【聖剣の刀鍛冶 16.Lisa】 三浦勇雄/屡那 MF文庫J
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隕鉄を集める旅に出るセシリー、ルーク、リサ。道中はさながら新婚旅行のような雰囲気だ。途中、流星群が観測されたという噂のある軍国に立ち寄り、シャーロットが流星の引き上げられた港まで案内してくれることになるのだが、出発前に現れたのはシャーロットに扮した軍国の少女王ゼノビアで……。一方、件の港には、新大陸からの女使者が交易を求めて、海賊たちが荒ぶる海域を越えて来港していた。港の男と渡り合う剛胆な彼女の正体は――!? アリア・リサ再会までの300年を駆け抜ける、疾風怒濤の番外編、つかまつる!!これは番外編じゃなくて、正真正銘の本編だ、とあとがきで語っていらっしゃいますが、まさにこれこそが本当の最終巻。実際の所、前巻はほんとに最後までノンストップで走り抜けてしまって、この大長編の終幕の余韻をしっかりと噛み締め、味わうには如何せん食い足りなかったところがあったんですよね。その意味では、この巻はリサを主人公にして、じっくりと物語の終わりを感じ入り、読み手側である自分にも心の整理をつけてくれる素晴らしい後日談でありました。
特にルークは、この戦いでほとんど寿命を使い果たしたかのような壮絶な有り様だったので、平和になったあとどのように余生を過ごしたのか非常に気になっていたところだったのですが、思っていた以上に旦那として頑張り、また幸せな末期であったようです。あの人の登場は、まったく予想していないサプライズでしたけれど、リサが側にいてセシリーと出会ったとはいえやはり天涯孤独の身であり、また自分の過失によって父と幼なじみを喪い、幼くして大人にならざるを得ず、ずっと心の平安などなかったであろうルークを思えば、この再会はほんとうの意味で彼を解き放ってくれたような気がします。良かったなあ、良かったねえ。
しかし、この女性の止まると死ぬ的な機関車のような性格は、けっこうセシリーとよく似てるんじゃないだろうか。ここはマザコンだった、というよりも父親と好みがそっくりだった、と見たほうがよろしいんでしょうかねw
帝国との紛争は終わったものの、奴隷問題や新大陸からの海賊勢力の来襲など国際情勢は新たな展開を迎える中で、登場人物たちはその渦中で活発に動きながらも、年月は粛々と流れていく。
思いの外持ったものの、セシリーとの間に一男一女を残して若くして去っていったルーク。でも彼の場合は、本当にやるべきことをやり尽くして満足して逝ったように見えました。もちろん、心残りはあったでしょう、生きて立つ瀬もあったでしょう。でも、全力で生き切った人生でした。
そうして、悪魔として定まった寿命を持たないリサは、ルークを端緒として多くの人を見送ることになるのです。
ここからのリサの目を通して描かれていく人々の人生は、ひたすら感慨深いものでした。もっと淡々と端折ったように流れていくのかと思ったんですけれどね。語り口の端々に、彼らを見送ったリサの情感がしっとりと篭っていて、そこに感じ入るのは暖かな眼差しと寂寥感。リサの万感を垣間見たのです。
故にこそ、三百年の果てに辿り着いた、エインズワースの悲願であった聖剣アリアの復活。あの本編最後のシーンの感動はひとしおであり、それ以上にその後に訪れたリサにとってのリサだけの、リサに与えられた幸せは、この作品に思い残す未練をなくしてくれる大団円の幕引きでした。リサが幸せになってくれたのなら、これ以上のことはありません。魔剣と人との幸せな結末もまた、あのノアとヴェロニカが、意外なカップルでしたけれど体現してくれたことですし、ほんとに端々まで行き渡る大団円でありました。完結、お疲れ様でした。
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