魔法塾 生涯777連敗の魔術師だった私がニート講師のおかげで飛躍できました。 (MF文庫J)

【魔法塾 生涯777連敗の魔術師だった私がニート講師のおかげで飛躍できました。】 壱日千次/リン☆ユウ MF文庫J

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落ちこぼれや変態でもきっと居場所がみつかる、はみだし魔法塾コメディ。

魔法大国・日本のトップ魔術師に史上最年少で成り上がった天才・鳴神皇一郎。だが、仲間の裏切りに遭い、ニートに転落。そこへ亡き恩師の娘・結が「私が経営する魔法塾・黎明館の講師になって」と頼んできた。承諾した皇一郎だったが、やって来る塾生は、生涯全敗の魔法騎士・ベアトリクス、禁忌の術で死霊軍団の結成を夢見るお嬢様・芙蓉、ヤンキー魔法高校で屋根裏登校をする謎の少女・つぼみ……と落ちこぼれや変態ばかり。「安心しろ。俺がこの塾を『母校より母校』と思える場所にしてみせるから!」。天才と呼ばれた元ニートによる、カリスマ講師としての破天荒な指導が始まった……笑いと感動を巻き起こす、はみだし魔術師たちの痛快魔法塾コメディ!

先月に出た【バブみネーター】がもう筆舌に尽くしがたい狂気に犯された作品だったので、ついに壱日千次先生は分水嶺を超えてしまったのか、と呆然としていたのだけれど、良かった本作はまともだ……、とこれがまともに見える時点で相当おかしくなっている自覚もあるものの、実際あれと比べれば、という形になってしまうのでまともなのである、壱日千次作品内における相対的に。
というわけで、いつものノリの壱日千次作品でありました。相変わらず、というべきかこの人の作品って全編すっ飛んだギャグ調にも関わらず、主人公含めた登場人物の置かれた境遇というのが極めて過酷だったり悲惨だったりするんですよね。特に、社会的な立場において。
深刻かつシリアスに話を転がしていくならとことん暗く鬱々としたブラックでダークな物語にできそう、というか自然となってしまいそうな境遇や立場に置かれた登場人物たちが、そんな暗さを吹き飛ばすかのような明るさとノリで困難を乗り越え、世間の白い目を覆していく姿は、お腹の底から笑わせてくれるのと同時に凄く救われる気分にしてくれるのである。
理不尽な目にあっている人たちが、たとえ変態であろうとまっとうに頑張って、まっとうに報われる、というストーリーは何だかんだとカタルシスがあるんですよね。
本作もまた、決死の思いで頑張った末に仲間に裏切られ、社会的に抹殺された挙句にネット上で自作自演の自分の擁護スレに張り付く日々を送る主人公・鳴神皇一郎。ニートになりたくてなったわけじゃないけれど、ネット廃人と化しているのは紛れもなく自業自得です、はい。
そんな彼ですけれど、一番悔しい思いを抱え後悔に苛まれているのは自分の零落よりも、自分を育ててくれた魔法塾が自分の不名誉の煽りをくって潰れてしまったことなんですよね。学校の教育方針に馴染めずにいた自分を超一流の魔法使いに育ててくれた恩師に、報いるどころか仇で返してしまったこと。それを悔み続けていた鳴神皇一郎は、自分の名誉回復などよりも何よりも、恩師の娘が頼ってきてくれた時にまず恩返しだ、と勇んで協力するのである。良い男っぷりじゃあないですか。無職から抜け出せなかったのが就職させてもらえそうだから飛びついた、というわけではないのである。いやほんとに。
実際、叩き上げて一度は魔法使いの頂点にまでのし上がり、一人で魔王討伐を成し遂げたほどの男なので、力が封印された今でもあれこれ有能ではあるんですよね。むしろ、第一塾生として入ってくるベアトリクスが見事なくらいポンコツなので、ダメっ子要員はほぼ彼女一人で賄います、パーフェクトダメっ子です。呪いのせいで勝てない、というベアトリクスですけれど、呪い関係ないところでもおバカなのでほぼポンコツなんだよなあ。唯一剣才のみが前人未到の才能を秘めている、にも関わらずそれが呪いで封印されているお陰で、オールラウンダー・ポンコツなのである、素晴らしい。表紙絵のあのビキニ鎧かと思われた装備も、貧困極まってお腹のところ売っちゃった、と聞くと露出度の高さが切なくなってくるのでありますよ。
しかし、彼女もまた諦めず頑張り続けた娘なのです。生涯一度も勝つことができないにも関わらず、心折れずに頑張り続けたベアトリクス。そんな娘が、報われなくてどうするのか。社会的に良く見られないから、世間的に受け入れられないから、そういった理由で排斥される落ちこぼれや変態や外側の人間が、努力も実績も認められず報われない。そんな閉塞を吹き飛ばすギャグと燃えのカタルシス。重たいテーマだからこそ、笑ってぶん殴れ、とばかりの力強さと切れ味は、まさにこの作者さんの持ち味であり魅力なのでしょう。笑いネタのキレキレさは、他の追随を許さないものがあるだけに、あまり狂気に走らないでほしいです、いやもう。

壱日千次作品感想