EIGHTH

EIGHTH 94   

EIGHTH(9) (ガンガンコミックスJOKER)

【EIGHTH 9】 河内和泉 ガンガンコミックスJOKER

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エイスVSライバル企業、新章突入!!

ルカが無事生還し、平穏になったかと思われたエイス研究所。だが今度は、ナオヤがバチカンに行く前にエイスを辞めると宣言していたことがここへきて問題となる。そしてまた、エイスに潜入していたライバル企業のスパイが動き出し…。待望の新章スタート!!
誰かこの暴走男を何とかしろーー!!(爆笑
いやもう、ルカが酷い。前回までとは別の意味でセルシアが精神的に死んでしまうっ。これ、どう見てもストーカーだよね。そう言えばこの男、出てきた最初からストーカーみたいなものだったなあ、と遠い目になってしまった。あの頃でもなんだこの粘着っぽい男は、と思ってたものだけれど、あれでまだマシだったとは。なんつーか、世界の中心がセルシアなんですよね、こいつ。それはいいんだが、常識をどこにおいてきてしまったんだ、ルカよ。常識に拘ってバチカンでセルシアをひどい目に合わせてしまったことが、彼のトリガーを引いてしまったのか。とりあえずオマエ、無職でセルシアにずっとくっついてるつもりだったのか。後先考えなさ過ぎてるぞ(笑
とまあ、スタート地点はそんな盲目的な所から始まるのですけれど、ナオヤのエイスを辞める辞めないの問題や、ナオヤの行動がセルシアを救ったのに、それが問題になっていること。何故ナオヤの行動が問題視されているのか、ひいてはそこでルカ自身がセルシアを守るということの意味を自身に問いかけることになっていくわけです。ずっと傍にいるだけが、彼女を守ることに繋がるのか。最初は彼女を手放してしまったことで致命的な事態に陥ったことで、エイスに戻れたアトもああやって一秒も離れたくないとばかりにくっついていたルカですけれど、そうじゃないんですよね、やるべきことは。誰も答えを教えてくれるわけじゃないんですが、ルカはちゃんと目の前で起こっていく出来事、あの襲撃事件も踏まえて段々と選ぶべき選択肢を見出していくのでした。
翻ってナオヤ。リオの為にセルシアをバチカンから連れ戻そうと、エイスを辞めると所長に宣言してしまっていたナオヤ。セルシアとルカが戻ってきて何もかも元通りになったように見えて、ナオヤの辞任問題は有耶無耶にならずにエイスをやめなければならない、という展開になっていく。誰もが、問題が解決したんだから今更そんなことになんで拘るんだ、と所長を責めるんだけれど……このあたり、本当に微妙な問題なんですよね。ケジメはつけないければならないんだけれど……所長としてはそういう建前とかメンツの問題じゃなくって、純粋にナオヤの意識に問いかけてるっぽいのです。自分の判断と決断と行動がもたらすものをちゃんと自覚しなさい、というなかなかに厳しい教育なんですなあ。ぶっちゃけ、ナオヤって子は頭もいいし、非常に物事を弁えてる子なんですよ。だから、所長の言いたいことも一番解ってるのはこの子かもしれない。それなのに、敢えて辞めるって言ったよね、じゃあやめなさい、と突き放すあたりは所長の厳しさと期待がうかがえるというべきかなんというか。傍から見ると、警備隊長とアンジェラ博士が怒ってるように意固地になってるように見えちゃうんですよね……所長、ナオヤに対して欲してる要求がめちゃめちゃ高いんだろうなあ、これ。普通のガードに対する期待じゃないんですよね。その上、アンジェラ博士たちがどう反応するのかをナオヤに見せつけてる節もある……いや、ほんとにこの所長、ナオヤに何をどこまで期待してるんだろう。

ルカとセルシアを取り戻して、ラブコメ漫才に終始して、なんだか全部終わった気分になってたら、今度は手段を選ばない、どころか乱暴極まる産業スパイの襲撃が、よりにもよって病身のリオ先生とセルシアを襲う。暴力て、本当に怖いですよね。力で無理やり他人を従わせようとする、痛みを強制して強引に。この病室に押し入られたシーンは、なんかメチャメチャ痛くて怖かった。そんな派手なアクションとかじゃないんですよ? ただ、無理やり拉致ろうとしただけ。その、だけ、が迫真なんですよね。リオ先生の悲鳴が、恐怖の叫びが心臓を鷲掴みにする。どんな天才だろうと、この子はほんの子供だってのに。この出来事が、どれほどこの小さな子の心に傷を与えてしまったのか。嫌だなあ、みんな純粋に人を助けるための仕事しているのに、どうしてこんな事になるんだろう。セルシアが、これまで守られる側だった彼女が守り愛を与える側になろうとしていることは、果たして良いことなのか悪いことなのか。少なくとも、彼女が自分の力を他人を傷つけるために使うことに、りおを守るために躊躇わなかった事は憶えておこう。それは他人を傷つける行為でも、誰かに利用されるためじゃなく彼女が自分自身で使おうと思って使った力なのだから。
……ゴムもまあ本人が使わないでいいと思うなら使わないでいいんじゃないかなw
むしろ、セルシアとルカについてはそういう関係になっちゃった方がややこしいのがほどけていいと思うんだけれど。ってか、セルシアはどう思ってんだ? 満更ではないのは分かるんだが、ちゃんと意思表示しないとルカは徹底して献身に走っちゃうぞ、あれ。現段階で既に何も求めない状態に突入しちゃってるし。いや、それは最初から……。一番健全なのは、ルカがセルシアに対してなんでもいいから求める事なんだろうけれど、それってやっぱりセルシアの方でちゃんと意思表示して関係をちゃんと整頓しないとどうにもならなさそうだもんなあ。とは言え、そういう悠長なことができるのも、件の産業スパイの問題とりお先生の病気が何とかめどつかないとどうにもならなさそうなのだけれど。

河内和泉作品感想

EIGHTH 85   

EIGHTH(8) (ガンガンコミックスJOKER)

【EIGHTH 8】 河内和泉 ガンガンコミックスJOKER

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貴方のために──、やさしく微笑んで…。

バチカンに響く、ルカの死を予感させる発砲音…。「後から行く」と約束したはずなのに…。動揺し、茫然自失となるセルシア。一方のナオヤは、科学アカデミーに呼ばれバチカンへやって来たアンジェラ博士と真理に付き添い、ルカを助けようと再度バチカンに入ろうとするが…。果たして、ルカの安否は──…!? コメディ展開で人気の番外編も収録!!
凄いなあもう凄いなあ。作者のキャラクターの追い詰め方がホントに半端無い。これでもかこれでもかと言わんばかりに精神の崖っぷちに追い詰めていく、追い込んでいく。ふと指先が触れただけで爆ぜてしまいそうなほどパンパンに膨れ上がった水風船を頭の上に載せられたかのように。或いは並々と注がれたカップを持たされ柵の上に立たされたかのように。さっきからバチンバチンと派手な音を立ててワイヤーが千切れている真っ最中の吊り橋の上に居るかのように。セルシアの心が今にも粉々に砕け散りそうになって行くのを、急き立てられていくのを、ただただ見守るしか無い現状に、胃がキリキリと締め上がっていく。読んでいるこっちまで冷や汗だか脂汗だかが止まらない。
もう、ほんとヤバイんだって。あの何だかんだと最悪の環境にめげずに頑張ってきたセルシアであったが、この一件で完全にボーダーを越えてしまった上に、あのルカの行動と別れである。さすがにセルシアでももうあかん、もうあかん。この娘、壊れてまう!!

元々、前作の【機工魔術士エンチャンター 】でも、哲学的問答を通じてこれでもかこれでもか、と主人公たちをアイデンティティーの根底から切り崩し追い詰めていく展開には、いろいろな意味で震え上がったものだけれど、相変わらずこの作者はキャラクターは鍛造して鍛えろ、とでもいう信条があるのかと思うほど、熱して冷ましてガツンガツン叩く叩く。それも、肉体的にではなく精神的に。これでもか、と叩き潰した上で単純な精神論ではなく、どこか哲学的な論述を持って、心を剣へと打ち直して行くんですよね。
普通は折れるよ、心が!!
リオ先生の病気の一件だけでもいっぱいいっぱいだってのに、そこにバチカンのこれだもんなあ。当事者のセルシアも去る事ながら、外枠の人間だからこそ軽々しく踏み込めず決断を強いられるナオヤもまた立ち位置がヘヴィすぎる。これって、わかりやすい正解なんて何処にもないんですよね。どの選択も、誰かを傷つけ、何かを決定的に変えてしまうことになる。結局、所長の言うとおり、そのとき立っていた場所によって何が最善なのか、というのは必然的に変わってきてしまう。絶対的なものなど何処にもないわけです。
その点、所長は自身の立場も含めて非常に俯瞰的に状況を見極めてて、勿論その判断はEIGHTHの所長としてのものなんだけれど、それ以外にナオヤやセルシアの近くにいる大人として物の理、現実の有り様というものを詳らかにすればこんなものなんだ、というのを教え諭すことを厭わないんですよね。一から十まで手取り足取り教えるなんて真似はせず、あくまで彼らが自身で直面し判断した結果がいかなるものか、その将来の展望も含めてわかりやすく解いて説いて問いてるだけ、というのもまた対応が渋いというか……大人としても教育者としても非常に尊敬できる立ち振る舞いである。胡乱すぎる、という声もあるかもしれないけれど、こういうのは結局実感しないと言葉を尽くされても内に浸透しないんですよね。かと言って、実感だけでもそれは理解には程遠いからこその所長の振る舞い、なんだよなあ。

ともあれ、今回はホントにきつかった。これまでの展開が生易しいと言っていいほど、セルシアの追い詰められっぷりの厳しいこと厳しいこと。ダムの決壊並みに、一気に来たもんなあ。
だからこそ、ナオヤの毅然とした態度、リオ先生の献身の聖性、シスターの愛情が染み渡る。
愛は、いつでもそこにあり、いつも注がれ続けていたのだ。どれほど悲惨な境遇でも、不幸を招く人生でも、自分が愛されていたと知ったなら、守られてきたのだと解ったなら、苦しくても辛くても生きていける。
セルシアは、ホントに頑張ったよ。もう、泣きそうになるくらいに健気に、絶望から立ち上がった。傷だらけになりながらも、自分を切り捨てなかった。偉かった。
だから、もうあのご褒美は貰えて当然だったと思う。
……あのシーン、目にした時には比喩抜きで全身から安堵で力が抜けた。いやもう、どれだけ体中強張ってたんだと、笑ってしまうくらいに。それだけ、そのシーンに至るまで読んでるこっちまで肩に力が入り、瀬戸際ギリギリの緊張感に息を止めてしまっていたわけだ。
もう、良かった。ほんとよかった。大好きだ、愛してる!! セルシアはぶちきれてオッケーです。ダンボール投擲は、なればこそ痛快であった。そこはもう、思いっきりぶつけなよし!!

河内和泉作品感想

EIGHTH 74   

EIGHTH(7) (ガンガンコミックスJOKER)

【EIGHTH 7】  河内和泉 ガンガンコミックスJOKER

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iPS細胞の研究中に突如倒れたりお。彼女の病気を治療するために、行動を起こすナオヤ。一方のバチカンでは、セルシアの待遇が想像とは違い、彼女を連れてきたことを後悔するルカ。そこで、思わぬ大事件が発生することになり…。セルシア&ルカの運命は如何に──…!? 大人気バチカン編、クライマックス!!

リオ先生、ただの過労じゃなかったのか!? 倒れる前の様子が明らかに年不相応のオーバーワークだったために、単純に無理しすぎたから倒れたのだと楽観していたら、実際は……小児白血病!? 衝撃的展開すぎる。
それでも不治の病ではないと言われてホッとしたのも束の間、発覚したリオ先生の遺伝子欠損。この為に、彼女に投与する抗癌剤の適正使用量が全く分からないために、分量は手探りで実際に投与して効果を確かめなければならない。しかし、適正量を過てば、重大な副作用が発症してしまうという。
わかった。イヤというほど分かった。iPS細胞が持つとてつもない可能性と、未だ実用化が叶わない問題点の一つが、まさにこれなわけだ。りお先生の状況を実例として、ここに示してくれたわけだ。前巻のiPS細胞の解説だけでも簡単でわかり易かったのに、こんな実例まで添えてくれりゃあ嫌でもわかる。直近の技術ですらこの可能性だ。将来的に出来るであろう治療の数々は夢のようですらある。
凄いんだ、本当に凄いんだ、iPS細胞。
しかし、現状ではまだ未来の可能性に過ぎない。いずれ確実に叶う可能性だとしても、現在においてはそれは存在しないのだ。その可能性をたぐり寄せる担い手である研究者りおは、その事を誰よりも把握し承知している一人だろう。だから、自分が間に合わないと知りながら、そのときはかならずくる、と笑って言える。次の人のために手順を残すことこそが大事なのだと、笑って言い切れる。
でも、まだ子供なんですよ、りお先生は。健気が、すぎるでしょう!!
ナオヤが手繰り寄せようとしている道は、確かにずるいです。ワガママです。自分勝手です。それは利益の為じゃないにしても、自分たちの都合のために、セルシアの力を利用しようという行為は、彼女をこれまで監禁し搾取してきた連中と同じ、と言われてもナオヤは否定できないでしょう。
正しいことではないのでしょう。
でも、親しい人を助ける手段があるのに、それに手を伸ばさずにいられる人がどれだけいるのか。
でも、その手を伸ばした先にあるのは、やっと手に入れたセルシアの安住を破壊し、再び彼女を怯え隠れてすごす逃亡生活に追いやる事に、彼女をめぐって争いが起こることに繋がり兼ねないと、彼はどこまで承知していたのか。
それでも、リオの事をセルシアに伝える事は、間違いじゃないんじゃないかな。多分、りおのことを知ればセルシアは自分の力を使って助けようとするし、それを見込んで情報を与えることはズルい事なんだろうけれど。でも、自分の力をどう使うかを決めるのは、セルシアの自由なんだから。情報を与えず選択の自由を許さないこともまた、ずるいことなのだ、きっと。
結局、なにをどうやったって、誰もがすっきりと気持ちよく終われる事なんてアリはしない。つまるところ、どうやったって間違いしかないのなら、間違ったあとにそれをどうにかして挽回し、修正し、選り良い方向へとつなげていくしかないのだろう。
その点において、失敗してしまったのが多分ルカだったのだ。彼は自分の間違いに気づきながら、座視して傍観してしまった。それはきっとしかたないことだったのだろうけれど、結果として間違いに間違いを重ねる事になってしまった。故に、悲劇が起こる。
取り返しの付かない悲劇だ。

序盤のりお先生の件を吹き飛ばしてしまうような、あまりにも衝撃的な展開に息が止まりそうになる。おい、いったいどこまでセルシアを追い詰める気なんだよ!? ここまででも十分、二進も三進も行かない行き止まりに追い込んでたくせして、さらに奈落に叩き落すだなんて、鬼畜にも程がある!!
その上、さらにルカがトドメでやらかしてくれましたし。こいつは、こいつは本当にもうっ。バカ、バカ野郎、この大馬鹿めっ、うわああああっ!
もう、あの音が聞こえた時のセルシアの魂が抜けたような、あの悟ってしまった表情が凄まじすぎて、総毛立ってしまった。頼むから、本当に頼むから最悪な事態だけは避けて欲しい。でないと、本当にセルシアが立ち直れなくなる。

こんな場面で途切れるなんて、生殺しもいいところです。どんだけいじめっこなんですか、意地悪すぎる。謝りますから、早く続き出してください。お願いしますっ。

河内和泉作品感想

EIGHTH 64   

EIGHTH(6) (ガンガンコミックスJOKER)

【EIGHTH 6】 河内和泉 ガンガンコミックスJOKER

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大切な人を守るための、二人の決断。 新しくエイスにやって来たまだ8歳の大先生・天王寺りお。
ナオヤはりおの護衛をすることになり、りおもまたナオヤの部屋の居候となってセルシアやヒカルと打ち解ける。
だがそのことで、セルシアはりおの身を案じある決意をするのだった…。
セルシアの能力(ちから)をめぐり、物語が加速する待望のiPS編、開幕!!
うわぁっ、これはわかりやすい! 近年何かと話題にのぼる「iPS細胞」。医療面にて革命的な進展をもたらすであろうこの奇跡の科学。具体的に何がどう凄いのか、ちゃんと理解している人はどれくらいいるんだろう。自分もある程度理解したつもりではいたんですよね。でも、これ読んで自分が如何に小難しい理屈や言葉をこねくり回した末の、大雑把な括りでしか「iPS」というものを把握していなかったかを痛いほど思い知らされた。
この天才小学生博士のりお先生の説明、もうドエライわかりやすいんですよ。科学知識なんか殆ど持ってない人でも、その辺の何も知らないオバちゃんでも、この説明を聞いたら「iPS」って何? って理解できるんじゃないでしょうか。それくらいシンプルでありながら、情報の核心をついた説明をしてくれてる。
んで、改めて「iPS」なるものを見なおしてみると……これ、マジでとんでもない代物なんだな。イメージとしてもっと限定的なものだと思ってたんだが、「iPS」を作るために使われている考え方を踏まえると、本当にとてつもない可能性が広がっていることが実感できてしまって、何だか震えが来てしまった。これもう、殆どSFの未来技術の領域に片足どころか首までどっぷり浸かってるんじゃないだろうか。実用段階に入れば、さらにそこから応用発展していくはずですし……うわぁ、これは凄いわ。えらいことだわ。

とまあ、ほとほと感心し切ってしまって心ここにあらずの状態になってしまったのですが、肝心のお話の方もかなりダイナミックに、しかし登場人物たちの心の移ろいは繊細に転がっていくのです。特に、最初期からエイスに匿われていたセルシアの決断は、この作品が一つの岐路を迎えたということなのでしょう。
むしろ決断してしまったセルシアよりも、決断させてしまったルカの方が現実に直面させられてしまったのか、これは。セルシアを守るために、意固地なほど一途にガードとして振る舞い、彼女に安息の地を与えようとしていた彼が、バチカンに匿われたセシリアの置かれた状況を目の当たりにして、自分がセルシアから逆に安息の地を奪ってしまったのではないかという苦悩に晒され、自分に課せられた役割と現実とのギャップに身を切られていくのである。彼は、彼の最善を尽くしただけだし、セルシアも最良を選んだつもりだっただけに、これは辛いなあ。バチカンですらこれなら、セルシアが穏やかに暮らせる場所は地上には一切ないことになってしまう。ナオヤの部屋から一歩も出てはいけなかったエイスが、心許せる人が回りにいるあそこだけが一番マシだったとは何という苦しい現実なんだろう。エイスだって、完全に所長たちの好意の産物であって、本来ならエイスだって彼女の能力を利用したい、という欲があるのは間違いなく、本社がセルシアの存在を知ればもしあのままエイスに居ても、あのままで居られたかどうか分からないし、何れにしても一室から出られないという環境は決して長続きするものでもない。こうして見ると、セルシアの置かれた状況ってホントに詰んでるんだなあ。最後の望みでありルカにとって正解だったはずのバチカンがあれだったとなると、本当に。

新登場の天王寺りお先生は天才だけあってとても頭がよいのですが、同時に歳相応の小さな子供なのがとても良かった。その賢さ故に周りから拒絶され、距離を置かれた事へのトラウマが小さな彼女を怯えさせていて、自分の知識をひけらかすことを極度に恐れている様子がねえ……。知っていること、自分が考えた事を周りの人達に喋ろうと、伝えようと、聞いてもらおうとするのは、このくらいの歳の子なら当たり前の事なのにねえ。そのしゃべる内容が歳相応の拙い内容ではなく、普通の人には難しい、或いは興味がない遺伝子工学だったりしたが故に、周りの人達は笑って相槌をうってくれるのではなく、嫌な顔をして困った顔になって遠ざかっていってしまったのだろう。可哀想に。だから、ちゃんと話を聞いてくれるナオヤたちの存在は嬉しかったんだろうし、この子にとっては救いであり、大好きになったんだろうなあ。聡い子だから、彼らの優しさも理解出来たんだろうし。逆に言うと、その優しさを察する聡さが彼女を追い立てる事になってしまったのだろうけど。
しかし、りお先生ほどの説明上手なら、全然言ってること難しくないしわかりやすいと思うんだがなあ。普通に話を聞いてあげてても、面白いと思うぞ。

河内和泉作品感想

EIGHTH 34   

EIGHTH(3) (ガンガンコミックスJOKER)

【EIGHTH 3】 河内和泉 ガンガンコミックスJOKER

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 bk1

遺伝子を改変した致死率60%を超えるインフルエンザウイルスの紛失。CDCがエイス所長に求めたのは……。
一方のエイスでは、ナオヤの部屋から出るように言われたヒカルが、自分の中の気づかぬ感情をもてあまして父と喧嘩をしてしまう。そして二つの場所の出来事を結びつけることになるのは――……!?
緊迫する事件と、少女の中に芽生えた淡い想いが並走する、待望のウイルス編、開幕!!

ついにきたこれ、遺伝子モノの大真打「ウイルス」編。と、くりゃあ生半可な話じゃあるめえ、と思ったら、うわーーー、ウイスルものっつーよりこれ冒頭はおもいっきりセルシア編再び、じゃないか。
ごめん、セルシアの現状ちょっとナメてたかもしれない。てっきり、「エイス研究所」に極秘に匿われてるのかと思ってた。違うんだな。全然違うんだな。厳密にはエイス研究所内の「ナオヤの部屋」に匿われてたのか。まさか、「ナオヤの部屋」から外に出ることすら厳重に禁止されてるなんて。外を出歩くこともできないのかよ。
それだけ、彼女の能力というのは絶大な利用価値があり、もし彼女がエイスに居ることが知られたら、エイスの本社ですら彼女を利用しようと蠢くかもしれない。彼女の人権など無視して。そのため、公式には彼女は自殺したことになっていて、それでも彼女の生存を疑い、身柄を狙って様々な組織が暗躍している。それほど、危険な状況に置かれているのか。
今回、彼女を釣り上げるために仕掛けられた罠が、とてつもない腹芸、というかダーティーでタフで繊細な謀略なんですよね。
やべえ、諜報戦が極まってる!! 緻密に最初から最後まできめ細かに練り上げられた手のひらで踊らされるようなシナリオとはまた違って、投網のように広がり、蜘蛛の巣のように巧妙に絡めとるようなトラップなんですよね。じっとしていては身動きが取れなくなり、しかし動いたら動いたで狙い撃ちにされる。でも、それがわかっていて、動かざるをえない状況に追い込むという大雑把なようで巧妙すぎる罠。こちとら、恐ろしく気を配って繊細に慎重にこっそりと手を打たないと行けないハメになる。
この仕掛けた側も仕掛けられた側も、お互いに相手が誰なのか、姿も何も見えていないにも関わらず、激烈に繰り広げられる攻防が凄まじい。

同時に、同じターンで個々の登場人物たちの内面にも容赦なくスポットを当ててるのがまた凄い。サスペンスものなら、ここは登場人物は駒に徹するところなんですけどね。それは河内さんとはやり方が違うか。
前巻から、ヒカルの内面の不安定さの描き方が素晴らしいのなんの。ただ、ヒステリーを起こしているのではない、彼女自身わかっているわけじゃないけど、彼女なりのちゃんとした理由とロジックが、彼女の感情の激発や不安定さにはあり、それに基づいてグイグイと状況を引っ張り、また彼女を渦中へと叩き込んでいく。
そこで起こるのは、彼女と真摯に向き合うナオヤやセルシアたちへの想いの確変であり、激動する現状の中で自らを改めて見直すことによる正しい形での人間としての成長なわけである。
ただの子供だったヒカルが、ここしばらくの話の中で、メキメキと大人になっていってるんですよね。自分がどれほど未熟か、至らないか、考えなしか、思い知らされ、打ちのめされ、叩き伏せられ、凹んで沈んで、それでも周りの人達のことを見ていたら、知ってしまったら、うずくまってなんかいられない。自分を哀れんでなんていられない。
これはきっと、彼女が自分の思いにしっかりと向きあうようになれるための成長の話でもあるんだろうなあ。つまり、ヒカルが女の子じゃなく、ナオヤが振り向いてしまうようなオンナになるための、必要過程なんだろう。
おママゴトめいたラブコメをやるには、ナオヤにしてもヒカルにしても、セルシアにしても、子供のままじゃいられない、大人としての立ち振る舞いを要求される世界にいるんですもんね。
ラブコメはラブコメでも、しっかりと大人として責任ある行動と考えを持った人間としてなされるラブコメ、って感じになっていくんだろうなあ、なんて思ったり。
けっこうエグい環境、というか世界観にも関わらず、面白いことに登場キャラはダーティーではあっても善性を信じられるような人もいっぱいいる作品なので、うん、読んでて気持ちよくはあるなあ。
しかし、どれだけ一生懸命でも能力が伴わなければダメなんだよねえ。というか、無能な働き者は無能な怠け者よりもたちが悪いので銃殺しときなよ、とゼークトさんもおっしゃってますし、ね? つまり、ナオヤがトリニティをポイしたのは文句なしに正しい(笑

EIGHTH 25   

EIGHTH 2 (ガンガンコミックスJOKER)

【EIGHTH 2】 河内和泉 ガンガンコミックスJOKER

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 bk1

こ、この野郎、性懲りも無く年上属性だったのか!! セルシアとヒカルという二人の美少女と同居関係になりながら、妙に淡白な反応を見せてるな、と思っていたら、真理さん相手にはでっれでれじゃないかい、この野郎。
とはいえ、恋愛対象として好き、というよりも元気なさかりのガキんちょが、大好きな近所の優しいお姉さんに懐きまくっている、てな感じの風情なんですけどね。本人はけっこう本気なのかもしれないけど。うーん、まあ自分でもそのへんはよくわかってないし、真剣に考えてはいないっぽいけど。今はガードの仕事を頑張ろう、という方に意識が行ってるようだからね。
ナオヤくんは自分でも言っているように、女性は年上の人とばかり接してきたから、もう年上の女性に可愛がられてしまうような仕様で育っちゃったんだろうなあ、うんうん。あの、ワンコがブンブンと尻尾振っているような態度は、傍から見ていてもちょいと可愛い。真理さんが何だかんだと目をかけ、楽しそうに可愛がってしまうのもよくわかる。
だからこそ、ナオヤの事を異性としてみるのは難しかろうなあ、というのもまたよくわかってしまう。この辺の微妙な距離感が素晴らしいんだよなあ。
コラ、もう。どうしてキミはそんなに甘えんぼさんなのかしら。
子供扱いしたらどうせ怒るくせに、特別扱いしないとヤダなんて……
子供みたい……拗ねてるの?
ねぇ、いつになったら、いつから…大人の男のひととして、見たらいいのかしら……
直撃喰らったーーー!! 一撃で撃墜されたーーー!!
うわぁ……こりゃあダメだ。もう、一気にハート持ってかれてしまいました。年上バンザイ!! バンザイ!! バンザーーイッ!!
正直、一巻読んだ段階ではヒロインはセルシアやヒカルたち若い美少女たちが担って、真理さんはあくまでサポートヒロインなのかと思ってたんですが、全力ですんませんでしたーー!! 年上最強!!

とはいえ、ヒカルたち若い子が未熟というんじゃないですよ? セルシアは今回なんか出番全然なかったけど、その分ヒカルが一生懸命アピールアピール! いやあ、この子は初々しくて大好きだなあ。もう、言動の端々からナオヤのことが気になって仕方がない、というのが伝わってくるんですよね。すっごい気にしているのが可愛くて可愛くて。
まあこの子の場合、それ以上にボケとツッコミのスピード感がハンパなくて、面白すぎるんですけどね。もうヒカルが騒ぎ出しただけで、思わず笑ってしまうくらい。元気いっぱいで、イイ子なんですよー。

さて、内容の方なのですが、意外だったのがナオヤのお仕事。遺伝子工学研究所エイスの保安警備員として、一巻ではエージェントっぽい任務に従事していたので、そういうのがメインのお仕事なのかと思ってたら、ああいう荒事はやっぱりイレギュラーとは言わなくても、決して頻繁にある仕事じゃないのですね。むしろ、普段は研究所内で地味な作業に終始していることが、こういう漫画だと珍しくて、逆に面白い。搬入されてくる資材のチェックや移動、所内の保守点検。ナオヤがえらいのは、自分の仕事の内容に優劣を置いていないところ。派手なエージェント的な仕事だけ張り切るのではなく、所内巡回や資材のチェックなども本当に真剣にやっているんですよね。今回の話の中で、ナオヤがチェックした資材の搬入について、あとで問題が発生したので呼び出されて報告する場面があるんですが、この時のナオヤの自分の仕事に手落ちがあったのか不安そうな様子が実にいいんですよねえ。こういう所に目がいってしまうのはちょっと変かもしれないけど、社会人としてはこういうケースでの焦り方とか胃が重たくなるような不安感とかは非常に良くわかるので、ついついこの時のナオヤの様子には共感をしてしまってねえ、うんうん。
面白いとは言えば、今回メインとなる話が遺伝子の中でもよく話題にのぼる「トウモロコシ」。遺伝子組換えはしておりません、というフレーズを目にした人は多いでしょう。ただ、実際にトウモロコシ農家の現場において、遺伝子組換えというものがどういう風に捉えられているか、どういう風に扱われているか、という農家の事情は案外みな知らないんではないでしょうか。
自分の研究対象である植物に対して、童女のように純粋にひたむきに好奇心をキラキラと輝かせて突貫するアンジェラ博士も面白かったですけど、今回は話の内容そのものが興味深くて面白かったなあ。派手なアクションとか、そういうのは全然なかったにも関わらず。
そもそも遺伝子云々を抜きにしても、トウモロコシについて自分、全然知らないんだなあというのがよくわかった。そもそも、トウモロコシが自生しない植物だってことすら知らなかったし。トウモロコシの皮って、人間が剥かなきゃ自然に剥けないのかあ。

うんうん、もうあらゆるベクトルに向かって面白いなあ。もうこの人の描く漫画は半ば河内和泉が描いてるんだから面白いに決まってるだろう? という領域に達しつつあるよ。

メインを構成するキャラクターも出揃ったみたいだし、次回の三巻ではついに「ウイルス」が主軸となるお話となる模様。さあ、盛り上がってきたぞ!!

1巻感想

EIGHTH 14   

EIGHTH 1 (ガンガンコミックスJOKER)

【EIGHTH 1】 河内和泉 ガンガンコミックスJOKER

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 bk1

また難しい主題で挑んできたなあ、この人は。前作の【機工魔術士】にしても【賽ドリル】にしても、明快な正解、正しい選択がないテーマに挑むことがこの人の漫画家、というよりも物語を創る者としてのスタンスなのだろうか。なんにせよ、正解がない問題について延々と苦闘の自問自答、他者との対話と衝突を繰り返しながら、その時その人における最善の答えを求め選択し続けるという苦しいルートを、この新しいシリーズでも辿ることになるのか。
このスタイルというのは、むしろ一途に目の前の理不尽や難問に苦悩する主人公たちよりも、その設問を用意し、全登場人物の懊悩を一手に引き受け導き、掘削していくことになる作者当人が一番負担が大きいと思うんですよね。毎度毎度、大したもんだと呆れながらも敬意を覚える。

今回のシリーズは、遺伝子産業界が舞台。遺伝子分野の技術云々を決して蔑ろにしているわけではなく、むしろそれを扱う側として非常に丹念に描写しているのだけれど、本題は技術そのものではなく、技術を実用化し社会に送り出す、その過程の部分における業界の暗部、しがらみ、硬直化に対して真っ向から挑むような内容になっている。
特に、二番目のお話は、既に十年前に確立されていた火傷に対する皮膚移植の新技術が、認可や実用化への治験、予算問題や利権問題なので表に出ることなく、腐らされていた、なんて話は実際に決して珍しくもない話なんじゃないだろうか。
主人公の所属するエイス研究所は、本社から独立実行権を得て、ある種目先の利を無視した迅速な行動に打って出ている。所長はじめ、職員の意識は間違いなく世の理不尽を蹴飛ばして、組織ではなく人や社会全体にとっての最善を追求することに徹底しているように見えるけれど、民間企業でこの姿勢というのは、立場的にかなり物凄い綱渡りを要求されてるんだろうなあ、特に所長。見た目チンピラで、軽薄な態度のおっさんだけど、その能力の大半は組織の独立性を維持することに費やされてるんじゃないだろうか。かなり忙しそうだし、本来所長が出向くはずだった皮膚移植の技術を持つ博士へのアプローチをキャンセルしたのも、単に忙しかったから、という段階じゃないみたいだし。
ああいう運営してたら、絶対本社から突き上げはくらうだろうし、同業者からの敵視はとてつもないことになりそうだし、かなり危ない橋をわたってるんだろうなあ。

主人公はエイスの警備員、まー警備員といっても建物の警備員じゃなくて、外回りもやる執行工作員って感じだけど。汚い仕事云々は与えられなくて、徹底してガードマンって感じだな。
これは、かなり周りの大人達に大事にされているようだ。今のところ、彼が突きつけられる問題と言うのは、極々狭い彼個人の視野に入ってくるレベルのことに限定されていて、それは周りの大人達の配慮によって彼に対して大きな選択肢を突きつけられないようにされている、という感じだし。
ただ、今の段階でも、結構厳しい選択ではあるんだよなあ。大切に配慮されているけれど、決して甘やかされてはおらず、むしろ厳しく鍛えられているっぽい。そのうちこれ、組織の庇護を受けられない状態で、正解の無い選択肢を突きつけられ、苦しむことになるんだろうなあ。
こっちもあれだ。頑張れ男の子! になりそうで、楽しみ。
順調に周囲にヒロインが集まってるけど、この人の作品において女の子というのは得てして一個の独立した強力なキャラクターとして主人公に負けず劣らずの意地の悪い設問を突きつけられる傾向にあるので、女の子が一杯だからってキャッキャウフフのぬるいハーレムとは程遠い形にはなるんでしょうけど、でもラブコメはちゃんとやって欲しいなあw
 

12月8日


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