【異世界城主、奮闘中! ~ガチャ姫率いて、目指すは最強の軍勢~】 ありんす/かかげ  ファミ通文庫

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「今日から君、王だから。頑張って最強の軍を作ってね」
ある日ゲーム世界に飛ばされた俺は、自称“神”からそう告げられた。しかし、そんな俺を助けるべくガチャで召喚されたのは、低レアリティにコンプレックスを持つ女戦士オリオン。その後も弱キャラばかりの中、遂に引き当てたのはSSR神官!だが彼女は魔物と戦ったことがなく、初戦闘でお漏らしする始末。果たして俺は、群雄割拠の世界で生き残れるのか!?残念美少女達との城主生活、始まります。

意外と、と言うと大変失礼になってしまうのだけれど、意外と面白かったのでした。
ガチャで召喚した戦士たちを運用して城主として同じ領主たちと領地を奪い合え、というこう言っちゃなんだが安っぽい設定の世界観。なにしろ、あらすじからしてゲーム世界なんて明言されちゃってますしね。神様とやらのやる気の問題なのかセンスの問題なのか、バックグラウンドもあまりちゃんと用意されてないっぽい場所でさながらゲームのプレイヤーみたく領地の争奪戦なんかやる羽目になるのですから、実のところ主人公はもっと軽いノリ、それこそゲームをやるように城主生活をやってるんだと思ってたわけです。最初の召喚ガチャ相手であるアリアンとの二人きり(ヒロイン以外のノーマルクラスキャラは何人かいるけれど)の貧乏城主生活もそれなりに気楽に楽しそうにやってましたし、同じ日本出身の同輩である隣国の城主やってるやつはそのままゲームで遊んでいるかのように城主生活を満喫していましたしね。
結構主人公の彼が置かれている状況というのは厳しいもので、しみったれた領地を維持するのが精一杯。城主と言っても、自分で剣をとってアリアンと一緒に冒険者仕事をこなして日銭を稼いでるようなもの。アリアンは懐いているけれどレア度は非常に低く、ようやく来たSSRの神官さまも実際戦わせてみたらポンコツの極み、と愚痴ならいくらでもこぼせそうな環境でひーこらやっているわけですけれど。
この主人公の勇咲くん、思い返してみるとどれだけ大変な思いをしてもめげてもため息をついてしまうようなことになっても、その時のネガティブな感情を決してヒロインたちにぶつけるどころかあまり見せるような真似もしなかったんですよね。なので、決して軽いというわけじゃないのだけれど気楽で前向きにやれる子なんだな。あんまり抱え込まない子なんだな、という風にも最初は思っていたのですけれど……。
いや、そういう素振りをほとんど見せなかったからこそ、別の城主のユニットであるエーリカから見た、勇咲がこの世界に召喚されてから間もない、アリアンを引き当てて一緒に城主として動き始めた当初の……まだ現代日本の感覚でいたままの頃の彼のエピソードがビシッと効果を発揮したのかもしれません。
そこで、勇咲が決してこの世界で生きることを遊び感覚でもゲーム感覚でもやっていない。ここで本気でやっていくという意志と覚悟をもって、泣きじゃくりながら頑張り始めたその姿を見せられると、あのお気楽そうな態度の内側でどれだけの感情が渦巻いていたのか、そしてそれを飲み込んで飲み下して、無理をして笑っているのではなく本心からアリアンたちに笑ってみせていられる逞しさを得るのにどれだけ頑張ってきたのかが想像できてしまって、ものすごく好感があがってしまうんですよね。
アリアンたちヒロイン衆が彼を慕うのもよくわかるんですよ。傍目から見ても、すごく大事に大事に自分たちが扱われているの、女性陣は実感しているでしょうし。いや、女性陣だけじゃなくて他の配下の連中も彼が自分たちと同じ目線で同じ気持ちで同じ立場に立って一緒に頑張っている、というのが伝わっているでしょうから、弱小ではあっても団結力は並外れているのではないでしょうか。
アリアンが自分のレアリティの低さに悩むのは自分の価値について思い悩むというよりも勇咲のためにどれだけ貢献できるのか、というところに重点があるようですし。この娘、本来ならもっと気難しい扱いづらいタイプなんだと思いますよ。脳筋だからこそ、時として自分を含めていろんな物事に対して考えても無駄なレベルで考え込んでしまうような、野生動物じみた相手に踏み込ませない領域を持っていそうな。そういうのをすっ飛ばして懐かれているあたりに、勇咲の彼女に対する当初からの接し方の質をみることが出来るような気がします。
こんな風に登場人物が本気で生きているとなると、ゲーム世界という陳腐になりかねない世界観はあまり関係なくなってくるんですよね。キャラの生き方在り方が背景のディティールをおのずと鮮明にしていくものだったりするわけで、これだけキャラが生き生きしていたらやはり自然と面白いと思えてくるものなんですねえ。
キャラも出揃い、隅っこでせせこましく生きている貧乏弱小領主からどうにか脱却できそう、という段階で終わったので、飛躍編となっていくだろう次巻以降、なかなか楽しみになってきました。