【朝日奈さんクエスト センパイ、私を一つだけ褒めてみてください】 壱日千次/U35 ファミ通文庫

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人生はクエストの連続ですよ! 一緒に楽しく攻略しましょ!
ぼっちはリア充を凌駕する!! ネトゲ世界に入り浸り、世界中のプレイヤーとコミュニティを築いている僕が言うのだから、間違いない。しかし、そんな僕の計画的ぼっちリアルライフに現れ「現実もゲームと同じクエストの連続でとても楽しいですよ!」と言い放ったのは、スクールカーストの頂点を極めしリア充JK、朝日奈舞! さらにやつは「そんなセンパイに人生攻略の仕方を教えてあげますよ♪」と僕の人生に介入してきたのだ。そこまで言うなら教えてもらおうじゃないか。楽しい人生攻略方法というものを!!

さながら【弱キャラ友崎くん】を彷彿とさせるぼっち君への美少女によるリアルライフ教導もの、なんだけれどこの主人公である月岡草一は実のところ全く弱キャラなどではない。
彼の場合、コミュニケーション不全であったのはその経歴上他人と関わる機会が非常に少なかった事による経験値不足に尽きる。この男、実際は人に自分から話しかけたり全く見ず知らずの集団に飛び込んでいく事に忌避感も恐怖感も持っていないのだ。朝比奈舞の繰り出してくる朝比奈クエストで出されたお題は、ぼっちが行動に移すには大変な勇気を振り絞らないといけないものが多いのに、彼はそれらのクエストを単純に未知のものとして捉え、舞が保証するそれらもまた楽しい事だという言葉を信じて、好奇心にワクワクしながら挑んでいく。そこに、コミュニケーションを不得意とするが故のおどおどとした姿勢は微塵も存在しない。
彼は結局、他人や社会でコミュニケーションを密接に取る必要性を今まで見出してこなかっただけなのだ。そして、初めてのオフ会で舞とうまく話せなかったのも、これまでやってこなかったからやり方を知らなかっただけの経験値不足なだけで、恐れや諦めのたぐいはまったく内包していなかった。
この時点で少しおかしい。
つまるところこの男、他人と関わらない事、周りから孤立し阻害され置いてけぼりにされる事に対して今まで不安感を抱くことがなかったのだ。これまで友達は居たことがない、と顔色も変える事無くそれが特別なことでもない普通のことのように語る草一。小中高校の閉ざされたコミュニティの中で孤立する事に一切苦痛を抱いていなかった事になる。それどころか、幾つかのエピソードから阻害し孤立した彼に対して行われた虐めの類に対して草一は徹底した反撃を行い、自分に対する危害を見事に排除してしまっている。
彼は、朝比奈舞とリアルで顔を合わせるまで、言わばたった一人で完結していたのだ。それで満足していたし、不満も不安も抱いていなかった。それで十分人生を謳歌し、楽しんでいたのだ。
しかし、舞によって草一は「お一人様」とはまた違う「みんなといっしょ」という未知が、自分の抱いていたイメージと違ってこれはこれで楽しいものだ、という教唆を受け、その楽しさを証明し実感させてくれるという朝比奈さんクエストに、未知の楽しさを知るために挑んでいく。
それも、最初期のクエストで実際に自分の知らなかった楽しさを感じることで、そして舞へ抱いた信頼と信用から、彼女の繰り出してくるクエストに嬉々として挑戦するようになるのだ。

こうしてみると、朝比奈さんクエストによって月岡草一が得ていく変化とは、自己改革……ではないんですよね。月岡草一という青年はこのクエストを熟す以前と以後とでは実のところそれほど変わっていない。彼の個は既に揺るぎなく確立されていて、その事には朝比奈舞も早期に気づいている。
いわばこのクエストは、月岡草一の変革ではなく自己拡張を促すものだった、と考えるべきなのだろう。
なので、途中から舞の目的は兄に似たダメンズだった草一を世間と繋がった社交的な人間にする、というものから自分を好きになって貰うための誘導へと一気に方向転換してしまう。
これまでネトゲでパートナーとなり長くネット上で過ごすうちに画面越しの草一に好意を抱くに至っていた舞だけれど、実際オフ会で顔を合わせてそのコミュ障プリに失望してしまうのですが。
そこで見切りをつけてハイサヨウナラ、とせずに一旦気持ちを切り替えて上辺を取っ払い、草一に踏み込んで話し込んで彼という人間に実際に触れてみた、ここが朝比奈舞という少女の非凡な所なのでしょう。それ以前に同じようなぼっちだった実兄を徹底指導して見事に生まれ変わらせた経験も、彼女を後押ししたのかもしれません。
ともあれ、よく話し込んでみたらやっぱり面白いところも見いだせてきた草一に、朝比奈クエストと称して彼を変えていくことにした舞ですけれど、クエストを出していくうちにどうにも月岡草一という人間が並々ならぬ逸材である事に気付かされ、その本質がネット越しに思い描いていた人そのまま、いやそれ以上の人間であるのだと実感し、改めて自分がこの青年の事を好きだと自覚するのだ。
そして、彼女の目的は最終的に自分に振り向いてもらう事へとグルっと方針転換するのだけれど、折悪しくというか舞自身がヤブに蛇をつついて、なんでかクエストの最終目的が草一の憧れだった先輩に告白して付き合う、というものへとコチラも方向転換してしまうのである。自分が主導しておきながらどんどん自分が望む方向からズレていく草一との付き合いに、あれれぇ?と見た目自信満々に内面はあたふたオロオロしていく朝比奈舞のポンコツ可愛さが炸裂しだすのはこのあたりからなんですね。
実は自爆系ポンコツ娘だった朝比奈さん。そのクエストの内容や効果は眼を見張るものがあり、その頭脳の切れや有能さは折り紙付き、傍目の自信満々で胸張って先輩に対してあれこれ指導する姿も堂に入るものがあるのだけれど、肝心なときには人知れず自爆し内心で七転八倒してる姿が本当に残念で愛らしいんですよね。逆張りしつづけ、どんどんと草一と彼の憧れの人である高嶺遙花との仲がどんどんと進展して仲良くなっていくたびに落ち込み、自分が教導しているくせに告白が失敗するように願っている事に自己嫌悪したり。後半は、舞もまた主人公というべき描写だったようにも思います。
しかし、なんでこの娘は勝利目前になって調子乗るかな! とどめを刺ずに舌なめずりは三流の所業なんですよ、朝比奈さん! いちばん大事な場面で浮かれて調子乗って、盛大に自爆してww
どこをどう見ても自業自得でしかない、本当にどうしようもないアホの娘なのですがそこがまた、うん可愛い、可愛いよ。
とはいえ、パーフェクト美人に見えて隙ばっかりで天然模様な高嶺先輩も非常に魅力的に描かれていて、朝比奈舞のライバルとしてはむしろ格上、圧巻の上位クラスなだけに、ほんと何やってんのかなこのポンコツ娘はw
あれだけオウンゴール叩き込みまくっても、まだアドバンテージを残してくれている草一くんに朝比奈さんはもっとサービスすべきですよ、うん。

なかなか月岡草一くんが思わぬ方向から突っ込んでくる珍しいタイプの主人公でしたが、壱日千次さんの作品として見ると、ヒロイン含めて地に足がついたエキセントリック度の少なめの大人しい作品だったかもしれませんが、現代舞台のラブコメとしてはとてもポップで、ヒロインの舞も生き生きして主人公の草一と絡んでいく、楽しい作品でした。うん、面白かった。

壱日千次作品感想