誰が為にケモノは生きたいといった

誰が為にケモノは生きたいといった 3 ★★★☆  



【誰が為にケモノは生きたいといった 3】 榊一郎/ニリツ
 富士見ファンタジア文庫


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タビタを連れて現世へと帰るため、指輪の示す方向に向かうイオリたちは、海辺の村で新たな棄界人の少女カチヤと出会う。罪人たちに『聖なる島』を奪われ、現世人を憎んでいたカチヤだったが、なぜかイオリを巡ってタビタと決闘することになり!?さらに『聖なる島』には、タビタを狙う罪人たちが集結していた―。生きるための戦いを決意するイオリは“棄界”誕生の秘密を知ることになり…。少年は誰が為に決断を下すのか!

うわー、これちょっと勿体ぶりすぎたんじゃなかろうか。残念ながらこのシリーズは三巻で打ち切り。さすがはベテラン作家さんということで、本来描くはずだった要素をうまいこと纏めこんできれいにラストシーンまで整えていたんだけれど……。
ラストの現世に戻ってからの展開ってめっちゃ面白そうだったんですよね。
あとがき曰くの国盗り編。棄界で得た新たな仲間たち、世界の真実、そしてタビタに与えてあげたいと思ったもの。野心とも志とも少し違う、でも世界を変える意志。そういうものを武器にして、自分たちを捨てた世界に殴り込み、ってまたワクワクが全然違ったんですよ。これは絶対読みたかった!
でもそういう気持ちがラストシーンで湧き上がってくるのって、構成として自分の興味・盛り上がりをもり立てることには失敗していた、ということでもあると思うんですよね。実際、棄界をウロウロする展開は各巻内ではきれいに一つのお話として起承転結していたものの、シリーズ物として先行きにワクワクをつのらせてくれるものがあったかというと、盛り上がるための積み立てみたいなものがあんまりなくて、若干ダラダラ進んでいたという感触もあったわけです。
じっくり棄界で物語を育て、キャラクターを繋げていくことは先々の展開のためには必須であったでしょうし、それを展開が遅いとは思わないんですけれど、これは読みたいと思わせてくれる国盗り編をチラつかせてくれるような餌巻きは、もう少ししておいて欲しかったように思います。
ちと、タビタがヒロインとしての存在感に欠けていたのも辛かったかな。同じようなタイプの【棺姫のチャイカ】と比べて何が違ったんだろう、と首をかしげるところなんですけれど、チャイカと比べても主体性というか自己主張に足りないところがあったのかなあ。こればっかりは、よくわかりません。ユーフェミアも、彼女の生き方が仕切り直しされるところに終始してしまって、彼女の魅力に切り込んでいくのはこれから、というところだったのでもったいなくはあったんですよね。素直になってイオリとの関係に自分から踏み込んでいく段階と、中の人とのあれこれなど、これからなんぼでもよくなりそうなヒロインでしたし。その意味ではタビタもこれからだったんだよなあ。ラストシーン見ると、彼女の「王族」としての立場って飾りじゃなくて、彼女のヒロインとしての重要な要素になる可能性があったみたいだし。
いずれにしても、どれもが書かれずに終わってしまったという意味で実に勿体無い作品でありました。

1巻 2巻感想

誰が為にケモノは生きたいといった 2 ★★★  

誰が為にケモノは生きたいといった2 (ファンタジア文庫)

【誰が為にケモノは生きたいといった 2】 榊 一郎/ニリツ 富士見ファンタジア文庫

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「美味しいご飯が作れるのは、いい嫁の条件なんだよ?」
新たな街でイオリたちが出会った棄界人の姉妹・ハンネとマルテ。彼女たちへの対抗心からタビタは―
「ん。夜這いする」
イオリに積極的なアプローチを仕掛けてきて!?さらには王族の末裔を探し出すことを命じられた罪人のひとり、ケネスと再会したユーフェミアも、イオリの背負った罪の真相を知り、ある決意を胸に抱くことになり…。
「穢れようが汚れようが生きてくれよ。胸を張って生きてくれ」
交錯する感情。変わろうとする者たち。復讐と贖罪の想いがぶつかり合うとき、イオリたちが進むべき未来とは―!?

イオリがユーフェミアの父親である上司を殺害した件、本当に誰も幸せにならない話でこれはイオリとしてもユーフェミアには言えんよなあ。
でも、ユーフェミアとしても真相を知らないことには中途半端のままどこにも行けなくなってしまっていたので、何らかの形で真実を知ることは必要だったのだろうけれど、イオリに話せよ、とはこれとても言えんですし。
その意味では第三者から教えてもらうというのは最善がどこにもない以上、最低限の条件だったんじゃないかな。ユーフェミアのイオリへの思慕と憎しみが入り混じった自暴自棄は放って置くと治らないまま膿み続ける傷になってしまいそうでしたし。
まあ、知ってしまったら知ってしまったであまりに重たいものを背負ってしまう羽目になったのですが。生きて苦しみ、しかし死んで楽になることは決して許されなくなったわけで。生きることそのものが贖罪、いや彼女自身が原因であっても何の罪もない以上、逆にちゃんと背負いきれない面もあるんですよね。だからこそ、イオリの方もユーフェミアへの対応について悩みきってしまっていたわけですし。
でも、そう考えるとユーフェミアの中のチヅルの存在って、ユーフェミアにとっては呪いではあるのだけれど、同時に言い訳となる存在であり、自分を許してくれる存在でもあるんですよね。チヅルの存在はユーフェミアにとって忌まわしき救いなのか。

しかし、臓器の移植手術まで高度医療とはいえ実現しているということは、イオリたちの世界の技術レベルって相当に高いんだなあ。製鉄すらままなってないゲヘナと比べると、そりゃ天界扱いされるか。
今回は、他に棄界人とイオリと同じ天使と呼ばれる異世界人とのカップルを登場させることで、タビタとイオリに二人の関係について改めて考えさせると同時に、上層への帰還の問題と絡めてユーフェミアの父親、イオリの罪についての真相を明らかにすることで、ユーフェミアとの関係も一気に整理しようという展開ではあったのだけれど、どの場面にもなかなかうまく踏み込めずにサラッとあっさり進んでしまった感が若干ある。特にタビタは終始、自分自身よくわからないままイオリにアプローチするばかりで、この娘の好きは本気ではあるんだろうけれど、まだ無垢なままで火が灯りきっていないままでしたし、ユーフェミアは真実に翻弄されるばかりで彼女自身確固とした想いをまだ抱けてないし、イオリはなんかこう意思がはっきりしないままだし、なんとなく全般的になあなあで進んでしまった感じなんですよね。
肝心の王族の血を引くものを連れて帰る、という一番の目的についても、裏で暗躍しているものがいる、ということが判明しただけで、詳しいところは何もわかってないし、とにかく全体的にはっきりしない感じでした。
もうちょい腰を据えて盛り上げてほしいなあ、と思うものの続き出にくい状況なんだろうか。

1巻感想

誰が為にケモノは生きたいといった ★★★☆   

誰が為にケモノは生きたいといった (ファンタジア文庫)

【誰が為にケモノは生きたいといった】 榊一郎/ニリツ 富士見ファンタジア文庫

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「目のやり場に困ってるんだよ。それとも誘ってるのか?」
上官殺しの罪で現世には二度と戻れないという絶対流刑の地『棄界』に送られた魔術猟兵のイオリ・ウィンウッドは、湖で溺れかけていたところを少女に救われる。獣の耳と尻尾を生やし身の丈ほどの大剣を持つ全裸の少女はタビタと名乗り、匂いを嗅いだりとイオリに興味津々で…。
そして父親の仇であるイオリを殺すため自ら『棄界』に来た女騎士ユーフェミアも巻き込んで、タビタの地竜狩りを手伝うことになるのだが…。
「イオリが行く所、私、行く」
生きなければいけない呪いを背負った少年と、ケモノの少女が紡ぐサバイバルファンタジー!
これ、髪の毛と大剣が繋がってるってイラストからじゃわからんなあ、と思ってよくよく見ると、表紙絵にしても口絵にしても巧妙に連結部分を隠すような配置になってて、そもそもわからないようにしてあった、のだろうか。作中ではタビタ登場から程なく髪と大剣が繋がってる描写はあるのでネタバレではないと思うのだけれど。
片言の小動物系ヒロインというと、榊さんの作品ではやはり【棺姫のチャイカ】のチャイカが思い起こされるのだが、こっちのタビタは見事なまでにケモミミ少女である上に大剣使いという属性付き。まあ、チャイカのあの対物ライフル型の魔法杖というアクセントの強烈さをもってするとなかなかインパクト勝負では抗いがたいのだけれど。
個人的には、榊さんの作品では厭世型の青年が主人公の方が真面目だけが取り柄みたいな少年が主人公の話よりも好きなので大いに期待している。このタイプの主人公、みんなその道のプロフェッショナルなので安定感があって、動的な場面でもどっしりとして基盤になってくれるので安心して読める、というのもあるんですよね。
特に今回の物語では、『棄界』という得体の知れない異界を舞台にして、かつてこの地に墜とされた王族の末裔をゲットして地上世界に連れてかえらなければならない。そのためには、同じ任務で落とされた罪人たちに支給された地上帰還用の指輪を連れ帰る王族の分も含めて確保しなければならない、というサバイバルとバトルロイヤル要素が物語の根幹に備わっていますからね。その上、『棄界』に来る際にいきなり想定外のトラブルが降って湧いているあたり、既にこの段階で「陰謀」が巡らされている節もありますし、早々に生き残るための算段と勝ち残るための作戦を練らないといけない状況にあり、そこで主人公のイオリの魔術猟兵といういかにも特殊戦に慣れ親しんでいるようなプロの判断力と決断力は頼もしい限りでしょう。彼と行動をともにすることになるタビタとユーフェミアは「戦闘」に対する適正はともかくとして、それ以外に関しては素人っぽいですし、ユーフェミアに至っては「くっ、殺せ!」が口癖という、そろそろ一周回って珍しくて逆に新鮮味を感じるポンコツさんですし、これイオリ一人だけ負担重くない?
と、思ったんだけれど、なにやらユーフェミアの方に変な「ナニカ」が取り憑いているみたいで。そもそもイオリが犯罪者となった上官殺し、ユーフェミアの父親の殺害に関して一切何があったか語られていない事も含めて、まず主人公の過去、背景周りから殆ど情報があがってきてないからなあ。ここまで殆ど何も明かさないまま話を引っ張る、というのはなかなかに珍しいことかも。特に榊さんはそのあたり明快なことが多いですし。それだけ、根幹にまつわる話なのか。
まあともかく、明かされる情報が少ないだけに物語の大筋としては、前提となる『棄界』に送られ王族を見つけなければならない、という任務の再確認とタビタという少女の出会い、にほぼ限定されるので、敵さんも黒幕からは縁も遠い殆ど現地の山賊、みたいなのが相手だったので、実は物語的には大きな動きはあんまりない、キャラと舞台設定の紹介という導入の一巻らしい内容でした。
あまり掴みのために派手にしない、という意味では堅実というべきか地味というべきか。

榊一郎作品感想
 

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