輪環の魔導師

輪環の魔導師 10.輪る神々の物語4   

輪環の魔導師10 輪る神々の物語 (電撃文庫)

【輪環の魔導師 10.輪る神々の物語】 渡瀬草一郎/碧 風羽 電撃文庫

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薬師の少年と黒猫の魔導師が紡ぐ
ファンタジー冒険譚、堂々完結!


 神界の門より現れた異形の神、ボルアルバとその眷属を退けたセロ達。しかしその直後、世界各地に謎の光の帯が現れ、人々を襲いはじめる。聖教会の本拠、聖都ハルマニオスにその原因があると推測したセロ達は、英雄達の遺産を手に現地へと向かうが、そこには既に魔族の影が……
 異形の神々と魔族、そして犂堽の輪環瓩鮟笋襯札蹐肇▲襯イン達の旅路。その果てに待ち受けていたもの、辿り着いた真実──! 全ての謎が明らかになる最終巻!
ヒロインがヤンデレをこじらせすぎて、神様もビビって尻尾を巻かせて逃げました……え? なにこれギャグ?
ちょっとこれ、しばらく笑いが止まらなかったんですけど! 
聖神イスカの、人類補完計画みたいな、みんな一緒になって平穏を手に入れ幸せになろう空間にみんなが取り込まれて、状況的には絶体絶命の大ピンチだったはずなのに、セロと引き離されたせいでブチ切れたフィノが背筋も凍るような態度で脅しつけたお陰で、イスカ様はビビってドン引きしなさるわ、クラリオン様は絶句したまま何もできないわ、精神汚染されて平和そうに平穏空間を讃えまくってた仲間たちはころっと意見を翻して口々にフィノに迎合しはじめるわ、アルカインは正座して謝罪するわ、もう空気が完全に変な方向に(爆笑
特に仲間連中の、フィノの顔色を見ながらの鮮やかな手のひら返しには、もう お・ま・え・らーー って感じでいやはや。最終巻にも関わらず、アルカインと言えば活躍はしているもののかつてのカッコイイネコ型ヒーローの姿はどこへやら、この巻なんかへーこらしている姿しか思い浮かばないんですが。
フィノに怯え、シズクに引きまくり、シズクの親父さんにはビビリ倒し、と……この猫、敵に対しては実に勇ましい戦士なのに、身内に対してはどうしてこうなった、と思うくらいに哀れな人になってしまったなあ(苦笑
最初の頃の雄姿はいずこにw
それに比べて、セロの安定感の素晴らしいこと素晴らしいこと。ハッキリ言ってフィノのヤンデレ度ってこの界隈を見渡しても最悪に近い凶悪さなんですけれど、セロってばフィノが「おかしい」事に気づいていないというのもあるんだけれど、それにしてもほぼ完全にフィノのヤバさを包み込んじゃってるんですよね。普通、ここまでのヤンデレ、持て余してひどいことになってしまうものなんだろうけれど、その点セロは見事。なんだかんだと一貫してセロはフィノを一番大事にし続け、一途に守り続けたという理由もあるんだろうけれど、それにしても神様をすらドン引きさせたヤンデレを、よくぞまあ手の内に入れれるもんだわ。いい意味で鈍感だったんだろうなあ。終わってみると、何だかんだで一番大物感を感じさせてくれる子になりました。皆もフィノの恐ろしさを身をもって知っているからこそ、彼女を暴走させずにてなづけているセロに、その一点を以て敬畏を抱いてるんじゃないだろうか。セロさん、すげえ……ってなもんで(笑

形としてはラスボスみたいな立ち位置になった聖神イスカも、クラリオンの人格をいびつに歪ませてしまった事もあってか、これまで抱いていた不気味で得体のしれない神と呼ばれる異形にして異質な存在、という印象からすると……けっこうイイように変わったように思う。色々とその在り様を目の当たりにしてしまうと……むしろ、すっごくいい人(…人?)だったんですよね、イスカ様って。
神様として上から目線で正義を押し付けてくる、みたいな感じでもなく、ひたすらに善意で、一生懸命人間が幸せになれるように頑張ってるという朴訥とした善良さがかいま見えるんですよ。ああ、この神様、本当に人間のこと、好きで好きでたまらなかったんだろうなあ、と。で、自分なりに人が幸せになれるようにあれこれ手を尽くしていたものの、そもそも人間とは全く在り様の異なるイスカには、人間の幸せとはどういうものなのか、というのがわかっていなかった。それだけだったんですねえ。
その齟齬に自分で気づいたイスカが、素直に自分の間違いを認めて、クラリオンを解き放ったのを見た時には、この純朴な神様、なんだか好きになってしまいましたよ。この神様なら、確かに最高神として多くの人の信仰を集めるのも納得できるなあ、と。

イスカの力は、ウィスカが引き継いだようですけれど、ウィスカにもこの純朴な善性が幾許かなりとも引き継がれたら面白いのになあ、と思ったり。そもそも、ウィスカもヤンデレ入っているとはいえ一途でひたむきな子で悪い子じゃないですからねえ。幸いにも、想い人と再会できて新しい地に旅立てたのですし、そこでは誰かを助ける側にまわってくれたらなあ、なんて思ったりたり。

こうして終わってみると、この物語は異なる立場、組織や種族、相容れないと思われる思想や考え方の持ち主同士だろうと、分かり合い和解することができる、ということを示してくれたお話だったように思う。
最初に明確な敵として現れた「魔族」も、決して悪とされる存在ではなかったし、民族紛争や神々と人の交わり、果ては精神的に歪んだヤンデレさんまで、色々な障害を乗り越えて手を取り合い、理解を及ぼし合い、和を結ぶ事が叶ったわけですから。
でも、同時に本来なら強固な絆や盟約によって結ばれていた関係も、簡単に破綻し壊れてしまうことも、六賢人の崩壊やかつての大罪戦争の英雄たちの分裂などによって如実に示されている。
要は、当事者たちの意識と努力、なんだろうなあ。関係性とは如何にも脆く危うく、しかし幾らでも縒り合わせ取り戻す事のできるものなのでしょう。
さながらそれは、輪を環するようにして。

なんか、フィノのヤンデレのインパクトがひたすらとてつもない作品でしたけれど、心地良い良作でした。お疲れ様です。
まだまだ世界を渡って、この物語は続くようです。その先は、再びパラサイトムーンの世界なのでしょうか。何れにしても、ワクワクは止まらない。

追記:

うがああああああああ! シェリル様、オマエもかーーーー!!!
んなアホなーーーーーー!!!


渡瀬草一郎作品感想

輪環の魔導師 9.神界の門3   

輪環の魔導師〈9〉神界の門 (電撃文庫)

【輪環の魔導師 9.神界の門】 渡瀬草一郎/碧 風羽 電撃文庫

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神界より訪れる異形の神々──
苦境に立たされるセロ達の運命は!?


「全員、“神々”の来訪に備えなさい!」

 シャンヤルル僧院での混乱を経て、遂に開いた“神界の門”。その向こう側から訪れた異形の神の眷属によって、セロ達は窮地に陥る。
 魔族の主ウィスカは、部下達と共にその侵攻を食い止めるが、常軌を逸した敵の前に劣勢を強いられ──
 神話の時代から続く神々の遺恨。
 その神々の力に魅入られた者達。
 次々と変転していく状況の中で、セロ達が直面する新たな事実とは?
 シリーズクライマックスの第9巻!
思いっきり「迷宮神群」だこれ!!
まあそれ以前から既に【パラサイトムーン】に登場した迷宮神群と、この輪環の魔導師にて記された神々には共通する名前や神話が散見されていたので今更といえば今更なのだけれど、まさか本体と眷属まで出てくることになるとは。驚いたよっ! マジで驚いたよ! セロがまさかのアラクネの眷属扱いされるとは。アラクネってあれですよね。甲院薫の異能の元。
そう言えば、今回のストラーダの過去回想に出てた天元の職人マリアンヌって、パラサイトムーンにも名前出てたんだった。ああ、以前の巻にもマリアンヌて出てきてたんだよなあ。露草弓が閉じ込められた「マリアンヌの虫籠」って、もろに彼女の作品だもんね……あれ? ということは、時系列的に言うと次元の「巡礼者」たる迷宮神群が神界の門を渡っていった次の世界、とは言わなくても少なくとも「パラサイトムーン」の世界は「輪環の魔導師」の世界よりも後になるんだろうか。
大罪戦争の黒幕とも呼ばれる大魔導師エスハールが、魔人ファンダールとの邂逅シーンでかなり近い身形容姿だったことからもあの星詠みのエスハである可能性が高まったことからも、一応時系列上はコチラが過去、になるのかな。果たして世界を渡る迷宮神群に時間という概念がどれほど当てはまるかわからないが。

かつての大罪戦争の裏側に、英雄たちとエスハールの開けた神界の門によって「戻って」きた神々との戦いがあったのなら、再び神界の門が開き、或いは別口から迷宮神群の本体が現出しようとしている今、大罪戦争再び、という事になってきてるんだろうか。どうやら聖神イスカの動向が核となってくるようだけれど。すべての事情を把握していそうなのは、それこそ大罪戦争の頃から生きてそうな魔族の主人ウィスカだけか……。
今回、何故か魔族にだけ神群ボアアルバの力が通じなかったんですよね……。魔族には魔道具を使えないという特徴もある。魔道具はアラクネの力を使ってその加護を帯びて生み出されたもの。ウィスカが大罪戦争の頃から姿も変わっていない。そして彼女によって魔族という存在が生み出されている。これって、封印の鬼神・シャパニアの異能や特性とかなり共通性があるような。もしかして、ウィスカがシャパニアの宿主なのか? 「神群の渡し」についてだけは全く触れられてないのが気になるところだけれど。

豊穣の神ボアアルバの顕現による大混乱。さらに、これまでずっと行方不明だった魔人ファンダールを思わぬ場所で助けだす事で、事態は大きく動き出すことに。まだまだ竜人やウィスカなど思惑がわからない人が多数いて、状況が整理出来ていないのだけれど……すべてのキーワードはやはりセロとフィノたちの両親が死んだあの事件、という事になるんだろうな。あそこで何が起こったのかさえわかれば、多くの謎が紐解けるはず。そうなると、あのフィノの暴発しかかってきた狂気こそが物語の重要な鍵の封印を解くさらなる鍵、になるのかもしかして。あれってただのネタじゃなかったんだなw
もうアルカインが完全にトラウマになってますよ?(笑
ウィスカの雰囲気がフィノのアレに似ている、という話を聞いて途端にフィノと同じって勝てる気しないよぅ、と戦意を失って逃げ腰になるアルカインに吹いた。ちょっとアルカイン、キャラ変わってる変わってる。どれだけフィノの事怖いんだよ。
そのアルカインが黒猫の姿になった真相も明らかになったわけだけれど……あれれ!? 今まで魔族の呪いと言われてて、アルカイン本人もそう信じ込んでいたんだが……おいおいおい。ファンダールさん!? あんた、やっちゃった? 自分の大ぽかを悟った魔人ファンダールの焦りっぷりに、状況が緊迫しているにも関わらず大笑いしてしまった。いや、あの場面では仕方ないんだろうけどさ、この真相は滑稽極まりないw
しかし、アルカイン大軍団には思いっきり和んでしまった。あれは反則だろう。暗黒神トライハルト、なかなかイイ趣味をしておる。

渡瀬草一郎作品感想

輪環の魔導師 8.永き神々の不在3   

輪環の魔導師〈8〉永き神々の不在 (電撃文庫)

【輪環の魔導師 8.永き神々の不在】 渡瀬草一郎/碧 風羽 電撃文庫

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魔族、聖教会、アルカイン達──三つ巴の戦いの行方は? シリーズ第8弾!

 シャンヤルル僧院にて再び激突したアルカイン達とロンドロンド騎士団。それに並行して工人ナボールと南天将デルフィエの接戦も続く中、楽人シェリルと腹心のレニーは、六賢人の亀裂が決定的なものになることを危惧していた。
 そして、まるでその不安を嘲るかのように、眼下ではある変事が起き――
 セロの中でよみがえる大罪戦争の断片的な記憶。幼いフィノが見た異世界につながる門。様々な謎が糸となってつながる先に、魔族の“主”が現れる!
 人気ファンタジーシリーズ第8弾!!

ああなるほど、フィノの度を越したセロへの執着は、いわゆるヤク中みたいなものだったんだね。なら仕方ない……って、んなもん余計ヤバいじゃん!!
ま、まさかフィノのあの病みっぷりに相応の理由があったとは驚いた。驚いたけど、それ以上に怖いっすよ。ぶっちゃけそれが真実なら、もう中毒症状が進みきってしまった依存症じゃないですか。治りようがないじゃないですかっ!
これ、フィノがセロと離れ離れになったら冷静になって落ち着くどころか、禁断症状が発生しそう。フィノが強引にでも旅にくっついてきたのは正解だったんだな。
このシリーズ、何が起ころうとどんな敵が出てこようと、とりあえずフィノより怖いものは存在しないので、何があろうとわりと鷹揚に受け入れてしまえるのは、正直どうなんだろう(笑
ついに現れた魔族の主。さすがは魔族を生み出し、主と祀り上げられている人物だけあって尋常でない異質さと存在感で場を圧倒してしまうのですけど、怖くはないんですよね、怖くは、うん(笑
別に、いきなり横っ腹をナイフで刺して来たりとかしなさそうだし。いや、仮にもラスボス級がいきなり腰だめにナイフを構えて体当りしてきて「裏切り者ーーっ」とか泣き叫びながらグリグリと突き刺したナイフを捻ったりとかしてきたら、それはもう怖いとかいう話じゃないんですけどね。ラスボス級がそんなことしたら、困る、うんw
だもんで、まあ怖くないとか的外れな感想なんですが、でもフィノと比べると怖くないww

とはいえ、この魔族の主という存在が非常に危険なのはひしひしと伝わってくる。前巻までのエピソードなどから、魔族になっても善い人は善い人で魔族=悪ではない、というのは理解できたのだけれど、それを上書きする形でさらに魔族の在り方の情報が出てきたことで、やはり魔族という存在になることは不自然で危険なことなのだということが発覚する。人格の開放については論じる余地があるけれど、魔族全体が一人の意思によって思考に影響を受けてしまう可能性があるというのは、やっぱりねえ。肝心の主が、温厚で人格者ながらどこか破綻し人倫から逸脱してしまい、さらにある存在に執着して社会秩序を全く顧みていない、というだけでも危険極まりないのだから。

かと言って、聖教会みたいな信仰を笠に着た絶対権力の押し付けに対しては、魔族は一定の共闘は出来るはずなんですよね。だから、両方と完全に敵対しまう形は出来れば取りたくない、というのが今のアルカインたちの立場になるんだろうけど……いや、そもそもアルカインたちにはまだ聖教会や魔族たちみたいに世界をこうしたい、という展望が無い以上、第三極にはまだ成り得ないんだよなあ。楽人シェリルも含めて状況の激変に混乱しながら対処し続けているのが現状で、積極的に現状を思う方向へと動かそうという能動が生まれていない。その方向性が見いだせてないから、仕方ないんだけど。
やっぱり、そこを見出しはっきりさせるためには、セロの持つ力の真実を明らかにすることと、行方不明の魔人を見つけないと始まらないんだろうなあ。
セロの秘密については、魔族の主が知ってるみたいだけど、聞き出せるかどうか。なんか、最後えらいことになってしまったし。
いきなりあれは想定外すぎるっ。もしかしてこのシリーズも、パラサイトムーンにつながってるんじゃないだろうな!?

最後に、満足して逝ったバルマーズ師に黙祷。涙とともに見送るラダーナと、バルマーズの遺志を継ぐと誓うクリムドの姿に貰い泣き。この三人にこれだけ感情移入することになるとはなあ。

渡瀬草一郎作品感想

輪環の魔導師 7.疾風の革命4   

輪環の魔導師〈7〉疾風の革命 (電撃文庫)

【輪環の魔導師 7.疾風の革命】 渡瀬草一郎/碧風羽 電撃文庫


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ついに“魔族”と“六賢人”が対峙する──! 激動のシリーズ、第7弾!!

 “聖人”クラニオンの不穏な動きにより、六賢人の関係が軋んでいく中、大国サイエントロフに内乱の兆しが訪れる。“楽人”シェリルに保護されたアルカイン達は、浮遊庭園からその調査に乗り出すが、その地には魔族の影も──
 そんな中、セロは自身の見る夢の内容が、大罪戦争の英雄達と深く関わるものであることに困惑を深めていく。
 反乱軍に協力する魔族、そして内乱への介入を決めた聖教会。様々に入り乱れる各勢力の思惑を前に、アルカイン達が選ぶ道は──!


先の感想で、この作品が個々のキャラクターたちの事情と価値観に焦点を当てて紡がれていた小さな世界の物語から、国際情勢や組織間の対立構造が絡み合う大きな世界の物語へと一気に視点が広がったことに驚きを以て触れていたのだが、ここでさらに過去の歴史という時間軸の方向にまで関連性を広げてきたか!!
かつて、大罪戦争と呼ばれる世界規模の大乱の中で名を馳せた英雄たち。だが、その英雄たちには、史実から抹消された、表の戦争とは異なる闇に葬られるべき戦いに身を投じた歴史が秘されていた。
華々しい表の歴史には記されない、英雄たちがただ一人の敵を討ち果さんが為に集い、その目論見を葬り去るために挑んだ戦い。名のある英雄たちが束になって力を合わせなければならなかった狂気。それが、かの大罪戦争と銘打たれた大乱の真の戦い。
ああ、これまで度々歴史上の英雄の名が口端にのぼり、大罪戦争という過去の歴史に過ぎないはずの戦いが、物言わず物語の傍らにずっと寄り添っていたのは、こういう事だったのか。

今、かつての大罪戦争と同じ何かが始まろうとしており、同時にそれを阻まんとする現代の英雄たちが生まれ始めている、まさに時代が激動の波にさらわれようとしている歴史的瞬間を目の当たりにしているわけだ。
これは燃える。

作者は先のシリーズ【空ノ鐘の響く惑星で】で試行錯誤し続けた、個々のキャラクターの戦いと、大規模な国同士の衝突となる戦記的な戦いとのすり合わせを、この【輪環の魔導師】ではこういう形でハイブリッドしていくつもりなのか。マクロな視点とミクロな視点。それらを両方手放さず、中途半端にせず、自在に融合し分離して演出して行く。非常に難易度の高いやり方だとは思うけれど、この緻密にして基礎となる土台のドでかい考え抜かれたストーリーデザインを鑑みれば、確かな手応えが感じられると言える。これは、当初読み始めた時感じたものよりも遥かにスケールが大きく、大胆で躍動的な物語になりそうだ。しまったなあ、渡瀬さんは最初から【空ノ鐘の響く惑星で】に負けないスケールでこのシリーズ、考えてたんだなあ。正直、見くびってたかも。

しかし、こうなってくるとそもそも<魔族>というのはなんなのか、というのが気になってくるところ。シリーズ当初は魔族=悪みたいなイメージがあったけれど、魔族化する事自体が人間性が邪悪化する事とイコールではないことは、魔族化しながらも敵に回らず味方で居続けた人もいれば、また敵対している魔族勢力も決して悪の軍団ではないことは明らかになってきている。
となると、そもそも魔族化という現象が何によって引き起こされているのか。そこが気になってくるんですよね。かつて、英雄たちが戦ったあの存在が絡んでくる事になるんだろうか。
話が壮大になってきたなあ。

そして、話が壮大になってこようが変わらないのが、フィノのセロへの偏愛である。最近はもうセロが気づかないんだからいいんじゃないかという気にさえなってきたw
フィノって稀代のヤンデレで、思いっきり性格歪みまくっているんだが、その歪み方が真っ直ぐなので(って物凄い矛盾した物言いをしているがこうとしかいいようがないのであしからず)、意外と嫌悪感やらの類は感じないんですよね。ちょっと微笑ましいくらい。微笑ましいと言っても、浮かぶのはひきつった笑いなんだけど(苦笑
お姫様が正直危なかったんだが、あの人のフィノの敵視を回避するスキルは超絶技巧の領域(笑 あれだけセロにベタベタしながら、フィノの殺意が高まる前にヒラリヒラリと避けちゃうんだから、スゴイの何の。それを完全に天然にやっちゃってるんだから。まあ、本人がセロの事を異性として全然見ていないと言うのもあったんだろうが。

むしろ、シズクが変にフィノを見習いはじめたのがむしろヤバいw シズクは生真面目だからなあ。フィノもお付き合いの秘訣とか聞かれて、他の女を近づけないこと、とか真面目に答えないでくれ。

と、セロ一行についてはわりと和やかな雰囲気だった今回。楽人のお嬢さんは、前回苦労してたっぽいから、若いのに曲者の賢人たちに囲まれて色々大変なんだろうなあ、と若干同情混じりにその頑張りを応援していくつもりだったのだが……此の人、アーパーだったw
いやあもう、なんというか……賢人は神器に選ばれるために変人が多いというけれど、こうもアレな人ばっかりというのも凄まじいと言うか、神器自重しろというべきか。ただ、この状況下においては楽人シェリルのアーパーっぷりが、むしろ頼もしい。アルカインの師匠たる魔人が行方不明で、聖人率いる聖教会とかなり深刻に拗れはじめたのを考えると、この後ろ盾は大きい。あのお気楽脳天気な人柄は、対応するのにアルカインも気苦労が大きくなりそうだけど。
気苦労といえば、アルカインはシズクがヤンデレ修行を始めるわ、元西天将のルスティアナがむしろ魔族の時よりも積極的にアルカインを狙ってきているだわ、とフィノへの心労も加わって、そのうち胃に穴が開くんじゃないだろうか。大変だねえ、猫さん。
ルスティアナが魔族化が解かれた後も、大して傍若無人っぷりが変わってなかったのには笑ったなあ。性格的には言葉数の少ない不思議少女なのだけどw
メルルーシパ、妹弟子甘やかしすぎだ(爆笑 西天将のルスティアナと対立していたときには、まさかここまでシスコンとは予想もしなかったぜw


そんなこんなで和やかなセロたち一行と比べて、深刻真剣に戦っているのが魔族の諸君。
のちに<疾風革命>と呼ばれることになるサイエントロフ国の内乱に深く関与していくことになるのだけれど、決して自分たちの都合だけを押し付けてるわけじゃないんですよね。自分たち魔族の足場にするつもりはあっても、ちゃんと現地の人達の事を考え、国のあり方を考え、関わろうとしている。その結果、というかその過程において、ニスロフというとんでもない指導者が現れることになるんだが……。元は国内の貴族領主の一人だったニフロスという男の軌跡は、ちょっとした感動もの。ルーファスたちをも驚嘆させる男の覚醒には、ほんとに驚かされたなあ。この辺の変転は、戦記物として非常に面白く、興味深かった。
このサイエントロフという国の状況は、相当に酷い。二つの民族間の、憎悪という感情に根ざした対立は、おそらくルワンダあたりがモデルなんじゃないだろうか。
人間が人間の扱いを受けられない、地獄のような世界。それが、支配するされる側が歴史の中で入れ替わりながら延々と今にいたるまで続いてきた。
終わることの無い悪夢のようなこの国の在り方に、北天将ルーファスと南天将は敢然と立ち向かおうとしているのだ。そして、それは彼らの下にいるラダーナたちも同様で……。

エルフール国を乗っ取り、セロたちと敵対した彼らだけど、こうなってくるととてもじゃないけど、憎むべき敵とはもう思えなくなっちゃったよなあ。
アルカインたちとは勢力としては敵であっても、個々の感情で憎みあうような敵ではなくなったというべきか。勢力としての敵対関係なら、情勢の変化で幾らでも敵味方は転びますしね。
だからこそ、ラストの展開は激燃え!! もう、無茶苦茶熱かったーーっ! 物凄いイイところで次回に続く、だもんなあ。これは次回が待ち遠しくて仕方がないですよ。素晴らしかった。

2巻 3巻 6巻感想

輪環の魔導師 6.賢人達の見る夢4   

輪環の魔導師〈6〉賢人達の見る夢 (電撃文庫)

【輪環の魔導師 6.賢人達の見る夢】 渡瀬草一郎/碧風羽 電撃文庫

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ああ、これって安易にこう考えるのは危険かもしれないけど、空ノ鐘とは反対の流れなんだ。
軍記物・戦記物としての始まりから、キャラクター個々の物語へと収束していった空ノ鐘とは反対に、まず舞台を辺境からはじめ、セロたち主人公を取り巻く世界観を限定して狭い部分に焦点を当てて推移させていたのを、ここにきて一気に世界規模に広げてきたわけだ。
これまで辺境出身のセロの視点から見ていた世界が、一気に高いところに移行したことで、魔族とアルカインたちの対立構図すら激動しつつある世界情勢の僅かな一部にすぎないことが分かり、魔族という存在の位置づけすらこれまでの認識から一気に覆るような、これは一種のパラダイムシフトだわ。
これまでの舞台となっていたエルフール王国も、これまでだとセロの目から見ていたからだろうけれど、まるで全世界の大半をなしているような巨大な大国のようなイメージだったのに、世界全体からみると吹けば消えてしまうような、少なくとも強国とは程遠い小国にすぎなかったんですよね。
何と言っても、五巻までであれほど魔族と死闘を繰り広げてようやく解放したエルフール王国だったのに、たった一人の差し手であれほど容易に命運が決められてしまいそうになったことが、なんかもうショックで。
あれほど強大で比類なき敵のように思われた魔族も、こうして現状の世界情勢を目の当たりにしてしまうと、まだ世界の隅でこそこそと何かを企んでいるだけの弱小勢力でしかないことがわかり、それらと決死の激闘を続けていたセロたちはなんだったのか、と。
もっとも、未だ少数勢力であり世界の覇権を握りせめぎ合う諸勢力からあまり相手にもされていない魔族勢力ですが、ルーファスをはじめとしてこれから誰も無視できないような強力な新興勢力としてメキメキと頭角を伸ばしてきそうな気配はビシビシ伝わってくるのですが。

こうしてみると、魔族=悪というのはやはり完全に間違った認識なんだなあ。竜使いの兄ちゃんの魔族化も解かなかったし。
魔族個々はもちろん、勢力としての魔族も決して一方的に断罪されるような存在でないのはちょっとした驚きかも。北天将ルーファスの一団なんか、こうしてみるといっそ魅力的ですらある。いまいちキャラクターがわからなかったルーファス自身も、非常にカリスマ性と愛嬌のある魅力的な人物であるのがわかったし。

こうなってくると逆に怖いのは、教会なんだよなあ。なんだよ、あの巨大勢力は。なんかもう、抗いようのない絶対権力みたいな威圧感。
これもまた、これまでの魔族と同じくある一方から見た姿でしかないんだろうけど、これほど無茶苦茶されると、ルーファスたちとの共闘すらもあり得るんじゃないかと疑ってしまう。
なんにせよ、こうも賢人がしっちゃかめっちゃかだとなあ。ファンダール師が出てこないことには、乱世まっしぐらじゃないのか、これ。

セロが見る過去の夢といい、還流の輪環にはまだまだヒミツが眠っていそうだけど、こりゃあ否応なくセロたちは激動の世界の表舞台に引き摺りだされそうだ。
まったく、こいつは面白くなってきたぞ。


そして、フィノのセロ狂いがもはや笑うしかなくなってきた件について(苦笑
いちいちハラハラして神経擦り減らしてるアルカインに同情すると同時に、笑えるんだよね。どんだけ気苦労背負ってるんだ、と。
セロは全然わかってないもんなあ。アルカインからみると、ニコニコとほほ笑みながら地雷原を散歩しているように見えるのかもしれない。
薬師の師匠アネットは、セロにもフィノと同じくらい気をつけろとか言ってるし。たいへんだw

輪環の魔導師 3.竜骨の迷宮と黒狼の姫3   

輪環の魔導師3 竜骨の迷宮と黒狼の姫

【輪環の魔導師 3.竜骨の迷宮と黒狼の姫】 渡瀬草一郎/碧風羽 電撃文庫


い、胃が痛い(苦笑
普通、魅力的な新ヒロインが登場したら嬉しいもののはずなんだけど、この【輪環の魔導師】シリーズだけはそうじゃないんですよねえ。
フィノの影が凶悪すぎてw
なんかもう、魅力的なヒロイン! ってだけで死亡フラグみたいな!?
ちょっとでもセロにフラグ立てようものなら、それだけで惨殺の予感がww
本来ならドキドキするようなイベントを読んでても、別に意味でドキドキですよ。
二巻で登場したシズクやティアネスは、シズクはアルカインラブだし、ティアネスはそもそも人間じゃないので、本当の意味でフィノの反応対象からはズレてたからいいんですけど、今回のイリアード姫はマジやべえ(笑
正直、最後はああいう展開になって逆にホッとしてしまったのは自分だけでしょうか。むしろ、セロたち一行といる方が身の危険が大きかったんじゃないのか?(笑
イリアード姫が、優しく穏やかで強く健気で活発、さらには姫将軍と謳われるほど勇ましく、戦闘面でも強力。おまけに魔獣<黒狼>を幼いころから育てて相棒にしているという、性格的にもヒロイン的にも戦闘要員的にも完璧超人、強力な正統派メインヒロインというキャラクターだけに、病ん病ん病んなフィノのセロへのベタベタ振りが恐ろしくなる。
将来、血を見ずにはいられなさそうで。

一方、そんなフィノに引きっぱなしのアルカイン、二人の関係を心配しつつもどこか他人事ですけどあーた、自分も相当ヤバそうなお嬢さんに目ぇ付けられてるの気が付いてますか?(苦笑
セロはあれで、殆どフィノの病的な部分に気づいていない幸せ者ですけど、気づいてて構われるのってかなりキツいことになりそうで……がんばれーアルカインww
いや、明確に敵である分、アルカインの方は面倒くさくないのか。
やっぱりフィノだよなあ、怖いのは。

「ふとした拍子に眼が覚めましてね。なんとなくセロとフィノのほうを見たら、眠りこけるセロの顔を、フィノが……」
言葉を区切り、ホークアイはわざとらしく眼を見開いた。
「……こう、じいいい――――――っ……と、間近から瞬きもせずに、無表情で見つめていましてね」


ほんとに怖いよ!

輪環の魔導師 2.旅の終わりの森  

輪環の魔導師 2 (2) (電撃文庫 わ 4-26)

【輪環の魔導師 2.旅の終わりの森】 渡瀬草一郎/碧風羽 電撃文庫


今回、アルカインの仲間である天才と馬鹿紙一重のホークアイに、アルカインラブなシズクという濃いキャラが登場するんですけど、それらを登場シーンとともに一発で食っちゃって、インパクトを掻っ攫っちゃったのがヴィオレでしょう。
この娘、敵方の魔族なのに、あまりにもおもしろすぎる(爆笑
しかも、単なるネタ要員かと思ったら、かなりドラマティックな境遇だし。
さりげなく、見た目のデザインも一番好みだし、なんでカラー口絵に登場しないのか、とw
今のところ、まともにフィノと張り合ってセロに好意示すような年頃の女性キャラは登場していないんですけど、ヴィオレって候補じゃないんですかねw これくらい空気読めないお間抜けさんでないと、フィノのヤバさに対抗できないですよ。というか、まともに対抗すると惨劇になりそうなので、フィノの狂気を天然でいなしてしまえそうなヴィオレには期待が膨らみます。
まあ、それ以前に彼女を取り巻く問題が解決しなければ話にならないのですけど。あのラスト、どう考えても聞いちゃいけないこと聞いてしまう流れだしw

そして、この作品の見どころ(?)である、フィノのヤンデレっぷりは相変わらず……怖いよ!
アルカイン、思いっきり逃げ腰じゃないですか(笑
ほかのことに関しては敵である魔族についても何にしても超然と構えてる余裕たっぷりのキャラだけに、フィノに対しての腰の引けっぷりが目立って目立って…w
セロはセロで、フィノの狂気については当事者故の視野の狭さか対して問題視してないし。フィノの偏執的なまでの自分への執着を理路整然と解釈してて、言われてみればその通りなんだろうけど……傍から見たら完全に危ないですって(笑
今のところ、セロはフィノに対して殆ど恋に近しい好意を抱いてて、性格的に別の女の子に易々と心映りするタイプじゃないですから危険はなさそうですけど……将来的にはドキドキだなあ。

物語の方は、アルカインの仲間との合流とともに、セロに秘められた力の正体の一端の解明、さらに敵方である魔族の詳しい内情が徐々に明らかになってきて、そろそろ本格的に物語も動き出した感あり。
特に、一概に魔族が力に魂を売ってしまった狂人たちだけではない、というのが明らかになったのは面白くなってきたぞ。あの瞬間まで、あのキャラがそんな立場の人間だとは予想だにしてなかったので、かなり驚かされたし。
しかし、逃亡している姫君ってのはまだ登場してないんですよね? 年代的にはつい最近らしいので、フィノとは違うだろうし。

 

4月25日


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