【特殊能力統轄学院 叛逆の優等生と悪魔を冠する少女の共犯契約】 ひなちほこ/シエラ MF文庫J

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偽りの優等生と悪魔の名を持つ少女。過去を取り戻すため二人は契約する――

夜空に輝く純白の翼。降りそそぐ無数の雷撃。そんな超常の現象を引き起こす≪脅威≫と呼ばれる力。特殊な力を身に宿した少女たち≪観測者≫を保護、養成するための機関『特殊能力統轄学院』。しかし実態は理外の力を持つ彼女たちを隔離、統制、そして利用するための施設であった。日常を奪われた監獄のような学院島で、かつて機関に連れ去られた幼馴染のことを調べるため優等生を演じ監理官を目指す紫門。ある日、機関に隷属し、悪魔『アスモデウス』の称号を持つ少女と行動を共にする仮契約を結ぶことになり――。
君を絶対に助けに行く、たとえ世界のすべてを敵に回したとしても


口絵でのキャラ紹介の中に主人公の紫門詠哉の立ち姿はあっても名前は無いのは意図的か。
果たして彼、主人公紫門は善人なのか悪人なのか。偽善者なのか偽悪者なのか。優等生であり信念と覚悟のある正義感。皆を救うのだと宣誓し、身を挺して実践する硬骨漢。その献身は、心に訴えてくる必死さは、傷つき絶望する少女たちを諦めの底からすくい上げていく。言動一致の力強く頼もしい青年だ。その姿だけで主人公にふさわしいと言えるだろう。
誰にも知られないように策をめぐらし暗躍し、安全マージンを着実に取り、信頼を得るために小細工を弄し、邪魔者を排除していく冷徹にして酷薄な裏の姿がなければ、の話であるけれど。
ほぼほぼ、そんな裏の姿を垣間見せることなく終盤まで突き進むので、本当に紫門という少年の正体は見えている部分で概ねすべてだと思っていただけに、その裏の顔は、特にあの一件の黒幕が彼だったのはなかなか衝撃的ではあった。
でも、全部が彼の手のひらの上だったか、というと最後の最後で敗北しながら彼を嘲笑い弄んだのはあの先生だったんですよね。
紫門は目的のためにやるべきことをすべてやろうとしている。どちらが果たして彼の本性なのか、と言えば決して彼が表で見せていた顔は嘘ではないと思うんですよね。演技であれほどの迫真を出すのは難しい。あれこそが、彼の本音であると言えるのではないだろうか。
しかし、彼は自分の求めるものすべてを切り捨てて、過去の後悔を、かつて失った人を取り戻そうと、そのためならば何を犠牲にしても構わないと決め込んでいる。そのためならばどんな悪行も成そうと思ってる、自分を慕う子たちを、自分を慕うように誘導した子たちを生贄に捧げても構わないと思っている。
しかしそれは果たして覚悟なのだろうか、信念なのだろうか。
彼の芯の部分は表でも裏でも、実のところ一貫している。彼の優しさは本物で、あの敵役の悪行に憤っていたのも本当だ。冷酷に敵を排除するようで、その実目的のためという以上に感情的なものが含まれていたようにも見える。優等生の彼も裏の冷酷な彼も、その行動原理は一緒であり一貫していると言っていい。だからこそ、彼のもっとも芯となる部分は表と裏、どっちつかずでフラフラと中途半端にふらついている、とも見て取れる。決して、徹することが出来ているわけではないのだ。
彼が抱え込んでいるのは覚悟ではないのだろう。過去に、自分の手で殺してしまったという従属特待生の少女。一人の少女を自らの手で殺してしまったという事実が、罪が彼を追い込んでいるように見える。彼のそれは、覚悟ではなく後戻りできない所に追い詰められて、急き立てられて焦燥のままに足掻いているだけではないのか。優等生として語る建前を本音として語れなくて、偽りの戯言のように振る舞うのは、殺した自分がそんなきれいな建前を本当の自分の気持ちとして吐き出すことに耐えかねるからではないのか。それでも、どうしても堪えきれない思いがああして発露しているのではないか。
だから、あれはどうしようもなく彼の本音に、本心に見えるのだ。
すべてを手球にとっているようで、紫門にはあまりにも余裕がない。敵役との対峙で、圧倒していた彼が結局感情的にならざるを得なかったのは、彼の必死さゆえだろう。余裕の無さ故だろう。一心不乱で一途だからこそ、必死で限界まで自分を振り絞っているから、周りを省みる余裕がない。その意味では彼はアスモデウスとよく似ている。似た者同士だ。
だから、お互い、気づかない。
あれだけ恋い焦がれ自分の魂を売り渡すように求めていながら、それが傍らにあることに気づかない。気づかないまま、自らの手で葬ろうとしている。喪わしめようとしている。求めたものを自らの手で潰そうとしている。
ああ、なんて哀れ。哀れで愚かで、痛ましい。
彼の内包する「破滅」の気配は、実に甘やかで芳しくて、垂涎してしまう自分はいささか趣味が悪いだろうか……。