【多分僕が勇者だけど彼女が怖いから黙っていようと思う】 花果 唯/bun150  ファミ通文庫

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「貴方こそ勇者様です!」王都から来た聖女はそう決めつけてくるし、聖剣を名乗る棒きれの声も聞こえてくる。けど僕は単なる村人で、僕のことを常に気遣ってくれるけど魔王より怖い幼馴染みのアリアと幸せになるのが人生の目標なのだ。それなのに聖女と聖剣は強引な手段で僕を勇者にしようとするし、神託を聞きつけた魔物まで村に押し寄せてきて―!?幼馴染みのために勇者になりたくない少年は幸せを掴めるのか!?希代のファンタジーラブコメ開幕!

タイトルでは彼女が怖いから、とネガティブというか受動的というか、受け身な物言いになっていますけれど、実際は仕方なく黙っているのではなく、アリアへの愛故に積極的に勇者であることに背を向けているんですね、この主人公であるルーク。
アリアの方もやたらルークへの当たりが強くて攻撃的なのですけれど、ルークを好きなことは彼自身にも周りにも全然隠していなくて、ぶっちゃけ相思相愛なのですよ、この二人。
アリアのあのやたらとルークにキツイ物言いをする部分や独占欲が強いところに苦手意識を持つ方も多いというのもまあわかるところではあるんですけれど、個人的には好き好きオーラを積極的にぶつけて甘えたところもよく見せてくれるので、あんまり気にならなかったり。何しろ、肝心のルークがアリアのその態度を含めて好きで好きでたまらない、というのをこちらも隠しもせずにばらまいてますからね。馬に蹴られるってなものです。
そもそも、あのアリアの当たりの強さはルークが両親を突然失ったあとの無気力状態を叱咤するのにはじめた……いや、元からわりとあんなんだったのかもしれませんが、特に強まったのはそれが原因だったはず。そこで優しく慰める、とならないところがアリアたる所以なのでしょうし、ルークが立ち直ったあともそうした態度を緩めることができないあたりの不器用さは、ある意味惨憺たるものなのかもしれませんが、アリアがあのルークへのきつさを緩められないのはそれだけ不安が解消されなかったからなのかもしれません。薄々、ルークの特異性にはアリア、気づいていたみたいですし、あの独占欲もそうなんですけれど、ルークが自分の元から突然消え去ってしまう気配というのをずっと感じていたようにも思えるのです。そこで優しくベタベタ甘えることができずに、拘束力を高めてしまうあたりが、アリアたる所以なのでしょうけれど。
聖女さまに悪女呼ばわりされても致し方ない部分はあるんだなあ。
しかし、ルークにとってはそれでいいのであるからして、余計なお世話なんですよね。
ルークの、世界なんてどうでもいいから、自分が守りたいのはこの村と何よりアリアであるからあとは知らん、という断固とした姿勢であり、一つの覚悟であるそれは、そりゃ世界を憂う騎士さまなどからしたら言語道断なんでしょうけれど……。
勇者としての使命とか強き者の義務とか、そんなの村人からすれば知らんがな、てなもんですよね。
村から出たこともないただの村人だったルークにとっては、世界とはすなわち住んでいる村のことで、それ以外の外の世界のことを大局的見地から考えろ、と言ってもなかなか難しいことのはず。何しろ、幾らでも情報が入手できて自分の住んでいる土地以外のこともなんでも知ることの出来る、そして幾らでも入ってくる現代と違って、外との行き来などたまに来る行商人くらいの僻地の村ってのは情報的に隔絶されていて、魔王だのなんだの言われてもそりゃピンと来ないと思うんですよね。
その意味では、ルークは自分でも言っている通り正しくただの村人なのである。そんな彼が外の世界よりも村と愛する人をそばで護り続けたい、とその身に宿った力の使い方としてそう考えるのも、決して無理からぬことなんですよね。
小賢しい奸智を用いて、自分とアリアを引き離そうとする外から来た聖女だの騎士だのと言う連中の物言いに耳を傾けるいわれはどこにもありませんし。
価値観の多くが異なっているために、聖女さまの勧誘とか甘言とか、ルークの琴線に触れることが全然なかっただけになおさらに。彼女、自分の価値観や好意を押し付けてそれを喜ばれると思っていたようなので、そのへんは仕方ないかと。まあ彼女だって上流階級どころか都会の人間とは異なる村人の、しかも頑なな向きのあるルークの考え方を想像せよ、というのも難しかったのでしょうが。
その意味では騎士様のほうが、ズバッと鋭い指摘を投げかけてルークを心を刺してきているのですが、あそこでブレないあたり、アリアへの愛情の重さはなにげにアリアからの歪なくらいの愛情の重さと釣り合ってる、という意味でもお似合いではあるんですなあ。
図らずもあのまま酷い形でアリアとルークを引き離していた場合、ルークって勇者として世界を救うどころか逆に恨んでえらいことしでかしそうな一面もありそうな気がしますしw
なので、やたらとポンコツ気配を醸し出していた聖剣が意外にも柔軟な考え方で間を取り持ってくれたのは幸いだったのではないでしょうか。こいつが一番聞く耳持たなさそうに思えたのに、伊達に何人もの勇者の手を渡ってきたわけではなかったのな。
まあどれだけルークが世界よりもアリアを優先したい、と言っても魔王を放っておいたらいずれは自分たちが住んでいる村にも魔王軍の災厄が襲いかかってくるのですから、関係ないなんて言ってられないのも確かなんですよね。遅いか早いかの違いでしか無いし、遅かったらそれは致命的になってアリアや村を守るという覚悟すら台無しにしてしまいかねない。
とはいえ、聖女様はやり方がほんと下手くそというか相手側の事情を鑑みないやり方だったので、その辺はルークの気持ちもわかるんですよね。
一番ほっこりさせられたのは、やはりアリアの弟であるロイでした。大好きな義兄ちゃんがほんとは凄い人なのに、誰もそれを知らず誰にも認めて貰えないのが悔しくて、だからルーク兄ちゃんにはちゃんと勇者になってみんなにその凄さを知ってほしい、認めてもらいたい、とむちゃをしてしまう姿は、大事な家族を正しく評価して欲しい、という幼いながらもほんとにルークを大好きで大切に思ってることが伝わってきて、そりゃルークも心温かくなるよなあ。彼にとっても、大事なものがアリアだけではなく、アリアを含めた彼女の家族、ひいては自分の家族となる人たち、というのが再認識されるエピソードでもあり、何気に物語の重要な要となるエッセンスでもあると思うんですよね、ここ。
とりあえず、アリアはメシマズに関してはルークに甘えずにもうちょい改善に必死になるべきだと思うぞ。