【無双航路 1 転生して宇宙戦艦のAIになりました】 松屋大好/黒銀(DIGS) レジェンドノベルス

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普通の高校生・阿佐ヶ谷真は意識を取り戻したとき、なぜか異世界で帝国艦隊所属・宇宙戦艦カプリコンのAIになっていた。戦艦の頭脳とも言えるAIが自らを「人間」と主張しだしたものだから、カプリコンの艦内クルーは大パニックに陥る。
当の戦艦カプリコンはといえば、敵の連合艦隊に針路を完璧に包囲され、僚艦もわずかという絶体絶命の大ピンチ。彼我戦力差は一目瞭然だ。しかも艦長は儀礼的に乗艦していた皇族でお飾りのソハイーラという少女で、彼女からの助言は見込めそうにない。AIとなった真は「人間」でもある自分の特性を活かし、生き残るため斬新な戦術を駆使して撤退を試みる。
果たして、カプリコンのクルーは危険宙域を脱出し、生き残ることができるのか……!?

本作って、ウェブ掲載の時にこんなサブタイトルついてたっけか。何気にこれタイトル詐欺になってしまう気もするのだけれど、こういうタイトルつけないと今どきは手にとって貰えないということなんでしょうかねえ。ある程度内容を説明しながら異世界転生ものの皮を被る、と。
ぶっちゃけてしまうと、本作はガチガチのスペースオペラであってそれ以外の要素は殆ど無いと言ってもいいでしょう。それが証明されるのは後半のクライマックスなのですが。
しかしこれ、真に限らずAIのスペックが尋常じゃないんですよね。クライマックスで明らかになったAIの計算能力の規模を考えると、とてもじゃないけれど戦闘艦の運用AI程度で使い潰しているのが勿体なくて仕方ない。そもそも、AI自体古代のロストテクノロジーみたいですしその能力も使い切れていないどころか、極まった制限をつけてガチガチに縛って使ってるようなものですしね。
例えていうなら、掃除ロボのルンバをわざわざ手に持って雑巾代わりに吹いて回るような、しかも電源入れずに。
おまけに、帝国の軍人たちは竹槍持って突撃ーとしか言えないような退化しきったバトル脳が様式美と化してしまっていて、まともな軍略どころか戦術戦闘術も持ち合わせていない。
よくこれで、宇宙空間で戦闘やってたなー、と逆に感心するくらい。今までよく生き残っていたな、この帝国。
主人公となる真は、現代の日本に暮らす一般的な高校生。別にミリオタでもSFユーザーでもないので、彼自身の個性をもって絶体絶命のピンチを覆す、というわけではありません。ただ、大事なのは彼が「人間」であること。帝国的「価値観」を持たない客観的判断を人間的主観から持ちいることが出来ること。ここがかなり重要になってくるんですね。つまり、人間であってAIであり、人間ではなくAIでない。この自由で不自由な規範を内包する存在であることが、閉塞的な状況を打開していく鍵となっていくわけだ。
AIとしての本来の能力を発揮するだけで、手かせ足かせをつけられた他の艦艇のAIや固定観念に縛られた人間たちの思考のくびきから、かけ離れたことが出来るわけですからね。
しかし、そのくびきを脱するところこそがSF的には味噌な部分であり、AIとソハイーラたち人間との相互理解を進めていく上で肝となるところなので、至極真っ当にSFしてるなあ、という印象なのであります。
そもそもの前提であった部分を、最後にちゃぶ台ひっくり返すみたいにどんでん返ししてみせるところなんぞも、非常にSFしてますし。
その上で、このカプリコンによって作り出され引っ張り出され眼の前に突きつけられた葛藤は、真の自己定義を揺るがすどころか激震させるのですけれど、そこを最後の最後で縫い止めて繋ぎ止めるのが、存在のステージが異なる、それこそ異世界の存在である「人間」のソハイーラとの信頼であり感謝であり、信愛だったというのはこう夢のある話じゃないですか。
と、言い切ってしまうにはえらい肝心のところの途中で一巻が区切られてしまっているのですが、敵の大軍に追い詰められ、味方艦隊は四分五裂に四散、内部には裏切り者もいてこちらは逃げ惑うばかりという絶望的な状況からの、生存確率コンマゼロから遥かに右側なところからの希望をつなぐ過酷で凄惨な撤退戦、という宇宙艦隊戦闘シーンもなかなかの迫真もので面白かった。
ほんと良いところで終わっているので、引き続き二巻の方へと追いかけていきたいと思います。

松屋大好作品感想