短篇集

カンピオーネ! 18.魔王たちの断章3   

カンピオーネ! 18 (ダッシュエックス文庫)

【カンピオーネ! 18.魔王たちの断章】 丈月城/シコルスキー ダッシュエックス文庫

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カンピオーネ、アルバイトへ!?草薙家の非常識な日常「草薙家のアルバイト」や美少女達の奇想天外な料理バトル「王様の晩餐会」、試験勉強で巻き起こるトラブルを描いた「カンピオーネと勉強会」に加えて、果ては常識外れのギャンブル大会まで!?魔王様ご一行の破天荒な爆笑短編をたっぷり収録!さらにあの最凶の老カンピオーネ・ヴォバン侯爵とアイーシャ夫人の若き日のエピソードが、書き下ろし中編で初登場!最終決戦を前に紡がれる、魔王たちの知られざる断章。神殺したちが紡ぐ最強の新神話、待望の第18巻登場!!
カンピオーネ同士の内ゲバが始まる前に、これまで発表した短編に、書き下ろしの中編をまとめた短篇集がこれ。と言っても、自分はどれもお目にかかっていなかったのでおおむね初見。

「第一話 媛巫女たちと七人目のカンピオーネ」
祐理の妹のひかりに解説するという形で、カンピオーネについて色々と説明する初心者向け導入編、みたいな感じ?


「第二話 王様の晩餐会」
これを読むと、護堂は陸鷹化と甘粕さんの二人とよくつるんでいるのが見て取れる。男同士でだらだら過ごすのが癒やしになっているあたり、ダメダメな感あり。護堂だけじゃなくて、鷹化も甘粕さんもそれぞれ上役の女性に振り回される日々なので、彼らの方も男同士で集まって愚痴る時間が癒やしになってるっぽいのが、なんだか泣けてくる。それでも、呼ばれたらちゃんと顔を出すあたり、モテル男は違うなあ。


「第三話 カンピオーネと勉強会」
試験前にみんなで集まって勉強会をしよう、という本作では極めて珍しい学生らしい一幕を、護堂とエリカ、リリアナ、祐理というメンツで行おうとして、案の定破綻するお話。最初から、勉強するのが目的ではなくて、勉強会というイベントを体験したい、というのが目的だったので、それを達成するために揚々と学生の範囲を逸脱してしまうのが、このメンツである。護堂がさらりととんでもないところで、バイト……というか店長代理をやってたりして、彼が「普通の高校生(笑)」であることが再確認される話であった。


「第四話 王様のゲーム」
自分は勝利を得ながら、実は接待しているというエリカのWin−Winに持ち込む業前は、これ良妻スキルだよなあ。実際、護堂に妥協させるのではなく、気持ちよくいうことを聞かせるコントロールをなせてるのって、未だエリカだけっぽいのよねえ。段々リリアナたちもそのあたりの手管、感触をものにしはじめている感もあるけれど。。


「第五話 草薙家のアルバイト」
この兄にしてこの妹あり。兄がカンピオーネ云々を抜きにして「普通の高校生(笑)」なのに対して、妹の方も当然「普通の中学生(笑)」なわけである。そして、当人たちは兄妹をイロモノ扱いしながら、自分たちの有り様について自覚がなく本当に普通だと思っているあたりも、似たもの兄妹というべきか。


「第六話 ある日の男子?会」
馨と甘粕さんと陸鷹化による、カンピオーネについての雑談。さすがに身近でその脅威を味わってきた面々だけに、その評論は的確なのだけれど、それにしても馬鹿げた人種である。カンピオーネについてだけは、スペック的な数値がまったく意味をなさないわけで、強い弱いがまったく勝敗に関係ない、てのは凄いというかなんというか。少なくとも、この作品ゲームには出来んよなあ。


「第七話 四方山昔語り」
鮫肌の切っ先をつけてると、木刀でもぐさりと刺さる、とかなにそれ怖いw
恵那の通っている学校が、陸軍中野学校みたいなのだったり、彼女がお付き合いある怖い人達は実際怖くてヤバい人たちだったり、というそんな話。そりゃあ、恵那さんも女子高生のくせに非常識で変な純粋培養された野生児になるわけだ。


「第八話 草薙護堂と奥多摩の怪物(脚本)」
ドラマCDのシナリオまるママ。ぶっちゃけ、神獣程度だと何の脅威にも感じないあたり、感覚は変になってるんだろう、誰も彼も。普通に都市壊滅クラスの怪物のはずなのだけれど。そして、何をしても死にそうにないカンピオーネの酷さを堪能できます。


「第九話 神殺し、霧の都に集う」
書き下ろしは、19世紀のロンドンを舞台に、あのヴォバン侯爵がアイーシャ夫人と出会ってしまった頃のエピソード。単に知り合いというには、アイーシャ夫人とヴォバン侯爵、妙に親しげ(というと侯爵キレるだろうけど)だったのを不思議に思ってたんだけれど、なるほどこういう出会いだったのか……。翠蓮姐さんとヴォバン侯爵二人いっぺん相手に回してあれって……このご婦人、本当にカンピオーネの中でもたちの悪さでは飛び抜けてるんじゃないだろうか。強い強くないでいうなら、この人明らかにカンピオーネの中でも飛び抜けて弱いはずなんだけれど、この人をどうにか出来るビジョンが誰が相手でも想像もできない。
そりゃ、侯爵も苦手意識持つわけだ。とはいえ、単に苦手だからといって遠ざけないあたり、侯爵も面倒くさい。

「第十話 内戦前夜」
あかん、翠蓮姐さんからしてヤル気満々だよ。いや、護堂もヤル気満々なんだから、ヤル気ないやつカンピオーネに一人もいないんだけれど。最後の王が登場する前は、もしかしてカンピオーネ七人の共闘があるか、なんてワクワクしていた頃が懐かしいというか、遥か古代に感じるというか。まさか、内ゲバはじめるとはさすがに思わなかったもんなあw
しかし、最新の時期になるともう護堂も完全に自重がなくなってきているというか、自分に言い訳しなくなっているというか。リリアナと術だのなんだの関係なくキスしてイチャイチャしているように、もうメーター振り切ってるんですよね。これでラーマとの対決が終わったらどうなるのか。ほんとうの意味で大魔王降誕しそうw

落第騎士の英雄譚 零 3   

落第騎士の英雄譚 零 (GA文庫)

【落第騎士の英雄譚 零】 海空りく/をん GA文庫

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「なによ、シズクばっかり構って!」
稽古にかまけて相手してくれない一輝に拗ねたステラは、加々美から渡されたゲームで日本文化を学ぶ!?
「ねえアリス、ちゃんと聞いてる?」
一輝が学内予選に初勝利した夜、ステラに一輝の看病を譲った珠雫が、アリスに語った想いとは?ヒートアップするステラと珠雫の嫁姑対決、肝試しでカナタの意外な一面を知る一輝、そして西京寧音との修行で秘策を炸裂させるステラ。さらには黒鉄一輝が破軍学園に入学する前の「落第騎士の英雄譚・エピソード0」を収録!GA文庫マガジン収録の2編もあわせ、6編の語られざるエピソードを収録した、落第騎士の物語・登場!
……ステラってわりとガチで変態入ってますよね。いや、なんか全編に渡ってステラの痛ましい惨状が散見されてしまいましたので。これで彼女が揺るぎないメインヒロインなのですから、本作も大したものだと妙に感心してしまったのでした。

【お姫様の異国文化(HENTAI)体験】
いやいや、乙女ゲーはとりあえずそれだけではHENTAIカテゴリーじゃないと思いますよ? 明らかにヘンタイなのは、それを「使用」してえらい方面にハマってしまっているステラさん一択ですから。一輝もドン引きじゃあないですかw


【珠雫とはじめてのお酒】
当人たちは姉と妹、というつもりなのかもしれないけれど、いくら凪がオネエだからと言って、これは同性同士のやりとりにはあんまり見えないんですよねえ。すんげえ甘えっぷりですよ、珠雫。ダダ甘えじゃあないですか。珠雫がブラコンというのは否定しないんですけれど、それが珠雫当人が言っているような兄妹愛じゃなくて異性への愛情だ、という風に見えないのは、珠雫が隙だらけの姿を見せているのはむしろ凪の方だから、なんだろうなあ。


【真剣勝負!? <真紅の皇女>と<深海の魔女(ローレライ)>】
だからやっぱりヘンタイだって、この姫様。肉食すぎるw
これは、義妹とコロシアイになっても仕方ないレベルのヘンタイである。珠雫は、わりと兄の恋人に対して理解のある方の妹だと思うんですけれど、それでもこの女は殺しておくべき、と思われても仕方ないレベルでヤバいですよねw そりゃもう、抜き差しならないレベルで。しかし、メインヒロインがこれでもか、とその変態性を露呈させられる話も珍しい。一方で、ステラ、お姫様のくせにやたら家事スキル、新婚スキルが高かったりするので始末におえない。ある意味ヘンタイに技術を持たせてはいけないパターンの一つである。
しかし、なんでステラの初裸エプロンを堪能するのが妹の珠雫なんだ、これ?w


【少女の騎士道】
あの個性豊かな生徒会メンバーとの日常イベント。あのメンバー、会長の雷切だけじゃなくみんな本当に濃い人たちばかりだったので、もうちょっとスポットあててほしいなあ、と思っていたものですから、副会長のカナタメインのお話はなかなか嬉しかったり。お嬢様風のカナタですけれど、この人も相当にいたずらっ子というか、いい性格してるんですよね。生徒会、普段から随分賑やかだったんだろうなあ、というのがこの話からも透けてみえます。それにしても、カナタさんほどの実力があれば、本戦も辞退しなくてもかなりやれた気がするなあ。刀華会長置いてけぼりで副会長が前に出るわけにいかなかったんだろうけれど。


【ステラの眠れない夜】
もはやステラが末期に至ってしまっているのを、これでもかと見せつけられるお話。いや、もうあかんのとちゃうか、この姫様。ヒロインとして大丈夫か、というレベルでヤバいw


【落第騎士の英雄譚 エピソード0】
なるほどなあ、一輝って実家からの圧力で学院に無理やり落第させられた、という境遇の割に、先生たちからの待遇は悪くないなあ、と思ってたんだけれど、入学試験でこれだけしっかりと実力、それ以上に絶対に騎士になるんだ、という断固とした意思を示していたら、なるほど現場の人間である先生たちは悪くは思わんか。
なにより、折木先生ほどの学生思いの先生が見てくれていたら、なおさらに。単に一輝が強いから、という理由で受け入れたわけじゃなく、その生き方の危険性、破滅性を見ぬいた上でそれを止めようと身を削って制止しようとしてくれた上で、それでもなお進むのだという決意を受け入れてくれたわけですしね。一輝が心底尊敬しているのもよくわかる、騎士である以上に立派な先生だわなあ。なるほど、あんな仕打ちをうけながら一輝が学校に対して絶望していなかったのは、こういう人たちにきちんと前から支えられてたからなのか。
前日譚としては、非常に面白かった。

ミスマルカ興国しない物語 〜ミッション・シャルロッテ〜 3   

ミスマルカ興国しない物語 〜ミッション・シャルロッテ〜 (角川スニーカー文庫)

【ミスマルカ興国しない物語 〜ミッション・シャルロッテ〜】 林トモアキ/浅川圭司 角川スニーカー文庫

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軍令本部長執務室―その部屋の主たる帝国第一皇女シャルロッテは、マヒロを呼び出し帝シュポ片手にこう告げた。「これは、帝都の危機よ!」「…。」「というわけで、お出かけよ!」シャルロッテ姫の帝国を思う気持ちに突き動かされ、帝都の窮地を救うためにマヒロが東西南北に奔走する!?WEB連載時から話題沸騰の「ミスマルカ」シリーズスピンオフ小説が、書き下ろしと幻の短編「天界クロニクル」を加えて書籍化!
全編ギャグでコメディなんだけれど、そのギャグ調、コメディ調でだって本来のマヒロ王子だと引っ掻き回す方に回るはずで、そのマヒロ王子の鼻面に縄つけて自由自在に振り回すことのできるシャルロッテお姉さまはやはり最強なのである。ガチシリアスでもギャグ時空だろうと、シャルロッテお姉さまにはマヒロは敵わないし頭があがらない。そうであってくれるのが、一番なんですけどねえ。マヒロにとっても、それが幸せになれる最良だと思うんだけれど。この王子は蛇の業にハマりすぎているだけに尚更に。シャルロッテはシャルロッテで、姫として帝国軍令本部長として国と家族を愛するが故に、あえて踏み外して業にハマっている人でもあるんで、彼女にとってもマヒロの存在は救いとして機能してるんですよね。この二人のコンビの意気投合っぷりは、単に性格の相性が噛み合っている、というだけじゃ済まない救済効果があると思うんですよね。
と、底抜けにバカバカしいコメディ話でこんなシリアスな話をしても仕方ないかもしれませんけれど、この腹に一物も二物も仕込むのが常態であるマヒロ王子とシャルロッテ姫が、こんな風に底抜けにバカバカしく裏表のないスチャラカなドタバタ劇を繰り広げて、本当に楽しそうにやらかしているのって、それだけでちょっとした救いなんですよねえ。この二人がそんなことをしていられる、というのはそれだけこの時の帝国が平和だってことですしねえ。まさにいっときの平和なのかもしれませんけれど、ちゃっかりガチで帝国の危機が混じってたりもするのですけれど、でも二人が謀略抜きで馬鹿騒ぎしていられるのは平和な証拠であり、ある意味ここが最終目標でもいいんじゃないかとすら思えるのです。この二人がこうやって馬鹿騒ぎしていられる地点が、ハッピーエンドの光景でなんらおかしくないじゃないですか。
ってか、やっぱりメインヒロインはシャルロッテ姉様がいいなあ。ルナスも悪くないんですが。
概ねシャルロッテお姉さまの水戸黄門的活躍、というか暴れん坊将軍でも良さそうですけれど、折角なので身分隠して世直しするなら、黄門様よろしく助さん格さん弥七にお銀ぐらいのスタッフは揃えてくれても良かったのに。帝国なら、これに伍する人材ならナンボでもいらっしゃるわけですから。……いや、誰居れても血の雨が振りそうだから、やっぱりいいや。

書き下ろし短編は、これミスマルカじゃなくてレイセンの方に入れる話じゃないの? と思ってしまうんですけれど、な【天界クロニクル】。何気に無理やりマリアクレセルさん、皆勤賞狙ってるんでしょうか。これで一応、林トモアキ作品に全登場ということになるはずですし。【お・り・が・み】とかで風邪で欠席していたガブリエルさんはこれが初お目見えかしら。ショーペンハウアーはおひさー。
とりあえず、マリアクレセルのあれはフラグというかフリでしかなかったというか、見事にジャックポット!!
そしてリップルラップルの自由さというか無軌道さというか、キャラなんて捨ててかかってこいよ、というらしさには色々と頭がさがります。なんでもやる魔王だなあ。ってか、ミズノの回し者という以外はなんでもありですよね、このお姉さま。

シリーズ感想

エスケヱプ・スピヰド/異譚集4   

エスケヱプ・スピヰド/異譚集 (電撃文庫)

【エスケヱプ・スピヰド/異譚集】 九岡望/吟 電撃文庫

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鬼虫達のその後を描く本編後日談と学園編を収録した、ファン必携の短編集登場!

『前夜』九曜が鬼虫として目覚める前夜を柊目線で描いた物語。
『幕間/昭和一〇一年の学校の怪談』帝都への旅の途中、九曜と叶葉が廃校で体験した一夜の不思議とは?
『幕間/迷宮電気街奇譚』廃墟の電気街・神原迷宮で九曜達が出会ったのは、機械仕掛けのメイドだった!?
『異説/私立やしま学園』もしも九曜達が普通の高校生だったら。まさかの学園編!
『後日談/ヱピグラフ』黒塚部隊との戦いで生き残った鬼虫達と叶葉は、世界を巡る旅をしていた。彼らにはある目的があって――?
電撃文庫MAGAZINE掲載の3編に加え、書き下ろし2編を収録した特別編!
というわけで、本編終了後の短篇集であります。打ち切りになった作品は終わった後にこんな風に余韻を楽しみ、作品を振り返り、味わいを思い返し、終わりの先を思う為の物語なんて出せませんからねえ。こればっかりは、きっちり完結した作品の特典かと。

【前夜】
九曜にとっての祝福だった少女・柊。蜉蝣の鬼虫に相応しく、瞬くように現れ消えていった彼女だけれど、その一瞬があまりにも鮮烈すぎて、果たしてヒロインとしての輝きはいかほどばかりだったのか、と思いを馳せるものでしたが、こうして前日譚においての天真爛漫な姿を見ていると、本格登場していたら果たしてどれだけ強烈なヒロインとして君臨していたか、とやはりIFを想像してしまいます。とはいえ、柊の場合は鬼虫みんなのヒロインという感じで、九曜一人のヒロインだった叶葉とはいい意味でかち合わなかった気がしますけれど。

【幕間/昭和一〇一年の学校の怪談】
そういえば、本編ってそれこそ本筋の話のみに徹底していて、こうした余談というか寄り道というか、本筋とは関係ない話って全然と言っていいほどなかったんですよね。それだけ、本筋の話がみっちり詰まっていたとも言えるし、わざわざ脇道に逸れてキャラを描かなくても、その本筋だけで登場人物の魅力をきっちり描けるだけ詰め込めていた、とも言えるんだけれど、こうした決して肩に力が入らない話でもちゃんと楽しい作品だったんですなあ、このシリーズ。いや、だからこそ終わった後にこうして短篇集という形で世に送り出せたんだろうけれど。オチがまたなかなか味わい深いもので。このシリーズ、人間ベースの鬼虫たちだけじゃなくて、生来機械であるはずのロボットたちにもちゃんと魂篭ってるのが好きでした。

【幕間/迷宮電気街奇譚】
これもある意味、ロボットたち機械人形たちにも魂があるのだ、と語りかけてくるような話で。方向性はいささかならず、ギャグ方面にすっ飛んでますけれど。真面目な方面だけではなく愉快な方面にもきっちり魂魄実装してます、みたいな? メイド化させられていたムキムキの機械兵士たちのその後が非常に気になるw
戦後の荒廃しながらも復興しつつ帝都、というイメージ、街の様子など九曜や叶葉たちの狭い行動範囲しか描写されていなかったので、こうして一旦とは言え帝都の復興の活況の様子を垣間見ると、なんとなくよりクリアに世界観が見えた気がして、そういう方面でも良かった話でした。あと、叶葉はプロメイドだったのか。

【異説/私立やしま学園】
凄い、学園モノに変換してもまったく違和感がない! 学生から先生にいたるまで、互換性が素晴らしい。キャラのキャパシティが想像以上に大きかったことを思い知らされた。ヤンキー先生はいいなあ(笑
ってか、先生たちが集まって視聴覚室でゲームとか、遊びすぎww
このお話、鬼虫たちもコードネームじゃなくて、人間の時の名前で呼ばれているんですけれど、お陰でこの話で人間名がちゃんと馴染むんですよね。九曜も、真一くんとして改めて頭のなかに入力出来ましたし。
お陰で、後日譚でもすんなり違和感なく入れたのはうまい構成だなあ、と。

【後日談/ヱピグラフ】
鬼虫としての名前を捨て、再び人であった頃の名を名乗り、大陸を旅する真一たち。
平和や平穏の中でちゃんと過ごせるのか心配なメンツだったのですが……ラブラブな真一と叶葉だけじゃなく、他の連中もしっかり平和を堪能して、しかもちゃんと楽しんでいたのを見て、なんだか心底安心した。
というか、このメンツで一番エンジョイしてるのが竜胆さんだった、というのに仰天だよ!! め、めちゃくちゃ旅を楽しんでるよ、この人!! あの堅物が、こんなんなるとは。もっと、平和になってやることなくなって戸惑うタイプかと思ってたのに。すんごい楽しそうだ! エンジョイしまくってる! 馬乗ってはしゃいでるよ、この人w
生きてるって素晴らしいなあ、と何故かしみじみ実感してしまった。
みんな、本当に仲いいし、当てども無い旅だけれどそれをみんな心底楽しんでいる。未来は明るい。良かったなあ、良かったなあ。本編の終わりに、さらに明るさと温もりを与えて貰った気がする。
もう、何も心配することもなく、不安に思うこともない。作者が書き切った、というのもよくわかる。あとは、もう見送るだけでいい。そんな気分。手を振って、笑って見送ろう。さようなら、よい旅を。

シリーズ感想

B.A.D.チョコレートデイズ 44   

B.A.D.チョコレートデイズ(4) (ファミ通文庫)

【B.A.D.チョコレートデイズ 4】 綾里けいし/kona ファミ通文庫

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「人間は、さ。わけわかんねぇ方向から、なんでっていうことで、無理やり救われちまうことがある」
蟲の怪異に怯える私に名も知らぬ金髪の人はそう言った。そして古書店で働く霊能探偵を紹介してくれたのだが――『B.A.D. AFTER STORY』。
狐との決戦後、白雪は未だ小田桐と再会できずにいた。
一族の掟と自らの恋心に悩む彼女の前に婚約者を名乗る男が現れ……『恋しき人を思うということ』
他3編を収録したチョコレートデイズ・セレクション第4弾!
『小田桐は今日も理不尽と戦う』『七海は幽霊を信じない』
毎度の如く怪異に巻き込まれ、肉体的にも精神的にもひどい目にあってきた小田桐くんだけれど、それは大概にして自業自得、起こってしまった事に対して自分から余計な首を突っ込むからで、決して繭さんの事務所で働いているから、という訳ではありませんでした。そりゃあ、繭さんのところに来た依頼にひっついていくから巻き込まれるわけですけれど、その時に余計な事をしなければそれほど酷い目に合わなくても済むケースも多かったですしね。そもそも、彼が繭さんの側に居なくてはいけなくなったのも、何だかんだと彼本人のせいという部分が大きかったわけですし。
とはいえ、何もかもが彼の自業自得というわけじゃあありません。実は彼が余計な被害を被るのは、繭さんじゃなくてとある人物が巧妙に厄介事を押し付けてくるから、という場合も少なくなかったのです。そう、大家代理の小学生七瀬七海の暗躍であります。この短篇集にも二編、彼女によって怪異の解決を押し付けられてしまった小田桐くんの苦闘が描かれております。小田桐くん、その人の良さもあってか自分が七海に厄介事をおしつけられた、という認識が全くないのも哀れなのですが。
この七海ちゃん、自称小学生で実際小学生にも通っている自他共認める小学生なのですけれど、小学生離れした得体のしれない、不気味なところが散見されてある意味繭さんよりも謎な子だったんですよね。あまりにも賢すぎる上に、賢さの方向性がどこか仄暗くて魔女めいたところがあったのです。
長らく、本当の大家である彼女の祖母は、実はとっくに死んでいて七海がそれを隠しているんじゃないか、という疑惑がつきまとっていましたしね。今回、ようやく大家の生存が確認されて、疑いが払拭されたのですけれど。
彼女が本当にいい子だということは、綾とのエピソードでちゃんとわかっていますし、彼女なりに小田桐くんをちゃんと慕っているのも理解しているのですけれど、小田桐くんを巧妙に利用するあのこなれた手腕は彼女が大人になった時が恐ろしくなってきます。あれで、決して他者を利用することを楽しんでいる訳でもなさそうなんですけどね。なんか息をするようにやってるあたりが、ヤバいなあ。

『愛しき人を、思うということ』
白雪さんが、小田桐くんへの愛を貫き通す決意を固めるエピソード。当の小田桐はあの白雪さんに出した酷い手紙以外は登場せず、水無瀬家本邸で話の一切が纏まってしまうあたりに、小田桐という青年の残念さが詰まっているような気がしないでもない。
小田桐くんを愛してしまいながら、白雪さんにはどこか儚げで叶わぬ想いを抱えながら遠くから見つめ続けるような印象が強かっただけに、一度離れて小田桐くんが手紙を送ったあとに再登場したあとの、あの不退転の決意で破滅の道をひた走る小田桐くんの体にしがみついて留めようとする白雪さんの、あの強い意思、断固とした想いにはちょっと圧倒され、驚いたものです。結局、最後まで小田桐くんを救い続け支え続け自分を放棄するのを許さなかったのは白雪さんで、彼女が居なかったらまずこの物語は文句なしのBADエンドだったのでしょう。離れている間に一体彼女に何があったのか、それを物語るのがこのエピソードだったわけですな。
最愛の兄との決別への気持ちの整理、水無瀬家の当主としての責任、それらもろもろに決着をつけて女として一回りも二回りも大きく強くなったお話に、肝心の小田桐くんが直接何も関わらず、白雪さんが一人で乗り越えたというあたりに、最初に書いたように小田桐くん……(苦笑)な気持ちが湧いてきてしまいます。
もちろん、白雪さんの中に小田桐くんへの想い、という捨てられず揺らす事の出来なかった支えがあったからこそ、なんですけれど……でも、この時小田桐くん、白雪さんフッてるんだもんなあ。フラれた事で余計に奮起した白雪さんには感心せざるを得ないです。


『繭墨は今日も僕の隣で微笑む』
時系列としては、繭墨と小田桐くんが一緒に過ごすようになってからまもなく、初期のエピソードにあたるのか。
原点に帰るような、人間の残酷さと醜悪さがこれでもかと詰め込まれたグロテスクな惨劇であり、尤も繭墨が好むお話でありました。案の定、小田桐は巻き込まれ、繭墨は何もせずに惨劇を鑑賞するばかり。誰も救うこと無く、しかし事態はしっかり解決に持ち込む繭さんは、確かに悪趣味なのだろうけれど、彼女は決して状況を悪化させようとはしていないし、ちゃんと自分は誰も救わないと明言して、確認して、念を押してるんですよね。決して理不尽ではないのです。
それでも、この頃の小田桐くんは中々彼女の邪悪な誠実さを飲み込めずに、怒り苦しんでいる。自分がかなり巻き込まれ酷い目にあっているから、というのもあるんだろうけれど。
この頃の様子を思うと、最後のあたりは小田桐くん、随分繭墨に歩み寄り、彼女を理解してるんだよなあ。

『B.A.D. AFTER STORY』
理解しその在り方を受け入れることが出来ても、ずっと一緒に居られるわけではない。本編のあの終わり方からして、繭墨の事務所を辞めた小田桐くんはそのまま繭さんとは縁が切れてもう二人は逢う事もなくなってしまっているのだろうと思っていた。
だから、何だかんだと普通の友人のように、折があえばちゃんと会っているというのが分かって、なんだかホッとしてしまった。良かった、良かった。
本当に、芯からバッドじゃないエンディングだったんだなあ。
後日談であります。果たしてあの後、みんながどのように過ごしているのか、というのが異能に目覚めてしまった一人の少女の目線を通して描かれるのがこのエピソード。
繭墨の事務所を辞めた小田桐くんが、一体どうしたのかは一番気になるところだったんですよね。無職ですよ、無職。その経歴からもまともな職にはつけるはずもないし、これはもう白雪さんに養われるしかないよなあ、と思っていたのですが、何と自立していました。薄給だし繭さんのところに勝るとも劣らずな変な本屋だけれど、ちゃんと就職できたのか……おまけに霊能探偵なんて続けてるとかw
本人は霊能探偵なんかじゃない、と言い張ってますが。実際、雨香もいなくなって当人には何の力も無いですけれど、見える目はちょっと残ってるみたいですし、何より人脈が凄い。繭さんともまだ連絡取り合っているし、舞姫のところにもコネがある。そして、何より白雪さんの水無瀬との繋がり。小田桐くん当人も何だかどっしりとして頼りがいが生まれちゃって、これも嫁さん貰ったからかねえ。まだ、正式には結婚してないみたいですけれど。幸仁がラスボスとして立ちふさがってるみたいですけれど。リアル『神』の試練(笑
でもこの野郎、ドヤ顔で俺の嫁、とか白雪さんの写真掲げてのたまってるあたり、本当にこの野郎め、爆発しろ! あの雄介が辟易とするほどですから相当です。その様子を見てる七海さんがガチで怖いです。まあ雄介もなんだかあの後輩ちゃんとよろしくやっているようですし、舞姫と久々津もあのまま幸せそうで、あさとですらもフラフラとしょっちゅう旅に出て根無し草ですが、あの『猫」と一緒で……。
しっかりと、これ以上無くしっかりと、皆のその後が、不幸も悲劇も惨劇もないその後が描かれて、安心しました。ちらりと語られた、目撃された雨香の様子も……。彼女も、もうひとりの繭墨も決して不幸ではなさそうで。あとはもう一度、あの父娘が再会出来たらいいのになあ、と願うばかり。でも、いつか叶う気がします。いつか、いつか……。

これにて、【B.A.D. Beyond Another Darkness】は終幕。
本当に、素晴らしいシリーズでした。良き物語との出会いに感謝を。

シリーズ感想

フルメタル・パニック! アナザー 93   

フルメタル・パニック! アナザー (9) (富士見ファンタジア文庫)

【フルメタル・パニック! アナザー 9】 大黒尚人/四季童子 富士見ファンタジア文庫

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南カフカスの小国、コルキス共和国。ソ連崩壊と共に独立したこの国は当時、ロシアを後ろ楯とした少数民族との内戦に揺れており、その混乱の中に彼女―アデリーナ・アレクサンドロヴナ・ケレンスカヤは民兵として参加していた。そんな混沌とした政府軍への教導のため、コルキスに派遣された民間軍事会社D.O.M.S.の社長メリッサ・マオは戦場で反政府軍兵士の少女と、数奇な出会いを果たす。「わたしは勝てない相手だろうと、負けるわけにはいかない」今こそ語られる、彼女の知られざる根源とは―!?千変万化のSFミリタリーアクション、追憶挿話!
リーナの過去話はミハイロフに捕まったところで回想として行われると思っていたのだけれど、これを見ると挿入話として描くには密度が濃すぎるし、それ以上にミハイロフ自身の人生の転機もリーナのそれが関わっていて、回想だけで済ますわけには行かなかったというのがよく分かる。
しかし、この話を見ているとミハイロフって、リーナにとって思っていた以上に複雑な存在なのですよね。少女兵、民兵として民族紛争の渦中にあった彼女にとって、ミハイロフは裏切り者ではあるのだけれど、彼女自身自分が所属していた一派に必要以上に思い入れがあったわけではなく、またミハイロフの行為も国の命令によるもので彼の責任とはいえない部分もあり、その上で作戦上の機密を知ってしまって処分されかかった彼女を、軍を欺いて助けてくれたのはミハイロフ当人だったわけですしね。
勿論、ミハイロフにとってリーナを助けたのは矜持の問題の方が大きく、彼女への情だけが理由ではなかったはずなのですけれど、助けてもらった恩は恩ですし、また菊乃たち姉弟たちへの接し方を見るにミハイロフの人間性は子供に優しい部分もあるみたいだし、D.O.M.S.の件があったにせよリーナにとって憎みきれない複雑な相手であるのは間違いない様子。
なんでリーナをミハイロフたちに捕まる形にしたのか、ちょっとわからなかったのですけれど、敵意だけじゃない感情があるなら、一度ミハイロフやナタリアの側に置くというのも話の進展に必要だったのかなあ。
尤も、この民兵時代でのエピソードでマオがリーナに与えた多大な影響は、彼女のマオへの尊敬と忠誠心、親愛の根源となっているので、そのマオ社長を傷つけたジオトロン社サイドには絶対につかないはずなので、むしろこれ、ミハイロフたちへの揺さぶりになってしまうんじゃなかろうか。

【夕陽のサンクチュアリ】は、典型的な原作付き映画がダメになっていく変遷譚w
この徹底した原作者置き去りの改変改変の嵐の様子は、よく映画化のあとで原作者が発狂しているケースの典型なんだろうなあ、これ。表に発言が飛び出しているケースだけで度々あることを思うと、この話のようにグッと飲み込んでしまうケースを含めたら、さてどれだけの頻度になってしまうのかw
若手のアイドルだの大手事務所推しの女優俳優を使うなら覚悟せよ、ということで。それでも、実際のAS使ってるだけじゃなく、PMCまで動員して戦闘シーン撮ってるというだけで、邦画としては充分見所たっぷりなんじゃないでしょうか。

【砂塵の国】は、ユースフの里帰りと国内での意外と難しい立場のお話。ユースフは王位継承権やら、複雑な女性問題など、実は達哉よりも抱えている問題がはっきりしている上に性格がキッパリしているせいか、もう一人の主人公格として存在感を伸ばしてきているんですよね。本編でも彼にまつわる話が多い上に、短篇集でこんな風に彼の家の事情にまつわる深い話までつぎ込んできているのは、それだけユースフの価値があがっているのではないでしょうか。
達哉って、ちょっと主人公としては立ち位置がふわふわしすぎてるんですよね。未だ寄って立つものが見いだせていないまま、ここまで来てしまっている感がある。その定まらなさが物語の主軸だというのなら何の問題もないのかもしれませんけれど、あんまりそういう感じでもないからなあ。

シリーズ感想

デート・ア・ライブ アンコール 2 3   

デート・ア・ライブ アンコール(2) (ファンタジア文庫)

【デート・ア・ライブ アンコール 2】 橘公司/つなこ 富士見ファンタジア文庫

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「さあ、私と――キスをしてくれ!」精霊たちからキスをねだられる士道の一日から、温泉旅行に、文化祭。さらには「休暇……ですか」エレンのプライベートで最強の休日など「デート」の日常が再び登場!!
好感度不動のマックス状態にも関わらず、普段はなかなかデレたところを見せてくれない琴里の、挙動不審にテレたり、あたふたしたり、という珍しい姿を各話で満遍なく見せてくれたので、概ね満足でした。
特に、温泉回では士道の性癖を勘違いして暴走しだす琴里の可愛いこと可愛いこと。普段隙のない娘が、視野狭窄に陥って冷静になれば恥ずかしいことこの上ないことを暴走してやらかしてしまう、というシチュエーションは、やっぱり萌えます。特に、本編では琴里はこういう隙のあるところを見せられない立場にいるからなあ。安心して暴走できるのは日常回しかないものですから、こちらでは存分にポンコツ化していて、ちょっと新鮮でした。
ちなみに、王様ゲームで一番エロかったのは、ぶっちぎりで琴里でしたね。お兄ちゃんにパンツ脱がされるのを、グッと恥ずかしさを我慢しながら堪える妹の図。むしろ、なぜこのシーンの挿絵がないのかと!
そして、日常回であるからこそいつもにも増してクリーチャー化してる鳶一折紙。ただでさえ化け物じみてるのに、もはや人間の枠を超えてるんですけれど、この人。じゃあ精霊かというと、これと同列にしてしまうとむしろ精霊の方が可哀想という……やっぱりクリーチャーだよね。そして微妙に既視感が。この折紙の人間としての踏み外し方、ラブクリーチャー振りって、やっぱり【蒼穹のカルマ】の主人公のカルマ寄りだよなあ。

ラストの書き下ろし短編は、最強の魔術師エレン・メイザースの残念な一日。ってか、最近エレンってちゃんと悪役らしく振る舞えてますけれど、登場した時って何しに出てきたんだ、と思うくらい酷いポンコツ娘だったのを久々に思い出した。何やってもうまくいかないダメっ子だったんですよね。その引き金となるのが、毎度アイマイミイの三人娘。この三人、普通に殺されても仕方ないと思うくらい鬱陶しい絡み具合なんですけれど、よく死なずに済んでるなあ。そして、アニメに毒されてしまって、ミィが「マジ引くわー」、と言わない事に盛大な違和感が(苦笑
エレンについては、ちゃんとした弄り役がいたら、もっと徹底していじめられっ子として活躍しそうな素質が十分あるんだけれどなあ。

橘公司作品感想

カンピオーネ! 16.英雄たちの鼓動3   

カンピオーネ! 16 英雄たちの鼓動 (カンピオーネ! シリーズ) (集英社スーパーダッシュ文庫)

【カンピオーネ! 16.英雄たちの鼓動】 丈月城/シコルスキー スーパーダッシュ文庫

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魔王、囚われの身に!? 平和なクラスで起きた珍事件「囚われのカンピオーネ」、エリカと護堂のある夜の出来事「ローマの休日・深夜版」等短編を一挙収録! さらに古代ガリアから帰還した護堂たちが再び相見えるのは、かつて倒したはずの宿敵たちで…!? 封印されし「最後の王」をめぐる最終決戦の鼓動が、今聞こえはじめる……!!
短篇集、ちょうど時系列的にはシリーズの最初の方から最新のところまで満遍なく流れているのだけれど、こうしてみると護堂のスタンスが順調に変わってきているのが如実に見て取れるんですよね。
例えば、「ローマの休日・深夜版」では、エリカにキスすることに関して、お前は特別だから気軽にキスなんて出来ない、と言っていた護堂さん。エリカとのキスをある意味神聖視していた護堂さんですが、一番新しい話では言い訳とかキスしなければならない理由を抜きにして、純粋に愛おしくてキスしたいからエリカと濃厚なキスにかまけているわけです。いつだって本気のキスしかしない護堂さん、その本気のキスを乱れ打ちに乱発しているんですから、そりゃあ女殺しと言われても仕方ない。まあ、それだけ相手の女性陣も魅力的だからなあ。特にエリカのとびっきりのイイオンナっぷりは、改めて見ても並大抵のものじゃありません。彼女の場合は特に海外欧州付近で二人きりだと、凄く絵になるんですよね。エリカはリードするのも男の人を立てるのも上手い上に、護堂さんもなんだかんだとエスコート上手い人なので、デート風景が十代の初々しいそれとは全然違うんだよなあ。特に欧州だと、海外旅行のお上りさん、という風が全然ないものだから、映画みたいなデートになってしまうわけで。
代わりに、日本の風景が似合うのが祐理。意外と護堂の地元の日常風景が一番似合うのはリリアナだったりするのが面白いところ。祐理も家庭的なのは、南方で同棲してた時にわかったところなんだけれど、彼女上品すぎて護堂の地元の下町に入るとちょっと微妙にズレがあるんですよね。その点、リリアナの方が実は庶民的だったりするんですよね。
恵那については、また別の魅力があるんですが。

さて、今回は護堂さんの天敵……破邪顕正の神様の登場である。二郎真君と言えば、天界で暴れまわってた斉天大聖を懲らしめに駆け回っていた印象どおり、正義の味方というよりはお説教魔というかお仕置き魔というか、邪悪を討つ人というより邪気なく悪いことをしてまわる悪童に罰をくれる人、という印象が強いのですが……案の定、護堂さんも目をつけられてしまいました。仕方ないよね、斉天大聖並に懲りずに大暴れしてる輩ですし、護堂さんは。あれだけ言い訳しているくせに、自覚はあったようで、民衆の敵に対してしか発動しないはずの白馬を自分めがけて発動させているあたり、反省してるくせにこいつ後悔してなさそうだよなあ、と。
しかし、今回さらっと明言されてましたけれど、ちゃんとまつろう神として顕現してしまう前に神様たちが存在している時空、というのが実際あったのか。須佐之男神なんかはまつろわぬ神の成れの果てみたいなものらしいので、果たして神界があるのかとは疑問に思ふところではあったんだけれど。あったにしても、まさか現世に干渉出来るほどのものだった、というのはそれなりに驚き。まあ、パンドラさんとか居たわけだしなあ。

そして、ラストは次巻へと続くファイナルエピソードへの幕開け回。そう、我らがヒロイン、アテナ再誕である!!
なるほどそうか、アテナの再登場、そういう形で用意されていたのか。確かに、以前から神祖という存在は女神の成れの果て、と言われてたもんなあ。
でもこれで、アテナを護堂さんがゲットしてしまう可能性がグッと増えたんですよね。神様の場合はまつろわぬ神としてどうしても狂気に侵されて正気を逸してしまうのは、かのウルスラグナが証明してますし、神様である以上アテナと護堂は決して両立出来ない定めだったけれど、神祖になってしまえばなんとでもなりますもんね。こりゃあ、鴨が葱を背負って来た!?
そしてそして、どうしてこれまで護堂が神様を倒しても倒してもなかなか権能が得られなかったのかがよくわかった。かつて護堂が倒した神様たちの、再顕現である! もう二度とその姿で現れることはないだろう、と言われてしまっていたランスロット姐さんまで出てこられては、興奮は隠せない!!
普通、再生怪人というと完全にやられ役なんだけれど、この神様たちは絶対そんなタマじゃないもんなあ。だいたい、これってまず護堂と再戦、ではないですよね。これって、他のカンピオーネたちと対決パターンです。まさに神の軍団VS魔王軍団という頂上決戦。あかん、鼻血出そうや!!
仮面の風神はドニが相手するようだし、斉天大聖は元々姐さんが狙ってた相手だし。となると、ランスロットやペルセウスも、スミスやアレクあたりと当たりそうなんですよね。うはは、斉天大聖戦での三対三の超絶決戦であれだけ燃えたのに、それ以上の総力戦となると、どれだけ盛り上がることか。
前振りとしては、極上すぎるご馳走じゃあないですか。始まる前からテンションあがってきたー!

シリーズ感想

東京レイヴンズEX2 seasons in nest3   

東京レイヴンズEX2 seasons in nest (ファンタジア文庫)

【東京レイヴンズEX2 seasons in nest】 あざの耕平/すみ兵 富士見ファンタジア文庫

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クリスマスといえばプレゼント交換にミニスカサンタ、そして―式神のひく橇で夜空を飛翔!?未来の陰陽師を育成する機関―陰陽塾。クリスマスとは無縁そうなこの学び舎だけれど、一年で一番盛大に行われるのは、なんとクリスマス・パーティーだった!ただし、呪術が息づくこの場所で、普通のパーティーで終わるわけがなく…。聖夜をはじめ、節分、新入生との交流、三者面談など、陰陽塾に訪れる、四季折々の騒動を綴った短編集が登場!のちに『三六の三羽烏』と呼ばれることになる大友や木暮たちの陰陽塾生時代を描いた書き下ろしも必読。

<第一話・聖夜ランデブー>
孫娘にミニスカサンタ服を実装するお祖母さん。倉橋理事長って、息子と違って人生謳歌してそうだよなあ、これ。陰陽塾あげてのクリスマス・パーティー、しかも生徒はスタッフ扱いって、殆ど塾の私物化だよねw まあこれ、考えてみると文化祭代わりになっていると思えばいいのか。しかし、陰陽塾きっての一大イベントがクリスマス・パーティーって……。しかし、春虎、パーティー用とは別に夏目だけにプレゼント用意してるとか、そりゃ鉄板だよなあ。

<第二話・バトル・オブ・ビーン>
京子と夏目になにさせてんだーー!! いや、これはギリギリもうアウトでしょう、アウト! 大惨事じゃないかっ。いや、怖いもの見たさでアニメで見てみたい気がするけど、このシーン。いや、やっぱり見ると何か大切なモノを失ってしまいそうな気がするので封印の方向で。大友先生は、いらんことしすぎやっ!!


<第三話・新入生十二神将>
あれ? この話って単行本化されてませんでしたっけ? アニメでこの話見た時は、てっきり、鈴鹿が帰ってきたあたりの4巻か5巻に収録されてる話かと思ってた。あんまり記憶に無いなあ、とは思ってたんだけれど。
しかし、アニメは概ねアレなんですけれど、鈴鹿だけはキャラの魅力的にも爆上げなった気がする。


<第四話 銀色の髪の後輩>
春虎たちの後輩の話が出てくるのは初めてか。これって、スピンアウトの漫画のキャラクター? 【Sword of Song】っちゅう漫画の主人公みたいですね。そっちのキャラの紹介、みたいな感じか。同時に、夏目の性別誤魔化す術が対プロ仕様であって、逆に素人相手には隠蔽がうまく作用していない、というのが如実にわかるお話。……これって、夏目が街歩いている時に一般の人にどう見られてるのか、気になるところですね。


<第五話 ティーンズ・ミッション>
大友先生が理事長命令で自分の担当する生徒たちの三者面談をやっていく、というお話、あるいはプレイw
きれいな目で見たら、倉橋理事長が教師としては新任である大友先生に経験を積ませ見識を広げさせるために用意した場、とも言えるんだけれど、完全に面白がってますよねこれ。
いやでも、実際の面談の様子見てると、実に立派に教師してるんですよね。ここまでいいコト、実になる事を言える先生はそうそういないですよ。綺麗事やお為ごかしで繕わず、率直に言ってのけるあたりなんかねえ。


<エンカウンター・トライアングル>
三羽烏こと、木暮、大友、早乙女の三人が学生時代、それも三人が初めて出会った時のエピソードから。
いや、何が驚いたって、木暮さんがこの頃は若干グレ気味だったというところか。しかも、周りからは浮いてて一匹狼みたいだった、というのは意外もいいところ。現在の爽やか青年風からすると、学生時代もみんなの中心で人気者、みたいなポジだと思ってたからなあ。彼が完全に一般人の家系からの入塾者というのも。そう言えば本編のメインキャラも、冬児を除いて殆どが(天馬も)陰陽道の名家の出身だというのも思うと、木暮さんや大友先生ってホント叩き上げなんですよね。いや、木暮さんはこの頃から図抜けた天才だったみたいですが。神通剣はどちらかというと修験道寄りの出身だったのか。
大友先生は、相変わらずというかイメージどおりというか、この頃から飄々と影を踏ませぬようでいて、どこか歳相応というか人間臭い俗っぽさがあるというか、胡散臭いくせに得体のしれなさは全然ない人なんだよなあ。
幼女先輩はこの頃から幼女先輩として幼女愛好家だったようで、この人こそわけわからん。というか、今とぜんぜん変わってないじゃん!! 果たして、男二人に対してロマンスみたいなのがあったのか……全然なさそうだなあ。若干木暮さんが常識人寄りな感じもするけれど、簡単に暴走するし、大友先生は苦労性っぽいけれど、平気で尻尾巻いてドロンしそうだし、幼女先輩はナチュラルに場を大混乱させて平常運転してそうだし……あかん、こいつら三羽烏以前に三バカだw
当時の講師陣の苦労は如何ばかりだったのか。大友先生なんか、因果応報で今の春虎や夏目たちに酷目に合わされているというよりも、むしろこの人が状況を悪化させるケースが度々あるのを見てると、昔から火に油を注いでたんだなあ、となんだか遠い目になってしまった。
しかし、幼女先輩はこの当時から謎すぎるぞ。

ラストシーンにはちょっとしんみりしてしまったけれど、大友先生にはもう一度先生に戻ってほしいなあ。

シリーズ感想

ココロコネクト プレシャスタイム3   

ココロコネクト プレシャスタイム (ファミ通文庫)

【ココロコネクト プレシャスタイム】 庵田定夏/白身魚 ファミ通文庫

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ありったけの気持ちを込めて言いたい。本当に、本当に本当に――

「新たな化学反応を起こすのよ! 」三年に進級した藤島麻衣子が開催したのは、学校全体を巻き込んだ一大イベントだった!
文研部員同士をも激突させた熱き闘いと、藤島の隠された思惑が錯綜する波乱のカップルバトルロイヤルから、
部長に千尋が、副部長に紫乃が就任した新文研部が巻き起こす悪戦苦闘の新入生勧誘活動、
さらには莉奈の『お兄ちゃんの友達チェック』に、卒業を目前に永瀬伊織が振り返る高校生活まで。
シリーズラストを飾る愛と青春の五角形コメディ、美味しいところだけを凝縮したココロコレクト第3弾!
いやあ、伊織さん。貴方、お母さんと同じくわりと旦那さん何人も作りそうな気がするなあ。あんまり誰かとバカップルになる、というイメージが湧かないや。とはいえ、結婚に失敗、という感じじゃなくて、別れても良い関係が続く元ダンナが何人かいるシングルマザー、みたいな?
なんだかんだと、卒業間際には周りはカップルだらけになってしまったせいか、独り身の上に推薦でさっさと進路が決まってしまった伊織が、共有すべき時間から、独りだけ先に足を踏み出してしまった為に、一番身近に卒業、別れというものを実感する流れになってしまっていたんだなあ。お陰で、太一じゃなくて伊織が物語の締め役として主人公みたいな立ち位置になっていた気がする。いや、それ以前から彼女は五角形の中でも特別な位置から他の四人、そして学校のみんなのことを見守るポディションに移行していたので、彼女が幕引き役を引き受けるのは必然だったのだろう。彼女の視点以外に、卒業をまじかに控えたみんなの様子を見て回り、その上で自分を顧みて、続く未来を遠望することの出来る子はいなかったから。当事者と傍観者を併存出来るのはこの中では伊織だけだったからなあ。彼女の視点だったからこそ沸き上がってくる、卒業への感慨である。寂しさと期待が入り混じった、あの時期特有の特別な時間。懐かしくて遠い、もう帰ってこない時間だ。
そんな時間を、伊織を含めてこの子たちは本当に大事にしてくれていたのが、なんだか無性に嬉しかった。
藤島だけは最後までキャラが掴めない、自由に右往左往しまくる困ったキャラだったなあ。妹の莉奈は、本気で姫子と仲悪そう、というかライバルで角を突き合わせる関係になりそうで、いやはやどうするんだろうこれ、太一は。
あー、これで本当に終わりか。心の芯から揺さぶられる、本気の叫びに打たれることの出来る、素晴らしい青春活劇でした。おつかれさま、こんな素敵な作品をありがとう。次回作も、とても期待しています。
じゃあね、ばいばい。

シリーズ感想

東京レイヴンズEX 1.party in nest3   

東京レイヴンズEX1  party in nest (富士見ファンタジア文庫)

【東京レイヴンズ EX1 party in nest】 あざの耕平/すみ兵 富士見ファンタジア文庫

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緊急事態発生! 
平和な陰陽塾に突如、謎の『敵』襲来!!陰陽師を育成する陰陽塾。そこは、強力な結界に守られた日本屈指の安全な学舎、の筈だった。しかし今、その平和は破られた。謎の『敵』は数々の術を駆使し陰陽塾を攪乱、生徒の中には負傷者も発生する異常事態に!狙いは、稀代の陰陽師・夜光の生まれ変わりと噂される土御門夏目なのか!?塾内に響き渡る警戒警報を背に『敵』は愛刀の刃をキラリと光らす。ふさふさしっぽに狐耳…どっかで見たようなその『敵』の正体は!?
陰陽塾でのてんやわんやな日常のほか、春虎と北斗、夏の日の出会いを描いた書き下ろしを含む、シリーズ初の短編集!
東京レイヴンズ初めての短篇集……って、前にも短篇集なかったか? と思ったら、4,5巻あたりが変則とはいえ短篇集でしたよね? あちらは本編に上手いこと組み込む形で構成していたけれど、本編を絡めない短編のみの、となるとこれが初めて、ということになるのか。まあ、本編のほうが一部完となっててんやわんやのさなかに短篇集なんか挟み込めないよなあ。
という訳で、これは春虎たちの在りし日の、まだ雛鳥でいられた時代の最後の残光、などというと大仰だけれど、もう二度と戻れない平和な日々、と思うと感慨深いものがある。
このカラー口絵の投稿時の雑談風景、好きだなあ。あざのさん、盛り上げるときの演出もパないんだけれど、こういう何でもない日常風景の味付け彩りもまた抜群なんですよね。この緩急がより一層場面の盛り上がりに寄与するんだろうなあ。

【第一話 リア★コン】
春虎のお目付け役気取りでありながら実は日常におけるトラブルメーカーなのが夏目だったりするんだけれど、彼女とツートップを織りなす迷惑仕立て人なのが、春虎の護法であるコンなのである。春虎に忠節を誓いながら忠義が白熱しすぎて従順とは程遠い暴走を繰り返す式神、って面倒くさいもいいところなんだよなあ、この娘w
わりと不器用というか、上手くやろうとすればするほど壊滅的に状況を悪化させ破綻させてしまうあたり、結構夏目と似たり寄ったり。相性の悪い二人だけれど、何気に似たもの同士なんじゃないだろうか、この二人。
しかし、ちっちゃいバージョンだとまだ愛嬌あるけれど、本身取り戻したコンは危ない意味で狂信的になってそうで怖いw

【第二話 倉橋京子の挑戦】
京子が勇気を振り絞って夏目をデートに誘う、というまだ夏目の正体がバレてなかった頃ゆえの、ある意味京子の仕方のない空回り。いやしかし、これ見てるとほんとに夏目をどうやったら男の子に見れるんだ、と思ってしまいますよね。京子とのデートなんて、完全に仲の良い女の子同士の街遊びですし。夏目の反応がいちいち普通の女の子なあたりが、夏目の男としての振る舞いが身についていないというかあくまで偽装であって通常運行はどうしようもないくらい女の子なんだというのがよく分かる。
これでバレないんだから、思い込みというのは怖いよなあ。さすが乙式。
ただ、男装云々という観点を除いてこの二人のお出かけを見ていると、実は女の子同士として京子と夏目がすこぶる相性の良いことも伝わってきて、夏目の正体がバレて京子と仲直りしたあと、落ち着いてちゃんと女の子の友人同士としての時間をじっくり取る暇もなく大事件が起こってしまったのが惜しくて仕方がない。結局、彼女たちが女の子同士として普通の時間を過ごす機会がなかったですからね。その意味では、京子が真実を知らなかったとは言え、夏目と京子の貴重なガールズデートシーンだったんじゃないでしょうか。

【第三話 阿刀冬児のロジック】
相変わらず、一人だけハードボイルドというか、渋いエピソード持ってくるなあ、この男前は。大規模霊災に巻き込まれて鬼憑きとなってしまった冬児だけれど、その際彼一人が巻き込まれたわけじゃなく、一緒に居た友人もまた喪っていたわけで、そんな過去の傷跡を抱えながら逃げ出さず、言い訳もせず、黙々と踏破する男の背中がまたかっこ良いんだ。でも、そんな彼を孤高にせず、最大の理解者として見守っているのが春虎であり、尊重しながらもお節介を焼いていて、それを冬児も苦笑しながら受け入れる、二人のこの関係、良いわなあ。

【第四話 ペガサス・ファンタジー】
ラストシーン、あまりにアホな絵面の描写に容易に光景が想像できてしまって、爆笑してしまいましたがなw
天馬、愛されてるなあ……というので片付けてしまっていいのか悪いのか。京子は何気に春虎たちと同レベルで悪ノリするよねw 夏目はストッパー役として弱々なので、こういうケースの場合天馬がいないとどうなるか、というのが如実にわかってしまうエピソードだったのかもしれない。

【トライアングル・ミステイク】
春虎と、夏目が化けた北斗がいかにして出会い、仲良くなったか、というお話。いやこれ、夏目も悪いけれど春虎も悪いよね、というか春虎が悪いよね!! あかん、バカ虎呼ばわりされるのも仕方ないわ。二人が出会ってしまったのがこれほど完全な事故だった、というのはともかくとして、まだ北斗のキャラも定まっていない頃で春虎を前にした時の夏目のバタバタパニックっぷりは目を覆わんばかり。逃げ出すのも無理ないっちゃないんだが、なぜ追いかける春虎ww
これ、夏目が隠していた、というレベルの話じゃなくて、夏目の臆病さが招いた事態ではあるんだけれど、むしろあまりに春虎が馬鹿なんで言い出せなかった、という方が正解じゃないですか。夏目は何やってんだ、と思ってましたけれど、これはちょっと同情してしまうなあ。
でも、夏目にとって北斗となって春虎と過ごした時間がどれほど貴重でかけがえの無いものか、その体験が彼女の中で何を育みどんな想いを抱かせたのかをイメージさせる、良い過去編でした。

あざの耕平作品感想

丕緒の鳥 十二国記4   

丕緒の鳥 十二国記 (新潮文庫 お 37-58 十二国記)

【丕緒の鳥 十二国記】 小野不由美/山田章博 新潮文庫

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「絶望」から「希望」を信じた男がいた。慶国に新王が登極した。即位の礼で行われる「たいしや大射」とは、鳥に見立てた陶製の的を射る儀式。陶工である丕緒(ひしょ)は、国の理想を表す任の重さに苦慮する。希望を託した「鳥」は、果たして大空に羽ばたくのだろうか──表題作「丕緒の鳥」ほか、己の役割を全うすべく、走り煩悶する、名も無き男たちの清廉なる生き様を描く短編4編を収録。
こうした下級役人や庶民の視点から描かれた話を見ると、先代慶東国王の予王が国内のすべての女性を追いだそうとした命令は凄まじい惨劇をもたらしていたのがよく分かる。過去の出来事として聞く分には、無茶苦茶な命令を、というくらいの印象だった覚えがあるんだけれど、当事者たちからすれば悪夢に近かったんだろうなあ。
さて、四篇に渡って描かれる物語ですけれど、一番印象に強く残ったのが死刑制度にまつわる『落照の獄』でした。現代の日本の死刑制度の賛否に纏わる問題に照らし合わせる形で切り込んだ作品で、司法官である主人公が同情の余地のない凶悪な連続殺人犯の死刑について、認めるか認めないかについて煩悶する話なのですが、これが死刑制度に対する思考実験みたいな形になっていて、あらゆる観点から死刑を執行するか否かについて吟味が行われるのですが、これが白眉。死刑というものに対して、賛成と反対、感情と理性、客観と主観、司法と民意、様々な観点、あらゆる視点から語られる議論は賛否どちらの立場にも寄らず、この問題を詳らかにしていて、この話を読むだけでこれらの問題についてわかった気になれるという。さらにいうと、理解出来れば出来るほど、何が正しくて何が間違っているのか、というのがわからなくなって来るんですよね。正しい結論など無い、なんて気取った答えではなく、何をどうした所で間違った結論しか出ないという袋小路の行き詰まりを目の当たりにして愕然とする他ない。
もちろん、これを現代の日本の死刑制度に結びつけるには条件が色々違いますし、そもそも日本は長らく死刑が行われていなかった国ではないので、司法官たちが抱く死刑への忌避感、歯止めを喪ってしまうのではないかという危機感は安易には当てはまらないのですが、かなり考えさせられたのも確かな話。
ただ、彼らの思考を投げ捨てず最後まで感情に任せず、しかし感情を蔑ろにせず、考え続けた姿勢は尊敬に値する。果たして、ここまで真摯に問題に向き合えるものなのか。もし、この真剣にして悲壮ですらある彼らの苦悩に満ちた議論を、そのままの形で民衆に伝えることが出来たなら、彼らが選んだ選択がどんなものであれ支持されたのではないか、と思わないでもないけれど、こういう苦悩は決して当事者以外には理解されないんですよね。
これは、他の三編でも少なからずそんな他者にやるべき事をやり抜いていることが理解されないという傾向がある話で、その意味では第一話の丕緒は、最後の最後で景王・陽子という理解してくれる相手が現れた事は救いであったのでしょうし、【青条の蘭】のように理解されなくても必死さが伝わる場合もある。【風信】のように、実感を伴って伝える事が出来た時もある。
それだけに、【落照の獄】の司法官たちの苦悩の果ての結論は、それが民意に叶うものであったとしても、それが民意におもねらず思考を積み重ねた末のものだったとしても、苦渋と敗北感に打ちのめされた彼らの姿を見ることは辛かった。たとえ、それが間違った結論だったとしても、亡国を招くきっかけになるのだとしても、その考えぬいた末での選択に胸を張って欲しい、というのは酷すぎるだろうか。

黒鋼の魔紋修復士 5 3   

黒鋼の魔紋修復士5 (ファミ通文庫)

【黒鋼(くろ)の魔紋修復士(ヒエラ・グラフィコス) 5】 嬉野秋彦/ミユキルリア ファミ通文庫

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忌まわしき記憶にふりそそぐ、“永世神巫"の光――。大人気シリーズ第5巻!

アーマッドが誇る“筆頭神巫"シャキーラの里帰りのため、護衛に就く封印騎士団。その中には、紋章官になる前のディーの姿が――【永世神巫と落第騎士】
国王より、静養先から帰還する王妃アルムデーナの護衛を命じられたディーとヴァレリア。一方その裏では、ルキウス率いる“青の右手"にも密命が下され――【蜜月の終わり、雨の日に】
甲冑娘ベッチーナが抱える切ない事情――【花々の宴、夏の日に】
本編を結ぶ、重要な三編のエピソードで贈るシリーズ第5巻!

【永世神巫と落第騎士】
ディミタールがどうして封印騎士団を退団するはめになったかという大人の事情のお話。案の定頭が悪くて度し難いほど愚かな貴族の坊ちゃんが絡んでいたか。意外だったのは、ディミタールがもう少し冷酷な立ち振舞に徹するかと思っていたところをかなり甘い対処に甘んじていたところ。あっさり見捨てると思ったんだがなあ。いい意味で彼はドライだと思っていたので、生かしておいても害しかなさそうな連中は消極的に始末していてもおかしくないと考えたんだが。もっとも、それが彼の温情かどうかはわからない。むしろ、恩ある叔母や従兄弟の為に自重して危ない橋を渡らなかった、と見たいところだけれど。
しかし、こういうくだらない連中が蔓延ってたんじゃあ、イサーク王子があれこれ封印騎士団の改革に乗り出そうというのもよく分かる。役に立たないどころか害悪にしかならないものなあ。たとえ、貴族からの集金機関として割り切るにしても限度というものがあろう。その点、集金機能を保ったまま実践能力をもたせようというイサーク王子の目論見は非常に食えないなあ、と感心させられる。

【蜜月の終わり、雨の日に】
王妃を囮に、進行している陰謀を暴き出そうという国王陛下の謀の尖兵として働くことになったディミタールとヴァレリア。何だかんだと華やかな仕事よりも裏方仕事が多いヴァレリアである。それも、ディミタールという使いやすく潰しの効く駒があるからこそなんだろうけれど、きっちり役割を果たせるようになっているあたり、お飾り同然だった当初と比べてかなり使えるようになってきたな、巫女様。しかし、生々しい現実をきっちり把握できるようになってきたとはいえ、その素朴な正義感はいささかも陰っていないのは、ディミタールが口うるさく現実を教えながらも、変に穢れてしまわないように気を使っているからとも言える。何だかんだととても大事にされていることを、ヴァレリアもあれでちゃんとわかってるんですよね。わかっているからこそ、悔しいんだろうけれど。だからこそ、彼に認められたいんだろうな。

【花々の宴、夏の日に】
なんでよりにもよってガチャとイサーク王子にフラグ立ってるんだ!?(笑
いやいや、そのつながりはあまりにも予想外だった。だって、ガチャだぜ? 未だに誰も中身を見たことのないという鎧の小娘に、なんでイサーク王子とのフラグが立つと思うか。まあ、実際はあまりにも身分違いすぎてどうやったってくっつきようもなく、ガチャも自分の恋が夢物語だとわきまえているし、イサーク王子に至っては別にガチャをそういう目で見てすらいない。ただ、イサークが素の顔、油断したというか余裕のない顔を見せたのは本編含めてもガチャが絡んだこの話が初めてなだけに、恋愛感情は抜きにしても結構本気でガチャとの人間関係は大事に思っているフシが在るのがまた意外。何気に王妃さまがガチャを気に入っているだけに、本当にただの夢物語で終わるかどうかは、まだまだ予断を許さないかもしれない。

嬉野秋彦作品感想

僕は友達が少ない ゆにばーす 24   

僕は友達が少ない ゆにばーす2 (MF文庫J)

【僕は友達が少ない ゆにばーす 2】 著:平坂読,アサウラ,あさのハジメ,岩波零,白鳥士郎,鏡貴也/イラスト:みやま零,トモセシュンサク,狐印,榎宮祐,柴乃櫂人,切符,菊池政治,皆村春樹 MF文庫J

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あの『僕は友達が少ない ゆにばーす』が、さらにパワーアップして帰ってきた! ・アサウラ(集英社スーパーダッシュ文庫『ベン・トー』他) ・あさのハジメ(MF文庫J『まよチキ!』他) ・岩波零(MF文庫J『そんな遊びはいけません!』他) ・白鳥士郎(GA文庫『のうりん』他) ・鏡貴也(ファンタジア文庫『いつか天魔の黒ウサギ』他)などなど、豪華執筆陣が集結! さらに原作者・平坂読の幻の短編も収録……!? ここだけでしか読めない、爆笑必至の残念アンソロジー第2弾!
ほんとに、この「はがない」のアンソロジーは意欲的だ。前回の【 俺の彼女と幼なじみが修羅場すぎる】の裕時悠示さんに【やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。】の渡航さん、という二頭を持ってきたのにも驚かされたものですけれど、今度は各レーベルから屈指の変態作家を集めて来ましたよ! 集めてきてしまいましたよ!! 主要作品のイラストレーターとセットで、というところから本気度が伺えます。やっちまった度、と言うべきか。

【鳥と豚】 アサウラ/柴乃櫂人

どうしようもなくアサウラさんです、ありがとうございました。
いや、もう名前見た段階でわかってたんですけどね。どうやったって、【ベン・トー】路線になることは。そもそも、それを期待して呼ばれてきたんでしょうし。その期待に如何なく応えまくった無謀編である。
そして、誰もが小鷹に言ってやりたかったことをこれでもかとぶちまけてくれた、痛快作でもある。さすが、非モテと変態を描かせたら天界レベルの怪作家。ってか、ベン・トー本編では毎回削られてしまって出来ない神田くんたち悪友たちの独演会をやりたかっただけじゃないのかww
個人的には天馬さんとのわっしょいは、あらたな世界が切り開けそうで怖いもの見たさで読みたかった。

【俺たちにはまだちょっとレベルが高い】 あさのハジメ/菊池政治

安定といえば安定、無難といえば無難な「はがない」の短編として混じっていても気が付かないくらいの普通のはがないの話でした。いやこれ、アンソロとはいえ「はがない」の短篇集なのですから、それで何もおかしくなないのですが、この濃いメンツに混じっていると逆に目立つというか目立たないというかw


【理科のせいで俺の様子がおかしい】 岩波零/皆村春樹

実はこの人も、MF文庫では屈指の変態キャラ書きなんだよなあ。著作の【そんな遊びはいけません】のメインヒロインの変態さには、ガチでドン引きした記憶がw
実のところこの【僕は友達が少ない】のキャラクターは、残念度が非常に高くはあっても変態度についてはみんなシャイで真面目なタイプばっかりなので、あんまりどころか殆ど高くはないんですよね。そんな「はがない」のキャラが直球突貫キャラになってしまったら。
小鷹暴走編、である。
正直、かなり笑った。ここまで引かぬ媚びぬ躊躇わぬ、となってしまった押せ押せの小鷹が凶悪になってしまうとはw 一方的に翻弄されまくる理科がまた可愛くて可愛くて。もう理科一択で可愛がってあげたい、という作者の邪な欲望が透けて見えてくるくらいに理科押しな作品でした。


【部長選挙】 白鳥士郎/切符

あんたら自重しろ!!! ええい、やりやがった、やりやがったww
他人の庭だろうが関係なしのいつもの白鳥・切符コンビの大暴れ。いつものイラスト芸の炸裂に、笑い死ぬかと思うたわ!! 
あかん、何度見ても笑ってしまう。ほんとに酷い、これはヒドいw


【伝説の小鳩の伝説】 鏡貴也/榎宮祐

榎宮さんのガチ吸血鬼な小鳩のイラストが非常に格好良いです。本物の小鳩は、格好良い、はさすがに演出出来んからなあ。


【鍵】 平坂読

富士見ファンタジア文庫の【生徒会の一存】とのコラボ企画。とは言え、あちらの話とこの「はがない」では相当ジャンルが異なっているので上手く噛み合わないんじゃないかな、と思ったら案の定あんまり「はがない」らしい雰囲気ではない話になっていた。むしろこれ、前に作者が手がけていた【ラノベ部】をどことなく彷彿とさせる流れだったんですよね。と言っても、【生徒会の一存】という作品について懇切語られているシーンからの連想だったのですけれど、自分の読んだ作品について誰かに熱く語って聴かせる、という形が【ラノベ部】らしくて、ちょっと懐かしい気持ちになった次第。
ちなみに【生徒会の一存】は一巻しか読んでません。

僕は友達が少ない CONNECT3   

僕は友達が少ない CONNECT (MF文庫J)

【僕は友達が少ない CONNECT】 平坂読/ブリキ MF文庫J

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三日月夜空は、十年前に離ればなれになった親友との物語を再び始めるために動き出そうとしていた/高山ケイトは、妹の幸せを喜びながらも寂しさを覚えていた/天才少女志熊理科は、その能力ゆえの孤独を抱えていた/孤高の男子高校生柏崎天馬は、自分に付きまとってくる同級生に戸惑っていた/柏崎家の新しい家令ステラは、お嬢様に対して複雑な想いを抱いていた/そして羽瀬川小鷹が主人公になった時、その裏では……。『はがない』待望の最新刊!
小鷹以外の人物達によって綴られる、一つの奇跡へと続いていく、煌めく奇跡達の軌跡――“繋がりの物語(CONNECT)”登場!!
表紙が公開された時から一体誰なのか気になって仕方なかった金髪少女と幼女の正体は、小鳩と女学生時代の小鷹と小鳩の母親アイリだったようです。アイリが高校の制服を着ているから、時系列が合っていなくて面食らったんですが、そこは時空を超えて、というシチュエーションだったんですなあ。アイリが若くして急逝してしまったのを思うと、親世代の若かりし頃のエピソードを読むとなおさらに、胸にじんとくる良い表紙絵だったように思います。
というわけで、普段は主人公の小鷹視点で送られる【僕は友達が少ない】の世界を、登場人物それぞれの視点から描く短篇集がこのつなぐ物語。
……本編のバカバカしい、どこか夢みたいで現実感がない雰囲気と比べると、いろんな意味で生々しい部分があるんですよね、そこに少々驚かされました。そういう現実的な部分は、【やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。】サイドの専売特許、というか住み分けみたいなのがなされていると勝手に思い込んでいたので。ただ、わりと平坂さんは【ラノベ部】の頃からむしろラブコメの世界に冷水を浴びせかけて現実に立ち戻らせるようなやり方をむしろ容赦なくガンガンとやってくタイプだった覚えがあるので、そういう意味ではちぃと懐かしい気分にもなりましたか。実際問題、本気で恋愛をするなら、結婚という人生のイベントを迎えるなら、セックスをして子供を作り、親になり、社会に出て生きていくなら、夢みたいなフワフワした楽しい世界を放り出さずとも、その中でも最低限の現実を踏まえなければならない、そんな生真面目といえば生真面目な作者のスタンスを垣間見た気がします。何より、親しい人との別れを、家族との死別を経るならばなおさらに。
今回の一連のエピソードでやはり一番印象的なのは星奈の父親である天馬さんの人生でしょう。本編ではそのキラキラネームとブレーキのきいていない突拍子もない暴走っぷりからギャグキャラみたいに定着してしまっている人ですけれど、こうして彼のこれまでの人生を目の当たりにすると相応の人生を歩んでいるんですよね。
この人の話で一番印象的なシーンは、実はステラが来た時にノエルと電話越しに話していたシーンでした。あのシーンを見た時、ああこの人の中ではもうちゃんと青春は終わっていたんだなあ、としみじみ感じたんですよね。小鷹の父親への度の過ぎた友情からどうも若い頃を引きずったままの人なのかというイメージが少なからずあったのですが、ノエルが去った時にか、それともアイリが亡くなった時にか、既にこの人の中ではちゃんと区切りはついていたんだなあ、と。それでいて、自分の学校を面白くしたい、というノエルが残した言葉から生まれた夢はずっと大事に守り叶えようとしている。
印象、ガラっと変わりましたよ。
同時に、やはり平坂読という人はモラトリアムをキチンと終わらせることの出来る人なんだ、という印象を新たにした次第。
これまで繰り返し繰り返し、同じような場所で足踏みしてきたような描写を毎回毎巻じれったいまでに広げて見せてきた本編ですけれど、激震の8巻はついにこの終わらない時間が次のステージに向かった事を示していたのかもしれません。今回の一連のどっか生々しい雰囲気は、そんな確信をより強固にしてくれました。
ステラさんもそろそろモラトリアムなんとかしないと、本格的に行き遅れますよ? 何だかんだとこの人、流されまくってる気がするw

しかし、こうして見ると一番真面目に恋する乙女してるのって、圧倒的に理科ですよね。近刊、もう頭の下がる思いで見直しまくってる彼女ですけれど、天才で浮世離れしているはずの彼女が一番現実にしっかり足をつけて頑張ってるというのは皮肉な話なのか、純粋に賞賛すべきなのか。でも、一番頑張ってるのに一番報われなさそうって、切なすぎるよ。
そして、やっぱりいちばん残念なのは夜空なのか。なんというぶっちぎり残念娘w

シリーズ感想

独創短編シリーズ 野まど劇場 3   

独創短編シリーズ 野まど劇場 (電撃文庫)

【独創短編シリーズ 野まど劇場】 野まど/森井しづき 電撃文庫

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「電撃文庫MAGAZINE」で好評連載中のユニークすぎる短編が文庫化。死体を探しに行く検死官、対局にペットを連れてくるプロ棋士、勇者を何とかしたい魔王、若頭、サンダーファルコン、ビームサーベル、ライオン、うげげげと喋る牛、電撃文庫の妖精等、変態的(?)な登場人物たちが繰り広げる抱腹絶倒の物語の数々。
こ、これはっ!! これはっ!? これは、何!?
メディアワークス文庫から出されている野崎まどの作品から知らない身の上からすると、これはまったくもって期待していたものとは似ても似つかぬ謎の物体! UMA? UMAなのか!? そう、期待していたのとは違うぅ、違うのだけれどっ!! く、悔しい、冒頭からいきなり爆笑してしまった。これはあかんやろ!! いや、あかんやろ!! まさかこの人がこんなん2年近くも連載してはったなんて知らんかったわ。完全にお遊び感覚で、そんじょそこらの人がやってまうとふざけとんのかっとシバかれてお仕舞いな仕様になっとります。実際、小説としては反則も反則、或いは固定観念をリフティングしてしまっているような代物で、これを許せるのが大人なら大人になんてならなくてもいいんじゃないかという……。
結構微妙に面白くもないっ、という話も散見していたりw
こればっかりはかなり読む人の好み趣向が左右するんじゃないだろうか。それくらい、右に左に上に下に斜めに四次元にと偏りまくったお話揃い。まあ騙されたと思って読んで騙された! と怒るのが一番イイんじゃないでしょうか。
私が面白かったのは、冒頭でぶん殴られた【Gunfight at the Deadman city】。
なんか物凄い無茶振りをイラストレーターの森井しづきさんに振っていた、というか話の内容よりもむしろ無茶振りするのが目的だったんじゃないかという【バスジャック】。
しょうもないんだけれど、本当にしょうもないんだけれど、地味に笑ってしまった【苛烈、ラーメン戦争】二編。
そして、もうなんかアレすぎるボツネタな【第二十回落雷小説大賞 選評】。
なんでこの中に混ざってるんだ? どこかに隠された意図が? と思わず本を逆さまにしてしまったしっとりとした情緒あふれる短編【魔法小料理屋女将 駒乃美すゞ】。
きっと科学技術が進んで極まれば、ヒッグス粒子もニュートリノもお茶を点てられる時代が来るに違いない【TP対称性の乱れ】。あれ? けっこう楽しんでるじゃないか、自分。
あと、著者近影は許さない! アニメ版は認められない!

野崎まど作品感想

ベン・トー 9.5 箸休め~濃厚味わいベン・トー~4   

ベン・トー 9.5 箸休め~濃厚味わいベン・トー~ (集英社スーパーダッシュ文庫)

【ベン・トー 9.5 箸休め~濃厚味わいベン・トー~】 アサウラ/柴乃櫂人 スーパーダッシュ文庫

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欲深い、味わい。
狼たちの至極の箸休め!

半額弁当争奪バトルに青春を賭ける佐藤洋は、冬休み明けの部室で槍水の掃除を手伝うのだが、そこで起きたアクシデントをきっかけに禁断のフェティシズムの世界へと飛翔することになり…!? そして白粉が初体験した年末年始のビッグイベントにおける豊潤なエピソードや、それを見守る白梅との過去が明らかに!
書き下ろしの他にウェブ掲載された短編や、雑誌掲載の『間食版』、白粉花の新作『獣道』をアツくレビューする『ANの5時の読書会』まで収録! 様々な意味で濃厚に仕上げた(当社比)庶民派シリアスギャグアクション、狼たちの欲望うずまく9.5巻!!
先の短篇集【箸休め】を、箸休めというには厚いし濃すぎるよ! と喚いたら、今度の短篇集は濃厚と自ら銘打っていた(笑
今度はサブタイトルに偽りなく、濃いは厚いは……そして味わい深いなかなかしっとりとしたお話もあり、と何だかんだと盛りだくさんで、これもまたパーティーサイズとでも言うのか。


【ボーダーをブレイク】

佐藤が基本的に白粉と対して変わらない高レベルの変態だというのを改めて実感するまでもなく奴は変態なのだけれど、それでもなお変態性を畳み掛けてくるあるフェティシズムの局地を、しかし局地と見せずに平常運転で運行している事が尚更に変態性を極めて居るのだということを実証している実録挿話である。
槍水先輩の太ももをモミモミ。
女性の御御足を蹂躙したことはともかく、その感覚を後生大事に寮にまで持ち帰って長く反芻するつもりだった佐藤キモいw
揉む奴も揉む奴、揉まれるヤツも揉まれるヤツ。さり気なく先輩も無防備なので、あらゆる場面で反対の餌食になっているのである。この人もその内悪い男に引っかかりそうだな。ウィザード、なんとかしてやれ。

【簡単な質問】
沢桔梗は末期である……。
この人、ホントになんでこんな得体のしれない方向性に突っ走っちゃったんだ? 「どうしてこうなった?」の実例である。最初からこうだったのなら、なおさら嫌だなあ。しかし、この姉は恋人は姉妹で共有というのは考慮するまでもない自明の事実以外の何物でもないのか。それはそれで凄いが完全にエロマンガの住人である。鏡の苦労が偲ばれる。が、妹が逃げ出さずに何だかんだとこの姉といつもいっしょにいるのは、この面倒くさいほど手間のかかる姉が好き、なのか姉の面倒くさい世話がかかる部分が好きなのかは興味の湧く部分である。もし後者だったならば、案外男の趣味も姉に似た面倒くさい男なんじゃないだろうか。自分では、自分と一緒になって姉の暴走を食い止めてくれる自分側のタイプ、と言っていたけれど。私は、案外高清水くんはこの姉妹と波長の合うタイプの男だと思うのだが。性欲はまあなんとかなる……ならんか。やっぱり、佐藤とその寮のメンツくらいの変態性がないと持たないのか。


【有明の狼】
白粉の夢とは言え、それだけ半額弁当奪取戦とこのお祭りには共通性があるということなのか。レギュラーが茶髪、坊主、顎髭だというのは、白粉の認識の中で彼らの比重は他の二つ名持ちの狼たちよりも大きいからなのか、単に身近だからなのか。顔見知り程度、という距離感がいいのかな。


【間食版4 その存在価値】
間食版は、槍水先輩が新米のぺーぺーで先輩たちに囲まれて居た頃のお話である。こうして見ると、槍水仙って烏頭というひねくれた先輩に、最初はちゃんと可愛がられてたんですよね。性格は悪いけれど、烏頭は烏頭なりに仙を育てようとしていて、仙もそれに応えている。理想的な先輩後輩とは、相性も良くないし、行かなかったんだろうけれど、それでもちゃんとした先輩後輩ではあったんだな。
あと、酢豚とパイナップルの関係は知らなかったよ!!


【白粉花の年末】
……血迷ったことを言うようだが、【獣道】って凄く面白そうじゃね? アンさんの紹介記事が抜群に上手いからなのか、普通に白粉の本が面白いように見えてしまったw
そして、白梅が持ってきてくれたサンドイッチとサラダの美味しそうなこと美味しそうなこと。ただのサンドイッチとサラダのはずなのに、なんでこんなに美味しそうに描写できるんだ!?
どん兵衛の描写も去る事ながら、この作者の美味いもの描写はオリジナル弁当のみならず、むしろこうした普段から食べて味を知っている軽食やジャンクフードの時こそ引き立つのかもしれない。

【だいたいいつもそんな感じ】
佐藤と著莪の平常運転だそうである。特にオチやら前フリがあるわけでもない日常ネタだそうである。
何と凄まじい日常生活風景だよ!!
 佐藤の両腕が著莪の胴にゆったりと巻き付けられてきた。
「……なんだよ」
 佐藤は応じず、膝立ちのまま寄りかかるように体を密着させると、著莪のうなじに唇をつけるように長い金髪に顔を埋めてきた。鼻から大きく息を吸い、そして吐き出した彼の吐息がくすぐったい。
「少し……こうしていたい」
 あまりはっきりとは言わなくても、佐藤がこうして自分の髪に鼻をうずめて犬のように匂いを嗅ぐのが好きなのは、著莪も流石に知っている。だが、ここまでストレートにされたことはあまりなかった。
 著莪はグラスを傾けながら苦笑する。
「別にいいけど、今日のは佐藤のと同じシャンプーとトリートメントだよ」
それでも……こうしていたい。それはいつものような張りのない、佐藤の声。でも、耳のすぐ近くで囁かれると、どこか重みがあるように聞こえた。
他に誰もいない家の中で、二人きり、しかも風呂あがりという状況でこのしっとりとした空気感。ってか近い、距離感がチカすぎるよ、あんたらは!!
この後、普通に二人ちゅっちゅしてますし。キスするくらいはもうなんでもない事なんですよね、この二人。

【やっぱりいつもこんな感じ】
ノーブラTシャツ一枚とショートパンツの著莪と一緒にお風呂に入って抱き合うお話。
いやマジでw
結構……いや、滅茶苦茶エロいです、この話。著莪と佐藤の二人の話は大概エロいんですが、そろそろ限界突破しだしてる。ってか、エロ漫画の領域です、もう。

【間食版 特別編 いい塩梅】
ウィザードこと金城って、わりとくたばってるシーンの印象が強い。最初期の、弁当をダッシュしたものの力尽きて路端で倒れ伏しながら弁当を食ってた、というシーンが焼き付いているからか。倒れても倒れても弁当を離さない、という姿が結構ウィザードのイメージアップに貢献しているような気がする。ああいう姿勢がないと、容易にスカした兄ちゃんになってしまいそうなくらいスタイリッシュで格好良い人だもんなあ、金城って。

【波の音】
著莪と佐藤が二人で遠出して初日の出を見に行く話。この話で著莪と佐藤が、物心付く前から普通にチュッチュしていたという事実が明らかになる。というか、高校生になった今でも同じようにチュッチュしていることが明らかになる。ってか、初日の出を見ながらチュッチュする話である。
……さて、一体誰がどのようにしたらこの二人の間に割って入れるんだ? 


【白梅梅】
白梅梅の愛情が、決して浮ついた思春期の迷いだったり勘違いだったりするのではなく、人生を賭けた熱量の賜物だというお話。その恋は本気であり、その愛は本物である。たとえ、それが同じ女性へ向けたものであったとしても。たとえ、未来に待っているのがどれほど困難で世間から認められない苦行の道だったとしても、既に覚悟は完了しているのでありました。ここまでガチで、冷静に理性的に覚悟しているのなら、むしろ応援したくなる。いいんじゃないですか、その道を征くは。梅さんは、けっこうイイお嫁さんになれるタイプの人だと思ってたんで勿体無いっちゃ勿体無いのだが。ってか、唯一彼女だけは佐藤とくっつける可能性があると思ってたんですけどね。梅なら、著莪も咥えたまんま佐藤を踏みつけられるし……って、発想が沢桔梗の方に走ってる走ってるw
ところで、本作ってちょっとアレを思い出します。
【バニラ A sweet partner】。作者のアサウラさんのベン・トー以前のガチ百合ガンアクションピカレスクロマンの良作。またこの頃からすると随分と違った道に進んだものだなあ、と感慨深い。また、こっち方面も読んでみたいところですけどね。


シリーズ感想

B.A.D. チョコレートデイズ 33   

B.A.D. チョコレートデイズ(3) (ファミ通文庫)

【B.A.D. チョコレートデイズ 3】 綾里けいし/kona ファミ通文庫

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どうしてこうなった……。七海【ななみ】が挑発し、白雪【しらゆき】がプライドを賭け、繭墨【まゆずみ】が油を注いだ料理対決という惨状に、僕は頭を抱える――『クッキング・オブ・ヘル』。学校の時計塔で少女たちが消えてゆく。友人を助けるため、立花梓【たちばなあずさ】は再び嵯峨雄介【さがゆうすけ】に助けを求めるが――『さよならの時計塔』。桜の下で、繭墨あざかはただ不吉に美しい。それ故に僕は絶望するしか出来なかった――『僕が彼女を理解できない不条理』他、全4編で贈るチョコレートデイズ・セレクション第3弾!
本編で雄介が辿ったあまりにも残酷な末路を前にして、私は涙に暮れながらもずっとしこりのように思っていました。彼を正気の世界に留める、日常の世界に押しとどめる最後のくびきのような役目を果たしていたあの後輩ちゃん、立花梓はどうしてこの顛末に寄与する事がなかったんだろうと。
小田桐くんとはまた別に、あの梓という子は純粋なまでの真っ当さを以て雄介に接し続けることで、雄介を絶望から救い続けていたんですよね。彼女は本当に唯一と言っていいくらい、雄介の正気の部分を見抜き、まっすぐに信じ続けてくれていた子でした。雄介は戸惑いながらも、彼女の真っ直ぐさを眩しそうに見守り続けていたのです。そうして、彼は普通の学生というくくりの中に半ば逸脱しながらではありますが、片足をとどめ続けていたんですね。
そんな、雄介にとって重きをなしていた梓が、どうして雄介の破滅に一切関わることがなかったのか、ずっと疑問を抱いていたのです。
その答えが、この短篇集の中で綴られていました。
皮肉にも……彼女の純朴なまでの真っ直ぐさが、雄介を遠ざける結果になっていたなんて。彼女は、梓はあまりにも真っ当すぎたんですね。それも狂ったような真っ直ぐさ、真っ当さなんかじゃなく、朴訥で普通なまでの真っ当さ。それでいて、とても強靭でしなやかな意志を持つ、陽の光の下で後ろ暗い事など何もなく生きていける少女でした。
この子、本当に良い子なんです。普通に負の感情だって持ってます、でもそれに飲み込まれない、怒りや憎しみや絶望に染まり切らない、いつだって俯かずに上を向いて笑える子でした。だからこそ、雄介の本質を見逃さず、彼の見てくれの恐ろしさ、発狂した言動に惑わされず、心から懐いてくるような子でした。
だからこそ、雄介は闇を抱えた自分とは、相容れないと、自分なんかとは関わってはいけない子なのだと、思ってしまったのでしょうか。
梓が巻き込まれた、少女たちのおぞましいまでの捻くれた負の感情に端を発する神かくしの怪異の事件は、この【B.A.D.】においては在り得ないような、誰もが救われ拗れていたものがすべて解きほぐされ、皆が笑顔になり幸せになって終わることができた、奇跡のようなハッピーエンドで幕を下ろしました。
そして、そんな奇跡のような結末を手繰り寄せたのは、立花梓その人だったのです。その事実こそが、【B.A.D.】ではありえない、四方が丸く収まり、闇の残らぬ終わり方を導いた事こそが、梓がこの作品の異端であることを示しているのでしょう。彼女が、繭墨あざかが鎮座し、小田桐くんが首まで浸かり、雄介がたゆたい続ける、腐った血の海の地獄に似た闇の世界とは、決して相容れない人間である証明だったのでしょう。決して、こちらがわとは関わってはいけない、太陽の子だったのです。
闇に落ちた人間には、まぶしすぎる子だったのです。

この子は、とても強い子でしたけれど、本当にただの普通の女の子でした。この子をこれからも傷つけないまま守るには、自分たちのような外側にいる人間は関わらずにいるのが一番だ、と雄介が判断したのは、多分間違っていないのでしょう。この世界の闇は、あまりにも冷酷で嗜虐的で残虐です。数々の事件の悲惨な顛末が、真理を物語っています。これ以上関わり続けるなら、梓も決して無傷では居られない。いつか、致命的な闇を覗きこんでしまうでしょう。
雄介の判断は正しかった。自らの救済を求めず、この子を守るために遠ざかる。その姿は、紛れもなくヒーローです。梓にとって、危ない時にいつでも颯爽と現れてくれた、危なっかしいヒーローは、最後までその雄姿を損なわないまま去っていったのでした。去ったまま、二度と戻って来なかったのでした。
それは安堵を伴う、胸を疼かせる切なさ。
すべてが断ち切られていた事に納得し、ようやく、今になって雄介の末路を飲み込めたような気がします。彼は、戻らぬ先に逝ってしまったのだと。
でも、それがひたすらに哀しいのです。哀しいのです。

シリーズ感想

ココロコネクト ステップタイム4   

ココロコネクト ステップタイム (ファミ通文庫)

【ココロコネクト ステップタイム】 庵田定夏/白身魚 ファミ通文庫

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お付き合いするということは、二人の仲も進展するということ――生まれて初めて恋人ができた桐山唯は、悶えていた。それを見かねた親友の雪菜が、太一&稲葉、中山&石川を巻き込んだトリプルデートを計画して……!? 大混乱の初デートから、五人が互いの第一印象を語る創部ヒストリー、稲葉と伊織の友情秘話に、藤島麻衣子と1年生'Sが立ち上げたプロジェクトの全貌まで! 愛と青春の五角形コメディ、美味しいところがぎゅっと詰まったココロコレクト第2弾!!
最終巻前の、最後の短篇集。
ファーストエンカウンター
後藤教諭によって、無理やり文化研究部なる一所に集められてしまったペンタゴンの馴れ初めの物語。
そりゃあ、五人が五人ともろくに面識も無し。その上独りだけで部活を立ち上げようという個性的な面々なだけに、最初から上手く行くはずもなく……というより、まだ誰にも心開いていない時だからこそ、後々明らかになっていくそれぞれの問題点が、けっこうあからさまに浮き彫りになって、態度に滲み出ている事がよく分かる。特に顕著なのが稲葉なのは言うまでもないけれど、伊織や唯もチラチラと垣間見せてるんですよね。この辺りは、ある程度仲良くなると余計に見えにくくなるものなのかもしれない。まだ良く知らない相手だと、それだけ自分の言動に対して注意深くなるんですよね。そうすると、余計に自分が隠そうとしている部分が浮き彫りになってしまう所がある。尤も、そうした違和感はまだ相手も親しくないからこそ気付かれないものなんだけれど……この時点である程度違和感を捉えていた稲葉は、やはり相当に観察力に優れているのだろう。それも、彼女の臆病さ、警戒心の強さから来るものなのだろうけれど。
でも、それだけに稲葉が不必要に近い関係になってしまうだろう文研部に残ることを選んだのは、運命的なものを感じる。彼女のみならず、五人が五人ともこの五角形に得がたいものを、離れがたいものを感じて、理由のない、合理的じゃない結論に基づき、五人の学生生活を始めることになるのです。
それって、やっぱり運命的な出会い、ってやつじゃないのかなあ。

ふたりぼっちの友情
この巻では、付き合い始めた稲葉と太一のイチャイチャっぷりを楽しめるという事だったので、嫌というほど「お前らもう結婚しろよ!」と言いまくるつもりだったのに……。
そのセリフ、まさか稲葉と……伊織に使うはめになるとは。
「お前らもう結婚しろよ!!」
……え、これ稲葉と伊織が親友になるまでの、友情の物語なんですよね。なんか、読んでて物凄い熱量のラブストーリーにしか見えなかったんですがw
うわぁ……なんか見縊ってました。この二人、自他共に認める親友同士でしたけれど、ここまでガッチリと絆で結ばれた、ZEROどころかマイナスから鍛え上げられたマジものの友情の結実だったとは。これ、異性間の話だったら太一でも割って入れないわ。ムリムリムリ。稲葉がガチで男前すぎる。どこだよ、デレばんw
ここまで相手を理解したもの同士の厚い友情を見せられると、稲葉と伊織なら……いや、彼女たちに限らず、文研部の五人なら、たとえあの「フウセンカズラ」の陰謀、或いは試練がなかったとしても、それぞれのトラウマや人間的な弱点、迷路の元を克服できたんだろうなと思える。確信に近いものを抱ける。確かに、「フウセンカズラ」の起こす現象は、五人の心象をさらけ出し直面させることで、五人の関係を尋常ならざる強固なものへと成長させたのですけれど、決して必要不可欠なものではなかったと、外からの介入なしで自分たちだけであれだけの関係を築けた伊織と稲葉を見れば、断言できます。正直、この話を読むまではあの五人の信頼関係は、あれらの事件あってこそ、と思ってたんですけどね。
ちょっと、この子たちを見くびってたかもしれない。

デート×デート×デート
藤島さんよりも、雪菜の方がよっぽど恋愛マスターじゃないかw
この学校、逸材が多いなあ(笑
というわけで、期待のトリプルデート編。カラー口絵の三人娘のファッションチェックは、これ至高の一品ですよ。特に、やはり好みは稲葉でしょう。この衣装、ガチで好みドストライクなんですが。
彼氏彼女として付き合い始めたにも関わらず、未だにちゃんとデートもできていない唯と青木、そして先の巻でくっついた中山ちゃんと野球部の武士・石川くんの関係のじれったさに爆発した雪菜と、完全に面白がってる伊織プロデュースで、安牌の稲葉・太一カップルを巻き込んで、トリプルデートが企画されるというお話。
初々しさが爆発している中山ちゃんと、色々踏み外してる唯、そしてもはや熟練カップルの域に突入してしまっている稲葉んの三者三様のデート模様が実に楽しい。むしろ、はっちゃけまくってる雪菜と伊織を見てるほうが楽しい気もするが、いずれにしてもニヤニヤ。
にしても、稲葉んは既にデレばんの域を通り越して本気で何年も付き合ったようなカップルになってるなあ。まったく、どんな修羅場を二人で潜り抜けてきたんだろうw
と、思いきや肝心なところでは、きっちりデレばん来ましたわーー!! はい、ゴチになりましたぁ!
一方で、傍目はチャラ男そのものな男だけれど、青木はこいつ、まったく器でかいよなあ。言動こそ軽薄で軽々しいんだけれど、その実懐深くどっしり構えて何でも受け入れる度量があるから、唯も悪い意味で切羽詰まらずに要られるんでしょうね。この娘、ついつい暴走する分自分を追い詰める傾向があるっぽいんだけれど、青木の存在は唯に迷走する自分を許容する余裕を与えてくれているようにも見える。
要は、お似合いのカップルという以上に、この二人は付き合ってお互いにより良い影響を与え合えるカップルなのでしょう。
もう、お幸せに〜、てなもんだ。

この我が道を行く疾走
いやあ、本当に藤島さんという人は自己完結した人だなあ(笑
以前にも同じ感想を持ったものだけれど、この人わりと足元緩いというかふらふらと精神的に覚束ないところがあるわりに、結局自分一人で結論出して立ち直っちゃったりするんだよなあ。あれだけ周りをよく見ているにも関わらず、それを全く自分と絡めて捉えていないというか、自分と絡めた上での関係を全く意識していないというか。以前にも藤島さんは部外者とはいえないくらい、ペンタゴンに踏み込んできた事があったんだけれど、その時も自己完結して一人で満足してとっとと立ち去っていっちゃったもんなあ。
面白いのは、この人は自分一人で完結しているくせに、その言動は否応なく周りを巻き込んで振り回し、大騒動を引き起こしてしまうという特性を有しているところでありましょう。そのお陰か、何故か藤島さんは孤独という単語からは程遠い(笑
……ただ、渡瀬は深刻に女の趣味が悪いと思うぞ。いや、あれがデレた姿は無茶苦茶見てみたい気もするが。

なんか、紫乃と千尋にもフラグが立っていい雰囲気だし、あっちゃこっちゃで恋愛風が吹き荒れてるねえ。

と、平穏で賑やかで幸福な日常が戻ったかのようなペンタゴンとその周辺ですが、それとなく不気味な風が吹き始めている描写がチラホラと。これが、最終巻の伏線か。前巻で、フウセンカズラたちが恐ろしく不穏な話をしていただけに、こいつは大波乱必至か。

シリーズ感想

B.A.D. チョコレートデイズ 24   

B.A.D. チョコレートデイズ(2) (ファミ通文庫)

【B.A.D. チョコレートデイズ 2】 綾里けいし/kona ファミ通文庫

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『B.A.D.』な日常と過去に迫る短編集第2弾!

「小田桐【おだぎり】君の好みは、ビキニだよ」繭墨【まゆずみ】あざかの手紙に水無瀬白雪【みなせしらゆき】は首を傾げた。一族の復興と、亡き兄を思い胸を痛める日々に降って湧いた疑問。彼が喜ぶビキニとはなんだろうか――『白雪は「びきに」を知らない』。私は繭墨あさとが怖い。その親友、小田桐勤【つとむ】も苦手だ。彼らの前で表情を作りそびれたあの日から、私の平穏な学校生活は不安に苛まれるものとなった――『私と異分子な彼と彼女と狐』。他2編で贈るチョコレートデイズ・セレクション第2弾!

短篇集というと、本編より軽めのコメディタッチな話になるものなんだけれど……【B.A.D.】だもんなあ。いや、まあ確かに本編に比べてみれば確かに明るめの前向きのコメディタッチな話なんですよ、だいたいどの話でも。ただ、あくまで相対的に、であって元々【B.A.D.】が底抜けにダークネスな話だけあって、それからやや明るめになったとしても、一般的な観点からしたら暗めの話だよなあ。
うん、でもそれでもどれも前向きに終わっているあたりは、ちゃんと短編集しているのかもしれない。


『白雪は「びきに」を知らない』
び、ビキニも知らないのか! というかこの人、水着自体知らないっぽいぞ!? 浮世離れにも程がある。さすがは小田桐くんなんかに惚れ抜いてしまうだけある。件の静香の件もあって、もしかしたら小田桐くんはヤバい系の女性に好かれるたちなのかとも疑ったのだけれど、白雪さんは世間知らずではあるけれど人間的にはとてもちゃんとした人なのでどうやらその可能性はないようだ。単に、男の趣味が悪いんだな、というほど小田桐くんが悪い男とは思わないけれど、彼は静香やあさとのお陰でいい具合に人間としてひしゃげちゃってるからなあ。
そんな、ある意味人として終わっちゃっている男に惚れてしまった白雪さんですが、この人の偉いところは決して小田桐くんの存在に依存しているわけじゃないところなんでしょうね。彼のお陰で異能の一族の当主として押し殺していた少女としての弱さを取り戻してしまった彼女ですが、その弱った部分を小田桐くんで穴埋めしようという心づもりは全くない。それどころか、この短編では敬愛する兄に裏切られ挙句に喪ってしまった心の傷と、取り戻してしまった弱さを白雪さんは自らの力で克服していくのだ。取り戻した弱さによって、閉じ込めていた思い出を掘り返し、兄との関係が痛みと絶望だけで彩られたものではなく、確かに温かいもので結ばれていた時間があったのだという大切な記憶を手に入れる。そうして、彼女は硬くも脆い殻で覆われた異能の一族の長としてではない、弱く柔らかくも内に芯が通り、折れる事も砕けることもない本当の強さを持った人間へと自ら成長していっているのだ。
あの、小田桐くんを叱咤しに現れた白雪さんは、こうして織りなされて言ってたんだなあ。
そんな白雪さんの成長を支えていたものこそ、小田桐くんへの思慕なのだけれど……叶わぬ恋になってしまうんだろうか。白雪さんには幸せになって欲しいのだけれど。

『テディベアに願うこと』
繭さん、そんなに「神」のこと苦手にしてたんだ。あれが絡むと普段では絶対に見られない繭さんの一面が垣間見れて面白いw 繭さん繭さん、動揺しすぎ、ビビりすぎ(笑
さてもこれは、終わりが爽やかすぎて本当に【B.A.D.】か、というレベル。幸仁の人の良さ、純真さがまっすぐに良い結果を手繰り寄せたような話だったなあ。微妙に報われなさそうな、幸薄そうな、虐めたくなるような幸仁のキャラクターは、当人からするとご愁傷様としか言いようがないのだけれど、本作でも数少ない癒し系なので、どうにかそのままで居て欲しい。


『七海と雄介の危険な一日』

こうしてみると、雄介って本当に人間として人生終わってるんだなあ。狂気と正気の狭間をふらついている彼だけれど、彼に関しては正気に戻ることは決して幸せなことじゃないんですよね。むしろ、正気に帰れば自分がほんとうの意味で壊れてしまうことを彼は自覚している。狂気に溺れていることが唯一彼がまともで居られる道だなんて、それこそ狂った話である。
そんな、とても人間の世界で生きていけなさそうな男とガチンコで接しているこの七海さんという小学生は何者なんだろう、ホント。事情は何も知らないはずなのに、感覚的に七海って雄介の狂気と正気をまるごと受け止めている節があるんですよね。その上で嫌いまくってるようなんだけれど、少なくとも彼の狂気と正気をより分けようとは一切していない。それもこれも、雄介という人間として区別なく丸ごと捉えている。小田桐と繭さんを除けば、この七海こそが雄介の理解者、というのも不思議な話だ。これだけお互い嫌ってるのにねえ。まあ、嫌っている割に憎みあっちゃいないし、わりと一緒に行動するし、罵倒の応酬とはいえ無視せず喋っているあたり、実際どうなんだろうと首を捻りたくなるところだけれど。


『私と異分子な彼と彼女と狐』

高校時代の小田桐くんとあさとと静香の過去話。お、小田桐くん、全然キャラクター違うじゃないか。この頃、本当に普通の主人公みたいな子だったんだなあ。それが、こんな酷い有様になっちゃって。人間マジ変わってるし。……これ見てると、あさとが仕組んだとはいえ、小田桐くんを完璧に破壊してしまったのってどうみても静香だよなあ。この女、怖すぎ。なんでこんな二人に関わっちゃったんだろう、彼は。そこまで悪いことしたんだろうか。なんかもう、かわいそうになってきた。自業自得と言える要素なんて何処にもないのに。

俺の妹がこんなに可愛いわけがない 94   

俺の妹がこんなに可愛いわけがない 9 (電撃文庫 ふ 8-14)

【俺の妹がこんなに可愛いわけがない 9】 伏見つかさ/かんざきひろ 電撃文庫

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今度の『俺の妹』は“それぞれの視点”で描かれる特別編! 
さらには意外なコラボも!?


 あのルリ姉に──好きな人ぉ? どーせ脳内彼氏でしょ? (8)巻の顛末を黒猫の妹・日向の視点から描いた『あたしの姉が電波で乙女で聖なる天使』。腐女子の妹を「世界一可愛い」と豪語する、もうひとつの“残念な兄妹”の物語『俺の妹はこんなに可愛い』。いくつもの“顔”を持つ沙織・バジーナの“ルーツ”に迫る『カメレオンドーター』。桐乃に“トラウマ”を植えつけた瀬菜の恐るべき行動とは?『突撃 乙女ロード!』。お兄さんが彼女と別れたのって、もしかして……私のせい? あやせのフクザツな乙女心と、加奈子のライブ楽屋裏の一幕『過ちのダークエンジェル』。ほか『真夜中のガールズトーク』『妹のウエディングドレス』2本を収録! さらにはアニメOP主題歌を担当した「ClariS」とのコラボが実現! 原作の主題歌『nexus』の発売や、作中に「ClariS」の二人が登場するなど驚き満載の特別編!!
なんだよこれ、どいつもこいつも重度のシスコンとブラコンばっかりじゃないかw その中でもカラー口絵の加奈子のコメントは際立ってた。加奈子はこれ読む限りはシスコンとは違うんだけれど、素直じゃないひねくれてるほかの連中に比べて、実にストレートなんですよね。なんか、ニヤニヤを通り越して微笑んでしまった。

【あたしの姉が電波で乙女で聖なる天使】
かっけぇ! なんだこの人!?
いかん、思わず妹・日向とシンクロしてしまったがな。時々京介って素でカッコイイんだよなあ。スカしてるわけでも気障にカッコつけてる訳じゃないんだが、なんだこいつ!? と目を剥いてしまうようなカッコイイ時がある。勿論、そこに至るまでにみっともないくらいにグダグダやっているのは、京介視点の本編で嫌というほど味わっているんだけれど、それを踏まえてなおカッコイイんですよね。惚れるわぁ。
まあ、最近かっこ良さに比例するようにキモさも右肩あがりなのですが。京介兄やん、まじキモいです。
というわけで、こまっしゃくれた五更家の次女日向の視点による黒猫が京介と付き合いだし、別れてしまった時の一部始終が描かれているのですが……黒猫、はしゃぎっぱなしじゃないかw
家族の前では建前も何も吹き飛んでいるので、京介や桐乃に対する感情も訴訟されかねないほどの勢いで垂れ流し。黒猫、あんたそんなに京介と桐乃のこと好き好き大好き超愛してる、状態だったんだな。もう、デレッデレである。8巻でも充分デレッデレかと思ったけれど、あれは京介の手前まだまだ澄ましてたんだというのがよくわかる。しかしまあ、黒猫め、随分と妹に心配かけてるんだなあ。基本的にいいお姉ちゃんしているとは思うけれど、あんまり妹に生暖かい目で見守られるような真似はしないほうがいいと思うぞ、うん。
妹ちゃんの視点ということで、彼氏として連れてこられた京介のことも語られているのだけれど、思ってた以上に京介って慕われてたんだなあ。懐かれた、とも言う。すっかり五更家に馴染んでいるあたり、この男、人様の家庭にするっと入り込むの得意だよなあ。田村家だけじゃなかったのか。
あと、桐乃が京介並みにキモいんですが。こいつら、確かに血の繋がった兄妹だよ……兄妹揃ってこれ、ということはあの両親のうちのどちらかも、この手のキモ属性持ちなのか!? ……多分母親だな、あれは。


【真夜中のガールズトーク】
桐乃視点である。繰り返す、桐乃視点なのである。
……桐乃、お兄ちゃん好きすぎるだろうw しかも、最近の一連の出来事や黒猫との一件を通して、どうも理想の枠で括った虚像ではない、等身大の在るがままの兄貴に惚れてきているようだし。それでも兄貴には期待しちゃうのか、この娘は。可愛いなあ、もう。
彼女の独白を聞いていると、どうして京介と一時期疎遠になったのかがうっすらと見えそうなことをつぶやいているのだけれど、それよりも注目はあの発言ですよ。……もしかして、桐乃の真奈美への感情って思ってたようなただの敵視とは違うのか?
あと、黒猫の親父さんと京介がなに話してたか異様に気になるんだが(笑
とりあえず、桐乃はやっぱり京介の嫁は黒猫がいいみたいだ。どう聞いてもこれ、黒猫を応援しているようにしか聞こえないしw


【俺の妹はこんなに可愛い】
赤城兄妹は正直ヤバいレベル。むしろこの二人が存在しているお陰で、京介と桐乃がまだマシで健全に見えてくるという不思議、あるいは計算しつくされた配置?
兄貴が妹狂いなのは前から堂々と表明されてましたけれど、これ妹の方も相当にイッちゃってるじゃないか。もうちょっと冷めて単なるネタ扱いなのかと思ったら、完全に相思相愛じゃないかこれw
正直、桐乃と京介よりも高い確率で将来社会的に認知できない関係にマジで陥りそうだ。
それにしても、まさか京介が白昼堂々、赤城とどっちの妹が可愛いか対決なぞはじめる時代が来るなんて。京介、お前もう自分がシスコンだと隠そうともしてないな、おい。
いきなり赤城の妹自慢に俺の妹の方がガチで可愛いんだよ、とキレだす京介。末期だ、リアル末期だ。
そして、京介の妹対決に負けたくないから可愛い写真よこせのメールに、罵倒の返信とともにちゃっかりポーズ決めた写メを送る桐乃さん……だ、ダメだ、この妹の方ももうブラコン隠そうとしてねえw
京介……お前、携帯に妹とのツーショットプリクラ貼ってるのかよ……スゲエな、本気で末期だ。


【カメレオンドーター】
槇島沙織が如何にして沙織・バジーナになったのか。彼女が如何にして自分のサークルを作ろうと思うに至ったか、のお話。以前にちらっとだけ触れられていた、彼女が失ってしまった遊び場のお話ですな。沙織も考えてみるとこれもシスコンの一種なのでしょうけれど、こちらは正しくコンプレックスだなあ。尊敬もしてるし目標とすべき人物なのでしょうけれど、それ以上にむかつくし腹が立つし頭に来るし、と天敵そのもの。彼女に関してだけは、姉が嫌いだ、というのは間違っていないのでしょう。それでも、家族なんだよなあ。
それにしても、一連の黒猫恋人問題について完全にハブられてた事に関して切れまくる沙織が、壊れたw 


【突撃! 乙女ロード】
桐乃の友達との付き合い方は、今となってみるとなかなか面白い。特に、一般人とは違うオタク仲間とのそれだと。オタクはオタクなんだけれど、わりと対応が卒ないんですよね。このへん、沙織とは別の意味で合わせるのが結構上手い。やろうと思えば出来るんだよな、この子は。
で、先の兄貴たちの妹自慢大会を繰り返すように、こちらでは兄貴自慢大会に。桐乃も言うようになったなあ……ってか、お前も携帯にプリクラ貼ってるのかよ、隠す気ないのか!?
しかし、京介のシスコンは桐乃の口から聞くと、酷いな。どれも事実なんだよな。なんかもう、人として終わってるレベルですよ?


【過ちのダークエンジェル】
……あやせェ。
この女、もしかしてぶっちぎりでダメなんじゃぁ。前に京介を監禁調教しかけた時から薄々怪しいと思ってたんだが、思考の方向性が明らかにおかしい。なるほど、ヤンデレになる素養というのはこういう部分から垣間見えるのか。本格発症する前の段階でその顕著な傾向を確かめられるケースは稀なだけに興味深いサンプルだ。皆さん、ここのヤンデレ予備群がいますよ、注意!!
ってかさ、あれほど本気で京介に付きまとわれるの嫌がってたくせに、相手の反応が淡白になりはじめたら途端に物足りなくなってむくれだすって、アレだよね、相当にアレだよね。いやよいやよも好きの内、というレベルじゃないぞ?
……マジで今のあやせなら、セクハラしても許してくれるどころか、むしろやめてくださいと口では言いながらもっともっとと強請ってくる可能性を! 否定! 出来ない!
ところで、新キャラの【ClariS】ってなんぞ? と思ったら、主題歌歌ってた人らかいね。凄いな、チョイ役はチョイ役でも、ちゃんと挿絵付きでがっつり京介たちと絡んでたぞ!? というか、京介の野郎、リアルの人にガチでセクハラしやがったぞ、いいのか!?(笑


【妹のウェディングドレス】
表紙絵の桐乃のウェディングドレス、まさかちゃんと本当に着る短編あったのか。表紙だけのネタなのかと思ってた。話があるにしても、どうせモデルの仕事だよな、とは思っていたものの、それだとどうして京介がスーツで決めているのかが謎だったのだが、そういう事だったのか。
ってか、そろそろ京介はシスコン自重しろ。いや、自重はしなくてもいいが世間の目をもうちょっと気にしなさいw
桐乃があそこで、ちゃんとあれは自分の兄です、と言うシーンには、二人の関係が一巻の頃からすると隔世の感があって、何気に感慨深かった。
あとがきの書き方を見ると、この衣装、これ一回きりの見納め、という気はさらさらないようで、ええいそのまま行けるとこまでやっちゃえやっちゃえ。


なにやら、桐乃の独白シーンでチラチラと過去についての後悔と、過ちを繰り返さないという戒めが垣間見えるんですよね。これはそろそろかつての二人の断絶の原因が明かされる話がくるフラグかしら?
妙に大人しいというか、虎視眈々と爪を研いでいる感のある田村真奈美嬢の動向も合わさって、こりゃあ過去絡みの話くるか?


伏見つかさ作品感想

フルメタル・パニック! マジで危ない九死に一生?3   

フルメタル・パニック!  マジで危ない九死に一生?

【フルメタル・パニック! マジで危ない九死に一生?】 賀東招二/四季童子 富士見ファンタジア文庫

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書き下ろしと10年のドラマガ300号企画であるボン太くんネタの一作を除くと、残る短編は2003年末から2004年初頭に書かれているという……もう7、8年前だぞ!? よくぞまあ……今までほったらかしにしていたものである(苦笑
しかし、本編との作中時間との兼ね合いなどもろもろあってギブアップした短編ですけど、これで例えば【魔術士オーフェン】みたいに短篇集は短篇集できっちり区切りつけた作品と比べても、こちらは特に最終回という話もなく突然ぶった切ってるんですねえ。【ご近所のサーペイヤー】なんてとても最終回って話じゃないですし。

【与太者のルール】
何気にこの話、宗介の我侭というか、大事にするが故にかなめに自分の感情を押し付ける、というところがあって「好き」なんですよね。押し付けるとは言っても押し付けがましいような鬱陶しさはなく、むしろささやかな話なんですが、宗介みたいな人間がそういう事するっていうのがそもそも珍しい、というか殆どありえない事なんですよね。それも「君にはそういう立ち位置に立ってほしくない」というよりも「君がそういう立ち位置に立つのがヤダ」という感じの、倫理よりもごく個人的な感情の側面によったものが感じられて、それをかなめにだけ求める、というところがまた宗介の可愛らしさというか健気さみたいなものが感じられて、なかなか萌える話だったんじゃないでしょうか。
これ、宗介の感情をかなめが察した後の、以心伝心な雰囲気がまた良いんですよね。ちょっと独占欲入ったような大事に護ろうとする意図を、ストンと受け入れるって、すごく愛情が通い合ってるって感じしません?
なんかこの話のラストはキュンと来てしまいました、うん。

んで注目は書き下ろしですよ、書き下ろし。
【テッサの墓参り】
誰の墓参りかと思ったら、兄貴じゃなくて作中時間ではだいぶ前に自殺していたテッサの初恋の人であり、アルの生みの親であるバニの墓参り。時系列的には本編終了後。アフターは最新作を除けばこれだけなんじゃないかな。
これ、「アナザー」を読んだ後だと「!?」となるネタ、けっこうな勢いで仕込んであるんですね。あっちを読んだ後、確認のためにちょこちょこ読み直してしまいました。
しかし、マオ姉さんが妊娠していなさったとは。いつできたのか計算すると、クルツがMIAになる前か、戻ってきた後か微妙なところにしてあるんだな。もし子供は出来てたけれどクルツが死んでたとしたら……マオ姐さんも性格ちょっと儚げになって、子供も性格変わってたのかもしれないなあ、なんて妄想してみたり。おいクルツ、お前責任とレよな(w
テッサは作戦以降、もう宗介とは直接会っていないそうで。そりゃそうだよなあ。振られた相手とこれからも仲良く友達でいましょうね、なんて普通はなかなか出来ないですよ。しかも、あれから三ヶ月って一番二人が盛り上がってる時期でしょうし。近づかないのが無難です。
テッサのメンタルってその辺、非常に女性的でこういう冒険活劇のメインヒロインとしてはやっぱり辛いんですが、一人のキャラクターとしてはやっぱり好きなんだよなあ。そもそも、宗介とは合いませんよ、テッサは。その点、今回登場した相方候補の男の子はフィット感がありますよ。テッサはこういう生意気で愛嬌のある年下の子相手にお姉さん風吹かせた方が絶対映えますって。テッサって周りが年上ばかりで、さらに敬われる立場もあってなかなか表面化しませんでしたけど、かなり小悪魔属性なところありますしねえ。結構弄るの好きなタイプだと思うんだよなあ。それも、宗介みたいに反応が固まってしまうタイプよりも、ムキになって突っかかってくるタイプに活き活きする子なんじゃないかなあ。まあなんにせよ、私生活の方もマオのファミリーと一緒に過ごすことによって寂しい想いをすることもなさそうですし、将来どうなっているかは非常に興味深いところではありますが、一先ずは安心しました。一番割食ったのがテッサでしたしねえ。
これでフルメタも終わりと思うと寂しい気になるかとも思いましたが、別作者ではじまった【アナザー】が思ってたよりも遥かにデキが良くて、ちゃんとフルメタの世界を引き継いでいるので、全然終わった気しないや。これは嬉しい悲鳴。さらにサイドアームズで書く事ももしかしてあるかも、とのことなのでそちらも素直に期待しておきたいと思います。ともあれ、一先ずは長きに渡ったシリーズ完結、お疲れ様でした。
おおっ、賀東さんの新シリーズもちゃんとあるんだ! これは楽しみ。

賀東招二作品感想

ソードアート・オンライン 8.アーリー・アンド・レイト3   

ソードアート・オンライン〈8〉アーリー・アンド・レイト (電撃文庫)

【ソードアート・オンライン 8.アーリー・アンド・レイト】 川原礫/abec

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黒の剣士、キリトが体験した様々なエピソードを収録! 今までの物語を補完する短編集が登場!

『圏内事件』──《SAO》中階層で、一人のプレイヤーが殺された。その殺害現場はHPが減るはずのない《安全圏内》だった。これはプレイヤー・キルだと仮定するも、その殺害方法に全く見当がつかず……。奇怪な事件を、キリトとアスナが追う。
『キャリバー』──《ALO》伝説の聖剣《エクスキャリバー》。その獲得クエストがついに始まった。守護するモンスターたちの強さから一度は獲得を諦めていたキリトだったが、これを機に再び争奪戦に本格参戦する。しかし、このクエストには壮大な裏イベントがあり……。
『はじまりの日』──《SAO》正式稼働初日。茅場晶彦によるデスゲーム開始の声明を受けた直後。キリトが決断した、このゲームを生き抜くための最初の一手。それは、ベータテスト時に攻略経験があるクエストを真っ先にクリアし、初期装備よりも強力な剣を獲得することだった──。
シノンさん、マジかっけーーー!! ワンマンアーミーな狙撃兵のシノンがファンタジー世界の《ALO》に来たら特色なくなっちゃうのかと思ったら、狙撃銃を弓に持ち替えて、ファンタジー世界版スナイパーにあっさりなってるし。今人気作になりつつあるMF文庫の【魔弾の王と戦姫〈ヴァナディース〉】などでも扱われているけれど、ロングレンジ特化の弓兵って新機軸の燃えポイントだよねえ。弓って銃器とはまた別の味があるんですよねえ。本来備えられているゲームシステムを逸脱した弓の冴えを見せるシノンさんの、ポイントポイントでの達人芸がいちいちかっこ良すぎる。今回に限ってはキリトさん無双じゃなくて、シノンさん無双でしたねえ。
というか、普段の話はキリトしか主だった活躍をしてくれないので、この【キャリバー】みたいなパーティーみんなでそれぞれに特色を生かし合ってクエストを攻略していく話はちょっとびっくりするくらいに面白かったなあ。和気藹々とした雰囲気も心地良かったし、読んでて気楽に楽しかった。キリトくんが普段よりも子供っぽく歳相応の無邪気さややんちゃさを剥き出しにしていて好感も高かったですし。そもそも、キリトって結構キャラ定まってない気もするんですけどね。話によって性格とかテンションとかかなり違ってるし。まあキャラが勝手に動いて話を作っていくタイプの作品じゃなく、話に合わせてキャラが動くスタイルなんだからそういうものなのかもしれないけれど。

最初の【圏内事件】は事件そのものよりもむしろヒースクリフさんのわりとお茶目(?)な一面が興味深かったぞw 既に彼の正体を本編で知っているからこそ、あのキリトお気に入りの店での懇談の後の一言が笑えると同時に、このVRシステムの底知れなさが窺えるのでした。いや、あんたも把握してなかったのかよ!(笑
しかし、ラフィンコフィンのメンバーをあれだけ詳しく描写しているということは、彼らの討伐話もいずれ出てくるんでしょうなあ。

川原礫作品感想

ショートストーリーズ 3分間のボーイ・ミーツ・ガール4   

ショートストーリーズ 3分間のボーイ・ミーツ・ガール (ファミ通文庫)

【ショートストーリーズ 3分間のボーイ・ミーツ・ガール】 田口仙年堂/日日日/庵田定夏/嬉野秋彦/榊一郎/本多誠/櫂末高彰/野村美月/綾里けいし/庄司卓/前書き/羽根川牧人/竹岡葉月/築地俊彦/はせがわみやび/新木伸/佐々原史緒/田尾典丈/井上堅二  白味噌、をん、千葉サドル、すばち、しらび、kyo、零花 ファミ通文庫

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ファミ通文庫が贈る珠玉のボーイ・ミーツ・ガール!

"青春"の数だけ"出会い"がある——。"3分間"をキーワードに独自の世界観で描かれる珠玉のボーイ・ミーツ・ガール。人気作家・井上堅二の贈る、幼馴染みとの窓越しの恋模様『三分間のボーイ・ミーツ・ガール』、野村美月が描く、猫嫌いの女の子への一目惚れの顛末『こっちにおいで、子猫ちゃん。』、新鋭・庵田定夏の紡ぐ『ガチで人生が決まる面接に行ってくる』など、書き下ろし8篇を含めた全19篇! 切なく甘くほろ苦いショートストーリー集。

参加者の名前見て吹きましたよ。これって比喩抜きでファミ通文庫のオールスターキャストじゃないですか。今ファミ通文庫の一線で書いている作家を根こそぎ連れてきたという感じで、よくぞまあこれだけ揃えたもんだわ。


【3min.30cm】 田口仙年堂 ★★★
ちょっとこれは小っ恥ずかしすぎるでしょう。もう青春が青々としすぎてて直視できなかった。恥ずかしい恥ずかしい。


【詰め込み教育の弊害と教室の片隅に彼女】 日日日 ★☆
テスト勉強のしすぎで記憶喪失って、どれだけ記憶容量少ないんだ、この男の子は。学校の試験でそれだと、受験勉強し出したら人間として成り立たなくなるぞ。皮肉な話だが、タイトルと同じくショートにしては詰め込みすぎだったような気がする。


【ガチで人生が決まる面接に行ってくる】 庵田定夏 ★★★☆
すげえな。完璧なボーイ・ミーツ・ガールじゃないか。面接を前にしてガチガチに緊張してテンパった者同士、お互いに自分でも意味不明すぎるやり取りを繰り広げる内に、打ち解けていくと同時に緊張がほぐれ、目の前の面接ではなくなぜその高校に自分が生きたいかを再認識した上で、もう一度ここで出会った相手に会いたい、同じ高校に通いたいという新しい動機を手に入れる。なんかもう素晴らしく芳醇なボーイ・ミーツ・ガールだわ。


【ねこなぶり】 嬉野秋彦 ★★★★
なんかもう、やたらとツボにはまってしまった。当然のように猫を胸元に突っ込んでバイトにいくこの少年は何者なんだ!? 私なら、街中でパーカーの胸元に猫突っ込んで歩いている奴見かけたら、ガン見するぞ。
青春というには薹が立った話なんだが、こういうおやおやと苦笑を浮かべてしまうような締りのない縁の出来方って好きなんですよね。妙にツボにハマってしまった。


【三分間の神様】 榊一郎 ★★★
たった三分で伝えられる情報って、しかも口述。それでシヴィライゼーションって、どれだけ月日掛かったんだろう。あ、一年って書いてあるな。無意味に思えていた学校の勉強に意義を見いだせるようになったというのは良いことだろうけれど、むしろこの場合学校で教えてくれる勉強の物足りなさをこそ痛感しそうだよなあ。
ハッピーエンドで終わってよかったけれど、ここをスタートと考えるとこの二人、この先けっこう大変そうだな。

【七年前のマリッジブルー】 本田誠 ★★★☆
これをショートストーリーで描ききるかー! しかも、これだけブン回しながら、全然ギューギュー詰めではなくむしろスッキリしていて、複雑に見えてかなりわかりやすく筋道立ててるのがまた凄い。


【お湯を注いで】 櫂末高彰 ★★★
カップラーメンばかり食べちゃダメ、と言われながらこれ相当食ってるよな。というか毎日食ってるよな!

【こっちにおいで、子猫ちゃん】 野村美月 ★★☆
アウト! いや、アウトだろこれ。普通、女の子涙目だぞ。普通の反応なら悲鳴上げて逃げられるぞ! 怖いよ、女の子からしたら。

【ネオンテトラのジレンマ】 綾里けいし ★★★★
さすがは【B.A.D.】の綾里けいし先生である。ショートストーリーでも一切ブレないその作風。なにこのサイコホラーなのに見事にボーイ・ミーツ・ガールしてる話。これ、レンジで温められてるシチューが異様に美味しそうに思えてしまったことに危機感を感じるっ!

【5400万キロメートル彼方のツグミ】 庄司卓 ★★★★★
くそぅ、やられた。ガチで泣かされてしまった。さすがはSFの古豪。王道にしてツボたる部分を完璧に掌握している。「はやぶさ」のエピソードまで交えて、宇宙と機械への日本人らしい感傷を語られては、両手を挙げざるをえない。

【先輩にリモコンを向けてみた】 前書き ★★★★
お見事! 「三分間のボーイ・ミーツ・ガール」コンテストの大賞受賞作だけあって畳み掛けるようなラストに向けての展開は掛け合いのテンポの良さも相まって、盛り上がること盛り上がること。クライマックスはつられてこちらまでテンション上がりまくってしまった。あのアンケートは卑怯だよなあw

【トキとロボット】 羽根川牧人 ★★★
これも王道と言えば王道だよなあ。人と同じ心を持ち、人を愛してしまったロボットは非合理的な考えに囚われる。それは人と何が違うのか。ちゃんと報われるのが嬉しい話。

【ロイヤルコーポあさひの真実】 竹岡葉月 ★★★★☆
これは完全に虚を突かれた。真相にたどり着いた瞬間、どっひゃーーとひっくり返った。いやいやいやいや、育ちすぎだろう(笑
どうしたらいいんだろう、これ。嬉しいのはわかるが、二の足を踏むのもよくわかる。むしろ中学生高校生よりも、二十歳過ぎた大人の方が冷静かつ上手くやれるかもしれないけれど、でも慎重にやらないと本気で捕まりそうだしなあ。でも、ここまで好かレりゃ、覚悟決めニャアなるめえさ。こっちからしても好みドストライクなんだから。

【QとK】 築地俊彦 ★☆
何が三分間なのか、最初読んだ時は不明ながら理解を逸してしまった。そもそも、彼の策略がなくても、三分立っちゃってるんだから失敗じゃないのか、これ。

【3分間のABCD】 はせがわみやび ★★
ちょっ、その説明何も立証してないんじゃないのか!? いや、その前に警備員が主人公捕まえた理由もかなり乱暴な気がするんだが。犯人扱いするにはいくら何でも証拠がいい加減すぎるぞ。

【杉本遥は男前っ!】 新木伸 ★★★
いや、完全にプロローグなんだが。ここから新シリーズがはじまるのか!?


【call】 佐々原史緒 ★★★☆
【3min.30cm】と並んで、本巻におけるド直球キラキラ青春モノだよなあ、これ。青春真っ盛りというか、勇気と逡巡を持てあます、年頃の男の子の男心をこれでもかと転がしまくられては、もうキューッとならざるをえない。きゅーっ、である。キューーッ!

【彼女に関する傾向と対策】 田尾典丈 ★★★
これはヒ・ド・イ(笑 カノジョの告白に対する反応が完全に反則だよ、あれ!
そこでドン引きせずにむしろ真っ正直に心の内っかわを全部ぶつけてしまう少年の勢いにはほれぼれしてしまった。若さとは勢いだよなあ。


【三分間のボーイ・ミーツ・ガール】 井上堅二 ★★
えっ……なにこれ? いや、自分的にはそのオチはかなり興冷めだったんだが。


期待していた以上に良作が揃っていて、大変楽しめました。これくらい面白いなら、またタマにやってほしいな。

ベン・トー 7.5 箸休め 〜Wolves, be ambitious!〜4   

ベン・トー 7.5  箸休め 〜Wolves, be ambitious!〜 (ベン・トーシリーズ) (集英社スーパーダッシュ文庫)

【ベン・トー 7.5 箸休め 〜Wolves, be ambitious!〜】 アサウラ/柴乃櫂人 スーパーダッシュ文庫

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半額弁当争奪バトルに青春を賭ける佐藤洋たちHP(ハーフプライサー)同好会は、槍水の妹・茉莉花のおねだりに端を発した一泊二日の旅行に行くことに! 季節外れの観光地に向かう一同だったが、途中で予期せぬアクシデントに遭ってしまう。そこへかつて出会ったあいつが現れ…!?
その他に、佐藤たちの旅行のウラで静かに起きた著莪とその友人たちの日常編や、ウェブ掲載された短編、雑誌連載で大反響をよんだ「間食版」も書き下ろし分を加えて収録! もはや短編集ではないボリューム感満点でお届けする、メガ盛りの箸休め、庶民派シリアスギャグアクション、狼が大志を抱く7.5巻!!

【1章 3.5倍】
サラリーマンレッド再び!! 冒頭、恒例の佐藤の中学時代のクラスメイトの武勇伝に腹を抱えて大爆笑し、体も温まったところでいざ、旅行編である。って、初っ端から掴みが濃すぎるよ、このシリーズ。延々と中学時代や佐藤家の過去のエピソード書き綴るだけでも死ぬほど面白い作品が出来てしまいそうだ。こんだけ腹が痛くなるほど笑える話ってそうそう無いぞ。
さて、旅行編においてどうやらサラリーマンレッドは準レギュラー化してしまったらしい。こいつ、そろそろ会社クビになるんじゃないのか? 色々と思い込みの激しい人ではあるが、決して悪い人ではないしこんな報われない人生を歩んでしまう人じゃないと思うんだが、世の中だいたいこのたぐいの人は七転八倒して面白い方へと転げ落ちていくのである。ご愁傷さま。
面白いのが、普段の半額弁当争奪戦が格闘強奪戦であるのに対し、旅行時における駅弁の場合は電車の発車時間を睨んだ障害物競走的なタイムアタックになるところ。普段の狼同士の戦いとはかなり毛色が違っている。前回の妨害ありの競争と違って、今回は文字通りのタイムアタック。それも事前に入念に作戦を練った上での協力プレイ。新鮮さの中に見ごたえもあって、面白かった。さらば、サラリーマンレッド!!
「うなぎ茶漬け弁当」ウマそうだなあ。めちゃくちゃ美味そうだなあ……。

旅館では白梅さんの若奥様というか若女将らしい上品な佇まいが拝めて大満足。このシリーズ、女性陣の数は多いけれど本気で佐藤とカップルになれそうなのって、著莪を除けばこの白梅だけのような気がする。まあ、白梅の場合佐藤にお似合うというよりも、賢妻としてどんな男だろうと見事に立てつつ完全に首根っこ抑えて理想的な家庭を作ってしまいそうなスペックの高さの持ち主なのだろう。
まさにパーフェクト嫁、なのだが残念ながら真性の百合であるために男全般に興味皆無なのだ。なんというスペックの無駄!!

【間食版】
ジャンプSQの漫画連載にオマケとして掲載されていたという掌編。さり気なく今までで初めて見る、槍水先輩の一年生時の記録である。【魔導士】こと金城との先輩後輩関係。いったいどんな風なのだろうとは気になっていたのだけれど、これホントに懐いてたんだなあ。慕っている、というのを通り越して子犬みたいに懐いている。色々と構ってもらえるのが嬉しくて仕方ない、という金城と一緒にスーパーに居る時間が楽しくて仕方ない、というのがひしひしと伝わってくる。金城は金城で、仙のこと可愛くて仕方なかったんだなあ。ただ、まだこの時点では仲のよい先輩後輩、にとどまってたんだろか。烏頭がまだ仙のこと目の敵にしてないもんね。まだ仲が拗れていない頃の烏頭先輩は、あれはあれで仙のことかわいがってたんだなあ。確かに、この頃の仙って年上から無条件で可愛がられるような懐っこさがあるんですよね。なるほど、妹の茉莉花はこの頃の仙とよく似てるわ。
過去のHP部がどんな雰囲気だったのか、今までずっと謎のベールに覆い隠されていたのでちょっとすっきりした。でも、烏頭の一件以降にさらにこのHP部壊れていくんだよなあ。ほんとに何があったんだろう。


【モモとカズラと】
紫華先輩ェ……。
HP部とは関係ない、槍水先輩がいつも学校でつるんでいる二人の友人、木之下桃と紫華鬘の人となり、なんというかこいつらもか……。別に半額弁当を狙い打つ狼たちだけが変人じゃないんだよな、この作品。押し並べて変人ばかりなんだ、うん。
カズラさん、途中までは極普通の人に見えてたのに。というか本人は全然そんなつもりないんですよね。なのに、行動は明らかに偏執的なストーカー。いや、むしろ佐藤にイカレて頭がそれだけになってムチャクチャやらかす、というのよりも、逆に何の執着もないにも関わらずナチュラルにああいう行動を取ってしまうほうが怖くないか!?


【天使の贈り物】
……表沙汰にならない勢いで既に犠牲者出てるんじゃないか? 偶然死体が発見できない形でどうにかなってしまって、たまたま捜索願が出されないように状況が転がってしまって、とか。あれで死人が出ていない方が不思議だ。【死神】あせび。著莪もよくまあ付き合っていられるものである。そのへんわりと素直に尊敬する。あれ、よっぽどこまめにお札仕入れてるんだろうし。忘れたら本気で死にかねんもんなあ。
なんというか、神仏のご利益ってほんとにあるんだなあ、と実感できるお話である。


【男子寮と従姉とバレンタインデー】
ごちそうさまです。
なにこの普通にチョコあげたりもらったりするよりも濃厚な話は。著莪と佐藤の関係ってむしろチョコやり取りする方が野暮なんじゃないのか!? これは矢部くんや神田くんが佐藤を追い出すのも無理ないわ。
佐藤って絶対恋人出来ても、著莪を優先するよな、これ。しかも、何の葛藤も疑問も抱かず。こりゃあかんは。鉄板とかいう以前に既に終了してる。


【ある日の著莪あやめ】
あのサッパリとして快活な性格から、普通に男友達も居て仲良く遊んでいるだろうなあ、とは思っていたけれど、仲良くしているからこそ、佐藤との接し方との明確な違いがくっきりと浮き出てくるわけで。
あれだけベタベタと佐藤と男女の垣根を平然と乗り越えるようなスキンシップを繰り返し、自分の財布のように佐藤にたかり倒している著莪が、実は他人とはちゃんとキッパリ一線を画して、体には軽いスキンシップだろうと一切触れさせず、ちょっとした食べ物飲み物の奢りすらやり取りしようといない事にはなかなか驚かされた。軽そうに見えて、むしろめちゃくちゃ身持ち固いのか、著莪って!!
しかも、マジ告白されて断った上で理想の男のタイプを聞かれた時の著莪が動転したまま答えてしまった、恐らくは何も繕わない素の理想像。これはもう、明らかに特定の誰かを指している一言で……あー、咄嗟に出ちゃったかー。こりゃ、著莪当人もびっくりだ。びっくりだけど、納得だろうなー。もう鉄板とか本命とかどころの話じゃなく、好きとか愛してるとか通り越してるよね。難しいことなんて何もない、ややこしい事になんて陥らない。もうどうしようもないわ、これは。
幼なじみスキーとして、今まで色んなカップル嗜んできましたけど、この二人だけはホンマ凄いわ。こんな凄い幼なじみ見たことないわー。堪能させていただきました、はい。

そういえば、久々に狼として戦う著莪を見たのだけれど、かなりの強豪になってるんじゃないですか、これ。二階堂と咄嗟に組んだとはいえ、あのオルトロス相手にイイ勝負して弁当もちゃんとゲットしているあたり。あんまり著莪が佐藤と同じ戦場で戦ってるシーン、最近は特に見ないので、本編ではそっちも久々に見たいものである。

にしても、短篇集というのは厚い、濃い、と特濃すぎる内容で。どこが一体箸休めだ!!
満足!

シリーズ感想
 

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