汐山このむ

エイルン・ラストコード 〜架空世界より戦場へ〜 2 ★★★★☆  

エイルン・ラストコード 〜架空世界より戦場へ〜 2 (MF文庫J)

【エイルン・ラストコード 〜架空世界より戦場へ〜 2】 東龍乃助/みことあけみ MF文庫J

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ロボットアニメの世界から西暦2070年の世界へと召喚されたエイルン=バザッド。虚構の存在である自分の存在を認めてくれたセレンと、この世界を救うため立ち上がるエイルンだが、騎兵部の部員は独断専行、心に爆弾を抱えた生徒が多数と、人類反抗の先鋒たる氷室義塾の崩壊寸前な状況が判明する。何よりセレンにまつわる悲しい過去『機兵部初代部長・神無木緑の喪失』が呪縛のように多くの生徒を苦しめていた。「一ノ瀬…誰かが誰かに成り替わるなんて、出来はしないんだ」だが、エイルンの言葉と行動が、多くの人の心を動かしていき―!?爆発する爽快感!とにかく熱くて、火傷する、新世代ロボットライトノベル第二弾!
そうか、そういう事だったのか。いやね、一巻でも目に余るものがあったのだけれど、氷室義塾の戦闘部隊である機兵部の連中が軍部隊としてはお粗末にすぎるという以前の問題で、もう組織として成り立ってないんじゃないか、というくらい無茶苦茶ひどい有様だったんですよ。これまでどうやってマリスの侵攻に立ち向かってきたのか想像できないレベルで。こんな連中、一度でもマリスが相応の規模で攻め込んできたらその一撃で粉砕されてもおかしくない素人以下の命令も聞かず反抗的で判断力もなく好き勝手に動きまわって何の反省もなく現状認識もしていないような、筆舌に尽くしがたい本当に酷い連中だったんですよ。
エイルンが無双する前提にしても、味方となる部隊がこれというのは、幾らなんでも無いんじゃないかなあ……と、呆れを通り越してドン引きしていたのですが、この2巻でようやくエイルンの周りが落ち着いてきて、氷室義塾が置かれた現状と、此処に至るまでの過程が明らかになることによって、ようやくこの無茶苦茶な有様が腑に落ちたのでした。
なるほど、エイルンが来た時の氷室義塾は、実際もう後がない崖っぷちなところまで破綻しかけてたのか。本来はまとも以上に精鋭部隊として成立していたのが、セレンの乗るロボットの暴走によって一旦壊滅した挙句、カリスマ指導者を失ったことで士気も崩壊、中隊長以上の中核となる人物も櫛の歯が欠けたよう抜け落ち、残った連中も少なからず精神的に傷を負い、部隊立て直しにも失敗して迷走した結果、もはや精鋭部隊の面影どころか通常運用も出来ないレベルで組織崩壊していたのが、今の機兵部だったわけですか。
そりゃ、あかんわ。
放っておいても、あと一戦でどうやっても全滅する段階、最終末期状態じゃないですか。
エイルンが現れたのって、セレンの絶体絶命の危機という以上に機兵部が文字通り物理的にも組織的にも完全に壊滅してしまう寸前の、本当にギリギリ瀬戸際崖っぷちだったわけだ。
セレンがどうしてあれほど嫌われているのか。差別意識が意図的に向けられている立場である、というのを加味しても、義塾のあの生徒たちの反応はクズにすぎるし、葵たち元々仲の良かった娘たちまで心ならずも距離を置かないといけなかった理由がわからなかったし、セレンのあの凄まじい怯えようはもうPTSDと言って過言ではない有様だったのが、なんでここまで無茶苦茶な状態になってるんだろうと若干疑問ではあったのですが、ちゃんと相応の理由があったわけか。
ただ、理由がハッキリしたならば改善の方向性もまた見えてくるわけで。
やるべきことを把握したエイルンが、個人的な武勇による無双ではなく、最前線で戦い続けた軍人として、今度は訓練教官として鬼軍曹と化し、一度崩壊してしまった部隊の立て直しを行いはじめる展開は、機兵部の惨状に、そこに所属している連中の酷い有様に、凄まじいストレスを受けていただけに、それがバキバキと音を立てるように見事に矯正され、修復されていく様子は、これがまた痛快なのである。屑の集まりでしかなかった連中が、意気と気合の入った漢の顔となり、捨鉢だった在りように覇気が漲り、戦士として人間として背筋の伸びた、未来を見据えて戦うことの出来る連中へと戻っていく、新生していくのは、燃えた。うん、燃えたよ。
そして、あの未来も希望も何もかもを全てを喪ってしまった戦いで、大きな心の傷を負い、戦いから逃げてしまった者、自分の本来の姿を見失って迷走していた者たち、それらも燻らせていた熱い魂を揺さぶり起こされ、かつて以上の自分を取り戻していく、この熱い展開よ。
ややも演出過剰に、さあ燃えなよ、滾りなよ、とお膳立てされたような展開なんだけれど、悔しい、ここまで見事にお膳立てされてしまえば、乗るっきゃないじゃない。興奮するよ、手に汗握るよ、ああもう燃えたよ、熱くなったよ、どうしようもなく面白かったよ!!
まいった、全面降伏。これは抗いようがない。溜めて溜めて爆発させて解放する、痛快さというのを如何に感じさせるか、という勘所を実に心得た話の仕立て方でした。
ややセリフや演出がくどかったりするのは、これは好み次第かなあ。それも、エイルンがこの世界ではアニメの登場人物、という要素ならではなんだろうけれど。

1巻感想

エイルン・ラストコード ~架空世界より戦場へ~3   

エイルン・ラストコード ~架空世界より戦場へ~ (MF文庫J)

【エイルン・ラストコード ~架空世界より戦場へ~】 東龍乃助/汐山このむ MF文庫J

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これは嘘を真実に、空想を現実に変える、いや変えていった人間達の魂の物語である。
西暦2070年。人類が謎の生命体マリスから襲撃を受けて半世紀以上の時が流れた。
「闘うの……ヤなの。痛いのイヤ……もう全部……ヤなのイヤ……助けて、誰か……」
だがマリスに唯一対抗できる巨大兵器 <黒き魔女> デストブルムのパイロット・セレンは絶望的な戦いに精神を疲弊しきっていた。そんなある日戦場に奇跡が舞い降りる。
国籍不明の謎の戦闘機が出現、この世界に存在し得ない超兵器で、マリスを一掃する。
盛り上がる人類。だが、戦闘機から出てきたのはこの世界での大人気アニメ「ドール・ワルツ・レクイエム」のパイロット、エイルン・バザットそっくりの少年で――。
嫌がる子女を無理やりロボットなどの戦闘機械に乗せて敵と戦わせる、というシチュエーションは古式ゆかしいものですけれど……うん、ここまでガチに嫌がってる、というどころのレベルではない、本気で怯えて逃げ惑う女の子を、泣き叫んで暴れる子供を無理やりパイロットシートに押し込んで、という凄まじいシーンには、しばし呆然としてしまった。ヒロインのセレンの怯え方は虐待を受けてる子供のそれと一緒なんですよね。それも、精神的に壊れる崖っぷち。狂乱と言うのが相応しいような少女の泣き叫ぶ様子は、可哀想とか同情するとかいうのを通り越して、思わず思考停止してしまう。本来なら、そこまでひどい所業を強いる大人たちには嫌悪感を抱きそうなものなんですが、人間を食料として喰う怪物の大群を前に末期戦の様相を呈した人類は、コチラはコチラで精神的に疲弊し切っていて、完全に余裕を失っている状況。幼いから、子供だから、女の子だからと気遣い慮るだけの余裕が一切失われているわけです。人品として善人であるだろう司令ですら、セレン以外に対処の仕様がないということで、情を排して冷徹に徹している状況である。
人間、衣食住が満たされず、それどころか生存すらおぼつかない切羽詰まった、追い詰められた状態に置かれた時、いやそれが瞬間的なものではなく継続的に、それこそ年単位で何十年と圧迫され続けた時、いったいどれだけ残酷に、無情に、酷薄になれるか、という一例がここに示されている。
うん、こんなのを冒頭から見せつけられたら、インパクトとしては強烈極まる。
はっきり言って、人類サイドはかなり頭おかしくなってます。マリスに対する唯一と言っていい切り札を大事に大切に扱うのではなく、八つ当りするようにまともな人権すら与えずに使い潰すように扱っているところなど。でも、その理不尽さは理解不能なものではなく、ああやらかしかねないなあ、というものでもあるんですよね。それだけ、人類が理性を保てないほどに追い詰められ、絶滅しかかっている、という絶望感が伝わってくる。
セレンはセレンで、パニック状態で指示が届くような状態ではなく、味方を巻き添えにして盲滅法に撃ちまくるばかりで、戦いも何もあったもんじゃない。本当にひどい状態。
舞台の整え方としては十分以上でしょう、これは。
ここまで余裕が失われた世界に、突如救世主として現れたのが、この世界で放映されてる人気アニメのキャラクター、というのは考えてみれば随分と皮肉がきいている。まあ受け入れられるはずがない。当人がアニメの登場人物という自覚がない、というのが尚更に混乱に拍車がかかり、根本から存在否定されるエイルンの悲惨なこと悲惨なこと。自分が命懸けで戦ってきた事が、人生そのものが「虚構」呼ばわりされるというのはどれほどのことか。
でも、アニメのキャラだと誰も信じないのは当然といえば当然で、たとえば誰もが知ってるガンダムのアムロ・レイだとかエヴァの綾波みたいなのが現実に出てきても、せいぜいなりきりコスプレイヤーにしか見えないよね。アニメキャラがアニメ調のデザインのまんま、現実世界に出てくるわけじゃないんだから。ビジュアルも相応に実写化されたフォルムチェンジがなされてるんだろうし。

虚構の中のヒーローが、果たして現実世界においても英雄足り得るのか。極限状態に置かれても、いやだからこそ人は人としての尊厳を、誇りを掲げる事が叶うのか。命を燃やして戦うのは、一体何の為だったのか。
本当の意味で「絶望と戦う」ことを選んだ者たちの姿が、思わず拳を握ってしまうほど熱い。まさに、燃えている。
面白い試みとして、戦闘シーンを幾つかイラストではなく、完全に漫画として掲載してるんですよね。これに関しては、アクションシーン、かなり迫力と熱量とスピード感がある漫画で見応えあったんですが、なかなかこのレベルを用意出来るケースは多くないでしょうし、スタンダードにはなりにくいかなあ。でも、方法の一つとして定着するのはアリだと思う。さて、使いこなせる、使いドコロを見極められるかは編集サイドも人を、センスを問われることになると思うけれど。

 

4月25日


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