【裏世界ピクニック ふたりの怪異探検ファイル】  宮澤 伊織/shirakaba ハヤカワ文庫JA

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ネット怪談×異世界探険
「検索してはいけないもの」を探しにいこう。

仁科鳥子と出逢ったのは〈裏側〉で爐△"を目にして死にかけていたときだった――その日を境に、くたびれた女子大生・紙越空魚の人生は一変する。「くねくね」や「八尺様」など実話怪談として語られる危険な存在が出現する、この現実と隣合わせで謎だらけの裏世界。研究とお金稼ぎ、そして大切な人を探すため、鳥子と空魚は非日常へと足を踏み入れる――気鋭のエンタメSF作家が贈る、女子ふたり怪異探検サバイバル!

怖ぇぇぇ! なにこれ、何がピクニックですか! 散歩気分で行くところじゃないでしょうこれ!?
昨今氾濫している「異世界」じゃなくて「裏世界」ってなんだろう、とタイトル見る度に思っていたのですけれど、これは確かにファンタジーとしての異世界じゃないですわ。
オカルトだ、オカルトだよこれは。

確かに行ったきり帰って来られない一方通行の世界と違い、裏世界は条件は色々あるものの、行き来は出来るし、扉となっている場所はどうやらあちこちにあるらしい。
かと言って、気楽にピクニック!とばかりに遊びに行くような場所では断じて無い。そこにうごめいているのは、本物の怪異たち。都市伝説やネット怪談で語られたこの世ならざるものたちだ。
ということは、裏世界ってもうあの世とこの世の狭間というような世界なのか。それにしては世界の有り様は生々しく異質であり頭がおかしくなりそうな狂気がべったりと張り付いたような世界だ。
とても好んで自分から飛び込むような世界ではない。どんな理由があるにしても、だ。
それを、この二人の女性は自らの意思で飛び込んでいく。片や、そこで行方不明になった親友を探すため、片やそんな彼女を見捨てられないために。
それだけ見るなら、真っ当な理由に見えるんですけどね。
怖くても恐ろしくても、大事な人のために勇気を振り絞って、悍ましい異形の世界に挑んでいく。
そう聞くと、まともに聞こえるんですけどね。
果たして、本当に彼女たちは真っ当なのか、まともなのか……正気なのか。まだ人間なのか。
この裏世界を知る人はみんな言うのですよ。その世界に関わっていたら、マトモじゃなくなっていく。段々と、人間を逸脱していってしまう。頭がおかしくなる。
そして二人は、初めて出会ったそのときに、もうベッタリとこの裏世界の洗礼を受けてしまうのである。身体に、痕跡が残ってしまうほどに。
それは、裏世界の要素が身体の中に残ってしまったということ。あの世界と、チャンネルが合わさってしまったということ。
それ以降彼女たち、空魚と鳥子は別に裏世界に行こうとしていない時でもふとした拍子にあちらの世界に迷い込んでしまったり、それどころか現実世界の方にあの世界が侵食してくるような、そんな現象に苛まれることになる。現実世界にいるはずなのに、じわじわと常軌が逸していく感覚。狂気に見ている景色が塗りつぶされ、ぐるりと世界が反転してしまうかのような……。

いや怖いから、これ本当に怖いから。
なんかメインの二人の女性がタフなのか精神的に壊れているのか、わかりやすくキャーキャーと怯えずにビビりながらもずいずいと突き進んでいくタイプなために、無為に登場人物を恐怖のどん底に陥れてパニックを誘発させ、恐ろしさを煽るような描写にはなっていないものの、起こっていることだけ見ててもそれだけで怖いから。
てか、もっと怖がれよ、空魚と鳥子も! こっちが泣きそうだよ!
一見まともに見える二人なんですけど、鳥子は危険を感じる感覚がぶっ壊れているのか、何も考えずに突っ込んでいくし、空魚もこの娘はこの娘で唐突に爆弾持ちだというのを暴露してきやがるんですよ。本人、まったくわかってない、自分がどれほど異常なことを平然と口にしているのか自覚してないのが、もうヤバいのなんのって。あれはゾッとした。それまでは本当に感性に関しては普通に見えていただけに、余計に「静かに狂っている」感が伝わってきて、絶句してしまった。
これ、空魚が鳥子のブレーキ役になっているように見えるけれど、もしかしたら鳥子の方がストッパーというか錨になっているんじゃないの? と思えてくるほどのインパクトだった。
空魚がどうしても鳥子を見捨てられず、突っ走っていってしまう彼女を追いかけ引き止めるのは、鳥子の存在が自分にとって「あっち側」に行ってしまいそうな自分を引き止めてくれる存在になる、と無自覚に察しているからなんじゃないだろうか。
その担保となるのが特別な友情、というある意味人同士の絆、繋がりとしては真っ当以外のナニモノでもないものでもあるのですが。いや、だからこそ、か。

ともあれ、正気と狂気の天秤がジェットコースターにでも搭載されているかのように激しく上下して振り回されるような展開の悍ましさ、気色悪さ、恐ろしさは正直マジ怖いです。
裏世界に行くエレベーター、毎回毎回ある特定階で向こうから走って乗ってこようとする女がいるけど、絶対に乗せてはいけない、とか普通に怖くないですか? ちょっと閉ボタン押し損ねたらタイミング的に乗ってくるんですよ、そいつ!? というか、そうでなくても、毎回閉じていくエレベーターの扉の隙間からこっちに走ってどんどん近づいてくる女の姿が見えるとか、怖すぎてもうそのエレベーター絶対乗れないですって!
なんでこの空魚と鳥子の二人、平然としてんの? 絶対恐怖心とか頭の中ぶっ壊れてるってばww
裏世界の方も、まあ当たり前みたいにデストラップやらどう戦っていいかすらわからない怪異がわんさかといて、普通に人が死にまくります。出入り口が世界中にあるからか、迷い込んでくる人も自分から飛び込んでしまう人もけっこう居るみたいで。
これ、異世界のダンジョンとかだったら、脱出さえすればもう安全なんでしょうけれど、この裏世界の場合、現実に戻れても安心できないというのが冗談じゃねーですよ。

うう、ホラーというほど恐怖を煽る内容じゃないのですけれど、都市伝説もの特有の不気味さというか得体のしれなさ、ヤバいところに手を突っ込んでしまったようなゾワゾワする感覚を味わえてしまう作品でした。