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杉原智則

叛逆せよ! 英雄、転じて邪神騎士 3 ★★★★   



【叛逆せよ! 英雄、転じて邪神騎士 3】 杉原 智則/ヨシモト   電撃文庫

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二人の王女と一人の騎士――今、決断の時! 英雄のチグハグ世直し第3弾!

邪神を討ち倒した英雄ギュネイは、敗戦国ランドール王国の荒廃ぶりを見かねて手助けを重ねるうちに、救世主〈黒狼の騎士〉として祭り上げられてしまう。
そんななか、〈純潔の聖女〉エリシスの暗殺計画の情報を得るギュネイ。居ても立ってもいられず、ランドールの姫・ミネルバに暇を乞うが……

「これまでよくぞ仕えてくれました、と言うと思いましたか? 許しません!」
「ええっ!?」

時を同じくして、それまで沈黙を貫いていた不死騎士団残党が王都に押し寄せてきて――二人の王女の間に立つギュネイ、今こそ決断の時!?
邪神王国復興物語、第3弾!


完全に続きが出るの諦めていたので、新刊情報にタイトルが出た時は思わず声が出てしまうほど驚いてしまいました。音沙汰なくなってしまってそのまま幕引きか、と思われている作品でもこうして復活するという前例を作ってくれたのは希望そのものです。
さて、前回は衝撃的というのもまだ生ぬるいほどの欠片も頭の片隅になかった衝撃的な展開に、ある意味打ちのめされ、ある意味胸を突かれ情動を噛みしめることになったのですが。
ギュネイからすると頻繁にあるわけではないにしても、決して珍しいことではなかったのかもしれない。でも、あんな風に感謝されて約束を預けられていく事はなかったんじゃないかな。
彼が見ている世界。魔鎧によって死者の姿と声を聞けるようになってしまったギュネイにとって、語りかけてくる死者は常に傍らにある存在で、いつしか彼は死者と生者の区別が付きづらくなっていき、それが高じて死そのものに忌避感を感じなくなっていく。生きていることも死んでいることも変わらない。そんな生死の境界への認識の曖昧化は、彼から生きることへの尊さと死を迎える事の重たさを見失っていく。もし、そのまま行けばギュネイは、英雄竜騎士は亡者の想念に飲まれて生きながら死者の騎士になっていっただろう。
そんな彼を生者のもとに引き戻したのは。生きていることの素晴らしさと、死の冷たさを恐怖を、死とは喪われることなのだという当たり前の事実を突きつけた人こそ、聖女エリシスだったのである。
もうこれ、ただの仲間とか密かに思いを寄せていた姫とかいうレベルじゃないじゃないですか。身を挺して、自分を黄泉から連れ戻してくれた人。自分のために必死になって、比喩ではなく命を賭けて助けてくれた人。ギュネイにとって、もう唯一無二の相手じゃないですか。掛け替えのない人、大切な人という言葉では到底足りない人。
……なんで、そんな人放ったらかして樵なんかしてたんだ、こいつは。
聖女エリシスに危機が迫っていると知った途端に、何もかもを放り出してエリシスのもとに駆けつけようとするギュネイ。
いや、放り出せるはずないじゃないか。
ギュネイは自分でも自分のことを正確に分析しているのだけれど、この男とにかく目の前の事にしか考えが及ばないんですよね。とにかく、目の前の理不尽を見捨てられずにひたすら対処療法で対応していくものだから、にっちもさっちもいかなくなるのである。
一応、先々の展望も考えて想定して動こうとしているのだけれど……どう見てもそれ願望ばかりが混じってて、全然うまくいきそうにないのよねえ。全部自分の都合の良いように動いたらそうなるでしょうねえ、という見通しばかりで甘いよ、考えが甘すぎるよ!
と、思ってたら速攻お暇願ったミネルバ王女にダメ出しされる始末。気持ちよく見送ってくれるに違いない、とか何を考えたらそう思えるんだw
なまじギュネイって、あとでちゃんと冷静になって落ちついて相手の身になって考えればちゃんと相手の言い分にも納得できてしまうので、考え方が甘い割に相手の言い分に納得させられてしまう事も多いんですよね。とはいえ、それは納得できるだけの理由があればこそで、理不尽な相手には相応の剣をきっちり振るっているからこそ、こうして英雄として持ち上げられるだけの結果を出し、悪しき敵を討つ形になっているわけですが。
またそういう時に理不尽を見過ごしたり出来ず、悲劇を見捨てられないからこそ、厄介事にまめに首を突っ込むはめになり、挙げ句にかつての敵国で謎の英雄として持ち上げられ、今下手をするとかつての仲間と敵対しかねない立場になってしまっているわけで。
世渡り下手もいいところなんだよなあ。
でも、今も昔も彼の周りに集うのはそんな不器用な彼を利用して使い捨てようとするような人間よりも、彼のその行いを信じて慕ってくれる相手なんですよね。見る目は、確かなんですよねえ。
ミネルバ王女も、不死騎士団のクルスもこの動乱をギュネイと共にくぐり抜けたことで確かに覚醒に近い成長を迎えているのである。
それは、自分の理想や願望に溺れる事を許してもらえず、現実に直面させられ否応なく向き合わざるを得なくなった結果かもしれなくても。それを強いてきたのは、彼らに救いの手を差し伸べてきた謎の騎士「黒狼の騎士」たるギュネイだったとしても。
だからこそ、彼のことをどこかで恨みながらも慕わずには居られないんだろうなあ。
特にミネルバ王女は、一皮も二皮も剥けてとても神輿なんかじゃ収まらない、女傑へと変貌しつつある。あの不死騎士団の残党たちとの会見での圧倒的なまでの貫禄は、キャラクターとしての魅力としてもヒロインとしての存在感も、見違えるものを見せてくれましたし。
これほど強くなったところを見せて、そして同時にギュネイに対しては弱い部分を叩きつけるくらいに見せてくる。なんか駆け引きも海千山千のものになっていて、これどうやったってギュネイ、この娘さん見捨てられないでしょう。そういう風に、見事に自分を位置づけてみせたミネルバ王女の躍進は拍手喝采である。
でも、ああやって安易に約束してしまうのはギュネイの軽率さ以外のなにものでもなく。こいつ、絶対に約束とか破れない性格しているくせに、先のこと考えないでその場で自分の頭が回る範疇で判断してどうしようもない約束してしまうの、絶対前から何度もやってるぞこいつ。
それで、いろんな女性から恨めしがられるのだ。
ただでさえエリシスにミネルバという二大巨頭が両立してしまい、しかも立場上状況上、二者択一の選択を突きつけられてしまう中で、完全に厄モノでしかないものにまで引っかかってしまって、どうするんだこれ。本気でどうするんだ!?
ギュネイの従者で彼に今の状況を正確に知っているリーリンが、エリシスのもとにまでたどり着けたというのはどん詰まりの状況を打破する光になるのかも知れないけど、放っておくとどんどん自分でどん詰まりにハマっていくギュネイの元から、なんだかんだとしっかりしていて苦言もていしてくれるリーリンが、あまり効力を発揮できてなかったかもしれないけれどそれでもお目付け役として機能していたはずのリーリンが、いなくなってるという状況はなんかもうギュネイが頭からドツボにハマる前フリにしか見えないんですよねえ。実際、そうなってってますし。
それでも、エリシスが国元からこちらに来ているというのは、状況がもっと最悪になる可能性もあり、一応手の届くところまで来てくれたということで最悪の中の本当の最悪は回避できる可能性のようでもあり、ともかく本番はここからなんですよねえ。
ある意味物語としてキリのよかった前回と違って、今度は本当に次回に続くになっているので、ちゃんと遠からず続刊が出てくれることを信じたいと思います。祈りたいと思います。

叛逆せよ! 英雄、転じて邪神騎士 2 ★★★★☆   

叛逆せよ! 英雄、転じて邪神騎士2 (電撃文庫)

【叛逆せよ! 英雄、転じて邪神騎士 2】 杉原智則/魔太郎 電撃文庫

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かつて邪神を討ち倒した英雄、ギュネイは、敗戦国となった邪神王国・ランドールの荒廃ぶりを見かねて手助けをし、ついには城一つを奪還してしまった。そんな中、邪神降臨を目論んだ大司教の娘、ロゥラを旗頭とする一団が決起。かつてはギュネイも刃を交えた邪神王国四天王の生き残りを中心に、再び邪神を降臨せんとしているという。他方、ランドール再興の兆しを感じた周辺国からも大部隊が進軍してくる。邪神王国に迫るさらなる危難を前に、ギュネイの取る一手とは?というか、そもそも助太刀してていーのか!?英雄による邪神王国復興物語、第2弾!

…………(絶句)。
思わず声に出して「え!?」となってしまいましたよ。マジかーー。
まったく思いもよらなかった。一巻で明かされずにこの2巻の最後の最後まで引っ張るとは。そうなんだよなあ、一巻の時からそういうことだったんだよなあ。そう考えると胸中複雑極まりない。
というかですね、ギュネイは最初から知っていたんですよね? いやもうなんちゅうか、彼の異能というべきか宿業ともいうべきその力の恐ろしさ……恐ろしさというと言葉が違うな。ギュネイが見ている世界、感じているものがどれほど途方も無くて、切ないというかキツイものなのかを、最後の最後までギュネイがまったく読んでいるこっちにまで気づかせなかったことで、なんか思い知らされた感じなんですよね。
杉原さんの描く物語の主人公って、多かれ少なかれ他者と断絶した孤独さを纏っているのですけれど、最低限彼らの内面を覗き見ている読者サイドは、彼らの孤独を認識してあげられる程度の見守りは出来ていたと思うんですよね。
今回、素振りすら見せなかったギュネイはそれをすら、読者にすら抱えている孤独な世界を垣間見せなかったんじゃなかろうか、と幾ばくかの戦慄を覚えているのです。
作者が厳しいのはギュネイに対してだけじゃないんですよね。普通なら狂信者としてそのまま退場していたであろうジルや、ランドールのミネルバ王女、邪教集団の残党の首魁たるコンラッドにすら、容赦しない。妄想や信念や正義に耽溺するを許さないのである。現実を突きつけ、自分の所業を振り返らせ、恐ろしいまでに自身を顧みる機会をねじ込んでくるのだ。
彼らは、悲しいことに真面目で誠実で、色んな意味で自分に対して嘘をつけず、糊塗して見ないふりの出来ない人間たちである。そんな彼らに、自分が正義のためではなくただ復讐のために虐殺を繰り返していた人間であるということ。王族としての責任を放り出して逃げ出したい自分の本心を見せつける。故国の愛すべき人たちを救おうとしながら、その実塗炭の苦しみを背負わせるどころか、狂騒に駆られたまま娘を犠牲に、今また新たに故郷を地獄へと追いやろうとしていたこと。それらを容赦なく目の前に突きつけるのだ。理解を拒み、認識を閉ざし、盲信に逃げ込もうとするのを目蓋をこじ開けさせて、目に焼き付けさせるのである。
見てしまえば、拒めない、知らないふりが出来ない、彼らはそういう人間なのだ。正しい責任感の持ち主であるが故に、自分の責から逃れられない彼らは、のたうち回り苦しみもがくことがわかっていながらも、自らの意思でその責任を背負うのだ。
そういう彼らを、英雄と呼ぶのだろう。その最たる人間が、この物語の主人公であるギュネイなのである。彼はきっと正義の人ではない。でも、自らの出来ることからは絶対に逃げられない責任感の人なのだ。
一面の真実は、視点を変えればまるで異なって見える。かつての自分が正しいと信じた正義は、立場を変えてみたらまるで逆の価値を帯びてしまう。目を背けて知らないふりをしたくなるようなこと、特に自分の醜さや間違い、愚かさを目の前に突きつけられることになるのなら、尚更に直視できないだろうことに、ギュネイをはじめとした彼らは真摯に受け止め、愚直なまでに飲み込み、想像を絶するだろう心の苦痛に耐えながら、省みて克服し決して一方的な正義ではない、誰にとっても最善の結果を導き出そうとのたうち回る。その姿は、ひたすらに尊く、敬意が湧き上がってくるのだ。
彼らはみんな、決してうまく物事を運べない。失敗は想定外が重なり、こんなはずじゃなかったのにという事ばかりが起こる。それでも投げ出さない、諦めない、どんなにブサイクでも逃げ出さずになんとかしようと奮闘する彼らは、本当の意味で格好いいと思えてならないのだ。
ラストの、ディドーの願い、ギュネイへの約束には心打たれた。それは呪いではなく、きっと祝福なのだ。誰にも認められず受け入れられないかもしれないギュネイの孤独な戦いを、最後まで肯定し賛辞し祝福する、言祝ぎだったと思えてならない。

1巻感想

叛逆せよ! 英雄、転じて邪神騎士 ★★★★☆  

叛逆せよ! 英雄、転じて邪神騎士 (電撃文庫)

【叛逆せよ! 英雄、転じて邪神騎士】 杉原智則/魔太郎 電撃文庫

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邪神王国は勇者の力でよみがえる! ちぐはぐ世直しファンタジー!

邪神カダッシュをこの世に降臨させ、全土統一をもくろんだランドール王国。しかしその野望は達成寸前で六人の英雄によって阻まれた。
戦後、現状を探るべくランドールに赴いた英雄の一人<竜戦士>ギュネイ。そこで彼が目にしたのは、戦勝国による容赦ない略奪、狼藉や身勝手な戦後処理によって荒廃する国土と苦しむ民衆の姿だった。
見かねて手助けしてしまったギュネイは、うっかり救世主、<黒狼の騎士>として名を馳せてしまう。意外としたたかなランドールの姫や、かつて刃を交えた仇敵と正体を隠しながら共闘するのも一苦労、そして対する敵は以前は肩を並べて戦った戦友で?
英雄による邪神王国復興物語、開幕!
これはまた、主人公に厳しい選択を迫り続ける話だなあ。
これ、実はどっちの陣営が善とか悪とか決まってないんですよね。強いて言うなら、侵略したランドール王国側であるのだけれど、ランドール王国も人類と敵対する魔族が国民だったりするわけじゃなく、普通に人間が住んでいる国であり、暴走した国教に引きずられた形で国全体が侵略をはじめてしまったという体であって、教団と王家もまた分けて考えるべき部分であり、国民に関してもその宗教を信じてはいるものの、別に世界を滅ぼす邪神を信奉している狂信者というわけではなく。元々破壊神とか邪神の類であったものの、表向きは神群の一柱という建前で教団立ち上げてたらしいので、信者の皆さんは別に邪神を信仰しているつもりはなかったみたいですしねえ。
とはいえ、現状でも信仰はそのままという国民も多く、教団に対する見解も別れてるようで、戦後の混乱期というのを鑑みても、相当国内情勢は混沌としている模様。それも、占領軍がちゃんと統治してりゃあ、戦勝国の支配下で過酷な施政がなされるにしてもある程度の秩序は整うはずなのに、肝心の占領軍がまともに機能していない、というのは致命的だわなあ。
兎にも角にも、ギュネイが再訪した邪神の国、ランドール王国はかくの如くもう無茶苦茶、としか言いようがない状況だったわけだ。
ギュネイにとっては、ランドールは自分の家族を戦時の略奪によって強殺された復讐の対象でしかなかったのだけれど、かつての敵国でかつての自分たちと同じ理不尽で残虐な人扱いされない惨たらしい行為にさらされている民衆の姿を見てしまったわけだ。
それで、ざまあみろ、と思えなかったのがこの男の不器用過ぎるところだったのだろう。彼の怒りや憎しみは、何の力もない民衆に対してまで燃え上がることはなく、むしろ民を虐げる暴力そのものへと向かってしまったのだろう。それを振るう人間の立場や所属など、わかっていながらそれが誰だろうと許せなくなってしまったのだ。
人としてそれはあまりに正しく、その正しさを押し通せる力を持ってしまっていた時点で、彼はまさしく英雄であったのだろう。不幸なことに、彼はたった一人の人や、仲間や、自分が所属する国のための英雄ではなく、人としてあまりに純朴な正義から目を背けられない、今から理不尽に虐げられようとしている人々を無視できない、哀れな英雄であったのだ。
ギュネイ本人は決して覚悟をきめるわけではなく、はっきりと何に味方するということを決心したわけでもなく、ただただ無視できず、退こう、一度帰ろう、どうしたらいいかわからないし仲間の賢者に相談したい、と思い続け、積極性とは程遠い態度を取り続けながら、それでもズルズルと引きずられるように、しかし一度たりとも目を逸らすことなく、目の前の惨劇に剣を持って割って入り続けたのだ。
これあかん、これやばい、このまま行くとちょっと取り返しがつかなくなる!? とひたすら焦りに焦りながらも、あまりといえばあまりに酷いランドール王国の有り様に、引きずられ続けるギュネイの右往左往っぷりが、もうなんか胸に来るんですよねえ。なまじ、なんとかしてしまえる力を持ってしまっていたがために、無力故に何もできなかった、という言い訳が出来ないのだ。自分に対してさえ、言い訳できず、流されるように、しかし自分の意思で戦うことを選んだ彼は、いつどこでどのように、という具体的な分岐点などなく、しかし決定的に選んでしまったのだろう。
せめて、政治的にこの状況を打開できる相手と何らかの相談と言うか意思の疎通が出来てればよかったんだろうけれど、目の前で起ころうとしている惨劇に背を向けて、その相談する時間を確保する選択を、取れなかったんだねえ、彼は。
故に、渦中から抜け出せなく成った。悲惨と言えば悲惨であり、自業自得と言えば自業自得であり、不器用の極みである。そして、図らずも、本来なら一面からしか見ることのない現実を、反対側からも見てしまい、現実というものの相対性というものに直面してしまった。そして、現実なんてそんなもの、という冷徹な視点を持てるような人間ではなかった、加えてその現実に対して武力介入できてしまう単体戦力を保持していた、というドツボにハマる条件が揃ってしまっていたわけで、これで開き直ってランドール側の人間として動こうという決断がくだせてたらまだ立ち位置がはっきりしたんだろうけれど、本人にそんなつもりはそもそもないわけだし、怨みしかないランドールに味方する義理もない。とにかく一貫しているのは理不尽と無法による暴虐に対する怒りのみ。中途半端っちゃ中途半端、煮え切らないっちゃ煮え切らないわけですけれど、当人からすりゃあだったらどうすりゃいいんだよ、てなもんですなあ、これ。
いや真面目な話、六英雄の一人である竜騎士ギュネイとして、本来もらうべきだった報酬貰って、権力握って、その上で無茶苦茶してる諸国を掣肘してランドールにどういう形の支配体制にしろ、秩序を回復させるために介入して、という手段を取るのがおそらくは最適だったんでしょうけれど、まず様子を見に足を踏み入れたところから引き返せなくなってしまったので、もうどうしようもないよな、これ。そもそもギュネイくんには政治力とかとんと期待できそうにないですし。そんなんあったら、そもそも本人訳わからんまま黒狼の騎士なんて祭り上げられてるはずないですし。
どう考えても、ギュネイ当人、どれだけ葛藤しようが足掻こうが、この段階から自力で状況を打開するための展望とか、視点の高さとか、能力とかなさそうなだけに、これもう行くところまでなし崩しに行き続けるしかないんじゃないだろうか。
えらいこっちゃなー、こりゃまた。

杉原智則作品感想

レオ・アッティール伝 首なし公の肖像 1 ★★★☆  

レオ・アッティール伝 (1) 首なし公の肖像 (電撃文庫)

【レオ・アッティール伝 首なし公の肖像 1】 杉原智則/岡谷 電撃文庫

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西のアリオン王国、東の聖ディティアーヌ連盟と二つの列強に挟まれたアトール公国。その公子レオ・アッティールはアリオンへ人質同然で送り出され、辺境の太守のもとで武芸と学問に励んでいた。そして時代は転換点を迎える。アトールと接する中立勢力・コンスコン寺院とアリオンの関係が悪化したのだ。アトールからの援軍パーシー、コンスコンの僧兵カミュ、僻地から来た傭兵クオンは協力して迫りくるアリオンの軍勢に対抗しようとする。その戦いの最中、三人とレオは運命の出会いを果たす―。若き主従が戦乱の世を駆け抜ける本格戦記ファンタジー、開幕!
ああ! これって作者が電撃文庫で手がけていた本格戦記【烙印の紋章】と同じ世界観の話だったのか。舞台となるアリオン王国というのは、烙印の紋章のラストに東から襲来してきた大国でしたしね。となると、冒頭で語り部が首なし公レオ・アッティールの伝記を語りかける皇帝と皇后ってもしかして、あの二人、なんでしょうか。この世界観において、皇帝と呼ばれる人物が国主となっているって、メフィウス帝朝だけですしね。それに思い至っただけで、ちょっとワクワクしてきてしまいました。特に本筋に関わる部分ではないのですが、なかなかに想像の翼を羽ばたかせてくれる掴みの部分でありました。
さて、本編はのちに英傑として名を馳せるレオ・アッティールが未だ歴史の表舞台に立つ前の、うだつのあがらない無力な人質でしかなかった時代からはじまります。かの人物が如何にして戦乱の渦中に立つのか。そして、一体何を成し遂げて勇名を、或いは悪名を轟かせ、そして歴史の闇に消えていったのか。どうにも、冒頭の語りを聞いていると、一体彼が何をやってのけて、そしてどんな結末を迎えたのかが想像の余地がありすぎるんですよね。レオ・アッティールの伝を残していたという名前が出てきたクロードやパーシーといった人物も、彼らの未来での立ち位置と現在でのレオとの関わり方を見ると、あれ? と首を傾げるような断裂がありますし。最初に種を撒き、それがまずは事が起こる前の序章というべきこの一巻を読み進めるうちに芽吹いて、この後の展開がどうなっていくのかの想像を羽ばたかせる材料となる。決して派手なストーリーじゃなく、それどころか人物も展開も渋めのものにも関わらず、ワクワクさせてくれる要素が上手いこと散りばめられているのが、さすがファンタジー戦記のベテランといったところでしょうか。
この作者の描く主人公の特徴として、絶対的な孤独、というものがあるのですけれど、本作のレオも彼を慕う少女や彼に傾倒していく仲間たち、という存在はありながらも、その心の中は他者とどこか隔たりを抱いていてその歩む道に孤独を付きまとわせているんですよね。レオが人質として預かられていた将軍家の末娘で、兄妹同然に育ってきたフロリーが、ヒロインだと思うんですけれど、うむむ、彼女が果たしてメインヒロイン足り続けることが出来るのか、少々不安でもあるんですよね。この娘、良くも悪くも善良で純真な乙女に過ぎず、レオのような人間の心の闇に踏み込んでいけるような強さがある娘なのか……。自分の痛みや辛さを我慢し耐えて、恋い慕う相手のために献身できる健気な強さを持つ娘だとは思うんですけれどね。レオにとっても、フロリーは大切な妹であり自身にとって重要な位置づけにある人物のはずなんですけれど、あのラストでの扱いを見ると、フロリーを愛し大事に扱うのと彼女の気持ちを考慮せず蔑ろにすることを、駒として利用することを平然と並列でやってしまいそうな所があるんですよねえ、この主人公。

と、最終盤でようやく主人公らしい出番を獲得するレオですけれど、実際の所この一巻で主だった部分を担っているのは、アリオン王国とコンスコン寺院の間で起こった小規模の紛争に参加しているパーシー・リィガンであり、彼がこの戦場で知り合い戦友としてともに戦い、運命を交錯させることになった僧兵の兄妹と傭兵の少年の四人なんですよね。相変わらずというか、烙印の紋章と同じ世界観なだけあって、出てくる人物は能力的にも人格的にも微妙な人たちばかりなのが、思わず微苦笑してしまう懐かしさでありまして。わかりやすく超優秀、というような戦記モノには必ずたくさん出てくるようなキャラがほとんど出てこないんですよね。でも、それがむしろ折々のキャラの判断や行動の是非、それがもたらす結果にヒリヒリとした危うさや生々しい息遣いを感じさせてくれるわけです。だからこそ、地味っぽい、派手さがない、キャラクターの華に欠ける、という部分もあるのかもしれませんけれど、杉原さんの作品だとむしろこれが味なんだよなあ。

ともあれ、本格的な動乱が訪れるのはまさにここから。レオ・アッティールがここから何を為していくのか、その残された数々の異名悪名に対して、その足跡はまだ何一つ明らかにされていないだけに、期待は高まるばかりです。

杉原智則作品感想

聖剣の姫と神盟騎士団(アルデバラン) 6 4   

聖剣の姫と神盟騎士団 (6) (角川スニーカー文庫)

【聖剣の姫と神盟騎士団(アルデバラン) 6】 杉原智則/Nidy‐2D‐ 角川スニーカー文庫

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将軍アグロヴァ率いるカーラーン軍の猛攻撃に、撤退を強いられたダークたち。まるで歯が立たない相手を前に、ダークはカーラーンに「寝返る」ことを画策する。一方、ラグナの谷には、離れ離れになっていた聖剣団のメンバーが集結し始めていた。しかし、反撃のためには、フィーネの力、そしてダークの戦略が必要不可欠で!?果たして、ダークとフィーネは再び力を合わせ、運命を切り開くことができるのか!?
ダーク、これ掛け値なしに見事な作戦ですよ。一番凶悪な策というのは、敵側に此方の作戦の意図が読まれたとしてもなお、その意図通りに動かざるをえない状況に追い込んでしまう、というものであり、ダークが仕掛けたのはまさにそれ。アグロヴァは、ダークの狙いをほぼ読み取りながらも、彼の抱く目的のためにはどうしても、ダークが仕掛けた「可能性」の罠に乗らなくてはならなかった。それでも、この元国王の将軍が恐ろしいのは、最悪目的を果たせなくても、根源地であるラグナの谷さえ潰してしまえば、聖剣団にとっても拭いがたいダメージになるだろう、と土壇場で肝を据えれてしまう所なのですが、さらにツッコむとそこまで割り切れるのならいっそ一切軍を割らずにそのまま攻め寄せるべきでもあったか、とも思うんですよね。思うだけで、いざ決断となると果たしてアグロヴァ以外にアレ以上の判断が出来るかというと非常に怪しいところなんですけれど。外部から見りゃ幾らでも言えるだろうけど、という状況なんだよなあ、これ。あくまで本命を谷側と見定めて追撃隊を最低限に押しとどめた将軍の決断力の方を褒めるべきなんだろう。実際、ダークの当初の目論見よりもだいぶ持って来られた兵数多かったみたいだし。
尤も、ここからのダークが仕掛けた二手三手がまた、アグロヴァという人間を読みきった上での手配で、今回のダークはキレにキレまくってた気がする。
尤も、そのダークの冴え渡る采配も、駒となる聖剣団の幹部たちがちゃんと言うとおりに動いてくれないと話にならないのだけれど……いつの間にか全員から一目置かれるようになってたんだなあ、ダーク。いや、マジでダークってあの幹部連中から実際どう思われてるんでしょうね。フィーネたちみたいに頭から信じ込んでいるわけではなく、ダークの心底がかなり小物っぽいというのはみんなそれなりに見抜いてたり伝わってたりしてそうなんだけれど、ダークの言にはみんなちゃんと耳を傾けて、じゃあその通りやってみようか、と納得して動いているあたり、面白いなあ、と。判断やら何やらを全部預けてしまうのではなく、ちゃんと自分で考えて自分を省みて、その上でダークの策を受け入れているあたりが、彼らの成長を意味してるんだろうけれど。
しかし、ダークの言葉ってなんであんなに琴線に触れるんでしょうね。本人的には心にもない事を口八丁でそれらしく言っているだけなのに。今回も、イアンが壁を突破し、ハスターとその弟も迷いを振り切りおのが誇り高き騎士としての道を見極められたのは、ダークの言葉がきっかけだったのですから。
さて、ダークの弁論術というのはあれ、何なんでしょうね。相手が欲しがっている言葉を見つけ出して与えているのか、それとも相手が気づいていない核心を貫く的確な助言であり指摘であり糾弾であるから、価値観や思想を揺るがすほどに心に届いてしまうのか。いずれにせよ、ダーク本人が思っているほど、適当にその場の乗りで心にもないことをしゃべっている、わけではないと思うなあ。あれで、ダークの本音や心情がちゃんと芯に入っているからこそ、言葉は心に届くのだろう。虚言でだまくらかされるほど、みんな早々チョロくはないよ。ただし、イアンは除くw 
そういう風に見ると、フィーネがあれだけダークの言うこと殆ど聞いていないにも関わらず、ダークを信じきって当人的にはダークの言うことに全部従っているつもり、というあの姿も何となくわかるんですよね。彼女は多分、ダークの芯の部分しか捉えてないし、眼中にないんじゃないかなあ、と。いやもうちょっと落ち着いて話聞いてあげようよ、と思わないでもないんだけれどさ、でも彼女が本当の意味でダーク本人よりも一番ダークの根っこの部分を見つけてるような気がすると、今回の話見ていて思うようになりました。

って、顔無しのリヴィとかかなり本気で存在忘れてたよ。そういえば居たっけ、不正規戦担当の忍者っぽい人。さすがは忍者、忍んでた忍んでた。そして、この人だけがグラジス団長の魂を取り戻すという目的の核心に届いていた、というわけか。他の連中、何だかんだと思うがままに暴れてただけっぽいもんなあ(苦笑
しかし、只人ならざる英雄であるグラジスが、こうも良いように魂を奪われ封印されてしまっていた、というこの状況は何となくですけれぞずっと違和感というかちぐはぐさを感じてはいたんですよね。特に、話が進むにつれてグラジスの尋常ならざる来歴が明らかになっていくに連れて、尚更に。
果たして、これほどの人物が、フィーネやダークの手によって魂を取り戻して、よくやってくれたありがとう、なんて感謝するような展開になるのかな、と。
でも、他に方法なんて考えられないし、聖剣団の部隊長たちと一致協力して、魂を取り戻すんだろうなあ、と何となく納得はしていたんですよね……まさか、こんな事になるとは、ほんと思ってなかったし!!
いや、実際グラジス団長が復活した場合、ダークの立場ってどうなるんだろうね、とは思ってたさ。思ってたけれど、思いの外部隊長たちとも違和感なく一緒の場所に居られてたし、フィーネとセットは揺るがないだろうから、何となくイアンやロア、ハスターたち次世代の連中とあわさって、上手いこと収まる所に収まるんだろうなあとは思っていたんだけれど……なんか、凄い爆弾ぶちかましてくれましたよ、最後に。
こ、これで第一部の終了ですか。なんかこう、怒涛の展開じゃあ。
未来を暗示する見開きのイラストに、なんだかこう息を止めてしまいます。いったい、どういう展開になっていくんだろう。これは、楽しみでもありハラハラと緊迫感もあり、第二部早う早うッ。

シリーズ感想

聖剣の姫と神盟騎士団(アルデバラン) 5 4   

聖剣の姫と神盟騎士団 V (角川スニーカー文庫)

【聖剣の姫と神盟騎士団(アルデバラン) 5】 杉原智則//Nidy‐2D‐ 角川スニーカー文庫

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「勝てない…」
ダークとフィーネの前に、ついに最強の敵が現れた!伝説の竜ドライグを超える力を持つその黒魔法士は、現世と魔界とを繋ぐ“門”すらも開いてしまう。魔物たちが押し寄せようとするなか、ダークたちに起死回生の策はあるのか。一方、ラグナの谷には将軍アグロヴァ率いるカーラーンの大軍勢が迫っていた。ヒエン率いる陸上船モーガウィル号が全速力で駆けつけるが、とうとう谷は赤い炎に包まれてしまい―!?
おおっ、ロナにもそんな裏技が装着されましたか。何気に、聖剣団の次世代のメンバーが集まりだしてるんですね、これ。今までイアンとかハスターとか、訳の分からない加わり方をしていたので意識していなかったのですが、ロナという死霊神官の若い子が現れ、今回十分な戦力として役立つことがわかったことで、ようやく今の幹部連中とはまた違う、ダークとフィーネの聖剣団が着々と構築されつつある事に気づいた次第。
そういえば、タイトルは神盟騎士団(アルデバラン)なのに、本編ではずっと聖剣団なのはなんでだろうなあ、と思ってはいたのですが、もしかして将来的に神盟騎士団を名乗ることになる、なんて展開もあるんだろうか。

これまでは、一巻ごとにラグナの谷からいなくなってしまった幹部たちを連れ戻すために駆けまわる展開だったのですが、今回はそれをさておいて、ついに黒幕の登場と、カーラーンの本格侵攻が開始されるという次のステージに至るための助走回、みたいなことに。ヒエンの姐御が前回特に前振りなく合流してきたのは、このためだったのか。
未だにフィーネの親父さんが皆殺しの島をなぜ訪れたのか、彼と黒幕と思しき黒魔法士との関係は。島を守護していた英雄の霊はどこへ行ってしまったのか、など謎が謎を呼ぶ流れになっていて、一歩一歩真実に近づいてはいるものの、暗中模索の段階だなあ、これ。ただ、ドライグからとある大層なシロモノを託されたり、と重要なイベントはちゃんと起こってるんですねえ。
そして、フィーネのダークへの信頼はほぼマックス状態。ダーク視点からすると振り回されっぱなしとはいえ、フィーネからするとダークは常に自分の期待以上のことをしてくれているわけで、そりゃあキラキラした目で見るようになるわなあ。少なくとも直情的に突貫してしまう癖をこらえられるようになったのは良いのですけれど、別に思慮深くなったわけじゃなくて、単にダークに全部丸投げしているように見えてしまうのは、フィーネの人徳というものでしょう(笑
ただ、絶体絶命の状況の中で、追い詰められまくったダークを傍らでニコニコと見守っているフィーネの姿は、微笑ましいのかなんなのかw それでダークも気分落ち着いてしまっているあたり、もう良いカップルじゃん、と思ってしまうのですけれど。お互い錯誤しまくっているくせに、一番根底の部分ではちゃんと繋がっているように見えますし。

とはいえ、今回岐路に立たされているのはダークよりもむしろハスターの方で……。やっぱり、本当は潜入してフィーネの親父さんの身体を探していたのか。でも、どうみてもそっちは片手間で、本気で馴染んじゃってるよなあ、ハスター姐さん。子供たちに情移しっぱなしだし。この人、こんなに情厚かったのか。とはいえ、最愛の弟が出張ってきたとなると、なりふり構うことも出来なくなるだろうけれど、だからといって手土産持って帰還しても弟を守れるかというと、今のところ見通しらしい見通しは全然立ってないんですよね。ハスター姐さんの追い詰められっぷりがパないの!

シリーズ感想

聖剣の姫と神盟騎士団 43   

聖剣の姫と神盟騎士団 IV (角川スニーカー文庫)

【聖剣の姫と神盟騎士団 4】 杉原智則/Nidy‐2D‐ 角川スニーカー文庫

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ラグナの谷に戻ったダークたちは、もう一つの反魂珠を求めて新たな旅に出る。その行き先は、死霊たちの王国が支配する『皆殺しの島』!!死霊たちが王と崇める英雄レイドックの霊と会うため、ダークとフィーネは王国の奥深くへと進んでいくが、その直後に死霊の騎士団の襲撃にあってしまう。フィーネの剣も届かない不死の騎士団を相手に絶体絶命のピンチに陥るダークたちだが、そこに美しき僧侶ロナが現れ―!?

ちょっ、リアルファンタジー世界でTRPGをやろうって発想、ダークって天才じゃね? TRPGだったら、別に科学技術とか必要ないので、中世ベースのファンタジー世界でも全然問題ないし、何よりリアルダンジョンを元にしてるからリアリティもあるし、英雄や冒険に憧れる子供たちにとっては娯楽も少ない世界だろう事も相まって、夢の様な遊びですぜ、これ。もちろん、相応にGMの能力は優秀である事が求められるだろうけれど、ダークはその辺うまそうだもんなあ。
まあ、これを子供たちから小金をせしめる小遣い稼ぎに使っているあたりに、彼の素晴らしい小物根性が窺い知れて、なんか逆に微笑ましくなってくるのでありました。やりようによっては、なんぼでもがっぽり稼げそうなアイデアなのに。

さて、イアンが完全にフィーネと同類の剣バカになっている一方で、ハスターさんは生き急いできた今までを省みるように何故か所帯じみたことに……エプロン姿の若奥さま風がえらい似合ってるじゃないですか!! ハスターさん、やたら露出がキツい衣装よりも、楚々とした大人しい格好の方が実は似合っていたという奇跡。若干、袖から蛇が顔を出しているという変なオマケがくっついていますが、これは意外なインパクトだったなあ。とは言え、イアンと違ってハスターさんの方はかなり成り行きでラグナの谷に居るだけなので、弟を国元に残している事もあって、裏切りというかスパイとして自主的に活動している疑惑はかなり濃いんですよね。手土産持参で帰る機会をうかがっているような感じで。もっとも、ハスターさんメインの事件が起こりそうなフラグは、きっちりと立っているんですけれど。

聖剣団の部隊長たちは、みんな一癖も二癖もある、というよりもかなり人格破綻してるような危なっかしい人ばかりなのだけれど、その中でも唯一一番まともそう、或いは常識人で思慮深そうだったのが、このハゲ坊主【死霊神官】ベアラーさんだったのですけれど、この人も他に漏れず周りを顧みない暴走状態。人の話を全く聞かないという意味では、【竜殺し】ラッセルにも負けず劣らずという体たらくで、いやほんとにいい大人がなにやってんだ。この人も、若い頃はヤンチャをしていた、と言うどころではない大暴れをしていた来歴の持ち主だったようで、この人もこんな辺境の傭兵部隊の一部隊長やってるようなレベルの人じゃなかったんだなあ。まさに【英雄】に名を連ねるに相応しい格の持ち主ではあったんだけれど、結局のところベアラーさん含めてどの人も元から高い場所に立っていたからか、さらにグラジス団長という英雄の中の英雄というべき偉大な人物に魅せられてしまったからか、上ばかり見ていて足元が全然お留守になっている。ふわふわと浮ついてばかりで、地に足がついていない。
ひたすら底辺を歩んできたダークからすると、部隊長たちの尽くが、英雄と呼ぶに相応しい力を持ちながら、幼稚とすら言えるような夢見がちな足取りでフラフラと覚束ない足取りでふらついているのが我慢ならんかったんだろうなあ。面白いことに、ダークに「叱られる」ことで、部隊長たちは現実を受け止めたかのように、夢から覚めたみたいに、今までの自分とこれからの自分を省みて、地に足がついた様子になってるんですよね。
ダーク自身は、自分の言葉は誰にも届いていないみたいに思っているみたいだけれど、思いの外彼の言葉って芯を貫くように届いてるんだよなあ。フィーネなんか特にそうで、うん、ダークの意図は全く伝わってないんだけれど、意外と彼が本当に心の奥底で思い滾らせている想いについては、凄く伝わって感化されてる気がするんですよね。傍から見てると、フィーネってもうダークにべったりとなっているようにすら見えるわけです。
そんな二人の関係が一方通行で済むはずもなく、ダークの方もフィーネの愚直さにどうしても感化されていってしまっているのが、なんとなく垣間見えて、思わずニマニマ。ダークは相変わらず、聖剣団が元の姿を取り戻すにつれて疎外感を感じだしているようだけれど、カラス師匠の宣う通り余計な考えですし、むしろ彼自身思いもよらないようだけれど、疎外どころか主だった人物たちからするともうダークの存在って無視できないものにすらなっているのです。まあ、彼が中心核、とは間違っても言えないのですけれど。でももう、ダークなくして聖剣団はまとまらないところまで来ちゃってるんだろうなあ、これ。

とりあえず、ロナくんが男というのは、未だに信じられません。こんなに可愛い子が女の子のはずがない理論なのか、これが。

あと、死霊の島でダークが垣間見た過去の映像。そこでは、グラジスと思しき人物がこの島を訪れていた、ということがわかったのですけれど、もう一人、団長に同行している謎の人物がいたのですけれど……んんん?
これ、さり気なく重要な伏線なのかしら、もしかして。何故団長がこの島を訪れていたのか、など謎は明かされないまま次回に流れてしまった事は、余計に重要性を指し示しているような気がする。

そろそろ、大きく事態も動き出し合戦も勃発しそうな勢いなので、盛り上がってまいりましたよっと。

シリーズ感想

聖剣の姫と神盟騎士団 34   

聖剣の姫と神盟騎士団 III (角川スニーカー文庫)

【聖剣の姫と神盟騎士団 3】 杉原智則/Nidy‐2D‐ 角川スニーカー文庫

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聖剣団部隊長のスィー・ランの知らせを受けて湖の王国ベリンダを訪れたフィーネとダーク。ベリンダの女王が、失われた魂を呼び戻す神器「反魂珠」を託すというのだ。女王からその条件を聞いたフィーネは、スィーの忠告に反してすぐさま妖精族の“試練”に挑む。かくして黒魔術との因縁深い“ガクレオの城”に向かったフィーネたちだが、そこには神話の時代から続く恐るべき真実が待ち受けていた―!?
えええええーー!?(笑
いやいやいやいや、イアンとハスターさんなにやってんすか!!
よりにもよって復讐しに来た相手のダークに口先で誤魔化されて、良いように使われてしまう二人に唖然というか爆笑というか、アホだろうあんたら!!
カラー口絵に描かれていたフィーネとダークにハスターとイアンが加わった四人パーティーで怪物に立ち向かってる構図を見た時は、なんぞこれ、とあんぐりと口を開けてしまったものですが、実際の内容ときたらまさになんぞこれ、というチョロさで、もう「えええええ」と笑うばっかり。
ダークの口先だけで自分を恨みつらみで殺しに来た相手を指揮下に収めて、ダンジョン攻略の先兵にしてしまう手練手管も凄いけれど、それ以上にこの二人、頭が弱すぎる。いや、だからイアンは良いようにダークにあしらわれていたわけだし、ハスターさんはわりと切実に軍人として無能を晒してしまっていたわけだけれど。
でも、ダークを頭に据えてとりあえず戦うことに専念した時のイアンとハスターの強いこと強いこと。ダンジョンのモンスター群を殆どもろともしなかったことも大したものだけれど、あの竜もどきの凶悪な兵器を相手に曲がりなりにも太刀打ち出来ていたのは冗談じゃなく凄い。ダークがイアンをあれでも聖剣団の幹部連中に準じるぐらいの強さはあると評してますけれど、マジで一騎当百ぐらいは行ってるんじゃないだろうか。頭使わなかったら優秀なのねw
まあ頭の弱さについては、我らがヒロインのフィーネさんもあんまり変わらんレベルなので、ダークの苦労が忍ばれるばかりであります。最近のダークときたら、かなり切実にフィーネの教育か調教かわからんけれど、躾の必要性を痛感しているようですし。……でも、ちょっと前みたいに他人事で腰が引けていて逃げ出す素振りはあんまりなくなってるんですよね。フィーネと一緒くたにされることについても諦めているのもあるんだろうけれど、あまり嫌がらずについてきているようになってるし、フィーネの本心から求める事柄については先回りして手を差し伸べられるように立ちまわっているし。果たして、彼がどれだけ自分の立ち位置、立ちまわっている現状を理解しているかは不明だけれど。この捻くれ者は、自分の本心は持て余しそうだしなあ。
一方で、単純バカで鈍さ極まっているフィーネなんだけれど、今回わりと決定的なシーンで気づくべき所に直面してるんですよね。敵の手に落ち、精神的にも弱り、自分がどれだけ一人きりになることを恐れていたか、慕っていた兄を失った事への恐怖、母と決別してしまった事への悲しみ、そして聖剣団から次々に仲間たちが姿を消し、拠り所だった父親は魂を抜かれて居なくなってしまった。彼女自身が実感していた以上に、フィーネは孤独感を胸中にわだかまらせていたわけです。それが、渦中において顕在化してしまったまさにその時に、自分が一番つらかった時から今の今まで文句も言わず(フィーネ主観)、ずっと側にいてくれた人が居たことに気づいたわけです。そして、心折れそうになったまさにその時に、その人が自分を迎えに来てくれた。
これ、何気に決定的なシーンですよ。
フィーネの側からこれほどダークという存在を意識してしまうシーンはこれが初めてだったんじゃないでしょうか。
と、フィーネの視線がダークに向いたと時を同じくして、逆にダークはフィーネの周りに元の仲間たちが戻り始めて、逆に自分の居場所がなくなっていくような感覚に苛まれ、狼狽し始めてるんですよね、これ面白い構図だなあ。1巻で既にダークのこの迷走は予期していた所だったのですけれど、この男ホントに自分の居場所を作るの下手だったんだなあ。虚言だけで世渡りしてきて、自分すらもそれを信じて立ちまわってきただけに、集団の中で身の置きどころを持った事が今までなかったのでしょう。これって、結局自分でのたまわっているほど自分に自信があるわけではなく、むしろ自分が人の輪に入れない弱くてヘタレた人間だと心の奥底では思っているのではないでしょうか。ダークの自分を大きく見せようとする口上や発言は、自分を鼓舞している部分も多いんだろうなあ。
これはどうやら、ダークの方が腰引けて逃げに入る感じなので、ここは後ろ振り返らずに突っ走ってきたフィーネが今度は後ろ振り向いて逃げ出すこいつを踏ん捕まえて欲しいところです。ダークからの片想いってだけだと、やっぱり寂しいですもんね。

さて、今回はランの故郷である妖精族の国に訪れることで、これまであんまり知られていなかった神話の中の真実と、そこから帝国が黒魔術と関わった理由の一端が垣間見えてきて、どうやら黒魔術が皇帝の単なる趣味の産物と限らないんじゃないか、という可能性が出てきたわけだけれど、もう実家捨てて帝国出奔したイアンはともかくとして、愛する弟を帝国に残しているハスターさんはどう立ち回るつもりなんだろう。このままダークと関わりあうのはかなり危ない橋だと思うんだけれど。

杉原智則作品感想

聖剣の姫と神盟騎士団 2 4   

聖剣の姫と神盟騎士団 II (角川スニーカー文庫)

【聖剣の姫と神盟騎士団 2】 杉原智則/Nidy‐2D‐ 角川スニーカー文庫

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ダークとフィーネによる“二代目”聖剣団の活躍で、つかの間の平和を取り戻したラグナの谷。しかし、水面下ではカーラーン軍の新たな刺客が谷に潜入し、密かに活動を開始していた。ダークが偶然知ってしまったその驚くべき作戦とは!?時を同じくして、フィーネの耳に初代聖剣団メンバーの“竜殺し”ラッセルが谷に戻るという知らせが入る。だが、帰還したラッセルの周りには夥しい数のカーラーン兵がいた―!?
フィーネ、こっそり影で自分が名乗る字名を自分で色々と考えてた、って完全にお子様!!
この娘、思ってたよりもアホの子だ!!

コメディタッチになって従来とはだいぶ方向性が変わったな、と思った本作だけれど、やっぱりというか何というか、主人公が孤独なのは変わらないんだなあ。結局なかなかダークとフィーネが腹を割って本音で話せない関係のままなんですよね。主人公とヒロインだし、ダークはフィーネにとって殆ど唯一の味方ですし、何より別れ別れにならずおんなじ場所にいるにも関わらず、微妙に気持ちが通じ合ってないんですよね、この二人。
本来なら一番最初に心を通じ合わせるべき主人公とヒロインが、一緒の場所に立っているようで一貫して断裂している。
個人的には小悪党で今まで他人に心を許さず隙間をコソコソ這いずりまわって生きてきたダークに、心を開いて歩み寄るというのは酷な話だから、一途で生真面目なフィーネの方から内面に踏み込んでくるのかなあ、と思ってたんですよ。前作のビリーナ王女は常にオルバのことに想いを馳せながらもなかなか一緒に行動できないためにお互いに踏み込む機会がなかったんですけれど、此方は同じラグナの谷で活動しているわけですからね、機会は幾らでもあるのですから。
ところが!
このフィーネがビリーナと違ってあんまり深く物事を考えない娘だったわけです。ちょっと思い込みが強すぎるというか、脳内がお花畑というか、イメージ優先でわりと現実を直視しないところのある残念な娘なんだよなあ。だからか、ダークに対しても彼はこういう人間だ、というイメージを無邪気に作り上げて勝手に作り上げてその人物像を信じこんじゃっている、その上でダークを信じちゃってるんですね。
純心だけれどアホの娘なのです。
だから、本当の意味でダークの内面には踏み込んできていないし、そもそもそういう発想が生まれていない。
これじゃあ、気持ちが通じ合う関係なんてまだまだ構築できるはずもありません。
でもですね、でもですよ……それでも、彼女がダークを仲間として信じていることは事実であり真実ではあるのです。それが、ダークにとっては「とてつもない」事なのでしょう。気持ちが繋がっていなくても、その一点からはじまってダークの心を掴み始めている。それが最初の、彼と彼女の繋がりなのでしょう。
フィーネがいわゆるアホの娘で、自分を信じるのにちゃんと自分がどんな人間かも知らないでいるという事をダークは理解していても、それでも何の根拠もなく自分の事を信じてくれている相手というのは、彼にとってはもうなんかどうしようもないんだろうなあ。

前回はそれでもなし崩しでやらなきゃならなかったから、勢い任せに悪知恵を働かせて乗り切ってしまいましたが、今回は考えこんでしまう時間の余裕が出来てしまった為か、葛藤と自問自答を繰り返すシーンが多かった気がします。彼の小悪党の本質として、これまではややこしい場面に巻き込まれたらとっとと尻尾を巻いて逃げてしまったのでしょう。ところが、フィーネに施された剣の誓約によって、どうやったって逃げ出すことが叶わなくなった、つまりは退路がなくなったことでダークはこれまでになく真剣に、自分の身の振り方から何を規範にして生きていくか、フィーネを始めとする他人からの視線、関心、信望に対してどう向き合うかという事にちゃんと向きあわなければならなくなったわけだ。何しろ、逃げたら死んじゃうんですからね。なまじ知恵が回るものだから、彼はどういう状況においても軽快に逃げ出すことが出来てしまったために、真剣に物事に撃ちこむことがなかった。状況をその能力で打開しようという機会が訪れなかった、その真価は発揮される場面が訪れなかったのかもしれません。そう思えるほどに、情報の収集から分析、それに基づく作戦の立案から実行に至るまでのプロセスが、時間に余裕がなく行き当たりばったりであり非常にバタバタでありながら、結果だけ見るならば冴え渡っていました。大したもんですよ、実際。それ以上に、窮地を前にした時のダークの心境です。怯え後悔し歯噛みしながら、それ以上にこの危地を自分の才覚でひっくり返そうとしていることにワクワクと胸を高鳴らせている自分がいる。面白い、楽しいと感じている自分がいる。
これもまた、覚醒の一つといえるのかもしれません。
しかし、ラッセルを洗脳し利用しようという敵側の陰謀が大上段からの大仰なものだとしたら、ダークのそれは小賢しいくらいに狡っ辛い卑怯なやり方なんだけれど、それが相手の思惑を覆して戦況そのものをひっくり返してしまうというのは、やっぱり痛快です。三下の小悪党が並み居る英雄や謀将を手玉に取るというのは、カタルシスだわなあ。同時に、これまで立場や性格やら何やで手足を縛られていたフィーネが、ダークの手によって生き生きと羽ばたく姿は、見ていて気持ちよかった。親の前では雛鳥で、その庇護がなくなった時一人では何も出来ず雁字搦めで地面の上で丸くなっていた鳥が、ダークという繰り手を得たことで飛躍の時を得た。その意味を、彼女は果たしてどこまで理解しているんだろう。頭では理解してないんだろうなあw ただ、本質を見逃すような娘ではないんですよね、確かに。ダークの献策を彼を信じているとはいえ、かつての仲間と戦い自分の父親を囮に利用するような作戦を素直に受け入れるあたり、彼女の純真さは頑なさではなく柔軟さの方に振れているようですしね。多少卑怯でも気にしないアホの子、とも言えますがw
でも、思ってた以上にいいコンビですよ、この二人は。

アホと言えば、今回敵さんに思いっきり良いように利用された挙句にダークに利用し返されて、とにかくあんた利用されすぎだろう、と苦笑してしまうくらい自由自在に操られまくっていたラッセルさん。ここまで来ると面白いよ、この人。聖剣団の中でも一番物騒な人だと警戒していたのですが、ある意味フィーネよりもチョロい事が発覚したので、操縦が効いているうちは頼もしいだろうな、うん。ただ、ほんとに面倒くさい人なのでこの段階で谷にとどまらずに外に出てくれたのは、戦力アップと比べてもそちらの方が良かったんじゃないでしょうか。
妹とイチャイチャするのに、うるさい兄ちゃんが側にいたんじゃ気も休まりませんからね。

さらにアホと言えば、今回表紙になっていたダークの元上司のハスターさん。表紙に登場し、美人だし、かなりやり手の辣腕女将軍なのかと思ったら……あかん、この人ほんまにあかん。ぶっちゃけ、無能だっ!! 残念上司だ!! あんまり出来が良くなさそうな片腕が魔物の将軍のその下の副官、というのはまあまあ妥当な地位なんじゃないか、というかその地位でもあんまりちゃんと出来ていないんじゃないかという感じで。本人、苦労しているみたいだし、幼い弟に代わって男社会の中で頑張っているのはわかりますし、偉そうな態度の中に妙に愛嬌があるから、ついつい応援したくなるんだが……ちょっと出世は無理なんじゃないですか、お姉さん!!
ラグナの谷側の王子様も、裏で色々画策しているわりには底が浅いというか、ダークにあっさり騙されているあたり、知れてしまっているのですけれど、彼にも単純な野心じゃない事情があり、またこの人も妙に愛嬌があるので、この調子だと獅子身中の虫と見せかけて、さらに面倒で厄介そうに見えて実はチョロくて利用しやすい味方、というくらいの立ち位置になりそう、なにそれ面白いw

1巻感想

聖剣の姫と神盟騎士団 1 4   

聖剣の姫と神盟騎士団I (角川スニーカー文庫)

【聖剣の姫と神盟騎士団 1】 杉原智則/Nidy‐2D‐ 

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「おまえ、わたしのものになりなさい」「は?」お調子者の初級魔道士ダークは、無敵の傭兵騎士団“聖剣団”の若き女剣士フィーネによって、無理やり団員にさせられる。だがラグナの谷を守るその騎士団は、今や弱小の“二代目”となっていた!フィーネの下で聖剣団復活に付き合わされるダークだが、そんな矢先に禁断の黒魔術を操るカーラーン国の“魔軍”がラグナの谷に侵攻し―!?谷が危機を迎える中、ダークは思わぬ作戦に出る。
すっごいな、この主人公、筋金入りの「小悪党」だ! いやあ、面白かった。これまでの杉原さんの作品からすると恐ろしく方向性を変えてきているんだが、こんなコメディタッチの話も書けたのかと驚くくらい軽妙なノリの作品になっている。【殿様気分でHAPPY!】以来じゃないんだろうか、こんなノリの。
この人もデビューしてから十年以上経っている古豪と言っていいくらいの人であり、作風もだいぶ固まってきているんですよね。それを、此処に来てガラッと作品の雰囲気を変えてくるというのは大変だったと思うのですが、これは成功だったんじゃないかなあ。単にノリを軽くするだけじゃなくて、ちゃんと今まで培った質実剛健の戦記モノを書いてきた経験と、薄っすら仄暗く負の面に傾いた人間心理、即物的な欲望に基づく行動原理などの描写を上手く練り込んで下地にしているように見える。だからか、ノリとしては軽いにも関わらず、細かい所、目端の行き届きにくいところで非常に地に足についたしっかり固まっていて、薄っぺらい印象は髪の毛ほども抱かないんですよね。こりゃあ、上手くステップアップしたなあ、と。上手いこと作風としての枠を広げられたんじゃないでしょうか、これ。【烙印の紋章】も、それまでの作品に比べても随分面白みが増した良い作品になったなあと思ってましたけれど、新シリーズでもこんなふうに枠と中身をさらに充実させてきたとなると、作家としての可能性もどんどん高まり伸びていくんでしょうね。ちょっと本気で見逃せない作家さんの一人になってきたかも。

これまでの作品との大きな違いというと、やはりキャラクターでしょう。特に、この人の描く主人公というのは根源的に孤独であり他人を自分の内側に踏み入らせない事に特徴があり、だいぶその辺りが緩和された感のある、というか主人公の孤独さが打ち破られるか否か、というところにテーマの一つがあったと目されるのが前作【烙印の紋章】であり、その影響からか主人公とヒロインがなかなか一緒に行動することがなく、なかなか面と向かって触れ合うこと自体なかったんですが、今回についてはビックリするくらい一緒に行動することに。というか、フィーネのかけた仕掛けによって、離れたくても離れられないという間柄に。
大言壮語ばかりして狡っ辛く、しかし根っこは善良でお人好しな愛嬌のある憎めない小悪党である主人公と、無表情で根っからの生真面目で堅物で色々と不器用な分、わりと暴走もしがちというヒロインの組み合わせは、お互いに与え合う影響も含めて思いの外良いコンビでありました。尤も、主人公ダークは小悪党である分自己保身に長けており、それってつまり自分の胸の内を他人にはなかなか明かさない人間であり、本質的な部分には他人を立ち入らせず壁を作ってるキャラでもあるんですよね。その意味では、これまでの杉原作品の主人公像から外れているわけじゃないと思うのです。あんまりそうは見えないけれど、ダークもまた「孤独」さを秘めた主人公なのではないでしょうか。
その観点から見ると、彼が聖剣団の幹部連中の身勝手さによって「仲間」を蔑ろにしていること本気でイラつき、相応の報いを与えてやろうと動いた事は、誰も信用していないはずの「小悪党」が胸のうちに抱えている孤独さと仲間という存在に対する複雑な心境の一端が伺えてなかなか興味深かった。
面白いことに、彼の狡猾さとそこに密かに混じった本音は、今回バラバラに成ってしまった聖剣団の幹部の一人に、何らかの絆みたいなものを繋ぐ事に成功してしまう。この幹部連中も、実のところカリスマだった団長以外には誰にも心を開いていない連中だったんですよね。彼らの信頼は団長にのみ向けられていて、仲間意識というものは皆無に等しく、絆なんてものは一切ない脆い関係だったことが、団長が倒れた途端に団がバラバラになってしまったことからも明らかだったのですが、今回の一件で少なくとも人形遣いは、団長個人への信頼以外の、決して強くはないけれどフィーネやダーク、聖剣団という枠組みに対する絆みたいなものを意識させることに成功したわけです。特に今回の最初の一人、ケルヴィンが人間恐怖症のきらいのある本気で団長以外の人間には会話もまともに出来ない、というキャラだっただけに、そういう人間に団を守るという意識を植えつけたのは、団長にすら出来なかった大きな変化だと思うんですよね。もっとも、それを成したダークは全然自分のなしたことの意味を知らないし、そもそも彼は周りを利用して自分はのし上がるんだ、ということしか考えてないのですが。
つまり、ダークは自分の預かり知らぬ所で、フィーネとともに団長とは別の形で幹部たちと関係を結び、一つの起点によってのみ支えられた脆い形ではない新たな聖剣団を構築していく、という流れになるのだと思うのですけれど……そうなると、彼の周りに絆で結ばれた集団が形成されていくにつれて、その中心にダークは取り残されていくのではないでしょうか。ダークは、そこで否応なく自身の虚勢を意識せざるを得なくなり、自分の孤独さを認識せざるを得なくなる。どこまで行ってこそ、フィーネの存在が重きをなしてくるはずなのですが、ともあれまだまだ始まったばかり。先のことばかり思いを馳せても的外れな事になってしまうかもしれないので、この辺りでやめておいて、今はただ小物にすぎないダークの狡っ辛い悪知恵によって、本物の英雄たちがきりきり舞いさせられる痛快さを堪能しておきたいところです。
しかし、聖剣団の幹部連中って、あの状況で勝手に飛び出していくって、能力こそ高くても脳味噌はゼロと言われても仕方ないぞ。

杉原智則作品感想

烙印の紋章 12.あかつきの空を竜は翔ける(下)4   

烙印の紋章XII あかつきの空を竜は翔ける(下) (電撃文庫)

【烙印の紋章 12.あかつきの空を竜は翔ける(下) 】 杉原智則/3 電撃文庫

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英雄への道を描く戦記ファンタジー、堂々の完結編!

 皇帝グールとの謁見を切り抜けエンデの救援へと向かうオルバ。折しもエンデ軍は大国アリオンの皇太子・カセリアの陥穽にはまり窮地に立たされていた。
 一方、帝都ソロンでは皇后メリッサがグールとともに竜神教の神殿に立てこもっていた。膠着した状況の中、ガーベラより帰還したビリーナが使者の役を担うことになる。
 それぞれの戦いに臨むオルバとビリーナの運命は!?
既に上巻出ている段階で今更なんだけれど、第一巻のサブタイトルが【たそがれの星に竜は吠える】だったのを振り返ると、最終巻に【あかつき】を入れるのは最初から考えられていた事だったのかなあ。勿論、ある程度ハッピーエンドじゃないと暁の文字は使えなかったんだろうけれど。場合によっては日が沈んだまま登らない夜を終わりとする展開もあったかもしれないのだし。
その意味では、再び日の出まで辿りつけたことは良かったんだけれど、これってある意味終わりであると同時に始まりでもあるんですよね。ゴールしたはいいけれど、そこは新たなるスタート地点だった、というような終わり方。
長い目で見れば、これって起承転結の「起」でしかないとも言えるんですよね。地べたを這いずる剣闘士奴隷だった男が、名実ともに皇帝の座に付く。それはそれで、物語としてはゴールなんだけれど、既にオルバの意識は再び皇太子ギルに戻った頃から、いと高き座にあって如何に人を、国を導くかに意識がスライドしていました。皇帝になることが目的ではなく、人の上に立つ者として、かつて底辺に居た者として、如何に責任を負い、義務を果たし、恥ずかしくない生き方を出来るか、という方向に意識が変わっていたのです。言うなれば、私心なき公人としての生き様を果たすことを選んでいたんですね。そこにあって、皇帝になるという事は過程にすぎず、皇太子という身の上より色々やれることが増える、というだけのこと。とてもとても、オルバにとってゴールでも何でも無かったのです。だからでしょうね、全然終わった気がしないのは。
それ以上に、区切りがついた気もしないのは、肝心の部分が一切描写されなかったからかもしれません。それまでのことに決着が付くような区切りを得られる場面が、尽くと言っていいくらい直接描いてくれないんですもん。オルバが皇帝になるシーンも。ビリーナにオルバが自分の正体を明かすシーンも、そしてグールとオルバが直接対決するシーンすらも、グールが自ら決着を付けて勝手に去っていってしまったがために、成立せずに終わってしまった。
なんて、イケズ。
実際のところは、オルバがオルバという剣闘士奴隷としての自らの存在に決別するシーンも、ビリーナが自らギルとオルバの正体に気づき、真相に至るシーンも、そしてグールが自らの生き方に決着を付けるシーンもそれぞれに描写があるので、消化不良ということは全然ないんです。すべてに、決着がついている。ただ……イケズだなあ、と。
勿体ぶるわけじゃないんですけれど、ビリーナとオルバの関係といい、この人は常に婉曲極まるのが売りと言えば売りなのか。結局、個人個人が出した結論を、曝け出しあって融和させることをしないというか何なのか。
オルバが結局、ビリーナに胸襟を開く事が出来たのか、出来なかったのか。それすらも伺わせてくれないというのは、やっぱりイケズなのですよ。ある意味そここそが、主人公の孤独が解消されるのか、という点こそが杉原作品の集大成にしてようやくたどり着いた新境地、という意味でも大事な部分だったのに。それを見せないというのは、恥ずかしがり屋さんめ、とからかうべきところなんだろうかもしかしてw

いずれにしても、グールの生き方とその末路は、オルバの未来を暗示しているとも取れるんですよね。何を考えているか解らなかったあの皇帝の心底は、結局のところ狂っているわけでも暴走しているわけでもなく、ただ孤独に拠り所を失ってしまっただけのようでしたし。その末路に至るきっかけは、愛する伴侶を失ったことに起因していたようですから、その行く末は容易にオルバにも反映されてしまうんですよね。結局、すべてはビリーナに掛かっているわけだ。
まあ、この姫さんならば。たとえ、大きなヒントがあったからとはいえ、殆ど独力でギルとオルバの真実に気づき、気づいた上で奴隷だろうと愛そう、と胸を張って行ってのけたこの女性ならば……うん、これほど偉大なる告白が、当人の前でなされなかったというのは大きな損失だよなあ。とは言え、その文言はオルバにも伝わるだろうし、それを聞いた時の彼の反応はぜひ見てみたいものがある。
というか、結局この二人のイチャイチャシーンって全然なかったもんなあ。あれだけ惹かれ合ってる様子がありながら……そもそも、二人が一緒にいるシーン、会話しているシーンからして貴重、というのもどうかとも思うのだけれど。
ちょっと意外だったのが、イネーリの扱いか。この人の立ち位置は、エピローグでの話を見ても相当に面白い位置に収まった様子。なんか、変な意味でビリーナと通じ合っちゃったみたいですしねえ。獅子身中の虫、になるかと思ったんだが……いや、獅子身中の虫にはなってるのかしら。なんかこう、野心をたぎらせながら、野心に身を滅ぼすような真似はしないだけの巧みさを、今回の一件で手に入れたようにも思えて、ふむふむ。

ともあれ、良い所ではいこれまで、と幕を下ろされたようなモヤモヤ感は残るものの、質実剛健としたファンタジー戦記として非常に素晴らしい作品でした。ごちそうさまでした。

杉原智則作品感想

烙印の紋章  11.あかつきの空を竜は翔ける(上)4   

烙印の紋章 11 (電撃文庫 す 3-25)

【烙印の紋章  11.あかつきの空を竜は翔ける(上)】 杉原智則/3 電撃文庫

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英雄への道を描く
戦記ファンタジー、第11弾!

 勢力を増すオルバの軍勢。もはや看過できなくなった皇帝は、オルバを帝都へ招くという強行手段に出る。
 一方、隣国エンデには、戦巧者の『小覇王』カセリア率いる東の大国・アリオン軍が迫るという事態に陥っていた。
 アリオンの野心はエンデに留まらず、必ずやメフィウス、ガーベラにまで及ぶ──。その危機を前に、オルバが、そして負傷をして祖国ガーベラに帰国したビリーナが行動を開始する!
たとえ、自分が死しても、現在生まれつつあるこの時代の流れが途切れぬように……。自分が死んだ場合すらも織り込んで動くオルバには、もはや私心というものは無いに等しい。その心に根付くのは、国の行く末への想いであり、民の安らぎへの想いであり、すべては人の上に立つ高貴なるものの責任であり義務感であり、赤心そのものだ。
オルバの、そのついに辿り着いた王としての境地を、誇りを、生き様を目の当たりにした時、涙がこぼれそうになった。感動に、打ち震えた。
彼は……オルバは生まれながらの王族などではない。国に対しても、民に対しても責任を持たず、それどころか大切な物を全て奪われ、己が身の上すら剣闘奴隷の身分に落とされ、底辺を、地べたを這いずってきた男だ。その心根は、自分から全てを奪い去った貴族や王、何より国への憎悪と復讐心に満ちていた。
彼には、生まれながらに高い地位を与えられ、それ故に自分に供する者たちに与えられたものを還元する義務である、高貴なるものの義務など、まったく関係がない。従う義理も、何もない。
その彼が、オルバが、現在、自らの死すら厭わずに、歯車の一つのように歴史の流れの中に組み込み、一切の私心を捨てて、まるで本物の貴族のように、王族のように生きて死のうとしているのだ。
今この瞬間を生き延びることだけで全てが完結していた剣闘士奴隷が、自分の死んだ後の世界のことを、想っているのだ。
私を殺して公に生きろと、幼い頃から教育されて育った存在だったならまだわかる。だが、この男は全てを奪われたマイナスから、たった一人で孤独に戦い戦い戦って、その末に、野心でも欲望でもなく、王の責務を選んだのだ。自分で、その生き方と死に方を選びとったのだ。
その境地に至るまでの過程を、彼の波乱万丈の人生をずっと目の当たりにしてきてなお、今のオルバの姿は夢のように信じがたい。こんな男が存在することが、信じられない。

今のオルバの魂は、完璧なまでの王の魂だ。
だがしかし、しかし、しかしっ、それなのに、彼の、オルバの真実の姿は、その正体は、皇太子ギル・メヴィウスのニセモノであり、最低の身分の、人以下でしか無い、剣闘士奴隷でしかないのだ。
どれほど乞い願おうと、どれほどその在り方が王となろうと……オルバは本物のギル・メヴィウスではないのだ。
その事実に直面した時の、彼の慟哭が、何故自分が本物のギル・メヴィウスではないのかという呪詛が、否応なく胸を貫く。その悔しさが、無力感が、胸を掻き毟る。その涙に咽んでしまう。

ああ、だからビリーナなのか。
彼女だけが、オルバを本物のギル・メヴィウスに出来る。オルバを、ニセモノではない本物に出来る存在なのだ。彼女に認められ、許されて初めて、オルバは自らを本物と認めることが出来る。
だからこそ、オルバから真実を告白することはなかったのだろう。それは、同時にビリーナに許しを請う事になってしまう。それではダメなのだ。あくまでビリーナが自分で気づき、自分で考え、その上でオルバという剣闘士奴隷は、ギル・メヴィウスという皇太子であるのだという真実を認め、彼がギルとして生きることを許し、ともに歩むことを選んだ時にこそ、オルバは心の底から王となれる。本物のギル・メヴィウスという呪縛から逃れられるのだ。
これは、剣闘士としてのオルバを知らないイレーヌでは絶対に出来ない、オルバを王ではなく駒としてしか見ようとしない、ただ自分の欲望の対象としてしか見ない彼女では絶対に出来ないことである。
剣闘士としてのオルバと身近に接し、皇太子ギルとしてのオルバと心からぶつかり合い、何よりオルバが王として生きることを志したきっかけであり、憧憬の対象であり、彼女のように在りたいと願った相手であるビリーナ以外では、絶対に叶わない事なのだ。
オルバという存在を、誰よりも考え、見極め、理解しようとしたビリーナ姫でなければ、彼女でなければならなかったのだ。

その時、初めてオルバは孤独の檻から、解き放たれる。

【てのひらのエネミー】以来、杉原智則作品の主人公は常に孤独だったように思う。たとえ友情をかわしても、恋情を向けられても、愛情が生まれても、作者の描く主人公は本当の意味で理解者が存在せず、ひたすら孤独の中に生きていた。
寂しい存在だった。
今、私ははじめて、作者の描く物語の担い手が、孤独でなくなる瞬間を目の当たりにしようとしているのかもしれない。
ようやく、ようやく、その時が訪れようとしているのかもしれない。
この予感が、叶うことをただただ願うばかりだ。

杉原智則作品感想

烙印の紋章 10.竜の雌伏を風は嘆いて4   

烙印の紋章 10 竜の雌伏を風は嘆いて (電撃文庫 す)

【烙印の紋章 10.竜の雌伏を風は嘆いて】  杉原智則/3 電撃文庫

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英雄への道を描くファンタジー戦記、クライマックス直前の第10弾!

 皇帝グールに対しついに反旗を翻したオルバは、辛くも緒戦に勝利しビラクを手中に収めた。
 帝都ソロンでは皇帝の専横がますます目立ちはじめ、メフィウス国内の風がオルバに吹き始めるかに見えた。しかし、隣国ガーベラとエンデでも内紛が起き、それがメフィウスにも影響を与え始める。
 ネダインでの反乱、そして竜神教の不穏な動きなど刻々と変化していく緊迫した情勢の中、オルバが選ぶ次の一手とは。そしてビリーナの覚悟とは。皇帝VS皇太子の行方ははたして――?
前回の戦いで、オルバにとっての最大の理解者、もしかしたらオルバ当人よりもオルバという人間をわかっていたかもしれない親友にして兄にして影だった男、シークを亡くしてしまったオルバ。これで、とうとうオルバは本当の意味で孤独となり、抱いてしまった理想を胸に、王への道をひた走るのだと思っていたのだけれど……それってつまりは今のオルバの最大の敵となった皇帝グールその人が歩んだ道に重なってしまうことになってしまうのか。度々回想で挟まれる、グールの若かりし頃の理想と覇気に満ち満ちていた姿が、今のオルバにあまりに似通っていることが、そんな印象を想起させてしまう。
シモンという、オルバにとってのシーク以上の親友が傍に居たにも関わらず、グールは彼自身の理想を叶えることが叶わず、今未来の敵となろうとしている。
オルバもこのままなら、たとえグールを倒しても彼と同じ夢敗れた道を歩むことになってしまうのかもしれない、という危惧が自然と沸き上がってくる。
孤独は、どれだけその人が強かろうと長い時間をかけて心を苛んでゆくものだ。たとえ今は良くても、オルバもまた……という不安を吹き飛ばしてくれる人こそが、ビリーナ姫なのだろう。この女性は驚くべきことに、自然とオルバと皇太子ギル・メフィウスを重ね見るようになり始めている。ふとした瞬間、この二人を無意識に同一視しているのだ。オルバの正体を知らないビリーナとの断絶は、どれだけ二人の距離が短くなろうとも決して無くならないものだと思っていた。これは、オルバの正体をビリーナが知ってもなお、変わらないものだと自分は考えていたのだ。その正体が偶発的な事故からバレてしまう、或いはオルバがビリーナに自分の正体を明らかにする、そのどちらのケースでも生半なことでは隔意が残ってしまう、ビリーナに何も無くとも、コンプレックスの塊であるオルバがビリーナに何らかの蟠りや引け目みたいなものを残してしまうんじゃないか、と思っていたんですよね。ところが、ビリーナは自らの力でオルバの真実に辿り着こうとしている。ただ、オルバという人物の人となりを知り、深く深く理解していくことのみによって、だ。
オルバにとって、敬意と尊崇、ある種の憧れの対象であったビリーナは、その焦がれの意味を変えていつしかもっと純粋な意味でも、男が女に抱く情の対象へと移ろうとしていることは、ビリーナを喪いかねない状況を前にした時のオルバの焦燥からも明らかであり、その感情の自覚はオルバ自身も気づきつつある。
もしここに、ビリーナの方からオルバの張り巡らした壁をすり抜けてくるようなことがあれば、それはオルバの道行を照らす、本当の光になるんじゃないだろうか。
生まれながらの皇太子であり、光り輝く存在だったグールと違い、オルバは呪詛と憎悪の中から生まれ、怨嗟を胸に地べたを這いずることから始めた存在だった。そこから、立ち上がり、剣を取り、自らが戰う理由を見つけ出し、叶えたいと願う理想を手に入れた、いわば叩き上げの存在である。彼が常に抱え続ける陰りは、彼を支える柱と言っていい。しかし、その支柱は常に負の方向へとオルバを引きずり込もうとする闇でもある。その闇は、ともすればオルバをグールよりも最悪の暴君へと導くものかもしれない。孤独は容易に、人の心を頑なにするものだからだ。理想も、固く凝り固まってしまえば悪夢に変わる。オルバの周りの人間が抱く危惧はきっと的外れではないのだろう。だからこそ、彼にはビリーナが必要なのだ。絶対に、必要なのだ。それを、改めて再認識させてくれる佳境の回だった。彼女は、きっとオルバが道を間違えることを傍にいる限り許さないに違いない。もし、オルバの正体に彼女が自ら気づき、彼の真実の中に踏み込みさえすれば、きっとそれは絶対になるはず。
それなのにまあ、この段階でビリーナとオルバを再び引き離す展開にするとは、作者も相も変わらず凶悪すぎるストーリーテラーっぷりである。この人、ほんとに主人公とヒロインを一緒にさせないよね。これだけヒロインと主人公の接触時間が短い作品も珍しいんじゃないだろうか。
辛うじて、パーシルがついにオルバ=ギル・メフィウスという真相に辿り着いた事により、シークに代わる腹心候補を身近に生じさせる事で、ビリーナ離脱のカバーをしているとはいえ……本当にもう。

隣国の内乱も相まって、状況は混乱の一途をたどる中、ただひとつわからないのが皇帝グールの思惑だ。この男の底しれなさ、考えの読めなさはクライマックス直前に至ってより顕著になってきている。単純に暴君として振る舞い、狂信の溺れたというのなら、ビリーナの提案にああも愉快気に乗るはずもない。単なる悪役とするには、あまりに振る舞いが不明瞭なんですよね。グールと本来血の繋がらない皇太子の身代わりだったオルバの関係にもますます疑念が募るばかりですし、最後までこりゃ目が離せないなあ。

シリーズ感想

烙印の紋章 9.征野に竜の慟哭吹きすさぶ4   

烙印の紋章 9 (電撃文庫 す 3-23)

【烙印の紋章 9.征野に竜の慟哭吹きすさぶ】 杉原智則/3 電撃文庫

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皇帝VS皇太子の戦いがはじまる! 英雄への道を描くファンタジー戦記!

 西方より舞い戻り“皇太子ギル”として復活をとげたオルバ。ビリーナとも再会を遂げ戦いに向け準備をはじめる。
 一方、皇帝グールは帰還したギルを偽物と断じ、一軍をアプターへ差し向ける。
 圧倒的な戦力差のなか、皇太子として反皇帝の狼煙をあげなければいけないオルバは、寡兵をもってして鮮やかな勝利を得るべく策を練る。
 両軍はついに激突の時を迎えるが──。

うがぁ、やりやがった。どうして、この作者は主人公ここまで孤独に追い込むの好きなんだろう。

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烙印の紋章 8.竜は獅子を喰らいて転生す4   

烙印の紋章〈8〉竜は獅子を喰らいて転生す (電撃文庫)

【烙印の紋章 8.竜は獅子を喰らいて転生す】 杉原智則/3 電撃文庫

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オルバ、決断す!
英雄への道を描くファンタジー、第8弾!


 銃撃を受け昏倒したオルバ。そして戦場で行方不明となったビリーナ。二人が身動きの取れないなか、メフィウスの再侵攻にそなえて西方各地より援軍がタウーリアへと集結してくる。
 一触即発の事態を前に、回復したオルバはとある決断をくだし、シークを密使としてアプターへと向かわせる。一方、その頃アプターでは、オルバの元部下たちの身に危機が迫り、またビリーナにも怪しい影が忍び寄っていた。
 はたしてオルバの決断とは、そしてビリーナの運命の行く先は!?
ビリーナとオルバ、この二人の運命はこれほど強固に絡まっているのに、どうしてこんなにもすれ違い続けるのか。今回ばかりはついに合流か、と思ったんだがなあ。いや、合流こそしなかったものの、オルバは今度こそ間に合ったと言える。兄や幼馴染の時はついに力及ばず、手を伸ばす機会すら得られず、失った事をあとになってようやく知るばかりだったのだけれど、ビリーナにはギリギリ間に合った。本当にギリギリ、それも運が良かったとしか言い様のない状況で。でも、あそこでオルバがビリーナ危機一髪の場面に遭遇できた事そのものが、オルバが行動を決断したため、皇太子として再び表舞台に出る決心を固めたため、ビリーナを助けるのだと思い定めた為なのである。運命が味方したとは言え、オルバ自身の意思が守りたい人を守れたわけだ。
なるほど、そう考えるとオルバにとってビリーナという人は既に兄たちと同列に扱われてるって事なんだよなあ。ビリーナ行方不明の報を聞いた時のオルバの焦燥、兄たちの時のように自分は手遅れだったのかと悔やむ様子を見るとわかるとおり、オルバにとってビリーナは兄たちの時と同じように人生を賭けるに値するだけの重きをなす相手になっていたわけだ。全くこの二人、殆ど行動を一緒にするどころかここしばらく逢ってすらいないというのに、人生をひっくり返されるほどの影響を与え合っているというのも不思議な話だよなあ。
尤も、彼と彼女が人生を揺り動かしているのはお互い同士には限らないんですよね。オルバと共に戦い、あるいは敵として戦った西方諸国の諸将や王族、あるいはメフィウスのローグ将軍など心ある人物たち、他にもビリーナの兄たちのようにオルバと逢う事で著しく在り方を変えた人達がいる。
面白いことに、この作品に出てくる登場人物って普通の戦記物からするとどうにも一流には成り切れない二流どころの有能ではあっても欠点も多い飛び抜けたところのない将帥や政治家ばかりだったのですが、これらの人たち、オルバと関わることでみんな一皮剥けだしてるんですよね。特に顕著にその辺が描かれてるのがビリーナに次兄なんだが、彼に限らず次兄の軍師や西方諸国の諸将もどうにも物足りなかった部分が今となっては見違えているのである。アークスのおっさんは相変わらずのような気もするけど(苦笑
オルバ自身も見違えるように以前と比べて成長しているのですが、その影響は彼一人に留まっていないのだ。それも、才能を開花させるという点にとどまらず、保守的で内に篭りがちな考えから、視野が広がり新しいものを受け入れる余裕を得て、思考の柔軟性と開放性を獲得しているような気がするのである。
まさに、新たな時代の風をうけているかのような。
時代が激動を迎えようとしている中で、確かに新しい風が吹きはじめようとしている気配が色濃く感じられるのである。
そして、その風の中心となる人物が、再び表舞台に立ったわけだ。
これは燃える。燃えざるを得ない。
本番、此処に開幕である。

シリーズ感想

烙印の紋章 7.愚者たちの挽歌よ、竜に届け4   

烙印の紋章(7) 愚者たちの挽歌よ、竜に届け (電撃文庫)

【烙印の紋章 7.愚者たちの挽歌よ、竜に届け】 杉原智則/3 電撃文庫

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 bk1

ビリーナ、再び表舞台へ! 英雄への道を描くファンタジー、第7弾!

 婚約者のギルを亡くし失意のビリーナだったが、その死の真相を探るため帝都ソロンを発つ。ホゥ・ランとも再会し、二人は再びアプター砦へ赴くことになる。
 一方、ガルダ打倒を果たしたオルバはタウーリアへと凱旋。束の間の平穏を享受する。しかし、そんな折にメフィウスによるタウーリア電撃侵攻の報が入る。
 グールの独裁がますます強まる状況の中、ノウェ&ゼノンやイネーリ、シモンなどの面々も次の一手への布石打つ。
 新たな戦乱の到来とともに、オルバとビリーナの運命も再び交錯する!

これは驚いたな。エスメナに対して改めて皇太子ギルとしての顔を晒したときのオルバの開き直りとも違う、平静さにはややも驚かされた。オルバ自身は自分が今後、どうするべきかまだ闇の中、どうしたらいいのか分かっていないのかもしれないが、どうやら彼の中の無意識は、エスメナへの態度を見る限りでは既に覚悟を決めているようだ。
でなければ、一度捨て去り逃げ出したはずのギルとしての顔を、ああも心揺るがさずに晒す事など出来ないだろう。
彼はもう一度、王族としての責任を背負う事を心の何処かで選んでいる。今度は私的な復讐を果たすために、皇太子としての立場を利用するのではなく、かつての自分たちと同じような無力な民に悲劇ではなく平穏を与えるために、皇太子としての立場を利用することを。
でも、今のオルバにはきっかけが無いんですよね。それが、オルバに自分の心の内に形作られていっているものを気付かせず、今後についてナニカをするべきなのだという強迫観念とその進むべき道が見いだせない事へと閉塞をもたらし、迷いを与えている。
もっとも、そのきっかけはそれこそ向こうから飛び込んできてくれるわけだが。
結局のところ、オルバには敵が必要ということなのだろう。戦うべき敵がいないところに、自ら飛び込んでいき、自分の理想を叶えるために多くのものを破壊し、変革することを厭わない、という強い野心が彼にはないのだ。あれだけ横柄で我が強いくせに、無抵抗だったり元々無関係な相手に対してエゴを貫き押し付ける事を苦手にしているようにすら見える。一度、敵とすれば闘争心を滾らせ、喉笛を噛みちぎらん勢いで引きずり倒そうとするにも関わらず。
その点、今のグール王は新たな価値観を得たオルバにとって、敵と呼ぶにふさわしい存在になろうとしている。時代はまさに、もう一度オルバという男を表舞台に引きずりだそうとしているかのようだ。
そして、そんな彼の動向に呼応するように、ビリーナもまた動き出す。オルバとビリーナは、決して強い絆で結ばれた存在というわけではない。二人とも、お互いの存在について把握しきれず、手探りに少しずつ理解を深め、その人物像を描き出そうとしていたところだった。相手の実像が、自分にとってどういう意味を持つのかを考え思い悩んでいたところだった。まだ、答えが出せるような時期はなかった、多分、お互いに相手が自分の意識を大きく変えてしまう存在なのだという確信を抱き、ようやくちゃんと向きあおうとしてその心が触れ合った矢先に、オルバは自分の生きる目的を見失い、あのような形になってしまった。
だから、オルバとビリーナの関係というのはお互いに無視できない巨大な存在感を以て心の中に居座りながら、未だに始まってすらいなかった関係なんですよね。
主人公とメインヒロインでありながら、とんでもなく不思議な間柄の二人である。
未だに再会すら出来ていないけれど、まさにあらすじにあるように、引き寄せられるようにして、二人の運命は交錯していく。なるほどなあ、運命的とはさながらこういう事を言うのでしょうね。

もう一人、驚かされたのがエスメナ王女である。前回、人間的に大きく成長してその見事な政治的な振る舞いから故国を救うことになった人ですが、今回オルバに仮面を取らせたあとの対応を見るに、一人の女性としても大きく成長して魅力的になっているのが分かる。以前はもっと考えなしの思慮が浅く視野が狭い自分の感情を優先して何も悪いと思わないような子供でしかなかったのに。登場したときは空気も読めない甘えたの王女さまということで正直好かなかったんですが、あんな健気でオルバの事を良く考えてくれた態度を取られちゃあ、見直さざるを得ないですよ。
彼女に限らず、失敗や難事の経験を経て意識が変わり、人間的に成長するキャラクターが意外と多いんですよね。ガーベラ国の軍師&王子のコンビや、ボーワン将軍なども優秀だけど一流と呼ぶには色々と欠けたところの多い人材だったのに、随分とまあ見違えてしまって。
特にボーワン将軍なんかは、人間的にも立場的にも扱いが難しいはずのオルバを、かなり自然にその力を発揮できるように扱ってるんですよね。まだまだ経験は及ばないにしても、これならアークスの後を十分に継げるでしょう。

さて、ラストの展開によって、恐らくは否応なく雌伏の時を終えなくてはならなくなっただろうオルバ。出来れば、もうそろそろビリーナと再会して欲しいところですが、さて如何に。


ところで、グール王の若い頃と、今のオルバの性向に似通った所があるのは何か意味があるんでしょうかね? 少しこの点は気になるなあ。

2巻 3巻 4巻 5巻 6巻感想

烙印の紋章 6.いにしえの宮に竜はめざめる4   

烙印の紋章〈6〉いにしえの宮に竜はめざめる (電撃文庫 す 3-20)

【烙印の紋章 6.いにしえの宮に竜はめざめる】 杉原智則/3 電撃文庫

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これで二巻連続でメインヒロインであるビリーナ皇女が登場しなかったよ!!(苦笑
仕方ないっちゃ仕方ないんですけどね。今の西方編はオルバという男が本物の英雄になるためには絶対に必要な過程であり、地理的な意味以上にビリーナは今はオルバと直接会っちゃだめなんですよね、言わば。今はむしろ会わないことで、オルバの中でビリーナという姫の存在がより大きくなっていっているわけですから。
今回、エスメナが王族として一回り成長するための大仕事をやってのけた上で、オルバの側に踏み込む大きな一歩を踏み出し、ヒロインの一角として存在感を増したわけですけれど、それでもまだオルバの中ではビリーナは色々な意味で特別だからなあ。

復讐を果たした事で、生きる目的を見失い無気力に戦場をさ迷っていたオルバに、前回、国に尽くし民に尽くす本物の王族の姿を目の当たりにしたことで、心理的なブレイクスルーがあったわけだが、それでも彼が皇太子ギルとして、自分が憎んできた貴族たちと同じく、徴兵された挙句に戦死した自分の兄と同じ無名の兵士を生きた人間ではなく戦場の駒として動かしてきていた事実に自己嫌悪を押えきれずにいたオルバ。それでも、そんな嫌悪と奴らと同じ存在になるという恐怖を乗り越え、オルバは再び他者を従え率いる立場へと立つ事を受け入れるのでした。
この時彼は、初めて、そうこの物語が始まってから初めて、自分のためではなく、民のために剣を取ったのです。人々を脅かし、無辜の民の平穏を打ち壊す魔道士ガルダの軍勢を打ち倒し、この地に平和をもたらすために。
とはいえ、彼が与えられた立場は傭兵たち数十人を率いるという格下の傭兵隊指揮官に過ぎず、戦場を左右するような指揮権は与えられていません。以前は皇太子として、自分の考えは誰にも邪魔されず全軍へと命令として通達でき、自由に動かせた。一介の傭兵となった今も、先日は彼の上司となった部隊長や将軍たちが出来た人物であり、オルバの人物を疑い嫌悪しながらも、気に食わない気持ちを飲み込んで、オルバの提言を受け入れ、戦場で共に戦うことでお互いに認め合うことが出来た、という幸福な経過を経ることが出来たのですが、これは彼らがよく出来た人物であったことに起因する幸運でしかなかったんですよね。元々オルバは他人に好かれるようなたちの人間ではなく、なまじ先日の合戦で活躍して名を上げ、連合軍の大将であるアークスに認められ出世した成り上がり者、しかも外国人、ということもあって、今度の戦いでは上の指揮官に睨まれ、自由に動けず意見は聞いてもらえず、という飼い殺しの状態に陥ってしまうわけです。
どれほど戦の流れを読んでも、それを戦場に反映できないという、今まで経験したことのないもどかしさ。無能な上司の下についた、有能な指揮官、という悲哀を嫌というほど味わうことになるわけです。
苛立たしさを隠せずにいるオルバですけれど、ここで腐ったり感情的にならず、もっと上手くやれたはず、相手との関係もここまで拗れずに済ませることが出来たはず、と自分の態度を反省するんですよね。以前の彼なら、ここで暗い情念を滾らせていたのに。
今のオルバが一心に思うのは、ガルダを倒し、この地に平和をもたらすこと。自分のためではない目的が、確固として定まっているために、オルバは儘ならない状況に陥っても決して立ち止まらないのです。自分にできることを最大限にやりつくし、無理矢理にでも手繰り寄せようとする。そんないい意味での強かさと一心不乱さが、今のオルバには備わってきている。
皇太子の影武者をやっていた時から持っていた戦術家、戦略家としての切れ味に、簡単に折れない強靭さが加わってきた、というべきか。そして、目的を達成するためにブレない純粋な信念。復讐のためだった黒々とした暗い炎ではなく、それは激しくも澄み切った青い炎。
そこには、野心の影が一切ないのがまた面白い。この戦争、上手くやればオルバは彼自身が西方地域を強引な形ではあるが、彼が支配権を握れるチャンスが紛れもなくあったわけですよ。無名の傭兵から、一気に成り上がれるチャンスがあった。多分、オルバも分かっていたはず。わかってなかったらあんな行動取らないもんね。でも、彼はここで予てから持っていた類まれなる政治的センスや見識を、自分のためじゃなく、この地のために駆使するのです。
ここで彼が行った行動は、以前の王族や貴族といった支配階級をただただ憎悪していた頃のオルバだったら絶対に出来なかったもの。王族や貴族がシステムとして有効であり、またその立場に立つ人間がふさわしい人格と能力を持っているなら、それは少なくとも現在の時代では最良の平和裏に地を治められる統治システムだ、という現実をこの時の彼はしっかりと飲み込んでいることがわかるのです。

ガルダの内乱が収まり西方に長らくなかった本物の平穏が訪れる可能性が高まった中で、目の前の目標が達成されるオルバが果たして今後どうするつもりなのか、身の振り方をどうするのか考えていたのかはちょっとわからないんですけどね。果たして、メフィウス国に戻るという考えが少しでもあったのか。あのシーンで、彼がギルを名乗ったのは絶体絶命の状況を打破するため、だけだったのか。もしかしたら、少しでももう一度ギルを名乗る覚悟を、心のどこかで持っていたのかも、と思わなくもないんですよね。彼が、まだビリーナのことを気にしていた以上。
ともあれ、オルバがどうするつもりだったかは永遠に分からなくなってしまったのですが。
ラストの急展開は、必然的かつ強制的にオルバに選択肢を迫ることになるのでしょう。もう一度、皇太子ギルに戻るか否かを。
ただ、以前の彼と違うのは、その内面とともに、ギルというメルフィズ皇太子という立場や才能ではなく、オルバという人間を支持し受け入れてくれる仲間と呼べる人たちが出来始めていること。これは、大きいですよ。皇太子時代は、本当に孤独で周りに誰もいなかったオルバを思うと、これは彼の内面の変化以上に大きな変化と言えるのではないでしょうか。
西方編もこれにて一応終了。激動への展開へとなだれ込み、さあ、ますます面白くなってきました!!

2巻 3巻 4巻 5巻感想

烙印の紋章 5.そして竜は荒野に降り立つ4   

烙印の紋章〈5〉そして竜は荒野に降り立つ (電撃文庫 す 3-19)

【烙印の紋章 5.そして竜は荒野に降り立つ】 杉原智則/3 電撃文庫

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衝撃的な第一部終了から七ヶ月。一応、ちゃんと第二部が始まるとは後書きで書いてあったものの、万が一打ち切りだったらどうしようと気を揉んでいましたが、無事第二部がスタート。
前回、自分に与えられた帝国の皇太子という身を殺害することで念願の復讐を果たし、名もなき傭兵へと戻り帝国から姿を消したオルバ。今まで築きあげてきたものを全部投げ捨ててしまった行為に、いったい何を考えてこんなリスクの高い展開にしたのかと疑問に感じていたが、新章でのオルバを読んでこれが必要な展開だったのだと深く納得させられた。
思えば、その身の上から権力者階級に対して拭いがたい憎悪と侮蔑、嫌悪感を持っているオルバという人物には、どうしても限界があったと言える。その才覚を振るえば揮うほど、彼は自分があれほど憎んでいた権力者に成り下がり、かつての自分や兄のような名もなき一兵卒を駒のようにしか捉えられず、無感情にその生き死にを動かしていくという矛盾に苛まれていた。それでも、復讐を果たすという目的があった時はそれにしがみつけば良かったが、復讐を果たして閉まった時に彼がそのまま権力者の座に残った侭だった場合、彼の復讐の念によっていささか歪んでしまっていた精神は、いったいどうなってしまっていただろうか。おそらく、矛盾に押し潰され、もう修復しようのない歪みを生じてしまったのではないだろうか。
彼に取って、一度皇太子という立場から離れる事は、絶対に必要な事だったのだ。今までのオルバでは、復讐者以上の存在になるには限界があったのだ。彼には才覚はあっても、王となるための魂の器が足りていなかった。

なんの権力も威光も持たないただの傭兵に戻ったオルバは、生きる目的を失い抜け殻のようになりながら、それでも剣闘士奴隷として生きた経験しか無い以上、剣で生きることしか知らず、再び仮面をつけて帝国から離れたタウラン地域に移り、そこで一兵卒として戦場に立つことになる。
幾多の小国家が乱立し、長年戦乱が収まらないタウラン。そこは今、ガルダと呼ばれる謎の魔術士の起こした戦によって、混乱を極めていた。腕の立つ兵士が何よりも求められ、力なき民衆からは平穏が奪い去られた血塗られた戦野。
そこでオルバが目の当たりにしたものは、彼が今まで抱いていた既成概念を木っ端微塵に打ち砕く真実であった。それはすなわち、彼の限界を打ち砕くものであり、その真実を受け入れると言うことは、今までの彼が決して得ることが出来なかったであろう「王」たる器を、彼が備えることが出来るようになった、と言うことと同意義なのである。
と、同時にその真実は彼が頑なに目を逸らし、真正面から見る事を避け続けたビリーナ皇女という存在を、彼女がいったいどんな女性だったのか、どんな皇女だったのか。それを、オルバが偏見を除いて見つめることが叶ったと言うことでもある。
この時彼は、王として立つ気概と器を手に入れると同時に、絶対に守らなければならないものも手にいれたのかも知れない。
復讐者でしかなかった剣闘士奴隷たる男が、皇太子たる身分を捨て、ただの傭兵に戻ることで、国のため民のために立つ高貴なるものの義務を知り、守るべきものを持つ騎士たる思いを胸に宿すことで、一回りもふた回りも大きくなり、戦う目的を取り戻したのだ。
数奇な運命で皇太子の影武者という身分を手に入れ、その才覚を目覚めさせ、帝国内部で赫々たる戦果を次々とあげて、周辺各国に名を知らしめただけでも、充分戦記ロマンとして魅力的な話だったのに、一旦その身分を捨て去り、再び別天地で一兵卒からのし上がろうというのだ。それも、人物としての魅力や可能性を遥かに高めることに成功しながら、である。
これほど叩き上げ、という言葉が似合う男も珍しい。正直コレは、あのまま皇太子の影武者として帝国に残っていたよりもダイナミックで劇的な展開が待ち受けている事が容易に想像でき、ワクワクが止まらない。
元々期待していた作品ですが、これは本当に続きが楽しみな大作になってきましたよ。

ヒロインたるビリーナ皇女は今回まったく出てきてくれず、残念だったのだが、後書きを読む限り、それほど捨て置かれることはないようなので安心した。この変化し成長したオルバには、絶対ビリーナが必要ですもんね。

烙印の紋章 4.竜よ、復讐の爪牙を振るえ4   

烙印の紋章〈4〉竜よ、復讐の爪牙を振るえ (電撃文庫)

【烙印の紋章 4.竜よ、復讐の爪牙を振るえ】 杉原智則/3 電撃文庫

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前巻で兄ロアンの末路を知り、皇太子という立場に溺れてしまい、復讐を後回しにしてしまっている自分に気付いたオルバ。
だが、敵である自国の将軍オードリーに、復讐心を滾らせるも皇太子という立場がその復讐への実行を阻む。
彼が長年奴隷剣闘士として地べたを這いずるようにでも生き抜いてきたのは、まさにこの復讐を果たすため。オルバが皇太子の身代わりとなったのは偶然で、彼には復讐以外の目的などそもそも何もなかったのに、ここで皇太子の彼に従う者たちへの責任、という縛りが彼の身動きを取れなくするとは思わなかったなあ。彼の怨讐の強さは、そういう縛りを無視してもおかしくない狂気じみたものがあったわけだし。
ただ、彼の中には憎むオードリーや貴族たちと同じ、醜悪で自分本位な人間にはなりたくない、という想いがあり、それがオルバの自制心となっているんだろう。それは決して、彼に従ってきた元奴隷たちの事を本当に慮っての事じゃない、というのはオルバという主人公の、幾多のラノベの主人公から逸脱した部分なのかもしれない。オルバって潔癖だし思いのほか義理がたいんだけど、本質的に他人の身を案じたりする優しい性格じゃないんですよね。そこが、他人を受け入れず味方や仲間はいても、同志や親友たる人物はいないという孤高の源泉とも言えるのかもしれない。その僅かな例外が、ビリーナ王女なんでしょうけど。オルバは、例外的に彼女の事だけは自分の事のように心配し、知らず知らず気遣い配慮してしまっている。オルバは随分、そんな自分に戸惑っているようだ。そこが、彼女への距離感の取り方のぎこちなさにもつながっているように思える。受け入れようとして見たり、でもやっぱり突き放したり。
敵国の侵略を受けたビリーナの故国ガーベラに救援を送ることに拘ったのは、ビリーナのためという以外に理由はないしなあ。もちろん、皇帝グールへの牽制という意味合いも持たせることはできるだろうけど、それらは結局後付けの理由になるんだろうし。
その意味では、やっぱり唯一ビリーナこそがオルバに寄り添える可能性を持った人間なんですよね。
なんだけど……やっぱりなかなかうまくいかないよなあ。ビリーナからすると、オルバのヒミツは知らないし、彼の自分への態度の不安定さは此方から手を伸ばそうとすると、すっと透かされる感じがして、なかなか踏み込めないだろうし。ビリーナ本人も決して他人とうまく付き合えるような器用なタイプじゃないですしね。でも、必死で自分の婚約者となった相手の事を知ろうとし、近づこうとしているのにそれがなかなか叶わない彼女の苦悩は胸を突くものがある。
だいたい、最後はあんな展開だもんねえ。オルバは、義理堅いしちゃんとガーベラ方面の一件には相応の決着をつけてから、ああいう真似をしたのはそれこそビリーナの事を想っての事なんだろうけど、彼女に何も言わずやらかして放置している時点で、この野郎が他人の心を真の意味で慮れない人間である事は明らかでしょう。気遣ってる相手にあの仕打ちはないわ。
本人が復讐心に擦り切れそうで、さらに長年の怨念が晴らされた後になっては虚脱感に半ば放心状態で人の事なんか考えてられなかった、というのもあるわけだから、同情は出来る。というか、あの状態でガーベラの一件を見事に収めてみせたのは、むしろ称賛すべきなのかもしれないなあ。
いや実際、オルバの心身の摩耗度を考慮に入れなくても、ガーベラの国境紛争の手打ちのさせかたは、政略戦の芸術的な一手と言っても過言ではない見事なものだった。オルバの才能って軍事面だけでなくこうした政略面にまで及んでいるとなると、確かに軍師だの腹心だのはいらないよなあ。
オルバのモデルが織田信長だというのもむべなるかな。信長に対する村井春長軒となるべき人物もどうやらあの人がいるみたいだし。
そう、確かに同志ともいうべき存在はそばにおらず、彼の行動はすべて彼の頭脳から出ているという一人の戦いを続けているオルバだけど、味方ともいうべき人は、彼の英雄的な行動に感化され、心動かされていく人たちは着実に増えてるんですよね。オルバの素性を知るかつての奴隷仲間たちも、徐々に変わってきていて、オルバの方に踏み込むようなそぶりを見せている。オルバ本人も、憎みさげすんできた貴族の中にも、一廉の人物がいるのを認め、なによりビリーナという眩いまでに真っすぐな存在に心動かされ、意識が変わってきている。
復讐という個の目的を達した今、彼が何を目指して生きていくのか。それが試される段階で、ああいう展開になってしまうとは。
それだけ限界で、休息が必要だったんだろうけど……。もっとも、オルバの知略を考えれば、この展開さえその先の布石として繋げるための策、とすることになってもおかしくはない。実際、現状では皇帝グールとの対立は危険水域に達していたし、暴君への道をひた走る今のグールの事を考えると、オルバがとった選択は逆にのちのち大きなアドバンテージとなってくる事も大いに考えられる。
でもやっぱりビリーナは可哀想だよなあ、これ。あとで戻ってきても拗れるぞ、これは。


あと、オルバに対する爆弾となっているイネーリだけど、この人もどう転ぶかわかんないんだよなあ。ビリーナに対する憎悪に近い対抗心と、虚栄心に野心。それらを見るととにかくアブナイ人にも見えるんだけど、ビリーナとのやり取りで僅かに窺えた隙、というかビリーナへの対抗心の躓きを見ると、もしかしたらビリーナとうまくやれるかもしれない、という可能性も見えなくはないんですよね。
ゼノン王子が、あの小賢しいだけで実のところあんまり役に立ちそうになかった軍師と和解し(軍師があそこまで自分のこれまでの生き方、やり方を自省するとは思わなかった。上に書いたように自分は今まで彼の事を対して優秀には考えてなかったのだけれど、今後は認識を大きく改めるべきだろう)、手を結んだように。
まー、無理だろうけどw
でも、これまで常に主人公のみならず、キャラクター同士を孤立させ、真の意味で絆を結ぶことなく描いてきた著者が、この作品では徐々にこれまでと違った人間関係の繋がりを描き出そうとしている気もするんですよね。
あとがきを読む限り、よっぽどうがった味方をしなければ無事に続きたる五巻も出るみたいだし、この作品がどう変わっていくか、出来れば最後まで見届けたい。ほんと、続き出してくださいよ。頼みますから。

烙印の紋章 3.竜の翼に天は翳ろう4   

烙印の紋章〈3〉竜の翼に天は翳ろう (電撃文庫)

【烙印の紋章 3.竜の翼に天は翳ろう】 杉原智則/3 電撃文庫

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「心身ともに皇太子になりすぎている」
ゴーウェンの呟きを最初読んだ時は、何かのフラグか何かかと顎を撫でてみたりもしたけれど。通して読み終わってから思い返してみると、伏線というよりも現在のオルバが陥っている陥穽を的確に指摘した含蓄ある言葉だったのかと感心してしまった。
今のオルバの目的は、確か自分の家族を殺した貴族への復讐であり、奴隷剣士として働かされてきた怨念を晴らすことだったはずなんですよね。ところが、一応復讐については忘れてはいないものの、今のオルバは皇太子ギルとして自分の中に眠っていた軍事の才能を駆使するのに夢中になってしまっている。
本来なら国への忠誠なんてものはどこにもないはずなのに、彼の行動は皇太子ギルという立場に基づいたものになってしまっていて、そこにはオルバとしての目的も行動指針が何もない。
確かにこの巻でのオルバは、皇太子になり切り過ぎていたように見えました。そのオルバとしての自分とギルとしての自分との錯綜のしっぺ返しは、ラストに兄・ロアンの足跡に出くわすことで見事に調子に乗っていたオルバを打ちのめしてしまうわけです。
自分がいつの間にか、自身が憎み呪っていた貴族たちと同じような高みから、民や雑兵たちを見下ろすモノになり切ってしまっていたことに気がつかされ、泣き崩れるオルバ。
ただねえ、これを誰に指摘されるでもない、自分自身で気づいたっていうのは大きいと思うんですよね。自分自身、というよりも、敬愛する兄の優しい無言の嗜めにより、気づかされたというべきか。
そろそろね、オルバには自分の才能を使うのを目的ではなく手段としてほしいと思っていたんですよ。加えて、復讐や怨念という過去に拘泥するのではなく、皇太子ギルとしてではなく、奴隷剣士オルバの立場で、未来に何か築こうとする目的を持ってほしいなあ、と考えていたので、これはもしかしたらオルバが進む道の大きなターニングポイントになるかもしれないと思ってしまうのです。
誰にも心許さず、本心を明かさず、彼の秘密を知っている仲間にすらどこか距離を置いている孤高の男。でも、この巻でオルバが見せた行動は、徐々に他人との間に築いた壁の高さを下げていっているようにも見えたんですよね。ビリーナに自分の策を伝え、彼女に一つの戦場を任せたところなど、これまでの彼には見られなかった余裕、にも見えるわけで。
いつか、ビリーナとは秘密も本心も何もかも共有できる、本当の同志になって欲しいところなんだけど……あのラストの展開がオルバの中に生じていた余裕にどんな影響を与えるのか。オルバが泣き崩れている場面を目撃してしまったビリーナ、その事実が二人の関係に与えるものは。
このへん、どちらにも転んでいきそうで、なかなか油断できない引きだったように思いますね。引きといえば、オルバの正体について登場人物中もしかしたら一番厄介な人物が強い疑念を持ってきてしまったようで、どうなることやら、はい。
皇帝と皇太子の不仲や、周辺諸国の重鎮とギルの個人的な関係の構築など、色々今後の展開として憶測可能な範囲が広がってきているわけですけど……うーん、やっぱりもう少しオルバには親身になって味方してくれる仲間が欲しいよなあ。本来ならゴーウェン、シーク、ホゥ・ランあたりがその役割を担う立ち位置にあるんだろうけど、この人たちとオルバの関係って、けっこうサバサバしていて、忠誠や友情とは程遠い感じがするからなあ。
でも、このままビリーナを除くすべての人間関係が打算の産物のまま、最後まで駆け抜けたら、それはそれで凄いし面白いような気もする。


 
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