【―異能― 】 落葉沙夢/ 白井 鋭利 MF文庫J

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この世界には確実に主人公側の特別な人間がいる。でも、それは僕じゃない。

自分の凡庸さを自覚している大迫祐樹には成績優秀で野球部エースの赤根凜空と学校一可愛い月摘知海という友人がいる。――自分は二人の間を取り持つモブキャラなのだ。しかしある日大迫は知海と二人で映画に行くことになってしまう。「デートだね」とはにかむ彼女に戸惑いながら帰宅した大迫の前に、見知らぬ少年が現れて問う。「君の願いは、なにかな?」それは異能を秘めたモノたちへのバトルロワイヤルへの招待だった。「僕……の中にも異能があるのか?」だがそれすらも完全な思い違いだったのかもしれない――!! 予想を覆す怒濤の展開。審査員評が完全に割れた事件的怪作、刊行。

やたらとタイトルが長くなる昨今に敢えて単語一つのタイトルを持ってくるとか、ガガガ文庫みたいじゃないですか。MF文庫Jは特に口語なタイトルが多い印象だっただけに、敢えてこのタイトルで攻めてきた所に本作の特殊な立ち位置を連想させる。
それにしても、いきなりのちゃぶ台返しには驚かされた。いや、それだけならよくある手法で珍しくはなかったかもしれないけれど、注目スべきは一回ひっくり返しただけでは終わらなかった所だろう。
いや、この「ちゃぶ台返し」こそが本作のルールだったわけだ。そして、それが物語の構成という作者のぶん殴ってくる武器としてだけではなく、ちゃんとストーリー上でも確かな意味を持っていたことがラストに突きつけてくる。
いや、そんな事になっていたとはホント、最後の方まで全然気づいていなかったし、まさかそんな方法で引き戻されるとは。ちょっとあの娘の能力って桁外れじゃね? 致命傷まであっさり回復させちゃっているし、やれる範疇が蘇生どころじゃないですし。それも彼の異能があってこそ成立したんだろうけど。
ちなみに、ラストの戦いって何気に相手の方が完全に詰んでいたんじゃないだろうか。相手の方、最後まで気づいてなかったようだけど、あの場合勝っても負けても生き残るのは彼だったわけですし。彼の異能の正体を知らずにあそこまで油断してるのなら、直前のときみたいに「身体」を動かして、というのも難しくなかったような気がしますし。

もっとも、あれで本当に倒せたのかまだ微妙に怪しい気がしてますし。というか、あからさまに怪しい人がひとり残ってるんですが。あの人の力も異能の類だとすれば、どうして選ばれなかったのか。月摘刑事の認識がまだ誤魔化されてるっぽいのがどうにも、ねえ? そもそも、どうしてタチバナが選ばれたのか。一応、次回に繋がる要素は残してある、ということなのか。ここで終わるのも綺麗ではあるんですけどね、微妙にスッキリしないものは残るにしても。

正直、個々のキャラに関してはそれほど立っているとは思えないですし、話の転がし方はともかくストーリーの流れそのものはアカが辿った末路を見れば、パターンとして固定されて目新しいものはなかったですし、次々と決して行く勝負に関しても劇的なものではなく、バトルとして見てもキャラ同士の関係にしても当たり障りのない感じに終始していた気がします。
それでも、ついつい先が気になってグイグイ引っ張られるような牽引力には確かなものがありました。あの次々と変わる視点こそが、牽引力の源だったのでしょう。続きを読みたいと思わせられるパワーがあった、それは間違いなく「面白さ」だったのではないでしょうか。