【108回殺された悪役令嬢 上 すべてを思い出したので、乙女はルビーでキセキします BABY編】  なまくら/鍋島 テツヒロ エンターブレイン

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全部あわせて108回悪役令嬢人生を繰り返したスカーレット。のちに冷酷な女王として国民を恐怖のどん底に叩き込むことになる赤髪赤瞳の公爵令嬢である。スカーレットは同じ人生を、何度も何度もループしていた。いずれの人生もその最期は、必ず惨殺される結末。やり直すたびに、前の人生記憶はすべてリセットされて。しかし109回目の人生で偶然すべての記憶を取り戻したスカーレットはループからの脱却をはかる。スカーレットは赤い呪いの鎖を断ち切ることができるのか?

いやこれ、スカーレット今の所あんまりなんにもしてなくない!?
現状まだろくにハイハイも出来ない赤ん坊だから仕方ないのだけど、折角前世までの記憶を取り戻してみたものの、それ特に活用する場面ないですよね!?
スカーレットがやった事と言えば……生まれてすぐに乱心した母親に投げ殺されそうになったのを、超必死にしがみついて抵抗したこと。思えば、この赤ん坊のくせにやたらと必死こいて生き足掻いた事こそがすべてをひっくり返すきっかけになったのだから、スカーレット何もしてない説はさすがに言いすぎか。
これによって、見ているだけだった暗殺者ブラッドが面白がって介入するという今までにない歴史が生じ、これまでスカーレットが経験してきたすべての歴史でスカーレットを産んだ直後になくなっていた母親が死なずに生きている、という結果が生まれるんですね。
これこそが最大のターニングポイントだったんだろうけど、これ以降特にスカーレット何もしていないにも関わらず、これまでの歴史で彼女が乳幼児の時期に起こっただろう様々な悲劇惨劇、いずれスカーレットを悪逆の女王へと登極させることになるだろう彼女の人生に根付いていた不幸の芽が、片っ端から覆っていくのである。
そもそも、生まれたばかりの自分の子供をヒステリーから投げ殺そうとした母親が生き残ったとして、果たして歴史が大きく変わる要素があるのか。産後鬱とかノイローゼ気味からくる突発的衝動的な行為だったのなら大いに同情の余地はあるし、母親本人冷静になったらまた変わってくるのかな、程度に思っていたら、母親の精神的な不安定さから大きな陰謀が関わっているわ、彼女の追い込まれ方がちょっと尋常でなかったとか、実はお母さんチートキャラだったんですよ、という怒涛の展開が待ってたんですよね。
こうしてみると、スカーレットの暗澹たる人生ってのはほんのちょっと力や願いが及ばずに本来の能力や人間関係が活かされず封殺されたことによって、不幸のドミノ倒しみたいになってたのが実情だったんですよね。
その最初の駒が喪われず、さらにブラッドという血流操作という名の意味不明な万能能力の天才少年が最大の味方としてスカーレットたちを守ってくれることから、ほんの少し足りなかったところが見事に片っ端から爪先が際に届くことで全部が好転していってるんですよね。
逆にスカーレットの両親をはじめとして、尋常でなく有能で切れ者というべき人たちが本来の力を発揮できないまま泥沼に叩き込まれ、マリアをはじめとする本当の意味でスカーレットの味方になってくれる人たちの未来を断ち切ってきた黒幕の立ち回り、というのは空恐ろしい狡猾さを感じさせる。
この黒幕というのがまた尋常でない、特に精神の在り方がもう完全に人間を逸脱してしまっているというか、愉悦部名誉会長みたいな有様なんですよね。もうこれサイコパス以外の何者でもないじゃん。こんなのに目をつけられてしまった以上の不幸はないだろう、スカーレットさん。
と、108回もろくでもない死に目にあってきたにも関わらず、この赤ん坊いい加減能天気というかアーパーでアホ丸出しで妙に人生楽しそうなのが、若干腹立つんですが(苦笑
あと、ブラッドの能力がちょっと便利すぎて頭おかしいんですが。こいつの能力ってほんとにただ血液を操るだけなのか? もう意味不明な能力になってるんですけど。なんか相手の血の流れを読むことで何考えてるかも察知することが出来るって、血かんけいありますそれ!?
おかげで赤ん坊で喋れないスカーレットの言いたい言葉まで読み取ってくれるので、便利は便利なんでしょうけど、特に有効活用してませんよね、スカーレットさん! この娘アホなことしか言ってないような気がするぞ。そして、なんか勝手に回りのひとたち、ブラッドを筆頭にマリアやお母様や遠方の地では帰還を目指すお父様にその盟友となった人たちがとにかく頑張りまくることで、彼らに降り掛かってくる悪意を、害意を、邪悪な企みを次々と打破していくのである。
絶体絶命のピンチのブラッドを、血の記憶を通して超常のバフをかけて救ったりしてるから、スカーレットもちゃんと頑張ってると言っておこう。

とまあ、本編そのものはスカーレットが常に頭の悪いアホの娘の物言いをしているので緩い感じなのだけど、頻繁に挟まれるこれまでスカーレットが辿ってきた108回の死亡遊戯。その過程の中で起こったスカーレットの味方となったであろう人々を見舞う惨劇が悲惨以外のなにものでもなく、夢も希望もないんだよ、と言いたい無残さで胸を打つのである。
そして、黒幕の圧倒的な悪意の恐ろしさも、容赦なくぶちまけてくる。果たして、今まで見舞われてきた不幸の数々を打ち破れるのか。この邪悪に勝てるのか。
スカーレットはちゃんと自力で活躍できるのか! いや、赤ん坊でいる間はまあ無理でしょうけど。
自分でも私何もして無くね? と自己ツッコミしてるくらいだしなあw