として気がつけば兵士として戦っていた娘だ。メイドの経験なんて漫画で呼んだ程度の知識しかない。
エリザベートは、貴族家の娘だけれど今は人一人雇うことの出来ない没落した身の上だ。
二人共、メイドとしても主人としても初心者以前の問題。はじめましてのはじめて同士。生まれ変わっても野良犬だったマリナにとって、エリザは落ちぶれたにも関わらず理想にしがみつく頭お花畑の気に食わない偽善者に過ぎなかった。
そう、見えたのだ。最初は。
これはそんな最初からすれ違った少女たちが、お互いの本当の姿を見つけるお話。
この巨大な理不尽が当たり前のようにまかり通る地獄のような世界で、折れず曲がらず気合い入りまくり、根性据わりまくり、覚悟も矜持も信念も極まりきったイカレてイカした少女たちの心がこれ以上無く共鳴するお話。
エゴとエゴがぶつかって衝突して、混ざり合って溶け合って、そうやって出来上がるのは無二の親友としてのあり方だ。命を捧げあってお互いの全てを与え合う比翼の主従というあり方だ。
少女たちの尊くも微笑ましく美しくも輝かしい、この上ないガール・ミーツ・ガール。
端的に言おう。ぶっちぎりに面白かった!
熱く、痺れて、震えるほどにカッコいい。これぞ、誇り高き少女たちの戦争である。

ユア・フォルマ 電索官エチカと機械仕掛けの相棒 ★★★★   



【ユア・フォルマ 電索官エチカと機械仕掛けの相棒】  菊石 まれほ/ 野崎つばた 電撃文庫

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孤独な天才捜査官。初めての「壊れない」相棒は、ロボットだった。
★第27回電撃小説大賞《大賞》受賞作!!★
最強の凸凹バディが贈る、SFクライムドラマが堂々開幕!! 

 脳の縫い糸――通称〈ユア・フォルマ〉ウイルス性脳炎の流行から人々を救った医療技術は、日常に不可欠な情報端末へと進化をとげた。
 縫い糸は全てを記録する。見たもの、聴いたこと、そして感情までも。そんな記録にダイブし、重大事件解決の糸口を探るのが、電索官・エチカの仕事だ。
 電索能力が釣り合わない同僚の脳を焼き切っては、病院送りにしてばかりのエチカにあてがわれた新しい相棒ハロルドは、ヒト型ロボット〈アミクス〉だった。
 過去のトラウマからアミクスを嫌うエチカと、構わず距離を詰めるハロルド。稀代の凸凹バディが、世界を襲う電子犯罪に挑む! 
 第27回電撃大賞《大賞》受賞のバディクライムドラマ、堂々開幕!!

おおっ、SFだ! 設定がどうのじゃなくて、作品の雰囲気がライトノベルでありつつも「ハヤカワ文庫」風味が効いてるんですよね。敢えて言うなら、【マルドゥック・スクランブル】風味というべきか。
いや、設定も非常に硬派の近未来SFとしての根が張り巡らされていて世界観だけでもとても読み応えあるのですけれど、そこにガッツリとした外国ドラマ的な刑事バディもの、クライム・サスペンスとしての要素が満載されているので、作品の雰囲気そのものが洋風なんですよね。変に緩い和テイストを混ぜてないのも硬め感があって直球のSF作品としての体となっている。

また、物語の主体が電子犯罪の追跡にある一方で、ガンガンと主人公のエチカの内面へと切り込んでいく登場人物の心理面を丹念に掘り下げていき解体していくテイストになってるんですね。
キャラクターのトラウマ、精神的な傷をグリグリと抉りあいぶつけ合うという、精神的な殴り合いみたいなバディの衝突というべきかコミュニケーションというべきか、ともあれそうした一種の容赦ない対立をもって人間関係を構築していく、そして個々を掘り下げていく手法というのは外国ドラマや外国小説のバディもの、近未来SFでも人間にスポットをあてた作品なんかでは顕著に見られるパターンだけに、余計に洋モノの味わいを感じるのかも知れません。

それはそれとして、エチカの相棒として派遣されてくるアミクス…ここではアンドロイドやロボットというべき機械じかけの存在であるハロルド。彼は人間の隣人にして親愛なる友人たるべき存在として定義されているアミクスの中でも、特別な製造品として作られた存在なのですけれど、彼個人の特別な体験を経ることでさらに特殊な個体へと成長? 進化? 発展? している個体です。
人間味が普通のアミクス以上、というだけでなくちょっとした特技なのか、名探偵めいた観察力と推理力を持ち合わせて、それに独特の話法、よく回る口をもって自分の望む方へと誘導する技法を得意としてるんですね。
それを彼は刑事としてのテクニック、あるいは探偵みたいなスキルとして振る舞っているのですけれど……よくよく見ると、或いは聞いているとこれってある種の「詐欺師」の論法なんじゃないだろうか。それもあれです、結婚詐欺師的な?
女の人をうまく騙して良い気分にさせて、自分の思う通りにコントロールして誘導してしまう、的な?
そんな彼のことを胡乱な目で見ているエチカは、アミクスという存在自体に忌避感を強く抱いている人であり、彼が相棒として派遣されてきた段階から拒絶感をあらわにし、慇懃でありながら妙に馴れ馴れしいというか「イイ性格」をしているハロルドに対して嫌悪に近いものを抱いて、かなり辛辣な対応に終始するところからはじまるのです。
そもそも、エチカはアミクスだけじゃなく、人間そのものに対しても盛大に距離を置いていて、幼少からのネグレイトを主体とした虐待の体験から、深い心の傷を抱いている。人と接するのを毛嫌いしている、或いは恐怖に近いものを抱いているのかもしれない。最初から諦めていると同時に、刺々しい対応をとることで相手からも拒絶されることで、安心感を抱いているような……それでいて孤独感に震えている。人を遠ざけながら、どこかで人を求めている。アミクスへの拒絶感も、かつて父と暮らしていた頃のことが深く絡んでいるんですね。
ともあれ、自身の孤独に翻弄されている、独りである事を強く望みながら独りである事に耐えられない寂しさを抱いてしまっている、そんな女性だ。
こういうハリネズミみたいな人は、決してチョロいとか絆されやすいとかとは程遠い、一種の難しい人間である。この手の人の内側に入るのは容易ではない。
容易ではないのだけれど……往々にしてこういうタイプの人ほど結婚詐欺のカモになりやすい、というパターンだったりするんですよね。
チョロくはない、チョロくはないよ? でも、正しい手順を踏むとびっくりするくらい、コロッと行っちゃうのだ。非常に押しにくいところにあるけれど、押してしまうとコロッと全面反転してしまうスイッチがあったりするのだ。
そして、ロボットにして結婚詐欺師(違)な手法に長けているハロルド氏の登場である。
……なんかこう、エチカさんまんまと餌食になってませんかね、これ?
ハロルドがその心の深奥にそれはもうドロドロとした情念を抱えていて、エゴイスティックな目的を持っていて腹黒一直線だったりするので、余計にその手管に絡め取られてしまった感ががが。
ただ、本来人造の創造物として純真無垢な精神構造をしていただろうハロルドが、ロボットにも関わらず尋常ならざる情念を、狂気を抱えてしまうほどの凄まじい惨劇を味わってしまっているからこその、闇落ちなんですよね。かといって、本当に狂いきってしまっているわけではなく、被造物としての純真さはある意味失われていない。失われていないからこそ、彼は闇をはらまなければならなかったとも言えるのでしょう。被造物であるからこそ壊れてしまうことで、本物の心が芽生えてしまった、というべきか。元々、彼の心は本物だったからこそ、あの惨劇を目の当たりにして壊れてしまった、という順番も考えられるのですけどね。
しかし、どれほど深い情念に囚われていようとも、彼の精神は正常に動いている面も確かにあるわけで。その正常の部分が、エチカという存在に激しく反応してるんですよね。それを、恋と呼んでいいのか。少なくとも、アミクスである彼にとって計算ずくの範囲の外に見つけたそれは、とても素敵で心浮き立つものなのだろう。
不協和音を奏でていた二人が、本当の意味で心から通じ互いを認めたパートナーとなり、再出発を迎えるラストはこれからも続いていくシリーズものとして素晴らしいスタートを切ったような爽やかな幕引きで、実に心地よい幕引きでありました。
この巻ではずっとお互い探り探りで、エチカの拒絶もあって意図も気持ちも混ざり合わない重なり合わないギスギスとした居心地の悪さがずっとつきまとっていたコンビですけれど、次回以降は息ピッタリ、とまでは言いませんけど、同じ方向を向いて呼吸を合わせられる以上の関係にまでは至れたと思うので、そんな二人の事件簿を見るのは実に楽しみです。

ギルドの受付嬢ですが、残業は嫌なのでボスをソロ討伐しようと思います ★★★   



【ギルドの受付嬢ですが、残業は嫌なのでボスをソロ討伐しようと思います】  香坂 マト/がおう 電撃文庫

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強くてカワイイ受付嬢が(自分の)平穏のため全てのボスと残業を駆逐する!
 デスクワークだから超安全、公務だから超安定! 理想の職業「ギルドの受付嬢」となったアリナを待っていたのは、理想とは程遠い残業三昧の日々だった。すべてはダンジョンの攻略が滞っているせい! 限界を迎えたアリナは隠し持つ一級冒険者ライセンスと銀に輝く大槌(ウォーハンマー)を手に、自らボス討伐に向かう――そう、何を隠そう彼女こそ、行き詰ったダンジョンに現れ、単身ボスを倒していくと巷で噂される正体不明の凄腕冒険者「処刑人」なのだ……!
 でもそれは絶対にヒミツ。なぜなら受付嬢は「副業禁止」だからだ!!!! それなのに、ボス討伐の際に居合わせたギルド最強の盾役に正体がバレてしまい――??
 残業回避・定時死守、圧倒的な力で(自分の)平穏を守る最強受付嬢の痛快異世界コメディ!

 第27回電撃小説大賞《金賞》受賞作!

往々にして自分は受付しにいく側で、受付する側になった事はないのだけれど、あれはあれで大変なお仕事だというのは多少なりとも理解しているつもりである。
ただ笑顔浮かべてお客さん相手に受け答えしているだけじゃないのだ。受付業務というのは、まーあれやこれやアホみたいに事務処理だのなんだのが積み重なっているものだというのはよく聞く話。お客さん相手に話しているのなんて氷山の一角なのである。そのへん、ちゃんとわかった上で敬意と礼節をもって接しましょうね。
なんて言っても、受付カウンターを隔てたあっちとこっちはまさに別世界。あちら側の苦労や悩みなんてのはどうやったって理解はされないし、理解も出来ない。
冒険者なんてヤクザで夢見がちな職業に人生賭けている連中は、当然「価値観の隔たり」なんてものは概念すら知らないだろう。受付カウンターの向こうでニコニコと笑っている受付嬢たちの笑顔の下で一体どんな罵声と呪詛と怒声と怨念が飛び交っているか、なんてのはまー想像すらしていないに違いない。
……こういう荒くれ者相手の受付業務って、平素でも結構なハードワークだと思うけどなあ。しかも単純な肉体労働者ではなく、冒険者というのは命かけて切った張ったをしている連中でもある。見知った人が突然来なくなることも度々だろうし、直接死亡報告が飛び込んでくることもあるだろう。救援要請依頼、なんてのもあるかもしれない。必然、受付嬢って人たちはお得意様の死を間近で体験することの多い仕事、ということにもなる。精神的にもなかなか来るものがある職業だと思うがなあ。

アリナが選んだのは、そういうお仕事ということだ。本当に心の平穏が保てて安全で安定した仕事、というのなら選ぶ先は幾らでもあっただろう。なにげに事務処理、というのはこのくらいの文明度なら十分高等な職務にあたるはずですし。大きな商家や官庁でも普通に重宝されると思うスキルである。
にも関わらず、アリナは自由だけど不安定でローンも組めない保証のない、いつ死んでもおかしくない人たちの相手をする受付嬢を職業として選んだ。安定を、安全を望みながら、それを放り投げて生き急いでいる人たちを見送り迎え入れる仕事を選んだ。
最初、特に難しい理由があるとは思っていなかったんですけどね。単純に話として面白いから、ギルドの受付嬢というのを主人公にしただけの、メタな理由しかないお話だと思ったんですけどね。
でも、アリナにはアリナなりに、ずっと冒険者という人たちを間近で見続けたい、という彼女自身意識していたかどうかわからない、ちゃんとした彼女なりの理由があったわけだ。
なんらかの形で、カウンターを隔てていたとしても、冒険者という人たちと関わっていたい、という願いが彼女の中でポゥと火を灯していたのだなあ、というのが後々になってちょっとだけわかってくるんですね。

それはそれとして、定時に帰りたい! 残業したくない! お休みの日はのんべんだらりとゆっくり過ごしたい! という切実な願いは別なのである。
残業ってほんと嫌だよね。わかるー。
いまだかつてないほど主人公に共感してしまったかもしれない。
命が掛かっているわけじゃないかもしれない。人生の行く末がかかっているわけじゃないのかもしれない。でも、早く家に帰りたい!! という願いだって、心の底から吹き上がるような鮮烈で強烈で切実で迫真に迫った願いなのである。心の叫びなのだ。切羽詰まって、悲鳴のように響き渡る魂の絶叫なのだ。
それがその日、街の中で誰よりも何者よりも強く強く心の中で願われた願いだとしても、さもあらん、としか思いませんな、はっはっはっ。

なんでそれが、攻撃系スキルになって与えられるのかはよくわかりませんが。
ただ、アリナのスキルの活用法を見る限りでは、神様の意図は的外れではなかったようなんですよね。パワーあげるから自力でなんとかしんしゃい、ってなもんにしか思えませんけどw
ただ、パワー与えられたからって、それを使って業務滞る原因となってるモンスターやダンジョン、取り敢えず自分でぶっ壊しにいって、すっきり滞りをなくして定時帰れるようにしましたー、という風にヤるのって、それはそれでこうなんというか、別方向に働いてませんかね、これ?
休みの日とか退勤してからいそいそと出かけていって、暴れ倒してくる、という行程、これはこれで勤勉なような気がするなあ。わりとサービス労働じゃないですか、これってw

しかしこのアリナさん、神域スキルが使える身ではありますけれど、生粋の受付嬢なんですよね。
ギルドの受付嬢が実は強い!みたいなパターンの話はそれなりにあったと思うのですけど、そういうキャラってだいたい前職が冒険者とか英雄職で実績をあげていて、それがひっそりと隠居したり転職したりして受付業務につくようになった、というパターンでつまり技術職とか現場職からの転向組で、受付相手の事はよくわかっている。戦闘なんかも経験者、なのですが。
アリナさん、別に冒険者でも何でもなかっただけに、実はこれ素人なんじゃないの? 素人でも押し切れる人外魔境のパワーゆえのゴリ押しプレイ、みたいな所があってなんともはや。いやアリナ当人も真面目に冒険者したりダンジョン攻略しようとしているわけではなく、業務の滞りを解消するため以外眼中にないので、これでいいのかもしれないけれど。
正体を知ったにも関わらず、それまで「処刑人」をパーティーに引き入れようと運動していたのに、アリナが本当に嫌がっていると知ったらピタリと勧誘をやめたジェイドくんはなかなかのイケメンだと思う。
それはそれとして、かわいい女の子だったので欠かさずちょっかい掛けにいくようになったのは、ストーカーとまでは言わないけれど結構しつこい系男子ですよね、こいつ。
それでなんだかんだと絆されてるアリナさん、チョロいとは言わないけれどわりとうん、そうだね、こういう余分なものは眼中に入れようとしない娘は、無理矢理にでも眼中に押し入っていないとそもそも意識もしてもらえないだけに、彼のやり方は相応に成功だったのかもしれない。

ただ、お話としては1巻できれいに纏まっているものの、発展性があんまりあるように見えない、個々の主だったキャラクターはみんな書ける所書いちゃったようにも見えるので、続けていくにしてもどう話を広げていくのかちょっと心配ではある。

貴サークルは"救世主"に配置されました ★★★☆   



【貴サークルは"救世主"に配置されました】  小田一文/肋兵器 GA文庫

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GA文庫大賞《金賞》受賞作
100部売れなきゃ世界が滅ぶ!? 同人誌に懸ける青春ファンタジー
「ずっと……ずっと、あなたを探していました、世界を救うために」
自分の同人誌によって、魔王の復活が防がれる。突如現れた女子高生ヒメにそう諭された同人作家のナイト。
ヒメの甲斐甲斐しい協力のもと、新刊制作に取り組むのだが……
「えっ、二年間で六部だけ……?」
「どうして『ふゆこみ』に当選した旨を報告していないのですか?」
「一日三枚イラストを描いて下さい」
「生きた線が引けていません」
即売会で百部完売しないと世界が滅ぶっていうけど、この娘厳しくない!?
「自信を持って下さい。きっと売れます」
同人誌にかける青春ファンタジー、制作開始!

これ、誰にとっての青春かというと、ナイトよりもヒメの方かもしんないね。
同人誌即売会で100部も同人誌を売らないと世界が滅ぶ、なんてフレーズを聞かされると、ついついコメディよりのラブコメで、その世界の危機というのもゆるい感じの話しなのかな、と思ってしまうのですがどうしてどうして。

ガチで人類滅亡じゃないですかー。

人類文明そのものが崩壊しちゃってるし、種の存続そのものがヤバいことになっちゃってるし。ガチのアポカリプスである。
それも予測ではなく確定未来。ヒロインのヒメが実際に何度も体験してきた正史であり、タイムリープによって何度も何度もやり直した末にそれでも変わらなかった未来、という当事者実体験済みの代物である。
いやこれが、なんで同人誌売るのと関係してるんだよ? と思うくらいのシリアスさである。
これでいきなりヒメが、同人誌100部完売してください、でないと世界滅びるから! と押しかけてくるトンチキならコメディ路線一直線なのですけど、ナイトを探して訪ねてきた時はヒメ自身も彼が世界を救うための重要な鍵となる人物であり、救世主なのだ、という事実は知っていても、彼がどのような役割を果たして世界を救うのかはわかってなかったんですよね。
彼女も最初は、ナイトがとてつもない力を秘めた勇者様的な救世主だと思っていたようですけれど。普通はそう思いますよね。強大な「人類の敵」を打ち破るのにはそれ以上に強力な力を持った存在の助けが、と考えるのは破壊と死が渦巻く戦場でずっと生きてきた人間にとっては当たり前の思考のたどり着く果てなのでしょう。
しかし、ようやく見つけた救世主には、何の力も秘められていなかった。
このあと、ヒメがナイトの住むアパートの隣に引っ越してきて、彼の同人誌づくりを手伝い始めるまでにはしばらく間がある。
同人誌なるものの存在すら知らず知識を持たなかった彼女が、それを調べるまで。自分が仲間からもらった最後の、「ナイトと彼の所属する星霜煌炎騎士団同盟が世界を救う。ナイトを支えることが貴女の役割」という預言を、ナイトが同人誌を作ることを支え守ることが世界を救うことに繋がるのだと解釈して、自分の使命を果たすために訪れるわけだけれど。
そんな解釈に至るまでにヒメの中にはどれだけの葛藤があっただろうか。そもそも、ナイトに何の力もないと解った時に絶望を感じなかったわけがないだろう。あれだけストーカーじみた事までして必死に脇目も振らずナイトの存在にたどり着き、彼のもとまで押し掛けてきた彼女である。それが素直に一端引き下がった、というのはそれだけ彼女も混乱しショックを受けていたとは考えられないだろうか。
ヒメがそれでも諦めず、自分が仲間から託された預言を必死で解釈し直してこじつけでも無理矢理にでも納得できる理屈をみつけるまで、決してすんなりいったとは思えない。
そもそも、売れっ子でもない即売会で一部も売れない事も少なくないなんて底辺同人作家の同人誌作りを手伝って、それに何の意味があるのか。同人誌、という存在自体を理解していなくて即席で知識を身に着けたことが逆に偏見を抱かなかった、というのもあるんだろうけれど、もうヒメに預言を疑うだけの余地が、余裕がなかった、とも言えるんですよね。
それだけ、彼女は絶望を繰り返してきた。世界の破滅を目の当たりにしてきた。人類が滅ぶ光景を目にしてきた。何度も何度も、大切な仲間たちが目の前で死んでいくのを、自分の腕の中で冷たくなっていくのを体験していた。
これが最後だと、本当に最期だと思い定めてきたタイムリープである。果たして、平和な時代を生きてきたナイトには想像もつかない感じ取ることもできない狂気が、不退転の覚悟が、彼女の中に蠢いていたとしても全然不思議ではないんですよね。
それ以上に、ヒメにとって預言を託して逝った仲間である、恐らく年齢としてはだいぶ下になるだろう妹みたいな娘であったクラリスという子の遺した言葉を、預言を、疑うなんて出来なかったのだろうけど。

100部、という部数はヒメやナイトの間から出た数字ではない。たまたま、仲の悪い同業者とのトラブルから偶然飛び出した条件だ。しかし、それを目標とすることで彼らは具体的に達成に向かって動き出すことになる。
それまでは、ヒメのナイトへのお世話、日常生活のサポートや同人誌制作のお手伝い、というのはどこか責任感とか義務感に後押しされたものであって、熱量のベクトルはあくまで世界を救うため、あの未来をもう見ないため、というベクトルに向かっていて、必ずしもナイト個人や同人誌というものに向いていたわけじゃないと思うんですよね。
でも、具体的な目標が定まってそれに向けて、プラス1名加わった二人だけのサークル「星霜煌炎騎士団同盟」が動き出したときから、ちょっとずつヒメの意識は変わってくるように見えるのだ。

これまで何度も何度も、彼女の言葉を信じるならば延べ数百年にもなるだろう長い長い時間、繰り返し繰り返し、「魔王」の送り出す正体不明の怪物と戦い続けてきた、戦うことが、破壊と死がいつも隣り合わせで日常だったヒメにとっての、もう思い出せないくらい昔に遠ざかっていた平穏な日常。一つの目標に向かって、毎日毎日ドタバタと大騒ぎして、時に大声を張り上げて意見をぶつけ合い、主張を叩きつけ合いながら、仲間たちと一心不乱に邁進する日々。それは確実に、ヒメの中の熱量の向かう先を変えていく。脇目も振らない、振る余裕もない切羽詰まっているのが常態だった日々が、いつしか「夢中」のなかに埋もれていく。
それは、時守緋芽にとっての、間違いなく青春だったのだ。数百年越しの遅れてきた青春。

これ、本当は主人公ってヒメの方じゃなかったのかな、とすら思えるほどに、彼女は生き生きとしてウンウンと唸るナイトの背中を叱咤激励する。
未来では共に戦った戦友の、平和だった頃の想像もしなかった思わぬ姿を目の当たりにして、でも中身の芯の頼もしくも一本気通った所は何も変わっていないのを実感して、地獄のような未来がどれほど多くの人の将来を歪め潰えさせてしまったのかを改めて実感する。
また今の自分と同じように、いやそれよりも遥かに入れ込んで自分の趣味に、好きな事に夢中になって一途に直向きに邁進した結果を持ち寄ったコミケットというイベントの凄まじい熱気を、集った人々の尋常でない数を目の当たりにして……平和だからこそ人はこんなにも好きな事に打ち込める、こんなにもいっぱいの人たちが夢中になって好きな事に挑める。お祭りだ。こういうものが、自分が守ろうとしてきたものなんだ、と。
ずっと戦ってきたいつしか擦り切れて摩耗してわからなくなっていた平和、いつしか自動的に妄執的にただ世界を救うのだと思い定めて突き進んでいたことを実感し、その救おうとしていた世界がどんなものだったのかを、今こうして思い出し噛みしめることが出来たことに喜びを感じる。
責務でも義務でも使命でもない、ただ心からこの世界を守りたいと思えた。

ヒメとナイト、二人三脚の努力に他にもデスメイドなど手助けしてくれる人たちの友誼も加わり、今までろくに売れることがなかった同人誌が、はじめてどんどん売れていく、その流れと熱を逃さないようにナイトがさらに力を振り絞ってスケブなんかをスタートして場を盛り上げていくという熱さと、会場の外で思わぬ敵からの横槍を未だかつてない意気込みで世界を守るという願いを叶えるために激闘するヒメの熱量が、折り重なって上昇していくクライマックスは実に素晴らしい流れでありました。
トンチキな条件に思えた、同人誌100部売らないと世界が滅びる、逆に言うとナイトが同人誌100部売ったら世界が救われる、という条件がちゃんと真っ当な意味を持っていた。それが本当に世界を滅ぼす、あるいは世界を救う鍵でありきっかけだった、という所なんぞはストーリー展開としてピッタリとピースがキレイにハマる感覚があって、うん良かったです。

これ、続くとなると妙にハードルあがりそうな感じもあるのだけど、これ1巻でもうまく纏められていて面白かった。

魔王2099 1.電子荒廃都市・新宿 ★★★★   



【魔王2099 1.電子荒廃都市・新宿】  紫 大悟/クレタ 富士見ファンタジア文庫

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統合暦2099年――新宿市。究極の発展を遂げた未来都市に、伝説の魔王・ベルトールは再臨した。巨大都市国家の輝かしい繁栄と……その裏に隠された凄惨な“闇”。新たな世界を支配すべく、魔王は未来を躍動する!

これはまた、やりたい事ごた混ぜにしてやってやったぜー!感があって好きだなあ。
伝統的魔王と勇者の戦いに破れ、滅び去った魔王ベルトールが500年の時を経て復活してみれば、そこは見慣れたファンタジー世界アルネスではなかった。かと言って、単純に文明文化が発展して技術水準が上がった「現代系異世界」でもなく、異なる次元の魔法のない科学文明世界「地球(アース)」でもない。
そこは、別次元同士の衝突によって生じた魔法文明惑星アルネスと機械文明惑星アースが融合した世界。異文明の衝突によって起こった大戦争によって、神も国家も秩序も滅び崩壊し、魔法と科学の文明が融合して発展して80年の月日が流れた未来世界。
ファンタジーも現代も通り越して、魔導と電脳が支配するオカルトサイバーパンクと化した世界。人間も魔物もすべてがファミリアと呼ばれる電脳具を体内に装着してネットワークに繋がった電子都市・新宿。
そんな見知らぬどころじゃない、見たこともない考えたこともない想像すら出来なかったわけのわからない世界に放り出された旧世界の魔王の明日や如何に。

不死の魔王として数千年に渡って君臨し続けた魔王ベルトールは当然一般ピープルに紛れるような言動は出来ないわけで、尊大にして傲岸……シンプルにいうとどこのお大尽かというような偉そうな物言いしか出来ないのですけれど、別に物事の道理がわかってなかったり現状についていけない、というような周りが見えてない人ではないんですよね。
世界征服の志こそ失わなかったものの、この新宿という場所が自分の想像もつかないロジックで成り立っている世界で、自分がまったくそれについていけていない事もちゃんとすぐ理解しますし、いくら魔王と名乗っても誰も相手にしてくれない事も勿論わかっている。
そもそも彼ベルトールは、魔王と言っても邪悪の化身というわけではなく、不死人と呼ばれる様々な要因で不死者に至った者たちの王、という立場であって、世界征服も自分の野心や欲望という以上に理念のため、という人物なのである。
だから、王としても崇められて当然、奉仕されて当然、というような傲慢な意識は持っていなくて、忠節に対してはちゃんとそれに相応しい報いを与えてやらなくてはいけない、という部下に対しての責任感も感謝や情も持ってるんですよね。また、直接自分に関係ない相手でも自分を助けてくれたり、何かを与えてくれたら、この魔王素直にお礼言えるんですよね。
多分、道を訪ねて教えてくれてもちゃんとありがとうと言うだろうし、道すがら落とし物をした時拾ってもらっても「ありがとう助かった」と言える人物なんですよね。こういう人として当たり前の側面を備えているのは、何気に大事なところだったように思います。
かつて魔王全盛期だった頃は、権力者特有の酷薄さや残酷さを持っていたようですけれど、そういう当たり前の部分は新宿に復活して苦労してから身につけたものではなく、そもそも備え持っていたものなんじゃないかな。
だからこそ、500年ずっと待ち続けて自分の復活を助けてくれたかつての側近、マキナが魔王軍の崩壊や「現想融合」と呼ばれる次元融合事件や世界大戦を経て、長きに渡って苦労し、今や小さなプレハブ規模のアパートメントの一室に居を構え、日銭を稼いで糊口をしのぐような生活を送っているのを目の当たりにした時。
魔王たる自分を迎えるのにこんな惨めたらしい環境しか用意できないのか、みたいな不満や哀れみを覚えるのではなく、こんな苦労をしてまで自分を復活させてくれたことに深い感謝と、こんな辛い日々を可愛い部下に送らせてしまったことに感極まって謝罪と労りを込めてマキナのこと、ギューッと抱きしめるんですね。
その直前、ベルトール自身、かつての臣下に裏切られ、自分が時代遅れの存在だと突きつけられ、誇りも矜持も打ち砕かれて惨めな思いに打ちのめされていたのも大きかったのでしょう。自分が今味わっている惨めさ、屈辱に倍するものを、この少女然とした腹心は500年に渡って味わい続けた、辛酸を舐め続けた。その上でなお、自分の復活を待ち続けてくれた。激動の時代を生き続けたマキナは、きっとベルトールが復活したとしてもかつてのように魔王として君臨する事も復権する事も難しいかもしれない、とわかっていただろう。それでも、魔王としての価値を喪っているだろうベルトールを、迎えてくれた。かつてと変わらぬ忠義を、親愛を、捧げてくれた。その価値を、重さを、掛け替えのなさを、ちゃんとこの魔王様は十全理解し感じ取ってくれたんですよね。マキナも、これほど報われたと思えることはなかったでしょう。ベルトールのこういう人間味の在るキャラが好ましくてねえ。
ここでマキナに衣食住全部任せて、お前が働いて養え! と魔王ならぬヒモにならず、速攻でとりま生活のために働くぞ! となるところ、ベルトール偉いと思うし何気に適応力高いですよね。
マキナとしては、ワンルームに魔王様とたった二人きりの睦まじい生活、というだけで満たされていたみたいですけど。むしろ、ヒモになってほしかったんじゃw
まあ案の定、面接で片っ端から落とされて存在全否定された就活生みたいになってしまうのですが。就職活動、あれほど自分の存在価値を見失ってしまうものないもんなあ。イオナズン・ネタをここで見ることになるとは思わなかったが。

でも、攻殻機動隊の電脳化に代表されるようなサイバーパンクの定番とも言える脊髄に装着する情報端末、ここではファミリアと名付けられた魔導機器となっていますけど、こういうネットワークに接続していないと身分保障も仕事も得られない、というのはディストピア感がありますよね。
そして、スラムにたむろする身体の違法改造を施した半機械のアウトローたち。この中に、オークやゴブリンといった魔物たちが当たり前のように混ざり、電脳ハッカーが情報屋としてビルの一角に棲家をこしらえて潜んでいたり。やっぱりこういうサイバーでオカルトな世界観、好きですわー。
そして、そんな世界のネットワークで、ユーチューバーとして生計をたてはじめる魔王様w
人気配信者になってるし。魔王のカリスマをそんなところで発揮していいのか、おい。

ただ、魔王としての力を取り戻すには信仰度という認知が必要らしく、ポジティブでもネガティブでも認識され強い感情を向けられることで、それぞれ正と負の信仰の力を得られるという寸法なので、ネットワーク上で知名度をあげる、というのは見事に時代に適応している、と言えるのかもしれない。
そして、幾ら技術的にいくら時代遅れになろうと、彼が魔導師として天才を越えた存在であることは変わりなく。時代遅れ、なんてのは過去に固執さえしていなければ、時間さえあればいくらでも更新していけるんですよね。ベルトールの場合、一々発展史を丁寧に辿らずとも、理論さえ理解すれば容易にブレイクスルーしてしまえる、どころか新たな理論に到達できる、というあたりやはり本物の化け物なんだよなあ。

この時代まで生き延びて、目的も見失って流浪していた勇者との再会や、魔王としての在り方の変化など、新たな時代に復活して自分の価値を見失い辛酸を舐めたからこそ、かつての魔王としての自分とは違う、新しく見出したもの、ベルトールとして大事に思えるものが出来る、というあたりこそ、物語の主題だったようにも思うのですけれど、ちょっとそのあたり突き詰めきれずに物語の進行の流れに任せてしまったかな、と思う部分もありました。
マキナとの二人きりの狭い部屋での生活、ちゃぶ台囲んで過ごす日々の様子、もうちょっと見てみたかった気もしますし。
まだ未登場で行方不明の六魔侯たちも、ただ不死狩りから身を隠している、という風でもないですし、裏切った臣下もずっと秘めていた野心を開放した、というだけではない何らかの事情もあったようですし、むしろここからさらに世界観も広げていく余地もありそうで楽しみ。
ベルトールさまのキャラが本当に良かったので、サイバーパンクな世界観を発射台に、主人公をはじめとしたキャラの魅力を推進力に、ここからグイグイと面白くなって欲しいものです。期待したい♪

俺とコイツの推しはサイコーにカワイイ ★★★   



【俺とコイツの推しはサイコーにカワイイ】  りんごかげき/DSマイル GA文庫

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「お前ッ!! いつからギンガちゃんの正体に気づいてた!?」
俺こと、南アズマは電脳アイドル『∞ギンガちゃん』の激推しフォロワー。そんなギンガちゃんの中の人は幼馴染の星夜アゲハなのだが――。

「お前じゃない!……西条院ロコよ」
もう一人の幼馴染・ロコもギンガちゃん推しと判明し、俺たち二人でこっそり応援しようと結託するが??

「ふふ……心から、愛しあっている」
なぜかアゲハちゃんは俺×ロコが【恋人同士】と勘ちがいしちゃう!?

すれ違う幼馴染たちは本当の友達になり、ギンガちゃんをメジャーにできるのか?
これはネットと現実が交差する、ぼっち三人組の交信録。
第12回GA文庫大賞<銀賞>作品。

こ、これって幼馴染なのか? 馴染んでないぞ? 全然馴染んでませんよ!?
正直、これだけ疎遠……昔は仲良かったけど大きくなって疎遠になりました、じゃなくてはじめから今までずっと疎遠! 仲良くないどころか、ろくに話したこともない、というのは果たして幼馴染と言えるのだろうか、と最初真剣に首を傾げてしまいました。
とは言え、小さい頃から同じ学校同じクラスだった三人。アズマとロコとアゲハは、生来のボッチ気質ということもあり、友達同士でグループ作ってー! というアレ、あれをやられると見事に毎度余ってしまう屈指の三人だったがために、幼い頃からなにかと三人一緒にまとめられ、一緒に行動していた、という三人でした。
それなのに疎遠て。ほとんど喋ったことがないて。……逆にもう、すごいな!
あらすじなどから、この作品って仲の良い幼馴染三人組が、一人がこっそり電脳アイドルデビューをしたのをきっかけに、残りの二人もこっそりファン活動をはじめて、それがラブコメに繋がっていくみたいなのを想像していたので、まさか全然仲の良くない幼馴染同士、というシチュエーションはまったく予想していませんでしたぜ。
本来、幼馴染というのはそれだけ人間関係が「完成」されている関係でもあります。ラブコメにおいては、その揺るぎない完成度を楽しむ関係でもあり、その完成された関係を揺るがすような爆弾を投下することで起こる関係の距離感の撹拌を楽しむものでもありました、幼馴染というのは。
ところが、この三人は完成されるどころかまるで始まってもいなかったわけで、アゲハの電脳アイドルデビューをきっかけにして始まったそれは、三人にとって全部が初体験だったわけです。
電脳アイドルデビューしたものの、まったくフォロワーが集まらずに、元からそれがアゲハだと知っていて追いかけたアズマとロコ以外ファンがいない、という閉じたサークルでもあったわけです。
そこで、唯一のアゲハ……ギンガちゃんフォロワー同士ということで交流することになったアズマとロコが、相手の正体を知ってしまった上で協力して推し活動をはじめるわけですが……、ギンガちゃんのファン活動とは別に、ずっと気にしていた幼馴染の一人と仮にも打ち解けて、一緒に行動することになって、という方にアズマもロコも完全にウカレてしまってるんですよね、これ。
もう距離感もむちゃくちゃ。突き放せばいいのか、ベタベタすればいいのか、さっぱり判断できずにテンパったように時につたなく、時に前のめりに交流する様子は、幼馴染の完成度なんてどこにもなく、不器用で初々しいばかりなんですよね。
孤高でいながら、実はアズマとロコのことずっと気にしてずっと見守ってきたアゲハが、二人のこと付き合いだした、と勘違いしたのこれ無理ありませんよ。街でなんかおしゃれして一緒に歩いている二人とバッタリ会ってしまった、というのが決定打ではありますけれど、以前は視線も合わせなかったのがあれだけ露骨に意識しあっている様子を学校でも見せてたわけですから、そりゃなんかあったなー、と思いますし、それだけじゃなくなんかいい雰囲気になってる、と見えてしまうのも仕方ないですよ。
実際、いい雰囲気になってたわけですし。

この三人、これだけ今まで疎遠だったのに。ろくに話もしなかったくせに。まともに視線も合わせられなかったくせに。三人とも、実はお互いの事よく知ってるんですよね。ずっと、相手のこと気にして見続けていたから、相手がどんな人かすごくわかっちゃってるんだ。
だからこそ、アゲハが電脳アイドルはじめたのも速攻気づく、というかその前身であるブログからずっとチェックしていたわけですが。アズマもアゲハもロコのやたらと攻撃的な理由も、その本質が臆病でメンタル弱々な所もちゃんと知ってるし、ロコもアゲハもアズマがどういう男の子かちゃんと知っている。もちろん、アズマとロコは自分たちが推しまくってるギンガちゃんの中の娘がどういう娘か知っているから、あの娘が大好きで応援しているわけだ。
でも、三人ともお互いが自分のことを知っている、見ている、気にしているなんて微塵も思っていなかった。お互いを見つめ合う勇気を持てなかったからこそ、今までずっと疎遠なままだった。
それが、アゲハが自分を変えたいとはじけた電脳アイドル活動をきっかけに、それを追いかけた残る二人が勢い余ってぶつかって、お互いが相手のことをどう思っていたのか、知ることになるのである。
自分のことをわかってくれている、と知ることは、勇気の後押しになるんだなあ。

個人的に、どうしてもあの主人公アズマの茶化したような口語の一人称、合わなかったんですよね。真面目なシーンでも本人は真剣なのかもしれないけれど、茶化したようなふざけたような軽薄なノリと口調で浮ついたように語っていくので、なかなか話にも入り込めなくて、正直読みづらくはありました。
電脳アイドル……Vチューバーのことなんでしょう。これも、さっぱりわからなくて、ギンガちゃんの動画面白いのかどうか全然わかんないし、推しコメントのほうも面白味があってノリのよいというものではなくて、正直何が推しポイントなのか本当にわかんなかったんで、これに関してはわかりませんでした、としか言いようがなく……。
ただ、幼馴染とはとても言えない昔から一緒にいる機会の多かった顔見知りが、本当の意味で幼馴染となり、友達になり、とてもとても固い絆で結ばれるお話としては読み込ませられるものがあったと思うのです。
唯一二人だけ、はじめた時からずっと見ていてくれて、応援してくれていて、ずっと支えてきてくれたファンが、ずっと気にしていつか仲良くなれたらと思っていた幼馴染二人だった、と知ったときのアゲハの想い。あの、ギュッと抱き竦める抱擁がすごく伝えてくれるんですよね。あれは本当に良かった。良きよ、良き。

竜歌の巫女と二度目の誓い ★★★★☆   



【竜歌の巫女と二度目の誓い】  アマサカナタ/ KeG GA文庫

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大切な誓いはね。
違えた時に“呪い"になるの。

これは果たされなかった誓いを巡る
再会と約束の物語。


「私を守ってくださいますか」?
かつて幼き騎士ギルバートと誓った約束は呪いへと変わり、竜歌の巫女は名もなき少女となり再びこの地に生を受けた。
少年に裏切られ、全てを呪いながら生涯を終えたこの世界。十二年の月日が経ち、生まれ変わった少女は奴隷として売られそうになっているところ、青年となった騎士ギルバートに拾われる……それは彼女にとって望まぬ再会。ルゼという名前を与えられ、やがて始まった彼の屋敷でのメイド生活。新鮮な日々、暖かい人たちとの触れ合いと久々に訪れた優しい時間は止まっていたルゼの時間をゆっくりと動かし――。
世界を呪った少女と英雄となった騎士。誓い合った二人が、輪廻を超えて再び巡り合う再会と約束の物語。

傑作。
これだけ、登場人物の心の内側を掘り下げてくれると読み応えがあるなんてものじゃなかった。それに内面と言っても、単純に直滑降に掘り下げてそこから見えない感情を汲み出していくものではなくて、矛盾……そう、相反する矛盾した想いを抱えたまま二度目の生を生きる主人公である少女の心の行方を描ききった傑作でした。
竜たちと通じる一族として繁栄しながら、圧政を敷き悪徳を振りまいた領主一族が、ついに蜂起した民衆によって族滅の憂き目にあったその中に、彼女は居た。
竜歌の巫女。領主の末娘であり、竜たちと交感する能力を継いだ巫女として隔離され、孤独に過ごしていた少女は、革命の折に領主一族の血を引いている事から囚われ、一年の牢獄に閉じ込められた後に断罪の場に引き出され、領主の血を引くという罪によって処刑される事になった。
一族からは遠ざけられ、人里離れた館に隔離されて生きてきた彼女は圧政について何も知らず何も関わりなく、ただ悪徳の一族の血を引いているというだけで、民衆から責められ詰られ罵声を浴びせられ、咎人として殺されることになった。何もしていないのに、何の恩恵も受けていなかったのに。
そして、彼女を捕らえ彼女を殺すのは、館で暮らしていた穏やかな日々に彼女の元を訪れ、親しくなり、やがて誓いを交わす間柄になった少年でした。何があっても絶対に守ると、世界中が敵になろうと自分だけは味方になると、そう騎士の誓いを交わした少年は、革命の立役者たる英雄の弟として、断罪者として処刑台の上で彼女の前に立ったのです。
幼い少女の無垢な思いを、淡い思慕を、踏みにじる裏切りでした。彼女にとって紛れもない理不尽であり、何もかもを信じられなくなる絶望でした。優しく穏やかだった少女の心に、憎しみが宿ることに何の憚りがありましょうか。自分の預かり知らぬ理由で人としての尊厳を踏みにじられ、石を投げられ、言葉で傷つけられて、どうして怒りを抑えられるでしょうか。
呪いあれ、呪いあれ。真っ黒な感情に塗りつぶされながら、彼女は少年を、自分を殺そうという民衆を、こんな末路を負わせた世界を憎みながら、呪いながら、壮絶な自死を選ぶのです。
魔法で、自らの首を切り落とすという凄まじい死に様を、少年に見せつけながら。

さながら、魔王でも生み出してしまいそうな一つの結末からの、生まれ変わり。
記憶はすべて前から引き継がれ、しかし竜と意思を疎通する竜歌の巫女としての力は喪われ、目覚めた場所は自分が死んだ街のスラム。そこで一人、這いずるように孤児として生きながらえながら、彼女は自分の血族によって荒廃し人々が死んだように生きていた灰色の街が、みるみると力を取り戻し、人々の顔に笑顔が浮かび、活気があふれ色彩をおびていく街の姿を、新たな生の中で見続けるのです。再生の、恩恵が殆ど受けられない底辺の世界から、見上げるように見続けたのです。

怒りも憎しみも、消えては居ない。でも、革命はきっと正しかったのだ、という納得が彼女の中に生まれていきました。人々の間に笑顔が戻っていく様子を見て、自分はどうしても死ななくてはならなかったのだ、という理解が得心が、彼女の中に根ざしていきます。
裏切りは悲しく辛く、悔しく、どうしたって許せない。でも、彼の行動はきっと正しかった。人々は彼の行いによって救われた。自分には、確かに罪はあったのだ、と。
ならば、生まれ変わってしまった自分は何なのか、という疑問が彼女の中でずっと渦巻くのです。
存在自体が罪として裁かれたのが正しいのなら、この身に生きる価値はあるのだろうか。
疑問を抱え、生まれ変わってしまった事に迷い苦しみ、何も選べず何も決められず彷徨うように生きていた彼女は、12年の時を経てついに再会してしまうのです。
かつて少年だった、そして今、青年となった、この街を統治する身となった彼に。

憎しみの対象であり思慕の対象であった彼、ギルバートとの再会から、彼に引き取られて彼のもとで従者として暮らすようになってからの、彼女の中で生じる葛藤の複雑さ、その懊悩を丁寧に紐解いていく描写は、凄まじいものがありました。
ギルバートのことをどう捉えればいいのか、ルゼと名付けられた彼女自身、自分の心が分からず彼の姿に、言葉に、揺さぶられ揺れ動く様子の迫真たるや。
そうなんですよね。人の心とは決して単純ではないのです。自分でも全くわからないくらい、幾つもの側面を重ね持っている。同時に並列的に矛盾した感情が併存している。混在している。それは相反する気持ちかもしれないけれど、あるんだから、確かにそこにあるんだから、どうやったって否定できない。
時として吹き上がりそうになる怒り。ふとした瞬間に過去に帰り、胸を締め付けるかつてと同じ淡い情動。場合によっては、その相反する2つの気持ちが、同時に湧き上がってくる。それどころか、言い表せない不定形の感情としてルゼの心を締め付け、急き立てるのである。

そして同時に、そうした懊悩は彼女だけのものではなく、登場人物の殆どが抱えているものだったのですね。あの革命が、竜歌の巫女の壮絶な自死が遺したものは、悪夢の時代が過ぎ去り希望の時代が訪れている真っ最中のこの街にも根強く残っていて、人々の中にしこりとしてこびりついている。
革命の当事者たちなら、尚更だ。
そこにあるのは、後悔。多くの後悔だ。それを、皆が抱えている。
ルゼは、ギルとの再会でそれまで知らずにいた事を多く知ることで、さらに新たな後悔を得ることになる。抱えきれないほどの、後悔を抱くことになる。
こんなにも辛い思いをするために、彼女は生まれ変わったのか、と思ってしまうほどに、彼女は後悔を積み重ねていくのである。
それでも、これは奇跡だったのでしょう。彼女の再誕は、無数の後悔に縛られて囚われて、その重さに辛さに虚しさに耐えられなくなって潰えるはずだった悲劇を、回避する唯一の道だったのです。
ルゼの後悔こそが、皆の後悔という呪いを祓うために必要な鍵だったのではないでしょうか。そして、それこそがルゼ自身の清算へと繋がる橋だったのです。
あの日、わからないまま突き放されたギルバートの心の在り処を知ることで、今度こそ嘘偽り無く心から語り合うことで、怒りも憎しみも後悔も抱えたまま、それでもケリをつけることができた。
許すことを、選べた。許されたいと、望むことが出来た。
竜歌の巫女ではなく、ただのルゼとして生きることを選ぶことが出来た。
そして、彼女を本当の意味で救ったのは、この街の過去と関係ない、革命とは関係ない新しい時代に生まれ、今この時を生きている若者たち。同じメイドのリンナと人の世界に交わるようになった若い竜たちだったのでしょう。何の縛りも過去の後悔もなく、ただ純粋に心からルゼのことを守ると言ってくれたリンネ。そんな彼女と連れ添ってルゼの元を訪れた青の兄弟竜。これはきっと、タイトルにある二度目の誓い、ギルと交わした二度目の誓いに勝るとも劣らない、ルゼにとっての祝福のような守るという誓いだったのではないでしょうか。
人の心の激しさ、繊細さ、奥深さに直接触れるような一作でした。
心に触ると、心が震えるのがよく分かる傑作でした。


こわれたせかいの むこうがわ 〜少女たちのディストピア生存術〜 ★★★★☆   



【こわれたせかいの むこうがわ 〜少女たちのディストピア生存術〜】 陸道 烈夏/カーミン@よどみない 電撃文庫

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飛び出そう、この世界を。知恵、勇気そして大切なともだちの想いとともに。

《フウ》――最下層の孤独少女。
友は小鳥のアサと、ジャンク屋の片隅で見つけた、古いラジオのみ。
《カザクラ》――マイペースな腹ぺこガール。
出会った瞬間からフウを「お兄ちゃん」と慕い、陽気な笑顔でつきまとってくる。
そんな二人が出会ったここは、世界にただ一つ残るヒトの国。異形の怪物たちが支配する果てなき砂漠の真ん中で、ヒトビトは日々の貧苦を喜びとし、神の使いたる王のために生きねばならない――。
だが、彼女たちが知る世界は、全部大ウソだった。
たくさんの知恵と一握りの勇気を胸に。今、《世界一ヘヴィな脱出劇》が始まる。
第26回電撃小説大賞《銀賞》受賞作。
風の名を持つ、二人の少女の物語。

【このライトノベルがすごい2020】のランキング内に名前があがっていたのをきっかけに手にとった作品だったのですが、これがまたもうすげえすげえ作品でした。こういうきっかけがなかったらなかなか読む優先順位をあげることはなかったでしょうから、このラノをはじめとした多くの人がこれは面白いんだ!と好きな作品を持ち寄る企画は得難い出会いのチャンスなんだなあ、と実感しました。
チオウと呼ばれる砂漠の国。その最下層で暮らす少女フウは、自分の無知故に病気の母を死なせてしまう。苦しむ母のため死地をくぐり抜けて薬を貰って帰ってきた彼女を待っていたのは、母の死。でもそれは、病による死ではなく脱水症状によるものでした。母に必要だったのは薬ではなく水だったのです。でもフウはダッスイショウジョウなんて言葉を知らず、人が水と塩を必要とする生き物だということを知らず、生きるために最低限の知識すらも有していない無知で無学な子供でしかありませんでした。
それでも、母に教えられたチオウのシステムの元、ただ生きるための方法に従うことで日々を乗り越えていた彼女は、ある日なけなしの水と食料を配給してもらうための金券で、亡き母が口ずさんでいた歌と同じ歌詞のメロディが流れる「ラジオ」という機械を衝動的に買ってしまいます。
遠い過去に滅びた旧世紀のラジオ音源を、物好きな誰かが電波に乗せて放送しているのだというその古びたラジオは、ただ漠然と生きるために生きるフウの慰めとなります。
でも、それはただ心地よい音楽を流すだけのものではありませんでした。はるか遠い昔にもういなくなったラジオの中の人たちが、様々な学問の先生とともにかつて人類が持っていた多種多様な知識を丁寧な解説と説明とともに送る教育番組チャンネルだったのです。
基本的な科学知識も物理現象も社会のシステムについても、本当に何も知らなかったフウは、最初ラジオの中の先生たちが何を話しているかも理解できませんでした。意味不明な単語を積み重ねてわけのわからない理屈を組み上げていく彼らの話を、しかし彼女は飽きること無く聞き続けます。やがて、繰り返し繰り返し聞くことで一つ一つの言葉に、単語に理解が及んでいき、連鎖的に話の内容へと理解が及んでいきます。そうして、ゆっくりとゆっくりと、フウの中に知が蓄積していくのです。
彼女の中に、知識と智慧が息づいていくのです。
この世界の成り立ちを、この大地と空が織りなす世界の仕組みを、それは物理学であり地面を形作る土と砂と岩の意味を語る地学であり大気の組成であり、自分たち人間の体、人体の仕組みや医療という概念であり、心理学などに基づく人同士のコミュニケーションの方法であり、人が集まって形成される社会という存在の構造であり、人が集まることで生まれる経済という概念であり、経済活動の中で起こる様々な人間行動学であり、お金のやり取りの考え方からはじまる商売の仕組みであり、交渉や取引といった行動であり、機械や流通や金融、心の問題社会の問題肉体運動の問題。
そうした、人類という種が長い歴史の中で積み重ね学び取っていった知識を、智慧を、フウは身につけていくのです。独学で、いやラジオの中の先生たちの教えによって。彼女は貪るように知識を欲して、蓄えていったのです。
そうして、人が生きるには水と塩が必要という事すら知らなかった少女は、いつしか王都の商人たちとしたたかに駆け引きをして多大な金銭を左右するまでになってました。ラジオの電池を手に入れる僅かなお金を手に入れるのにも体中傷だらけになって必死に走り回っていた彼女が、社会を知り人間関係の機微を知り商取引の通念を身に着け、経済活動の真理を頭に叩き込み、王都の商売人たちの間でも知る人ぞ知る存在になっていったのです。

何も知らない何の知識も持たない何の智慧もない、無知で無学で無教養だった子供が。
何も知らないが故に、何も出来なかった娘が、学ぶことでここまで何でも出来るようになる。
これを「叡智」というんじゃないでしょうか。
これこそが「人類の叡智」の証明なんじゃないでしょうか。
かつての人類の繁栄が遠い過去となり、人という種族が大地の隅っこの砂漠の上にへばりつくように生きる世界になってしまったからこそ。人間社会の恩恵を何も受けず、獣同然に生きてきた娘が対象だったからこそ。
その喪われた遠い過去から届けられた人類がこれまで積み上げてきた「知」を受け取って、賢人となるフウのような娘の存在はまさに「人類の叡智」の体現者に思えたのです。叡智の結晶であり、人類の歴史の証明に見えたのです。

この感動たるや!!

人類の終末後、ポストアポカリプスのその果て。それ以上行く先のない閉塞の終着点としてのディストピア。それが、フウたちの生きる街「チオウ」の姿に見えました。
真実を覆い隠され、ウソの言葉に事実を塗り固められ、必要以上の知識を得ることを害悪として罪として定められ制限され断罪されるディストピア「チオウ」。ただ生きていくにはきっと充分で、しかし人類の可能性の行き止まり。そんな閉ざされた発展性の乏しい世界で、それでもここが自分の生きる場所だと生きてきたフウの前に、もう一人の少女が現れたのでした。
カザクラというその娘は、いつの間にかフウの生存圏の中に入り込みいつしか無くてはならない人生のパートナーとなっていきます。
どれほど賢くなろうとも、ただ自分のために生きる事は寂しいと感じるものでした。ラジオから送られる言葉によって日々賢くなっていく事は楽しみでありましたが、それでもその楽しさを共有する相手がいないことは孤独でした。
人は、誰かと共に有りたい。それもまた、人の可能性を広げるための原動力なのでしょう。
知恵と勇気と欲する心が合わされば、人は立ち止まり続けることは出来ません。チオウという街は、二人にとって真の意味で「生きる」には狭すぎる世界になっていきました。そして、チオウの側も自分たちの世界を逸脱する者の存在は、許容出来ない以上に絶対的に否定しなくてはいけない存在だったのです。
何より、カザクラには時間があまりありませんでした。今ある叡智では、彼女がこの先もフウと一緒にあり続けるためには足りなかったのです。
そこに留まっていては、可能性は途切れてしまう。あらゆる意味で、彼女たちは走り出さなければならなかったのです。
でも、果たしてこの閉ざされた世界から飛び出して、その先に望むべき世界はあるのか。喪われた過去から送り込まれてくる叡智は、既に喪われたものである以上いつかはすべてを吐き出し尽くして途切れてしまうのでしょう。果たして、外に飛び出しても可能性は続いているのか。
「人類の叡智」は終末のその先にもまた、羽ばたいていけるのか。

フウたちを全否定して追いかけてくるチオウの社会を維持するための部隊に追われ、カザクラ自身の時間も限界に近づき、絶望がひたひたと迫る中、それでも足掻き外の世界が存在する証拠を見つけ、外に飛び出すための資金を稼ぐために大企業との大勝負のプレゼンテーションに打って出るなかでさりげなくチオウの中にも発展の芽を植えながら、フウがある可能性に気づいた時。
そして、その可能性に希望を込めて、相棒の一人ならぬ一羽であるオオブンチョウのアサに託したものが、「あそこ」に届いたあのシーンは、もう言葉にならない湧き上がる感情に胸が一杯になっていました。
映画のクライマックスシーンのように、生き残るために必死に逃げながら戦うフウたちの姿を背景に、遠い遠いかの場所から、ラジオの中からフウたちに送り届けられるいくつもの声。希望の声援。閉塞を打破した先にある可能性の証明。そんな言葉を、声を背に、本当の今を生きるための疾走をするフウたち。

そしてたどり着くゴールと、そこを終点とするつもりなんて毛頭ないフウたちの輝く笑顔が胸に焼き付く。何も知らず孤独に死ぬはずだった少女が、智慧を得て知識を得て家族を得て友を得て、まだ見ぬ果てを自ら望んで歩いていく。
ここから先が、「壊れた世界の、向こう側」だ。

胸躍る、心をガンガン弾ませてくれる、凄い作品でした。とんでもねーとびっきりの物語でした。
やー、もう良かったよー!!


殺したガールと他殺志願者 ★★★   



【殺したガールと他殺志願者】 森林 梢/はくり MF文庫J

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思わず殺されたくなる甘くて歪なラブコメ。第16回新人賞《優秀賞》受賞!

『最愛の人に殺されたい』と願う高校生・淀川水面は、死神を名乗る女から一人の少女を紹介される。
「貴方が殺されたい人ですか?」出会い頭にそんなことを尋ねる少女。名前は浦見みぎり。『最愛の人を殺したい』という願望を持つ少女だった。
互いの望みを叶えるために、二人は協力関係を結ぶ。水面はみぎりに愛されるため。みぎりは水面を愛するため。
「貴方には、私の理想の男性になってもらいます」「……分かった」「殺したくなるくらい魅力的な男性にしてあげますから、覚悟して下さい」
こうして始まった、歪な二人の歪な恋路。病的で猟奇的で不器用な少年少女が最高のデッドエンドを手に入れる物語、開幕。

登場人物、みんなある種の歪んだ願望に囚われた在り方をしている人たちばかりなのですけれど、印象としては裏表のない素直な人たちだなあ、というものでした。歪んで捩じれて捻くれているような人たちなのですけれど、よくよく見ると自分の願望という枠組みにピッタリ収まった、付与された設定?属性?どういうべきなのかちょっと悩みどころなのですけれど、定められた在り方に対して純粋で真っ直ぐなんですよね。
何て言うべきか。
彼らは自分の願望を叶えるために苦悩し、現実との間に苦慮し、自分たちが願望を叶えることによって起こる弊害に心軋ませるわけですけれど、自分の願望そのものについては一切疑わないし迷わないのである。それについては一切ブレない。自分の根幹については揺るぎがない。
それは前提であると同時に定義付けでもあるのか。
その定義づけに沿って、物語は展開していく。それは定規で線を引くようにゴールまで一直線に見えるのだ。トラブルも、迷いも寄り道も、分岐ではなく撓みですらない。二人の抱える在り方からすれば、その二人が結ばれようとするならば在って然るべき展開である。
教科書どおり、というのとはまた違うんですよね。未知数を解いていく方程式、というべきか。投入された数字が同じなら、ぴったり同じ答えが出るような。ただ、その中でも複雑な計算を要する方程式ではなく、平易でシンプルな式に基づいているようなそんな方程式だ。
そのぶん、性急で遊びがなく迷いがなく予想が外れる余地がなく変数の幅が狭く見えている範囲が限られていて、見えない部分の奥行きが乏しい。
そこに書かれているものですべて、と言う感じだろうか。
淀川水面がなぜ、最愛の人に殺されたい、という願望に囚われているのか。
浦見みぎりがなぜ、最愛の人を殺したい、という願望に囚われているのか。
それもまあ、書いてある。語るまでもなく。推理や考察の余地がないくらい。右から左だ。
むしろ、これに関してはなぜその願望を抱くに至ったかを当人に語って欲しいくらいだったのだけれど。自問し自答もしてませんでしたよね。なぜ、という考察が当人にはなかったように記憶する。
あるが前提、なのだ。ないと、始まらない。
人間関係、水面とみぎりの間に生じる感情、好きという気持ちについても、遊び無く直線的にはじまって成り立ってしまう。ないと、はじまらないから、というのは過言だろうか。
二人の間で出る結論まで一直線だ。
水面の持つ願望なら、こう悩むだろうな。それがみぎりの願望と掛け合わさったらこういう反応になるだろうな。と、いう既定路線をテクテクと歩んでいく。まったくもって、ブレがない。
分かれ道、分岐のない舗装された道路を躓くこともなにかに引っかかることもなく、バリアフリーでゴールまで歩いていくような読感でありました。
そういう意味で、全体的に構造的にもストーリー的にも登場人物的にも素直で覗き込む部分があんまりなかったんですよね。
面白いと言うか興味深かったのは、底が浅いとか中身がないとかそういう感じじゃないみたいだった、という所かなあ。登場人物、水面やみぎりは生き急いでいるのか何なのか、余裕がないのか、前ばっかり見てる感じなんですよね。自分を見ていない、前ばっかり見ていて顧みていない。でも、視線がそっちに向かないだけで、置いてけぼりにしているだけで、なんか感触というか奥を覗いていけばごっそり掘り起こせそうなものがありそうなんですよねえ。ただ、それを勢いよく無視して放置してしまっているような。キャラの造形段階でそういう余地が既にあるような構造になってるっぽいのになあ。でも、覗けないんだよなあ。見えてる部分しか見えてこないんだよなあ。表層しか捉えられない。
なんかうん、もどかしい。

水面の抱えている爆弾は、みぎりが知る事で彼女の中で劇的な化学反応が生じておかしくない代物だけに、二巻があるのならもっとこう、二人の中を覗き込んで中から色々と摘み上げて並べて舐め回すようにイジれるだけのグチャグチャしたものが見たいなあ。透明度低めの。

パワー・アントワネット ★★★   



【パワー・アントワネット】 西山暁之亮/ 伊藤未生 GA文庫

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「言ったでしょう、パンが無いなら己を鍛えなさいと!」
パリの革命広場に王妃の咆哮が響く。
宮殿を追われ、処刑台に送られたマリー・アントワネットは革命の陶酔に浸る国民に怒りを爆発させた。自分が愛すべき民はもういない。
バキバキのバルクを誇る筋肉(フランス)へと変貌したマリーは、処刑台を破壊し、奪ったギロチンを振るって革命軍に立ち向かう!
「私はフランス。たった一人のフランス」
これは再生の物語。筋肉は壊してからこそ作り直すもの。
その身一つでフランス革命を逆転させる、最強の王妃の物語がいま始まる――!!
大人気WEB小説が早くも書籍化!

16世陛下、処刑されちゃってるんですけど!?
力こそパワー、筋肉こそフランス。おー、筋肉万歳(ヴィヴ・ラ・フランス)。
そう、究極にまで鍛え上げられた筋肉には美が宿る。
王族として民の声に殉じてギロチン台の露と消えるつもりだったマリー・アントワネットは、己の子供たちをも虐げ貶めようとする民衆の声に憤激し、ついに立ち上がる。
その太首を切り落とすはずだったギロチンブレードを逆に武器として握りしめ、いきり立つ革命の歌声にそのバルク(筋肉量)のみで立ち向かう。
目指すは王政復古。なぜならば我が筋肉こそがフランス、我こそがただ一人のフランスだから。

うん、ある意味一発ネタですね。ヨーロッパ各国の宮廷はどんな虎の穴揃いなんだこれ? 王家とはあれか? 連綿と武を伝える筋肉戦士の血族なのか? ロイヤル・ファミリー=コナン・ザ・グレートなのか? ハプスブルク家とか、そんな武門の家系とは程遠いはずなのに完全に世紀末覇王の家系じゃないですかー。
まー、わりと最初から最後まで同じノリの連続ではあるんですよね。最初のインパクトで最後まで押し通すパターンの作品であるので、さすがに慣れてくると言いますか。
それに、ラスボスの革命軍が完全にヤラレ役のゲス野郎というのも、いささか盛り上がりに欠けたかもしれません。
最高潮は、同じ宮廷武闘の体現者であるデュ・バリー夫人との頂上対決。
あれこそは、女として至高の地位に立とうというデュ・バリー夫人の気高き闘争心に対して、マリー・アントワネットという女性が何を心に戦い、筋肉をバキバキにしているかを突き詰める戦いでもありました。
彼女が死を拒絶し立ち上がった理由、我が子テレーズとシャルルを守るという母親としての決意。そして愛する我が子に国を引き継がせるため、愛するフランスという国を守り導くためという王妃としての矜持。女を貫く女と国母となった女とのプライド決戦。あれこそ誇りをもってお互いを高め合った至高の戦いであり舞踏であり、マッスルファイトでありました。
それに比べて共和制の共和筋肉は、筋肉に対するスタンスが曖昧で、単に筋肉と名乗ってるだけの肉なんですよね。肉になにも宿っていない。意思も魂もなにも宿っていない。
高潔なる筋肉義務(ノブレス・オブリージュ)がどこにもない。中途半端で貧相なものでしかなかった。あれでは少々、役者として足りない。
民衆の掌返しも、あんな程度の説得で転向するんだったら市民、ただのアホじゃんw 
というわけで、クライマックスはちとお粗末だったかな。スタートダッシュの勢いがラストまで持たなかった、とも言えるのかもしれませんが。おー、シャンゼリゼ(ゴリ押し)。
ローズ・ベルタンやシュヴァリエ・デオン、フェルセン伯爵、デュ・バリー夫人など革命当時の著名人が色んな意味で活躍してたのは、まあ歴史モノの醍醐味でありますなあ。
しかし、処刑人サンソンがこの場合ヒロイン枠なのか? 実際デオンよりもまっとうに男の娘してましたし。
出色だったのがイラストで、カラーはちょっと濃ゆくて自分的には「おおうっ」ってなったのですが、挿絵の方はマリーの女性としてのスタイルと鍛え上げられた筋肉のラインの調和がなかなかに美しくて思わず唸ってしまいました。
デュ・バリー夫人との決闘舞踏のシーンは二人揃ってるシーンで見てみたかったなあ。というか、デュ・バリー夫人のイラストなかったし。
ともあれ本作、このひたすら筋肉なノリが面白ければ、楽しめるのではないかと。

ホラー女優が天才子役に転生しました 〜今度こそハリウッドを目指します!〜 ★★★★☆   



【ホラー女優が天才子役に転生しました 〜今度こそハリウッドを目指します!〜】 鉄箱/きのこ姫 ガガガ文庫

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ホラー女優が碧眼ハーフの天才子役に転生!

貧乏育ちの苦労人ホラー女優の鶫(30歳。努力の甲斐あって演技力はピカイチ)が、自動車事故で即死。
転生した先は碧眼ハーフの超美少女つぐみ(5歳)で、ドのつくお金持ち令嬢だった!!
つぐみの両親はつぐみに「注入された」演技の才能をすぐさま見抜き、テレビドラマの子役オーディションへ飛び入り参加させる。
天使そのもののつぐみの身体を得た実力派ホラー女優鶫は、その奇跡に感謝し、そして誓った。

「今度こそハリウッドを目指します!」

3人の仲良し子役美少女、凛、珠里阿、美海と出会い、幼女の友情を育む。信じられない演技力でドラマの監督、脚本家、大ベテラン俳優を、驚愕させる。
妖艶すぎる5歳の演技で、大の男を骨抜きに。
世界がひれ伏す大天才女優(5歳)がここに誕生!!
おおおっ、面白かった! これは滅茶苦茶面白かっったッ!
面白すぎて、途中で止められずに寝る時間削りまくってしまった。おかげで今日は死にそうになってたわけですけれど。もう若くないんだから。
しかしてこちらは若すぎる肉体に転生してしまったホラー女優の桐王鶫さんである。
あまりに怖すぎる演技から、観客視聴者のみならず共演者たちをすら阿鼻叫喚へと叩き込んだ稀代のホラー女優、恐怖の申し子。
その彼女が事故死のあと20年後に生まれ変わって、もう一度俳優の世界を目指すお話。いや、目指すというよりも、蹂躙するというべきか、或いは降臨するというべきか。
はまり役ということでホラー映画やドラマなどを中心に活躍していた鶫だけれど、それが不本意というわけではなく、元々ホラー好きだし好んでホラー女優やってたんですね。
ホラー作品にばかり呼ばれる事に不満を感じていたり、不自由を感じていてもっと違う役をやりたい、なんて思っていて生まれ変わったのを期に本当にやりたかった主役ヒロインを演じるのだ、なんて事は毛頭考えていなかったわけだ。
それどころか、忌避される悪役を、そんなおもしろそうな役、やらないなんてもったいない、と嬉々として挑む、或いはかぶりつく演じるという事を何よりも好み、飢え餓えた役者だった。
そんな彼女だからこそ、生まれ変わっても望んで役者の世界に飛び込んでいく。何よりも、演じることに魅入られているから。まさに文字通り、彼女は生まれながらの女優だったのだ。
彼女の中には、前世で培われた経験がある、感性がある。並々ならぬ努力で身につけたそれは、才能というのだろう。彼女が生まれながらに持っていた才は、叩き上げで最低の環境から這い上がり積み上げてきた鍛造の才能だ。演じることの出来る喜びを知る才能だ。その場に立つまでの困難を知る才能だ。苦労を知らぬ挫折を知らぬ脆いガラスの才能とはわけが違う。
そうして培われた人造の天才だ。人々の心を恐怖で震え上がらせ、同じ役者たちの、ドラマ映画に本気で関わる人間たちの魂を鷲掴みにした、人造にして本物へと至った天才女優のそれである。
そして、死んでも治らなかった女優魂の塊だ。

尋常ならざる天才子役の出現、その演技を目撃した、或いは実際に演じてみて彼女の「世界」に飲み込まれた現役の役者たちに衝撃を与え、その衝撃は波紋となって界隈へと音速で広がっていく。
ここに出てくる名優と呼ばれる人たちは「本物」である。役者という職業に人生を賭け、生き様として刻んでいる人たちだ。ドラマの番組プロデューサーも、監督も、より良い作品を作らんと気を吐く「本物」だ。だからこそ、彼女の、つぐみの存在に衝撃を受け、刺激を与えられ、彼女が紛れもない本物で、なおかつ「怪物」である事を否応なく肌で感じ取り、歓喜する。
役に入り込んだつぐみの演技は、まさに「世界の降臨」である。ただの練習でも、オーディションでも演技テストでも、その場限りの即興劇ですら、相手の共演者まで現実と演技の境目を見失って自分の役へと没入してしまう。まさに魔性の演技、と言わんばかりの演出に、背筋がゾクゾクしてしまった。さらに外側に居る読者であるはずの自分まで魅入られてしまうような、圧巻の存在感。一瞬にして塗り替わる世界。
いやあ、すごかった。

一方でつぐみという子はプロ魂こそキマっているものの、かつてホラー女優であったと言っても性格は温厚で孤高というわけでもなく、共演者や制作スタッフにもよく気を遣って結構親しまれ、尊敬されていたようなんですよね。
両親から半ば捨てられたような家庭環境で、下積み時代には極まった貧乏生活に耐えながら役者を志し、底辺から這い上がってきた苦労人。だからこそ、人にも優しく出来る、というタイプの人だったのだろう。
それは今世にも引き継がれていて、オーディションを通じて知り合い友達になった同じ世代の子役たちとも、前世の分の経験があるからと上から目線にならず、あくまで役者仲間として対等の視点で見ているようなんですよね。逆に言うと年長だろうと先輩だろうと、役者として対等に、尊重はしても譲りはしない、という穏やかながらプロらしいふてぶてしさを兼ね備えているのですが。
この前世で事故死してから二十年後に生まれ変わった、という二十年という年月が結構重要なキーポイントでもあるようで。
二十年、って充分知り合いが亡くなったりせず業界で現役で居続けているけれど、立場やなんかがそれぞれ変わっていたりする年月なんですよね。かつて自分よりも年下の子役だった人たちも、それなりの年齢になっていたりする。かつての役者仲間たちの現在に思いを馳せ、思わぬ再会が待っていたり、という展開もあり、また新たな世代が台頭してきていたり、と。
そんな中で二十年前に夭折した天才ホラー女優の存在感は、今業界の重鎮となっているかつての同世代の仲間たちの中でしっかりと根づいていて、だからこそ余計にその天才女優の面影を演技から彷彿とさせる新たな天才の出現に、誰も彼もが平静で居られなかったのでしょう。
とまあ、二十年のギャップというのは他にも色々あって。うん、二十年前にはスマホなんて想像しなかったよね。あんなん、二十年前だとSFのアイテムですもん。まさかパソコンと同等の機能を持つ機材が携帯電話の中に集約されるとか、100年後の世界の超科学アイテムでしたもんね。
VHSもビデオデッキ連結して一生懸命ダビングして。うんうん、わかるわかる、わかってしまう。
まだ連続して時代の変化の中にいたからこそついていけてるけど(ついていけてるか?)、二十年の空白があって現代に降り立ったら、ちょっと技術レベルのギャップは訳わからんことになってるよなあ。
というわけで、5歳にしてなんかおばさんくさい、と同世代の幼女に評されるつぐみちゃんでありました。
ってか、今どきって5,6歳の小学生にあがるかという子にまでスマホ持たせてるの珍しくないんですよねえ。
早速両親から与えて貰ったスマホを扱いきれてないつぐみちゃん。それ、5歳の幼児だからではなくて、おばさんだから謎機械にあっぷあっぷ、なんですよね、つぐみさん。スマホを買い与えた際のうちの母(70)の反応とよく似ているぞ、つぐみさんw

とまあ、この時代に生まれ変わったつぐみちゃんは、頼めばスマホを買ってもらえる、どころか演じる事が好きだと知ればすぐにオーディションに参加させてくれたり、付き人も自前で用意してくれたり、というか所属事務所まで自分たちの会社で立ち上げたり、と超お金持ちの家で美男美女、パパの方は外国人という両親にこの上なく愛情を注がれる、衣食住全てに満たされている幸せ一杯の環境にある。望めば、すべて与えて貰える環境だ。
それは、前世の何も持ち得なくて自分ですべて掴み取っていった環境とは真反対の、恵まれたとしか言いようがない環境。光だけに包まれた世界だ。
それが、つぐみの中でわずかに齟齬をうみだしている。
これに気づいているのが、同じ天才子役と謳われている夜旗虹、というのがまた面白い。この生意気兄ちゃんもまた、本物の天才なのか。
同じ天才だからこそ気づいた、つぐみの中のちぐはぐさ。ハングリー精神など全く必要とされない現在の環境と、つぐみの中で息づいている鶫の時代から培われた役者魂のあの獰猛なほどの情熱は、どこかで噛み合っていないのだという。
愛を知らず、だからこそ恋い焦がれるように狂的に愛を演じる事ができた前世と違って、今のつぐみは本当の愛を与えられている。だからこそ、今の自分がどうやって愛に甘えるやり方が分からない。今の自分が鶫のように演じることが出来るのか。鶫のように演じるのが正しいのか。
まだ、彼女の演技は未完成、なのだろう。
今の段階でなお、未完成なのだ。ということは、さらにこの上があるということ。これよりももっと高みが、彼女の前には存在しているということなのだ。
その事実に気づいた時、残念どころかゾクゾクしてしまった。背筋がブルブルと震えてしまった。これより凄いものを見れる可能性がある、という事実に恍惚となってしまったじゃないですか。
この子にはまだ先がある、まだ上がある! 
それに、まだドラマははじまったばかり。彼女の舞台はまだ一度たりとも幕を上げていない。本番ははじまっていないのだ。まだこの段階で前座の前座でしかない。
これはもう本当に、楽しみで仕方ない。続きを読みたくて仕方ない。またぞろ、とんでもねー作品が出てきましたよッ!


デッド・エンド・リローデッド 1.無限戦場のリターナー ★★★★   



【デッド・エンド・リローデッド 1.無限戦場のリターナー】 オギャ本バブ美/ Niθ HJ文庫

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時空に関連する特殊粒子が発見された未来世界。第三次世界大戦を生き抜いた孤高の凄腕傭兵・狭間夕陽は、天才少女科学者・鴛鴦契那の秘密実験に参加する。しかしその直後、謎の襲撃者により、夕陽は契那ともども命を落としてしまう。だが気がつくと彼は、なぜか実験開始前の時間軸で目覚めていた…。繰り返される死とループ現象の中、次第に強まる契那との絆と、解き明かされていく謎。果たして夕陽は、契那を絶望の死から救い、世界を混沌の未来から守り抜けるのか!?超絶タイムワープアクション、第13回HJ文庫大賞・大賞受賞作。

ちょっ、これガチシリアス! 硬派硬派! おふざけやコメディの要素が介在する余地のない、真面目一辺倒のハードSFアクションじゃないですか。
いやだってこれ、作者の名前ぇぇ。これ見てしまったらどうしたって「んんん?」てなるじゃないですか。これを「予断」抜きに捉える事はやはり難しいですよ。なんだかんだ、積んだまま読むのを後回しにしてしまっていたのは、何となく大丈夫かこれ?と思ってしまう部分があったわけですし。
ただ名前通りのバブみに関してはこれもガチである。いや、ここまでガチでいいの!? と思ってしまうくらい真剣シリアスにヒロインである契那のバブみが凄いんですけど。だいたい、幼女の母性なんてのはラブコメを盛り上げる一要素に留まるものなんですけれど、本作においては契那という幼女博士の包容力、慈愛、母性こそが物語の根幹であり、原動力であり、救済なのだ。
物語はほぼ主人公である夕陽とメインヒロインである鴛鴦契那の二人によって成り立っている。謎の襲撃者によって、何度も何度も目の前で無残に殺される契那を救うため、夕陽は実験の影響で得てしまったループ現象を繰り返し、彼女を救う方法を探すことになる。何度も何度も、目の前で惨たらし死に様をさらす契那を目の当たりにしながら。
彼がそれに耐えられたのは、既に一度絶望を甘受していたからだろう。いや2度か。一度目は両親を戦争によって失った時。絶望に流されながら諦念と共に少年傭兵として生きていた彼を救ったのは、自分と同じ境遇で死にかけていた、しかし生きようとしていた少女を救った時。
自分と鏡写しだった、しかし自分よりも生きようとしていた少女を救うことで、再び生きる意志を得た夕陽の側には、いつしか妹としてあの時救った少女が共に戦うようになっていた。
そうして二人で戦って、生きてきた彼に突き付けられたのが、自分を救うために散っていった妹の死。自分の命よりも大事なものの死。自分を救ってくれた、生き返らせてくれた人の死である。
夕陽が契那博士の元で実験に参加するようになったのは、博士の実験が時空に関する粒子の利用を鑑みたものだったからだ。絶望の端にこびりつく僅かな願い、妹の死を覆せるかもしれない微かな期待。
それは博士によって、過去の不可逆性という理由で明確に否定されたわけですが。それを理解し受け入れながらも、夕陽が博士のもとを去らなかったのは、どうしても諦めきれない思いもあったのでしょうけれど、それ以外にも契那博士の夕陽への誠実で親身な態度があったのでしょう。デザイナーズチルドレンとして作られた天才である彼女は研究者の中でも孤立していて、だからこそ外部者・余所者として隔意とともに見られる一時雇用の傭兵である夕陽にも親身親切に接してくれて、いつしか懐くように親しくなっていたんですね。契那博士の方には、夕陽に一方的な負い目が有り、それに端を発して色々と夕陽に便宜を図ったり、何かと心配りをしていたわけですけれど。
この夕陽という男、年齢こそまだ十代なのですけれど、見た目ゴツすぎて少年には全く見えないんですよね。というか、絶対三十代のおっさんだろうこいつ。
でも、見た目の厳つさとは裏腹に夕陽って凄まじく物腰が低くて丁寧なのですよ。誰にでも敬語は欠かさないし、口ぶりはいつも穏やか。年下、どころか実年齢もまだ11歳で幼女の範疇にある契那に対しても子供扱いとかせず、見縊ったりもせず、しかし壁を隔てるでもなく、ちゃんと上司として博士として、何より女性としてレディとして尊重して敬意を以て接するわけですよ。好青年、どころじゃない好人物なんですよね。見た目イケメンよりも、こういうゴツい男の方が物腰丁寧に態度も低く穏やかに落ち着いた姿を見せてくれた方が、なんかぐっとくるものがあるんだなあ。

これで単に弱腰だったり気が小さいとかいうんだったら拍子抜けなのですけれど、夕陽は歴戦の傭兵らしくいざとなれば果断でまさに鋼鉄の意志を以て覚悟完了できるまさに兵士の鑑のような男。
でも、そんな男でも絶望に身も心も侵されていれば、なすすべなく朽ちた大木のように折れてしまうもの。そんな彼を、一度でも気が狂うような、いや自分の死だけならともかく、必ず目の前で自分に笑顔を向けてくれていた幼女が、まともな死体も残らないような死を何度も繰り返すという地獄が永遠と続くのを心壊されずに耐えられたのは、乗り越えられたのは。
まさに契那のバブみなんですよね。
夕陽の置かれているループ現象、その信じがたい状態を契那博士は毎回ちゃんと信じてくれるんですね。それは時空粒子の研究者としての理性的な判断でもあるのだけれど、同時に夕陽への絶対的な信頼であり、夕陽の地獄の苦しみを受け入れてくれる、抱きしめてくれる包容力なわけですよ。彼の絶望を察して労り、慈しんでくれる愛情であり、母性なのですよ。
そんな支えによってようやく立ち続け、戦い続けられる一方で、そんな慈愛を注いでくれた幼女がその直後、目の前で死体に変わるというより地獄度が増すというスパイラル。
それでも彼女は夕陽を許してくれる。絶対に彼の味方になってくれる。
弱音を吐きながらも、それをなかったことにして立ち上がろうとする夕陽を、後ろから抱きしめて彼のすべてを受け入れる、励ます、共にゆくことを誓ってくれる契那博士とのシーンは、まさにバブみの極致のようでした。相手は幼女とか茶化せませんって。神聖不可侵の純愛を物語るワンシーンですよ。
それは、やがて明らかになる襲撃者の正体と目的をも含めて、狭間夕陽と鴛鴦契那の物語として完成しているのである。幼女の死によって絶望し、その幼女によってその絶望と立ち向かい乗り越える。
テーマを絞り込み、一連なりの物語として枠組みを整え、美しいとすら呼べる配置によって中身を埋め尽くした、完成度と拡張性を並列させたまさに大賞に相応しい作品でありました。
率直に言って、素晴らしく面白かった!
しかしバブみが根幹にあるとは言え、幼女がここまで庇護されるモノでも上位者でもなく主人公の対等の相手として、ここまでガッツリとメインヒロインとして座している作品はホント珍しいんじゃないだろうか。

現実でラブコメできないとだれが決めた? ★★★☆   



【現実でラブコメできないとだれが決めた?】 初鹿野 創/椎名くろ  ガガガ文庫

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データでつくる最高の理想郷(ラブコメ)!

「ラブコメみたいな体験をしてみたい」

ライトノベルを嗜むすべてのラブコメ好きは、一度はこう思ったことがあるのではないだろうか?
ヒロインとイチャラブしたり、最高の友人達と充実した学園生活を送ったり。
だが、現実でそんな劇的なことが起こるわけもない。
義理の妹も、幼馴染も、現役アイドルなクラスメイトもミステリアスな先輩も、それどころか男の親友キャラも俺にはいない。
なら、どうするか?
自分で作り上げるしかないだろう!

ラブコメに必要なのは、データ分析と反復練習! そして――

第14回小学館ライトノベル大賞、優秀賞受賞作。

ライトノベルに憧れた俺――長坂耕平(ながさかこうへい)が、都合良くいかない現実をラブコメ色に染め上げる!

ラブコメみたいな体験をしてみたい。言っている意味はわかるけれど、じゃあどうするのかと言えば、まさかの自分で全部作り上げる、それもこの現実世界で。と言い出した日には何言ってるんだコイツ、となるし、実際やってるのを見てると相当にキモい。
彼、長坂の夢中になっているラブコメ世界を自分で作るという夢? いや目標? を知ってしまった、そして実際の作業を目の当たりにする上野原彩乃が「キモい」と「大馬鹿者」を連発するのもまあ当然。いや、実際相当にキモいです、この男。
なんでこれに付き合おう、ラブコメ時空を作るための仕込みに協力しよう、実際調査や支援などで結構労力も掛けているわけで、なんで彼女がそこまでしようと思ったのか、ヒントめいたものは散らばらせているものの、よくわからないまま話は進んでしまうんですね。というか、長坂も勢いで巻き込んだものの、もうちょっと躊躇しろよ、と思わないでもない。あまりに有能すぎて、便利だったからというのもあるのだろうけれど。
とは言え、実際にラブコメするためには登場人物の性格から過去来歴、行動原理などなど。生活環境や学校の設備、周辺地域のスポット調査など、凄まじい規模の調査を行っていて……いや、調査の仕方これガチすぎない? むしろ、調査による情報収集がメインになってるんじゃないだろうか。実際、目的と手段が逆転してしまってラブコメするための調査が調査のための調査、情報収集になってしまって本末転倒になってしまった時もあった程ですし。
これ個人でできる範疇の最大限なんじゃないだろうか。手法もプロじみているし、とりあえず必要不必要の判断をせずに手当たりしだいに情報を集めて、そこから分析精査するというやり口とか、探偵よりも情報機関のやり方みたいじゃないですか。はては情報分析官、アナリストかなんかじゃないのだろうか、こいつ。
しかし、一方で実際にそのデータを運用してラブコメするにしては、ヘボ役者ぽくもあるんですよね。とにかく、クラスメイトを前に委員長として演じる姿が胡散臭い。嘘くさい。実際問題、想定した脚本通りに喋っているのだから、仕方ないのかもしれないけれど、それ何のキャラなんだろう。少なくとも、ラブコメの主人公っぽくはないんですよね。
そもそも、自分以外の生徒たちにはラブコメ適性という分析をしているけれど、自分自身に対してラブコメ主人公適性をちゃんと鑑みた事はあるのだろうか。
それ以前に、ラブコメするって何なんだろう。
冒頭の長坂の宣言からこっち、その趣旨や言いたい事やりたい事は何となくわかったし、うんうんと頷きながら読んでいたのだけれど。
ラブコメをするためには、まず現実をラブコメが繰り広げられる舞台にしなければならない、という事で長坂くんは、集めたデータを駆使しながらラブコメの登場人物を選出し、イベントの準備をはじめ、舞台を設営しようと奮闘しているわけだ。その過程で、彩乃にバレて彼女を共犯者に引き込んで、一緒にラブコメをはじめるための舞台を作り上げようと色々とやっているわけだけれど。
これって、つまるところ企画側であり、脚本側であり、監督側であり、演出側であるんですよね。全部自分で用意して、展開も想定し誘導して、脚本通りに話も進める。それに、自分が主人公になって乗っかる、というのはこれ、マッチポンプの類になってしまうんじゃないだろうか。一から十まで最初から知っている、というか自分が準備した話の通りに演じて、それって本当に楽しいと思えるのだろうか。脚本通りの展開のままに、恋をしてドキドキできるのだろうか。
それはもう、ラブコメの主人公になるというよりも、ラブコメのゲームの主人公に転生する、という方が近いんじゃないだろうか。それも、自分が作ったゲームの主人公に、である。
その末に、ハッピーエンドにたどり着いたとして、現実はゲームや本のようにそこで終わりじゃない。昨今ではゲームや本でだって、エンディングのその後については手配りを欠かさない作品も多いのだけど。現実では、ハッピーエンドのその後は脚本なしで進んでいく。自分で全部準備して整えたラブコメを踏破してエンディングにたどり着いたとして、予定外にはとにかく弱くて咄嗟に対処できない長坂くんは、果たして脚本皆無のその先をどうするつもりなのだろう。
実際、彼がラブコメを現実に再現したいと思うに至った中学時代のエピソードでは、彼は裏方に徹しているんですよね。自分が主人公になろうとしたわけではなく、仲間たちのために舞台を整えていたわけだ。今彼がやっている事も、果たして自分が主人公の役におさまるにはどうも適さないようなやり方をしているように見えるんですよね。ちゃんとそのへん、考えているのだろうか。

とはいえ、そういう問題が現実に立ちふさがってくるのも、実際にラブコメをやる状況、舞台が整ってから。現状では長坂はその舞台づくりに終始していて、完成というかラブコメをはじめるに至る設営の段階で奮闘しているに過ぎない。その段階で、問題が噴出し、彩乃がトラブルに巻き込まれその解決のために設定の大改編をやってしまう、みたいな現状だ。
つまるところ、結局のところ、そうなんですよね、なるほどなるほど。
お祭りもゲームも、作っている最中が一番楽しい、というやつだ。長坂は、気づいているのだろうか。
今まさに、自分がラブコメ真っ最中だという事実に。
それも一人遊びではなく、彩乃を共犯者として同じ目論見に巻き込んで、一緒に本気のやりたいことをはじめた時から、それが始まっていることに。
一から十まで自分が考えたとおりに物事が運んでいくのではなく、他人の思惑が介在し何が起こるかわからない状況で、相手が何を考えているかわからない状況で、目の前で起こるトラブルを誰かといっしょに解決していく。協力して、心つないで、新たな関係を構築していく。それが自分の周りで繰り広げられはじめていることに。
彼の周りではじまっているそれをきっと、ラブコメと言うのだ。

しかし、幼馴染がいないなら作ってしまえばいいのだ、という発想には脱帽した。いやどう考えても無理筋だし、これが単にラブコメ企画のために無理やり作り出すというのならアレだったのだけれど、トラブル解決のための豪腕でのことで、人造幼馴染にされてしまった彼女にとっても予想外とはいえ決して満更ではなかったようなので、なんか痛快でもありました。
長坂としてはラブコメの中では幼馴染枠というのは相当推しの強い枠だと、あの強弁からしても思われるので、それをわざわざ彼女にあてがったというのは、それだけあの幼馴染への熱弁に値するものを彼女に感じている、というのは邪推でしょうかねぇ。
そして、メインヒロインの叛乱。前とは大いに多難で、まさにラブコメ渦中だなあ。なかなか先がどう転がっていくかわからないだけに、次回以降楽しみです。

型破り傭兵の天空遺跡攻略 ★★★   



【型破り傭兵の天空遺跡攻略】 三上 こた/坂野 太河 角川スニーカー文庫

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人智を超えた技術の獲得のため、天空に浮かぶ太古の遺跡を攻略する空挺騎士団。その一つ“叡智の雫”に、副団長アリアの部下として雇われた“歴戦の傭兵”アインハルト。その名に恥じぬ活躍で、遺跡を守護する偽神をねじ伏せ、罠を解き明かしていくアインハルトだったが、超技術の大国すら滅ぼした驚異的な強さの偽神に遭遇し全滅の危機に瀕し…!
「ここは任せな。俺は俺の仕事をこなすだけだ」
どんな窮地であろうと仲間の命は護り抜く型破りの傭兵が、百戦錬磨の経験と知識を武器に、謎に満ちた空を翔け巡る!第25回スニーカー大賞特別賞受賞のヒロイックファンタジー、ここに開幕!
見捨てた、切り捨てた対象がその場を切り抜けて生きて戻ってくる。それは喜ばしいはずの事なのだけれど、見捨てたという事実は消え去らない。どうしたってそれまでの関係に影を落とす。
本作においては、見捨てた側の人間が見捨てた相手が生き残った事を喜ばなかったり、邪魔者扱いしたり死をすら願ったり、というクズめいた事はせずにちゃんと喜んでくれるのだけれど、それでも見捨てた事実が負い目となって過剰な気遣いや今度こそ見捨てまいと無理をすることになり、結局関係は破綻していく。
必死の思いで生き延びた者の方が、生き残るべきじゃなかった、死んでおくべきだったんだ、と思ってしまうことは悲惨以外のなにものでもない。
そうして生まれたのが、死にたがりの傭兵だった。それも周りを巻き添えにするのではなく、自分以外を生き残らせて今度こそ価値ある死を迎えるために自ら捨て石になる死にたがり。
自己犠牲型の破滅願望の持ち主って、なんかもう手に負えない。この人物、アインハルトの場合は自分から暴走して危地へ飛び込んでいったり、危機を招いたりという真似は一切せずに、周囲へのアフターフォローまで考えて自分の言動をコントロールしている上に、雇い主には自分の在り方を隠していないので、そもそも万が一の捨て石要員として最初から雇われるので、齟齬も生まれないんですよね。この手の破滅願望の持ち主というのは、周りを巻き込むパターンが多かっただけに、これだけ気遣いが行き届いて自分を使い捨てにしやすいように動いている人物というのは、手を出しにくいんですよね。
いざという時は、本当にどうにもならない時ですし。絶対に、彼を捨て石にしなければたくさんの犠牲が出てしまう、という状況でなければ、アインハルトも無駄死にしようとはしませんから。
彼は正しさを突きつける。正しい選択の元に、切り捨てられる事が正しかったと。自分が死ぬことで、生き残った人たちが命だけでなくその後の生き方までも未来までも救われるように、と願ったのだ。それが生き残ったことが間違いだったと思ってしまったアインハルトの、自分の始末の付け方だったのだろう。
でも、本当は死にたかったわけじゃない。諦めたかったわけじゃない。それは、万が一にも助からない状況で這いずり回って生き延びた事でも明らかだろう。これまでずっと死にたがりの生き方をしながら生き残り続けた事からも間違いないのだろう。
彼は本当は死にたかったわけじゃない、生きたかったのだ。いや、それが正しい事だとしても自分が心から置いていってくれ、自分を見捨てて生き残ってくれと願ったとしても、心の何処かで思っていたのだ。置いていかないでくれ、見捨てないでくれ。そこが終わりの地獄だとしても、一緒に帰りたいのだと。
それは人として当たり前の感情で、当たり前の願いだ。しかし、それは誰も生き残れず、誰も幸せになれない結末で、だからこそ彼は胸の奥にそれを封じてきた。
だから彼のその後の人生は、今度こそ自分の価値を損なって綺麗サッパリ後腐れなく死ぬためのものでは本当はなく、自分の価値を認めてくれる誰かに出会うためのものだったのだろう。
ただし、それを見つけた時はその相手と共に死ぬしかないときだ。
それを思えば、何ともまあ救いのない在り方にも見えるのだけれど、この世界における魔法……その人それぞれのあり方を物語り体現する力が、蜘蛛の糸となる。
とまあ、主人公含めた登場人物の人となり、在り方がストーリー展開にそのまま直接根幹をなしていて、魔法の設定なんかも含めて最初から最後まできれいな放物線を描いた物語となっている。キャラの心情描写も丁寧で、理解と共感。懊悩と決断が筋道立てて描かれている。
よく練られた脚本に掘り下げられた登場人物、瑕疵のあまり感じられない、非常によく出来た作品と言えるでしょう。押さえるところもきっちり押さえていて、ほんとにここがダメという所も見受けられないし、アインハルトが心の奥底で捨てされなかった思いなど、むしろ人間味を強く感じさせるものでとても良かったと思いますし。
ただ個人的に、何となく印象に焼き付かなかったんですよね。全体的にスルスルと飲み込めて、そのままスルスルと引っかからずに出ていってしまったような。こればっかりは好みの違いなんだろうなあ。いや、読んでいる時は普通に面白いと感じながら読んでいたので、好みではなかったという訳でもないと思うので、ほんとなんなのかな。もうちょっとこう、自分の中に引っかかって留まってくれる特徴的なものがほしかったのかもしれない。自分の中でも曖昧模糊として具体的なことを何も言えないのがもどかしく恐縮なのですけれど。

シュレディンガーの猫探し ★★★   



【シュレディンガーの猫探し】 小林 一星/ 左 ガガガ文庫

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探偵嫌いの僕と迷宮落としの魔女

妹にまつわる不思議な現象、「やよいトリップ」。未来視とも思えるその力が原因で巻き込まれたとある事件をきっかけに、訪れた洋館。
洋館の表札には『探偵事務所 ラビリンス』。
そして、古めいた書架に囲まれるように彼女はいたーー。
魔女のような帽子に黒い服。書架に囲まれた空間そのものが一つの芸術作品のように美しい佇まい。
「解かれない謎は神秘と呼ばれる。謎は謎のままーーシュレディンガーの密室さ」
彼女ーー焔螺は、世界を神秘で埋め尽くしたいのだと言った。
「私は決して『探偵』なんかじゃない。神秘を解き明かすなんて無粋な真似はしないよ」
探偵じゃないなら、いったい何なんだ。
問えばふたたび、用意していたように即答だった。
「魔女さ」
まったく、時代錯誤も甚だしいと嘆かずにはいられない。
神秘的で、ミステリアスな一人の魔女に、この日ーー僕は出会った。

第14回小学館ライトノベル大賞・審査員特別賞受賞。
ゲスト審査員・若木民喜氏絶賛の新感覚「迷宮落とし」謎解き(?)開幕!

魔女である。探偵ではない。謎を暴く存在ではない。謎をそのまま神秘として喰らい上げる存在である。すなわち事件を解決するのではなく、迷宮入りさせてしまうのだ。
人呼んで【迷宮落としの魔女】。
そして、本物の魔法を使う魔女である。

そう、本物なのだ。本当に魔法を使うのだ。ならば、彼女の存在そのものが論理的帰結によって謎を解き明かし事件を解決する探偵のお仕事の天敵である。意図を持って、事件解決を邪魔して謎を神秘に昇華させるのだから、尚更に明確なる敵対者だ。
まあ、名探偵諸氏が果たして彼女を本当に本物の魔女として認識しているのかは定かではないが。明智くんは知らないよね? 金田一さんは知っててもおかしくなさそうだけれど、知ってたっけ?
でも魔女なる彼女、焔螺さんがやってるのって詰まるところ「証拠隠滅」であり「偽装工作」ですよね。
興味深いのがそれをやる立ち位置として、通常の「犯人サイド」からではなく、完全な第三者、或いは依頼されて、或いは巻き込まれて事件に遭遇しその対処に取り掛かる、という「探偵サイド」に互換される立ち位置から行っていることでしょう。
だから、不思議と焔螺さんのやってる事は名探偵のそれと同じに見えてしまい、同時に名探偵がやる謎解きの正反対である謎隠しに見えてしまう。ややこしいんだけど、探偵VS犯人じゃなくて、探偵VS探偵という範疇に見えるんですよね。
しかしやってる事は証拠隠滅偽装工作である。犯人がやることであり、犯人を擁護したい介入者がやることである。
……これ、警察沙汰の場合普通に犯罪ですよね、うん。
なので、ここで起こる事件はおおむね警察案件ではない。日常の範疇で、探偵へ依頼された失せ物探しの範疇である。だってこれ、警察に捜査されたらわりと普通に科学的な検査とか監視カメラや聞き込みでのアリバイなんかでバレそうな偽装工作ですし。
あくまで対象は、「名探偵皆を集めてさあと言い」に代表される探偵の謎解き推理を成立させないためのおじゃま虫、と考えればいいのだろう。
それでも、探偵側が主役だったりするとこの手の偽装工作なんぞは、込みで簡単に暴かれてしまうのが常なように思えるので、あれくらいで「証明」が出来なくなってしまう明智くんはちょっとがっかりだぞ、うん。
まあ殺人事件などのように、犯人の指摘こそが最大の目的である案件と違って、これらの事件は決して犯人のあぶり出しが必要ではなく、不安の解消だったり予定の時刻通りの消化が目的だったりしたので、明智くんも金田一さんも手段が目的より優先になるタイプの探偵ではないちゃんとした人だった、という事なのかもしれません。
それでも明智くんとは、謎は謎のままであった方がいい場合もある、という見解に関して決定的に決裂はしているのですが。
でも、とある謎を暴けば主人公の妹である弥生の心が致命的に傷つく、というあの案件に関してはそこまで主人公が強迫観念に駆られるほど致命的な謎であったかというと……ちょっと弱い気もするんですけどね。妹に対する過保護で心配しすぎ、と言ってしまうのは酷だろうか。
ちょっとこの件に関しては主人公、余裕なくし過ぎててフラットに見れないところもあるのですけれど。それでも、それだけ余裕を無くしていたにも関わらず、自分ひとりで背負い込みきれず、それでも背負い続けて潰れる、ではない最後の最後で魔女さん炎螺に頼ることが出来た、というのは主人公が縛られていた自縄自縛が解けた、と見ていいのだろう。
向こうが求めてくるまで無理押しせず、しかし優しく寄り添い続けて主人公が致命的に損なわれるのを防ぎ続けていた炎螺さんは、言動見た目エキセントリックというか派手というか魔女魔女しい人だけれど、基本的に包容力の人なんだよなあという印象を受けるのでした。
そんな魔女さんからお母さんと呼ばれる芥川さんの、あのあんまり出番ないのに出たら出たでやたら安心感を与えてくれる存在力は何なんでしょうね。ガチ母性? これぞ包容力?
ってか、あの人がお母さんならお父さん誰だよ問題。
個人的に金田一探偵が大人でマイルドな聡明さと渋さがあって、ああいう探偵カッコいいです。明智くん、あんなの目指しなさいよ。まあ主人公も青いと言えば青いので、明智くんとならどっこいどっこいなのかもしれませんが。
謎は謎のままで、真相は闇の中、真実は箱の中。それこそが神秘のはじまりで、この物語の趣旨でもあるのだけれど。
……いやうん、実際の所謎が本当に謎のままだったり、犯人にさっぱり言及がいかないのって、ぶっちゃけモヤっとするというか、スッキリしないというか、引っかかるというか、気になっちゃうんですけどね! 
気になるのよ?

サンタクロースを殺した。そして、キスをした。 ★★★★☆   



【サンタクロースを殺した。そして、キスをした。】 犬君 雀/つくぐ ガガガ文庫

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クリスマスを消すため僕は少女の恋人になる。

聖夜を間近に控え、街も浮き立つ12月初旬。
先輩にフラれた僕は、美しく輝く駅前のイルミネーションを眺め、どうしようもない苛立ちと悲しさに震えていた。
クリスマスなんて、なくなってしまえばいいのに……。
そんな僕の前に突如現れた、高校生らしい一人の少女。

「出来ますよ、クリスマスをなくすこと」

彼女の持つノートは、『望まない願いのみを叶える』ことが出来るらしい。
ノートの力で消すために、クリスマスを好きになる必要がある。だから――

「私と、疑似的な恋人になってください」

第14回小学館ライトノベル大賞、優秀賞受賞作品。
これは、僕と少女の奇妙な関係から始まる、恋を終わらせるための物語。


寂しいってなんだ? 人恋しいってなんだ?
心を絞め殺されるように、この物語の登場人物は、主人公や女子高生は寂しさや人恋しさに打ち震えている。水に沈められて、息ができず、溺れかかるように自分以外の誰かとの繋がりを求めている。
そんなに必死に、それがなければ死んでしまいそうなほどのたうち回って、心掻きむしる感情だったのか。寂しいってことは。人恋しいって思いは。
知らなかった。それが寂しいという事だというのなら、それが人恋しいという事なのだとしたら、自分はそれらを多分、本当は知らないまま生きてきた。
だからきっと、自分は彼らにはどうしたって共感を抱けないだろう。かと言って彼らが遠くに望んでいる幸せいっぱいな人たち、という存在もまた自分にとっても遠い存在だ。
どうにも、この世界において幸福と不幸は概ね人と人との関係の間に成立しているもののようだ。他者との関係の中に完結している。人と関わることが嫌いだろうと煩わしかろうと上手く出来なかろうと、しかし前提として当たり前としてまず人と関わり触れ合う事が人の在りようとして成立している世界だ。
概して他人に対する関心が薄いように思える自分のようなタイプの人間は、この世界の中には存在していない、或いは成立していない。ここにあるのは、価値観の断絶した自分にとって向こう側の世界だ。
でもそんな断絶した隔てられた向こう側に居ても、伝わってくるものがある。感じ入るものがある。それだけ訴えてくる強さ、いや必死さのある物語だ、これは。共感できなくても、美しいと……食い入るように見つめてしまうものがある作品だ。
小説というツールは凄い、とふと感激すらしてしまった。作者は、小説という形を持って、本来なら届かない伝えられないだろうほどに理解も価値観も隔てられた向こう側に、コチラ側に確かにわからないはずのナニカを、その片鱗だけかもしれないけれどあるがままそのままに、届かせてきた。
受け取ってしまった。

好きか嫌いかでいうと、多分自分はこの作品をあまり好きとは言えないのだろう。正直、好みじゃあない。
だが、今自分はかつてない程衝動にかられている。受け取ったものを、吐き出して刻んでおかないと、という切迫感に。
こうなると好き嫌いじゃないのだ。共感もできず理解も遠い、だからこそこの作品はきっと自分の中には何も残らず忘れて落ちて消えていく。
だからこそ、今のうちにこの感じた、届いた、なにかがあったという事実だけでも書き残しておかないと。

彼らは、主人公である大学生の青年やヒロインである女子高生の少女は、うまくいきることの出来ない人間だ。生きることそのものが下手くそだ、と言っていいかもしれない。泳げないくせに、水の中で生きていて、いつだって溺れていて、いつか力尽きて水面に顔を上げて息も吸えなくなって沈んでいくのを待っているかのような人間だ。
溺れる者は藁をも掴む、という言葉のように彼らは掴める藁たる誰かを求め続けている。人とうまく接することが出来ず、人と人との繋がりの中で自分を確立できず、いつだって辛い思いをしているのに、そうやって誰かを求めている。そうしないと、寂しくて生きていけないのだ。
掴んでいた藁である「先輩」から別れを告げられ、溺れて半分死んでいた状態から辛うじて死んでいない状態に戻れていた彼は、少女に出会った。
出会うべくして出会ったのか、それとも本当に奇跡の賜物だったのか。いずれにしても、それは運命でもあったのだろう。
上手く生きることの出来ない二人。でも、それはそれだけ真面目に「生きる」事に向き合っているからなんじゃないだろうか。適当に生きてたら、漠然と生きていたら、果たしてこんなに苦しいと思うだろうか。悲しく感じるだろうか。必死だからこそ、一生懸命だからこそ、本気だからこそ、それが上手く出来ないことに失望してしまう、絶望してしまう、ぽっかりと穴があいてしまうんじゃないだろうか。そうやって真面目に向き合ってしまうこともまた、生きることそのものが下手くそだという一要素なのかもしれない。
寂しい、苦しい、哀しい。惨めで歯がゆく、幸せが憎く、自分たちを苛む生き辛さを内側に押し込むことが出来ない。それを主人公と少女は二人で共有し、寄り添う事で耐え忍ぼうとしている。
一緒に寂しくなりましょう。そう言って、お互いにボロボロに欠けた部分を嵌めあわせて溺れないように繕おうとする。
不幸と不幸をかけ合わせて重ね合わせて、彼らは幸せになれたんだろうか。かつてあった幸せを、取り戻せたんだろうか。それは、凍えて遠ざかる意識の端でマッチの火に照らし出された幻だったのだろうか。
寂しいまま寂しくなくなる。悲しいまま笑うことが出来る。何もかもがどうしようもなく不幸なまま、幸福になる。相矛盾するそれらは、確かに彼らの間に在った、気がする。
そんな風に、描けるんだ。

これだけゆらゆらと不安定に揺れる精神のもとで、心の中身を剥き出しにしたように情動を吐き出して、描かれる物語なのに不思議とこの作品は理性的だ。視点は読者を置き去りにせず、むしろ苦しみもがく彼らを突き放したように淡々とそのもがきようを描写していく。感情のままに語られれ吐き出される言葉は、支離滅裂のようでどこか整理されていて平易にその奥底にある心情を伝えてきてくれる。
吐き出すがままに描かれた物語は本来もっと主観的で、勢いや感情の強さ激しさ痛切さで押し切ろうとするものが多い。しかし、本作はそういうものを本質的に忌避したのだろう。だからこそ、共感のない自分のようなものにまで届き得たのだ。小説として、この作品は整え切られている。読まれるものとして、見事なまでに理路整然と描かれている。このセンシティブで脆く儚い作品は、物語としての美しさ以上に、小説という枠組みとして美しい。

アガートラムは蒼穹を撃つ 1.三日月学園機関甲冑部の軌跡 ★★★☆   



【アガートラムは蒼穹を撃つ 1.三日月学園機関甲冑部の軌跡】 山口隼/たかまる  オーバーラップ文庫

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空を飛ぶ鎧“機関甲冑”の開発により、簡単に空を楽しめる世界。そんな機関甲冑を身に纏って空で競い合う、流行のスポーツ“機関甲冑競技”。高校2年生のHQ・松原優が、幼なじみでプレイヤーの少女・高坂凪と挑んだ全国大会は準優勝に終わった。雪辱を果たすため、今度こそ優勝を誓う優たち。しかし、競技人数の変更によって部員不足となり、部は大会出場すら困難な状況に陥ってしまう。一度は辞めたプレイヤー復帰の選択を迫られた優は、前回覇者であるフェリシアたちとも競い合いながら、再び全国の空を目指す―!蒼穹に憧れた高校生たちの織り成す青春ストーリーが幕を開ける!第6回オーバーラップ文庫大賞・銀賞。
ロボットもの、なんだけれど大きさも2メートルから2.5メートルくらいと本当に小さいので着込むという感覚で甲冑というのは正しい表現なのでしょう。
それに戦闘シーン、空中戦の様相を見ているとロボットものというよりも戦闘機のドッグファイトを連想させられるんですよね。より「飛ぶ」という側面に力が入った描写ですし、人型の印象があまりなくて戦闘シーンをイメージするのが結構難しかった。頭の中に浮かんでこないというか。
いっそ、馬上槍試合(ジョスト)的なものだと思えばいいんだろうか。一瞬の交錯の際の攻防がメインですし。かと言って一直線にぶつかり合うのではなく、広い空の三次元を十分に使い、速度をいかして相手の認識外から一気に詰め寄るのはまさに航空戦のドッグファイト。もうちょっと戦闘シーンのイメージが湧きやすかったらもっと熱くなれたかもしれない。
一度中学で選手として退き、HQ……試合を管制して選手に指示を飛ばす司令の役を担っていた主人公優が、大会規定変更から大会参加のための選手不足に陥ってしまった状況から現役復帰することに、という展開なのだけれど。
かつての名選手が復活して、というわけではなくブランクもあり元々普通に優秀な選手というくらいで壁にもぶち当たっていたレベルなので、復帰したとしてもまず元の技量を取り戻すのに一苦労、センスを取り戻してもそこから伸び悩み、と決して優れた選手とは言えないんですよね。
そもそも、中学の時に一度選手としての自分に見切りをつけてしまった身。潔く見切ったというよりも、心折れてしまったという方が正確な結末を一度迎えていたのである。その折れた心はまだ繋がっていなくて、一番踏ん張らないといけない場面で逃げ腰になってしまう、諦めてしまうくせがまとわりついているのである。そういう悪癖が露骨に露呈してたら対処もしやすかったのかもしれないけれど、この主人公って理屈屋で理論家、ロジック重視の人間なんですよね。だもんだから、一瞬の判断における退きの選択にも、やたらと完璧な理論武装を自然としてしまうのである。冷静に考え分析して判断した結果、退く事にしたのだ、負けてもいい場面だったのだ、と踏ん張れずに諦めて逃げてしまった事について上手いこと言い訳して理由づけして、糊塗してしまう。それも無意識に。だから、自覚もなく薄々気づいてはいるのだけれど直視しなくて済むだけの言い訳を用意できてしまう。それが彼の迷走を長引かせるのである。
そう、イイわけではあっても筋は通っているわけだ。一面において正しいのである。だから、指摘され否応なく自分の心がまだ折れ続けていることに気付かされても、なかなかそれを克服できない。気合と根性は十分で、憧れと目標はちゃんと目の前にあり、それに手を届かせるための努力は欠かさず、必死に身も心もイジメるのだけれど……なかなかそう簡単に一度ハマってしまった陥穽を克服するのって出来ないんですよね。
思考力分析力に優れていて戦闘中でも様々な戦術を練り、状況を考察し可能性を走査していく。頭の良さを現場で活かせる人材である事は確かでHQとしても本当に優れているのだけれど、そのひたすら考える深く思考するというスタイルが、彼の場合戦いにおける集中力を阻害していたんじゃないでしょうかね。秋子を部活に勧誘したさいの勝負で見せたあのギリギリでの局面での集中力はまさしく彼の武器であっただけに、彼の思考が逆に目の前のことに意識散漫になってると思わせられる場面も多かった。なかなか難しいもんですねえ。
そんでもって、理論家であっても感情的にはクールと真逆の激情家な面もある主人公なだけに、鬱屈はわりと用意に表に出る。そうなると、仲間同士の関係も不用意な衝突が発生する。それが幼馴染相手となると、そりゃもう拗れる拗れる。なまじ何でも曝けあってきたと信じるもの同士。一緒に暮らすて気楽に部屋に入り浸るほど、もうビタビタの間柄だからこそ、隠し事したり相手への過剰な感情を持て余して自然に振る舞えなくなると、そりゃもう酷いことになる。
これも幼馴染という関係故なのだろう。でも、そんな拗れた関係を簡単に修復できてしまうのもまた幼馴染という特別な関係ゆえなんですよね。自身の不調、停滞ごと乗り越え克服し、自分をまっさらにして新しく出来るのも、心から信頼して過去から未来までずっと一緒に居続けるという確信があり、望みがある比翼の関係だからこそ、一緒に飛べる空がある。幼馴染万歳三唱、だわねこれ。

 
6月17日

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6月16日

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6月15日

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(サーガフォレスト)
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6月12日

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6月11日

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6月10日

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6月9日

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6月8日

(ドラゴンコミックスエイジ)
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6月7日

(アフタヌーンKC)
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6月5日

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6月4日

(JUMP j BOOKS)
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6月2日

(講談社ラノベ文庫)
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(Kラノベブックス)
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6月1日

(芳文社コミックス/FUZコミックス)
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(角川スニーカー文庫)
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5月31日

(WITノベル)
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(ヒーロー文庫)
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5月28日

(ヤングアニマルコミックス)
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(サイコミ×裏少年サンデーコミックス)
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(ファミ通文庫)
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(エンターブレイン)
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5月27日

(電撃コミックスNEXT)
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(モンスター文庫)
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5月26日

(角川コミックス・エース)
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5月25日

(MF文庫J)
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(オーバーラップ文庫)
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(KADOKAWA)
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5月24日

(あすかコミックスDX)
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5月21日

(MFコミックス アライブシリーズ)
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(アルファポリス)
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5月20日

(富士見ファンタジア文庫)
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