【神聖じゃないよ! 破門皇帝フレデリカさん上巻: 〜中世欧州、教皇最盛期の終わり〜】 左高例/ユウナラ Kindle

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13世紀イタリア、中世ヨーロッパに『世界の驚異』と呼ばれることになる皇帝がいた。シチリア王にして神聖ローマ皇帝、エルサレム王も兼ねるその人物の名はフリードリヒ2世。しかしこの物語では女の子フレデリカとして誕生したことに。史実沿いだが破天荒な彼女は自由気ままに行動し、権力を手に入れるためアイドルの如き活動を行う。時のローマ教皇、通称最強教皇(オーバーロード)イノケンティウス3世もそんなフレデリカを支援してくるので皇帝目指し躍進することに。家庭教師のグイエルモ司祭、テンプル騎士団の隊長、そして大勢のファンになった部下たちとフレデリカは自分の道を突き進む。シチリア王国、ローマ教会、神聖ローマ帝国を巻き込んだ彼女の人生の物語。その上巻である。
フレたんイェイイェイ〜〜!!
【異世界から帰ったら江戸なのである】【オール・ユー・ニード・イズ・吉良】の快作で鳴らす左高例さんのオルタナ歴史大河小説再び。
主役は中世ヨーロッパにおいて、こいつ転生者なんじゃね!? との疑惑が出るほどに先進的なスタンスで欧州を席巻した神聖ローマ皇帝フリードリヒ二世。が実は女の子のフレデリカだったんだぜ。別に秘密じゃなくてみんな知ってたんだけど、なんやかんやでイノケンティウス三世の勘違いと権威で男扱いになっちゃったけど全然構わないよね、的なエキセントリック天真爛漫少女皇帝が征く、な物語である。
TSでもなく、秘された男装令嬢でもなく、フレデリカはまんま性的指向もノーマルな女の子で世間の皆様も彼女が彼女なのを知っているけどスルーという、なかなかとんでもない環境で話は進んでいってしまうのだが、まあ些細なことである。じゃあ子供はどうするんだよ、という問題については謎の錬金術で誕生した現在では製法も原理も不明な神秘の秘宝「フリードリヒ棒」が大活躍!! フリードリヒ棒! これはもう、フレたんが後世ゲームキャラになんかなったりしたら真っ先に宝具とかで使われちゃうあれですな。効果、女同士でも子供が出来る!! イェイイェイ〜!
なんかフレデリカ、一応自分ではノーマルだって言ってるけど別に男が好きという様子は一切見せていないんですよねえ。「隊長」と一緒にお風呂する日常風景でもエロスはないよ、と双方断言してますし。
ともあれはっちゃけた娘さんである。その境遇、何の権限も兵力も財力も持たないシチリア王から神聖ローマ皇帝へとなっていく変遷がまた面白いんですよね。当時のヨーロッパの国際情勢の複雑さと、彼女の後ろ盾となっていた史上最強の教皇イノケンティウス三世の権威が絡み合い、彼女の飛躍のための土台となるものが構築されていくのだけれど、むしろ兵力も権力もないことがフレたんを守り、彼女が力や能力を蓄えるための重要な要因となっていく、というあたりなども本当に面白い。
第三次十字軍遠征において、綺羅星のごとき英雄たちが活躍した時代がまだ人々の記憶に強く残る時代。尊厳王フィリップが健在でフランスふぉぁー!!と暴れまくり、獅子心王リチャード三世の後継たるジョンくんが盛大に全力全壊で負けまくり失地しまくってえらいことになっている時代。ある意味、歴史のスポットライトがあたっていた時代から少しずれることで印象の影に入る時期であるんだけれど、だからこそ混沌とした情勢が発生して歴史としての面白さは何一つ変わらないまま盛り上がってるんですよね。そんな時期に少女時代を過ごし、やがて新たな時代のスポットライトを強引に自分中心に照らし出そうという新世代の英傑。それが神聖じゃないよ皇帝フレデリカたんイェイイェイ〜!なわけである。イェイイェイ〜!
とはいえ、この上巻ってフレデリカに全く負けず劣らず存在感を爆裂させてるのが、史上最強の教皇(オーバーロード)イノケンティウス三世なんですよね。ってか、あらゆる一挙手一投足が史上最強すぎて、登場しただけで笑ってしまう。
それでいて、全然暴君じゃなくて理知の人ナんですよねえ。寛容の人でもあり、情と理を見事に使いこなす人でもある。彼こそが教会であり、彼が在ったからこそ教会の権威が正しく機能していたのだとわかってしまう。だからこそ、彼が認め慈しみその成長に目を細め、期待し、もたらす未来に想いを馳せたフレデリカたんに、なんか太鼓判が押されたような気がするんですよね。イノケンティウス退場後の教会とフレデリカたんは激しく対立していくことになるんだけれど、イノケンティウスの後ろ盾というお墨付きは、読み手側にすらフレたんの正当性みたいなものの支えとして感じられて、ずっと彼女を護ってくれる感じがするんですよね。親と縁がなかったフレたんだけど、イノケンティウスは彼女の、孫に甘いお爺ちゃんという感じがして、本当に好きなんですわ。
だからこそ、フレたんにはもうちょっとイノケンティウスお爺ちゃんに孝行しても良かったと思うんですよね。まあ実際逢う機会は一度しかなかったわけですけど。フレたんにとって身内と呼べるのはグイエルモ先生こそ、でしょうし。
さて、フレデリカのパートナーとなり、この物語においても重要な役割を果たし続けることになる謎の騎士「隊長」。テンプル騎士団の創設から存在し、あれ?年齢的におかしくね? という発言をポロポロとこぼす正体不明の彼の正体については、別に秘密でも何でも無いと思うので、前日譚にして彼の誕生譚でもある過去編『隊長、或いはニコラウス、或いはゴーティア、或いは名無しの騎士の物語』を読むと、彼についての印象も深まると思うので、是非に一読あれ。
この物語がフレデリカの物語であると同時に、独りの虚ろな男の生の、運命と出会った物語であると知るための下拵えが出来るのだと思うのです。
フレデリカと隊長と征く、中世というワンダーランド。痛快なる大河ロマンの開幕であります。

左高例作品感想