【陰の実力者になりたくて! 01】 逢沢 大介/東西  エンターブレイン

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主人公最強×異世界転生×勘違いシリアスコメディ、爆誕!!

『我が名はシャドウ。陰に潜み、陰を狩る者……』
みたいな中二病設定を楽しんでいたら、まさかの現実に!?


主人公でも、ラスボスでもない。普段は実力を隠してモブに徹し、物語に陰ながら介入して密かに実力を示す「陰の実力者」。この「陰の実力者」に憧れ、日々モブとして目立たず生活しながら、力を求めて修業していた少年は、事故で命を失い、異世界に転生した。

これ幸いと少年・シドは異世界で「陰の実力者」設定を楽しむために、「妄想」で作り上げた「闇の教団」を倒すべく(おふざけで)暗躍していたところ、どうやら本当に、その「闇の教団」が存在していて……?

ノリで配下にした少女たちは勘違いからシドを崇拝し、シドは本人も知らぬところで本物の「陰の実力者」になっていき、そしてシドが率いる陰の組織「シャドウガーデン」は、やがて世界の闇を滅ぼしていくーー。

異世界に転生して、前世からの願望だった陰の実力者プレイを存分に楽しめていて、主人公のシドくん良かったね、と思いながら読んでたんですが、ふと気がついたんですよね。
あれ? これ実はシドくん、陰の実力者プレイの一番美味しいところ味わえてないんじゃないの?
本作、勘違いモノでもあるわけで、彼がおふざけで作ったシャドウガーデンなる組織は彼が助けたエルフの少女アルファを中心として、シドを頂点としつつその運営はアルファたちが仕切っていてその組織の実体についてはシドくん殆ど関与してないし関知していないし、知らないうちに巨大化強大化している現状なんてさっぱり知らないわけですよ。そして、シドくんが適当にでっち上げた敵対する闇の教団が、実は本当に実在していて社会の裏側闇側で暗躍していて、シャドウガーデンと衝突している、なんて事実も知らないのである。シドくん、陰の実力者としてそれらの敵対組織と影に日向に派手に激突し対決し、厨二病全開の実に楽しいロールをしながらやっつけまくっているわけですけれど……。
シド本人はそれらが本物の闇の組織だと知らず、ただの野盗とか野良のテロリストだと思ってるんですよね。各種の出来事ややられ役の連中が吐くそれっぽいセリフなんかも、アルファたちが演出してくれている、と思っているのです。
つまり、シドだけ「ごっこ遊び」のつもりなんですよね。でもそれって、もったいなくないですか? 現実には本物の闇の敵集団と本物の陰の組織として成立しているシャドウガーデンが、本当に世界の命運をかけて暗躍しあいしのぎを削り合い、シドは本物の陰の実力者として戦っているわけですよ。まさに夢見た展開・状況の只中にあって、それをごっこ遊びとしてしか捉えていなくて、本物の戦い、本物の陰の実力者プレイを本気でやれないって、堪能できないって、考えてみると陰の実力者プレイを十全全開で楽しめているのかというと、恐ろしい勢いで取りこぼしているようにも見えてしまうんですよね。本当は、もっと楽しめるはずなのに。本気の生き様を極められるはずなのに。
シド以外は矜持をかけて魂をかけて、この展開の中を生き切ろうとしているのに、ある意味主人公の彼だけが蚊帳の外、ぼっちなんですよねえ。理想の只中にあるというのに、本人は仮想のつもりでそれで満足してしまっている。
まあ、本人が大変満足しているので、それはそれで幸せなのかもしれませんけれど。知らぬが仏なのか。
シドくん当人、陰の実力者をやるために狂的にまで努力に努力を重ねているのだけれど、それは自身の能力とか技量に関するものに限定されていて、それは部下の組織幹部たちを鍛えてあげたり、と戦闘面については広げてはいるんだけれど、陰の実力者プレイを実際に行うための環境整備、という観点についてはまったく手を出していないんですよね。
例えて言うなら、もし学校をテロリストが占拠したら、というケースを想定した場合、自分ひとりが戦うための想定準備自己強化をしているか、それともそれに加えて対テロリストマニュアルを作成してこっそり協力者を募って即応集団を準備していざというとき学校そのものがマニュアルにしたがって対応できるように仕込んでいくか、の違いというべきか。トドメにテロリストまで自前で用意して自作自演で想定で済まさない、実際に行って堪能する、というところまで行くと本格的にやべえやつ、になってしまうけれど。
シドくんはそういう、実際に陰の実力者をやるために陰の実力者が本当に必要になる状況、陰の実力者が陰の実力者らしく動ける環境、つまり自分が演じるための舞台を構築する製作者というべきか監督というべきか、TRPGのGMというような範囲のところまでは興味とか関心はないんでしょうね。
なので、現状はシドくん本人は何も仕込んでいなくて、陰の実力者として実際に活動できる実力は身につけたものの、それ以外は完全に受身、待ちの状態だったんですよね、これ。それはシドくん本人もわかっているから、身の回りで起こっている事は偶然とある程度のアルファたちの好意によるもてなしの類だと思うわけで、ある種のごっこ遊びの範疇だと本人が思い込んでいるのも無理からぬところなんだよなあ。
まさか、それが本物で特に何もせずにいつでも行けるぜ状態で待ってたら、実は入れ食い据え膳的な状況だったとは思うまい、ってなもんで。いやあ、やっぱり微妙に可哀想に思えてきた。まあロールプレイであれだけ成り切って殺しまくっちゃってるのも、考えてみると相当にヤバイ奴なんですけどね。というか、ラストのテロリスト編なんていうのはもう遊びの範疇を明らかに超えてしまっているにも関わらず、シドくんは一貫してあれ「遊び」感覚なんですよね。あの状況であれらの行動を実行に移しながらなお徹底して遊び感覚でいる、というのは明らかに人間としてぶっ壊れているわけで。
そう考えてみると、シドくんの場合ごっこ遊びも本物の闇の教団との戦いも差は全く無いと捉えてしまう人間なのかもしれない。もし勘違いが解消されて、今現在世界の命運をかけて闇の教団と陰で戦いを繰り広げているのだ、と知ったとしても……彼自身今までの感覚とまるで変わらないんじゃないだろうか、ともう一度テロリスト編を見直しているとそう思えてきた。それとも、さすがにあの教授との対決では彼にも思うところが生じたのだろうか。シェリーの行く道に何か想いを馳せるものがあったのだろうか。遊びではなく、ごっこでもなく、本当の影の実力者としての行動によって一人の少女の未来に大きな影響を及ぼしたのだ、と受け止める気持ちが生まれたのだろうか。自分の生死を前にしてのローズの本気の涙に対して、思うところがあっただろうか。

この巻のラストシーンに、彼の内なる思いは書かれていない。

さて、シドについて色々と思い巡らすこと多かったですが、いずれにしても次巻にならないとわからないんですよね。手元にはあるので遠からず、ページを開いてみたいと思います。出番が少なかったお姉ちゃん、もうちょい出番増えないかなあ。あの裏ブラコンは好みであるが故に。