【黒獅子城奇譚】 川口 士/八坂 ミナト  ダッシュエックス文庫

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放浪の騎士グレンと神官を装う魔術師リューは旅の途中、雷雨に襲われ、黒獅子城と呼ばれる古い砦に逃げ込んだ。そこで二人は、同じ雨宿りをしていた先客たちと出会う。視察を終えた若い二人の騎士とそのお目付役。義眼の老騎士。商魂たくましい商人一家。貧しいがどこか油断できない吟遊詩人、しっかり者の町娘。それぞれ癖のある旅人たちが一夜を明かす中、語られる黒獅子伯の伝説と、彼に倒された魔術師の噂。そして古城に潜んでいた魔物の襲撃。様々な事件が起こる中、老騎士タングレーが遺体となって発見される。陰謀と伝説の絡みあう廃城の片隅で、グレンとリューは事件の謎に挑む。
一迅社文庫から刊行されていた【折れた聖剣と帝冠の剣姫】と同じ世界観ということで大変期待していたのですが、作中でチラッと一度だけ作品の関係者に言及されただけで、登場人物も舞台となる地域も全然異なる作品でした。なんだろ、将来的にこのグレンたちが【折れた聖剣と帝冠の剣姫】と合流するような新シリーズでも企画されてるんだろうか。でないと、おなじ世界観にした意味合いもよくわからないのだけれど。
内容としてはファンタジー世界を舞台にしたクローズドサークルによるミステリー。激しく降り出した豪雨を避けて立ち寄った廃墟とかした砦には、同じく雨宿りする何人もの行きずりの身分も年齢も異なる男女が集まっていた。
という導入は、ふと京極夏彦さんの【巷説百物語】のはじまりの話なんぞを思い出してしまったのですが、あちらが江戸時代の風情をよく感じさせてくれたように本作も、西洋風の中世時代という背景を色濃く感じさせてくれる雰囲気をよく醸し出していました。遊歴の騎士という存在や騎士たちの在り方、魔術師に対する強い偏見や民草の立場など。それに、廃墟の城がまた古い罠が残っていたり、地下に迷い込んだ魔物たちが潜んでいたり、と舞台としては現代の館モノとはまた違うファンタジー世界を強く意識させるものになってるんですよね。
その上で、外は激しい雨で廃墟である砦はかろうじて雨風を避けられるものの、窓は破れ隙間からは容赦なく雨風が吹き込んでくる。壊れた家具を薪にして、ようやく居間の暖炉に火を灯して暖を取る、という状況がじっとりと湿った重苦しい雰囲気を醸し出してるのですね。ここに、半ばダンジョンのようになってる廃墟の不気味さや、中世時代特有の仄暗いイメージが相まって、トドメにタイトルの黒獅子城であります。ひたすら、現代モノのミステリーとはまた少し趣を異にする重たい空気感を作り出すことに成功してるんですなあ。
一方で、肝心のミステリーの部分に関しては極めてオーソドックスであった、というところであります。先にあげた巷説百物語のような「アッ!?」と驚くような展開が待っているのではなく、ドロドロに絡み合った人間関係を徐々に詳らかにしていくことによって、死者からのメッセージを解き明かし、犯人を浮き彫りにしていく、という展開にしても謎にしても変に奇を衒わずに順当に徹した、というところなんでしょうか。
色っぽい関係だった主人公とヒロインの二人ですけれど、もうちょいお互いの関係に対する考え方とか踏み込んでもよかったかな、と思うところですね。まあグレンはリューとの関係に関してちゃんと思うところを語ってはいましたけれど、いまいちリューは何考えてるかわかりませんでしたし。もっとイチャイチャしてもいいんじゃよ?
リューとか、あれ謎解きとか結構好きなんじゃないのかしら。本編始まる前も別の殺人事件解決していましたし。
まあ続き出るにしても、次はミステリーでなくてもいいかなー、と。彼らが出る物語はぜひみたいところですけれど。【折れた聖剣と帝冠の剣姫】の続編という可能性込みで。

川口士作品感想