【『レベル』があるなら上げるでしょ? モブキャラに転生した俺はゲーム知識を活かし、ひたすらレベルを上げ続ける】 珠城 真/八重樫 南 富士見ファンタジア文庫

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レベル上げが大好きな俺は、ゲームのモブキャラに転生してしまった。モブキャラに転生してしまったんだから、ゲーム攻略は二の次。プレイヤー時代の知識を活かし、効率の良いやり方でレベルアップに励んでやる!

レベルを上げて強くなることが好きなんじゃなくて、レベル上げという行為そのものにハマってしまったのか、この主人公・桜井は。
つまり、筋肉を鍛え上げることではなく筋トレすることそのものにハマったり、ソシャゲなんかで素材を得てキャラを強化するためじゃなく、周回そのものが楽しくなってしまった、というようなものですか。
その結果として筋肉が美しく仕上がったり腕力が上がったり、キャラが強くなったり、というのはあくまで結果であってそこまで興味あるものではない、と。
桜井の場合は、効率的にレベルが上がるために実は剣聖だったオッサンに修行つけてもらう事が大事で、その結果として使えるようになった剣聖の奥義なんかはそんなに重要視するものではなかったんだなあ。
キャラビルドとしても、桜井の強化はイビツなんですよね。あくまでレベル上げしやすいように強化されて行っているだけで、戦う強さとしては酷くバランスを欠いたものになっている。だから、レベル差は圧倒的に桜井が上だったにも関わらず、不意打ち気味だったとはいえ檜垣にあっさり打ちのめされてしまっているし。
だからといって、それで方針を変えたりするわけではなく、彼の中ではあくまでレベルを上げるという行為そのものが人生の中で最優先であって、それ以外の事は優先順位が下、というか興味関心そのものがないと言っていい。
かなり、人としてはダメ、というか終わってるのではないだろうか。
一応最初の方は他人に迷惑をかけないように、という心がけはあったものの、途中からそれすらも優先度が下がっていっているし。これは直向きというのではなく、取り憑かれているというべきなのだろう。両親からも勘当に近い扱いを受けているし。いや、子供としてマトモな接し方を家族ともしていなかったようだし。
このあまりにもレベル上げしか考えていない自分本位な生き方は、あまりに無分別であるが故に檜垣という激烈な敵対者を生み出してしまった事に代表されるように、逆に彼自身のレベル上げを阻害する邪魔を多く生むことになってしまう。
仮にも社会の中で生きるからには、あまりに自分本位すぎるとその行動を掣肘するような動きが自然と社会の中から発生してしまうのだろう。まあ、檜垣は檜垣で大いに問題あり。というか、彼女は彼女で気に入らない、我慢できないという理由だけで桜井の事を抹殺しにかかるという、ぶっちゃけ殺人犯以外の何者でもない行為をやらかしてしまっている危険人物なのだが。
桜井も檜垣も、自分たちが陥ってしまった陥穽についてお互い自分のレベル上げを邪魔する、或いは自分の人生の目標を踏みにじる相手を排除すべく殺し合って、実際死んでしまっても気付かないし治らないし、死後の世界で第二ラウンドはじめてしまうほどのアレだったわけで、そこでアイリスという冥府の管理者の1人に叱られ教え諭されるまで全く気付かなかったんだよなあ。
このアイリスのお説教が、なかなか突き刺さる内容だったんですよね。普通、お説教なんて上から目線で相手の立場なんか考慮していなくて、たとえ正しい事でも上っ面で滑って心に届かないものなんだけど、彼女のお説教というのはかなりグサグサくるもので、思わずそうだよなあ、とかなるほどと深くうなずいてしまうものであり、その上で相手の価値観に合わせて今までの自分の行為ややり方がどれだけ自分自身に不利益を与えていたのかを指摘してくれるもので、これはさすがの桜井も無視出来なかったんですよね。
それこそ、あなたのやり方生き方は敵を生みすぎてレベル上げのやり方として非効率的である、と言われたようなもんでしたしねえ。
檜垣の方への指摘もそうなんだけれど、二人へのアイリスの痛烈な非難と鋭い指摘と適切な改善方法というのは、それだけ作者がこの桜井と檜垣というキャラクターをちゃんと細かいところまで解体して掌握しきっていないとなかなか出てこない言葉だと思うんですよね。何となくとか勢いで書いてるだけじゃ出てこない分析でもあったのです。それこそ自分のキャラを掘り下げて掘り下げて、具体的に言語化できるまでに解釈しきるほどでないと。
そして、そこまで詳細に掌握しているからこそ、登場人物の在り方を次の段階に進める、それは成長でも変化でもいいのですけれど、そのキャラの根幹を変えないままに、もう一つ上積み出来るとも言えるんですね。
実際、桜井という人物はこれ以降もその価値観の最上位はレベル上げであることはゆるぎません。彼にとって大事なことはレベル上げ。それ以外は二の次なのですけれど、彼なりに反省して人との接し方を考えるようになります。
また、アイリスに叱られなかった桜井の行く先の一つとして、自分本位の塊のような人間として今回のボスキャラを対比として出してくることで、ああはなりたくないという形で桜井の在り方の方向性を修正していったように思えるんですね。
まあそれでも、それで人に好かれるようなキャラになったかというと、まだまだだと思うのですが。というか、こいつがヒロインに好かれる事があるんだろうか。檜垣とは和解出来たと言っても、親しむには程遠いというか未だにやっぱり嫌いという感情はこびりついているだろうし。アイリスはその世話好きの性格から、厄介な桜井と檜垣の面倒を見なければという気持ちを抱いているけれど、それを好意と呼べるのか。まあホントいい人なので知人友人としての好意は多分に持ってくれているのだろうけど。
いやほんと、問題児どころじゃないハズレた人物ばかりの中でアイリスは全くもって人間の出来た人だったなあ……いや、問題児は桜井と檜垣とラスボスだけでそれ以外の人は概ねちゃんとした人だったような気もするけど。メイン級の登場人物の大半がアレだったので、それだけアイリスのマトモさが目立つし清涼だし癒やしだった気がします。それ以上にしっかりした人でちゃんと悪い所を叱れる人で、叱ったあとで放置せずに熱心に世話焼いてくれるような人だったので。
アイリスがいれば、桜井たちも道を踏み外さないでしょうけれど、さりとてどうやったってマトモにはならない人間なだけに、さて次回以降があるとしてどういう道を歩んでいくのか。