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時槻風乃と黒い童話の夜

時槻風乃と黒い童話の夜 23   

時槻風乃と黒い童話の夜 第2集 (メディアワークス文庫)

【時槻風乃と黒い童話の夜 2】 甲田学人/三日月かける メディアワークス文庫

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――少女達にとって生きることは『痛み』だ。現代社会に蘇る恐怖の童話ファンタジー第2幕。

「奈緒。わたし、可愛い?」
京本奈緒は、嘘が嫌いだ。その潔癖とも言える『嘘嫌い』のせいで親しい友達も少ない。だが唯一、天城紅美子だけは中学校からの親友と呼べる存在だった。
紅美子は奈緒が知る限り最上の美少女だが、過度の寂しがり屋と浅慮な言動のため、同性からは嫌われていた。
そんな紅美子の嘘や隠し事のないあけすけな言動は、奈緒にとっては心地よかった。
だが事件は唐突に起きてしまう。そして闇夜を歩く時槻風乃に出会い、二人の少女の間に黒い影が落ちる――。
「白雪姫」「ラプンツェル」など、現代社会を舞台に紡がれる恐怖の童話ファンタジー。
「白雪姫」と「ラプンツェル」というと、【断章のグリム】ではクライマックス、すなわち阿鼻叫喚の地獄絵図が繰り広げられた惨劇の元ネタとなった童話だったのだけれど、〈泡禍〉が介在しないこのシリーズでは純粋に人間の暗黒面が、少女たちを追い込んでいきます、と言い切れてしまえば楽なのだけれど、彼女たちを破綻するまで、破滅するまで追い詰めてしまったのは単なる悪意や負の感情じゃないんですよね。
強いて言うなら、幼い頃から家族が少女たちに強いてきた人格形成が、本来輝かしいものとして立脚するはずだった大切な人との「絆」を、逆に破滅への導火線へと変貌させてしまった、というべきか。彼女らにとって、結ぶに至った「絆」があまりにも強固でありすぎたが故の悲劇だったのか。
いずれにしても「白雪姫」にしても「ラプンツェル」にしても、決して「絆」を蔑ろにして相手を裏切る物語ではなかったのだ。両方共、最後までお互いの中の友情は本物であり、誰よりも、そう誰よりも大切な人だったというのは間違いなく……だからこそ起こってしまった出来事であり、だからこその惨たらしい結末だった。あまりにも、救いがない。
誰が白雪姫で、誰が継母の女王か。誰がラプンツェルで、誰が塔の魔女だったのかは実際に読んで確かめて欲しい。相変わらず、物語における配役は絶妙と言っていい。すべてが終わってしまったあとに童話の登場人物を当てはめてみれば、それは童話の登場人物の悲劇を現代における形に変えて、身震いするほどに再現されている。それは確かに現代の白雪姫で、現代のラプンツェルだったのだ。

それにしても、一巻からずっと続いているのだけれど、一連の少女たちの悲劇の発端となっている狂いを生じさせているのって、総じて家庭環境が原因だったりするんですよね。何らかの形で幼いころから少女たちに精神的な圧迫や思想の強制がつづけられた結果、どこかいびつな人格形成がなされてしまい、それが破滅を引き込んでしまっている。親や家庭環境というものが、どれほど子供に大きな影響を与えるものなのかがつきつけられているかのようだ。
今回に関しては、特に「ラプンツェル」が酷いなんてものじゃなくて、これほど惨たらしい子供の人格を無視した親としての在りようは見るに耐えなくて、あの手の平返しのはしごを外すシーンには反吐が出そう、という表現が相応しい。あれは本当にくそったれだった。あまりにも救われないよ。

風乃は、今回は言うほど導火線に火をつける役としては派手な動きを見せていなかったように思う。むしろ、洸平の方が起爆剤になってしまってるんですよね。彼が原因でもなんでもないんだけれど、偶然なのか何なのか、彼がその場面にただ居たこと、存在そのものが破滅の引き金となってしまっている、というのは、同じような悲劇を食い止めようとしていた彼の願いからすると、随分ときつい顛末なんじゃないだろうか。

1巻感想

時槻風乃と黒い童話の夜3   

時槻風乃と黒い童話の夜 (メディアワークス文庫)

【時槻風乃と黒い童話の夜】 甲田学人/三日月かける メディアワークス文庫

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中学二年の木嶋夕子は悩んでいた。常に優先される姉と、我慢をする自分。それは進路問題にまで発展していく―。そしてある所では、母親の顔色を窺いつつ、二人で助け合っている兄と妹がいた。だが二人の絆の中で負の想いが膨れあがってしまった時―。彼女達が悩みの末に出会うのは、時槻風乃という少女。風乃は闇に溶け込むかのように、夜の中を歩いていた―。「シンデレラ」「ヘンゼルとグレーテル」など、現代社会を舞台に童話をなぞらえた恐怖のファンタジーの幕が上がる。
電撃文庫からシリーズとして
出たファンタジックホラー【断章のグリム】のスピンオフとなるこのシリーズ。生前の時槻風乃をキープレイヤーとして描くシリーズの前日譚。タイトルにシンデレラとかヘンゼルとグレーテルとか並んでた時はびっくりしましたけれど。断章のグリムの各巻のサブタイトルと同じだっただけに。
ただ、こちらは泡禍という怪異の要素は皆無で、ひたすら現実的な話に徹しています。それだけに、余計に理不尽で救いがないといえるのですけれど。まさに現代版暗黒童話。シンデレラやヘンゼルとグレーテルといった童話に照らし合わされたような話が、現代を舞台に繰り広げられるのです。そこにあるのは、お伽話から連想するフワフワとした淡い夢に包まれた甘菓子のようなお話ではなく、タールのようにまとわりついてくる吐き気を催すような悪夢めいたお話。子供たちがじわじわと心を削り取られていき、絶望の淵でのたうち回った挙句にぴくりとも動けなくなるお話。そこに、希望や救いなんてものは何もない。ようやく保っていたものが、プツンと切れて空っぽに成り果てたあの瞬間の姿は、シンデレラにしてもヘンゼルとグレーテルにしても、そして金の卵をうむめんどりにしても、それを目にした瞬間、心がすっと冷えるような放心に見舞われる。
絶望とは、本当に空虚で冷たいものなのだ。
お伽話と違って、ここで描かれるお話はすべて「めでたしめでたし」とは正反対のバッドエンドで終わっていく。風乃は何も出来ず、それを見送るだけ。彼女は決して厄災や人の死、不幸を望んでいるわけではない。それどころか、あまりに苦しい現実の日々に溺れて苦しんでいる子供たちに、他人である彼女に出来る限りの言葉を投げ与えている。だけれど、その言葉が或いは彼女たちに一線を越えさせてしまう要因になっているのか。
だからこそ、風乃は自らを死を招く死者と自嘲し、他者を遠ざけようとしている。彼女自身、悲しみと自己嫌悪に蹲りながら。
死後、妹の雪乃に取り憑くようになった彼女は、悪意めいた嘲弄で雪乃や白野蒼衣を翻弄するけれど、この頃の風乃は本当に触れれば割れて粉々になってしまいそうな儚さで、その不吉な様相を塗りつぶしてありあまるか細さに縛られている。彼女自身、やがては不幸の底に落ち、妹に呪われながらもつきまとう存在と成り果ててしまうのがわかっているだけに、自己嫌悪に縛られて苦しむ彼女の姿には辛いため息しか漏れてこない。

しかし、それにしても救いのない話しである。シンデレラには王子様など現れず、グレーテルはヘンゼルに見つけてもらえないまま彼女自身が魔女となりはてた。どちらも家族の虐待をもとにした話になるんだけれど、学校でのイジメでも容易に子供たちは絶望にくれてしまうのに、帰るべき場所である家庭が、守ってくれるはずの家族が自分を虐げ、否定し、悪意で責め立てて来た時に感じる奈落はどれほどのものなんだろうか。胸の奥が重たくなる。
そして、【断章のグリム】からの再掲となる【金の卵を生むめんどり】。再度読みなおしても、やはり凄まじい話だった。翔花という普通の少女の怪物とかすほどの激情と、そこからの滑落が、背筋が寒くなるような哀れさで惨たらしさで。彼女の最後の憤怒と、その火がふっと消え去って空っぽになった瞬間の描写の薄ら寒さは、ほんと特別です。

これ、このままシリーズ化になって、「人魚姫」「あかずきん」と続いていくんだろうか。洸平が狂言回しになりそうで、続きそうな気もするんだけれど。それはそれで読みたくもあり、気が重くもなり、複雑な気分である。読むけどね。

甲田学人作品感想
 
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