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白鳥士郎

りゅうおうのおしごと! 13 ★★★★   



【りゅうおうのおしごと! 13】 白鳥士郎/しらび GA文庫

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五人の少女が集う最後の一日。約束の13巻!

三段リーグ最終日の翌日。
『史上初・女性プロ棋士誕生!』の報に日本全土が沸き立つ中、雛鶴あいは関西国際空港を訪れていた。
親友の水越澪が海外へ旅立つのを見送るために……沈みがちになる気持ちを隠して明るく振る舞うあい。
意外な人物との再会をきっかけに、事態は思わぬ方向へと動き出す。

「最後に一つだけお願いがあるんだ」

同じ頃、あいの師匠である八一は東京の病院にいた。満身創痍で眠り続けている銀子の傍らに……。
あい、澪、綾乃、シャル、そして天衣。五人の少女が集う最後の一日を描いた、約束の13巻!!
飛び方を覚えた雛鳥は今、大空へと羽ばたく――
水越澪、この娘まだ小学生なのだけれど、既に一廉の人物よなあ。
ドラマCDなどの特典を小説に書き下ろした短編集であり、JS研の少女たちの別れを描いた13巻。
短編のほうがもう酷くて、なにがって師匠のロリコンがガチすぎて、この竜王ガチでロリコンなんじゃないのか!? と、疑いたくなるのですけれど、よくよく見るとどちらかというとシャルちゃん限定なんですよね。特別扱いはシャルちゃんのみ! つまり、こいつロリを通り越してペドなんじゃないかと。本来なら年齢的にロリ歓迎、のはずのあいちゃんまで真性であるのを垣間見せてしまう師匠に、かなり必死になって矯正を促しにかかってますし。

まあそれはさておき、本編はJS研の仲間でありムードメーカーであり皆をつなぐ鎹でもあった水越澪が、親の仕事の都合で海外に移住する事になり、その見送りにJS研のみんなが空港まで小学生だけで訪れる、というお話。保護者となる面々はちょうど皆、銀子のプロ昇段と八一の帝位戦のために上京することになり、同世代だけで別れを、という塩梅になってたんですね。ある意味、大人の介入を許さずに子供たちだけで彼女らの世界だけで、本心からぶつかりあえる最後の機会だった、という事なのでしょう。
折しも、あいは銀子がプロになるという決定的な差を見せつけられると同時に、どうやら八一と師匠が付き合い始めたことも察していて、落ち込んでいる最中でした。そこにトドメと言っていい親友であった澪との別れが重なって、かなり凹んでたんですよね。
この娘たちはまだ小学生なのですけれど、彼女らの将棋に対するスタンスはもう遊びじゃなくなってる、というのは10巻での彼女らが主役となる話で見せてくれていました。
でも、それからここまで銀子の奨励会での話を中心に描くことで、将棋に生きる棋士たちは真剣とか本気を通り越して、もう魂まで将棋で染め上げられるような人生そのものを将棋で埋め尽くすような、存在自体が将棋のためにあるような、そんな壮絶すぎる生き様を見せつけてくれていました。
果たして、彼女たちはどうなのでしょう。まだ子供だから、小学生だから、というのは将棋に関しては言い訳にならないんですね。将棋という生き方は、既にもう小学生の頃には自分自身で刻み込まなければならない。それをすぎれば、遅いくらい。あいですら、デビューは遅かったと言えるくらいなのですから。
また奨励会では椚 創多が既に小学生でありながら、壮絶な闘争をくぐり抜けて恩人とも尊敬する人とも兄とも慕う人の首を泣いて切り落とすような、棋士としての生き方を体現している。
遅いなんて事はもうないのです。
彼女たちの中で、唯一天ちゃんだけは、最初から既に魂は棋士として完成していました。彼女はもう既に棋士として生きていて、死ぬまで棋士として在り続けるでしょう。
そんな彼女が何気に一番認めていたのが、澪だったんですね。もし、澪以外のJS研の他の誰が旅立とうとしていても、果たして天ちゃんは見送りにきたでしょうか。いや、この娘なんだかんだと優しいから見送りくらいは来るかも知れませんけれど、なんだろうあんな風に相手を対等に認めて、選別を送るような関係になれていたのは、澪だけだったような気がします。
ってか、天ちゃんが小学生の段階で既にイイ女すぎて、この娘相手だとロリコン扱いにはならないんじゃないでしょうか。精神年齢が大人すぎるし、中身がイケ女すぎる。なんなんだこの生き方あり方から尋常じゃなくカッコいい小学生女子は。正直、銀子の抜けた後の女流棋士の界隈を、天ちゃんが席巻を通り越して蹂躙していくの、目に浮かぶようなのですけど。

あとで澪が見せた、将棋に対するスタンスは、本物でした。将棋に生きる、呼吸が出来なければ死ぬように将棋を息を吸い息を吐くように指し続ける。そんなそれ以外のすべてを投げ打つような、将棋へののめり込みをこの娘は見せてくれたんですね。
もうこの娘は、本物の棋士だったのです。たとえ海外に行ったとしても、彼女は何らかの形で女流棋士として戻ってくる、それを感じさせる本物の本気でした。
いや、作中での表現を借りるならば「強烈な努力!」というものでしょうか。

シャルはまだ幼く、綾乃は周囲と比べての自身の才能への疑問を抱き、そしてあいは将棋と出会った時間の短さ、経験の浅さから、まだ「うつつを抜かす」状態だったと言えるでしょう。
あいに関しては、ずっともどかしくもあったんですね。この娘の才能はとびっきりで、完全に人類とは違う将棋星人の構造をしていて、しかしその魂は将棋に染まっていなかった。
これまでも、将棋に対して本気になろう、と思うだけの痺れるような体験を、燃えるような熱量を、死にたくなるような悔しさを、感じてきた経験してきたのは確かです。そのたびに、この娘は将棋に対して深く深く向き合い出していたと思います。真剣だったでしょう、本気だったでしょう。
でも、まだ将棋に魂を侵され切ってはいなかった。才能とは裏腹に、その心根は線引されたコチラ側。まともな「人」の領域の側に立っていた。
そんな彼女に対する澪の見せたくれた生き様は、あいに語りかけてきた別れの一局は、言葉に尽くせないほど沢山の、想いを届けてくれたのでした。これほど強烈な叱咤激励を、他に自分は知りません。小学生の女の子が、同じ小学生の女の子に送る激励としては、あまりにも強烈でした。人生のターニングポイントとすら言えるほどの重さ。生涯の生き方を決定づけるほどの、強い強い意志の付与。
凄いなあ、人間年齢なんて関係ないですよ。心からの叫びは、こんなにも深く強く響くのか。
友情の真髄とは、まさに斯くの如し。

少女たちの、旅立ちの時である。これは彼女たちが一人の棋士として立つ日であり、師匠の庇護からも飛び出す巣立ちの日ともなるのでしょう。


さて今回は感想戦はなく、銀子が眠る病室での一幕である。
とりあえず、お燎と万智さんのナースコスプレは何だかんだとエロすぎやしませんかね?
ただ二人の騒がしさは、あれはあれで清涼剤なんですよね。ライバルとして友人として、この二人は得難い人なんだよなあ。でも、プロになるともう銀子は対戦出来ないのか。
……将棋に関しては、もう八一の存在感ってあの「名人」に勝るとも劣らないようになってるんだなあ。身近な親しい人ですら、将棋に関わるものなら感じざるを得ない「威」。風格が、もうこの青年には備わっている。
それはそれとして、弟として妹として八一と銀子は桂香さんには一生頭あがらんのでしょうね、これ。



りゅうおうのおしごと! 12 ★★★★★   



【りゅうおうのおしごと! 12】 白鳥 士郎/しらび GA文庫

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奨励会三段リーグ。
四段(プロ)になれる者は2人だけという苛酷な戦場。そこに史上初めて女性として参戦した銀子は、八一と交わした約束を胸に封じ、孤独な戦いを続けていた。八一もまた、新たなタイトルを目指し最強の敵と対峙する。
そんな2人を複雑な思いで見守るあいと、動き出す天衣。そして立ちはだかる奨励会員(なかま)たち。
「プロになるなんて、そんな約束をすることはできない。けど――」
大切な人の夢を踏み砕くことでしか夢を叶えられない。それが将棋の世界で生きるということ。
銀子が、創多が、鏡洲が……純粋なる者たちの熱き死闘に幕が下りる
奨励会編堂々のフィナーレ!

すげえモノを読んだ。
よく身寄りのない子供たちを集めてきて暗殺者とか工作員を養成する学校とか隠れ里みたいなの、あるじゃないですか。ああいうのって、厳しい訓練にどんどん櫛の歯が欠けたように同じ境遇の子たちが消えていき、最終的に残った優秀な子供たちが卒業試験で試験官からこう告げられるのですよ。
「今、目の前にいる相手と殺し合え。生き残ったほうが合格だ」
そうして、生き残るために共に手を携えて育ってきた兄弟にも等しい大切な相手を、自らの手で殺すのです。最も大切で掛け替えのない相手を自分の手で殺すことで、彼らの育成は完成する。

この奨励会というシステムは、まさにこれなのである。これなのだ。まさに、これそのままなのだ!
ガチの殺し合いである。
一緒に育ってきた家族も同然の仲間たち、先輩後輩であり兄弟であり親友であり恩人ある人達と、総当たりで殺し尽くしていく。自らの手で葬り去っていく。引導を渡す。その将棋人生を終わらせていく。
殺し合いなのだ。殺戮なのだ。作中、ぶち殺す、という台詞が少なからず飛び交う。それは本当に比喩ではない、本気の言葉だ。本心からの叫びだ。己の手で大切な人を殺さなくてはいけない事への、悲鳴そのものなのだ。
これが現代の日本で行われているという事実に、今更ながら戦慄させられる。これほどの修羅の戦場が、現実に存在しているのだ。実在しているのだ。これは、小説であってもノンフィクションではない厳然とした真実なのである。死闘という言葉はなんらの比喩ではない、本物なのだ。
彼らは、本当に命を賭けている。人生そのものを賭けて捧げて費やして、喪っていくのだ。いって、いるのだ。
そんな光景を、情景を、この物語はあますことなく描き出している。
「命懸け」という言葉の本物を、この巻を読んだときに思い知るだろう。思い知らされるだろう。その恐ろしさを、重さを、激しさを、鮮烈さを、知るだろう。
人は、ここまで一つの物事に本気になれるのだ。それは感動であり、恐怖である。
人間は、ここまで化け物になれるのだ。能力ではなく、その在り方をもって怪物に成り果てられるのだ。
そうして、怪物は完成する。将棋の棋士とはそんな完成した人外の怪物の巣窟なのだ、と棋士の登竜門である奨励会三段リーグの凄まじさを前にして改めて魂に打ち込まれる。
そんな化け物共の、さらに上澄み。その頂点に彼は居る。
「人間じゃねえ」
その慨嘆は、これももう比喩に見えない。本当に、人間じゃないんじゃないのか、この主人公は。
恐るべき事に。実に恐るべき事に現実の将棋界はこれよりすらも魔界であるという。マジで人間なのか、棋士たちって?

前巻においてついについに想い結実し、通じ合った銀子と八一。その結果として描かれたのが今回の表紙絵なのでしょう。もう、見ただけで悶絶させられる素敵で素晴らしい二人の手を繋ぐ姿でした。
でも、覚醒した銀子がそのまま一気に頂点に駆け上る、なんて展開が待っているはずなかったのです。壁を突破しようやく将棋星人たちの見ている景色を理解できるようになった銀子は、でもようやくそこに至って棋士への挑戦権を得たようなものだったのです。棋力が激増して、ようやく舞台に立てたようなものだったのです。才能がないと唄われるのは、何も変わっていなかった。
ここからが、彼女にとっての本当の死闘、本物の死闘。命懸けの戦いのはじまりに過ぎなかったのです。
正直、本気で今回銀子、死ぬんじゃないかと不安にかられ続けました。銀子の残す言葉全部、遺言に見えて仕方なかった。実際、間違っていないんじゃないかと今でも疑っている。
この娘は、このあとも生きていけるんだろうか。生きて、幸せに成りえる娘なんだろうか。本質的に将棋を持ってしか繋がりあえない、だからこそ誰よりも深く深く余人が入り込めないほど混じりいるほどに寄り添い重なり合った八一との関係も、その将棋を以て焼き尽くされてしまうのではないか、と思えてならない。白雪姫と竜の魔王の寓話は、この上なくありのままを現しているように見えて仕方ない。でも、白雪姫は絶対に離れることはないだろう。竜の爪が彼女を引き裂き、その炎が身を焼こうとも彼女は離れないだろう。そうして、炎の中で燃え尽きていく光景が浮かんでやまない。それが、相応しいとすら思えてならない。
前巻で、あんなに素敵なハッピーエンドが見えた気がしたのに、銀子は超えられない壁を超えたのに。絶対に不可能だった世界へと、飛び込んでみせたのに。ああ、何もかもが遠すぎる。九頭竜八一はあまりにも、強大すぎる。
これ、本当にどうするんだろう。どこが着地点なのか、どうすればどうなればハッピーエンドなのか方向性すらわからなくなってしまった。
銀子が、八一に勝つしかないのか?

今回の奨励会編は、本当に誰が勝ち抜けるのかわからなかっただけに、最後の最後まで拳を握ったまま力が抜けない展開でした。感情移入してしまう、という意味では銀子だけじゃなく、ようやくその内面を垣間見せてくれた創多や、年齢制限によってこれが本当に最後の挑戦となる鏡洲さん、ヒールに徹しながらなぜ一度離れた奨励会を、アマの立場から這い上がってもう一度挑もうとしたのかが明らかになった辛香さん。誰も彼もが苦しみもがき、血反吐を吐くように戦う姿に心奪われ、感情移入しまくりました。
坂梨さんのくだりで決壊。泣いたよ。
これは本物の殺し合いでした。同じ棋士を目指して切磋琢磨した奨励会員同士、ライバルであり仲間であり、家族であった人たちとの殺し合いは、だからこそ殺し愛でもありました。これほど愛情を、親愛を、尊敬を込めて殺し合う戦いがあるのだろうか。相手の息の根を止める一指しに、血の涙を流しそうなほど苦しみもがく。生きて苦しみ死んで苦しみ、殺して苦しみ殺されて苦しむ。そうして苦しみあいながら、この最終局面に残った四人の間にあったのは、確かに大切な人への温かい想いであったのです。
だからこそ、辛すぎる。喜びと悲しみを、これほど一緒に味わう局面がこの現代にどれほどあるんだろう。
凄まじすぎる。

天ちゃん、君はこんなこの世の地獄みたいな場所を這い上がった、八一と指すためだけに這い上がった白雪姫と戦わなきゃいけないんだぜ。個人的には、あいよりもずっとこの子を応援している。この娘の心映えは誇り高く、果敢でカッコよく、女の子として健気で勇ましいその在り方が本当に好きだ。この娘はきっと、この作品に出ている女性の中で誰よりもイイ女になるだろう。間違いない。
あの奇襲は天晴極まる痛快なクリティカルだった。
それでもなお、あの血塗れで傷だらけのボロくずみたいな白雪姫の姿はあまりにも鮮烈で。
八一は魔王に例えられていたけれど、あらゆる本作のヒロインにとって銀子こそ魔王のように聳え立つ存在なのではないだろうか。まったく、勝てるヴィジョンが想像できない。本当にかろうじて、天ちゃんなんだよなあ。

鏡洲さんと創多のくだりでまた泣く。受け継がれる想いと夢、そして年相応の創多の満面の笑み。天才少年の、将棋を選んで良かった、という言葉。
戦いの後、殺し合いの後、そこに悔いはなく憂いはなく、先へと向かう者と見送る者の間に結ばれ託された思いの尊さに、ああ胸が熱い。この熱さが、たまらなく愛おしい。



りゅうおうのおしごと! 11 ★★★★★  



【りゅうおうのおしごと! 11】 白鳥士郎/ しらび  GA文庫

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「私を殺して…」
奨励会三段リーグで三連敗を喫し心が折れた銀子は、八一に懇願する。
「俺が連れて行ってあげますよ。絶対に死ねる場所へ」
こうして二人は将棋から逃げた。それは同時に、なぜ将棋を指すのか問い直す旅でもあり―なぜ、八一は銀子を『姉弟子』と呼ぶようになったのか?なぜ、銀子は女流タイトルを求めたのか?八一と銀子の出会いと修業時代の日々、そして“浪速の白雪姫”に隠された最大の秘密が遂に明かされる告白の第11巻!将棋の神が定めし残酷な運命は、誰に微笑むのか?

八一と銀子が二人で映っている表紙絵は、そうかこれがはじめてなのか。満を持して描かれた二人は、幼い二人。原点であるこの光景は多くを物語っている。
思えば、八一と銀子の二人には手を繋いでいる場面が不思議なほど多かった。ただひととき繋ぐだけのものではなく、ずっと離さずそれこそ新幹線で移動している間中ずっと、というものまで繋いだままというケースが見受けられた。それを自分は二人の関係の甘酸っぱいものだと捉えていたのだけれど、二人の手を繋ぐ、繋いで離さないという行為にはそれだけで収まらない、本当に深い深い理由があり意味があり、想いがあり、寄す処であった事がこの物語によって語られる。
銀子と八一の出会いの物語であり、二人が将棋の沼へと真に足を踏み入れ抜け出せなくなる物語であり、一緒に二人で堕ちることこそが絆であったと知る物語だ。
そうして、いつしか放してしまった手を、お互いにもう一度繋ぐために足掻いて足掻いて血反吐を吐きながらのたうち回り続けたのが、この【りゅうおうのおしごと!】という物語だったのだろう。究極的に、二人が求めていたのはただ、放してしまった手をもう一度つなぎたい、とそんな願いだったのだ。そのために、将棋に強くならなくてはならない。誰にも負けないくらいに強くならなくてはならない。先へ先へと行ってしまう八一/銀子を追いかけて、いつか隣に立てるくらいに追いつくまでに。滑稽だろう、お互いに相手こそが先に進んでしまっていると、自分が必死に死にものぐるいになって勝ち続けないと辿り着けない所に行ってしまった、と思い込んで走り続けていたのだから。

銀子が走り続けていた道は、凄まじい過酷さが渦巻いていたことを八一は知らない。八一が知り得ない所で、この子は本当に死にものぐるいで生死の狭間を歩いていたのだ。桂香さんが、銀子に特に目をかけ慈しんでいるのも、理由なきものではなく二人の間にもそうなるまでの過程があり、歴史があったのだろう。ほんと、桂香さんは愛情深すぎて確かに棋士には向いていないんだろうなあ。それでも、向いていなくても才能がなくても、女流棋士になれるだけ頑張れたことこそが桂香さんの凄さなんだろうけど。

そもそも、銀子が清滝 鋼介の元に弟子入りした経緯からして、様々な人の銀子への愛情が介在してるんですよね。将棋界のアイドルに祭り上げられ、否応なく孤高の只中に放り込まれた彼女、孤独感に苛まれながら必死で一人で八一の後を追いかけ続けていた彼女だけれど、今将棋を指せている、ただそのことが彼女が多くの人たちに支えられ、愛され、導かれている証明だったことを、銀子は八一に連れられようやく八一とすれ違っていた想いが合わさったとき、気付かされることになるのです。
どれだけ多くの人たちが彼女のことを見守っていてくれたのか。将棋の神様である名人の一言が、銀子の軌跡をずっと追ってくれていた名人の言葉が、釈迦堂里奈の教えが、生石先生の導きが、桂香さんの慈しみが、清滝師匠の愛情が、明石先生の庇護が、鏡州先輩の叱咤が、空銀子に届いた時、この娘に火を灯す、この娘を空へと羽ばたかせる。
ずっと振り返ってくれずに置いていってしまったと思っていた八一が、ずっとずっと自分を見ていてくれたと理解したとき、彼女は星に手が届く。空の輝きに、手が届く。

空銀子、覚醒のときである。

……もうさ、二桁巻数になるまでずっとずっと、銀子ちゃん苦しみ続けてましたやん。どんだけ追い詰めるんだ、というくらい追い詰めて追い詰めて崖から蹴落として、這い上がってきたらゲシゲシ踏み詰めて、グリグリ踵と爪先で踏みにじって、そこまでするかってくらいに地獄を味わわせて、もうやめて銀子のHPはとっくに0よ! という有様だったのが、ついに前巻のラストでしらびさん渾身の銀子でトドメさしたところまで辿り着いちゃって。
誰よりも心弱かったこの娘。いつ折れるか、いつ粉々に砕けてしまうか気が気でなかったこの娘。でも、この娘こそ折れない心の持ち主だった。明石先生の言う通りだ、空銀子こそ九頭竜八一という未曾有の才能を一番そばで目の当たりにしつづけ、一番たくさん対局し一番たくさん負け続け思い知り続けながら、ずっと諦めずにそれを追いかけて居続けられた根性の持ち主だったのだから。
長かった、長かったよ。銀子、よかった、良かったよぉ。最初からずっと銀子党だった身としては、感無量を通り越してちと放心すらしております。
ラブラブパワー注入! くははは。

こう言っちゃなんだけど、八一はあまりにも一途であってあいちゃんじゃまだ勝負にもなってなかったんだなあ、と思ってしまう。その点天衣の方がヤバい、という誰かさんの台詞には納得なんですけどね。この娘の恋は、魂からの本気の恋なんですよね。なんだろう、将棋でも恋でも銀子と本当の意味で噛合そうなのって天衣の方に見えるんだよなあ。
そういう意味では、八一のお母さんの銀子にあてたあの言葉は息子を持つ母として至言ではないでしょうか。

しかし、こうしてみると八一と銀子の仲が拗れるというかややこしくなる楔となる部分に尽く絡んでる供御飯万智さんが本当にヤバいんですけど! 

シリーズ感想

りゅうおうのおしごと! 10 ★★★★   



【りゅうおうのおしごと! 10】 白鳥 士郎/しらび  GA文庫

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竜王、遂に小学校の教壇に立つ!「澪たち、くじゅるー先生に鍛えてもらいたいんです!」小学生の将棋大会『なにわ王将戦』で優勝を目指すJS研。しかしあいの新しい担任にJSとの同居を問題視された八一は、自らの潔白を証明するため小学校で将棋の授業を受け持つことに。一方、女流名跡リーグ進出を目指すあいの前には謎の女流棋士が立ちはだかり、そして銀子は地獄の三段リーグで孤独な戦いを始めようとしていた―。それぞれの戦場で繰り広げられる魂の激突。決意と別離の第10巻!小さな背中に翼が生えたとき、天使は自らの力で羽摶き始める!!

9巻で九頭竜八一の将棋の師匠としてのスタンスは、あいと天衣とでは全く異なっている、という趣旨のことを感想で書いた。それについては、間違っていないと思うんだけれど根本的な所で思い違いをしていたかもしれない。
天衣に対してはすでに棋士としてその魂の在り方まで完成している彼女を、その形を崩さないようにそのまま羽ばたいていけるように、大切に大切に扱っている。その成り立ちと根底に八一の将棋が存在する天衣は、いわば魂の共有者だ。
対して、あいは全く異なっている。彼女こそ、まだ何者でもない真っ白な無垢。棋士にもなっていない無形の粘土。それでいて、異形の才能が詰め込まれた可能性の爆弾、眠れる太陽。
正直、竜王であり棋士たる九頭竜八一のあの普段の真剣勝負の時のゾッとするような人外じみた恐ろしさよりも……今回垣間見せた師匠としての八一の方が、数段肌が粟立つような恐ろしさを感じたのだ。
この男は、いったい何を創り出そうとしているんだ?
禁忌に自らのめり込んでいくような、狂科学者じみた非人間的な探究心。それを、自らではなく一人の弟子を用いて顕現させようとしている。
その先に、地獄があると知りながらも。釈迦堂さんが、神鍋馬莉愛をその地獄へ導くことを当たり前のように躊躇いを覚えているのを横目に見ながら。
多くの棋士たちを、その贄として焚べ滅ぼしていくのだと理解しながらも。
この男は、なにを創り出そうとしているんだ?

桂香さんは多分棋士とだけは結婚しないだろうな。八一を間近で見ていて、家族として愛せてもその価値観だけは絶対に共有できないだろうということは、身にしみてわかっているだろうし。

今回の主役はJS研の小学生たち。彼女たちの最初は遊びの延長の感覚だった将棋へのスタンスは、いつしか真剣で本気のものへと移り変わっていたけれど、本当の棋士たちの世界はただの本気だけではその色も熱も実際には感じ取れないだろう別世界。
そこには、命と人生を賭すだけの、自身の破滅を受け入れないといけない世界。魂からその存在を将棋そのものへと作り変えていかないと、呼吸する事もままならない世界だ。
この10巻だけでも、何人もの棋士たちが絶息し、のたうち回って死に絶えていく。そんな世界に、しかしこの娘たちもまたついに、自ら足を踏み入れていくのだ。
発狂しそうな暴れくるう感情を胸に宿し、悔しい悔しいと髪を振り乱して地団駄を踏みながら。そうして、死にものぐるいで勝利を掴み取っていく。相手の心臓をえぐり出して齧り付くように、奪い取っていく。そんな戦いの渦中へと、飛び込んでいく。
小学生だろうがなんだろうが年齢なんて関係ない。その身も心も棋士に書き換え、将棋へと塗りつぶして、自ら勇んで地獄へと飛び込んでいくのだ。そこに一人ではない、戦友たちがいるとわかっているから。

これほど凄まじい世界を描きながら、しかし孤独では何もなせない、人の繋がり想いの結びつきこそが大切だと描いてみせる、この作品の凄まじさよ。
だからこそ、徹底して自分を追い込み孤独へと突き進む姉弟子銀子の集大成が、ラストシーンに繋がることになるのか。
……あれ、岳滅鬼翼さんの奨励会からの脱落と女流への転身。おなじ世界で生き、おなじように将棋の世界から追い出されるはずだった兄弟子との決別。彼女のこの巻における物語って、彼女が銀子以上の才能の持ち主だった、と語られるのと相まって、あれってもう一つの八一と銀子のアリ得た姿、でもあるんですよね。銀子が一瞬思い浮かべた、八一が奨励会を突破できずにいて自分と一緒にここにいる風景。
岳滅鬼山は、一度死に、死んだまま死にきれずに這いずり回り、そうした先にもう一度繋がりを取り戻せた。多分、彼女は幸せになれる。誰もが思い浮かべる幸せを、手に入れることが出来るはず。
でも、銀子の隣にはもう八一はおらず、将棋星人は地上を飛び越えて手の届かない大気圏の向こう側で、人外魔境の只中をさらに飛んで飛んで遥か彼方へと飛び去ろうとしている。
銀子は、奨励会三段リーグという将棋界における最も深く残酷で救いのない地獄の中で戦わなければならない。勝ち取らねば、生きていけない世界で彼女の手の中にはもうなにもない。
本当に、何もなくなってしまったのだろう。
ラストシーン、銀子が八一に自分の弱さを見せたのは初めてだったはず。どれほど傷つき弱って息も絶え絶えになってボロボロになっていても、八一の前に出れば完璧に繕っていたのに、装えていたのに。
それすらもついに出来なくなった姿に、佳境を見る。
ああ、次こそがなるほど、クライマックスだ。

シリーズ感想

りゅうおうのおしごと!9 ★★★★☆  


りゅうおうのおしごと! 9 (GA文庫)

【りゅうおうのおしごと!9】 白鳥士郎/しらび GA文庫

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Kindle B☆W


夜叉神天衣。
わずか十歳にしてタイトル挑戦を決めたシンデレラは、両親の墓の前で誓いを立てていた。
「お父さま、お母さま。必ず女王のタイトルを手に入れます……私たちの夢を」
しかし彼女の前に立ちはだかるのは、史上最強の女性棋士にして師匠の姉弟子――空銀子。
二人が争うのは女王のタイトルだけなのか、それとも……?
《浪速の白雪姫》と《神戸のシンデレラ》が遂に激突!
アニメ化も果たしますます過熱する盤上のお伽話、家族の絆と感動の第9巻!
シンデレラの頬を伝う一筋の涙を、若き竜王の飛車が拭い去る――!!


白雪姫と、シンデレラか……。
今回は章タイトルを童話や昔話で統一されていたのですが、童話は童話でも「本当は恐ろしいグリム童話」みたいなものかもしれない。
『神戸のシンデレラ』と呼ばれる少女夜叉神天衣はわずか十歳である。十歳にして、孤高の道をひた走っている。その壮烈な生き様に対して、師匠である八一は思いの外何も口出ししてこない。
あいに対してはべったりと手取り足取り世話を焼いているのに対して、天衣に対してはむしろ何も言わず見守るスタンスを取り続けている。
あいと違って天衣には殆ど将棋の戦法などは教えなかったし、棋士としての在り方なども今更何を教えるか、というように示すことはない。その意味では、あいに対するものと天衣に対するものでは八一の師匠としてのスタンスは大いに異なっている、と言っていいんじゃないだろうか。
少なくとも、八一は天衣のことを既に一廉の棋士として認めている。
その上で。
八一はこの孤高の少女が心置きなくその翼を羽ばたかせて空へと飛び立てるように、師匠として力を尽くしている。それが象徴されるのが、以前天衣に彼女の亡き父の残した字を記した駒を送った出来事であり、そして今回の捌きのマエストロとの対局で示した記譜である。

彼女の魂は、将棋の形をしている。
将棋に心を奪われた少年少女は、その魂の形を将棋へと作り変えていくという。九頭竜八一は、その存在が将棋そのものだ。夜叉神天衣もまた、物心ついたときより将棋を指すために在ってきた。
そんな将棋の形をした師弟だからこそ、余分なものの入り込むもののない純粋なまでの、将棋を通して伝わるものがある。伝えられるものがある。肉も言葉も介さずに、ダイレクトに魂同士で繋がり合うことができる。
今、これほど純粋にして無垢なる師弟が他に存在するだろうか。
物心ついた時から、自分の魂を将棋の形へと作り変えていくときに注ぎ込み続けた触媒たる記譜。それはもう、彼女にとっての根幹であり、根源であり、魂の中に混ざり込み根付いた不可分の輝きである。
そこに、九頭竜八一の将棋が在る。
もはや、夜叉神天衣にとって師・九頭竜八一は魂と共にある存在なのだ。
それを、夜叉神天衣は空銀子とのタイトル戦を通じて、理解することになる。
少女は恋を知る。

そして片割れには、将棋の形にならない自らの魂を前に鬼気迫る姿でのたうち回る少女がいる。
はたから見れば、空銀子こそが将棋の形をした魔物だろう。身も心もすべてが将棋に染まった悪鬼羅刹に見えるだろう。
でも違うのだ。6巻での彼女の物語を見たものは、誰でも知っている。彼女の魂は将棋の形をしていないし、彼女は将棋の星にたどり着けずにさまよい歩く腐乱したゾンビだ。
この対局、空銀子は天衣に三連勝し、その内容も灰色の瑕疵をつけられたとはいえ、最終局もまた圧勝に近い内容であった。
しかし、果たして銀子は対局に勝利はしても、勝負には勝ったのか。
千日手への逃げを敢然と拒否してみせた天衣に、銀子はいったい何を見たのか。
奨励会の地獄に歴然とした差を突きつけられ、今また姪弟子に愛しい人との将棋を通じた魂のつながりを見せつけられ……。
自分で買ったマンションに連れ込んだ八一には、結局何一つ伝わらなかったのに。
この生意気なシンデレラはあの王子さまと同じ世界の、同じ星の、同じ領域で交感しあえる存在なのだと証明し、将棋で死ぬまで戦う勇気を、死んでなお戦い続ける勇気を証明してみせた。
それは同時に、銀子に己がどれほど足掻こうと、将棋の星のお姫様にはなれないメッキの人形だという事実を、突きつけられる対局ではなかったか。
偽物の自分は、王子様と心も言葉も通じ合えない、繋がれない。その恋は、どこにもたどり着けない。
空銀子は、おそらく作中の登場人物の中でも一際、心が弱い少女である。メンタルは豆腐並みのグズグズで、触れれば崩れる砂山のように脆い。いつだって、逃げ出したい気持ちを抱えている。だから、油断すればこう考えているはずだ。
将棋なんかささなくても、八一との恋は叶うんじゃないかって。
そうした気持ちが時折、銀子を八一との逢瀬に走らせる。彼女が垣間見せる、将棋じゃなく自分を見て、姉弟子じゃない銀子を抱いて、というサインはその証左であろう。
でも、そのサインをいつも無視して、彼女の逃げを丁寧に叩き潰しすり潰し掃いて捨てているのは、いつだって九頭竜八一なのだ。常にこの男が、空銀子を逃げることの出来ない先へと追い込んでいく。言葉では何も伝わらない、態度では何も気づいてくれない、体で示しても結局なんにも見えていない。
だったら、将棋で伝えるしかないじゃないか。自分の魂を将棋に作り変えて、人間でしか無い自分を人間では生きていけない居るだけで死んでしまう将棋の星にたどり着かすしかないじゃないか。
そうしなければ、この声は聞こえない。自分の本当の姿を見てもらえない。
この恋は、叶わない。

あの冒頭の壮絶なモノローグは、天衣のものだと思っていた。
しかしてこの9巻は、夜叉神天衣の初恋の物語であった。
そして同時にこの9巻は空銀子の…………。



シリーズ感想

りゅうおうのおしごと! 8 ★★★★  

りゅうおうのおしごと! 8 (GA文庫)

【りゅうおうのおしごと! 8】白鳥士郎/しらび GA文庫

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山城桜花戦開幕! 秘手繚乱の第8巻! !

「そうだ。京都へ行こう」
順位戦が終わり、プロ棋界は春休みに突入した。八一はあいを伴って京都を訪れるが、しかしそれはデートでも慰安旅行でもなかった。
『山城桜花戦』――女流六大タイトルの一冠を巡る戦いを見守るため。
挑戦者の月夜見坂燎と、タイトル保持者の供御飯万智。
「殺してでも奪い取る」
「……こなたはずっと、お燎の下なんどす」
親友同士の二人が激突する時――八一とあいは女流棋士の葛藤と切なさを知る。
春の京都を舞台に、華よりもなお華やかな戦いが繰り広げられる秘手繚乱の第8巻!
万智さん、観戦記者やっているときとやはり全然違うなあ。京都弁の色が濃いのもあるのだけれど、プライベートと仕事モードと棋士モードの区別がはっきりしているというかなんというか。
というわけで、女流棋士……巻末の感想戦が主戦だった月夜見坂燎と供御飯万智、そして月光会長の秘書をやっている元女流棋士の男鹿さんにもスポットを当てつつ描かれる第八弾。
やっぱりもう本番の対局の描写すげえわ。見ている観客の息を呑むような雰囲気をも取り込んでのこの迫真の空気感たるや。殺気剥き出しで叩きつけ合う、まさに殺し合いのような真剣勝負がビリビリと伝わってくる。もう読んでいる時にじっとしていられなくなって、読みながら悶絶、具体的には「ぐぅぅぅぅ!」とうなりながら床をゴロゴロと転げ回る、という「放出」をしないと弾けてしまいそうになりくらい興奮させられてしまった、この圧倒的熱量!!
あの「名局賞だ」と、ポツリと誰かがつぶやくタイミングの絶妙なこと。ものすごい展開で誰もが放心し呆然とする中で、あのセリフが響いた瞬間から一気にあの膨大なまでに渦巻いていた混沌が二人の対局へと収束して、興奮の坩堝へと化していくんですよね。
実際の対局の内容は、前例のないあの展開故の掌握力の低さや女流棋士のレベルに沿う甘さが確かに散見されるのですけれど、この熱量、対局という勝負が当事者たちの殺し合い、ぶっ殺してやるという迫力を漲らせて真っ向から叩き合う凄まじさを前にしては、そういうのは別の棚にしまわれちゃうんですよね。名局ってのが成立するのは、産まれるのは、そういう問題じゃあないんだ!
女流棋士の宿命として、所詮客寄せパンダに過ぎないという厳しい文句は以前から語られていて、この衆目が見つめる公開対局である山城桜花戦というのはその見世物の極地でもあり、当事者である万智さんや月夜見坂さんはそれと一番最前線で向き合って、悩み苦しみ、しかしそれ以上に一棋士として彼女らは眼の前の勝負に命がけで挑むのである。平均寿命が一般人よりも遥かに短いとされる棋士たち。彼ら彼女らは文字通り生命を削って盤上の戦いへとのめり込んでいく。それこそ、相手を殺してやるという殺気を込めて。たとえ親友でも、幼馴染でも関係なく、いや大切な存在だからこそ念入りに、一心不乱に、全身全霊を注ぎ込んで!
まさにまさに、名勝負でありました。
構成の関係上、特典なんかでかかれた短編なんかが挟まれてて、うまいこと話の中に盛り込んではいたものの、やっぱりちょっと話の流れがぶつ切りになるところがあってしまってたのがちと勿体なかったですけれど、焼き肉焼くのにも対局になってしまうとか棋士の宿痾が垣間見えたりそれぞれは面白かったんですけどねえ。ってか、焼き肉話は八一と姉弟子が幼い頃からどんな風に日々の生活将棋漬けでこれまで来たのかがよくわかる話で、かなり好きです。
まあ今回は、実は年上の幼馴染属性(尽くす系)というのを焼き付けてきた万智さんが在る種の殴り込みかけてきたようなものでもあったのですが。八一め、昔はこの人のこと万智ちゃんて読んで懐いてたのか。何気に女性との距離感にためらいがないところがあるんだよなあ、この男。幼少時から将棋というツールで中身剥き出しでグチャグチャに絡み合っていたせいなのか。
ところで万智さん、貴女それ現地妻志望でいいんですよね?
あと、完全に意表をつかれたのが自戦記でした。あれはまったく予想してなかった。わりとこう、傍から見える態度と内面を率直に書き出したときの丁寧さ、品の良さがまったく食い違ってる人って、いるんだねえ。
そしてあとがきがまた。作者さん、人生の波乱万丈期をまさに今、波乗りしてるがごとくだなあ。

シリーズ感想

りゅうおうのおしごと!7 ★★★★★   

りゅうおうのおしごと! 7 (GA文庫)

【りゅうおうのおしごと!7】 白鳥士郎/しらび GA文庫

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「文句があるならかかってこい! 八一!!」
 清滝一門の祝賀会。師匠である清滝鋼介九段から叩きつけられたその
言葉に、八一は衝撃を受ける。
 順位戦――名人へと続く階段で、昇級のチャンスを迎えた八一と、降
級の危機にある清滝。師匠の苦しみを理解しつつも八一は己の研究を信
じて破竹の進撃を続ける。
 一方、棋力のみならず将棋への熱をも失いかけていた清滝は――
「衰えを自覚した棋士が取れる手段は二つ……」
 残酷な運命に抗うのか、従うのか、それとも……?
 笑いあり涙ありの浪速ド根性将棋ラノベ、号泣必至の第7巻!

これもう、何を言えってんだよぉぉ。もうあかん、あかんて。こんな、世界一かっこ悪くて世界一かっこいいおっさんの話とか、泣くよ! マジ泣きだよ! いやもうマジで泣いちゃったよ、どうしてくれんの!? ラストの対局の、あの熱さとかもうなんなんだろう、すげえよ、ほんとになんかもうたまらん!!
将棋はボードゲームである。とかく必要なのは頭脳の回転だ。しかし、その知力記憶力をフル回転させるには凄まじい体力が必要となる。特に順位戦の持ち時間は6時間。一人6時間である。それはそれは果てしない戦いが、精根尽き果てるまで繰り広げられるのだ。
だからこそ、老いは覿面に実力へと作用していく。女性棋士の誕生の壁となっている大きな要員のひとつもまた、男女の体力差とも言われている。作中で、八一が銀子の弱点として指摘しているのもまた、その体力の無さだ。
自分も四十間際となって痛感しているのだけれど、人間本当に年齢このあたりから気力体力が目に見えて下り坂になっていく。いやもうマジで。おっさんもね、実際におっさんになるまで言葉ではそういうものだと理解していたつもりだったけれど、事実そうなってみると本気で「びっくり!」するから。え?なにこれ? と頭が体においつかない感じであかんくなってくから。若い人には絶対に伝わらないだろうけれど。こればかりは、直面してみないとわからないだろうし、実のところ体力の低下に直面した今になってなお、わけがわからん!! 
いや、こんなことを力説しても仕方ないのだけれど、ともかく棋士の全盛期というのはなんだかんだと二十代三十代、いや十代が一番そうなんだ、という強い声もあるほどで、かの異次元たる羽生善治ですら、最盛期は終わってしまった、と言われている。まあ、この人が本当にバケモノなのは、その最盛期が過ぎ去ってしまったはずなのに、まだバリバリにあっちゃこっちゃ蹂躙して暴れまわっているからで、ほんとなんなのこの人人間なの!?状態なわけですが。
であるからこそ、五十代へと差し掛かった清滝師匠の衰えは顕著であり、それはもろに順位に現れ、棋譜に現れ、精神面にすら浮き上がってしまっていたわけです。
折しも、将棋界は今まさに革命期。将棋ソフトの出現とその活用法の発展によって、研究は加速に加速を重ね、それについていけない棋士たちはA級だろうと九段だろうと容赦なく振り落とされていく、まさに未曾有の激流が荒れ狂う激動の時代の真っ只中。そして今、その突端を突っ走っているのが、九頭竜八一竜王であり、幾多の若き棋士たち、命を削って這い上がろうとしている奨励会員たち。
そう、古き棋士たちはその背中を若者たちに見せ、追わせるどころか、追い抜かれていった若者たちの背中を、清滝師匠のような棋士たちが見送るしかないような現状が、今厳然と現れてしまっているのである。
古いものは追い落とされ、見捨てられ、放置され、忘れ去られていくのか。
何もせねば、そうなってしまうのでしょう。現状に妥協し、諦め、情熱を失い、炎を消して、遠ざかっていく背中に背を向ければ、そうなるのでしょう。
だがしかし、だがしかし、師匠はそうではなかった。そうならなかった。そうしなかった。
現実は覆らない。自分が遥か遠くに取り残され、今若者たちの背中を見上げるしか無い存在である事実は覆らない。それを、この人は苦しんで足掻いてみっともなく無様で情けない有り様を露呈し、八つ当たりで老害を晒し、しかしそんな自分の最低さを、愚かさを、情けなさを、認め受け入れ、恥じ入り、置物と化したプライドを勢い良く放り投げ、このおっちゃんは生まれ変わったのだ。新生したのだ。新しい時代の流れに乗ったのだ!!
だが、生まれ変わろうとおっさんは厳然としておっさんなのである。どうしたって、おっさんは若者にはなれない。新しくなんてなりきれない。おっさんは、どうしようもなくおっさんなのだ。
その事実に改めて直面した時、おっさんはついに真に目醒めるのである。新しきおっさんに。古きからこそ蓄積されてた経験と、若者たちとの親身の交流のよって吹き込まれた新しい風を併せ持った、古きと新しきのハイブリッドなネオおっさんに。
それは、師匠のその行動は、活動は、新たな棋士としての在り方は、まさに新風となって将棋界をかき回す。将棋ソフトの隆盛をきっかけとして将棋界そのものを覆い尽くそうとしていた、何かを置き捨てたまま多くを取り残したまま景色そのものを一変させようとしていた局面を、反対側の古きものからの逆襲という形ではなく、まさに古きと新しきを両の足場として次のステージへととても多くのものが、沢山の振り落とされるものを出すのではなく、まともな人間が住めなくなる世界になるのではなく、将棋を指す棋士たちの住まう世界全体の階位が一つあがるかのような。
これもまた、革命の風!! すべてを吹き飛ばす暴風ではなく、まるですべてに生命を吹き込むような優しくも頼もしい風!!
でも、そこに吹き荒れるのはやはり、熱波である。戦う棋士たちの、生命を櫛る鬩ぎ合い。勝ちたいという意思を握り込んで殴り合う凄まじき闘争。だからこそ熱い。だからこそ面白い。だからこそ、そこに感動が生まれるのである。見るものを涙させる物語が生じるのである。そこに自分も立ちたい、たどり着きたい、その世界の中に飛び込みたいという根源の衝動を生じさせる輝きが発せられるのである。

まさに、歴史に残る名勝負。伝説として残るだろう戦いでありました。
見ているだけで、ただただポロポロと涙が溢れて止まらない一戦でありました。

嗚呼。

幾ら尽くしても語りきれないものがある。そしてそれは、読めば一瞥を以て伝わるのだ。だからこそ、一読あれ。
傑作である。




それはそれとして、デンジャラスビーストを銀子ちゃんに着せてデンジャラスする八一は、がちで変態である。言っとくけど、中学生相手も十分ロリコンだからな!! あと、銀子さんもノリノリすぎである。絵師のしらびさんもノリノリすぎである。おっさんの熱さにアテられておっさん描きすぎた反動か、熱量がそのまま銀子ちゃんにも注がれてしまった結果かわからんけど、もう自重してはいけない。もっとやれ。

熱い物語の中で何気にメインから外れてしまっているせいか、ちょっと陰に入っているけれど、天衣の快進撃がひたすら続いている。月夜見坂さん、ヤラレ役極まってきてるんじゃないだろうかw まいど、鮮やかにぶっ飛ばされすぎですじゃ、大天使。しかし、この快進撃は反動がありそうで怖いんだなあ。八一が、なんか天衣の弱点みたいなの気づいている素振り見せてたし。
でも、角頭歩の奇襲戦法は、ちょうどアニメ四話で天衣が新世界でメタメタにやられてしまった戦法でもあって、それをここで持ってくるか、となかなか感慨深い。

最近、銀子ヒロインの対抗馬って、アイじゃなくて創多くんなんじゃないか? という疑念が生じ始めた。ってか、創多くんが八一に一喝されてキュン死しておられる!!  この竜王、小学生なら男女関係なく見境なしか!! 

シリーズ感想

りゅうおうのおしごと! 6 ★★★★☆  

りゅうおうのおしごと! 6 (GA文庫)

【りゅうおうのおしごと! 6】 白鳥士郎/しらび GA文庫

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「重度のロリコンですね。治療法は死ぬしかありません」
竜王防衛を果たし、史上最年少で九段に昇った八一。二人の弟子も女流棋士になれて順風満帆……と思いきや、新年早々問題発生!?
不眠症や変な夢に悩まされ、初詣で怪しげなおみくじを引き、初JS研では小学生全員に告白され、弟子の棋士室デビューは大失敗。
おまけにあいはロリコンを殺す服を着て既成事実を作ろうと迫る。殺す気か!!
そんな中、銀子は奨励会三段になるための大一番を迎えるが――

新キャラも大量に登場! 熱さ急上昇で新章突入の第6巻!!
新時代の将棋の歴史は、ここから始まる。 
何度も何度も竜に救われ助けられて、その度にその竜によって奈落の底に、絶望の縁に、煉獄へと突き落とされる。
何度も何度も何度も思い知らされるのだ。身の程を、自分が銀の妖精でも将棋人形でも鬼でもない、ただの才能なんて欠片もない中学生の女の子が居るだけだ、という事実を。将棋の神様に魅入られ、いたぶられ、翻弄されるただの小娘がいるだけだという真実を、将棋の真髄へと近づくたびに、覗き見るたびに、銀子は思い知らされていく。身も心もボロボロになりながら、深淵を覗き込み、しかし深淵はこちらをまるで見てくれない。届かない、遠く遠くへと遠ざかっていく。這いつくばって進めば進むほど、遠くへ遠くへと自分を置いて遠ざかっていく。
ならば、ただ自分の口を使って言えばいいのだ、告げればいいのだ。好きだ、こっちを見て、私を見て、私を愛して。愛してる、誰よりも愛してる。この世の何よりも、誰よりも、アナタが好きだ、と。私の全ては、あなたの為に存在しているのだと。
言葉で告げればいいのだ。ただの女の子として。突きつけられた事実を踏まえて、ただの女の子として、その手で彼を捕まえればいいのだ。
しかし、彼女は。空銀子にはそれが出来ない。たったそれだけのことができない。
彼女が語ることができるのは、将棋でだけだから。将棋の駒をもってしか、なにも告げられない、何も訴えられない、何も伝えられない。
相手も相手だ。生粋の将棋星人だ。将棋のことしか考えてなくて、将棋を通じてしか何も伝わらない男なのだ、と銀子はそう信じている。そう信仰している。そう崇めている。そう非ねばならないと、祈っている。
だから、銀子には将棋で強くなるしか無い。将棋で語りかけることができるように、彼と同じ領域にまで辿り着かなければならない。彼と同じステージに立たねばならない。彼と同じ世界に至らなければならない。
そうあれかし、と。
だから、銀子にとって生きる道はプロにしかない。プロになって、九頭竜八一と真剣勝負を、全身全霊をかけた勝負を挑まなければ、彼女の願いは絶対に叶わないのだ。

修羅の道以外のなにものでもない。

ただ告白するためだけに、これほどの修羅道を歩もうという女が果たして他にいるだろうか。この時点で、既に自分には無理だと、どうやったって天外魔境であろうプロの棋界どころか、その前段階である悪鬼羅刹の巣窟である奨励会ですらも、自分の無才では、自分の弱いメンタルではとてもじゃないけれど生き残れないと思い知らされ、打ちのめされ、叩き潰される寸前であるはずなのに。息も絶え絶えに、泣きじゃくりながら、子供のように、幼子のように、八一の名前を呼んで悶え苦しんでいたくらいなのに。
その八一が前に現れれば、彼女は立ち上がる。空っぽの心身にいったいその時、何を満たして起立させたのか、きっと彼女自身にもわからないだろう。それは愛か、執着か。
辛い。辛い。辛くて苦しくて仕方ない。
生き残れるとは思えないこの先を、果たして彼女はどう進んでいくのだろう。誰も彼女を助けられない。将棋に囚われた彼女に、言葉は通じない。想いも繋がれない。気持ちも伝わらない。
むしろ、将棋によって隔離されているのは、将棋星人である八一たちよりも銀子なのだ。そんな彼女に、誰が何を与えられるだろう。八一は、他の星に住まうあまりにステージの違うところに存在してしまった竜王では、銀子に何も伝えられないのだろうか。銀子が、同じプロの棋界に来なければ、あの熱い舞台の上で戦わなければ、想いは伝わらないのだろうか。
だったら、今の銀子にはどうやったって手を差し伸べることはできないじゃないか。
空銀子は、最後まで一人で戦え、ということなのか。助けられるのは自分だけ、なのだろうか。
こうなってはもう、何もわからない。誰か助けてあげてくれ、と懇願するのも躊躇われる。
見守るしか無いのだろうか。
いずれにしても、これほど一途で狂的なまでの想いを、献身を、他の誰にも邪魔してほしくはないものだ。竜は、彼女のものなのだ、誰も触れるな、誰も奪うな、誰も盗ってくれるな。そう思ってしまっても、仕方ないじゃないか。

他にも今回は色々あったのだけれど、兎にも角にも銀子でした。
いや、それともう一つ。天衣に対する八一の師匠としての愛情と指南は素晴らしいものだった。八一だって大人とはまだ全然言えない未成年なのに、ものすごく立派に師匠してるじゃないですか。天衣、一生忘れないですよ、これ。棋士としての、指針ともなり根幹ともなり得る素晴らしい教えでした。
そして、あとがき。どこか淡々とした語であったからこそ、胸に来るものがありました。このシリーズの熱さの根源を感じ取った気がします。

シリーズ感想

りゅうおうのおしごと! 5 ★★★★★  

りゅうおうのおしごと! 5 (GA文庫)

【りゅうおうのおしごと! 5】 白鳥士郎/しらび GA文庫

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将棋という名の奇跡に最後の審判が下される、激闘の第5巻!
「アーロハ―♪」
遂に始まった八一の初防衛戦。挑戦者として現れた最強の名人と戦うべく常夏の島を訪れた八一だったが……なぜか弟子や師匠までついて来てる!? 一門(かぞく)旅行!?
おまけに銀子と夜の街でデート!? そんなんで名人に勝てるのか!?
あいと天衣、そして桂香のマイナビ本戦も始まり、戦いに次ぐ戦いの日々。誰もが傷つき、疲れ果て、将棋で繋がった絆は将棋のせいでバラバラになりかける。……だが、
「もう離さない。二度と」
一番大切なものに気づいた時、傷ついた竜は再び飛翔する――!!


将棋は、一人でするものじゃあないんだ!!

師匠が居て、兄弟弟子が居て、自分の弟子が居て、家族が居て、将棋を指す場を作ってくれる協会の人たちが居て、スポンサーが居て、場を提供してくれる宿の人たちが居て、世に戦いの情景を伝えてくれる記者の人たちが居る。
そして何より、対局者が居なければ将棋は指せない。

将棋は、一人で出来るものじゃあない。一人で、戦えるものではないのだ。

だが八一は、どこかで将棋は一人で戦うものだという信仰があったように見える。自身こそが、人と人との繋がりを作り、その棋跡に多くの人の魂を縛り付け引きずり回し、何より自身が姉弟子・銀子との繋がりを求め、二人の「アイ」という弟子に棋士として新生させられたにも関わらず。
どこかでずっと、将棋という闘争における孤高の神聖さを、信じ続けていたように思う。
その根源が、思えば銀子の想いを受け止め損ね続けている理由でもあるのではないだろうか。銀子の願いは、観戦記で語られたようにただ一つ。しかし、八一はこのシリーズが始まった当初に銀子の棋士として追い求める先を絶対の孤高であるのだと、信じ切っているようだった。強さは、孤高の果てにあるのだと、銀子の棋士としての姿に、その結論を見出しているようだった。
だからこそ、なのだろうか。彼が、心の底から強さを求めた時、ひたすら他者を拒絶し、関係を断ち、孤独へ孤独へと突き進んだのは。
彼が「竜王」というタイトルに決死の思いでしがみつき続けた理由こそが、孤高を追い求める銀子を追い続けるためだったのだと、彼女の側に居るのに相応しいタイトル保持者である銀子と同じ格を維持しようとする我武者羅な思いだと、自身で血を吐くように吐露しておきながら。
矛盾である。しかし、これほど純粋な迷走があるだろうか。これほど一途な迷走があるだろうか。

根底から信じ続けていた棋士としての在り方を、名人戦を通じて九頭竜八一は覆すことになる。
それは銀子に囚われ続けていた軛からの脱却である。彼の将棋人生は、常に銀子とともにあり、銀子の為にあったとすら言えるのかもしれない。それから、彼はとうとう抜け出すことになったのではなかろうか。
しかし、それは同時に今まで見失い続けていた銀子の本当の願いと、ようやく真正面から向き合える姿勢になれた、と考えることはできないだろうか。
置いて行かれてしまったと、銀子は泣いた。でも、必死に脇目も振らず銀子の影を追いかけ続けて、銀子本人すら見ることもせずに走り続けた青年は、今ようやく振り返る余裕ができたんじゃないだろうか。
振り返った先に、本当の銀子がいることを、さて今の傷心の少女棋士が気づく余裕があるものか。
今、振り返った八一の目には多くの人が映っている。彼を支え、彼を愛し、彼を助け続けてくれた多くの人たちの姿が映っている。彼の目に映っているのは銀子独りだけではもうないのだろう。でも、そこには確かに、今までと違ってありのままの銀子が映っているはずなのだ。
今回随分とかわいそう、というよりも大いに下手を打ってしまった、恋愛以前に生きるのが下手くそな銀子らしいやらかしを、挽回できないままもうズブズブと沈んでしまった銀子だけれど、むしろここからこそが彼女のターンだと信じたいところである。
今回、その一途さと献身で一身に八一の暴れ狂う心を受け止め尽くしたあいだけれど、表立って頑張ったあいと違って、もう一人のアイ。天衣の方は目立たなかったのだけれど、むしろその弟子としての健気さではあいを上回っていたんじゃなかろうか。自己アピールが強烈なあいと違って、気づかれなくてもいい、理解されなくても良い、しかし最も自分を殺してでも師匠の為に尽くし、想いを捧げていたのは天衣の方だったように思うのです。
そんな天衣の秘めたる献身をすらちゃんと理解し、師匠と同じように傷つくあいを守り続け、ボロボロになった銀子を慈しみ、そして自分の夢も人生の行く末をも押しやって、絶対に負けられない戦いを、そのはての勝利を、八一に捧げた桂香さん。誰も届かなかった、当事者である銀子ですら触れることすら叶わなかった八一の孤独を、唯一打ち破った彼女。あれほど魂を削る戦いを、心身を憔悴させ尽くした戦いを、ただ八一に手を差し伸べるために費やした彼女を、女神と呼ばずしてなんと呼ぶのか。
人外魔境が渦巻くこの将棋界で。人ならざる天才ばかりしかおらず、その上に地球人ですら無い将棋星人が跋扈する中で、圧倒的な凡才でありながら、清滝桂香その人こそ、もっとも熱く、もっとも輝いていた。ただ一度の輝きではない。3巻からこっち、この人はずっと泥の中から天上に届くほどの輝きと熱量を放ち続けている。
凄い。
本当に凄い。

その熱と、輝きの照らし出され、救い出され、孤高ではなく多くの人の支えと愛情を受け取っていどんだ八一の名人との対局。
ただ名勝負だからではない。歴史に残る奇跡の戦いだったからではない。八一がこれまで残した棋跡に、そして名人が残した棋跡に、引き寄せられて、あの第四局には自然とあれほどの人が集ったのだろう。心奪われたのだろう。
月夜見坂燎の慟哭が、一番胸を打ったのは。八一の跡を一心不乱に追い続けたのが彼女だったからこそなのだろう。だからこそ、追いつけないと理解してしまった彼女の慟哭が痛切に響いたのだ。
彼女はこの時、本当の意味で置いて行かれたことを受け入れてしまったのだから。
将棋は一人では出来ない。一人では、出来ないのだ。
そしてそれこそが、空銀子がもっとも恐れる未来図なのである。
銀子はまだ、諦めていない。追いかける。追いかける。追いつくまで、追いかけるつもりなのだ。
だからまだ、作品は続く。完結なんてとんでもない。少なくとも空 銀子の闘いは、まさにこれからなのだから。


記者の鵠さんについては、もう完全にやられました。まったく気づかんかった。いや、もうね、読み仮名読み飛ばしちゃったのかな、と首を傾げてたんですが、まさかまさかそういうことだったとは。
冒頭のキャラ紹介の配置の塩梅も妙だったんで、あっちはあっちで別に???となってたんですが、まさか五巻に至っての種明かし。これは参りました。あひゃーー。

シリーズ感想

りゅうおうのおしごと! 4 ★★★★☆   

りゅうおうのおしごと! 4 (GA文庫)

【りゅうおうのおしごと! 4】 白鳥士郎/しらび GA文庫

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人生で最も熱い夏が今、始まる。
「わたし、もっともっと強くなって……絶対に勝ちますっ!!」
小学校が夏休みに入ったその日、あい達は東京を目指していた。
目的は――最大の女流棋戦『マイナビ女子オープン将棋トーナメント』。
女流棋士やアマチュア強豪がひしめくその大会を、あいと天衣は破格の才能を武器に駆け上がって行く。
一方、その師匠はというと……弟子に隠れて美人女流棋士と将棋番組でイチャイチャしたかと思えば、その翌日は別の女の子と原宿で手繋ぎデート!? しかもそのお相手は……銀子!?

将棋に全てを捧げた女性達が織りなす灼熱の祭典を描いた第四巻!
人生で最も熱い夏が今、始まる。

姉弟子(かわいい)!!!

くそぅ、面白い、面白いよぉ。べらぼうに面白いってんだよぉ!!
八一の弟子であるあいと天衣の二人のデビュー戦。地元関西では既に名前が響きだしていた彼女たちですが、東京では未だ知名度ゼロ。
一線級の女流棋士やアマチュアの強豪たちが集う女性棋士たちの祭典であるこの『マイナビ女子オープン将棋トーナメント』に、そんな無名の小学生たちが殴り込み、並み居るプロたちをバッタバッタとなぎ倒していく、というこの痛快さと来たらもう。
天才小学生、なんて肩書、普通なら迫力や貫目に乏しいものなんですが、これまでの3巻で嫌というほど読者はこの二人の「アイ」の空恐ろしい実力を目の当たりにしている。天才なんて軽いもんじゃない。
将棋のプロ棋士、という人外のバケモノたちに堂々と肩を並べる、本物の怪物たち。それが、この二人の「アイ」であることを、自分たちは知っている。思い知っている、と言っていい。
だからこそ、二人の快進撃が並み居るプロたちを蹴散らしていく、なんて軽々としたものじゃないのを体感として理解している。あれは、あれは
「食い散らかしていく」
そう言って過言ではない、怪物たちの百鬼夜行なのだ。彼女たちの進撃の後を見るがいい、その惨状を、食い散らかされた跡たる敗者たちの有り様を。残酷と言うなかれ、これこそがプロの世界。その無情にして凶悪極まる現実の中で、女流棋士たちもまた生きているのだ。
ここでは、プロ棋士と女流棋士との明確な違い、格差もまた容赦なく謳われている。永世名跡という女流棋士の女王とまで呼ばれる女性が、自分たち女流棋士の凄惨な在り方を、弄ばれ踏みにじられ、それでもマスコットとして生きてゆかねばならない残酷な生き様を、滔々と語る姿は凄まじく印象的で、その上でそんな生き様を晒しながらもなお、勝つ、勝利への渇望を、飢餓感を、プロ棋士と同じ勝利に対する執念を、女流棋士は持ち続けなければならないという宿命を、彼女は炎のように語るのだ。その熱は、その火は、確かに女王たる彼女の元から、幾多の女流棋士へと燃え移り、プロ棋士の世界と何ら変わらぬ煉獄を作り出している。
才能があろうが無かろうが関係ない。勝つために、勝つために、勝つために、女流棋士たちもまた己の魂を燃やし尽くしているのだ。銀子も、鹿路庭珠代も、夢潰えて消えていこうとしている瀬戸際の棋士たちも、何ら変わらぬ熱量で、寿命を削るようにして戦っている姿を、この四巻ではこれでもかというくらいに突きつけてくる。
あいと天衣がたった今、足を踏み入れた世界は、そんな煉獄なのだ、と思い知らされる。そして、そんな煉獄を、彼女たちは目から火花を飛び散らせ、口から炎を吐きながら、背中に真っ黒な雷雲を背負うようにして地獄の鬼さながらに、その煉獄の真ん真ん中を突っ切ってくるのだ。まさに鬼であり悪魔であり、怪物そのものたる凄まじい新星なのである。
一方で、その足元でジタバタとのたうち回りながら、七転八倒しながら、鼻水垂らして大泣きしながら足元をふらつかせ、倒れ倒れて這いつくばって、それでも這うようにしながら一歩一歩、泥まみれ血まみれ反吐まみれになりながら前へと進み続ける女が一人。
華々しいデビュー戦を飾って快進撃を続けるあいと天衣の傍らで、彼女たちと比べるべくもない有り様を晒しながらも、それでも勝利を食いつなぎ、綱渡りの綱を落ちかけながらも運良く渡りきり、見るも無残な姿になりながらそれでも、それでも勝ち残っていく桂香さんの、敢えて言おう「勇姿」を見るがいい、見てほしい、見るんだよ!!
それはあいと天衣に比べれば、本当に無様としか言いようがないでしょう。それでもしがみついてすがりついて、同じ夢を共有した同志を足場に踏みしだいて、辿り着いた夢の先。そのみっともない姿の、なんと眩しいことか。なんと輝かしいことか。
どの対局も、もう身体の体温があがってしまうかのような熱戦ばかりで、手に汗握るなんてもんじゃないテンションのあがりっぷりなのですが、とにかくもう頑張れ頑張れと必死になって一番応援してしまうのは桂香さんの対局なんですよね。この才能のない凡人筆頭の彼女のジタバタした戦いっぷりには、見ていて涙が出てきそうになる。本当に好き。もう大好き。

そんな女性たちの戦いとはまた別に、ひたひたと近づいてくる「竜王」の防衛戦。その前哨戦である八一の親友と「神」たる名人の一局。もうこれが、凄まじかった。絶句、絶句、絶句である。なんていう境地なのか。これ、人間のたどり着ける領域なんだろうか。
「神の一手」
囲碁や将棋の作品では決して逃れられない一瞬ですけれど、もうこれたまらんかった。「ぞわぞわっ!!」とならざるをえなかった。対局を見ていた日本全土のあらゆる人間が、言葉を失って意識を飛ばされた、人外の一手。もうこの作品、ヤバいわ。表現の仕方というか演出の魅せ方がもうパないどころじゃないよ。
魂持ってかれる!!
ふわーーっ!
これ、前哨戦でこれって、本番どうなるのよ。どうなるってのよ。今から心臓バクバクしてるんですけど。この後すぐ読むつもりなので、テンションあがりまくってるんですけど。どうしようねー。

あとね、冒頭でも書いたのだけれど、姉弟子(かわいい)がもう天辺取っちゃってるんですけど、どうするんすかこれ?
八一は、敢えてこれ意識的にそっちの考え消してるんだろうか。もう銀子さん、あからさまもいいところじゃないですか。ってか、街中でずっと手を握ったまま東京から大阪まで繋ぎっぱなしって、言い訳しようがないんですけど。この逢引としか言えない逢引を、あいたちに教えなかった、秘密にしていた、という時点で自身でどう言い繕おうが八一も意識しまくってるとしか思えないんですよね。
個人的にはもう圧倒的に銀子推しではあるんですけれど、前巻からこっち将棋のキレっぷりが尋常でなくなってきた、凄まじいレベルアップを果たした八一と、その「眼」に追いつけない銀子という描写が印象的なところで挟まれるようになってきたのが少々気になるんですよね。棋士として、対等から遠ざかっていっている二人。その才能の差こそが、竜王ハーレムとかなんとかなっちゃってますけれど、そんなん障害じゃなくて、才能の格差こそが二人の間に横たわっている最大の障害なのかもしれないのか。

さあ、ともあれさあさあ、次だ。次だ。次ですよ。ついに来た、対名人戦。シリーズ最大にして最凶のホットスポットが来たれりか!!

シリーズ感想

りゅうおうのおしごと! 3 ★★★★★   

りゅうおうのおしごと! 3 (GA文庫)

【りゅうおうのおしごと! 3】 白鳥士郎/しらび GA文庫

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「あいも師匠と一緒に『おーるらうんだー』めざしますっ!!」

宿敵《両刀使い》に三度敗れた八一は、更なる進化を目指して《捌きの巨匠》に教えを乞う。
一方、八一の憧れの女性・桂香は、研修会で降級の危機にあった。急激に成長するあいと、停滞する自分を比べ焦燥に駆られる桂香。
「私とあいちゃんの、何が違うの?」
だが、あいも自分が勝つことで大切な人を傷つけてしまうと知り、勝利することに怯え始めていた。そして、桂香の将棋人生が懸かった大事な一戦で、二人は激突する――!

中飛車のように正面からまっすぐぶつかり合う人々の姿を描く関西熱血将棋ラノベ、感動の第三巻!!
……やっべえわ。これ、やっべえくらい面白いわ。いやいやいやいや、普通「両刀使い」との決戦だけでも一冊分の山場としてこれ以上無い盛り上がりを見せるのに、その対決を踏まえた上でラストにもう一つ山場を持ってくるとか、物語としてもボリュームありすぎるんじゃないですかね、これ!?
確かに、両方の戦いがテーマとして連動している以上、ここで一連なりの物語として片を付けるのは絶対であったのは理解も認識も納得も出来るんだけれど、それでもすげえわ。一冊でこれだけの熱量が摂取できるとか、贅沢すぎる。

……はぁ〜〜〜。
久々に、読み終えた後の高揚と酩酊感にふらついてしまった。
昨今、藤井四段という将棋界の新星が蹂躙戦を開始したことでにわかに将棋への世間体な注目があがっているところで、実際解説込みで将棋の中継見てても面白いなあ、と思うこともしばしばなんですが、改めて思い知りましたよ。
将棋って面白い!!
いやもうなんですか、あの八一の山刀伐戦の盛り上がり。震撼、震撼、震撼ですよ。本作のすげえところは、対戦者同士のみならず、観戦している人たちの空気感の見せ方なんでしょう。あの、神懸った手の意味が開示された瞬間、この戦いを目撃していた人たちみんなに電撃のように走る戦慄が、震撼が、思わず「ああっ!」とあげられる呻きが、叫びが、読んでるこっちともシンクロして、目の前の盤上以外が真っ白に塗りつぶされるような、あの瞬間。そして、あり得ない光景が現出したことが事実なのかと確認するかのように、お互いの顔を見合う瞬間をも、読者側も彼らと同じ心境になってしまうことで共有してしまうんですよね。
歴史的瞬間を目撃した体験を、これほど鮮やかに味わえるなんて。
そりゃあね、興奮もしますよ。テンション上がりますよ。自分がいま何を見たのかわけがわからないまま、うろたえてしまいますよ。
凄いよなあ、何よりすごいのがこの八一の手って、実際にモデルあるんですよね。将棋界ではかなり有名な対戦だったらしく、調べたらあっさりポコポコと出てきました。「トリプルルッツ」って、名称がまたもうなんちゅうか、キてるよなあ。
将棋って、戦法名もそうなんだけれど結構ハッチャケていて好きですわー。
今回の鍵となる振り飛車の「ゴキゲン中飛車」なんか、その代表格ですしねえ。
まさに、異次元同士の戦いのあとで、最後に敢えて持ってくるのが桂香さんの戦いというこの構成。年齢制限ギリギリとなり、これ以上将棋を続けていくのか苦悩する常人でしかない女の足掻きを、同じ土俵の上で同じだけの盛り上がりを持って描くこの白鳥さんの手腕。
本作って、もう徹底して「才能」あるものこそが強い、という将棋界の様相を冷徹なまでに貫き通して描いてるんですよね。
才能あるものに、才能のないものは「絶対」に勝てない。努力は才能を上回らない。絶対にして無比な事実にして現実がここにあるわけです。それを、銀子は地球人と「将棋星人」の違いと表現して、無情なまでに突きつけてくるのです。地球人が決して覗き見ることの出来ない領域を、将棋星人たちは悠々と泳いでいく。八一も、あいも、まさにそんな人外の側の宇宙人なんですよね。
でも、それでも。
才能を持たない地球人たちは、破れ打ちのめされ朽ち果て心潰されながら、それでも生き残り戦う闘志を喪わなかったものが、将棋星人たちに戦いを挑んでいくのである。諦めないのだ。諦められないのだ。
将棋という魔性に魅入られてしまった人間は、たとえ才能を持たなくても、絶対に勝てない才能の差を前にしても、なお将棋を捨てられないのだ。
なぜなら、将棋が好きだから。
その好きという気持ちが、その魔性に魅入られた堕落が、届かない頂点への憧れが、ときとして「絶対」を覆す。
才能の有無は「絶対」だ。残酷なまでに「絶対」だ。にも関わらず、その「絶対に勝てない」の「絶対」を覆すのだ、棋士たちは。
本作の凄まじいところは、才能の絶対性をこれ以上なく描き尽くしながら、「努力」というものが限界を超えて突き詰められた時にどれほど恐ろしい殺戮兵器となるのか、憧れという源泉が信じがたい原動力として可能性を爆発させるのか、それをまざまざと見せつけてくれるところなのでしょう。
地球人だろうと、将棋星人だろうと、このプロの将棋という世界で生きていくことを決めたなら、さながら土星の大白斑のように、そこに居るだけで存在自体消し飛ばされそうな嵐の中を往くことになる。それをみんな覚悟の上で、喜々として挑んでいく。その棋士を取り巻く世界の厳しさ、凄まじさ、異次元さを、今回は今までにもまして味わえた。アイや天衣のように、新たにこの世界に飛び込む新星ではなく、才能なくその世界に飛び込むことすら叶わなかった飛鳥や、今まさに崖っぷちに立たされ人生を終えようとしている桂香さんにスポットが当たっていたからこそ、痛切なまでに斬りつけられた物語だった。そして、そんな彼女たちがそれでもなお「好き」とのめり込める将棋という存在。まさに魔性の魅力である。本当に、凄まじい世界だ。
そんな世界を、地球人として、女性として切り分け、切り開き、八一の場所までたどり着こうとしている銀子。その道の険しさを、彼女こそが誰よりも知っている、痛感していることが、桂香さんを支え、叱咤する姿からうかがい知ることができる。誰よりも、彼女こそがわかってる。
それでもなお、征くのか。
やっぱり、彼女こそがヒロインだよなあ。

なんかもう、ものすごいものを読んでしまった、という読後感でした。恐るべきことに、このシリーズまだまだ燃え上がること確定してるんですよね。やばいわ、ほんと。

白鳥士郎作品感想

りゅうおうのおしごと! 2 ★★★★   

りゅうおうのおしごと! 2 (GA文庫)

【りゅうおうのおしごと! 2】 白鳥士郎/しらび GA文庫

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「私はあなたを師匠だなんて呼ばないから」
『竜王』九頭竜八一の前に現れた黒衣の少女は高飛車にそう言い放った。夜叉神天衣。小学4年生。弟子と同じ『あい』という名を持つJSの教育を将棋連盟会長より依頼された八一は密かに特訓を施す。だがそれが弟子にバレた時―かつてない修羅場が訪れた!
「ししょう…?だれですか?その子…?」
はじめてのライバル、はじめての修羅場、そしてはじめての家出…幼い師弟に訪れた危機を乗り越え、二人のあいを救うことができるのか!?悲しみの雨に閉ざされた少女達の心に、若き竜王の角が虹を描く!!
ああ、これぞ人の縁だなあ。棋士と棋士の戦いの物語であると同時に、師匠と弟子の物語……世代を経て引き継がれていく将棋への想い、そして将棋に関わる人への想いもまた、様々な形で次の世代、次の世代へと引き継がれていくのだ。若くして弟子を持つということの重み。いや、若い若くないは関係ないな。弟子の人生を背負う師匠として、果たしてこの子をどう育てるべきなのか、自分のやり方は果たして合っているのか間違っているのか。悩み迷い、時に弱気になって周りを頼り、そうやって試行錯誤しながら自分のもとを訪れ、自分を頼り、自分に教えを乞い、自分に将棋という人生そのものの導べを求めてきた弟子という存在に、自分の将棋を伝えていく。その苦しみと喜び。そんな想いを、また自分の師匠たちもまた自分たちに投げかけ、うちに秘めながら、自分たちに多くを与え続けていくれていた、と気付き知った時の、こみ上げてくる感慨。そして、それを今度は自分が伝える立場にあり、伝えることの出来る自慢の弟子が今、自分の腕の中に居るという事実への感動。八一がこの物語の中で知り得ていく経験は、どれもがギラギラと光ってて、なんかねー、エネルギーが迸ってる。凄まじい熱量が噴出している。恐るべきは、その熱量を棋士たちは皆が漲らせているんですよね。想いの爆発が、そのまま将棋という概念への情熱となって、火山のように噴き出している。その地獄のような熱さたるや、溶岩のような粘度たるや、まともな人間が生きる領域じゃないんですよね。修羅たちの闘争の場、これこそが、呼吸と勝負を等価にした化け物たちの遊び場。
ぬるま湯の中でまどろんでいては、決して届かない領域なのだ。そこには年齢の大小など一切関係ない。たとえ小学生だろうと、同じフィールドで同じ条件で、同じ熱量に晒され、それに対抗するだけの修羅とならねば追い立てられ食いつくされるだけの戦場なのだ。
だからこそ、愛がある。憎しみや怒りではない、純粋なまでの勝負への欲求が満ち満ちている。そこへ自ら身をおどらせる同士たちに、後ろから続いていく者たちに、棋士たちは、師匠たちはこんなにも愛を与えてくれるのだ。ようこそ、と祝福してくれるのだ。自分の持っているすべてを与え、その上で叩き潰そうとしてきてくれるのだ。
なんともまあ、凄まじい。

八一の先達にも師匠にもライバルにも弟子にも恵まれた、その地獄のような残酷な環境はなんとも羨ましく、とてもじゃないけれど近づきたくない世界だなあ、としみじみと思う。それでも、本当に楽しいんだろうなあ。充実しているんだろうなあ。こんなにも深い育ててもらった感謝と、育てる手応えのある喜びがある人生を、この年令で体験してるなんて。そして、こんなにもひりつくような真剣勝負の世界を、最高峰の戦いを味わい尽くせる日々を過ごしているなんて、壮絶にも程があるよなあ。
個人的には、一番弟子のあいよりも、新たに現れたもう一人の弟子・天衣の方が棋士として非常に好み。何気に姉弟子とスタンスにシンパシーがあるからかもしれないけれど、一番弟子はうつつを抜かしてるんですよね。ししょうに寄りかかりすぎている。それは、師匠としては思わずにやけてしまうことかもしれないけれど、棋士として弟子の様子は将棋に対して甘いとしか言いようがなく……それ以前に恋愛としてもちと舐めた態度なんですよね。その点、天衣の方はトゲはありまくりにしても、運命の人に対してもストイックで自分からガツガツいくのではなく、むしろ八一の方から我慢できなくなって奪いに来させるほどに見事なあの誘い受け。あれに比べると、あいは舐めてる、ぬるい、甘い、独占欲を履き違えてる、とわりと女としては鬱陶しいタイプなのを露呈してしまってるわけですよ。姉弟子ほど辛辣すぎるのもあれはあれで問題だと思うけれど、わりとあれは周りの人たちには知れ渡ってるっぽいんだよなあ。
まあともかく、あのあいVS天衣のひりつくような名勝負のみならず、まさかのラスト、八一による「竜王のお仕事」。伊達に竜王位じゃないところを見せてくれるあたり、主人公の面目躍如ですねえ。もう後半ビリビリきっぱなしでしたよ。もうどの棋士たちも魅力的すぎる。

にしても、銀子と月夜見坂さんとの女王戦。カラー口絵であれだけ見開きでかっこ良く「開幕!」って銘打ってたから、どれだけの名勝負が繰り広げられるのかと思ったら……。
月夜見坂燎女流玉将……蓮っ葉姉御入ったヤンキー系の強面美人(ギザギザ歯)という強力な見た目の派手さが、なんとも引き立ちますねえ……逆に。この人がああなるかと思うと、かなり素で笑っちゃうんですが。
銀子さん、ひどいですw

1巻感想

のうりん 11 ★★★☆  

のうりん 11 (GA文庫)

【のうりん 11】 白鳥士郎/切符 GA文庫

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木下林檎です。新しい年が始まりました。岐阜に来て初めて迎えるお正月は不思議な風習がいっぱいで楽しいです。大きな天狗の像にお参りしたり、田んぼで竹と大量のゼ●シィを燃やしたり、一緒に担任(41)も燃やしたり――
え? そんな風習ない? ……でも、やったわよ? ねえ若旦那? やったわよね?
……あら? 若旦那のお腹から、何かが…………ま、まさか若旦那、あなた、本当は――!!

シリーズ最大の衝撃!
あのラブリーなマスコットに秘められた謎が明かされる、驚天動地の第11巻!!
あの担任野焼きにしたら、有毒物質とか発生しそうだしちゃんと処理施設で処分した方がいいんじゃないだろうか。いや、焼却場とかでは無理か。核廃棄物並に処分に困る存在だなあ、あれは。
昨今、結婚できないと嘆く年上の女性キャラクターって、喪女詐欺が多くって大概優良物件なんですよねえ。【やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。】の平塚静先生とか、【俺、ツインテールになります。】の桜川尊とか。むしろ、なんで結婚できないんだ!? と真剣に首を傾げてしまうくらいの女性たちですからね。
しかし、それに比べてこの41歳は本当にブレなく絶対にモテない喪女神を貫くよなあ。もはや半分以上、人間やめているんですけれど、この人マジでどうするんですか? ここまで来ると、ラストで無事結婚できましたー、みたいなネタ、やったらあかんレベルに達してますし。そろそろゼ●シィへの風評被害がえらいことになってませんか。各都道府県ごとに違うゼ●シィが出てるとかいう話も、関西ウォーカーとかみたいなタウン情報誌的なもののはずなのに、なんかオドロオドロしい呪われた魔道書みたいな雰囲気になってますよ!? ネクロノミコン(ラテン語版)とか無名祭祀書(ドイツ語原書)とかルルイエ異本(中国語版)みたいな!
この魔道書の類に魅せられてる気配のある農って、耕作逃したら順調にベッキー2号化しそうだなあ、これ。

今回も、一般的にはなかなか知られていない農業事情のあれこれがウンチクみたく語られていて、面白がりながら色々知ることが出来るというのは、やっぱり楽しいのう。
個人で新しいコメの品種を作り出した人の逸話だとか、新種改良に苦心する企業の話。これだけネーミングで遊んでるのって、他に競馬の馬くらいじゃないか、という各種野菜の種苗業者のネーミング話とか、名前の紹介見てるだけでも面白かったしなあ。バイオマス発電とか、どれくらい可能性があるんでしょうね。
と、うんちく話は楽しかったものの、この巻はわりとそれに終始していて、物語の進行とかキャラにスポットを当てて、という部分がなかったせいか、起伏がない回であったという印象もあり……物語の進展とかはぶっちゃけあんまりどうでもいい気もするのだけれど、キャラの掘り下げは欠かさないで欲しいかなあ、と思う所。バイオ鈴木も話に関わってきていたわりにおとなしかったしなあ。
若旦那に関しては、可愛いんだからいいじゃないか。ってか、若女将に改名する?

シリーズ感想

りゅうおうのおしごと! ★★★★  

りゅうおうのおしごと! (GA文庫)

【りゅうおうのおしごと!】 白鳥士郎/しらび GA文庫

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玄関を開けると、JSがいた――
「やくそくどおり、弟子にしてもらいにきました! 」
16歳にして将棋界の最強タイトル保持者『竜王』となった九頭竜八一の自宅に
押しかけてきたのは、小学三年生の雛鶴あい。きゅうさい。
「え? ……弟子? え?」
「……おぼえてません?」
憶えてなかったが始まってしまったJSとの同居生活。ストレートなあいの情熱に、
八一も失いかけていた熱いモノを取り戻していく――

『のうりん』の白鳥士郎最新作! 監修に関西若手棋士ユニット『西遊棋』を迎え
最強の布陣で贈るガチ将棋押しかけ内弟子コメディ、今世紀最強の熱さでこれより対局開始!!
9歳ではじめるのが遅い、と言われてしまう将棋界。世の中、現実世界上において様々な想像を絶するプロフェッショナルな世界があるものだけれど、この棋界というやつだけはちょっと頭一つ図抜けている。話に聞くだけでも人外魔境である。ハッキリ言って同じ人間、人類なのか? というエピソードがゴロゴロと転がっている。文字通り、人間を辞めた人だけが成れるリアル修羅道、てな具合なのである。
将棋将棋、朝起きて夜眠るまで二十四時間三百六十五日、すべて将棋で埋め尽くされる人生。将棋のことだけ考えて、エネルギーを燃焼させ、脳髄をフル回転させ、棋譜の沼へと沈んでいく。それを当然とし、それを
至上とし、それを楽園と捉え、七転八倒しながら悶え苦しみ続けるを法悦とするよう己を改造し尽くした、文字通りの修羅たちの世界。
これは、そこで生きるを自ら望み、自ら選び、自らの手で勝ち取ろうとする若者たちの物語である。故に、熱い。生活のすべてに将棋があり、人生の前提に将棋があるゆえに、その将棋に情熱を、執念を、魂を捧げ燃やし尽くしている彼らの日常は、だからこそ一分一秒に至るまで炎のように燃え盛っている。
だから、これは端から端まで火傷してしまいそうなほど、地獄の熱さに炙られている。その熱の質は、決して清々しいものではない。どこか、妄執じみていて狂奔に暮れていて、肉を焦がし骨を崩すようなじっとりとした粘り気のある炎なのだ。
それが、この業界で戦い続けることへの、苛酷さ、凄絶さ、凄味を肌で感じさせてくれる。
年齢など関係ない、高校生だろうと中学生だろうと小学生だろうと、子供扱いしてくれない、戦うものへの敬意と殺意に満ちている。
同時に、同じ将棋という魔境で戦う物同士、棋士同士の間で紡がれる人間関係は濃密で柔らかいんですよね。彼らは対戦相手であると同時に、同じ将棋という沼の底を探りあう同志でもあるわけです。向かい合い将棋を指し合うというのは、自分の奥底を掘り出しえぐり出して導き出したものを曝け出し合い交え合う、という対話を繰り返すということでもあり、勝敗を奪い合う関係であると同時に、戦友でもある。同門の兄弟弟子なら尚更に、毎日何回も何回も指しあって来たわけで……それこそ幼少の頃からそれを続けてきた八一と銀子の二人の間に流れる時間の濃密さ、というのはどれほど尋常ならざるものか。
でも、だからと言って気持ちが通じ合う、というわけでもないのが不可思議であり、人間の底のない複雑怪奇さの証左であるのかもしれない。

わずか一六歳にして、将棋界の頂点の一つである竜王のタイトルを取ってしまった九頭竜八一。しかし、竜王座の重圧は、彼にスランプに引き込み、彼は将棋に対する情熱……いや、将棋という魔に身も心も染め尽くすための執念の熱量を見失ってしまっていた、そんな時に純粋に将棋の深淵に一心不乱に飛び込もうとしている小学生の少女と出会うことで、見失っていたものを取り戻していくのである。
しかし、わずか16歳にして人生の曲がり角を体験し、また9歳にして人生の行く先を自ら必死に齧りついて、他の可能性をかなぐり捨てるようにたぐり寄せる姿は、やはり凄絶ですらある。その歳で、そこまでの決断を強いられるのか、と。そこまで、自分自身全部を賭けなければならないのか、と。
そうしなきゃ、居てもたってもいられなくなるほどの、魅入る魔性が、将棋というものにはあるのか、と。ゾクゾク、震えが来るんですよね。
その辺の狂熱を、さすがは白鳥さん、実に魅力的に描いているわけですよ。魅入られる。
一方で、深遠に落ちるを孤独ではなく、兄弟弟子のそれやライバル同士の高め合い、そして何より師弟関係という、導きあい導かれあい、高め合う、可能性に手を差し伸べる温かさも、しっかり描いてるんですよね。
他者の際限のない才能を目の当たりにしたとき、善意や親切ではなく、ただ自らのうちから湧き上がる衝動として、その才能が芽吹く瞬間を目にしたい、その可能性を花咲かせたい、自らの手で導き高みへと押しあげたい、という欲求。自分の手で育てる、という快感。こうして、道というのは先へ先へと繋がっていくもんなんだなあ。
うん、いい具合に濃いキャラばかりで相変わらずというべきかもしれませんけれど、期待したとおりに面白かったです。

白鳥士郎作品感想

のうりん 10 3   

のうりん10 (GA文庫)

【のうりん 10】 白鳥士郎/切符 GA文庫

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今日はみなさんに、とっっっても残念なご報告があります。
わたし、戸次菜摘は――

結婚 します!!

男子生徒のみんな~! 先生が人妻になっちゃって落ち込むのは仕方ないけど、元気出さなきゃダメだゾ!
だってだってぇ、これから始まる『インターンシップ』で、いろぉ~んな仕事を体験しなきゃならないんだからね☆
男の魅力は出世と収入! いい就職先を見つけて、みんなも先生みたいな若くてピッチピチな奥さんをもらっちゃお~♪

聖夜に起きた奇跡と農業の物語、将来(みらい)へと繋がる第10巻!
これは、おおう。農高卒業後の進路の話は、今まででもトップクラスに衝撃的な話だったかもしれない。凄いよね、これ。この作品の根幹をへし折りかねないどうしようもない絶望的な話じゃないですか。確かに、農業高校に通うというのはそれだけで一つの意思表示であるはずなのに、その農高の卒業生の数に対して実際の日本の農業人口の推移は全然反映されてないもんなあ。これもう、意欲の問題じゃなくて完全に構造問題じゃないですか。
しかも、わりとどうにもならないたぐいの。いや、どうにかする方法はあるんだろうけれど、日本人というのは一度構築されてしまっているシステムを一旦ぶっ壊して新生させる、というのを生理的に忌避してて、とりあえず
手近で出来る範囲でやれることを無理やり取り繕って満足してお終い、というのを得意としているだけに、こりゃああかんですわ。個々では見事に立ち回り、ビジネスチャンスをものにしている人たちもいるのだろうけれど、それが日本の農業の構造そのものを変革する動きになるとは思えない。もしそれがビジネスモデルとして確立したとしても、致命的に時間がなさすぎる。既に、タイムリミットは過ぎている感すらある。
わざわざインターンシップで様々な卒業後の進路先を見せた挙句に、この現状を見せつけてくるあたり、極悪ですらある。
思えば、銀の匙の八軒くんって凄いよなあ。

インターンシップの話で一番印象的だったのは、やはり市役所の話でしょう。これ、モデルとなった人、或いは人たちがきっちり居るんだろうなあ、というのが敬意にあふれた文章からも伝わってくる。正直コレ、システムの不備を個人の才覚ややる気や責任感に押し付けすぎ、という気もするんだけれど、こういう人が少なからず要所要所に存在しているからこそ、この国は回ってるところがあるんだろうなあ。でもこれって、給料分以上、だと思うんだけれど。
あと、この作品のヒロインはやっぱり金上っでいいと思う。スカート金上最高。ってかさ、あの居直り強盗みたいな幼馴染より、よっぽど金上の方が乙女じゃないですか、可愛いじゃないですか、女の子してるじゃないですか。自分、筋金入りの幼馴染ストだと思ってるんですけれど、農については焼畑農業で処分した方がいいと思うんだ。
この娘、絶対ベッキーと同類だと思う。
そのベッキーだけど、もうだめだよ。誰か止めろよ、家族身内の人、なんとかしなさいよ。あれじゃあできるものもできないよ、無理だよ、女として終わっている以前に人として終わってるよw

サプライズとして、まさかの【らじかるエレメンツ】の面々の再登場。作者白鳥士郎氏のデビュー作の登場人物たちですよ。流石にカトウハルアキさんのイラストで認識していたので、最初わかんなかったんですけどね。
作者の中で、実質打ち切りになってしまったデビュー作に気持ちの上で一区切りつけるための、ある意味公式エンディング、となるんですけれど、のうりんという作品のキャパに余裕があってこそだけれど、あの作品のファンだった身としては、こういうのもまた嬉しいです。読み手としても、こういう風に一区切りつけてくれると、ああ終わったんだなあ、と思うことが出来ますし。
しかし、アルミはもっとデコてかってるぞw

シリーズ感想

のうりん 9 3   

のうりん 9 (GA文庫)

【のうりん 9】  白鳥士郎/切符 GA文庫

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忙しい忙しい。…あ、どうも。木下林檎です。農業高校生やってます。今はもうすぐ始まる緑園祭の準備で大忙しです。この学校に来て半年たちました。自分がどれだけ変われたのか、それはわからないけど…毎日がすごく楽しいです。このままずっと、耕作たちとこの学校で―えっ!?あ、あなたは…どうしてここに…!?いやっ!帰りたくなんてない!!林檎を連れ戻しに東京から訪れた最強の相手を前に、田茂農林に集いし仲間たちが立ち上がる!懐かしいキャラクター総出演で農業高校の本質に迫る、友情と祝祭の第9巻!これぞ史上最大の農林一揆!!

前半の体育祭は、悪ノリばかりで勢い任せ、コメディとしてもギャグとしてもパロディネタと、絶叫ネタばかりで正直品質に問題在りだったように思います。なんか、アニメの悪い影響を受けてしまったような感すらあり。原作サイドがそっちに寄り添ってはいかんでしょうに。
ギャグパートにしても、前はもっと緩急というか、間合いや溜めが絶妙だったのに、今回ばかりは雑だった気がするよ。
あと、先代四天王の渡辺カルテットが、本当に渡辺ばかりで作中でも区別できなくて困った!!

本番は後半の緑園祭なんだろうけれど、こればっかりは農業学校特有のお祭なんだろうなあ。ってか、農業学校ってのはどうしてこんなに食べ物が美味しそうなんだろう。
各専科がそれぞれの特色を活かして繰り出してくる商品が、ホントに学生レベルのそれをぶっちぎっている上に、発想やら何かがすごくチャレンジャーなんですよね。銀の匙で、学生だからこそ出来ること、という話をしていたけれど、このいろんな企画にチャレンジして、しかし利益は出すぜ、という根性が素晴らしい。林科と造園科の合作商品には、作中での仰天の叫びに「な、なにーーーっ! そんなんありなんかー!?」と完全に同調して、びっくりしすぎて笑ってしまいましたがな。
こういう学園祭は、ほんと面白そう、というだけじゃなくて実際に美味しいものが食べれて、面白いものが手に入るわけで、こんなに実際に行きたくなるイベントはなかなかありませんよ。これ、モデルとなった学校では実際に行われてるそうなのですから、地元の人達がこれは羨ましい。

あと、あのベッキーは絶対に偽物ですね。いまさらそんな方向で本気出されても、信じられるかー!! クリーチャーのくせに、モンスターのくせに、今更まともな教師っぽく弁舌されても、作中の皆さんみたいに素直に感動とか出来ない!w
しかし、林檎ってまだ笑えなかったのか。あれだけドタバタに馴染んで過ごしていたものだから、未だに表情が固まってしまっている事なんて全然忘れてたよ。多分、これは耕作含めて田茂農林の面々全員の心証だったんでしょうね。ほんと、初期の頃と違って今は誰も林檎のそんな事について言及してなかったし、自然に接して笑いながら彼女を囲んでたんだから。もう、一緒になって笑っているのかと思ってた。
でも、誰も問題に思ってないなら、それで構わないのでしょう。林檎当人も、焦っている訳でもないみたいだし。
農業高校の実態についても、もうこれだけの巻数付き合っていると、ジェニー社長の認識って本当に今更の古臭い認識なんですよね。今回は、そういう今更に思えていることについて一回振り返ってみて、今の時代の農業学校についてスポットを当てよう、という話だったのかもしれない。
じゃあ、ゴールはどこに設定しているんだ、という疑問も湧いてくる頃だけれど。林檎の離脱リミットがこういう形になってしまうと、普通に卒業までこのままの形で、というのもありそうだし、さすがに今から卒業までは長い気もするし。だからといって、ベッキーの結婚が幕引きというのは、純粋に嫌だぞw

……ところで、マネー金上が、なんか今一番乙女している気がするんだが、いいのか?w

シリーズ感想

のうりん 8 3   

のうりん 8 (GA文庫)

【のうりん 8】 白鳥士郎/切符 GA文庫

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乳酸菌とってるぅ? おひさしぶり。バイオ鈴木よぉん。
はぁ……修学旅行楽しかったわぁ……と、特に、畑くんと花園くんの濃厚な絡みが……
腐(フ)、腐腐腐(フフフ)……。
さあ! 次は緑園祭よぉ! 私たち四天農を筆頭に、五つの学科が秋の大祭に向けて準備を進める田茂農林。
みんなとっても楽しそう♪ ……けれどその裏側では、巨大な歪(ヒズミ)が生まれ始めていたのぉ!
うふふ。どうやら私たちの強すぎる農力(チカラ)が、この街(マチ)によくないものを引き寄せてしまったようねぇ……?

四天農最大の危機! 襲いかかる強大な力に、立ち向かえ! 最強の農業高校生(せんし)たち!!

地(ち)湧き巨乳(にく)躍る激闘の第8巻!!
アニメのOPに四天農が一コマも出てこないのがどうしても理解できない今日此の頃。
それはそれとして、イラストの切符さん、もう殆どまともな挿絵が存在しないんですがw 挿絵の数についてはかなり多いんですが、その殆どがネタ絵じゃないですか、って今更か。今更なのか。それでも、林檎さんと金上の可愛い絵があったからそれでよしとするか。
金上というと、実は登場した時って男なんだと勘違いしてたんですよね。あの金の亡者がこれだけ上昇してくるとはなあ。ここ最近の巻の彼女の言動を見ていると、いい加減頭のおかしい連中ばかりの生徒たちの中で、何気にまともだったりした上に、さり気なく女の子っぽいフリもあってアレアレアレ?と思ってたんですけれど……これ、金上ヒロインもありなんじゃないですか? ぶっちゃけ農はヨゴレ系ですし、林檎ちゃんが癖がありつつも単独で頑張ってましたけれど、性格的にもまともな方で家計的にも安心で、かなり可愛いところもあるとか、女性キャラとしてほかと比べて凄くマトモですし、結構胸もありますし……金上ありなんじゃね? 今回なんぞ制服ミニスカート姿を披露してくれて、恥ずかしがってる姿がまたキュンとくる可愛らしさで、むむむむ……。
ちなみに、彼女の主役の話は完全に流通関係の話で一見農業関係ないんですけれど、どんどんネタの範囲が広がっていくよなあ。これも農林高校で勉強する範囲なのか。どちらかというと、経済系の大学の内容に近い気もするのだが。林業はともかくとして、造園もこっちに入るのか。完全にネタキャラかと思われた花園も、こうして偶にまともな話に絡んでくるから侮れないんですよね。造園業に纏わるお話については、毎度のことながら勉強になりました、という感じで。いや、今回一番「え?」となったのは、林業での「森は、二酸化炭素を吸収などせぬ!」でしたけどね。言われてみるとなるほどという理由付けで、さらには一概に決めつけられない様々な要因が絡むようですけれど、何にせよ固定観念としてそういうものだと思い込んでいた事実を、この作品では度々ひっくり返される純粋な驚嘆を味わえるんで、これがまた面白いんですよねえ。
にしても、林業編の世紀末伝説編はホント好き放題やってるなあ、と笑ってしまいましたけれど。これ、ネタ元って考えてみるともう何十年も前になるんですよね。未だに色褪せないネタ元の北斗の拳がスゴイのか、林業ネタで聖帝編をやってしまう本作もスゴイのかw
それはそれとして、良田おっぱいさんがラオウなのか。通りすがりでなにをやってるんだ、この人は。

ラストの金上編は、完全に福本伸行調でお送りしております。単に「ザワザワザワ」が入るだけじゃなくて、セリフの切り方とか、地の文までそれっぽくなってるのは、何気にスゴイなあ、と。その割に、内容の方は深刻に高齢社会と流通問題にマネーの虎と、えらい真剣なものだったりするし。ギャップがごっついw

って、緑園祭まであと何日って毎回カウントダウンしておきながら、緑園祭次の巻に持ち越しかいな!!

シリーズ感想

のうりん 74   

【Amazon.co.jp限定】イラストカード付 のうりん 7 (GA文庫)

【のうりん 7】 白鳥士郎/切符 GA文庫

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ボクの名前は群雲りく。
宇宙一かわいいスーパーアイドルだにゃん?
……けど、ボクのことを宇宙一だってまだ認めてない連中もいる。あの女――草壁ゆかが宇宙一かわいいって信じてるヤツらだ。どっかの田舎の農業高校に引っ込んだアイツの存在は、ボクにとって超目障りにゃ!!
弱ってる今がチャンス。ちょうど撮影で沖縄に行くタイミングと、あいつの学校の修学旅行が重なった。
ふーん、なるほどね。
あの耕作っていう冴えない男のことが気になっちゃってるわけぇ? だったら……。
挿絵とかイラストというのは、文字通り絵であってイラストレーションのことであって、書類がそのまま掲載されていたらそれは書類です……何言ってるか分からないが、私も何が載っているのか意味がわからなかった。ライトノベルを読んでいたら、挿絵の部分に見開きで婚姻届が記載されていた件について。
なんでだろう、すっごいテンション下がるよ? なんか婚姻届を見るたびにアラフォーの怪物が脳裏をよぎるトラウマが植え付けられた気がするよ? 婚姻届なんかそうそうお目にかからないけど!!
それにしても、今回の挿絵の男率の高さは、なにこれ!?というレベルで、実際問題6〜7割くらい男だったんじゃないだろうか。そして、そのほとんどが裸体!! 男の裸体!! Free!!ってなもんじゃねえから! ネタの回収早いよなあ。これ、まだ放映中じゃないか。
そして、数少ない女性のイラストの、そのほとんどがまたアラフォーの女に見えないどころか人間に見えないおぞましいクリーチャー画像ばかりで、何かがゲシュタルト崩壊をはじめてます。たすけて、たすけて。
女性陣の水着やお風呂シーンのイラストは、もう読者と切符さん自身の精神安定剤として指定されたんじゃないかと思えるくらいに、今回のあれはアレすぎました。あもーれ。
という訳で、今回はいつもの農業学校を離れて沖縄修学旅行編。
なお、この修学旅行はフィクションです。
実在の人物、学校、沖縄とは一切関係ありません。
  ……が、一日目のアレは本当にあんな感じだったらしいです。
マジか!? この注釈が、一日目のイベントを見るとガチで泣けてくるんですが。いやいやいや、折角の修学旅行の初日、こんなんだったら泣き叫ぶよ!?

今回は旅先で、林檎のライバルとして今売り出し中の群雲りくとの遭遇イベント。というか、向こうからスケジュール調整して突っかかってきたのか。林檎ちゃんの気に仕方からしても、もっとガチで林檎ちゃんが場所を奪われた相手なのかと思ってたけれど、むしろ林檎ちゃんの存在を気にして引っ張られていたのは向こうの方だったのか。いや、それ噛ませのパターンですから。どうやら、アイドルとしても林檎を超えるのに四苦八苦しているようで、それ以上に林檎が自分たちを放り捨てて業界から去っていってしまった事に衝撃を受け、悔しい思いをしている娘でした。ハチャメチャだけれど、動機やら何やらを見ると結構まともにアイドルしてる子であり、悪い子じゃないんですよね。林檎のこと裏切り者と恨めしく思いながらも、どこか心配しているようでもありますし。
ただ、実態というか本性がこれアウトでしょうw いや、全然悪くないんだけれど、騙されたわっ! ドキドキイベントをどうしてくれるw この涼ちんめ。リアルアイドルでマジでこういう子いないもんかな。居たら面白そうなんだが。
さて、なんかえらい遠回りしたけれど、またぞろ戻ってきて林檎フラグがガチンとそそり立った修学旅行編。前は何故か農の方に転がって変なことになってしまいましたが、今回な林檎の芯にガツンとダイレクトに響いた模様。ただ、その分逆にお別れフラグも立ってるんですよね、これ。痛し痒しだけれど、林檎という子が自分をどこに立たせようとしているか。今は一生懸命農業学校に馴染もうとして楽しんでいるのも確かなんだけれど、
はたしてそこに足がついているのか未だにあやふやな部分があるのも確か。社長の襲来は、ついにそのあたりをついた展開になりそうで、風雲急を告げるか。

シリーズ感想

のうりん 6 4   

のうりん 6 (GA文庫)

【のうりん 6】 白鳥士郎/切符 GA文庫

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HEY! ニッポンの皆さん初めましてだナ!?
ナタリー、テキサスからコウサクを嫁にもらいに来ましタ!
連れて帰って一緒にコメづくりするナ!?
……ナにナに? アメリカじゃ、美味いコメつくれナいって? ノー!! それ違うナ!?
日本じゃナくても日本人に合っタ作物はつくれるし、規模も技術も比較にナらナい!
そしてナにより……ナタリーが一番かわいいナ!? だからコウサク、Will you marry me!?

最後の寮生来襲!
グローカルな規模で超展開する愛と有機の農業高校ストーリー、全世界激震の第六弾!
――日本よ、これが農業だ。
金髪ロリを侮ってはいけない。金髪ロリに油断してはいけない。あれは、ちょっと目を離すととたんに巨大化する怪物のたぐいだ!
その昔、【Phantom of Inferno】というアドベンチャーゲームがありまして……そう、まどマギで今や知らぬものも無しとなった虚淵玄のシナリオライターデビュー作でありますよ。あれで、主人公が保護して一緒に暮らしていた金髪幼女が、ふと生き別れになって目を離していた隙に、巨大化して金髪巨乳になって再登場するという仰天の展開がありましてだね、あれ以来金髪ロリは巨大化するものという刷り込みが既に出来ていたので、精神防御は完璧だw
……まさかとは思うが、ナタリーのこれ、Phantomのキャルのパロディネタじゃないだろうなw

今回の話の主軸となるのは、昨今話題も尽きないTPPについて。名前ばかりが先行して、語る人によってまるで様相が異なるという、今やTPPというものの実態を誰も把握していないんじゃないかという疑いが拭いされない未だかつて無い混沌たる貿易協定。
みんな自分の語りたい部分しか切り取って語らないし、自分の聞きたい部分だけしか切り取って聞かないものだから、端から見ていると同じ協定について語っているのか信じられなくなるくらい正反対だったり相互に無関係に思えるような言が飛び交っていて、何が何やら、というのが正直な感想である。誰が正しくて誰が間違っている、という括りでは捉えられない、恐らくは誰の言も語っているTPPの一部については正しいのだろうけれど、それがTPP全体、参加することで起こるマクロな影響という点に至ると、全く不明瞭になってしまうといういやはやこれほどわけの分からない、参加すればどうなるのか、参加しなければどうなるのか、さっぱりわからない貿易協定もちょっと記憶に無い。
結局のところ、一言で「こうなる」とは言えない本当の意味で包括的な経済連携協定なのでしょう。これに参加することによって起こる出来事は、注目する場所によって事細かに異なってくる。その場所によって異なる一部分を、全体のことのように語るからわけ分からなくなってくるのでしょうね。その意味では、のうりんは最初からこれは一部分の話であると断って肩肘張らず範囲を区切り、この作品の職掌……つまり農業の、説明できる部分の起こりえる影響を、何が正しく何が間違っていると声高に主張するのではなく、淡々と事実のみを、また同じテーマでも相反する意見を並べて話してくれるので、安心して読むことが出来る。意見を押し付けてくるのではなく、考える材料だけを送り出してくれるのだから、本当に良心的な教材なんですよね。もっとも、あくまでこれは小説であって専門書や解説書ではないので、本当にトバ口でしかないのは心得ておくべきでしょう。実際、こうして色々と教えてもらっても、じゃあTPPは日本の農業にとってどうなんだ、と問われるとそんなんわかんない、多分やってみなきゃわからないし、実際はやってみても結論なんて捉える人それぞれによって異なるんじゃないかとすら思える。でも、考える材料というのは必要だし、否定されるべきものではない。その意味では、この【のうりん】は非常に真摯に日本の農業というものに対する理解のトバ口を広げようとしている作品なんだなあ、とちょっとした感動すら覚えるのでありました。

その一方で、他の追随を許さない変態的なイロモノゲテモノ小説であることも絶対的に否定出来ないんですけどね!! なんで、なんでこんなに真面目なテーマを扱ってるのに、ここまでハザードレベルの変態小説なんだろうっ。とても、日本の農業について丁寧にアプローチしている良書ですから、と無邪気に人に進められない地雷原である。作者も勇気あるよね、あれだけ積極的に熱心に農業学校などの現場に取材に行きながら、実際書くのはこれなんだから。こんなん書きました、と取材した人に見せれる勇気!w
いや、いやいや、今回はまだだいぶ大人しかったよ、大人しかった、うんうん。
しかし、これをアニメ化というのも冒険だよなあ。またこれ、癖の多いどころか癖しか無い作品だけに、取り扱いには余程のセンスが要求されるんじゃなかろうか。普通に原作通りにやればいい、なんてこれの場合、何をどうやったら普通の原作通りなのか良く分からんしw
あと、ベッキーの取り扱いにはよくよく注意してほしい。あれは、ガチで放送倫理に違反すると思うので、ちゃんとモザイクをかけるとか、よくテレビ番組で、問題を起こした出演者をうまく編集で消してしまうあれみたいに、うまく画面上から消してしまうような処理をしないと

怖くて見れないから!!

ベッキーは、精神的にダメージが大きすぎますw

毎度ながら、イラスト挿絵の切符さんのフリーダムさは揺るぎありませんでした。もうこうなってくると、すげえ、としか言えなくなってきたぜ。

白鳥士郎作品感想

のうりん 5 4   

のうりん 5 (GA文庫)

【のうりん 5】 白鳥士郎/切符 GA文庫

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現代動物調教研究同好会――通称『どうちょけん』。
それは私、良田胡蝶が新たに創部した、人と家畜の心を通わせるための部活である。

古来より人類は動物を伴侶とすることによって栄えてきた。
畜産なくして人類の繁栄はなく、 だからこそ……ん~? どうちたんでちゅか若旦那?
おなかペコりんでちゅかー? ママが食べさちてあげまちゅね~(ハート)

……そんな私の前に立ちはだかる黒い影! 飛騨高山のライバル校、過激な動物愛護団体、
そして……謎のサングラスの男!! 貴様は――!?

人は虚無の畜産にぬくもりを見つけられるか!?
おっぱい大増量で贈る農業高校ラブコメ、緊迫の第5弾!
――君は、牛の涙を見る。
【SHADOW SKILL】って、幾らなんでもネタが古いよ! わっちが高校生の時だぞ、連載していたの!! って、思って調べたら、ええっ、これ今も連載してるの!? 知らんかった! 全然知らんかった! なんかしらんうちに休載になってそのまま止まってるのかと思ってましたよ。たまに見かけていた販売タイトルはてっきり昔のを新装版にして出し直しているのだとばかり思ってた。
と、冒頭から話がこの作品とは全然違う所に言ってしまったが、今回はわりと全体的に真面目なお話でした。これで真面目なの!? とか言わない。真面目なんですよ。普段はもっと酷いんですよ!
考えてみれば、18歳以下の未成年において家業を除いてこうも日常的に生き物の生死に携わるのってまず畜産系の学校に通っている学生さんたちくらいなんですよね。他、なんかありますかね? 咄嗟に思いつかないんですが。動物に関わる部活などはあるかもしれないけれど、畜産というところは生き物を「生産」し、肉などにして「出荷」する、生かすだけではなく必然的に「殺す」事を求められる場所であります。勿論、慣れることによって日常的に起こる家畜の生死についていちいち考えなくなる、と言うことは当たり前のことなのでしょう。でも、大人ではなく多感な思春期の少年少女たちが、こうした人の都合によって生み出され、消費されていく動物たちに携わっていく、という経験はとても大きなものなんじゃないでしょうか。
登場人物の中でも非常に真面目で目の前で起こることから将来の展望に至るまできちんと向き合い、真剣に考えることをやめない、やめることのできない良田さんと過真鳥継は今回特に人間のエゴによって消費されていく家畜たちの姿に、畜産業の行く末に思いを馳せ、悩むことになる。
本作はもう頭おかしいんじゃないかというギャグが飛び交うとんでも無い作品なんだが(苦笑)、こと現在の農林畜産業というテーマについて語るときには非常に丁寧に今この業界では何が起こっているのかと解説してくれる。それも、一方的な視点によるものではなく、一つの事例についても何が正しいと言わずそれぞれ違う主張を並べて、公平に読み手に考える機会を与えてくれる事には大きな好感と信頼を抱いている。多かれ少なかれ自分の意見が混じりそうな所を、本当にフラットに偏向なく情報を発信してくれるのだから大したものです。こうしたバランス感覚はなかなか養えませんよ。
それでいて、ただ機械的に意見を並べ立てているだけじゃないんですよね。何が正しくて何が間違っているか、どの方法が将来この国を豊かにし、業界をもり立ててくれるか。そこには答えはないのかもしれません、でもそうした正解のない問題とはまた別に、揺るがない倫理観……純朴で誰もが共感できる一番シンプルな倫理観については、一切ブレず厳然と、これは蔑ろにしてはいけないんだよ、と主張して退かない、そうした毅然としたスタンスを貫く様には敬意と安心を覚えるのです。
今回のテーマである畜産というものに対して、最後に良田さんたちが見せてくれたものは、様々な問題に対しての答え、ではなく、最低限の基本的な在るべきスタンスというものでした。決して失ってはいけない姿勢というものでした。たとえ、どんな答えを出そうと、どんな道を辿ろうと、その姿勢さえ見失わなければ……そう思わせてくれる結末であったように思います。
普段にもまして色々と考えさせられるお話でしたけれど、うん……すごかった。そしてなにより面白かった! ほんと、いろんな意味でぶっ飛んだ作品ですよ。

白鳥士郎作品感想
 
12月3日

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11月28日

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11月27日

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