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獅子猿

項羽と劉邦、あと田中 3 ★★★★   



【項羽と劉邦、あと田中 3】 古寺谷雉/獅子猿 PASH!ブックス

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秦の名将・章邯が反乱軍を蹂躙するなか、ついに項梁が楚王となり奮い立つ項羽。

張良との出会いを経て、楚王の助力を得るため留へ向かう劉邦。

田中(タイムスリップした元会社員)もまた、
田横とともに一族の対立勢力である田假らを追い留へと赴く。
そこでついに出会いを果たした項羽と劉邦、あと田中。

運命の歯車は大きく動き出し、斉国にも厳しい戦いと試練の時が訪れる。
歴史のうねりが止まらない、邂逅と共闘、そして別れの第3巻!
ん? あれ? このあらすじオカしくないですか? 項梁は楚王になってませんよね。范増お爺ちゃんに指摘されて楚王の血筋を擁立して自分は武信君として軍権を握ったわけですし、その擁立した楚王の周りに集まった旧王朝勢力と微妙な関係になっていくのですし。これ本文の内容とも食い違いますし、結構な間違いのような。
さて表紙の田中くん、今までの表紙の中で一番貧相だぞw まあ項羽と劉邦に挟まれりゃあ肩身が狭いドコロじゃないのだろうけれど、実際は今までの中でも特に頑張って男を見せている回でもあるんですよね。絶望的な籠城戦で味方を鼓舞し続け、田横と一緒に戦場を駆け、そして斉と大切な人たちのために単身他国に乗り込み、とタナカではなくデンチュウとして奮闘するのである。
それに、項羽と田横の大喧嘩に割って入ったりと余人が出来ないような胆力見せてたりしますしねえ。わりとこんな風に項羽と劉邦に挟まれても、なんやかんやで口を回転させてソフトランディングさせそうな気がします。
それはそれとして、この表紙、後ろに美女二人。一人は蒙林さんだけどもうひとりの美女だれ? 女性のこんな存在感見せるキャラクターって出てたっけ!? と、真剣に首傾げてたら、これこの美女、張良じゃん! 張良かよ!! 本作では度々張良のことを美女と見紛う、というように表現されていましたけれど、ガチ美人じゃねえですか。そんな張良から、この人よくわからんです、と言われる田中さん。しかし劉邦はその田中さんをかなり見込んでいるんですよねえ。ベクトルこそ違うものの、口だけではない口八丁という者同士というのもあるのかもしれませんが。
そして、楚漢戦争のもう一方の主役である若き英雄項羽の登場。まだ叔父である項梁の下にあり、楚軍の筆頭将軍として駆け回る若者であるのですけれど、まさに最強の軍勢を率いる最強の将として勇躍する一方で精神面が若い! 若い以上に尖っていて身内以外には冷酷。でも、若さ故の可愛げもあってまた出自で見下したりもせず子供のように素直な面もあって、魅力的であるんですよね。
天然の毒舌、というか物言いがどうにも辛辣で乱暴なんだけど本人は悪気も悪意もない、というパターンでもあるんですよね。これ、ちゃんと項羽の敵を作りがちな言い方を気にせず真意を汲み取れる人なら、凄く相性いいんじゃないだろうか。特に田中w
それと范増じいちゃんがまた上手いこと項羽に言いたいことをイイつつ言うこと聞かせるんですよね。項羽曰く、正論でガンガン言ってきてもその言葉の中に優しさがあると逆らえない、だそうなんですよね。范増爺ちゃんがまさにそれで、この時点では爺ちゃんのこと苦手に思いながらもかなり慕う気持ちになっているのが伝わってくる表現であり、この田中もそんな風味があってどうにも苦手だ、とうそぶいているあたり、田中さん結構項羽には意見汲んでもらえるんじゃないだろうか。
しかしでも、やっぱり田中さんの相棒は田横なんですよね。この二人の関係が素敵すぎて、もうたまんないです。なんだろうね、この兄弟でもあり無二の親友でもありデコボコカップルさながらの相棒でもある、という関係は。田中は田横に男として惚れに惚れ込み、彼を支える事に喜びを感じている風なのですが、上下関係じゃないんですよね。年齢としては田中さんの方が上。でも兄貴度はやっぱり田横の方が上で、でもどこか年下の弟として彼を支えるだけじゃなく面倒見る、という感覚も持ってるような感じがするんですよね。田横も、田中の事を智者としてじゃなくて相棒として、ときに後ろから付いてくる田中を引っ張るように、時にどこに行けば良いかわからない時に年上の兄として頼るように、お互い足りない部分を埋めあい長所を伸ばしあい、という絶大な信頼によって結ばれた対等の存在なんですよね。
兄として田栄の事も絶対的に信頼し、敬愛している田横ですけれど、古代中国らしく兄弟の上下関係は絶対、というものもあるだけに、田中との家族であり兄弟さながらでありながら、親友のように相棒のようにどこまでも対等に感じる相手、というのはまさに田中だけなのである。斉の田氏の重鎮として、斉の最強の将軍としても振る舞わなければならない田横にとって、これほどに心置きなく頼り頼られ対等で居られる相手というのは、他になく。
ほんと、この二人、田中と田横はお互いのこと好きすぎなんですよ。夫婦か、とすら言いたくなる。
蒙林さん放ったらかしでいいんですか、田中さん。とか思ってたら、その蒙林さんにちゃんと背中押されて、斉のために田中もまた決断することに。この嫁さんも、田氏関係ない分さらに田中さん個人を理解しきっているなあ。内助の功全開である。
こうしてみると、田栄兄上は田氏としての在り方に縛られて、どうにも窮屈になってしまっている。斉王にして父代わりだった従兄の田儋という支柱がいてこそその才知をのびのびと震えてたのでしょうけれど、一切の責任を負う立場になってしまったことが彼の不幸だったのか。
いや、彼を不幸にするまいと田中が立ち上がるのですが。立場と建前に囚われながら、しかし真を見失っていなくて、こっそり田中に託すあたりに田兄弟の情の厚さを見せられて、ほんとこの兄弟一族には不幸になってほしくない。だからこそ、田中の決意と行動に歴史の行く末を託すしかないのですが。
果たして、田中は正史と同じ流れから斉の行く末を覆すことができるのか。田栄はかなり致命的な決断をしてしまっていただけに、田中の行動が分水嶺だったと思うんですよね。あそこがまさに分かれ道だったと。そう振り替えれるようになればいいのですが。



項羽と劉邦、あと田中 2 ★★★★   



【項羽と劉邦、あと田中 2】 古寺谷 雉/獅子猿  PASH! ブックス

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会社員の田中“たなか”は秦王朝末期の中国にタイムスリップ。田中“でんちゅう”という名に勘違いされて田“でん”一族に迎えられ、得意の弁舌と機転で活躍し、再興した斉国で外交を担うことに。陣勝と呉広の反乱で大陸全土が揺れるなか、使者として反乱軍のもとに向かう田中は、沛県で劉邦と出会い登用の誘いを受けるが…。一方、窮地に立つ秦では、眠れる名将・章邯が動き出す!まずまず場違いな田中さんが大奮闘の新感覚英雄譚、怒濤の第2弾。

章邯って元々軍を率いた事もない文官だったんですよね。それが一躍秦の最後の名将とまで謳われるほどに勇躍するのですから、わからないものです。一報に陳勝・呉広の乱を引き起こした陳勝と呉広もまた元々はただの農民。結局この反乱は一年と経たず瓦解することになるのですが、学も何もない小作人に過ぎなかった彼らが、一時なりとも王を名乗り数十万の軍勢を号したわけですから、とんでもないっちゃとんでもない事なんだよなあ。
とはいえ、その反乱の末路は先々に送り出した軍勢が勝手に独立していき、収集つかなくなるというしっちゃかめっちゃかなものでしたけれど、一つにまとまった爆弾ではなく、あっちこっちに爆発物をばら撒いたようなもので、時代や人を大きく刺激するという意味ではこれ以上無い劇薬になってしまったわけだ。
各地で雌伏していた英傑たちがこれを見逃すはずもなく、田氏もまた斉の国を復活させるべく決起する。当の田中はというと、陳勝率いる反乱軍とつなぎを取るために出張中だったわけですが、その旅先で劉邦と出会い、また張耳・陳余といった面々と顔を繋ぐことになるわけです。

しかし、こうして時代を代表する人々が出てきてその様子を見ていると気付かされるのですが、皆それなりに自己顕示欲というのが強いんですよね。強い自負心がある故にガンガンと自身の能力を振るえるのですが、一方でその自負心が故に他人と自分を比べてしまう。刎頸の交わりを結んだ張耳・おと陳余の間ですら嫉みの萌芽が生まれ、決起した田氏の中で外交を司る役についた高陵君もまた、同じ役割を与えられて並び立つ事になる田中に対して、ちくちくと対抗心を見せているのですけれど……まったくそれに気づいてなくて自分の発言に反論を述べられても、確かにそのご意見もご尤も♪ 完全にスルーしてしまう田中くん。
こういう自分を大きく見せようという気がさっぱり無い所が、田中の可愛げに繋がっているのでしょう。しこりを残したままだった彭越と蒙恬の間を取り持ったり、気難しそうな蕭何と意気投合したり、と妙に人の感情を和らげてその場にいる人たちの空気を和やかにしてしまう。あの劉邦が、特に目をかけて彼を勧誘しようとしたのも、自分たちの陣営に足りない智者を取り込もうとした以上にこの雰囲気を明るくするムードメーカーを無意識に求めたからなのかもしれないなあ。田中のそれは、劉邦や田横のような大人物の持つカリスマ性と競合せず、むしろ風通しを良くするタイプに思えるんですよね。
張耳の爺さんにも気に入られてたし。というか、あれは田中が元々お喋りなのを調子に乗らせて好き勝手気持ちよく喋らせてたからなんでしょうが。あのチョロさは、ほんとどうなんだろう。年下の陳余が苦労してそうである。
そんな中でも特に田中大好きなのが、田横なんですよね。斉の将軍として戦いながら、こういう時に田中が居たらなあ、などと思い巡らせ思い出し笑いしてる様子なんぞ、どれだけ田中のこと気に入ってるんだと言いたくなるほどで。田中語りで張り合ったり意気投合したりしている蒙林と田広に勝るとも劣らないですよ。
しかして、それほど皆に好かれ、また彼自身皆を好いている田中。それでも、その心の奥底には故国への望郷が渦巻いている。どうやって帰るのか方法もわからないけれど、それでもここは異邦の地でありいつか帰るべき場所があるのだ、という想いはずっとこびりついていたのでしょう。
蒙林からの想いを受け取れないままでいたのはそのせいで。
だからこそ、蒙林が田氏の血族の中での争いに巻き込まれて拐かされた際に、田中は決断を強いられるのである。この世界で田中(たなか)ではなく田中(でんちゅう)として生き、この地での家族たちを歴史の泡と消えゆく運命から救うべく抗うことを。
忠誠や心酔や野心とはまた違う、この人たちが本当に好きだから、という気持ち。それを覚悟や決意といった重々しく冷たいもので鎧うのではなく、朗らかににこやかに包み込んで奮起するところがほんと田中さんの好きなところなんですよねえ。

そんな田中たちの当面の最大の敵となりそうなのが、抜擢され秦の大将軍となった章邯。彼もまた、キレキレの智者でも武の気配を漲らせた英雄という風体でもなく、どこかスットボケてやる気なさげな怠け者、という風情なんですよね。元から仲の良かった司馬欣にせっつかれ、働け働けと追い立てられて、仕方ないなあとばかりに動き出す、この二人のコンビもなかなかに面白くて、敵方ながら目が離せないキャラクターになっている。
そしてこの時代最大の癌細胞といえるのが、秦の朝廷を牛耳る妖怪宦官・趙高の凄まじい邪悪さでしょう。まさに秦を滅ぼした元凶であり、人類史において奸臣と呼ばれる者は多かれど、その中でも指折りとして数えられるだろうがこの趙高でありますが、本作の彼はおそらくは史実を上回る悪意の権化。果たして趙高との直接対決はあり得るのか。さり気なく、田横がそのフラグ立ててるような気もするんですよね。


項羽と劉邦、あと田中 ★★★★   



【項羽と劉邦、あと田中】 古寺谷 雉/獅子猿  PASH! ブックス

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田中【たなか】(31歳・会社員)はある日突然、秦王朝末期の中国にタイムスリップ。
見知らぬ地を彷徨うなか、後の斉王・田横【でんおう】と出会い、
田中【でんちゅう】という名の一族の者と勘違いされ召し抱えられることに。

持ち前の弁舌を生かして重用され、田横らと親交を深める田中は、
現代に帰るために、そして田家の未来を変えるために時代のうねりに身を投じていく…。

新たな視点で楚漢戦争を描き出す、「小説家になろう」で話題沸騰の新機軸歴史ファンタジー。

これ、見てわかる通りタイトルのフォントが凄く凝ってるんですよね。このユーモアがきいてる感じは凄く好き。
さて、舞台は始皇帝が中国を統一した秦朝末期。いや、統一した途端に末期というあたりは考えさせられるものがありますが、ともあれこの秦滅亡から楚漢戦争に至る時代って司馬遼太郎の【項羽と劉邦】あたりが一番有名ですが、三国志なんぞと比べるとやはり知名度としては劣るんじゃないでしょうか。斯くいう自分も項羽や劉邦の家臣や、章邯あたりまでは知っていましたが、斉の田氏とか全然知らなかったんですよね。
殆ど未知の時代ということになるのですが、本作は軽快な語り口ながら丁寧に時代背景や、田中くんが見てる範囲のみならず、動乱の時代を迎えつつある中華の地で蠢き出す伏龍たちをじっくり描いてくれているので、余計にワクワクさせてくれるんですよ。
燕の地で牙を研ぐ項梁と若き項羽、ヤクザの親玉さながらに破落戸たちをまとめながら得体の知れない存在感を見せつける劉邦と、その個性的な仲間たち。蕭何さんのこの頃からの苦労っぷりな涙を誘います。そして、始皇帝の命を狙いながら各地を流離う張良。過酷な労役義務を果たせず死罪となる破滅の運命を前に、死なば諸共と立ち上がる陳勝と呉広。いつか秦を倒すために名を伏せ臥薪嘗胆する魏の臣張耳と陳余。幾人もの英傑たちが、まだ春秋戦国時代の余韻が残る秦王朝の黎明期に雌伏していたわけです。
田中さんが、迷い込んでしまったこのはるか古の中国の地で出会った男、田横もまた斉と呼ばれた地の王族として今も名望を保っている田氏の有力な一族の一人でした。
あらすじでは、同じ田氏と間違えられて召し抱えられた、という風に表現されてますけれど、あれって迷子になって困ってた田中さんを、田横が捨て犬拾うみたいに連れて帰って、ご飯と住むところの面倒みてあげた、という感じで部下にした云々という感じなんですよね。部下というよりも、すぐにもう身内みたいな扱いでしたし。あれって、田中さんが本当に遠い田氏の末裔なのかについては、田横はそもそもあんまり気にしている様子もなく、単にきっかけと他の面々への言い訳に使ったという感じでしたし、彼の兄である田栄も従兄で一族の長でもある田儋も田中の出自に関してはさほど気にしたようすもなかったですし。
最初は食客、それでも殆ど身内扱いでしたけれど田中さんが田横の好漢っぷりや他の田一族の人柄の良さに惹かれていき、この人達を破滅の運命から救いたいと願い、ただ自分が生き残るのを目的とするのではなく、この人たちと生きてこの人達と未来を夢見たい、と気構えを変えたその時から、家族同然の関係になっていくのであります。
なんで、部下と主人とかそういう関係は最初の方から殆ど見られないんですよね。だからこそ、田氏の皆のことがたまらなく好きになっていってしまうのですけれど。
ただ、確かにこの斉の田氏。周りが一族ばっかりで、一族主義と見做されても仕方ない部分はあるのですが、そこに一滴穴を穿ってくる巨大な存在が、のちに加わることになるのですが、そこには始皇帝の最期に関わる、大きくもあり小さくもある歴史の改変が起こることになるのですが、それは実際に作中にてご覧いただければ、と。
それにしても、田中さんのよく回る口の軽快さもさることながら、やっぱり一番目を引くのは田横のまさに好漢そのもの、という漢っぷりなんですよね。上の人間には可愛がられ、同輩とは肩を組んで笑いあい酒を酌み交わすような関係になり、下のものからはひたすら慕われる、という感じの本当に気持ちの良い男で、男が思わず惚れてしまう男なんですよね。
もう、めちゃくちゃ格好いいんだ、この人。実は、三十すぎてる田中くんよりも若い二十代後半なのですが、年齢関係なく兄貴分なのである。ただ、田中くんも表紙みてもあれで三十代というのは若いよなあ。せいぜい二十代前半、場合によっては高校生に見えてもおかしくないぞ。
ただ、ここぞというときに、田横に対して年上らしい頼りがいを見せてくれるので、ただただ口が回るだけの男ではないのである。あんまり軍師知恵者というところまではいかず、弁士というあたりが精々ではあるのですけれど、田氏の中では重要な知略担当として無骨な面々を頼りなくも支えていくことになるのである。いや、結構ちゃんと頼りにされてる節はあるんですけどね。田栄の息子である田広くんなんかには、からかわれながらも慕われていますし。意志薄弱だった田広が一念発起し、田横と田中の旅に同行して、メキメキと精神的に成長していくのを田中くんがめっちゃ嬉しそうに可愛がってるのとか、なんか微笑ましくて好きでした。

さて、ラスト近辺ではついに秦王朝滅亡への引き金が引かれ、動乱の幕があけます。タイトルにもある項羽と劉邦の飛躍もまさにこれから。田中くん、ついつい劉邦最初の軍勢立ち上げになぜか巻き込まれるはめになりますが、色々と因縁か因果か出会いの縁が交わってしまうんだなあ。これが、良縁になればいいのですが。いや、実際に良縁にぶつかってやがるんですが、この三十路。おまえ、田横の悲恋にももうちょいなんとかしてあげような。今の所は、どうにもならない別れの先なのですが。
ウェブ版も読んではいたのですが、改めて読んでも飽きもせず面白く読めてしまいました。いやいや、これは実に良い仮想歴史小説でありますよ。間をおかず、二巻も読む予定。

ゴールドラッシュ・オブ・ザ・デッド 3   

ゴールドラッシュ・オブ・ザ・デッド (富士見ファンタジア文庫)

【ゴールドラッシュ・オブ・ザ・デッド】 永菜葉一/獅子猿 富士見ファンタジア文庫

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黄金―この希少な金属を求め、新大陸西部には一攫千金を夢見る人が次々と集まってきた。黄金狂時代の始まりである。だが、突如として現れた“空飛ぶゾンビ”により、その時代は終焉を迎える。瞬く間に西部は奴らの手に落ちていった…大地を埋めつくすゾンビの群れと、奴らを滅する武器「黄金の銃弾」を操る“秘装銃士”たちとの壮絶な戦いが繰り広げられる中、かつてゾンビにすべてを奪われた少年・ウィルが、黄金の刀を振るう伝説の戦士“忍者”として姿を現す!ゾンビ、秘装銃士、忍者。黄金を力とする者たちによる新たな黄金狂時代の幕開け!―「今、颯爽とハラキリ御免ッ!」
日本人って、この手の明らかに間違えてる「ニンジャー!」のこと大好きだよね。件のニンジャスレイヤー然り、あれは書いてるの生外国人だけれど、変な日本感に基づく変な忍者を見てしまうと、なんだか嬉々としてしまうのが最近の傾向。
とはいえ、日本人が「間違ってる」のを再現しようとすると、どうしてもなんか違う感じになってしまいがちなんだけれど、本作のニンジャーはいい具合に狂ってます。というか、新大陸の西部劇で空飛ぶゾンビとガンマンとニンジャで復讐劇をやろうという時点で、頭煮立ってるんですけれど。空飛ぶゾンビですよ、なにそれ怖い。走ってくるゾンビは怖いけれど、空飛んでくるゾンビはもう怖いを通り越してなんじゃいな、てなもんです。
一応、作者の前作は読んでいるんですが、今回は意図的に箍外してますね。前の作品はもっと普通でした、ヒロインのお姉さん振りたがるところがなかなか可愛いのが特徴といったところで、主人公にはあんまり面白みもありませんでしたしね。ところが、もう今回のこれは根底から書き方を変えていて、とかく掛け合いから地の文から勢いとノリ重視でガンガンぶちぬいていきます。テンションが明らかにおかしい、立ち止まったら死ぬ、という勢いでひたすらに突っ走るその様は、冷静になって振り返るともうあかん、という微妙な切羽詰まり方すら伝わってきて、ついつい煽りに乗ってしまうんですよね。
なんか、ジョジョを意識しているのか、ケヴィン姐さんの喉を枯らさんばかりの凄まじい絶叫解説セリフは、まさに伝説のスピードワゴン御大に匹敵する語り口で、これはもういっそ見事と賞賛してしまうくらいの生解説で、思わず拍手してしまった次第。いや、なかなかこれだけ気合の入った解説は書けませんよ。ケヴィン姐さんのそれを読んでいるだけで、なんだか満足してしまったくらいで。
まあ、ほんとに勢い任せで、中身についてはキャラの掘り下げも含めてかなり投げ捨ててるんですが。しかし、もう勢い以外の何もかもをも投げ捨てている潔さはいっそ気持ちいいです。はっちゃけてやる! という気合とテンションが伝わってきて、もうわりとどうでもよくなりますね。
と、そんな頭を空っぽにして吹っ飛んだまま最後まで終わるのかと思ったら、最後の最後で大どんでん返しというか、認識のパラダイムシフトが。
誰が正義で誰が悪か。何が正しく何が間違っているのか。突然根拠を突き崩されて足元の床がなくなってしまったかのような滑落感。そんな中で、正義も悪もぶちぬいて、復讐というエゴに縋り付き、たとえ間違っているのがコチラだとしても、それでも認めぬ、許さぬ、受け入れぬ、と一切の躊躇いなく切り捨てるその姿は、人間としての有り様を捨て去った、まさに忍者、まさに復讐者、しかしそのエゴこそがまさに人間そのもの。
なかなか悪酔いさせてくれる展開でした。侮れぬ。

永菜葉一作品感想
 
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