【勇者の剣の〈贋作〉をつかまされた男の話 1】 書店ゾンビ/赤ミソ オーバーラップ文庫

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絶望を笑い、絶望を晴らし、絶望を乗り越え――最強へ至れ

「人が心に絶望を抱いた時、その者は人に仇なす怪物に変貌する」
異形の怪物に母を殺された青年・ジュールは、詐欺師に騙されて購入した「贋作の勇者の剣」で怪物を打倒する。
怪物が元はただの人であることを知った彼は、その元凶を探るため旅に出ることに。
剣は偽りであっても、その胸には紛うことない勇者の心を持つジュール。
邪神の奸計により、仲間には裏切られ、無二の友を亡くすもしかし、彼は決して絶望に屈しなかった。
なぜならば――
「人よ希望を抱け。俺は勇者のジュール。絶望を晴らす勇者なのだから! 」
贋作の剣から始まる、本物の勇者の物語。それを今、語ろう。

これは傑作、傑作ですよ。心震え、胸熱くなる物語だった。
タイトルからして、偽物の勇者の剣を騙されて手にしてしまい、でもそれを本物と信じ込んで自分が選ばれし勇者だと思い込みに、本当に勇者になってしまった男の話、みたいなコメディタッチの勘違いモノだと思ってたんですよね。
全然違ったよ。
明言はされていないけれど、ジュールは騙されて買った剣の事を本当の勇者の剣だと信じていたわけではなかっただろう。決して、自分が選ばれた勇者だと思い込んだわけではなかったはずだ。
彼は自分で選んだのだ。勇者と名乗ることを自ら決めたのだ。神だの運命だの剣自身だのに選ばれた存在としてではなく、自らそうだと決めたのである。
勇者とは、どういう存在なのだろう。魔王やこの世を覆う闇を払うために選ばれし存在として予め定められた者だったり、例えば名前の通り勇気あるものなどと描かれる事が多い。
しかし、このジュールは。勇者ジュールはそんな勇者たちとは少し違っていた。彼は選ばれし者でもなく勇気ある者とも異なっていた。かの勇者は、まさに人々に勇気を与える者だったのだ。
絶望が心を覆い尽くす事で人が怪物へと変貌してしまうようになった世界で、彼の存在はその絶望を払う希望になっていった。諦めてしまいそうになる心に、勇気を与えてくれる存在だったのだ。

ジュール自身、絶望に飲み込まれそうになるような有様から立ち上がった男である。底抜けの馬鹿と言われるほどに朴訥で難しい事を考えず悩まない男だけれど、何も考えてない馬鹿ではないんですよね。むしろ、思慮深く朴訥故に物事の核心に踏み込むことの出来る優しい好漢なのである。そんな男の旅する歩みの後には惨劇に見舞われながら痛みを乗り越えた笑顔が広がっていく。彼と共に歩んでくれるもの、肩を組んで一緒に戦ってくれる仲間たちが集っていく。それは、闇に覆われていく世界を切り開いていくような光の歩みだったのです。

だから、その途中で突き落とされたさらなる真の絶望は、辛いなんてもんじゃなかった。
あれは、読んでるこっちも本当にショックだった。それでも、あの男は最後まで笑っていたんですよね。一度絶望しかけた男が抱いた希望。折れかけた心が救われて、灯された笑顔は決して失われることなく、絶望しようとしていた勇者を救ってみせた。
もしジュールが勇者として選ばれたとするならば、きっとこの時なのでしょう。かの親友が、かの大僧正がジュールを勇者に選んだ、そういう事なのでしょう。そうして、彼はもう一度勇者になる事を決めたのである。

そして再び、勇者の歩みがはじまる。絶望に包まれた冬の時代を、勇者が踏破していく。その歩みのあとに、希望の光が広がっていく光景が本当に胸熱くなる光景なのだ。
この二度目の怪物退治の旅。辞書乙女のエルンとの馬鹿騒ぎな巡行はラーズとの時みたくもうちょっとだけ詳しく描いてほしくもあったのですけれど、物語のテンポとしてはここはサクッと進めてしまう方が良かったのかな。でも、エルンはもう一人の相棒とも言える存在になるわけですから、もうちょっとこのコンビのエピソードを見てみたかった。それは、次巻以降に期待でしょうか。
でも、話としてはこの1巻でキレイに終わってはいるんですよね。ウェブ版では続いているみたいですし、書籍の方も「1」と数字がタイトルについているので、続きが出る前提ではあるようですがどんな展開になるんだろう。
蛇足にならないだろうかと心配になると同時に、やっぱり楽しみでもあるんですよね。この好漢ジュールの物語はもっともっと見てみたいじゃないですか。
本来ならもっと陰鬱になるようなハードなストーリーでありましたが、そんな絶望を笑い飛ばすというコンセプトを担うジュールの優しくも痛快な在り方が素晴らしく気持ちの良い、熱い作品でありました。文句なしの傑作でした。