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鳥羽徹

天才王子の赤字国家再生術 10 ~そうだ、売国しよう ★★★★   



【天才王子の赤字国家再生術 10 ~そうだ、売国しよう】  鳥羽 徹/ファルまろ GA文庫

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ウルベスでの独断専行が家臣達の反感を買い、しばらく国内で大人しくすることにしたウェイン。
その矢先、大陸西部のデルーニオ王国より式典への招待が届き、妹のフラーニャを派遣することに。
しかしそこでフラーニャを待ち受けていたのは、数多の思惑が絡み合う国家間のパワーゲーム。一方で国内に残ったウェインの下に、大陸東部にて皇子達の内乱が再燃という報せが届く。
「どうやら、東西で両面作戦になりそうだな」
グリュエール王の失脚。皇子達の陰謀。東レベティア教の進出。野心と野望が渦巻く大陸全土を舞台に、北方の竜の兄妹がその器量を発揮する、弱小国家運営譚第十弾!

うわーーっ、今回はウェインは完全に盤外にあって、一から十まで主役はフラーニャだ!!
マジかー。これまでも一部の局面でフラーニャ主体となって状況を動かす事もあったし、物語としてもフラーニャ主役で動く場面もありましたけれど、一冊丸々フラーニャ主人公として描くとは。
それだけ、王女フラーニャの役割がこの作品の中で重要も重要、最重要になってきたという事を意味しているんだろうけれど、それにしてもフラーニャの活躍が予想を遥かに上回るもので、まだまだこの娘の事を見縊っていた事を思い知らされた。
今までも既に政治の表舞台に立ち、戦火の最前線に立たされた都市で演説をふるって市民の指示を取り付けたり、意外なカリスマや政治センスを見せてくれていたし、お飾りを脱して自分で考える事が出来る王族として、ウェインの代理で外国に使節として派遣されるなど、大きな仕事をこなせるようになってきたフラーニャでしたが、それでも今までは兄ウェインの指示を受けていたり、突発的なことに襲われても受動的に対処する、という方向に徹していたんですよね。
でも今回は……間違いなく、自分で考え自分で介入し政略謀略が渦巻く国同士のパワーゲームのという盤上で自ら局面を動かす「プレイヤー」の一人として動いていたんですよね。
それはウェイン王子やロワ皇女、グリューエル王といった世界を動かしせめぎ合うプレイヤーたちと同じ土俵の上に立ったということ。
それどころか、同じようにシジリスの後を継いだデルーニオ王国の宰相や、王女という立場から国を動かし世界情勢に関与するウェインたちと同じ立場に立とうとしたトルチェイラ王女といった野心家どもと同じ盤面で指しあった結果、役者が違うとすら言っていいかもしれない手練手管を見せつけてくれたのですから、もう刮目して瞠目ですよ。
まさか、ウェインのプレゼントという決め手があったとはいえ、トルチェイラを手玉にとって見せるとは。トルチェイラにとっては敵として相対したいのはウェイン王子であって、フラーニャなんて眼中にもない、と思いたがっていたのに、完全にしてやられたわけですからね。実際は、色々と着実に実績を上げていたフラーニャのことめっちゃ意識していたくせに、取るに足らない相手と無視するから。油断であり傲慢であり、プライドの高さが足を引っ張ってしまったか。
その点、フラーニャは素直で人の話も良く聞きますし、一方で自分の意見をちゃんと持っているし、兄ウェインを尊敬している分、自分の能力を過信しませんし。
何より、その善良さが悪い嘘をつかない姿勢が、騙そうとしないあり方が、人から信頼を寄せられ、味方を増やすカリスマになっていて、こればかりはウェインを含めて他のプレイヤーにはないフラーニャ独自の武器なんだよなあ。
ロワも表看板では似たような路線で評判上げてますけれど、中身がウェインと思いっきり同類なだけにフラーニャと比べるとすげえパチモン感がw
いや、ちゃんとロワはウェインと同レベルの大陸屈指の謀略家であり政治家なのですけれど、あの中身のポンコツさを見てるとなあ……パチモン感あるよなあw
今回もウェインの謀略の片棒担いで悪巧みしまくって、他の皇子たちの勢力を削ぎまくった挙げ句帝国の実権をほぼ握るという躍進を見せているのに、「だるーん」とか言ってるユルユルの姿を見せられるとねえ……ロウェルミナってもしかしてこの作品のマスコットじゃないのかと思えてくる。
……かわいい。

今回の一件でシリジスの心からの忠誠を勝ち取ったフラーニャですけれど、実際にプレイヤーとして動いたことで、遠く離れた土地で事の推移をすべて見通していた兄の凄味を本当の意味で思い知る。同時に、彼女の知見が高くなり鋭くなるほどに、ウェインという兄の真の姿が見えてくる。
果たして、あの愛する兄にナトラという国を預けていて、本当に大丈夫なのか。そんなフラーニャの心のなかに芽生えた僅かな疑念に、シリジスの野心や復讐心からではない心からの忠信ゆえの指摘が突き刺さる。
プレイヤーとして立ったがゆえに、フラーニャ自身自分が歩むべき道、その岐路に立たされるという凄まじい回でありました。
でも、そのフラーニャの選択ですら、ウェインの思惑の上っぽいんだよなあ。いったいどの段階からフラーニャのことをここまで成長すると見込んでいたんだろう。当初は政治の何も知らないお兄ちゃん大好きなふわふわとした王女様だったのに。そんなフラーニャをただ猫可愛がりしているだけに見えたのに。
まあ、猫可愛がりしているのは今も変わらないのですが。

ついに毒蛇にニニムの正体がばれ、彼女がウェインの心臓というのみでなくこの大陸の行く末を握る心臓であることが発覚し、表舞台に引きずり出されそうな気配が漂ってきたことで、さて事態はどう動いていくのか。
いやー、先が読めないしドライブ感のとどまらない政治劇、謀略劇に、ワクワクが止まらんですわー。


天才王子の赤字国家再生術 9 ~そうだ、売国しよう ★★★★   



【天才王子の赤字国家再生術 9 ~そうだ、売国しよう】  鳥羽 徹/ファルまろ GA文庫

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「よし、裏切っちまおう」
選聖侯アガタの招待を受けウルベス連合を訪問したウェイン。そこでは複数の都市が連合内の主導権を巡って勢力争いに明け暮れていた。
アガタから国内統一への助力を依頼されるも、その裏に策謀の気配を感じたウェインは、表向きは協調しながら独自に連合内への介入を開始する。それは連合内のしきたりや因習、パワーバランスを崩し、将来に禍根を残しかねない策だったが――
「でも俺は全く困らないから ! 」
ノリノリでコトを進めるウェイン。一方で連合内の波紋は予想外に拡大し、ニニムまでも巻き込む事態に!?
大人気の弱小国家運営譚、第九弾!
ウェイン王子、お見合い斡旋仲人オジさんと化す!
いやなにやってんだ、と言いたくなるけど、これ真っ当な勢力間の際どいパワーゲームが繰り広げられている中で三面指しで盤面しっちゃかめっちゃかに蹂躙しているの図なんですよね。
ともあれ、選聖侯アガタの協力を得るために彼の領地であるウルベス連合の政争に助っ人として介入する事になったウェインですが、この巻における肝ってウルベス連合云々じゃなくて、ここでのウェインの行動、或いは事件の推移が将来起こる大戦の過程や結果を示唆している、という話が冒頭から置かれたことである。
話としては徹底してウルベス連合という国の旧弊的な柵と閉塞感、自分達ではどうにも出来ない雁字搦めの凝り固まってしまった関係を、ウェインという外部からの刺激物を通り越した劇物、毒物のたぐいによって引っ掻き回されたことで、ようやく突破口が見えてきた、というこの国のお話になっている。将来を暗示するような露骨なエピソードや情報は描かれていない。
ただ、後世にウェインの妹であるフラーニャがこの連合国で起こった出来事が、のちの大戦でのウェインたちの結末を暗示していた、と述懐しているとの記述を見るに、直接は関係ないけれど過去から続く旧弊に捕らわれて身動きが取れなくなった柵を、暗黙の了解を、破壊してしまうにはどうするべきだったのか。とか、一時連合所属国の首班の二人が駆け落ちして行方不明になった、という展開とか。色々と先々に起こりそうな顛末の中でウェインとニニムに当てはめて起こりそうな出来事、というのを想像してしまうのでした。
これまで言葉を濁してきた、ニニムたちフラム人がどうして被差別民になったのか。彼らがフラム人が民族結集して作った国がどうなったのか。そういったかなり重要そうな歴史の話も出てきたわけですしね。
それに、ここにきてウェインの動きがやたら怪しくなってきたんですよね。フラーニャが幾度かの外交で成果をあげ、諸外国でも名望を高めつつあるのにともなって、フラーニャ閥というものが生まれ始め、ウェインではなくフラーニャの方を女王として擁立しようという動きが出はじめているわけですが、これまでもウェインはそれを不自然なくらい「黙認」という形で見逃していたのが、さらに暗に後押しすらしているような素振りを見せ始めているんですよね。
元々、売国しようぜ、なんて言ってたように国民に対して責任は感じて放り投げようとはしていなかったものの、国王という立場に拘りは見せていなかったウェイン王子。むしろ、ナトラ国の王というのは彼にとって足枷になりかねない、とでも思っているのだろうか。
彼の本当の目的がどこにあるか、によるのだろうけれど。
その目的というのも、ほぼ「ニニム」に絞られるだろう事は想像できるんですけどね。
そう言えば、ウェイン王子が「いい人」「優しい人」と思われているという話にちょっとびっくりしてしまったのですが、彼の公的な言動を見ていたら確かに彼のそれは客観的に見て善良公平な賢王(まだ王子だけど)と見られても不思議ではないんですよね。直接対面した人は彼の空恐ろしさを実感するだろうし、決していい人などではない事は理解しているんだろうけど。
でも、彼が売国上等とまで言ってのけるほど、ある種他人に対してどうでもよい、という考えを根底に持っているようなタイプの人間だとわかっている人はどこまでいるのか。
いくらやばくても、王として国を背負って立つ覚悟と責任を持った人物だ、と捉えられているのはおかしくないですしね。実際、ナトラの国民に対して責任を投げ出していないし。
身内に対しては優しいのは間違いないんでしょうけどね。その身内認定がどの範囲までなのか。
今回、ちょっとニニムの身柄に危険が迫っただけでも国一つ潰しかねないラインを綱渡りしたように、ニニムが関わると途端に狂気の魔王化するウェイン王子。こいつって、もしシリーズ開始以前にニニムを喪ってたりしたら、普通によくRPGゲームとか長編大作とかで世界を破滅に追いやるラスボスとして登場してきそうなキャラなんだよなあ。
そんなラスボス系主人公が、果たして一体何を目論んでいるのか。むしろ、このシリーズここからが本番と考えていいのかも知れない。


天才王子の赤字国家再生術 8 ~そうだ、売国しよう~ ★★★★☆   



【天才王子の赤字国家再生術 8 ~そうだ、売国しよう~】 鳥羽徹/ファルまろ GA文庫

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選聖会議。大陸西側の有力者が一堂に会する舞台に、ウェインは再び
招待を受けた。それが帝国との手切れを迫るための罠だと知りつつ、西へ
向かうウェインの方針は――
「全力で蝙蝠を貫いてみせる! 」
これであった。
グリュエールをはじめ実力者たちと前哨戦を繰り広げつつ、選聖会議
の舞台・古都ルシャンへと乗り込むウェイン。だが着いて早々、選聖侯
殺害の犯人という、無実の罪を着せられてしまい!?
策動する選聖侯や帝国の実力者たち、そして外交で存在感を増していくフラーニャ、天才王子の謀才が大陸全土を巻き込み始める第八弾!

大陸の東側を占める帝国と、西側諸国の間でずっと綱渡りを強いられてきたナトラ王国。ウェイン王子の活躍の元、領土も増えて景気も活況を迎え、数々の戦争での勝利と外交交渉で見せた存在感は既にナトラ王国を小国と侮るものは大陸全土に存在しない。ましてや、それを手動してきたウェイン王子を況や。
前回名を成し始めた際におまけで呼ばれた選帝会議と違って、今回のそれはナトラを、ウェイン王子を狙い撃ちにした彼を追い詰めるための招待である。これを断れば、ナトラ王国は帝国側に味方したとして西側全土を敵に回し、しかし会議に出席すればどうやっても帝国との手切れを迫られ西側諸国の尖兵として帝国との敵対を強要される。
まー、どうやったって詰んでる状況なのだこれ。
それを顔色を無くして絶望感に苛まれながら西に向かう馬車の中で鬱屈する、なんて事もなく「コウモリ外交を貫いてやるぜー!」とテンション高々なウェイン王子。いや、どうやったらそんな意気揚々と会議に赴けるのか。まあ、もはや頭の抱えようもなくて開き直ってる、とも彼のキャラクターからは言えるのだろうけれど。本当なら頭抱えてのたうちまわってても不思議じゃないもんなあ。
ただ、今回わりと余裕ありそうだったのは、それだけ想定して会議を乗り切る自信があったからだろう。まあ、いつものように想定外に全部台無しにされてひっくり返されるのだが。

ただ、今回彼を狙い撃ちにした謀略は、ある意味明確な悪意と企図によるものだったんですよね。何気にこれまでウェインを追い詰めてきたどんでん返しって、誰の意図というものではなく偶然の産物だったり関係者の思惑を超えた事態だったり、馬鹿がバカバカしいにも限りある事をひょいっと越えてやらかしてしまったり、複数の意図が絡み合った挙げ句に訳わからんことになってしまったり、と本当に誰にとっても予想外想定外、という事が多かったわけです。
そういう事態って、人の思惑が入っていない分もう道理も何もあったもんじゃないからマトモに対処のしようがないケースだったんですよね。それを人智を超えたリカバリー能力で対処しきった上に逆に利益引っ剥がしてきたのがウェイン王子の凄まじい才覚であったわけです。
今回のある意味ストレートなウェイン王子を狙い撃ちにした謀略って、むしろ思惑が分かっている分彼にとっては対応が容易だったのでは? とすら思えるんですよね。それくらい、どう転がってもウェイン王子が詰んでいるはずの状況が、片っ端からひっくり返されていく様は鮮やかなものでした。
相手の思惑、狙いを読みきった上でそこから仕掛けられているだろうさらなる謀略、そして起こり得る展開を予想し読み切り、対処するどころかそれを利用して逆に全部自分以外の会議参加者に有無を言わせぬ決着へと持っていく。
今回の会議参加者は一人残らず凡人無能はおらず、将来を嘱望された辣腕の政治巧者であり、それ以上の怪人怪物魑魅魍魎たちが揃っていたにも関わらず、である。いや、ある意味全員が無能ではなく有能である、というのはそれだけ彼らの思考を読みやすい、という意味でウェインにとってはやりやすくすらあったのか?
参加者の中でも特に怪物たる一人であるグリュエール王は、もう主導的にウェインにちょっかいを掛けるつもりはなく、変に肩入れはしないものの、ウェインに自由にさせて彼のやらかす事を楽しむ方に好奇心が寄っているようですし、隙を見せれば食いついてくるとは言え大きく見れば味方側と言えなくもないですし、そうなるとやはり相手はカルドメリアとシュテイル、そして聖王シルヴェリオとなるのか。この三人はある意味わかりやすい現世利益や権力とは違った所に重きをなしている節があって、ウェインとは価値観が違っている所がある分、思惑が読みきれないところがありますし。
今回の謀略は、言わば西側諸国、教会としての真っ当な、というとあれですけれど、政治家として順当な価値観に基づく動きであった、というのもウェインが掌の上に乗せやすい状況であったとも言えるのでしょう。
言わば、ウェインの土俵の上だったんだよなあ。
既にウェインの手、というのは帝国中枢や大陸外縁にまで及んでいて、会議に影響を及ぼすためにロワに遠方で動いてもらったり、先に深く関わることになったパトゥーラのフェリテ首長やミールタース市長のコジモにも協力を求めたり、とその手は長く大陸全土に及ぶようになっている。
どうやら今回の会議の結果として、大陸西側の奥地の方にもツテは広がりそうだし。

ウェイン王子の思惑が、帝国側にも西側諸国にも河岸を預けることなく、その間でフラフラと行き来して利益を甘受する事にある、と会議参加者の誰もがわかっている、どころかウェインも堂々と表明、まではしていないもののその思惑を隠しもせずに胸を張っている。
にも関わらず、彼を糾弾しきることも出来ず、彼に旗幟を鮮明にすることを強いることも出来ない。本来なら2大勢力の間に存在する小国なんて、食い物にされ良いように利用されるのがイイ所なのに、主導権を握っているのは明らかにナトラ王国であり、ウェイン王子なのだ。
彼のコウモリ外交を、誰も非難できない、指摘すらし切れない。有無をも言えず、首根っこを押さえられ、彼の思惑に振り回される。何をやっても、その手のひらの上から逃れられないと思い知らされる。
これほど堂々と立場を曖昧にして立つ蝙蝠がいただろうか。
並み居る猛獣猛禽どもに、心底恐れられ戦慄される蝙蝠がいただろうか。
こんな凄まじい暴威を振るうコウモリ外交があっただろうか。
会議は踊るよグダグダに。
何も決まらず進行もせず時間ばかりが無為に流れていくばかりのグダグダ会議。普通なら、誰も目的を果たせない無駄で無能の結果、のようにしか見えないグダグダ会議が、これほど明確な意図を持って引きずりこまれた結果だと、これほど凄味を感じさせられるモノになるんだなあ、と感嘆してしまいました。

とまあ、西側諸国とウェインとの会議における壮絶な綱引き、駆け引きを中心に描かれた本編ですけれど、冒頭では拡大するナトラ王国の中で大陸全土で被差別民であるフラム人がどう影響力を及ぼしていくかでフラム人たちの間で意識の変化があったり、妹姫であるフラーニャが順調に成長することでナトラ王国内でフラーニャ派閥というものが生まれ始めていたり、とナトラの拡大のお陰でまた別の問題が起こり出していることが描かれているのだけれど……。
うーむ。
どうにもね、このあたりってウェイン王子には想定済み、な節があるんですよね。それどころじゃなくて、大陸全土を股にかけてナトラ王国の影響力を拡大させていっているウェイン王子の活動、これってスケール的にマクロに思えるんだけれど……ウェイン王子的には今やってることってマクロじゃなくてミクロな事じゃないのか、と思える所があるんですよね。
彼って、ウェイン王子って、ナトラのために動いてるんだろうか。もう随分昔のことで忘れてしまいそうになりますけど、最初ウェイン王子、この国派手に売っぱらおうとしてたんですぜ? タイトル「そうだ、売国しよう!」なんですぜ?
実のところ、この初志、王子は忘れてない気がするんだよなあ。
そもそも、ウェインはびっくりすることに「王子」であって「王」でないのだ。もうやってることは王様以外の何者でもない権限と責任を振るって負っているにも関わらず。
ここに来てのフラーニャの躍進は、そして彼女がウェイン王子に遺恨ある他国の追放された宰相を参謀に迎え入れたのも、それをウェインが許可したもの、そしてかの宰相がフラーニャを担ぎ上げるつもりであるつもりなのも。こうなってくると、ねえ。
そこに一番重要になってくるのが、なるほどフラム人に秘められた、ニニム個人に秘められているはずの秘密、となっていそうなんですよね。
そもそも、ウェインの初志って一貫して、そう、ニニムについてなんだもんなあ。
会議は踊る、の裏側でこのシリーズの根底に関わるものがついに動き出した気がするぞ。

しかし、馬車で移動してる時、ウェインが眠り込んでいるときのニニムがこっそり甘え尽くしている姿、可愛いなんてもんじゃなかったなあ。ダダ甘えじゃあないですか。
一方で、ニニムの髪染めしてるときの二人のイチャイチャは、二人の中ではイチャイチャにカウントされないという、妹たちに見られても何もおかしいと思っていない、あの甘々な雰囲気。フラーニャがこりゃあ邪魔しちゃいけねえや、と赤面しながら逃亡するのも無理からぬ特別感。
昔からこんなの見せられてたら、そりゃあ妹姫も兄にはニニムしか居ないし許さん、とニニム贔屓になるのも当たり前だよなあ、うん。


天才王子の赤字国家再生術 7~そうだ、売国しよう~ ★★★★   



【天才王子の赤字国家再生術 7~そうだ、売国しよう~】 鳥羽 徹/ ファルまろ GA文庫

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ディメトリオ皇子とその家臣達は、会議の場で困惑していた。
(どうしてこいつがいるのだろう)
会議に参加しているナトラ王国王太子ウェインも思っていた。
(どうして俺がここにいるんだろう)
三皇子のいがみ合いで長らく膠着状態が続いてきた帝国の後継者争い。だが、長兄ディメトリオが戴冠式を強行するため兵を挙げたことで、状況は大きく動き始める。
ロウェルミナ皇女から協力要請を受けたウェインは帝国に向かうが、なぜか一番勝ち目が無さそうなディメトリオ派閥に参加する羽目に!?
「だが、最後に笑うのはこの俺だ」
謀略と戦乱が渦巻く第七巻!

ロワとウェインが仲良すぎて、ほんとなんだコイツらw
ウェインに協力要請しておいて帝国に招き入れておきながら、速攻で自分の所に着く前にとっとと陥れるとか、ロワさんウェインの事好き過ぎるでしょう。
相変わらずなんでだー! と頭を抱えながらロワが何かしてくるのに備えてちゃんとカウンター仕込んでるウェインもウェインなんだけど。君ら、相手が絶対仕掛けてくると信頼した上で嬉々として謀(はかりごと)を投げつけ合ってまあ、なんというか海辺で水を掛けあってキャッキャとはしゃいでいるカップルか!
ロワもウェインも相手への悪意とか黒い感情とか皆無なんですよねー。これだけ後ろ暗い気持ちも悪意も善意も皆無で、めっちゃ楽しそうに相手を陥れようとするの、もう仲良しか!てなもんである。
だって、本当に楽しそうなんだもの。ウェインって誰彼相手問わず四六時中謀略を張り巡らせてるタイプのヤベー人間ですけれど、別に謀略そのものを楽しむ質でも相手を陥れる事に喜びを感じるような性癖の持ち主ではありません。でも、ロワ相手のときはやたら楽しそうなんですよね。
勿論、本気ではあるのですけれど二人してどこか通じ合っている。お互いに盤面を挟んで向き合って駒を指しあう盤上遊戯に興じているかのような、思いっきり遊んでいるかのような。
二人して相手を崖っぷちに追いやって蹴落とそうとドタバタ走り回った挙げ句、二人してやべー事になったら途端にこれまで相手を蹴り落とそうとしていたのをなかったかのように、息ピッタリ以心伝心で見事な連携での共闘を見せた、と思ったら危地を抜けた途端に事前に仕掛けていた相手を出し抜く謀略を発動させて「ざまぁ!」とドヤ顔する始末。
お互い、ドヤ顔して相手に「ぐぬぬ」と悔しがらせるためにやってんじゃないか、というどこか子供っぽい稚気があるんですよね。なので謀略にありがちな陰湿さが殆ど感じられない。だからこそ、遊んでいるように見えるし、君たち仲良すぎ! となってしまう。
まあ、三人の皇子はいい面の皮である。ウェインもロワも自分自身も駒として盤上にあがってはいるのだけれど、実際の所三人の皇子はロワとウェインの対局の駒としてイイように好き勝手に振り回され利用され、結局二人の蹴り落としあいの煽りを食ってこの三人の皇子が崖下に転がり落ちていったわけですから。
とはいえ、変な遺恨は残さないのがウェインらしくて、あれだけ散々利用したとも言える第一皇子のディメトリオに恨まれる事なく、むしろ彼を捕らえていた柵、或いは呪いのようなものを解くきっかけを与えてるんですよね。駒として利用しながら、不思議とウェイン王子って相手のことちゃんと人として相対している所があるのが面白い。
しかしロワはあれですねー、詰めが甘い。言葉としては変なんだけど、勝負に勝って勝負に負けた、みたいな。目的は達したはずなのだけれど、ディメトリオの最後の一指しのお陰で目も当てられない負債を抱えさせられた上での目標達成で、むしろロワさん涙目みたいな。
結局、ウェインにも毟られること決定で、帝国の後継者レースという観点では見事に皇子三人を出し抜いて勝負に勝った! はずなのに、ディメトリオには最後に出し抜かれ、ウェインには美味しいところ持ってかれる事になり、勝負に勝って「ぐぬぬ」なロウェウミナ皇女、なんかもうロワだなー、という愛嬌があってこの娘ほんと好きです。
まあウェインが毟り取った功績、ちゃっかりフラーニャが立てた功績に仕立ててるあたり、ただでは転ばぬ皇女様である。

そして、ウェインとロワがバチバチと張り合って遊んでいる一方で、ナトラ王国の妹姫フラーニャがウェインの言う通りに動くだけではなく、自分で考え独自に動き出してるんですよね。マスコットではなくちゃんとした王族として兄を助けたいという想いからであると同時に、兄に縛られない独自の派閥を持とうとしはじめている所に、この妹姫さまの急激な成長を感じさせられる。
フラーニャに関してはウェインとは別のアプローチから「フラム人」問題に関わってきそうな気配もあるんですよね。彼女が聞いた、かつて西側にあったとされるフラム人の国、そしていつか現れるとされるフラム人に百年の繁栄をもたらすとされる赤い髪のフラム人の英雄の伝説。今後物語のなかでフラーニャがどんな役割を帯びていくのか、興味深いところです。

次回、舞台は再び西側へ。何だかんだと友情と親愛と信頼あるロワとは異なる、人面の妖怪どもの巣窟である選聖侯らが一同に集う選聖会議に参加することになったウェイン。さあ荒れも荒れたり激動波乱の幕開けだ。



天才王子の赤字国家再生術 6 〜そうだ、売国しよう〜 ★★★★   



【天才王子の赤字国家再生術 6 〜そうだ、売国しよう〜】 鳥羽 徹/ファルまろ GA文庫

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「さて、どうしたもんかな」
青い海と白い雲、燦々と輝く南の太陽を鉄格子越しに眺めながら、ウェインは牢内で呟いた。
ソルジェスト王国との一戦に勝利し、不凍港の使用権を得たナトラ王国は、新たな交易相手を
開拓するため大陸南方に位置する海洋国家パトゥーラに目を付ける。ウェインは一気に話を
まとめるため自ら交渉に赴くが、アクシデントの発生で、なぜか投獄される羽目に!?
パトゥーラ諸島における覇権の象徴・虹の王冠を巡って繰り広げられる骨肉の争い。嵐のような
戦火の中、天才王子が新たな傑物との出会いを果たす、弱小国家運営譚第六弾!
ニニムのピンチに、自分のみを危険に晒すこと一瞬たりとも迷わなかったなあウェイン王子。
やはり彼にとって一番優先スべきは国よりも自分の身すらよりも、ニニムなのか。彼女に匹敵するのって、妹のフラーニャくらいじゃないんだろうか。自分に何かアレばナトラ王国がどうなるかなんて彼には容易に想定が出来ているだろうけれど、そんな万が一すら考慮に値しない。国よりも、あるいは世界の秩序よりも優先スべきものがある。
ウェインの優先順位というのは、やはり物語の根幹に関わるだろう事は忘れないようにしておこう。

今回の地は本国ナトラより遠く離れた南のパトゥーラ。丁度大陸中央の北部、西部と東部の間に位置する小国ナトラですけれど、パトゥーラはそのまま真っ直ぐ南に大陸を下ったその先にある諸島群。直線距離ならともかくとして、海洋貿易を考えるなら大陸を東回り西回りどちらでもグルリと半周しないといけないわけですから、遠いなんてものじゃないんですけれど……同じ東部と西部の交易路を繋ぐ位置にある、というのは実はかなり大きくて重要なポディションにあるんじゃないでしょうか。
これ、直接的な通商面での利益はもちろん無視できないですけど、遠近外交の面で見ると先々考慮して滅茶苦茶重要なお話だったんじゃないだろうか。
そんな船乗りたちの国で出会い友誼を結んだのは、彼の国の第二王子であるフェリテ。丁度内乱中の只中にあったパトゥーラにおいて、クーデターを起こして暴れている兄に抵抗しながらも独自の勢力を持たず、本人も優男で船乗りとしても名声はなく、カリスマにも乏しい。けれど賢明であり物事の見方がウェインによく似たタイプ。でも、性格は素直で穏やかで優しいという男性で……。
これ、綺麗なウェインじゃね? と、ついつい思ってしまったり。
優しくても優柔不断とは程遠く、意志は強く根性もあり、とむしろコヤツのほうが主人公気質なんじゃないだろうか、というくらい真っ直ぐで誠実で知的な青年なんだけど、だからこそウェインの黒さが目立つというか、ウェインって詐欺師だよね、とか乱世の奸雄っぷりが際立ってきてしまうこの対比w
ただウェインの場合、裏表が激しいけれどオモテでもウラでも、どちらの顔でも何気に信頼度は高いんですよね。奸智に長けていても、陥れるのは敵だけで一旦味方になった人は容易に切り捨てない。もちろん、本当にやばくなったら優先度に基づいて切り捨てるんだろうけれど、ウェインの場合はとかく切り捨てなきゃいけない状況まで追い詰められないし、そうならないように二重三重の保険をきかせている。必要とあれば切り捨てるけれど、切り捨てることを前提とした策は立てない。そういう所が信頼感につながっているのだろう。策通りにいかないどころか、想定の斜め上のトラブルが舞い込んできてえらいことになるのも珍しくないどころか、毎回なんだけれど。
とはいえ、今回の大トラブルはあれどうだったんでしょうね。フェリテは実はわざとウェインがやらかしたんじゃないか、と疑ってましたけれど。今回はニニムと一緒の時も顔を青くしてやっちまった!みたいな慌て方はしていなかったので、フェリテの予想は合ってそうなんだけれど。

このパトゥーラでの内乱の顛末は、終わってみると積み重ねた歴史という情報の集積を分析した上での結果。つまり、誰でも利用できる集合知は個人の天才に勝る、という結果だったのは注視しておきたい。虹の王冠という特定の物質による権威の否定であったのも、唯一無二の存在など無い、と主張しているようにも捉えられる。とはいえ、フェリテは無能とは程遠い有能な人物でしたし、見事にカリスマを発揮して思惑様々な海師と呼ばれる独自の船団を有している豪族みたいな人たちを取り纏める統率力を見せているわけで、個人の才能が無意味、と言っているわけではないんですよね。
実際問題、ウェインなんぞ今回率いる兵も王子としての背景もほとんどない状況で、その智謀と腹黒さでフェリテを勝利へと導いたのですから、特異なる才はやはり見過ごせない力を持っているわけで。
今回の一件を裏で糸を引いていた西部諸国の連中だって、キワモノ的特異な才能の持ち主たちなわけですし、グリュエール王なんぞその最たるもの。こういう連中を無視、できるわけないんですなー。
そして、帝国にも才人は無数にいるとウェイン自身も認めているわけで。その筆頭格であるロワ皇女さまはというと……今回、基本帝国関係ないから出番ないはずなのに、チラチラとオチ要員で引っ張られてきてスットボケた顔見せてくれたのは、なんというか嬉しいけど扱いどうなんだろうw でも、トータル1ページくらいの出番だったにも関わらず、ずいぶんネタ的に美味しい振る舞いを見せていて、目立ちまくっていたので優遇されている扱いなんでしょう。うん、ニニムに並ぶヒロインとしての面目躍如だよ、多分。
次回は再び帝国がメインの舞台となるようなので、存分にロワの出番もあるはず。彼女のネタキャラ以外での活躍、期待したいところであります。


天才王子の赤字国家再生術 5~そうだ、売国しよう~ ★★★★☆   



【天才王子の赤字国家再生術 5~そうだ、売国しよう~】 鳥羽 徹/ファルまろ  GA文庫

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『やはり手を組むべきは、グリュエールだな、間違いない! 』
ミールタースでの騒動を機に、大いに知名度を上げたナトラ王国は、空前の好景気を迎えていた。
追い風に上機嫌なウェインにとって気がかりなのは、西側への玄関口として成長著しいマーデン領の存在。
国内のパワーバランスを調整するため、ウェインはグリュエール王が治めるソルジェスト王国と手を結び国全体を底上げすることを画策する。
折しもグリュエールからの招待を受け、意気込んで外交に向かうウェインだったが、
そこでは予想外の展開が待ち受けていた! 戦雲垂れ込める、弱小国家運営譚第五弾!

この作品、傑物怪物妖怪と呼ぶに相応しい国主、政治家、聖職者と幾人も登場してウェインの前に立ち塞がり、もしくは手を差し伸べてくるのだけれど……忘れていたわけじゃないけれど、主人公のウェイン王子こそがそんな人中の怪物の中でも屈指の化物なんだよなあ、というのを改めて思い知らされた感がある。人前で見せる理知的で切れ者な有能王子の顔も、プライベートでの剽げて戯けた間抜けな顔も、彼の一面でしかなく、その本質は……。
そして、その本質に気づき覗き込んだ者ほど、彼に惹かれてしまうんですよね。
今回、ウェインの前に立ちふさがるのは前巻で不穏な事をのたまっていたグリュエール王。完全にウェインにターゲティング決め込んでいただけに、すぐに戦争でも吹っ掛けてくるかと思ったのですがこの人そういう単純なバトルジャンキーなんかじゃなかったんですよね。ただの戦争屋ではなく、政治謀略外交戦略も含めて相手を陥れ、徹底的に弄ぶ万能の人なんですよね。この人、いろんな方面に圧倒的すぎるだろう。そりゃ、敵になれる相手がいなかったのもよくわかる。自分に抗し得る相手として、ウェインに目をつけたのはそれこそ目の付け所が際立っている、と言っていいのかもしれない。
ウェインからすると、大迷惑極まりないのだけれど、わざわざ自分の国に一度招いてから、というのがたち悪いですよね、これ。しかも、訪れて直接対面してみれば、どこからどう見ても名君ですし。そのくせ、大食感でブクブクに太りきった肉塊というキャラの濃さ。いや、ただ太っているだけならともかく、この人の場合「太っているにも関わらず」という冠がつくあれこれが多すぎるくらいなんだよなあ。その太っているという姿にも様々な意味が込められているし。そのうちの料理に関する件については、ウェイン完全敗北、完落ちアヘ顔ダブルピース状態だったじゃないですか、いやだもうw
宴で供される料理は外交交渉における最も偉大な武器の一つ、という事実をグリュエール王はまざまざと見せつけてくれたわけで。いや実際、この料理だけでこれまでも様々な外交交渉を有利にまとめてきた実績もあるんだろう、と思わせてくれるくらいのパーフェクトゲームでありました。
それ以上に、これまでの歴史や現状から見えているはずの国際情勢を全く無為にしてくる外交戦略が凄まじすぎたのですが。
そんでもって、相変わらずどう考えても詰んでるだろう、という状況から相手を根絶やしにする勢いで状況をひっくり返してしまうウェイン王子の得意技がまたも炸裂するわけである。
いや今回は特にすごかった。最近忘れられガチだけれど、このウェイン王子は真性の売国奴であるんですよね。国を売ることに、自分の立場を失うことに何らの忌避も抱いていない人間でなければ、絶対に繰り出せない策でありました。ってか、脅し方が勝利を後ろ盾に、じゃないどころか逆張りなのがもうとんでもねーんですよね。なにその発想。
「――俺はやるよ?」
このセリフに、ここまで凄絶さを、おぞましさをまとわせる主人公の化物っぷりよ。そう、こいつはヤるヤツなんだよ。
あれを目の前で見せつけられて、むしろ彼の眼鏡に適いたいと思うようになるゼノは見込みありますよ。或いは、アテられた、とも言えるのかも知れませんが。
そして、ウェインの才気以上の制御された狂気とも言える部分に今回もっともアテられたと言えるのがグリュエール王なのでしょう。いや、この展開は予想外だった。このグリュエール王、前回の様子からどう転んでも味方にはならず、ライバルか場合によってはラスボス級にウェインの前に立ち塞がりつづけるキャラクターになるかと思ったのですが……。うん、今後も決して味方とは言えないでしょうし仲間とも言えないでしょうけれど、絶対に信頼できないけれどこの上なく信用できる最大の同盟者……いや、この場合は共犯者と言うべきか、になってくれるんじゃないでしょうか。ウェインがその狂気を抱き続ける限り、この人は絶対に裏切らなさそう。裏切らなくても、常に試しいらんちょっかい掛けてきても、おかしくはなさそうでもあるのですけれど。
さてこれで、周辺国いつの間にかある程度掌握してしまった、ということになるのでしょうか。一旦どこかで整理したいくらいだけど。
次回は日常回という話ですが、さて「日常回とは!?」という内容にならなければよいのですが。わりと緩い話も多い作品なので、その危惧は杞憂でしょうけど。

シリーズ感想

天才王子の赤字国家再生術 4~そうだ、売国しよう~ ★★★★☆  



【天才王子の赤字国家再生術 4~そうだ、売国しよう~】 鳥羽 徹/ファルまろ  GA文庫

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妹が帝国で大丈夫か心配すぎる!


「心配だああああああああああ! 」
新たな皇帝を決めるため、三人の皇子による会談が持たれることになったアースワルド帝国。
ロウェルミナ皇女からその舞台となるミールタース市に招待されたウェインは、これを華麗にスルー。するはずが、なぜか代わりに妹姫のフラーニャ王女が出席することに! 一体、どうしてこうなった!?
懐刀のニニムを付けて送り出すも、不安のつきないウェインは結局自らも帝国に向かうのだが――
新たな外交の舞台で待ち受ける旧友たちとの再会。燻る戦争の火種。そしてもう一人の怪物が歴史の舞台に姿を現す、弱小国家運営譚第四章、開幕!

妹であるフラーニャ王女が最大のウェイン×ニニム派閥の領袖というのはポイント高いよなあ(なんの?)
だが待って欲しいフラーニャ姫、実はロワ皇女も実は何気に濃厚なウェイン×ニニム派なのですよ? ただチビっとそこに自分の分の席もお裾分けいただけたら、という嗜好があるだけで。
というわけで、これまでウェインやニニムのマスコットで癒やしという立場だった妹姫フラーニャが、一躍王族として外交デビューするお話である。そこで、彼女もまた「あの」ウェイン王子の妹だ、と評され讃えられる才能を開花させていくことになる。
ウェインと違って才気煥発という風情ではないフラーニャ。これまで王国内で大事に育てられてきた彼女は、王族として仕事を任せられるのはこれがはじめて。なので、ウェインの代役として会談に出席して面通しするのがお仕事で、それほど難しいことは求められていなかったんですよね。求める方がこの場合おかしいわけですが。それでも、王族が出席するだけでこの場合は十分だったわけです。ミールタースの市長やロワ皇女という曲者たちを相手にして器用に立ち回れるはずもなく、兄ウェインに事前に教えられた通りに振る舞うだけで精一杯、帝国の皇子たちとの面会では自分を保つだけでも一杯一杯だったわけですが……。
ミールタースで行われている市民会議、その様相に興味惹かれてのめり込みはじめてから、彼女の成長がはじまるのである。ウェインと違って智謀策謀を巡らすような性質ではないフラーニャですけれど、いざ何かに集中した時の集中力と理解力、そして一旦こうと決めた時の度には目を見張るものがありました。何より、その真摯さとひたむきさはウェインとはまた全く異なる種類のカリスマだったんですよね。この娘はこの娘で、予期せぬトラブルに対して本領を発揮してしまうタイプだったのか。
それにしても、相変わらずウェイン王子は何もかもが事前の思惑通りに行かないですねえ。いや、実際のところウェインは自分と同じ策士タイプ、それでなくても合理的に物事を捉える人種の思考や行動の予測に関しては神がかりに正確なんですよね。武断派の第二王子や陰湿な謀略家の気質である第三王子の動向なんぞはほぼトレース出来ていますし、だからこそその思考を誘導するのも容易くあるわけです。ロワ皇女なんか、ウェイン自身と傾向がそっくりなせいか以心伝心レベルで意図を読み取ることが可能ですし。多少振り回されるきらいがあるとはいえ、その意味でもロワとは相性いいんだよなあ。
しかしその分、論理的とは程遠いバカや狂人相手だと見事に予想の斜め下をいかれてしまうために、毎度そのおかげで大変な目に遭ってしまうわけですなあ。
そして、何気にこの手のバカや狂人が周辺諸国の権力者にわんさと居るのがなんともはや。
しかし、終わってみると帝国内の後継者争いはもはや後戻り出来ないほどの混迷を深めてしまう
一方で、ウェインてば帝国内にしっかりと足がかりを作っちゃう結果になってるんですよね。ロワ派との人脈のみならず、ミールタース市という交易拠点がフラーニャを通じて相当の王国シンパになっちゃったわけですしねえ。
ロワも、前に出た時の宣言からするとかなり野心あらわにガツガツと動くのかと思ってたら……。いや、これを日和ったというのは可哀想ですよね。大国一つを兄弟と争って自分から奪い取って背負うという重圧は、余程の覚悟と野心がなければ躊躇うのも仕方ないものがあるでしょう。彼女自身のモチベーションとなるものが、今のところまだそれほど確固としたものがあるというわけではなさそうですし。その意味でも、以前からウェインを欲しているのは共犯者を欲していたとも言えるのではないでしょうか。あるいは、ウェインがその本心を明らかにすれば、彼が目的としているものに帝位が必要とわかれば、ロワもガチになりそうなんですけどね。この皇女さまも、ウェインとニニムのことほんと好きですからねえ。いずれにしても、皇子会談の失敗によって否応なくロワ派閥の権威はあがっているわけで、いつまで中立でいられるか。ウェインも、後継者争いに無視できない影響力を及ぼすことになっちゃいましたしねえ。帝国留学中に友人となった二人、前に話題になってた連中がついに顔を見せましたけれど、彼らは第二、第三皇子の派閥の一員ということでロワやウェインとは物理的にも組織的にも離れた位置にいるわけですけれど、そこに文官、武官の親しい人物が配置されている、というのが物語上けっこう重要なキーワードにも見えるんですよねえ、将来の布石みたいな。

その前に、もう一度西のレベティア教と本格的にやり合うことになりそうですけど。それに、まだ匂わされる程度ですけれど、南の方でも何やら動いているようですし、どんどん動乱が大きくなっているなあ。
さて、今回もウェイン×ニニム派にはシーンこそ少ないものの美味しくいただける場面があってよかったです。ウェインが過労で倒れたあとのニニムの様子は、普段の毅然とも飄々ともした姿が完全に崩れたものがあって、ほんとニニムはウェイン命なんですよね。
そして、さり気なくフラーニャ×ナナキも実はニニムたちに負けず劣らずいい雰囲気だったりするんですよねえ。ナナキくんもクール少年に見えてフラーニャ命ですし。自分よりも実力上の相手だろうと、フラーニャが関わるなら絶対負ける気なし、というあたり凄く男の子してますし。フラーニャの方もナナキのこと男の子として意識している部分が見受けられるので、こっちも大変ご馳走様なんですよねえ。フラム人関係の問題、是非ウェイン王子には頑張ってほしいものです、妹たちのためにも。

シリーズ感想

天才王子の赤字国家再生術 3 ~ そうだ、売国しよう ~ ★★★★☆  



【天才王子の赤字国家再生術 3 ~ そうだ、売国しよう ~】  鳥羽 徹/ファルまろ  GA文庫

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宗教勢力を利用して国の価値を爆上げだ!」

 帝国皇女との結婚話に端を発した騒動を切り抜けたウェイン。そんな彼の下に隣国カバリヌより使者が到着する。大陸西側の一大宗教・レベティア教の主催する『聖霊祭』にウェインを招待したいというのだ。
 絶大な影響力を持つ『選聖候』たちが集うイベントということもあり、ろくでもないことに巻き込まれることはほぼ確定。それでも隣国と友好関係を結ぶため、ウェインは渋々西へと向かうのだが――!?
 クセ者だらけの国際舞台に、天才王子が本格デビュー! 大人気の弱小国家運営譚第三章、ここに開幕!

相変わらずニニムに関することに関しては沸点が低いどころか無いんじゃないか、この王子。神算鬼謀深慮遠謀を地で行くウェインだけど、あの場面のあの行動は絶対策ありき、ではなかったよね!?
ただ、彼が尋常では無いのはその応急対応能力なのだろう。
前回もそうだったけれど、思い通り作戦通り行かなかったあとの立て直しの精度と速さが人間離れしてるんですよね。あの皇女さまも謀略家としてはウェインに伍するレベルにあったけれど、この事前に用意していた作戦も謀略も全部潰れてまっさらどころか窮地に追い詰められた際に、元から全部予想していました、と言っても不思議ではないくらいのレベルで作戦を即座に改めて復旧できる能力がウェイン王子、人外レベルなんですよね。そして、その能力こそ実戦的であり現場的であり戦乱の世に何より対応した能力なのでしょう。
この王子が偉いのは、それだけ場当たり的に深度の深い策を練って実行できるにも関わらず、事前の準備を決して怠らないし、効果があるか定かではない迂遠な策を幾つも展開しているところなんですよね。そして、この王子がエラいのは、それだけ事前にあらゆる対応が出来るように準備していながら、かなりの頻度で予想外の顛末に襲われてしまうところなのでしょう。
普通なら、すでに何回死んでるか、国が滅んじゃってるんだろうか、という段階で。毎回、頭抱えてなんでだー!?と断末魔に近い悲鳴をあげて転がりまくる王子、厄がついてるんじゃなかろうか。
まあその分、死ぬがよい展開を避けきったご褒美で彼が事前に確保していた以上の報酬が国単位で得られてしまうわけですが、お陰様で国は富んで飛躍してもその分王子の仕事が余計に増えてしまうという顛末は、本質的に自堕落に過ごした王子さまとしては地獄案件なんだろうなあ。だからといって放棄してしまわない責任感が、彼の首を絞めているわけですが。

しかし、果たしてどこまで選帝侯の推薦を受ける気があったのか。うーん、わりと本気ではあったと思うしなったらなったでその地位を利用しまくる算段はあったんだろうなあ。他の選帝侯の常軌を逸した人間性と政治力を見ると、この段階で正対するのはかなりキツイものがあった気もするのだけれど。フラム人差別がきつい大陸西部に深入りするということは、差別問題への対応に直面しなきゃいけないわけですし……ニニムに害意持つやつは絶対殺すマンなウェインが首突っ込むにはまだちょっとヤバすぎますよねえ。いやいや、絶対殺すマンなウェインでもマジガチであそこまで絶対殺すマンとは思わなかっただけに、尚更にまだ早いまだ早い。
でも、終わってみればまたえげつない結果なんですよね。結果として殆ど軍を動かさずして、西方を平定してしまった、とすら言えるんじゃないだろうか、これ。ウェイン王子はそんなつもりサラサラなかっただろうけど! 本来ならもっと堅実に物事を進めるつもり、場合によっては後退させるつもりだったのだろうけど!
まだまだウェイン王子の自身の異常性と能力に対する評価が低すぎる、低すぎるというかまっとうに評価しすぎているというか。決して過小評価とか卑下してるわけではなく、冷静冷徹に客観的に見て判断しているつもりなんでしょうけどね。ある意味その客観性こそが目を狂わせてる気がするなあ。
他から見たら、紛れもなく化け物ですよ、この王子は。
そんな化け物がまったく思い通り予定通り作戦通りにいかないシッチャカメッチャカに陥る状況を、なんでこうなったー!?と悲鳴を上げながらさらに改めて打ち立てた神算鬼謀で快刀乱麻に平定していくのは、やっぱりべらぼうに面白いですわ。傑作♪

1巻 2巻感想

天才王子の赤字国家再生術 ~そうだ、売国しよう~ 2 ★★★★☆   

天才王子の赤字国家再生術2~そうだ、売国しよう~ (GA文庫)

【天才王子の赤字国家再生術 ~そうだ、売国しよう~ 2】 鳥羽 徹/ファルまろ GA文庫

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「私と一緒に帝国を奪りませんか?」
次代の名君として臣民に慕われつつ、楽隠居を目指して日々売国を画策する小国ナトラの王太子ウェイン。
僅かな手勢で隣国との戦争に勝利し、その名を内外に響かせた彼のもとに突然舞い込んだのは、後継争いに揺れる帝国の皇女ロウェルミナとの縁談話だった!?
うますぎる話に警戒するウェインだったが、周囲は帝国との関係が深まるとお祭り騒ぎ。しかも非公式のお見合いに訪れた皇女から提案されたのは、野望に溢れたもので――。
「超断りてえええええええええ! 」
天才王子による七転八倒な弱小国家運営譚第二章、ここに開幕!
ううん、面白いよう、面白いよう!
以前、帝国に身分を隠して留学していた件、多少のコネの取得や帝国の内実の情報収集、制度などの学習なんていう当たり前の成果とは異なる、でっかい伏線が仕込まれてるとは考えていましたけれど、この二巻で早速皇女ロウェルミナとの縁という形で打ち込んできました。ただ、このロウェルミナ皇女ことロワが、ただのヒロイン、ただの外交上の足がかりでは全然収まらないポテンシャルの持ち主だったんですよね。良い意味での刺激的なキャラクターでした。
ニニムなんか、ロワとウェイン王子って似たもの同士と評していて、確かに性格のネジ曲がり方や裏表の激しさとか似てるんですけれど、ニニムが想定していないレベルでこの二人ってそっくりなんですよね。
もっとも、この二人が似てるのって、元の素養はあったんだろうけれど、ロワの方がウェインのマネをしている、或いは大きく感化されたというところがあると思うんですよね。
だからこそ、ロワにはウェインの秘めたる目的を察することができたんだろうし、なんていうんでしょうね、自分の一番の望みを自分のために費やす生き方を選べたんじゃないでしょうか。
ロワやウェインにとって、国とは愛し守るものでありながらもそれに囚われていない。
皇帝になりたいという野心、のんびり悠々自適に暮らしたいという野心に邁進しながら、そのためにそれ以外のすべてを捨て去ろう、なんて全然思っていない。
二人共、多くを取りこぼさないようにしながら、でも一方で世界の在り様を壊しかねない大きな変化をもたらそうとしている。それは、とてもとても些細な願いを叶えるためで、そのために二人共人知れず、凄まじい戦いに挑んでいる。
それは、価値観や常識、という社会の根幹を根こそぎぶち壊そうという戦いだ。
ただ一人を余すことなく幸せにするためだけの戦いだ。それによって、自分も幸せになれる、からこその戦いだ。
だから、ロワとウェインは同志であり共犯者でもあるのだろう。時として、お互いを利用しあい、ときに蹴っ飛ばしあい、大迷惑を押し付けあったりする、でも余裕があれば助け合い、そして最終目標はとても似通っている、そんな同じ方向に肩寄せあってぶつかり合い戯言をぶつけ合って、手を握りあいながら進み続ける、そんな二人なのである。
というのは、ロワの理想なんでしょうかね。現実として、皇女はまだ彼の傍らに肩を並べられずに悔しがり歯噛みしながら、前を行く彼の背に頬を紅潮させながら目をキラキラさせて、懸命に追いすがっている、といったところか。
人が当たり前のものとして受け止めていたものを、ぶち壊してその先を手に入れようとしているロワの意志と願いをニニムは知っている。
ニニムの想いは尊いものだ。彼女の従者としての覚悟は透徹としていて美しいとすら言えるかも知れない。ウェインの妹姫にニニムは自分のお義姉さまになると思っていた、と告げられた時の決然とした宣言、そしてウェインの唯一無二の心臓であり続けられることへの誇りと喜びはいっそ神聖とすら言えただろう。
決して結ばれることのない、しかし誰にも引き裂かれない絶対不可侵の主従の絆。それは、ニニムにとって揺らぐことのない最善にして至上、完全なる幸福な在り方だったのだ。
既存の価値観、常識のなかで折り合った、たどり着ける最高の高みであったのだろう。
ロワが、そんな価値観、常識を越えた先を目指していると知るまでは。いや、そんな彼女の原動力となっているのが、被差別民である自分と王族であるウェインの二人の関係への憧れにあると知るまでは。
ニニムの心情は語られていない。でも、ロワの告白を聞いたあとの彼女の沈思には彼女の揺らぎを感じるのだ。
果たして、ロワが想像したようにウェインが目論んでいるものを、ニニムが気づいているかどうかはわからない。

ニニムの心臓の誓いは、ある意味停滞ではなかろうか。主君ウェインが望む世界を作り上げるための計画に、彼女の在り方はただ立ち止まったまま見送っているだけではないか。
ロワは、必死についていこうとしているのに。ロワはウェインだけを見ているのではなく、ニニム自身も一緒にと望んで、憧れて、そのために邁進しているのに。
彼女は現状に満足して、完結してしまっているんじゃなかろうか。

ロワの告白にニニムが察するものがあったかはわからない。あのお茶会のときにロワは、この件について探りを入れていたようだけれど。
わからないけれど、でもロワが帰ったあとのニニムの沈思は、繰り返しになるけれど、あの神聖な宣誓への揺らぎに思えてしまうんですよね。
それほどの影響を与えただけでも、ロワというヒロインの作用はとてつもないものでした。
もちろんそれだけじゃなく、直接の彼女……取り澄ました顔をさいごまで崩さずにキャラ保ってたのに、ニニムに突かれただけであっさり素の顔を見せてしまったところなんぞ、可愛いなんてものじゃなかったですし。あれで、あの告白ですもんね。あれをウェインじゃなくて、ニニムにある意味直接言っちゃうところなんぞ、かなりズルいですよ。あそこらへんで、皇女の本音にキュンキュンさせられてしまいましたし、ちゃんとあの二人をセットで、とか自分も入れてもらいたいとか、健気というか可愛げありまくりというか、色々とたまらんでしたし。ニニム好きすぎるでしょう、この人。
だからこそ、ロワだったからこそ、彼女のあの告白だったからこそ、ニニムの揺らぎの物思いだったように思うのです。
小国の王子が国際的な動乱を前に表向きな快刀乱麻に、実際は顔芸しまくりながら半泣きの綱渡りで乗り切って、動乱の主役へと立ち上っていく、という謀略戦記的なドラスティックな展開も非常に面白い作品なのですが、個人個人の関係や心情にしっかり踏み込んだ描写もこうしてみるととても丁寧に掘り下げて、その上で激しく動かしてきていて、期待していた以上に面白い話になってきました。
いやいや、あのウェインとロワのお互いに振り回し合いながら、凄まじい読み合いと駆け引きを繰り広げて主導権争いをしているところに、バカのバカゆえのあまりにも予想外の想像の斜め下を行く展開に、計画が全部盛大にぶち壊しになって、王子と皇女の稀代の策士二人が白目剥いてひっくり返るような有様になってしまうところとか、もう笑うしかなくてほんとに爆笑ものの面白さでしたよ。
現実は小説よりも奇なり。バカは本当に何しでかすかわからない、を地で行く展開で面白かったー。想定通りいかないところからの、カバーリングにアドリブでの謀略立案能力が、この王子並外れているのを思い知らされた形ですけれど。あそこまで思惑外されてえらいことになったところからの立て直し、まさに神がかってましたし。
皇女も能力的には引けをとってないのですけれど、彼女の場合大国の皇女でありながらも、後ろ盾がなくて自前の戦力が殆どない徒手空拳、というところで小国なりとも一国の王子で摂政で自国の組織を自由に使えるアンド情報収集の分野で極めて優れた組織を抱えている、というアドバンテージが差をつけた感があります。もっとも、下手な手を打たずにさっさとウェインと一蓮托生になってしまうあたりに皇女の強かさを見ますけれど。
んで、ここで突き放さずに留学時代の約束をしれっと守ってるあたりに、王子のイケメン力が見てとれてしまうんですよねえ。そりゃあねえ、ロワもそんなんされたらねえ。
色んな意味でロワが持っていってしまった感がありますので、ニニムもちょいとこれは考えどころじゃないでしょうか。ウェイン王子にとってニニムの存在が絶対であることは変わらないだけに。
ある意味安穏とできるからこそ、現状とどう向き合うのか。
無事に出る第三巻は、件の差別が激しい大陸西側が中心となる話のようですし、なおさらに注目です。

1巻感想

天才王子の赤字国家再生術~そうだ、売国しよう~ ★★★★   

天才王子の赤字国家再生術~そうだ、売国しよう~ (GA文庫)

【天才王子の赤字国家再生術~そうだ、売国しよう~】 鳥羽 徹/ファルまろ GA文庫

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「こんな国、さっさと売って隠居生活だ!」

完全に詰んでる国家の運営、無茶ブリされました!

「さすが殿下! これが狙いとは!」
「どこまでもついて参ります!」
「殿下!」「殿下!」「殿下!」「殿下!」
『(一体どうしてこうなった!?)』
資源も人材も兵力もない弱小国家を背負うことになった若き王子ウェイン。

文武に秀で、臣下からの信頼も厚い彼にはひそかな願いがあった。
「国売ってトンズラしてえええ!」
そう、王子の本性は悠々自適の隠居生活を目論む売国奴だったのだ!
だが、大国に媚びを売ろうと外交すれば予期せず一方的に利益を手にし隣国との戦争で程よく勝とうとすれば大勝利。名声は上がるが売国は遠のき、臣民はイケイケ状態で退くに退けない!?
天才王子による予想外だらけの弱小国家運営譚、開幕!
いわゆる「勘違い系」、本人の意図や能力関係なく、周囲が勝手に誤解して解釈したり都合よく物事が転がって成功してしまう類いの話かと思ったら、この王子マヂでスゴイガチの天才カリスマじゃないですかー!!
一番の難点は彼が自分の能力と信望を過小評価してしまっているところなのでしょう。過小評価と言っても無能なダメ王子と認識しているわけではなく、ちゃんと相応に高く評価してるんですよね。
その上で、周囲との国際関係やパワーバランスを考えて極めて現実路線な戦略、政治目標を立てた上で常識的な範疇での妥協点で決着させようとするわけです。
ところが、現実が思惑通りに転がらないのは常のこととして、彼の場合は何気に悲観論者、というよりも上手く行かなかった場合を想定して作戦立てているので、かなりリスクを加味した前提を持って慎重さと入念な段取りを用いているので、全部思惑通りに行ってようやく目的に達する、くらいの期待値なんですよね。都合よく物事が展開する、という想定をしていないのである。
まあその考え方もわからなくはなくて、元々あんまりこのウェイン王子、運がいいという経験してこなかったんじゃないだろうか。変に期待値込みで想定回すとそれが根底からポシャってしまう、というむしろ運が悪い経験を度々してきたんじゃなかろうか。鉱山の一件とか、事前にかなり皮算用してたのがえらいことになってパアになってしまったのを見ると、そう考えてしまうのである。
なので、最初から期待値低くリスクは常に降りかかるもの、という前提であれこれ作戦組み立てている、と思われるわけですが、元々能力値高いところに慎重で油断なくスキのない失敗しても破綻しない戦略を立ててるわけで、それだけ入念にやったら上手く行かないものも上手く行ってしまうわー! ということで、往々にして想定よりも上手く行ってしまうのである。
ただ、問題は下手に勝ちすぎると予定外の展開や相手の反応を引き出してしまう、ということでより情勢が悪化してしまうケースが多々あるんですよね。そして、なまじ勝っているものだから味方サイドは危機感を抱くどころかむしろイケイケ状態になってハシゴを外してくるわけです。
表向きには華麗かつ劇的な勝利を重ねて名望は高まるばかりの王子様なのだけれど、実態を見るとどんどんドツボの泥沼にハマっていき、それから逃れられない悲惨な有様になってってるのがなんともはや。
表向きには完璧なカリスマ王子を演じきっているウェインですけれど、唯一補佐官のニニムにだけはだらし無い素顔を曝け出しているわけです。そのニニムの前でひたすら「ぴぎゃーー」と想定外の連続に頭抱えて泣き言漏らすわ、FXで全財産溶かしたみたいにヘタれるわ、となかなかにみっともない真似を晒しまくるのですが、それがまたなんというか愛嬌なんですよね。
ニニムの前だけ情けない顔を見せつつも、やるとなったらとことんやってのけるそのギャップ。泣き言漏らしながらも、実際問題二進も三進もいかないような状況に追い込まれながらもそれでも想定外を踏み越えて、次々に閉塞を打開し打ち破っていくのですから、いやマジでガチの天才じゃないですか。
件の売国云々も、国を売って自分だけ悠々自適の身分を手に入れようというのじゃなく、どう抗っても巨大な帝国の侵攻に飲み込まれざるを得ない国際情勢の中で、最終的にナトラ王国が解体されるにしても、穏当に帝国の一部となって搾取される非支配地になるのではなく、ナトラ王国だった土地の人間が帝国内でも不当に扱われないどころかなかなかに重要に扱われるポディションを得る、というプランに基づいてのもので、滅亡必至の状況の中での最良の国家戦略だったんですよね。
それなのに、帝国の方で政変が起こってしまい、平和的国家解体プランは見事に瓦解。ナトラ王国は何かしらんうちに漁夫の利を得てしまい、しかし結果として大陸戦乱のさなかに放り出されるはめになり、王子頭丸抱え、である。王子、損して得を取れ、という方針を遵守しているにも関わらず、目先で得して未来のより大きな得を取りこぼしそうになる、という都合よい展開に見えて実際はえらいことになる、という状況ばっかりだなあ、ほんとに。
にも関わらず、より大きな難題が降り掛かってきた上で最終的にも得をもぎ取るというところがえげつないというかスゴイ。
とまあ、そんな感じの綱渡りばかりの王子様なのですが、ニニムとの気心の知れた関係が本当に良いんですよね。
絶対的に信頼できる側近にして、愛する妹にすらなかなか見せない無様な素顔を遠慮なく見せる幼馴染の関係。そして、諸国では被差別民であるニニムを侮辱されると、絶対に許さないという苛烈な一面。普段のカリスマ王子な顔とも、ニニムとの間に見せるすっとぼけた顔とも違う、自分の大事なものを汚された際の絶対零度の憤怒。激情を一切見せること無く淡々と、しかし確実に絶殺する凄絶さ。
ほんま、色んな面がある王子様で、魅力的で面白いキャラクターですわ。見ていて飽きない主人公でありました。
これから彼が率いるナトラ王国がどうなるかも、戦乱の度合いが増していく中での国家の舵取りの行方も非常に興味深いですし、先々楽しみなシリーズの開幕編でした。

幻葬神話のドレッドノート 3   

幻葬神話のドレッドノート (GA文庫)

【幻葬神話のドレッドノート】 鳥羽徹/赤井てら GA文庫

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剣と魔術を駆使して幻獣と戦う人類の守護者・戦技魔装士。その養成校に入学した御霊志雄と御霊日輪は、早々に新婚であることを発表したり、公衆の面前で盛大に惚気たりとお騒がせ気味。だが二人が伝説級幻獣をたやすく討伐してしまったことで、周囲からの好奇の目は畏怖と尊敬へと変わり始める。そんな彼らの目標はかつて地上を蹂躙し尽くした七柱の神話級幻獣を滅ぼすことだった!異端の天才(夫)×無双の戦姫(妻)、旧き神話に幕を引く、夫婦の伝説が始まる!比翼連理のデュアル・ヒロイックファンタジー開幕!!!
うわぁ、何年ぶりだろう。【オキアヌス】や【ボーイ・ミーツ・ハート!】の鳥羽徹さんが久々に新作引っさげて復活ですよ。特に【ボーイ・ミーツ・ハート!】は抜群に面白かったシリーズだけに、2巻が出て以来パタリと音沙汰なくなってしまって、寂しい想いをしたものでした。
しかし、話がスタートした時点で既婚とは、なかなか意欲的じゃあないですか。完全にメインヒロイン固定ってことですしね。内容を見ても、夫婦仲に暗雲が、というふうな展開を持ってくるような雰囲気の話でもありませんし。出来上がっちゃってますもんねえ。まず結婚ありき、の仲ではなくておもいっきり恋愛結婚ですし、信頼と絆が覚悟と執着によって完成してますからね。これは心が離れようのない、離れたら即座に死ぬタイプのカップルですやん。比翼連理とはまさにまさに。
しかし、同時にこの二人で戦力的にも物語の核としても完結してしまっているので、色んな意味で余人が入る余地がないのも確かなんですよね。普通に、仲の良い友達も出来るのですけれど、果たして彼女らが彼らの物語の中に主要人物として食い込んでこれるのか。今回に関しては、どうしても「外側」から入ってこれませんでしたからねえ。彼らに絡む事のできるのは、今のところ「敵」だけであって、夫婦と七柱の幻獣という強固なライン一筋だけなんですよね。ここから、物語をこのライン以外に発展させていける余地があるのか。まあ、その必要がない、という考え方もあるのでしょうけれど。
夫婦であることを秘密にするわけでもなく、最初からぶちまけてしまうあたりは度肝を抜かれましたけれど、もうちょっとイチャイチャしても良かったんじゃよ?
重い陰を背負った主人公の志雄に、自分という重石を乗っけるだけの偉業をやり遂げた日輪は実際大したものだと思うのだけれど、ここはそれ以上の戦果を求めたくなるじゃあないですか。覚悟を据えてしまっている志雄のそれに、堂々と付き添うその雄々しさはちょいと惚れぼれするくらいなのですが、甘え方もけっこう上手でわりと二人で過ごすときはベタベタしてるのですが、この男の子はもう少し堕落させてあげてもいいんじゃないか、と思えてくる。彼の真面目さに対して、わりと甘いんですよねえ。甘えてる一方で、けっこう旦那を甘やかしてますよ、この奥さん。恋人とか婚約の段階じゃなくて、既婚なんですからやることはやっちゃえばいいのに。まあ、子供が出来てしまったら大変なので節制が求められる部分なのかもしれませんけれど。

しかし、GA文庫は【落第騎士の英雄譚】もそうですけれど、ヒロインを一人に固定するケースに寛容というのは、今の御時世に挑戦的じゃないですか。って、落第騎士の英雄譚しか他に見当たらないので、レーベルでくくる件ではないのかもしれませんけれど。でも、ぜんぶ右に倣えじゃなくて、多様性がないと先細りになってしまう、というのはどんな分野方面でも良く言われることですし、もっと試みてもいいと思うんだけれど。その意味では、【落第騎士の英雄譚】は良き先駆となった、と見るべきか。

個人的にはこの一巻では志雄の掘り下げの方に重点を置いていて、日輪は彼を支え補う役割を果たしている面に焦点があたっていて、若干日輪という女の子のキャラの魅力を映えさせる場面について物足りない部分があったので、次回はもうちょっと日輪の方にフォーカスをあててほしいなあ、と思う次第。ちょっと、夫婦としての、という点に比重が傾いていたかなあ、という感じで。微妙な感覚なんですけどね。
鳥羽さんは、これまでの作品見ても女の子の描き方は抜群におもしろ愉快に可愛らしく描ける作家さんだっただけに、日輪という娘のポテンシャルはまだまだこんなもんじゃないぞー、という期待含みで。

鳥羽徹作品感想

ボーイ・ミーツ・ハート! 2.彼女のハートは純情可憐!?4   

ボーイ・ミーツ・ハート!2 −彼女のハートは純情可憐!?− (GA文庫)

【ボーイ・ミーツ・ハート! 2.彼女のハートは純情可憐!?】 鳥羽徹/H2SO4 GA文庫

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「――私と手を組んでみない?」

 少女は挑むようにそう言い放った。
 校内のどこかで非正規なPSYゲームを行う【会合】が開催されている――そんな噂の真偽を確かめるため、調査を始めた征司は、白宮織鶴と名乗る少女から協力を申し出られた。

 織鶴とともに【会合】へと潜入する征司。だが、彼はいままでに聞いたこともないような音色に出会う――それは織鶴の姉である白宮舞姫が奏でる心音だった。

 その音色の美しさの根底にある、舞姫の強靱な「覚悟」を感じとった征司は、なにが彼女をそうさせるのかに興味を覚え、独自の調査を開始するのだが――!?
おおおっ、やっぱり面白いよこのシリーズ! 単純な能力の強弱による力勝負ではなく、それぞれの能力の特徴を活かして繰り広げられる熾烈な駆け引き、裏の裏の裏まで読み合う頭脳戦。主人公がいったい何を仕掛けてくるのか、はたまた対戦相手がどんな能力を隠し持ち、それを如何に使ってくるのか。一手一手の読みと読みの凌ぎ合い、能力を看破し合い、また読まれたと判断した上での仕掛けと詐術。ただの「じゃんけん」や「鬼ごっこ」に此処までワクワクと手に汗握る事が出来るとは、いっそ喜悦ですらある。
いやあ、楽しかった面白かった。
一巻に引き続いてのやたらに笑えるテンポの良い掛け合いに相まって、肝心のPSYゲームもまたさらに切れ味冴え渡り、勝負の白熱度が上昇したんではないだろうか。
心音フェチの食えない主人公・征司くんの飄々とした態度は、個性的なヒロインたちに負けておらず、ある意味彼女たちを手玉に取りながら事態を派手に転がしていく。良い意味で曲者なんだよなあ。こと勝負に関しての性格の悪さ、騙しのテクニックは際立ってすら居る。これで女心まで弄び始めたら殆ど無敵なんだろうけれど、男女の感情の機微についてはいささか見識不足というのはまあ通常運行か。いささか致死量に達している気もするが。あれは死刑にされても仕方ない。女の子が黙って服の裾を握って見上げてきたら、察しろ!!
そんな主人公を唯一引っ掻き回せるのは、PSYくる委員長で従姉妹のとばりさんだけなんだろうけれど……どうやら天衣無縫の彼女にも一人だけ苦手にしている相手がいるらしく、その人相手では勝手が違うのか頭があがらない様子で……あれ? とばりさんってもしかしてヒロインではないのか? ちなみにその相手というのは主人公の兄らしいんだが、あのふてくされ具合を見ていると兄貴のこと嫌いだとか苦手だとかいうんじゃなくて、とばりさん兄貴のこと好きなんじゃね? などと考えてしまうのはラブコメ脳ですか?

【会合】に纏わる姉妹の顛末は、もう何というか感動的なのかそうじゃないのか、なかなか複雑怪奇でやっぱり笑ってしまった。なんてしょうもないw でも、本気だったんだよなあ。それこそ、征司が気になって仕方なくなるほどの覚悟を秘めた心音を奏でていたんだから。まあ本気でどれだけ覚悟決めてたって、内容がアレだとねえ(笑
一方で、妹ちゃんの選択の動機については、そのなんとなくさがとても素敵で〆としてはとても爽やかで心雪がれる読後感でした。これは、先々も楽しみなシリーズになってきましたよ。面白かった♪

1巻感想

ボーイ・ミーツ・ハート! 彼女のフラグは難攻不落!?3   

ボーイ・ミーツ・ハート!−彼女のフラグは難攻不落!?− (GA文庫)

【ボーイ・ミーツ・ハート! 彼女のフラグは難攻不落!?】 鳥羽徹/H2SO4 GA文庫

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 たとえば予知能力者と透視能力者がトランプで勝負したらどうなるか?
 超能力者が暮らす砂拠市は、そうした一般的な種目を使った異能バトル・PSYゲームが日常的に行われる街である。

 そんな街の住人で、音を操る力を持った征司は、他人の心音を聞くのが趣味という残念な高校生だ。
 彼はある日、幼なじみの少女・狭霧と再会するが、その印象は昔と大きく変わっていた。

「彼女を取り戻したい(おもに心音的な意味で)」

 かつての狭霧を取り戻すため、征司は奔走し始めるが――!?
 ちょこっと変則学園異能ストーリー登場!
おおおっ、なにこれ。キャラの掛け合い、めっちゃ面白いやん!?
前作シリーズの【オルキヌス 稲朽深弦の調停生活】は一巻だけ読んでその後はスルーしていたのだけれど、こっちも評判ヨさそうだし、この掛け合いのノリを楽しめるなら改めて読んでみる事にしよう。
それくらい、軽妙でノリの良い掛け合いが楽しかった。どちらかというと大人しめのヒロインかと思ったら相当の毒舌系だったり、主人公は真面目に見えてすっとぼけた受け答えで狭霧の毒舌にヒラリヒラリと対応し、とんでもない性格の従姉のネーちゃんに弄られ、クラスメイトの女の子を逆に弄ったり、かなりの自由闊達な逸材である。
と、惚けたボケと突っ込みの応酬ばかりではなく、ここで描かれるのは失ってしまった光を、かつて分け与えた相手から時を越えて返して貰う話である。
幼い頃、彼女はその胸に抱いた輝きで絶望と憎しみに彩られていた一人の少年の価値観を、彼の生き様そのものを一変させてしまった。にも関わらず、彼女自身はその持ち得た強さ故に自分の中の輝きを見失ってしまったのです。彼女にとって重ね続けた勝利は、勝利を確約してくれた能力の強さは、むしろ彼女の自由を縛るものになってしまった。勝てば勝つほど、奪われていく可能性。勝利は喜びではなく義務となり、敗北は自身の今までの全否定となっていく。結果、ついに彼女が敗れ去ったとき、彼女の中からは自分を形作っていたものがすべて崩れ去って失われてしまった。
そんな抜け殻になってしまった彼女が落ち延びたその先で、自分が全否定した弱さに彩られながら、かつて自分が持っていた輝きを失わずに胸に抱いている少年と再び巡りあう。
それはただの幼馴染との再会ではなく、自分が否定し失ったものとの再会でもあったわけです。彼を認めるということは、これまでの生き様も、抜け殻となった自分さえも否定してしまうということ。自分が道化であったと認めてしまうことになる。彼女が、征司に惹かれながらもPSYゲームについては頑なに拒絶し、反発したのも道理なのでしょう。
一方で征司は征司で、今の彼女は決して認められなかったわけです。狭霧こそ、今の彼を形作っている原点であり、輝きを与えて未来を指し示してくれた人。それが、かつての自分を否定し、拒絶している。幼き日の狭霧の輝きの否定、それすなわち、今の自分の否定です。いやそれ以上にやはり、彼に取って狭霧とはキラキラと輝く人であって欲しかったのでしょう。ならば、今の彼女は絶対に否定しなければならない。
戦いは必然である以上に、必要であったのでしょう。自身の証明、若者の戦いとしてはすこぶる燃えるシチュエーションじゃあないですか。
その肝心の勝負ですけれど、征司って予想以上に寝技師だな、これ。弱い能力を上手く効果的に使う、というだけではなく、口八丁の詐術を使って上手いこと相手の意志を誘導し、陥穽にはめ込んでいる。彼女の敗因は油断や能力の強さに頼り切った強引な試合進行、とも言えるけれど、それ以上に上手くハメられたから、と見ていいんじゃないだろうか。狭霧に油断がなかったとしても、最終的に征司に騙された挙句に勝ちをさらわれた気がする。勝負強いよ、彼。
この罠に罠を三段重ねしたような仕掛けは面白かった。弱い能力が強い能力を上回る、という以上に情報をパッシブに使った作戦勝ちという手法は面白かったなあ。試合も戦闘じゃなく、ルールのあるゲームをそれぞれの超能力を使って有利に進め、勝利を勝ち取るというのも、こんな風に見せてくれたら毎回楽しみだ。
今後も期待できそうなシリーズのはじまりである。



 
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