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花守の竜の叙情詩

花守の竜の叙情詩 34   

花守の竜の叙情詩3 (富士見ファンタジア文庫)

【花守の竜の叙情詩 3】 淡路帆希/フルーツパンチ 富士見ファンタジア文庫

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「テオバルト。愛しているから、あなたを忘れる」
 囚われの王女アマポーラと、王位継承に敗れた王子テオバルト。支配した者とされた者として出会った二人は、長い旅の果てに恋に落ちた。だが運命は、二人が互いに守ろうとする気持ちすら弄ぶ。
 アマポーラのため、テオバルトは人外のものに。そんなテオバルトを救うために、アマポーラは彼の記憶を捨てた。それでもなお平穏は遠く、アマポーラは命を狙われ続ける。懸命に守ろうとするテオバルトだが、彼女はその存在すら拒むのだった……。
 たとえ同じ時間を生きられなくても、たとえすべてを忘れてしまっても、君を守る――。宿命の愛と冒険の三部作、ついに完結!

神とは得てして理不尽な存在だと謳われるけど、この月神はちょっと酷いな(苦笑
神の理において人間を斟酌しない類の理不尽さではなく、単純にやること為すこと理不尽なんですがw 二巻では彼女の事情というのも分かって、ジレーザの取りなしもあったものだからちょっとは同情してたし、ある程度彼女の態度も仕方ないものがあるのかな、とも思ってたんだが、肝心の悪魔の大元キャンディットの視点に立ってみると、諸悪の根源はどう見ても月神じゃないかい! キャンディッドが暴走してしまったのが悪いんだけれど、そうなってしまう前になんとか止められなかったのか、とかいきなり銀竜使って襲わせるのってどうなのよ、とかあれだけ献身的に月神の為に働いてきたのに、これじゃあ裏切られたと思っても仕方ないところがある。
挙句が最後、あれですよ?(苦笑
ラシェルなんて、結構切実に月神に対して心ひらいて貰おうと働きかけてたはずなんだけど、もうなんて言うかねえ、この神様は……。

まあそれでも、神様の身勝手を除けば、物語はおおよそ望むべき最良の結末を迎えたのではないだろうか。アマポーラがテオバルトの記憶を失っただけでなく、それ以上の代償を支払わなければならない状態に陥っていた事が分かったときには、もう呆然としてしまったのですけれど。
ラシェルなんか、ほんと可哀想じゃないですか。彼女なんて、弟の為に銀竜になったようなものなのに、弟が幸せになるように人間である事を捨てたのに、肝心の弟はラシェルを助ける為に彼女の記憶を無くした挙句に、あの結末ですよ。報われないにも程がある。
それでも、彼女は悪魔を狩り続け、人を守り助け続けたのですが、よく心が擦り切れなかったものです。折角助け、親しくなった人たちも次々と老いて去っていく。彼女自身がテオに疲れきったように漏らしたように、もう限界だったのかもしれないなあ。神様も、それが分かっていたから彼女にあんな事をしたのかもしれないけど、でもいきなり放り出すなんて無いと思うんだ、うん(苦笑
それでも、最後には彼女のこれまでの生き方が、放り出されたラシェルを救う事になるのですから、これも一つのハッピーエンド、ということになるんですかね。ある意味、彼女は最後で報われた事になるわけですから。結構楽しそうですしね、新たな人生。あとは、早くいい男見つけろってことで。
と、話がラシェルの方に逸れてしまいましたが、記憶を失った事による弊害と復活したキャンディッドの攻撃によって、災禍に見舞われ続けるアマポーラには、平穏なときは訪れない。彼女の記憶から消えてしまったテオは、彼女の傍に居る事もできず、もっぱらラシェルが傍について守ってくれていたのだけれど……ええっと、正直言っていいですか? ラシェル、全然役に立ってねえ(苦笑 姐さん、幾ら何でも尽く出し抜かれすぎですw
概ね好意から守ってくれているので、テオも文句をいう筋合いはないとグッと我慢してたけど、ちょっとくらいは苦言を呈しても良かったんじゃ、と思うくらいに、ほんとに出し抜かれまくったもんなあ。対応は裏目裏目に出てしまうし。
正直、記憶が失われても二人の絆があれば、記憶なんかすぐもどるんじゃないかと楽観的に構えていたのですが、記憶が戻ろうとする事そのものにあんなトラップが仕込まれていたお陰で、逆に絆がアマポーラを脅かすというまさかの展開。でも、ここでも欠落した記憶に苦しむアマポーラと、それを見ているしか無いテオを救うのは、二人の娘であるエレンなんですよね。
いっそ古典的とすら言えるほど王道な純愛ラブストーリーである本作なんですけれど、その上で独特だったのは、若いふたりの男女の間に、旅路の途中で一人の幼女を娘とする展開でした。エレンのお陰で、テオもアマポーラもお互いへの愛だけに没頭するのではなく、父親として母親としての意識を持ち、愛した人の他にもう一人掛け替えの無い守るべきものを得るわけです。そして、その守るべきものこそが結果的に、運命に引き裂かれてすれ違い続ける二人を絶望させず、支え続ける事になり、離れ離れになっていく二人の間にたって繋ぎ止める役割を果す事になるわけです。
エレンは一巻ではアマポーラとテオの人間としての在り方を変えて二人に愛を芽生えさせ、二巻ではアマポーラの心を支え続け、そしてこの三巻では心交わることの出来ない二人の間を健気に立ち回り、本来なら離れ離れとなるしかなかった二人を繋ぎ止め、再び結びつけたのですから、このわずか5歳にもならない幼女が成した偉業のなんと大きいことか。
アマポーラの「あなた」という呼びかけの台詞なんて、ねえ。王女と王子のラブストーリーだったら、多分出てきませんでしたよ。あらゆる意味において、この物語で一番活躍したのはエレンで間違いないんでしょう。イイ子ですよ、健気で献身的で聡明で。
この子は羊飼いの娘もいいけれど、王城にはちょうど近い年頃の賢そうで優しげな王子様が居ましたし、見初めてくれませんかねえ。

兄への歪んだ愛情と憎しみによって狂い、闇に落ち、悪魔に身を捧げてしまったテオの妹ロゼリー。救われなかった彼女の顛末にも、きっちりと手を差し伸べてくれたのは良かったなあ。本当にハッピーエンドを迎えるには、彼女の魂を救ってやることが必要条件でしたしね。でないと、テオもアマポーラも心晴れなかったでしょう。それに、テオたちに無理やり助けられるという形ではなく、アマポーラの愛の形を目のあたりにすることで、ロゼリーが自分から過ちに気づき、純粋な兄への想いを取り戻すという形も、本当の意味でロゼリーを、そしてテオを救う事になったように思います。救いとは、押し付けるものではなく、自分で掴むもののはずだから。

一巻における、哀しくも美しい結末もまた素晴らしく、あのまま終わっても良かったと思うのです。正直、続きが出ると決まったとき、あそこで終わっておけばよかったのに、という声はあったと思います。私も、思いました。その分、ハードルは随分高かったはず。
ですが、完結を読み終えた今となっては、少なくともあれで終わっておけばよかった、などとは口が裂けても言えません。見事にハードルを越えてみせてくれたと思います。まさに堂々とした完全にやるべきをやりきった渾身のハッピーエンドでした。
素晴らしい、美しいお伽噺のようなラブストーリーでした。
良かったよー。

1巻 2巻感想

花守の竜の叙情詩 24   

花守の竜の叙情詩2 (富士見ファンタジア文庫)

【花守の竜の叙情詩 2】 淡路帆希/フルーツパンチ 富士見ファンタジア文庫

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これも続編が出ると聞いて驚いた口なんですよね。一巻の終り方はとても切なく物悲しいものの、透き通るような美しさが心を鷲掴みにする悲恋の物語だっただけに、それを敢えて続けると言うのはかなり難しいことだったはず。
あとがきを見る限りでは、当初は著者もどうやら続きを書くつもりはなかったみたいだし。
その意味では、あの終りの余韻を台無しにすることなく、きっちり仕上げてきた淡路さんには自然と頭がさがります。これは御見事と。

銀竜となったテオバルトと別れ、エレンと二人着の身着のままで野に下ったアマポーラ。その後、優しい羊飼いの老夫婦に拾われ、住処と家族を手に入れて、なんとか暮らして行く算段をつけられ、いつ帰ってくるともしれないテオバルトを何十年経とうと、それこそ死そうとも待ち続ける日々に至ったアマポーラですが、ここで物語として終わっていればともかく、現実に彼女は生活を続けていかなければいけません。元々我儘な王女であり自らは何もせず暮らしていたアマポーラは、村落に住まう女が最低限しなければいけない仕事どころか、日々の生活を営むために必要なスキルや知識すら何も持たない状態。老夫婦はアマポーラを娘のように可愛がり、彼女に生活に必要な様々な知識や技術を教えてはくれるのですが、この時代、日々の生活と言うものは一個の家族内に収まるものではなく、ひとつの共同体の中で営まれるもので、特に過酷な使役が日常的な荘園の中ではよそ者であり、なんの役にも立たないアマポーラは自然と爪弾きにされてしまいます。
それでも、テオとの約束を信じ、老夫婦の愛情に報いるために、エレンを守り育てるために、母親として、必死に前向きに挫けることなく頑張り続けるアマポーラですが、やっぱりつらいことがとても多いんですよね。
もし、今回の歌姫の一件がなかったとしても、テオを待ち続けるアマポーラに、果たして幸せはあったんだろうか、とどうしても思ってしまいます。でも、彼女は挫けないだろうことは間違いないと、彼女をおそう理不尽に毅然と立ち向かう姿を見ていれば、それは確信として理解できる。彼女にとって、待ち続けることはつらいことではあっても不幸ではなかったんでしょう。苦しくても悲しくても、待ち続けることができたのは幸せだったのかもしれません。
その意味では、再会なったにも関わらず、テオとアマポーラの二人の間に訪れた転機は、彼女にとって苦しみや悲しみ、辛さが取り払われるとしても、とてつもない残酷な事だったのかも。
あの展開は、ラブストーリーにおいてわりと王道というかありがちというか、ここで続けるならまあこういうパターンが多いだろうなあ、特に少女系レーベルのだと、というものだったんだけど、アマポーラの寄って立つものを考えるなら、やっぱり凶悪にして強烈に残酷で悲劇なんだよなあ。

辛いといえば、アマポーラ本人は大丈夫だとしても、彼女を見守る老夫婦やエレンにとっては彼女が毅然としている事自体が見ていて辛い事だったんだろうなあ。エレンは事情を知っているし、アマポーラと思いを共有しているからイイとして、事情を何も知らずアマポーラに喪った娘を透かし見ている老夫婦からすれば、アマポーラの姿は痛々しいなんてものじゃなかったんだろうし。
この二人がいなかったらアマポーラとエレンは野垂れ死んでいてもおかしくなかったので、なんとかもう一度家族として一緒に暮らしていけたらいいのに、と思わずにはいられません。

しかし、改めて見直してみても、この物語、悲恋ものにも関わらず、アマポーラを支えているものはテオへの想いだけではなく、エレンを守る母親としての愛情、というのが他とは少し違う特徴なんですよね。この辺が、そこらのライトノベルとちょっと違う所なんだと。
一巻でも、エレンへの母性こそが、我儘で世間知らずだった彼女を大きく変えた要因でしたけれど、この二巻でも苦しい生活の中、アマポーラに力を与え続けていたのはエレンへの母親としての愛情でした。ほんと、もうしっかりと母親してるもんなあ。エレンも健気で小さいのにとても聡明で、本来は他人だったはずのアマポーラを母として慕い、幼い身の上ながら必死で母を守ろうとする姿は、本当に愛しい限りで。
この年の近い母娘が、本当の親子のように寄り添い合う姿は、見ていて心温まるものでした。だからこそ余計に、ここに父親の姿が無いのが物悲しいんだよなあ。


物語は、一巻では伝承の彼方にしかなかった女神と銀竜と悪魔たちの神話の真実と世界の今の有り様にまでスポットがあたり、テオ以外の古参の銀竜も登場することで大きく動くことになります。
女神がいかにして世界を形作り、悪魔がいかにして生まれ世に災いを無し、銀竜がいかにして誕生し悪魔を狩ってきたか。伝承の彼方に曖昧模糊として映っていたものが、具体的に表されたことで、テオが使命を果たしアマポーラの元に戻ってくるために何が必要なのか、それがどれだけ困難な事なのかが、詳らかになったわけですけど、さらに予想外のファクターが混じることで連綿と続いてきた銀竜と悪魔の戦いに大きな転機が訪れたわけです。
テオにとってはチャンスなんだけど、また残酷な話だわなあ。
他の銀竜たちにもそれぞれ悲劇と遺してきた想いがあり、二人ともイイ人なだけに、胸に来るんですよね。特に、テオが銀竜に為ることを選んだきっかけとなった伝説である聖女本人の物語も。
なんだかんだと、悪人罪人は多けれど、イイ人がそれと同じくらい多いのも、この物語の救いですねえ。たとえ罪を犯しても、今は悪心に身を引きずられても、人の心には良き部分があり、罪は濯げるのだと、子どもたちの悪戯から、王の悔恨、歌姫の復讐に到るまで、そしてかつて王族として多くの罪を犯してきたテオとアマポーラからして、人は善き方へと変われるのだという可能性を、この残酷で理不尽がはびこる世界観の中でしっかりと示している事こそが、この作品の雰囲気を切なくも暖かくココロ洗われるようなものにしている要因なのではないでしょうか。

うーん、二作目への不安を綺麗に払拭してもらいました。このシリーズ、次の三巻ですっぱり終わってくれる、というのも安心材料。きっと、感動的なクライマックスが待っていると信じて、最終巻を待ちたいと思います。

一巻感想

花守の竜の叙情詩(リリカ)5   

花守の竜の叙情詩 (富士見ファンタジア文庫)

【花守の竜の叙情詩(リリカ)】 淡路帆希/フルーツパンチ 富士見ファンタジア文庫

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参ったなあ。これは参った。
人の醜さを目の当たりにし続け、人間を嫌い疎み、妹であるロザリーだけを愛し拠り所にしてきた王子テオバルトと、王女としての日々にただ耽溺し、無知のまま生きてきたエパティーク。
国を滅ぼされ虜囚となった姫君と、周囲を疎み疎まれ国に居場所のない王子。亡国の王女と侵略国の王子。お互い相容れぬ関係でありながら、王太子の謀でともに旅をする羽目になった二人。
互いの愚かさ、人間性の欠如を目の当たりにしながらの旅は、二人の仲を狭めるどころか憎しみと侮蔑を膨らませ、怖れと拒絶を募らせていくばかり。それが、変わっていったのは、やはりエレンが旅路に加わって以降のことでしょうか。二人の身分をカモフラージュするために、人買いからかった幼い娘。まだ5歳にも満たないこの聡くも健気な少女を通すことで、お互いに抱いていた固定観念が徐々に崩れ始め、崩れた隙間から本人たちもすらが忘れ、遠ざけていたテオバルトとエパティーク、彼と彼女が本来持っていた人としての眩い輝きを、二人は垣間見始める。
徐々に変わってくるお互いへの見方。それとともに浮き彫りになる、今までの自分の生き方への悔悟。それを踏まえてそれぞれの心に宿り出す未来への意志。その意味が根底から覆り出す旅の目的。

出会ったがゆえに、それまでの歪み蹲り周りから目を逸らした虚しい生き方から脱却し、それぞれが備えていた人としての輝きを取り戻せた。でも、出会ってしまったからこそ避け得られなかったこの結末。真実の愛を知ることが、この結末とイコールで結ばれていたのだとしたら、この二人にとってこの出会いは幸せだったのか不幸だったのか。
本人たちは、幸せだったんでしょうね。本当に愛する人に出会い、これまでの自分とは違う、本当に誇り胸を張れる自分を手に入れたのですから。
それでも、これはあまりにも切ない悲恋だよなあ。
個人的には、ただただ一人の人を想い続ける人生というのは、あまり受容したくないシチュエーションの一つなのですが……今回に関しては最後に彼に願った彼女の想いが、あまりにも強く尊く神聖に感じられて、胸を突かれて……。それが彼女にとっての幸せかはやっぱり分からないんだけど、こればっかりは否定もなにもできないよなあ、とすんなりと思ってしまったのでした。

この作品の特徴は、二人の男女の悲恋を描いているにも関わらず、エレンという少女を介在させることによって、二人で閉じてしまった恋物語にせず、テオとエパティークとエレンによって擬似的な家族を構成、特にエパティークの母性を強調していたところでしょうか。世間知らずな無知で愚かな王女でしかなかった彼女が、強さと勇気と賢明さを掴んでいったのは、恋による力ではなく、むしろエレンを守ろうとする母性からの愛情でしたし、最後に彼女が強く生きる事を選べたのは、やはりエレンがいたからですし。テオも、侮蔑の対象でしかなかった彼女への意識が劇的に変わってしまったのは、エレンに対するエパティークの態度が彼が抱いていた人間そのものへの不信感を払拭するものだったからですし。そう考えると、エレンの存在はとてつもなく重いものだったんだなあ。この幼女、ほんと滅茶苦茶健気なんですよね。パねえくらいに。幼さゆえの愛らしさと、歳不相応の賢明さは、とにかくギューと抱きしめて守ってあげたくなるもので、テオとエパティークの出会いが運命だったとしたら、この二人とエレンの出会いも運命だったとしか言えないんじゃないでしょうか。

できれば、本当に、この三人で家族になれればと、願わずにはいられないのですけれど。切ないなあ。


この絵師さんは、ファミ通文庫の【彼女は戦争妖精】を手掛けてた人と同じ人ですか。この人の絵、目茶目茶綺麗で好きなんだよなあ。特にカラーは別格。今後、もっといろんな作品でこの人の挿絵、見たいところですねえ。
 
11月26日

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