覇道鋼鉄テッカイオー

覇道鋼鉄テッカイオー 3 5   

覇道鋼鉄テッカイオー 3 (覇道鋼鉄テッカイオーシリーズ) (集英社スーパーダッシュ文庫)

【覇道鋼鉄テッカイオー 3】 八針来夏/Bou スーパーダッシュ文庫

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かつて父の仇によって撃ち込まれて以来、ルゥランの身を蝕んできた時限陰毒殺。その治療法が見つかったとの報せに歓喜するカザンたちは、治療法を知る電子妖精・ポラリスを完成させるためのスーパーコンピューターを輸送していた。そこに襲撃してきた謎の邪道鋼鉄を、からくも退けた一行のもとに援軍が到着する。それはカザンが幼い頃に別れた義理の姉・ミザカだった。久しぶりの再会を喜ぶ二人だが、ミザカには秘めた想いがあって…?一方、ルゥランの病が治れば、カザンとルゥランが結ばれることへの障害も取り除かれることとなる。だが、カザンの胸には暗黒武侠・ミャウ=ガーのある言葉が突き刺さっていて…第10回SD小説新人賞大賞受賞シリーズ第3弾。
宇宙の中心で愛を叫ぶ痴女、というフレーズが頭をよぎってしまった。とりあえずうるさいから黙れ、とw 
ルゥランの全力愛はあれだよね、下手なエナジードレインよりも周りの人の生気を奪うよね。活人剣で不殺を貫き、その果てに愛でげんなりし殺す、と。どんな残虐無道なんですか。そろそろジャックと姫様も半死半生の体をなしてきたわけで、誰かこの愛欲脳のバカ娘を何とかしてください。
そんなこんなで、今回は特に、愛ゆえに苦しみ争い憎み狂気に落ち、しかし愛ゆえに救われる、という凄絶なまでの愛の因業にまつわるお話でした。驚くべきことに、今回の一件は殆どが純粋な愛情故に、その愛の強さゆえに巻き起こされてしまった事件なんですよね。ほんの一滴の悪意の涙滴が引き金を引いたとはいえ、すべての原因は澄み切った愛情に寄るものであり、他者を想う心が本来祝福されるべき人たちを相争わせ、刃を交わらせ、殺し合わせる因果となる。まったくもって、どうしてこうなった、という状況である。
それを起こし得る火種を作ってしまった銀河第一武侠の愛ゆえの狂気と、さしたる労なく僅か一手で逃れがたい破滅的な状況を作り出してしまった黒幕の悪魔じみた謀には、背筋が震えるほどの恐ろしさを感じてしまった。全くベクトルが違うにも関わらず、この二者の巨大すぎるラスボスとしての存在感には圧倒されるばかり。むしろ、まったく姿を見せないことでその手の長さ、常軌を逸した有り様、壊れ果てた愛情を、手のひらの上で転がしているような巨大さをひしひしと感じさせる話になっていたと言えましょう。よもや、銀河第一武侠、ルゥランの祖父がここまで破綻してしまっていたとは。彼がカザンにしたことは確かに正義の体現者としてはやってはいけない事ですし、それを知ってしまったミサカが憤怒するのも無理ないのですが、孫娘の命を救うために思い余った凶行と思えば……少なくともカザンとルゥランがお互いにあれだけ想い合っている以上、そこまで酷い話だとは実感としては得ていなかったんですよね。頭はろくでもない無茶苦茶なやり口だなあ、とは思っていたものの。その意味では、これまでのルゥランの祖父への複雑な心境がそのまま自分としても同じ感想だったように思います。しかし、その狂気の実体が明らかになってみると、百聞は一見に如かず、というんじゃないけれど、その突き抜けてしまった愛情の醜悪さは、直視できないほどえげつないもので、惨たらしく陰湿で非道で外道で下衆極まるもので、これは情状酌量の余地なんてどこにもないですよ。酷すぎる、あまりにも酷すぎる。
これをなしたのが、悪人である十絶悪鬼のような連中だったのなら、そこまで衝撃的ではないのですが、これをやってるのが現在の宇宙の秩序の体現者、正義の徒、宇宙最強の実力者であり権力者としても随一であろう銀河第一武侠だというのですから、その絶望感は半端じゃない。せめてもの救いが、武衛派の上層部が第一武侠の乱心をちゃんと把握していて、もしやの場合は他の銀河武侠たちと協力してこれを討ち果たそうと計画していたことがわかったことでしょうか。ルゥランからすれば複雑でしょうけれど、少なくとも上の方の連中はまともで、カザンたちの味方となってくれるのがわかったのは大きいかと。
それでも、あんまり勝てる気がしないのは怖い話だよなあ。

しかし、そんな狂気と悪意によって絡まり暴発した愛憎を吹き払うのもまた純粋な愛。ルゥランのカザンへの巨大な愛も、ミザカの義弟への純粋な愛も、カザンの愛ゆえの苦悶も、その捻じ曲げられた方向さえ正せば、こよなく大きな力となり、誰も不幸せにならない不殺否血の剣として振るわれることになる。まさに、愛の恐ろしさと同時に、無辺の愛の讃歌ともいうべき全くもって素敵なお話となったものです。そして、絡まりあった糸を解きほぐす力となったのは、姫様の頑張りなんですよね。武侠でないにも関わらず、この娘の毎度の頑張りには頭がさがる思いです。報われない愛と知りながら、カザンとルゥランの幸せを何より自分の幸せと思い献身的に振る舞う姿は、これぞ無私の愛情というもの。時々頭がおかしくなったみたいに喚いたり、ちょこっとあのバカップルに天誅を加えたりしても、誰も怒りませんからやっちゃいなさいw

今回の話、特にカザンの置かれた状況というのは、実のところこの一件が片付いても最初と何一つ変わっていないんですよね。彼が苦悶し苦悩し絶望した事は何一つ現実的には解消するための方策を見いだせてない。にも関わらず、カザンの悩みは払拭され、ミャウ・ガーの残した事実と言う名の呪いは振り払われた。面白いのは、視点の変換。見方さえ変えれば、どれほど絶望的に思えた事でもまるで姿を変えてしまい、希望の未来へと容姿を変えてしまう。まさに、パラダイムシフト。意識の変革。愛とは、可能性そのものである。
そんな、素敵なお話でした。やー、コメディのりな掛け合いも毎度のごとく切れ味たっぷりだし、やっぱり面白いわ、これ。

1巻 2巻感想

覇道鋼鉄テッカイオー 25   

覇道鋼鉄テッカイオー 2 (覇道鋼鉄テッカイオーシリーズ)

【覇道鋼鉄テッカイオー 2】 八針来夏/Bou スーパーダッシュ文庫

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「わたしの分まで生きてね。愛してるわ。さようなら」
銀河に響く愛の言葉。この心は君を救うために。


心身を極限まで鍛え、兵器をも超えた力を持つ存在・武俠。
童貞のみが極めることのできる『童子神功』を使うカザンは、幼馴染みの美少女・ルゥランや、とある星の姫・アルフェミナたちとともに旅を続けていた。
そんな一行の前に暗黒武俠『神算魔女』ミャウ=ガーが現れ、取引を持ちかける。
不可解な内容のそれを拒絶したカザンたちだったが、今度は自分と同じ名をした少女を捜すジルエッダという少女が訪ねてくる。
このジルエッダこそがミャウ=ガーの求めていた少女だったことから、カザンたちはミャウ=ガーとその義父にして暗黒武俠最凶の男、『巨凶暴星』ガーナラクと対立することになってしまう。
アルフェミナからの依頼にも拘わるジルエッダを追う中で、カザンたちはジルエッダたちにまつわる哀しい、あまりにも哀しい物語を知る…!!
第10回SD小説新人賞大賞受賞シリーズ第2弾!


大陸間弾道鉄拳(オービットナックル)ッッ!!

もう最高じゃね、これ。
この技のイカした馬鹿馬鹿しさだけでも読むに値する。これロケットパンチなんですけどね、いわゆる。でも、スケールから何から今までに見たことがないレベルの段違い。ハッタリの効かせ方も段違い。一度躱してもスイングバイで再加速。惑星外周を一周して再攻撃とか、もうね、もうね♪
このスケールの馬鹿馬鹿しさを真面目にやるのって、なんかあれですよね。【斬魔大聖デモンベイン】と【鬼哭街】を合体させたような底抜けの楽しさがもう素晴らしいのなんの。やっぱ、宇宙を舞台にした武侠モノって、素敵極まるわ。

今回の敵となる十絶悪鬼の『神算魔女』ミャウ=ガーと『巨凶暴星』ガーナラクは、それぞれ悪党ではあるものの、一本筋の通った武侠としての誇り持つ格好良い悪なんですよね。勿論、暗黒武俠である以上、銀河武侠であるカザンたちとは拳と拳を交える間柄であり、それぞれに相容れぬ思想によって反目せざるを得ない関係なのですが、それでもお互いにある種の信頼を交えられる、敵として相交えるに胸の高なる敵なんですなあ。
特にガーナラクの爺さんなんぞ、銀河第一武侠と双璧をなす、暗黒武侠の第一人者にも関わらず、親馬鹿で小気味の良い実に楽しい爺さんで、いやもうなんでこのジジイ敵なの? と思ってしまうくらい素敵な爺さんなんですわ。ぶっちゃけ狂って頭のおかしい所がある銀河第一武侠と比べても、このじいさん娘思いだし、イカしてるし、三枚目さ加減がひっくり返ってむしろ格好良いくらいだし、ジジイ最高!!
その養女であるミャウ=ガーもまた、計算高い悪女かと思ったら、何だかんだと情深いし、約束は必ず守るし、悪ではあるものの非道は嫌いでこの一件でもやらかしている事に対していちいちフォローして被害が深刻にならないように手回ししているし、何より彼女らの今回の目的が、カザンたちとはやり方が違うとはいえ人助け、だったりするんで、全然憎めない。どころか、むしろ惚れ惚れとするようなイイ女っぷり。
自分を助けてくれなかった銀河武侠には、並々ならぬ思う所がある、というのもむしろ苦悩を抱え込む美少女という点でポイント高いですし。後半の、思わず計算も何もうっちゃって、感情に任せたまま爆発してしまうところなんかも、ガーナラクのジイさんじゃないけれど、この子の場合はそれくらい発散した方がいいんじゃないか、というような感じで、根本のところで暗黒武侠という以前に女の子らしさがあって……いやあ、実にイイ新キャラでしたよ。
もうラストの略奪愛宣言には、むしろ嬉しくなったくらい。この子は鬱屈してるよりも、そんな風に暗黒武侠として開き直って好き勝手やってくれた方が気持ちがいいですわ。この子の場合はどれだけはっちゃけても、悪の道を外れず、残虐非道な外道働きはしない、という安心感もありますし。

前回の直接拳を交えた敵であり、仇であった『氷棺冥送』グントラムへのリスペクトが多分に含まれていたのも、なんか感動モノでした。お互いに家族の仇同士でありながら、戦いの果てに認め合い、最後は自分の魂そのものである武術の秘奥を託して逝った仇敵グントラム。そのグントラムが残してくれた技が折々で切羽詰まった事態を打開するための鍵となり、今回の最後なんぞは亡き男の魂が手助けしてくれたように新たなる技が生まれ落ちる展開なんぞ、激燃えであると同時に胸が熱くなるようなシーンの連続で……もう、お腹いっぱいですわー。

とまあ、テンポのよいギャグや掛け合いを交えながら、涙あり、笑いあり、萌えがあり、感動があり、何より宇宙に浪漫があり! 宇宙を股にかける銀河武侠活劇、この第二弾もまたパワーも熱量もいささかも衰えず! 一期からのメインキャラたちも相変わらずいい意味ではっちゃけてて、ほんと読んでて楽しかった。アルフェミナ姫さまが元々ツッコミ担当だったけれど、朱に交わってしまったのか更に頭がいい感じに悪くなって、色々大変なことになってますが、それもまた良し!!
此処に来て、童貞で無くなれば無力になってしまい、ルゥランに守られるだけの存在になってしまう、という兼ねてからの男の矜持の問題もつきつけられ、ただ単純にルゥランが冒された内功の「毒」を解除するだけでは話が終わらないという点も浮き彫りになってきて、さあどうなるどうなる?
読む前から読んでいる間じゅう、そして読み終わった後も次の展開に思いを馳せて、とどまることを知らないこのワクワク感。たまんないっすわー。
いやあ、期待通り、それ以上の最高さ加減でした。バンザイ!! 次回も期待しておりますぞ♪

1巻感想

覇道鋼鉄テッカイオー5   

覇道鋼鉄テッカイオー (集英社スーパーダッシュ文庫 は 6-1)

【覇道鋼鉄テッカイオー】 八針来夏/Bou スーパーダッシュ文庫

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第10回スーパーダッシュ小説新人賞大賞受賞! 最強の童貞あらわる! 銀河を揺るがす武侠たちの大バトル!
心身を極限まで鍛え、兵器をも超えた力を持つ存在・武侠。
童貞のみが使える強力な武術『童子神功』を使うカザンは、ある時、相棒の美少女・ルゥランと共に海賊から一人の姫君を助ける。
しかし、同時に海賊の背後に控える恐るべき敵の存在を知ることとなる。
カザンたち『銀河武侠』の最大の敵対者『暗黒武侠』が姫君・アルフェミナを狙っていたのだ!
しかもその男・グントラムは、カザンとルゥランの人生を狂わせた原因ともいえる、宿縁の相手だった…!
銀河を揺るがす武侠たちの戦いが、いま始まる!
第10回SD小説新人賞大賞受賞作、堂々刊行!
おおおおおおおおおっ、ちょーー面白れぇ!!
銀河武侠ですよ、銀河武侠。宇宙を舞台とした武侠ものを目の当たりにする日が来るとは。ただでさえ武侠ものそのものが滅多とないのに、スペオペで武侠モノが読めるなんて、なんて幸せ! 星方武侠アウトロースター以来じゃないかしら。いや、純粋に「武侠」らしさでは此方のほうが一途に濃い。武門の繋がりや技や武術に対する精神性。秩序と混沌という正邪を背負った社会性。生真面目に破天荒をやらかす荒唐無稽なハチャメチャさ。意外とこの手のガチな武侠小説らしさを盛り込んだライトノベルってあんまりなかったんじゃないだろうか。思い出せる限りでは、虚淵さんの【鬼哭街】くらいしか咄嗟に思い浮かばないや。或いは、本場中国の金庸の作品とか。
お陰で、どこか古臭さを匂わす作風が逆に新鮮に感じてしまいましたよ。最高じゃね、これ?
童貞じゃないと力を発揮できないという強大な武術、という設定からして素晴らしく頭が悪いんだが、ちゃんと主人公に意地や見栄や拘り、或いは最強になりたいという求道者としてではなくこの武術を捨てられない理由があったのには感心させられた。極めてアホな設定であるのに、お陰ですこぶる主人公が格好良く見える要素になってるんですよね。彼のブレない一途さは非常に格好良くて、心揺さぶられる。
そりゃこんな男前相手じゃあ、ヒロインもメロメロだわー。
カザンとルゥランの関係は、もう完全に熱々の恋人同士。ヒロインのルゥランがまたエロエロでおちゃらけた天真爛漫な娘なんだが、この子はこの娘でカザンに一途で内側はピカピカの乙女なんですよ。ここまで可愛らしい子に全身全霊で愛されたら、そりゃ男の子だったら頑張っちゃうわ。ぶっちゃけ、童貞というだけでそれ以外は何も不自由してないんじゃないか、コヤツ。イチャイチャベタベタブチュブチュ、傍から見ててご馳走様としか言えないくらいにずっとラブラブだし。正式に交際初めてしまったら、たとえ死んでも我慢できねえ、絶対押し倒す。と息を荒らげながら宣うルゥランえろすぎですw
もうこの二人には割って入る余地が全く存在しないので、一応ヒロイン枠であるところのお姫様アルフェミナは殆どツッコミ担当という割り振りに。いや、これがなかなか切れ味の良い、というか独特のノリのツッコミで、お姫様生き生きとはっちゃけてたりするのですが。それにツッコミしかしてねえ、というわけではなく、ちゃんとお姫様らしく攫われたり、過酷な運命を前に甘えを廃して成長したり、と一人のキャラクターとして十分以上に動いてくれているので、これはこれでキャラ立ってるんだろうなあ。
一方で、敵キャラも単なる悪役ではなく、ルゥランの父親の仇でありルゥラン自身を蝕む厄災の原因であるという仇敵でありながら、思わぬ背景も明らかになり、単純な憎悪を以て相対する敵に当てはまらない複雑で奥行きのある関係へと発展していったので、わかりやすい勧善懲悪物から逸脱した味わい深い読み応えのある筋立てになってて、これは私の好みドストライクでした。
いやあもう、大賞取ったのも納得の素敵極まるエンタメ作品。とにかく痛快で愉快でびしっと一本芯の通った大宇宙活劇でございました。勿論、続編は期待してもいいんですよね!?
 

12月10日


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