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須賀しのぶ

芙蓉千里 4   

芙蓉千里 (角川文庫)

【芙蓉千里】 須賀しのぶ 角川文庫

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「大陸一の売れっ子女郎になる」夢を抱いて哈爾濱にやってきた少女フミ。妓楼・酔芙蓉の下働きとなった彼女は、天性の愛嬌と舞の才能を買われ、芸妓の道を歩むことになった。夢を共有する美少女タエ、妖艶な千代や薄幸の蘭花ら各々の業を抱えた姉女郎達、そして運命の男・大陸浪人の山村と華族出身の実業家黒谷…煌めく星々のような出会いは、彼女を何処へ導くのか!?…女が惚れ、男は眩む、大河女子道小説ここに開幕。
文庫落ちしてくれたので、ようやくゲット。不朽の名作【流血女神伝】を始めとして、数々の作品を世に送り出してきた須賀しのぶさんの、一般文芸進出第一弾作品だったもの。そうして出してきたものは、必然といっていいほど必然に、大河ロマン作品なんですよね。ちなみに代表作でもある【流血女神伝】もまた、カリエという少女の人生を描ききった大河ロマン作品でした。あれは、今までの三十有余年の人生の中で読んだ本の中でも五指に入る超傑作です。全27巻にも及ぶ大長編ですけれど、もし機会があれば手にとって見てください。「波乱万丈の人生」というものを、文字通り目のあたりにすることが出来るでしょう。
と、本作とは関係のないところで力説してしまいましたが、そんな須賀先生が新たに送り出してくる大河ロマンということで、そりゃもう単行本買うか買うまいか悩みきったものですけれど、敢えて文庫になるまで我慢して今に至る、と。
「大陸一の売れっ子女郎になる」という夢をいだいて、などという謳い文句を掲げてますし、実際フミもそれを夢と公言して憚らないのですけれど、そんな夢を持たざるを得なかったフミのそれまでの境遇は、当時の世相と最底辺といってもイイ立ち位置にある人間たちの置かれた環境にあってこそであり、いっそ凄まじい、凄絶と呼ぶに相応しいものでありました。そして、そんな人が人として生きていくのも難しい、という人間が一定数存在する、そんな貧しい時代でもあったわけです。彼女が凄いのは、まだ年端もいかない幼い子どもにも関わらず、殆どの人間が抵抗もできずにそうした凄絶な暮らしに甘んじ、また死んでいくしかない境遇にたった一人で抗い、生き残ろうとしたことでしょう。この娘は、自らの力で生きるチャンスを掴み、それが絶望的な状況の中でしがみつくしかなかった夢だとはいえ、紛れも無い「夢」を抱いて未来を手繰り寄せたわけです。それ以上に、このフミという子は、その夢を手に入れ、叶えようとする過程においてその為に他人を蹴落とすのではなく、親しくなった人たちをその夢で、生き様で、心意気で支え励まし、一緒に生きようとするのです。
人種が入り乱れ、時代がうねり混沌と化したその最先端でもある大陸の、ハルビンという魔都の中で、さらに妓楼という苦界の只中で、この少女の生きる意志と力は、多くの人を救い慰めていきます。妓楼という場所は、苦界の名にふさわしく、女郎という境遇の落とされた女達の人生は煮えたぎった闇そのものです。彼女たちはそんな闇の中で常に溺れ続け、苦しみ続け、そして耐え切れずに潰えていきます。「酔芙蓉」という店は、妓楼というものの中では比較的マシな所なのでしょう。ここの女将は女傑であり、異国の中にありながら軋轢を生まぬよう店を切り盛りし、厳しく辛辣な態度の中にも自分の店の女郎たちに秘めた情を持ち続け、フミに未来を与えてくれた人でもありました。女郎たちの境遇に容赦呵責もなく馬車馬のように働かされ、体を売り続けなければならないのですけれど、それでもこの女性の店で働くことは、彼女たちにとっては最低限の幸いだったはず。
それでも、フミの「姉」たる女郎たちは、儚く花のように散っていくのです。その寂しいこと、悲しいこと、切ないこと……そして、美しいこと。
幾度も幾度も、胸が詰まるような出来事が、思いが待っています。フミが親友として、姉妹として、何より夢を交わし合った相手として寄り添い合うタエも、このままならどうなってしまうのか、とハラハラしながら見ていたんですよね。ドロドロの感情に塗れて、いつか道を違ってしまうのか、それとも他の姉たちのように儚く壊れ散って行ってしまうのか。妓楼という闇の奥で、幼い少女たちが紡いだ友情が果たしていつまでほつれず続いていくのかと。
それでも、フミの大陸の厳しい寒さをも押しのけるような熱滾る生き様は、そのかけがえのない友情を守り続けるのです。タエの強靭な優しさは、実は繊細で傍目ほどには強靭ではなかったフミの心を支え続けるのです。最後まで、二人の絆が様々な感情を行き交わしながらもその芯では綻びもせず、揺るぎもせず、お互いを掛け替えの無い存在として大切に守り続けてくれたことは、心が温まるような思いでした。タエは、最初あんなに弱々しかったのに、本当に凄い女性になったよなあ。最初からバイタリティにあふれていたフミよりも、劇的な変化であり成長だったような気がします。タエには、幸せになって欲しい。最後の番外編を読むと尚更にそう思います。
運命の恋に区切りをつけ、新たな時代の訪れを前に、フミがこれからどういう人生を歩んでいくのか。やがてくる大陸の混乱期という時代背景もあってなんかここからさらに波瀾万丈な展開が待っていそうで、息を呑んで第二巻を待つばかり。

須賀しのぶ作品感想

真夏の余暇には、過去の名作を読んでみよう 2.流血女神伝/ROOM No.1301/古墳バスター夏実  

夏の余暇に読書にかまけてみるのもよいのではないだろうか。それも最近じゃなくて、一昔前の作品で。
ここは一つ、過去の名作を紹介してみようじゃないか、という企画の第二弾。
なんとか予告通りに日曜日に記事を仕上げられた。よかったよかった。
というわけで、今回紹介するのはこの3シリーズ


流血女神伝
 帝国の娘(上・下)/砂の覇王1〜9/女神の花嫁1〜3/暗き神の鎖1〜3/喪の女王1〜8/外伝1・2>
 須賀しのぶ/船戸明里 集英社コバルト文庫
 (1999/2007)


                          

未だにこの作品のことを思い出すと圧倒される。一大スペクタクル大河ドラマ。空前絶後の歴史小説にしてファンタジーロマン。

超弩級の大傑作である。
偉大なる名作である。

このシリーズをして、ライトノベル・レーベルから刊行された作品の中でナンバーワンに挙げる人も少なからずいるのではないだろうか。自分も、どれが一番と言われると決めきれなくても、候補の最右翼として挙げる一作である事は間違いない。自分にとってのバイブルであると同時に、墓の下まで持って行きたい物語。
コバルト文庫という少女系レーベルから手を伸ばすことに躊躇を覚える、或いは全く知らない、という人もいるかも知れませんが、そう、これを読んでいないのは人生における損失とまで言い切っても構いません。
多分、これほどのスケールと奥行きを持った大河小説は、今後ライトノベルからは二度と出ることはないんじゃないかと思うくらいの大作。少なくとも、少年系レーベルからは決して出し得ない内容です。たとえ軒下がとてつもなく広い電撃文庫ですら、はたしてこれほどの「人生」を描くことを許容できるかどうか。
文字通りの「波乱万丈の人生」を歩んだカリエ。それは一人の少女の物語であり、女の物語であり、母親の物語。歴史の無慈悲に抗う人の物語であり、人と神の物語でもあり、運命というものに対する闘争と敗北の群像劇であり、峻厳なほど人間の光と闇を描き抜いた、人間ドラマの極みである。
一度足を踏み入れれば濁流のような勢いに、外伝含めた全27冊を読みきり、茫然自失となることうけ合いです。これこそ、長い休みに一気読みするに相応しいシリーズでしょう。

須賀しのぶ作品感想一覧



<ROOM No.1301 1〜11/短篇集1〜4>
 新井輝/さっち 富士見ミステリー文庫
 (2003/2009)





今は亡きレーベル「富士見ミステリー文庫」において、恋愛こそがミステリーとばかりに謎解きではなく恋愛という行為と思想そのものに備わる謎の探求に勤しんだ怪作がこれ、【ROOM No.1301】である。
ちなみにラブコメではない。さらには思春期の浮ついた青春恋愛模様というには、あまりにも重く清淡とした内容である。しかし、真っ当と言うには明らかに破綻し壊れた人間たちの織りなす人間模様は、まさに異端の恋愛小説と言っていいのではないでしょうか。
次々と複数のヒロインたちとセックスで繋がっていく主人公。彼は倫理観こそ常人からズレたものを抱えていますが、決して女性関係に無節操だったり、ただ流されているだけの主体性のない男性だったり、セックスを遊びと割り切っているわけではありません。彼は結局一度として遊びで女性を抱いた事はありませんでしたし、女性にとって必要だと彼が感じたセックス以外は、たとえ求められても受け入れなかった事が(錦織さんのケースは別として)よく読み込むと理解できるはずです。彼はただ一人の例外を抜きにして、ついに誰も自ら求める事はありませんでした。
恋愛を解することができず、恋愛に上手く向き合う事が出来ず常に悩み続けた彼の彷徨の旅は成長譚ではありません。彼は終始一貫して何一つ変わらないまま自問自答を続けます。
そんな彼の在り方に何を見出すかは、人それぞれでしょう。でも、たとえどんな形であれ、人と人が繋がることは素晴らしいことなのだという自明のことに辿りつけるお話なのだと信じています。
度肝を抜かれた後日談の大どんでん返しには、本当にひっくり返らされましたけれどね。あの展開こそ、この物語の真理であり、健一がついに見いだせなかった恋愛というものへの答えですよ、きっと。

新井輝作品感想一覧


<古墳バスター夏実 1〜3>
 七尾あきら/そえたかずひろ 角川スニーカー文庫
 (1997/1999)





これはもう完全に趣味。七尾さん、メッチャ好きなんですよね。ゾッコンのファンともいうべき作家さん。そこまで自分が魅了させられた発端ともいうべき作品がこれ、【古墳バスター夏実】だったのです。
魔法が科学よりも発展した現代にて、次元魔法の使い手にして、次元古墳の発掘をバイトにしている元気溌剌な女子高生三輪夏美を主人公とした、痛快SFファンタジー。
最初はご町内から、世界規模、さらには宇宙を通り越して多次元宇宙にまで広がっていくSF紛いの壮大過ぎる世界観。そのトントン拍子に跳ね上がっていくスケールと裏腹に、常にお茶の間的な雰囲気を失わない地に足がついた物語は、今思い返しても自分の趣向にしっくりと馴染みます。
後に【幻妖草子 西遊記】や【風姫】を経て、【シャギードッグ】という一つの作風のブレイクスルーへと至る七尾あきらさんですが、彼の人の原点は此処にあり、同時にこの人の織りなす世界の素となるものすべてのがこの作品に詰まってると言えるでしょう。
特に第三巻の大風呂敷広げまくった、次元宇宙をまたにかけた平行世界の自分との戦いはスケール感、疾走感に劇的なクライマックスも相まって、盛り上がったんだよなあ。懐かしい。
誰しもが認める傑作、とは言えないのですが、個人的に大切な思い出の物語としていつまでも大切にとっておきたい作品なのでした。
氷見香嬢、激ラブっ!

七尾あきら作品感想一覧


今回はこれにて。
この調子であと一回、二回は続けられるか。予定通りなら、また来週日曜日に。

アンゲルゼ 永遠の君に誓う5   

アンゲルゼ―永遠の君に誓う (コバルト文庫)

【アンゲルゼ 永遠の君に誓う】 須賀しのぶ/駒田絹 コバルト文庫

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この四巻で完結と情報を戴いたときはびっくり仰天したものでした。まだまだ中盤、これから本番って感じだっただけに。実際、本来は五巻完結だったところを大人の事情で四巻に纏めたそうで、ところどころどうしても早足だったり、伏線が触れられなかったり、飛ばされちゃったりしたらしき場面が見受けられたわけですが。
それを考慮に入れてなお。

凄まじかった。

圧巻でした。ったく、須賀さんの描く物語はどれもこれも、クライマックスは圧巻としか言いようがないのが正直困る。嬉しい悲鳴が迸るゼ。

淡々と繰り返す日常に埋没し、ウジウジと周囲の環境、母親や友人たちに侮蔑と絶望を抱きながら、何よりも自分に絶望し未来に何の展望を抱けないまま、腐ったように日々を過ごしていた、つまるところ普通の思春期の内向的な少女でしかなかった陽菜が、天使病の感染をきっかけに人生を一変させることになったこの物語。
自分とは関わりのない世界の話でしかなかったアンゲルゼとの戦争の渦中に叩き込まれ、さらに自分に秘められた出生の秘密、封印された過去などが明らかになるにつれ、残酷な現実を何度も何度も目の前につきだされ、叩きつけられ、だからこそ強くならざるをえなかった彼女。
そう、強くなったよ、陽菜は。最初の、あの引っ込み思案な大人しい少女がよくもまあ、ここまで、と思うほどに。須賀さんの作品の主人公としたらこういうタイプはちょっと見たことなかっただけに、どうなるかと思いましたけど、逆に最初が弱かっただけにその分ガシガシ叩いて鍛え上げられたのかもしれないですね。泣いて怯えて怒って挫けて、でも最後にはいつも歯をくいしばって立ち上がった少女。
やっぱり、須賀さんの女主人公はみんなカッコイイや。

最初に彼女が憎み、絶望していた周囲の人間たちの醜い姿が、平和な日常が覆されていくたびに、その真意、真相が明らかになり、陽菜が思っていたのとは全く別の姿となって現われてくる。みんな、本当に陽菜の事を心から想い、心配し、助けようとしていてくれたんですよね。それに気づいていくことは、セピア色だった陽菜の世界が鮮やかに色づき、彼女が日々を過ごしていた世界がつまらなくくだらないものでは決してなく、とても素晴らしいものだったと理解していく行程であったのと同時に、皮肉なことにそれらを失っていくものだったわけで。
何も知らなかった自分を後悔し、与えられ続けていた優しさ、慈愛に報い応えるために陽菜は強くなっていけたのでしょうけど、そうやって気づいた優しい世界を守ろうとすればするほど、せっかく気づいたそれらを遠ざけ、突き放し、無くしていかなければならないこの矛盾。

陽菜と合わなくなった後の、遥母さんのあの空っぽの状態は、辛かったなあ。読んでても辛かった。
だから、この人が色々と報われる展開を迎えたことは、ある意味この物語の中で最も嬉しかった事だったのかもしれない。
過去に負った傷を癒され、陽菜がああなってしまった後も、ああして彼女を待つのにお互い支える相手を見つけることが出来たんだから。
うん、陽菜と覚野の不器用な想いのぶつけ合いも、切ない純愛でとても好ましいものだったけど、この物語の中で一番胸に残ったのは、この血のつながらない母娘の繋がりだったように思う。遥母さん、頑張ったもんな。ほんとに、この人の哲也父さんとの別れや、そのあとの陽菜との生活は辛いことばっかりだっただろうに、陽菜に疎まれ憎まれても最後まで彼女を育て上げ、最後にはやっと陽菜と気持ちが通じて、本当の母娘らしくなったと思えば、その陽菜は戦争の最前線に駆り出されて、娘の安全を祈りながら彼女を待つ日々。彼女こそが、報われて欲しいひとだったからなあ。

一人蚊帳の外に置かれ、離れていく陽菜を追いかけようとするもーちゃんの覚悟。若者の浅慮と言われようと、彼の覚悟はすげえなあ、と思うしかない。湊にとっては、彼のそんな強い意志は彼が示している以上に鮮烈に感じるものだったのかもしれないなあ、と彼が有紗のことで敷島少佐に容赦のない指摘を受けた時の事を思うと色々と想像してしまう。
確かに、湊は最後まで有紗には腰引けたまんまだったもんなあ。彼の優しさは周囲の人間を明るくし、幾度も挫けそうになった陽菜を支え続けた間違いなく彼の長所そのものだったんだろうけど、同時に有紗との関係では短所となって出てしまったのでしょう。
でも、有紗も嫌いじゃなかったんじゃないかな。彼の、そんなところ。最後まで敷島以外と打ち解けなかった彼女だけど、陽菜が現れてから敷島以外の仲間に対して意識を向けるようになった彼女は、ちゃんと湊の優しい性格を認めていたように思う。だからこそ、あんな餞別をくれてやったんじゃないかと。
でも、湊からしたら、後悔ばっかりだよな、あの結末は。なにも、本当に何もできなかったんだから。
有紗は、悔いも思い残すこともなく、生き切ったんだろうけどさ。

そして、もう一人の主人公とも言うべき、敷島。
最後まで何を考えているかわからない、その真意がどこにあるか見つからない、一癖も二癖もある面倒で厄介でわけのわからない人だったけど、最後の手紙を見たら、なんかもうこの人の心の内側の正体に首をかしげていたのが馬鹿らしくなってきてしまった。
この人はとてもシンプルで、わかりやすくて、だからこそきっと当人にも自分の事が分かっていなかった複雑怪奇な人だったんだな、と。
片腕だった東さんなんか、その辺よくわかってたんじゃないかな。
そんな彼が、娘から与えてもらった平穏な日々。
陽菜が世界を愛おしいものと知っていったのと同じように、彼も陽菜をはじめとしたアンハッチの子供たちと過ごす中で、きっとかつてどこかにしまいこんでしまった世界や人を愛する安らぎを、取り戻していたんだろうなあ。
うむむ、思い返してみると、須賀さんって死亡フラグがビンビンに立ちまくってるオッサン、意外と殺さんなあ(笑

そして、圧巻のクライマックス。
陽菜の決断と残された人々の想い、少年の誓い。
最後に陽菜が残した言葉には、ちょっと泣きそうになったです。出来れば、敷島と陽菜の関係への複雑な思いは、もうちょっとじっくり醸成してれば、もっと良かったんだろうけどなあ。二人の関係の真相とか、わりとあっさり過ぎちゃったのは、マキ入ってたからなんだろうなあ。
他にもやっぱり、色々と畳まれた話があるっぽいし、五巻で読みたかったところだけど。やはり、現代軍隊モノはキツかったんだろうか。もったいないもったいない。
それでも、物語としてこの上なく見事にまとめてくれたのも確か。
傑作でした。傑作でした。ああ、素晴らしかった。

アンゲルゼ ひびわれた世界と少年の恋4   

アンゲルゼひびわれた世界と少年の恋 (コバルト文庫 す 5-67)

【アンゲルゼ ひびわれた世界と少年の恋】 須賀しのぶ/駒田絹 コバルト文庫


あとがき読んで、爆笑。
先生、今までの自分の作品の主人公のキャラを<アレ>呼ばわりはどうかと思いますよ?(笑
そりゃあ、今までの須賀先生の作品の主人公と比べちゃ、陽菜は内気でヘタレでネガティブだけどさ。……うん、まあアレと言いたくなるのもその通りなんだけど。カリエにしても、キャッスルにしても……アレとしか言いようのない女性たちだったしなあ(苦笑
それでも、最初のころに比べたら、陽菜もたいぶふてぶてしくなってきましたよ。あれだけ追い込まれりゃ、些細なことで引っ込み思案になってる場合じゃないですもんね。
まあ、単にその内向的な思考の向う方向が、日常生活から現在の環境に対するものに変わっただけ、という気もしないでもないので、単純に陽菜が精神的にタフネスになってきた、と言いきれないのも確かな話。
でもまあ、考えてみると不思議な話なんですよね。最初の頃、自分の内向的な性格と上手くいかない家庭、学校での生活に鬱屈を抱えていた時、彼女の目から見て、周りの人間はどいつもこいつもろくでもないような輩ばかりに映っていたのに、段々と陽菜の置かれた立場が悲惨で救いようのないものになればなるほど、逆にそれまで彼女が軽蔑し、おそれ、不信の目で見ていた人々が、みんなそれぞれに自分にとっての精一杯の事を成しつつ、陽菜のために努力し、尽力してきたことが分かってくる。
ふと、改めて彼女の周りにいる人たちを見直すと、みんな人間的に信頼でき、陽菜の事を真剣に思ってくれている人たちばかりなんですよね。ところが、陽菜が立たされた境遇は平穏だったころと激変し、希望も何もない救いようのない残酷なモノでしかない。
皮肉がきいているというべきか、底意地が悪いというべきか。
ただ、彼女が抱く絶望は変わらなくても、周りの人々に支えられることで少なくとも、陽菜には自分の運命に立ち向かおうという意思や気概が生まれつつあるのは確かなんですよね。
それは、果たして救いなのか。
そんな彼女の置かれた立場の、そして小心者で周りの目を気にするばかりだった少女の性格の、その急激な変化に置き去りにされたのが、今回のもーちゃんこと覚野だったのかもしれない。
陽菜の目からすれば、完璧に見える覚野もまた、彼女と同い年のまだ精神的に成熟しているとは言い難い思春期の少年にすぎないわけです。自分の行動力の起源とも言うべき想いの正体から目をそらし、肥大する我をもてあますただの少年に過ぎなかった。
でも、変わってしまった陽菜と相対することで、彼も必然的にそうした未熟さから脱皮しなければならなくなったわけで。そこで自分の衝動に背を向けず、殻に閉じこもろうとせず、彼なりのやり方とは言え立ち向かったことは、やはり偉いやっちゃと思うのである。
もーちゃん頑張った、と賛辞オウライ。
たとえここで、陽菜が置かれた状況に手が出せない無力さを思い知らされたとしても、今の彼ならしがみついて這い上がってくる意志を持ちえたのではないだろうか。
……これ、作中でもけっこう年月過ぎる長丁場の物語になるんかもなあ。でないと、もーちゃん関わり様がかなり難しくなるし。
敷島の最後の発言は、真相にしてもその発言から派生する展開についても興味津津なんだけど、はたしてどうなるやら。
……にしても、敷島少佐のキャラクターは未だに把握しづらいな。見る人によって印象かなり違ってるし。まあ陽菜の視点はかなり色眼鏡入ってる風だけど。でもまあ、陽菜への態度を見る限り思ってたより不器用な人なのかもしれないね。容易に真意を見せないところは器用なんだけど。……逆にこっちが考え過ぎてて、副官とのプライベートで見せる態度が、素なんじゃないかと思ってしまう時もあるんだけど(苦笑
まあ、三巻に至ってだんだん把握できてきたかなあ。と、見せかけて、というパターンもあるから、油断できんがw

流血女神伝 喪の女王 8  

流血女神伝喪の女王 8 (8) (コバルト文庫 す 5-63)

【流血女神伝 喪の女王 8】 須賀しのぶ/船戸明里 コバルト文庫


………………。

………………。

「完」の文字を目の当たりにして、図らずも涙があふれてきました。
今まで、感動やら悲しみで泣いたことは何度もあったけど、感無量という感慨で涙が込み上げてきたのは初めてだったなあ。

第一巻がこの世にい出て約8年。全27巻。カリエという少女の波乱万丈の人生を中心に描かれた人と神の物語は、これにて完結を見ました。
本当に、本当に感慨深い。
感無量という言葉以外思い浮かばない。

……はあ。

なんか、しばらくため息しかでてきませんわ。
『おまえの人生は波瀾万丈すぎて面倒だ』ってね(笑)
感想書こうにも、こう胸が一杯で何を書いたらいいのかわからないくらいの満足感。
時代の激流の中、みんなみんな精一杯必死に生きたその生き様に、ちょっと酩酊しています。
なんか、何書いてもネタバレになってしまいそうで、というよりも書くことで手のひらからこぼれて行ってしまいそうで、全然感想になってないんだけど、このままギュッと胸に抱きしめてしまいたいと思います。


ドミトリアス、グラーシカ、バルアン、レイザン、イーダル、ミュカレウス、ロイ、ギアス、トルハーン、ソード、オレンディア、サラ、サルベーン、グラーシカ、ネフィシカ、リネ、アルガ、フィンル、タウラ。
そして、エディアルドにカリエ。

最終巻だけでも、主要人物だけでもこれだけ、これまで続いてきた27巻を振り返れば、いったいどれほどの人々がこの作品の中を駆け抜け、死んでいき、生き抜いていったのか。
神々は地より去り、これよりはただ人だけが世界を紡ぐ時代が訪れる。

さようなら、女神。
さようなら、残酷で心優しい母よ。


最後まで、カリエはカリエでしたね。それが、無性に嬉しかった。エディアルドとの結末は驚きと同時に、すんなりと胸に収まりました。
洗濯物は取り込んだらたためって、あんたたちったら、ねえ(笑


ああもう、素晴らしかった。素晴らしくて、素敵で、悲しくて、楽しくて、辛くて、苦しくて、爽快で、気が遠くなるような、人間の抱くあらゆる感情を凝縮して一気飲みするような凄い、凄い作品でした。
一人の少女の物語であり、母親の物語であり、神々の物語であり、大河ファンタジーであり、歴史小説であり、群像劇であり、
私のかけがえのないバイブルの一つでありました。
墓の下まで持っていきたいと思っているいくつかの本の中の、これは確かな一つです。

まだ読んでない人、27巻という大長編ですけど、絶対に絶対に後悔はさせません。
一度手にとってさえいただければ、そこからはもうカリエという少女が貴方の首に縄つけて無理やりにでも引っ張り込んでくれます。そうなれば、あとは夢中になってこの流血女神伝という奔流の中をアップアップと溺れながら最後まで泳がざるを得ないでしょう。
ご愁傷様です。

最後に、作者の須賀しのぶさんに、この物語を最後まで読ませていただけたことに、ただひたすら感謝を。
それから、子供世代の話に期待を膨らませつつ、もうしばしこの胸いっぱいの感慨にひたらせていただきたいと思います。

流血女神伝 喪の女王 7  

流血女神伝喪の女王 7 (7) (コバルト文庫 す 5-62)

【流血女神伝 喪の女王 7】 須賀しのぶ/船戸明里 コバルト文庫


これは殆ど確信に近い予想なんだけど、流血女神伝――すなわちカリエの物語は次で最終巻かもしれないけど、この世界の物語は引き続き新シリーズとなってはじまるはずですよね?
なにしろ、ルトヴィア、ユリ・スカナ、エティカヤの三国を巡る混乱は拡大こそすれ、収縮する様子は一片たりとて見られないのですから。
いやそれよりなにより、今巻は特に何ですけど次世代を見越したかのように、たくさんの子供たちが顔をのぞかせているんですよ。ネフィシカとサルベーンの子であるフィンルに、バルアンの姫、スゥランやナイヤの娘ジィルヤ。カリエがエティカヤに残してきた息子アフレイム。女神の力を色濃く宿しているセーディラにビアンの子、次期ゼカロ公爵のユーディアヌス。ドミトリアスとグラーシカとの間に生まれたイエラとエアリシア。
まだ幼い彼らの間にも既に様々な出会いと因縁、想いや感情が交わされ育まれはじめている。着々と、次のシリーズの主人公たちが眼を覚まし始めているように見えます。
でも、これは大穴狙いの予想なんですけど、もし次のシリーズがあるとしてその主人公は誰になるのかと考えたら、それってカリエの子供であるアフレイムやセーディラじゃなくて、今回初登場したザカール人の少女、リネなんじゃないかと。
だってこの子、カリエそっくりじゃない(笑
能天気で聡明で人懐っこくて感情豊かで行動力があってなにより明るくて優しくて、そしてお金大好きという将来絶対それで躓きそうな欠点を持ってるところとかw
それ以上に、この娘なんか図太そうだしめげなさそうだし根性ありそうだし、何よりやたらとどんな環境でもいつの間にか馴染んでしまいそうなしぶとそうなところとか、もろにカリエの後継者っぽいんですけど(笑
むしろ、国家同士の争乱や神々の思惑の中心に立つことになるだろう王侯の子供たちやセーディラたちよりも、そんなかれらとは近しくも少し外れたところにいるリネの方が、もしかしたら主人公として適格なんじゃないかなあ、と思った次第。まあ、この娘のこと、一発で気に入ってしまった、というのも大きいわけですけど。

とはいえ、次世代に行く前に現状、国としての屋台骨が朽ち、滅びようとしているルトヴィアや、ネフィリカ新女王即位から徐々に不穏な気配が見え始めているユリ・スカナ、孤高の覇道を突き進むバルアンの下、刃を研ぎ澄ませるエティカヤと、国際動向は沈静化するどころかもはや激発寸前で、カリエの物語は次で終わるのかもしれないけど、こっちは果たしてどう区切りをつけるのかと、まったく先の見えない状況で。
皇帝ドミトリアスが暗殺者によって重体にされた時にはとうとう完全に終わったか、と思われたルトヴィアなんだけど、ここに来て、ドーンがザカリアの使徒となり復活後ある意味開き直り、ユリ・スカナから帰還したグラーシカが皇后としても一人の女性としても見事に一皮剥けて、なにやら一縷の望みが出来てきた気がするんですよね(とはいえ、例の修道院で萌芽しつつある悪夢は、そんな希望すべてを粉々にしてしまいそうですけど)
ネフィリカも、カリエの尽力のお陰でどこか彼女本来の性格を取り戻しつつあるし(と言っても、イーダルという今回もうどうしようもないほど壊れた内面を露わにした最悪の要素と、ネフィリカの心の支えとなりつつあったカリエがいなくなることで、女王の心がどう変化するかわからんし)
いやはや、いったいどうなるんだろ。

しかし、グラーシカは本当に一皮剥けましたねえ。これまではとても勇ましく格好良い女性ではあったんですけど、女性としての魅力にはいささか難があったのですが……


「どうだ。そろそろ私に惚れたか?」
「何を言ってるんだ、君は」
「まだか。おかしいな。やはり、もう少し強引に迫ったほうがよいのか?」

「よいか、私に惚れたらすぐに言うがよい。そのときはすぐにそなたの寝室に行くのでな」


いやはや。あのグラーシカが。あのグラーシカがこんな台詞を吐く日が来るとは。
萌えちゃったじゃないか!!
グラーシカにこんな形で『きゅん』とさせられる日がくるとは思わなかった。なんて嬉しい誤算www


そしてもう一つ嬉しくて、そこはかとなく胸が締め付けられたのが、オレンディアとランゾット・ギアスの二十年ぶりの逢瀬。
まさか、ここでこの二人の再会を読まされるとは。
なんだよ、ギアス提督。あんた、やっぱり彼女のこと好きだったんじゃないか。
愛の形は色々あるんだろうけど、この二人の愛情はなんだろうね。これが、海の男と女の一つの果ての形、ってやつなのかねえ。
お互い、それで満足してるみたいだから野暮はいわないけど。

でも、だからこそあのオレンディアに知らされる悲劇の始まりは、ひどいよなあ。どう考えても、オレンディアだって無事に済まなさそうだし。
もしかしたら、おそらく命長くない提督よりも彼女の方が先に、なんて暗い予想もしてしまうわけで。
それでも、彼女にとっては悔いのない精一杯生きた人生になるんだろうか。

より多くの人の幸せを願いつつ、でも難しいんだろうなあ、と複雑な溜息をつきながら、最終巻を待ちます。あとがきによると十一月?


ちょっと嬉しかったことその2.
おそらくカリエの人生において、一番の親友であるだろうナイアが、久々に登場してやっぱり昔どおりのナイアでいてくれたことが、なんだか無性に救われた気分に。ちゃんと、カリエのことも分かってくれてて……よかったなあ、カリエ。

流血女神伝 喪の女王 5  

流血女神伝喪の女王 5 (5)
【流血女神伝 喪の女王 5】 須賀しのぶ/船戸明里 コバルト文庫
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 この娘はまったくもう(苦笑
 いや、もう子供を二人も儲けている以上、娘なんて呼ぶのは相応しくないんだろうけど、この娘は本当にいい意味で変わらない。
 カリエを直接知らないネフィシカやその旦那。カリエが一番打ちのめされて弱っていた時期に一番密接に関わったイーダルなんかは、カリエを完全に誤解してるよなあ。特にネフィシカ新女王なんか、完璧に誤解してる。
 ネフィシカは、カリエを次々に襲い掛かってくる運命に嵐に翻弄され、為す術もなく周りの人間に利用され、流されてきた哀れでか弱い女性と思っているようだけど。
 こいつは、その運命の大嵐に流されるどころか、クロールやバタフライとかで泳ぎきってきた女だぞ(笑
 確かに結果的に流されたとしても、彼女は決して流されるままにはなろうとしなかった。
 カリエの凄味は、どんなに悲惨な目にあっても絶望しても、さっさと泣いて落ち込んで当り散らして、とっとと立ち直ってしまうところだろう。とにかくめげない挫けない。人並みに落ち込んだり悪い想像に囚われたりと、決して物事に動じないメンタリティの持ち主ではないだけに、その立ち直りの速さは際立って見える。
 今回だって、ネフィリカに身柄を確保され、娘とエドに魔手が伸びようとしている状況に冒頭は絶望し打ちひしがれていたにも関わらず、いざ肝を据えて負けるかこんにゃろー、と開き直った途端、囚われの身にも関わらず自分の出来る範囲からやれることをやろうとし、状況を組み立てていっている。
 とかく、この若い身空で並みの人間が七度生まれ変わっても経験できないような怒涛の変転を乗り越えてきたカリエである。このホオジロザメのような女を自分の同類だと舐めてると、ノド笛食いちぎられますぜ、ネフィリカ女王。

 一方、サルベーンは……自分の業に取り込まれてるよなあ。彼の迷走に関しては、エドの指摘があまりにツボをついていて、なんとも苦笑してしまった。面白い事に、この期に及んでもサルベーンと最も人間的に相性が良かったのはエドだったということなのだろう。
 エドと対面した途端、あの一番内面的にスッキリしていた頃のサルベーンに戻ってたし。ごちゃごちゃ考えすぎる面を、エドに単純明快一刀両断に切って捨ててもらうことが、複雑に考えすぎて泥沼に嵌まってしまうサルベーンにとっては一番良かったのかもしれないねえ。
 ラストの展開は衝撃的ではあったものの、あのままで終わらないと思うのでまだ気持ちとしては保留扱い。
 ドーン兄も遂に偉い事になってしまったし。
 流血女神伝も、クライマックスに至ったんだけど、これからどうなるのかがまるで想像できんのが、ハラハラドキドキである。
 
1月19日

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