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Schuld

TRPGプレイヤーが異世界で最強ビルドを目指す 4(下)~ヘンダーソン氏の福音を~ ★★★★☆   



【TRPGプレイヤーが異世界で最強ビルドを目指す 4(下)~ヘンダーソン氏の福音を~】  Schuld/ランサネ オーバーラップ文庫

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謎の追手から逃げる少女ツェツィーリアと邂逅し、友人ミカと共に彼女を助けることにしたデータマンチ転生者エーリヒ。
そして帝都地下水道で逃走劇を繰り広げる中、エーリヒ達はツェツィーリアが隠していた秘密――彼女の“種族"を知ることになるのだった。
ようやくエーリヒの下宿へと辿り着き、「望まぬ結婚を強いられている」というツェツィーリアの事情を聞いたエーリヒ達。
エリザや妖精達の力も借りて、彼女を帝都から脱出させる作戦を決行するが……!?
ヘンダーソンスケール行方不明のデータマンチ冒険譚、怒涛の第4幕が決着!
考えてみても凄い国だよな、三重帝国って。持ち回りで帝位を回しているのもそうだけれど、その一角を吸血種が占めているのですから。事実上寿命がないんじゃないか、という長寿種や幽霊の類までが学閥や政治中枢の重要なポディションを担ってたりするだけでも面白いのに、国の頂点である皇帝ですら吸血種という強大な種族が就いたりするわけですから。
でも、そういった不老長寿の種族が短命種を支配しているという構図でもないんですよね。あくまで一角を占めている、というだけ。そもそも、皇帝位だれもやりたくなくてみんなで押し付けあった挙げ句に、前に皇帝やってた研究バカにもう一回お前やれよッ! 嫌だ! イヤとか言うな! という帝国頂点会議とは思えないおっさん同士のガキ臭い醜い押し付け合いとかが、至尊の高みで行われてるとか、この国なー。これで、どいつもこいつも妖怪並みに有能極まるもんだから、この三重帝国ってハイレベルに纏まってるんですよねえ。
これが辺境の方まで行くと色々とまた違った意味で権力との駆け引きが面白いことになっているのですけれど。政治上の怪物ばっかりじゃないか、それでいて権力振るうよりも自分の好きなことをやっていたい趣味人ばかりという地獄。
まあ、その皇帝位の押し付け合いのとばっちりが、回り回ってエーリヒのところまで降り掛かってきてしまったわけですが。
これ、ツェツィーリアさんもいい迷惑、どころじゃない話なんですよね。だから、尻尾をくらまし遁走をはじめたのですけれど、そんな彼女を連れ戻すために皇帝の懐刀ともいうべき近衛猟兵を動員するこの大人気なさ!
いや、この近衛猟兵ってのがまたカッコいいんですよ。帝国中からかき集めた精鋭中の精鋭たるスカウト集団……いや、この場合は非正規戦部隊とでも言っていいのでしょうか。こういう辣腕どころじゃない連中を暗部として使うのではなく、映えある近衛として抱えているあたりがこの三重帝国という国の好きな所なんですよね。この様々な多種族で構成された非正規戦部隊の隊員たちのカッコいいことカッコいいこと。逃げるエーリヒたちを追いかける鬼ごっこの鬼であり、シティーアドベンチャー特有の追撃エネミーなのですけれど、これがもうガンガン攻めてくるし、的確に追い込み、索敵も丹念。それでいて、泥臭いのに近衛騎士らしい品性と懐刀らしいビンビンに尖らせた鋭さを感じさせる物腰がとんでもねーのですよ。それでいて画一的じゃなく、各種族の特技を生かした、あるいは個人が鍛えに鍛えまくって伸ばしたスキルを用いての連携がまた色んなシチュエーションに合わせてビシッと決まっていて、いやもう今までのエネミーの中で一番やばかったんじゃないだろうか。

そんな近衛猟兵たちから、それこそあらゆる手段を使い倒しながら時に周到に、時に瞬発的にどんどんと躱して逃げまくるエーリヒのハチャメチャさが、またよく伝わってくるんですわ。近衛猟兵がやべえのが良く分かるからこそ、その近衛猟兵をして捕まえきれないエーリヒってなんなの!? なにこいつ? なんなの? とむしろ、近衛猟兵たちの方に共感できてしまう面白さでありました。
ミカの方も土系魔術師として、そんな自由なこと出来るの? という実力を見せてくれて、いやはやエーリヒとも仲のよろしいことで。

まあ今はまだ故郷にいるマルゴットも含めて、エーリヒの周りにいたヒロインたちというのは色んな意味で癖の強いクセ者ばかりだったので、あのツェツィーリアの芯は強いけれど温厚で淑女らしい正統派ヒロイン像はなかなか来るものがあったんですよね。吸血種というまたぞろ帝国においては特殊ではないけれど特別な種族ではあるけれど、そのキャラクターは清廉でありお姫様キャラなんですよね。
ちょっと身分差がありすぎるのがネックで、今はこう逃亡者としての彼女を匿えているけれど、この一件が終わった後だとなかなか気軽に会えないし連絡も取れない立場なので、ヒロインとしてはやはり他の娘らよりも縁の遠い人になってしまうのでしょうか。いや本当に正統派ヒロインだけにまたココぞというときに深く絡んできてほしいものなのですが。エーリヒの成長していく道の先で待っていて欲しい人の一人ではあるんだよなあ。

エーリヒの場合、ヘンダーソンスケールがハズレる。つまり本道であるストーリーから踏み外して完全にIFルートに入ってしまうと、わりとやりたい放題好き放題その時に成りたいと思ったものに、それがどんな立場地位能力であろうと、成っちゃうだけの、こうと決めたら絶対にそうしてしまう達成力がちょっと意味不明レベルなので、大概何にでもなれるんですけどね。
ツェツィーリアさんの単独攻略ルートでも、また意味不明な吸血騎士になって世界中から何こいつ意味わからないんですけど、呼ばわりされるハメになってますし。エーリヒ、だいたいどのIFルートでも、こいつ意味わからないんですけど!? こいつ、なにやっても死なないんですけど!? これどうするの!? という、わけわからん存在扱いになってるのはご愛嬌である。

既にまあ現状でもその片鱗は出ていて、今回のラスボス戦なんてそのあたり顕著なんですよね。
というか、今回のラスボスの人、ちょっと能力隔絶しすぎてて本来ならシリーズ通してのラスボスとか言われても不思議じゃない、まだ少年時代の夢である冒険者にもなっていない魔術師の丁稚やってる男の子の前に立ち塞がるには、意味不明なレベルで強すぎる相手のはずなんですよね、これ。
でも、そういうレベルが違いすぎるとか次元が違うとかステータス的にどうやっても敵うはずがない、という断絶は、彼の場合意味ないのである。
一旦、こいつは殺す、と決めたらなにをどうやっても殺す。どういう手段を用いても、どんなルールをひっくり返しても、やると決めたら必ずやりとげる、というそれこそ本当の意味がわからない「凄味」。
これがエーリヒの怖さでありえげつなさなのだろう。
チートじゃないし、覚醒とかでもない。能力値があがるわけでも、偶々偶然何もかもがうまくいく展開を引き寄せる力でもない。

データさえ存在するなら、たとえ相手が神でも殺しに興じてみせよう。

それ趣味として極めた人種を、データマンチと呼ぶそうだ。TRPGプレイヤーとしての、極。
まさに彼のことである。
これ、エーリヒの最後の戦いは普通に考えるならどうやっても負け、デッドエンドのはずなんだけれど、もし本当に最後までやっていたとしたら……。
ちょっとゾッとするというかゾクゾクするというか。
殺っちゃったんじゃね? とどこかで想像してしまう。そういう「凄味」がこのエーリヒという主人公の軽妙なノリの奥底には備わっているんですよねえ。
そもそも、負け試合とはいえエーリヒてばありえない勢いで、相手殺しまくってたもんなあ。この主人公、格上殺しの手段とか手管とか準備しまくりすぎでしょう。相手からしたら意味不明すぎて笑っちゃうわ!

こういう主人公の根底のところにTRPGの業というか粋みたいなのが根付いている、或いはもうそれで存在自体が組み立てられてるみたいな所が、今回はもう舐りつくせるくらい味わえて、大変満足でありました。本当にエーリヒって、手段としてではなく在り方としてTRPGプレイヤーなんだよなあ、というのを実感、堪能させていただきました。

しかし、今回も殆ど書き下ろしか、というくらいウェブ版をこねくり回していて、完全に新規話読んだ気分ですわ。ミカと妹のエリザがこんな形で打ち解けているとはねえ。それに、ツェツィーリア逃亡劇に、ミカもがっつり噛むことになりましたし。
いやはや、ごちそうさまでした。満腹じゃい!



TRPGプレイヤーが異世界で最強ビルドを目指す 4(上)~ヘンダーソン氏の福音を~ ★★★★☆   



【TRPGプレイヤーが異世界で最強ビルドを目指す 4(上)~ヘンダーソン氏の福音を~】  Schuld/ランサネ オーバーラップ文庫

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ちょっとしたお遣いのはずが不死者ひしめく迷宮に挑む羽目になり、なんとか攻略したデータマンチ転生者エーリヒ。
彼は共に命を懸けた友であるミカと療養後、ヤバすぎる戦利品やお遣いの品を手に帝都へと帰還を果たす。
そして魔導師(マギア)アグリッピナから破格の報酬を得るのだが、そのアグリッピナが出掛けたまま行方知らずに!
エーリヒは彼女を心配して捜索を――なんて気は全く無く、兵演棋(ボードゲーム)の駒を売る小遣い稼ぎに精を出すのだった。
そこで知り合った僧の少女とささやかな友情を育むが、その縁から今回もトラブルに……!?
ヘンダーソンスケール行方不明のデータマンチ冒険譚、第4幕が開演!


ウェブ版既読……のはずだったんですが、一度読んだはずだったのですが……。
なんか全然別物なんですけど!?
あれぇ、なんかこの辺ってこんな展開だったっけ? このキャラここに登場してたっけ? なんか初めて読んだ話みたいだなあ!? というのが、冒頭から巻末までずーーーっと続くんですよ。
延々とあれぇ?と首かしげてたら終わっちゃったよ!!
これ実質全面改稿じゃないですかー!! わはーー!!

いやそりゃ、こんだけ丁寧に丁寧に上塗りしてたら嵩も増えますよ。上下巻構成になって、さらにページ数やばいことになりますよ。めっちゃ厚い割にサクサクと読めてしまうあたり、ほんと自分的に好みのどストライク入っているのがよくわかるのですが。
キャラの掘り下げもさらに進んでいて、特にミカのキャラクターなんか非常に深く掘り下げてるんですよね。ミカが女性体になった時の美少女っぷりってそんなねっとり丹念に描いてなかったと思うんですけど!? それだけエーリヒが意識してしまうほど、ミカの超絶美少女っぷりが浮き彫りになってるんですよね。同時に、時期によって性別が変わってしまうミカの、そのメンタリティの変化についても非常に丹念に描いているので、彼の…彼女の? ミカの女性体の時のあざとさというか仕草のキュートさがこれでもかと描かれてて、凄く印象に焼き付くことに。そんでもって、男性体や中性体の時の様子も余計に引き立つことになってるんですよね。
正直、ウェブ版のときよりもだいぶミカの印象強くなったんじゃないだろうか。出番も凄く増えてますよね!?
これだけ女っ気を強く発しながら「我が友」とぴったりと寄り添ってくるの、ちょっと凶悪すぎやしませんかね!? 性別の変化に伴って精神性や様子が変わりながらも、この親友というスタンスは変わらない、というのが余計にエーリヒとミカの距離感をおかしくしてしまっているような気がする。
当人たちの間ではその辺無意識であんまり自覚ないみたいなんですけどね。他者から見るとなんかすげえ関係だな、と見て取られるのは後々また語られるところなのですけど。

さて、なにはともあれTRPGの華である都市探索シティアドベンチャーである。in帝都!
その帝都がどういう都市なのか、三重帝国というこの国がどのように成り立ち、今に至り、どんな支配者たちがこの国を動かしているのか、というのが現皇帝の登場とともに描かれる。
てか、あの三巨頭揃いぶみのぶっちゃけ話は結構好きなんですよね。意外と、この物語に登場する権力者たちって、権力そのものにあんまり興味ないどころか、他人にぶん投げたくて仕方ない、他に自分のやりたいこと持ってる抱え込んでる頭のヤベえ趣味人、というのが面白いんですよね。
それでいて、尋常ならざる政治家であり謀略家であり政略家でもあるという皮肉。アグリッピナ師だって、あれだけ責任から逃げ回っておきながらこの人稀代の政治力の怪物だったりするんですよね。まあ、この国そういうのの巣窟だったりするのですけど。
アグリッピナ師をして、ギャフンと言わされいいように振り回されるようなヤベえのが上にいるんだよなあ。そのアグリッピナ師がどれだけヤベえかについて、エーリヒが散々これでもかと痛い目を見つつ言及した上で、そのアグリッピナ師受難の時を描くとか、恐ろしや、である。
何より、この人ら最終的に自分だけがその枷から逃れて、誰かにそういうしち面倒くっさいの押し付けて、自由にやりたいことやり倒すぞー!というのが目的だったりするので、たちが悪いなんてもんじゃないんですよね。見事なまでの政略謀略をやり尽くしての権力の押し付け合いw
まあその流れ矢がなぜかピンポイントでエーリヒのところに飛んでくるんですけどね。どこにいてもなにやってても、ピンポイントで彼のところに飛んでくる不思議。

そもそも、いい年した大人共の大人気ない押し付け合いのとばっちりにして被害者であるところのツェツィーリアさんとエーリヒの間には本来縁らしい縁なんてなかったはずなのにね。
それが、エーリヒが小遣い稼ぎのためにやってた兵演棋というこの世界のチェスか将棋みたいなボードゲームの駒(自作)売りと、営業を兼ねた兵演棋の辻勝負の常連客、というだけの縁だった訳ですから。
ただ常連というだけあって、兵演棋の勝負、指し合いを通じた濃密な会話を何日も何日も続けていた、という意味合いもあるだけに、運命と言えば運命的ではあるんですよね。
出会いのきっかけ、縁のはじまり、としては。

ってか、ツェツィーリアさんってこのシリーズにおいての貴重な「お姫様」枠ヒロインですからねえ。幼馴染枠のマルギット、親友という女友達枠のミカ、妹枠のエリザ、そしてお姫様枠のツェツィーリア……って、こういう枠でくくると意外と王道路線なヒロイン構成だっりするんですね、この作品。
まあ、一人として普通の人類がいないという時点でオーソドックスなんて欠片も見当たらないとも言えるのですがw
いや個人的にツェツィーリアは、一番立場的に色々とお互いハードルが高い分、期待も募っちゃう相手なんですよ。
アグリッピナ師? あの人は……うん、なんかもうクリティカルかファンブルかわっかんねーわ。


というわけで、ついに本格的なシティアドベンチャーの開幕。混在した街の中を敵と味方で走り回る、というのはTRPGの肝にして味噌ですよねえ。そんでもって、地下通路はやはり王道なわけで。
その上で、ちゃんと地下通路の出来た理由やら今現在、どのように地下が使われているのか、なんかが帝国の歴史から社会情勢、インフラにまで言及が及ぶ辺りで世界の設定の濃密さがこれでもかと味わえるのであります。
もうどこ齧ってもどこ舐めても濃厚な味わいを堪能できる設定で敷き詰められた作品ですわー。めっちゃ楽しい。

ヘンダーソンスケール2.0。つまり、今回のIFとなる未来の話は。
生命礼賛主義者……つまりロリコンにしてショタコンという筋金入りの幽霊であるライゼニッツ卿に、エーリヒが貰われてしまった世界線のお話。ガチでピナ師に売り払われる未来も可能性としてあったのかw
ライゼニッツ卿、この巻の前半あたりで貴族階級の金銭感覚は隔絶している、という話題の中でそんな金銭感覚おかしい連中をぶっちぎりで置き去りにした金額を、エーリヒとエリザに着せる衣装代に注ぎ込んでる、という話で思わず笑ってしまったんだけど、ほんとこの人はほんとにもう、どうしたものか。
でも、そんなライゼニッツ卿との未来の話で、ショタを維持するどころではなく、老いた側仕えとして老人として、ずっとライゼニッツ卿の傍に侍っている老エーリヒを敢えて描いてみせるの、なんかいいですわー。
エーリヒもまた、すんげえカッコいい年のとり方してるんですよね。そして、そんな趣味趣向の範疇から遠くハズレてしまったはずのエーリヒを、ついに晩年まで傍から離さず寄り添わせ続けたライゼニッツ卿の、どこか無邪気な姿に感慨を覚えるわけです。
これはこれでイイ世界線だったなあ。好き。






TRPGプレイヤーが異世界で最強ビルドを目指す 3 ~ヘンダーソン氏の福音を~ ★★★★★   



【TRPGプレイヤーが異世界で最強ビルドを目指す 3 ~ヘンダーソン氏の福音を~】  Schuld/ランサネ オーバーラップ文庫

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妖精にまつわる悲しい事件を経て、魔導院のある帝都へとたどり着いたデータマンチ転生者エーリヒ。
魔導師(マギア)アグリッピナの丁稚として、今度は魔導院で働く生活が始まった。
危険人物に目を付けられたりもしたけれど、半妖精の妹エリザの学費のため、エーリヒは丁稚の仕事と魔導院のクエストでお金を稼ぐのだった。
そんな中、友人となった魔導院の聴講生ミカと共にアグリッピナの「お遣い」で旅に出たエーリヒ。
しかしダイスの女神の悪戯か、安全な旅のはずが命懸けのダンジョン攻略(アドベンチャー)に変貌し……!?
ヘンダーソンスケール行方不明のデータマンチ冒険譚、ダイスが荒ぶる第3幕!

ライゼニッツ卿、分類がエネミーになってますよ!? エーリヒ、完全に敵認定してるのか。あれだけお世話になってるのに。どれだけ苦手なんだこの人のこと。人柄としてはアグリッピナと比べるべくもなく善良な人……死霊のはずなんだけど、生命礼賛主義者(ロリショタコン)の餌食とされた事でトラウマ化してしまったか。いい人なんだけどなあ。
というか、この場合はエーリヒを生贄に長期休暇もぎ取っていったアグリッピナ師がどう考えても邪悪でしょうに。そもそも、絶対エーリヒそのために連れてきたでしょ。ライゼニッツ卿の前に人参よろしくぶら下げるために丁稚として連れてきたでしょうw
望外にエーリヒが出来る子だったから重宝してるけど、最初は見た目容姿がライゼニッツ卿のどストライクだったから丁稚で同行するの同意したようにしか思えん、この人の邪悪さを思えば。
というか、エリザを弟子にしたのだって、フィールドワークから戻る理由付のためだったわけですし。

というわけで、やってきました帝都ですよ、帝都編。シティアドベンチャーのはじまり、とはいきなりは突入しませんけれど、ここから風景が一気に変わるんですよね。
この作品の特色は、舞台となる土地や街、場所によって漂ってくる空気感がまったく異なってくるところでしょう。特にこの「帝都」が凄いんですよね。
辺境の村から国の首都まで出てきて、その発展具合に驚く、というのは定番も定番の展開なのですけれど、この帝都の異様はひと味もふた味も違ってくる。現代の地球を知っているエーリヒをして、圧倒される帝都のスケール、凄まじい威容。それを如実に伝えてくれる左を見ても右を見ても視点を縫い留められるような圧倒的な情報量が、情景描写に込められているんですね。視覚情報のみならず、そこに建造物や土地の来歴や歴史的エピソードを挟みつつ、目の裏にすげえディティールで浮かんでこらせられる緻密な描写と、その景色の中に実際にいる登場人物たちの受けている感覚、空気感がダイレクトに伝わってくるのである。そりゃもう圧巻ですよ、なんかもうすげえ、としか言えなくなる。
ライン三重帝国と呼ばれる重厚な歴史と多様な異民族を内包する巨大国家の中枢たる帝都。いやこの帝国という国家の内実を聞いてるだけでも楽しいんですよね。これもうリアルタイムで続いている古代魔法帝国じゃねえの!? という魔法文明そのものですし、国の構造からして面白いのなんの。まだここでは帝室周辺の話はまだ持ち上がってないのか。あれは次巻になるんですか。いやでも、この国、皇帝周りの体制がちょっと面白すぎてすごすぎて。
それでなくても、多民族国家の粋みたいなところがあって、国の拡張に従って取り込まれたあらゆる種族が貴族として国家の運営に携わってる、ってなんかもうそれだけでワクワクしてきませんか? そもそも、皇族からして人間じゃねえし。いや、そう言えば現状、エーリヒの周りって妹含めて普通の人間種っていないんでしたっけ。妹は半妖精だし、アグリッピナ師は長命種で魔導院の五大閥の長たるライゼニッツ卿ときたら死霊ときた。この国、ちゃんと死人にも自我があって動いてたら財産権とか法律で認められてるんだぜ。相続権の方、ちょっとややこしい事になってるの、法律が制定されるまでに結構色々トラブルあったんだろうな、というのが伺いしれてこれはこれで面白い。

さてもそんな混沌たる国の魔法文化の核である魔導院だ。国中の多種多様な種族から魔導を志すものたちが集った魔法版虎の穴。その内実を聞いたエーリヒの、過激派とカルトしかいないんですが? というお言葉にそうだね、と満面の笑みで応じてしまえるマッドたちの巣窟にして楽園である。
学園編、と言ってもいいかもしれないけれど、エーリヒは丁稚というなの従僕であり学生……ここでは聴講生と表現されていますか、ではないのだけれど、アグリッピナ師やライゼニッツ卿のツテで学んで魔法使いから魔導師と呼ばれる存在になっていくわけですが。
この魔導院、魔法学校と言っても中学高校みたいなタイプの学校ではなく、大学に近いものと捉えるべきでしょう。なので学園編と言ってもそこから連想されるものとはだいぶ様相が異なっているし、その日常風景もある種大学的な自由さとわやくちゃさに溢れている。探求の場、としてのみならず、貧乏聴講生たちがそれぞれ四苦八苦して努力と工夫を重ねて生活と学ぶための資金や伝手を手に入れるために駆けずり回っている様子や、学校周辺にそんな聴講生や教授方を対象とした様々な店や職種が軒を連ねていて、独特の学園都市風味な風景にさらに魔法的なエッセンスが加わった光景が、エーリヒの物語の背景にごくごく自然に流れてるんですよね、これがまたいいんだ。雰囲気最高なのですよ。
たとえば、エーリヒの何気ない普段の朝の風景からして、凄まじく絵になるんですよ。
下宿で朝起きたら、家事妖精によって準備された朝餉が湯気を立てている。彼が曰く付きの下宿になぜ住まうようになったか、シルキーという妖精の在り方に触れながら、そのシルキーとの不可思議で温かいコミュニケーションを挟みつつ、仕事のために魔導院に向かえば、彼が駆ける街角では貧乏聴講生たちがバイトとして窓越しに目覚ましの魔法をかけてまわっている様子が、朝の町並みの当たり前の風景として流れていくんですね。
このワンシーンだけでも、魔法文化の結晶のような濃密な描写なんですよ。もうここだけで酩酊してしまいそうな、見たこともない異文化の、でも目の裏にありありと浮かぶように描かれていて、それがそれがさらっと章の導入として触れられるだけで、流れていくのです。

密度が濃すぎて、濃厚すぎて、ちょっともうたまんないッ!!

背景だけでもやたらと濃厚濃密にも関わらず、登場人物たちときたらさらに濃い人ばかり。個人が濃いだけではなく、人間関係そのものがやたらと濃いものになってくるわけですよ。
郷を出てはじめて得た同世代の友人。北方出身の中性的な黒髪の麗人ミカとの出会い。
このミカとエーリヒとのやり取り、というか掛け合いが最初遊びまじりだったんですけど、お互いオペラか演劇のセリフみたいな言葉遣いで会話するんですよね。大仰もいいところで、エーリヒてば絶対TRPGの演技というかロール? あれが楽しさのあまり捗りすぎて、ちょっと酔っ払ってね? という具合にノリノリでやっちゃってて、彼自身あとで恥ずかしさのあまり枕に顔を埋めてジタバタするに違いない、などと述懐しつつ、やめないんですよねえ。
エーリヒもミカもまだ13歳という、それはそううん、お年頃なんですから、この特別感ある友達関係にウカレてしまっているのも仕方ないんでしょうけれど、それにしても「ねっとり」というのがふさわしいような距離感にどんどんハマっていくんですよね、彼ら。ちなみにこれ、少年期特有の距離感、で終わらずに青年期になってもこの調子のままなので、君等結局全然恥ずかしがってないだろう、とw
ミカなんて、自分の秘密がエーリヒにバレてなお受け入れられたあとなんぞ、もうべったべたですからね。エーリヒのこと、名前で呼ばずに普通に「友よ」と呼ぶのがデフォルトになってたり。
なんかもう波長があってしまった上に、コンプレックスを解消するきっかけにもなり、距離感がズブズブになっちゃったんですよね。これにはミカの特殊なありようも大きいのでしょう。これ、ミカが単にヒロインだったらこうはならなかったでしょう。ミカだからこその、同性同士にしては妖しすぎ、異性間としては気安すぎる、中性的なミカ相手特有の特殊にして特異な関係が成り立ってしまった。「おお友よ!」と実際に口にしながら、肩を組み、髪に顔を埋め、頬を寄せ合ってクスクスと笑みを交わすような近すぎる距離で睦み合う距離感の、なんかもう凄さたるやすごいよ?

そして、エーリヒの戦闘力が手がつけられなくなってくるのがちょうどこのあたり。
いや、あの「見えざる手」が強力すぎるでしょう、これ。本来なら日常生活の補助に使うのが通常の簡単な魔法、とされているけれど、エーリヒの手にかかるとちょっとこれ尋常じゃないものになってしまってるんですよね。
これって、いわゆるところの「念動力」にあたる能力のはずなのですけれど、無形の漠然としたサイコキネシスではなく「手」という具体的なイメージを固めて使っているせいで、汎用性と応用性がわけわからんレベルになっちゃってるんですよね。使い手本人のイメージとしてもそうなんだろうけど、読んでる読者側も「手」というイメージ付をしてくれているせいで、その異常さが具体的によく認識できるんですよ。いやもう、これ強すぎませんか? 魔法を使わなくても、戦場刀法が神域にまで達しているエーリヒは剣士として尋常ならざる領域に達しているのに、ここからさらに「見えざる手」の多重同時使用をマルチタスクで運用することで、意味不明わけわからん強さを発揮することになっちゃってるんですよね。攻撃にも防御にも特殊機動にも応用が聞きすぎだろう、この「手」。あげくにアグリッピナ師に教えてもらった空間転移魔法の応用で防御の方に絶対的なアドバンテージが手に入って……。
正直、これエーリヒに正面からぶつかって勝てる方法がさっぱり思いつかないんですけど!

とか思ってたら、エーリヒに正面からぶつかって、ぶち転がしまくる敵がひょいっと出てきて、もう笑うしかねえんですけど!?
いやこれどうやっても負けるはずがないだろう、とばかりに見せた途端にこれですよ。だからといってエーリヒの方が弱体化したわけじゃなく、格が下がったわけじゃなく、それどころか描写の方もエーリヒの凄まじさが死地に突入したことでより磨かれ研がれ叩かれて、ガンガン凄み増すわ鋭さ増すわやべえくらい強者的オーラを纏っていくのですよ。
それをさらにその大上段からばっさりと叩き潰していくようなとんでもねーボスキャラのとんでもねー事とんでもねー事。つ、強すぎる、なんじゃこりゃーー! てなもんである。
いやこれ、どうやったら勝てるんだよ!? と、思わず悲鳴。ついさっき、エーリヒどうやったら負けるんだよ! と言ってた時点から秒である。
ちなみに、わりとたまたま遭遇しただけのエリアボスであるよ。因縁ある怨敵とか先々まで対決し続けることになるライバルキャラ登場、てなもんでは全然ない。

TRPGだよなーー! こういうのTRPGならではだよなーー!! わははは!!

GMの殺意さまである。それ以前のエーリヒとミカが全然準備してないのに巻き込まれるはめになった魔宮ダンジョンの、あの正統派だけど難易度ヤバすぎで、どんどん順番に強力なエネミーが出てくる展開も、あるあるなんだけど、それにしても殺意が高すぎw
13歳の子供たちが挑むには、あまりに殺意が高すぎる。それを、なんかもう拗らせ過ぎて昇華してしまった運命共同体か比翼の鳥のような一心同体親友ムーブで、死にかけながらもクリアしていくエーリヒとミカ。激闘激闘、あまりにも凄まじい激闘すぎて、密度が濃すぎるーー!!
いやほんとに、シリーズ通しても最高潮の戦闘パートだったんじゃないだろうか。熱量がほんと凄かった。熱は熱でも、これ圧縮熱だろう!? と言いたくなる濃度密度濃厚さで。
いやもう、これあらゆる方向に満足度が高すぎて、ちょっと読み終えた時いっぱいいっぱいになってしまいました。しばらくクール時間をおかなくてはならなくなった。酩酊状態よ。
ウェブ版から大量加筆されていた、というのもあるのでしょうけれど、書籍として一気に読むとほんと凄えですわ。濃密さにアテられる。
しかししかししかし、おっもしろかったー! 面白い面白い面白すぎて、もうわけわかんねえ、あははは!!
クールタイム一日置いたはずなのですが、感想書いてたらテンションがまたぞろあがってしまった。
でもだって面白いんだもの。いやあ、好きすぎですわ、これ。もう大好き。

そして、3巻のヘンダーソンスケール1.0。いわゆるIFルートの未来編は、エーリヒくんそのまま魔導院で教授になったよ編!
いやあひどい(爆笑
なにがひどいって、周りからの評価評判と本人の意識が180度異なっている件について。周りからはやりたい放題好き勝手にやりまくって魔導院全体を振り回している超問題児扱いなのに、本人は振り回されて苦労して窮屈な思いをしている側だと信じ込んでいるこのギャップw
漂泊卿とまで呼ばれて自由に世界中を飛び回って帰ってこない、と呆れ嘆かれ怒られているのに、本人気楽に冒険もいけなくて好きに遊びにもいけない、と嘆息しているあたり、こいつ本気で解き放ったらどうなるんだ? おまけに、気が向いたら同僚や派閥問わず若い連中を冒険に引っ張って連れ去っていくものだから、半ば妖精扱いされてるしw
めっちゃ冒険行きまくってるやん! ほぼほぼ冒険者やん! これで、当人不満しか無いって、彼の持つ冒険者のイメージはいったいどこまでイッてしまっているのかしら。
そして、あまりの問題児っぷりに集まって謀殺を企んだものたちが、意味不明な壊れ性能の戦闘能力に「何をどうすりゃ殺せるんだこれ?」とふと冷静になって解散してしまった、というくだりとか、ちょっと大好きすぎるんですけどw

しばらく出番のない幼馴染のマルギットがここで短いながらも登場してくれていて、ちょっとうれしい。こうしてみても、エーリヒの本命ってマルギットで揺るぎないのは間違いないんだよなあ。
ちょうとウェブ版の連載ではマルギットとミカがはじめて対面、或いは対決? しているところなので、この未来での二人の仲の良さは興味深い。
あと、名前の出てこないお弟子ちゃん。年齢的には一回りは違うんですよね。なので、本編には登場しづらいでしょうし、多分エーリヒが魔導院に残るルートでないとなかなか関わるチャンスなさそうなんだけど、いいキャラなだけにチャンスはあって欲しいなあ。
しかし、アラサーになってもライゼニッツ卿に着せかえ人形にされかけてるのか、エーリヒ。そりゃ、エネミー認定してまうわなあw

しかし、毎回毎回、IFルートがどれも面白そうすぎて、それぞれで1シリーズできそうなんですよね。もう各ヘンダーソンスケール1.0のバージョンごとに一冊ずつでも本書いてくれないかしらw



TRPGプレイヤーが異世界で最強ビルドを目指す 2 ~ヘンダーソン氏の福音を~ ★★★★☆   



【TRPGプレイヤーが異世界で最強ビルドを目指す 2 ~ヘンダーソン氏の福音を~】 Schuld/ランサネ オーバーラップ文庫

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この出会いは致命的(ファンブル)!?

魔導師アグリッピナに窮地を救われたデータマンチ転生者のエーリヒ。彼はアグリッピナから、妹のエリザが「半妖精」であると告げられる。
そして「半妖精」の悲惨な運命を避ける唯一の道として、契約を結ばないか、と――。
契約により、エリザは弟子として、エーリヒは丁稚としてアグリッピナと帝都の魔導院へ行くことに。
故郷を離れるエーリヒは、マルギットに一つの誓いを捧げるのだった。
一路帝都へ向かう旅路の中、エーリヒの前に現れた妖精。
彼女がもたらす新たな物語の行方は、どうしようもなく致命的……!?
ヘンダーソンスケール行方不明のデータマンチ冒険譚、待望の第2幕!


わりとこれ、アグリッピナとの出会いをきっかけにしての、故郷との離別は「ヘンダーソンスケール1.0(致命的な脱線によりエンディングに到達が不可能になる)」に該当するようにも見えるんだけれど、そうはならないという当たりにエーリヒの冒険者になるという夢が行き詰まったわけではなく、またマルギットとの約束が不履行となるわけでもないことが、示唆されていると思われる。
まあエーリヒのやりたいようにやるのだ、という生き方の中には愛する末妹のエリザの良き兄として彼女を守る、という事も多分に含まれているので、エリザが半妖精として生まれていた以上は、アグリッピナ師の提案は、エリザの行く末を思うなら唯一無二の道ではあったんですよね。
それでも、将来の展望、力を蓄えてある年齢に達したら冒険者となり村を出て、思うがままの旅に出る、そこには幼馴染の少女の姿も隣、というか背中にあって、という確かなそれなりに細かく予定を敷き詰めた計画が建ててあったにも関わらず、それらを全部放り捨てて、故郷を出るはめになってしまったわけですからね。人生うまくいかないものである、特にTRPGプレイヤーなら尚更にここぞという時にファンブルかますのは必然とすら言えるのである。
とはいえ、溜まったもんじゃないのは家族であり、人生を共にする約束をしていたマルギットなんですよねえ。アグリッピナ師の提案は、まあ自分の都合優先、引き篭もり欲求を叶えるためにエリザを弟子として招く、というのは大変に自分に利のある事ではあるんだけれど、この人にしてはエーリヒやエリザたちにも配慮しまくってくれてる取引ではあるんですよね。
それでも、普通ならばエーリヒの丁稚契約というのは要求される金の単位からして永久雇用である。辺境の農民が左右できる金額と、魔導師の弟子となるエリザが必要となる金銭の桁は文字通り、2つ3つ異なってくるわけで、それを稼がないといけないエーリヒは当然雇用主であるアグリッピナ師にそれだけ奉仕し続けないといけない。
本来なら、これはもう二度と故郷には帰ってこれない、と思われても仕方のない旅立ちなんですよね。マルギットも、エーリヒに会いに来た時の悲愴さからしてそのあたり、覚悟はともかく理解はしていたんじゃなかろうか。でもこの少年と来たら「5年かそこらで上がれたらいいなあ」である。
しかし、5年ですら今14歳のマルギットからすると待つには長過ぎる年月。そもそも5年で年季明けるかどうかすら、普通に考えたら一生涯借金地獄から逃れられない金額を思えば怪しい所。
でも、信じるわけですよ、この娘は。行き遅れになっても、冒険者になると誓った幼馴染をここで待っている、と約束するのである。もうなんか、敵わないよね。
子供同士の拙い約束ではないのは、マルギットとエーリヒの間で交わされた誓いの儀式でまた明瞭なのである。ただの子供の約束で、あんなふうに重く妖しく神聖な「交換」は成せないですよ。
ある意味、どれほど時間が流れても、どれほど距離が離れても、彼女マルギットこそがその定位置を据え定めた、と言える一幕でありました。
でもしばらく、この幼馴染とは残念ながらお別れ、となってしまうんだよなあ。うん、大丈夫、彼女これでフェイドアウトということはないので。その場所は譲らんのでありますよ。

この別れのシーンでもうひとつ印象的だったのが、親父さんとのシーンなんですよね。秘められた父親の過去がその口から語られ、末妹を守って旅立つ我が子に己の過去の夢の残滓と拠り所を託して送り出す。それが、息子が夢を叶えるための旅立ちならば、大いに祝福してのことなのだろうけれど、誰の意にも沿わぬ苦しい別れとなるのなら、そこに託す思いの痛切さはいかばかりか。
しかし、愛娘を託せるに足る男に育ったという末息子への信頼もあり、忸怩たる思いを抱きながらも安心がある。父から子へ、家族の一幕としてはこう染み入るシーンだったんですよねえ。
本作はこういう何気なくもじんわりと染み入る交流のシーンが多くて、なんか熟成が進んで出汁でも溢れ出てきそう。それくらい、味わい深い情緒があるんですなあ。

そして、そういう情緒をさっぱりと理解しないし出来ないアグリッピナ師みたいな、人間とは根本的に異なる価値観の元に生きている長命種、みたいなのがどんどん出てくるのが、種の坩堝となる帝都なのですが……おおう、そこまでたどり着かないのか、お話。
まあアグリッピナ師みたいなの、早々居ないんですけどね。居てたまるか、というくらいなのですけど。長命種というのがどれほどイケててイカレた種族なのかは、実にしみじみと作中でも語り尽くされるのですけれど、その中でもとびっきりの変人極まっているのがこのアグリッピナ師であり、変人=魔導師という基本方程式の中ですら「アグリッピナ」という特別枠で括られそうな人なのである。
まあエーリヒの方も「エーリヒ」という特別枠で括らないとアレすぎる人種なんですけどね。魔導師の丁稚なんてものにならなきゃならなくなり、故郷も出て、まだ7歳の分別もつかない妹の面倒もいなくちゃいけなくて、人生オワタ、みたいな境遇に陥ったにも関わらず、後ろをまるで振り返らずにグジグジと思い悩まず、至極前向きに現在の境遇でバリバリビルド鍛え上げるぞー、とワクワクしているあたり、何気にどんな人生歩んでても幸せになれる奴なんだろうなあ、と実感する次第。
実際、ヘンダーソンスケール1.0が発生して、IFルートに突入する際もどんな境遇立場に陥ってても、ほぼほぼ人生満喫してるもんなあ、こいつ。
しかし、そういう前向きの権化のような人物でも、耐え難い試練というものはあるもので。
実質初陣となる戦いで、そのラスボスがこれ、というのは厳しいにもほどがあるでしょう、居るのならばGMさん。ゲームバランスとして反則、というのではなく精神を摩耗させるという意味で。
というか既に戦闘に関しては、この段階で意味分からんレベルなんですよね、エーリヒって。比べる対象が殆ど現れない上に、居てもアグリッピナ師みたいな超絶存在だったりするのでエーリヒも自分の現在の立ち位置把握しきれてないようだけれど、現段階でちょっとおかしいですもんね。
それに、アグリッピナ師によって魔法のロックが外されて、魔法が使えるようになったという所で、覚えた魔法がアレである。炎とか氷、とか定番のそれではないというのは、フワフワとした魔法使い像に引っ張られるTRPGプレイヤーではないのですよ、と言わんばかりで。というか、よっぽどキャラビルドについて日頃から練りに練って思い巡らせてなかったら、こんな発想そうそう出てこないでしょうしねえ。いやまあ、人生そのものを費やしてビルドに勤しんでいる人物なので、それこそ息を吸い息を吐くようにビルド練ってるんでしょうけれど。
でも、この発想は面白いよなあ。後々までエーリヒの戦闘面のみならずあらゆる場面に置いて得難い効力を発揮し続ける「見えざる手」とのファーストコンタクトである。いや、能力にコンタクトというのも変だけれど、ある意味彼の相棒みたいな能力になりますからなあ。
しかして、初期段階から既にわけのわからないレベルの汎用性を見せてるんですよね。どんだけ便利で応用範囲が広いんだか。ここらへん、プログラムの組まれたゲームではなくTRPGというGMとの駆け引きでどのようなケースにも対応できるゲームのプレイヤーならではの発想の自由さと、それをシステムに組み込んで、はめ殺しを図る応用力か。

ヘルガ編については、書籍用の書き下ろしでウェブ版にはなかった展開なのですけれど、エーリヒにとってはきつい試練でありました。あのラストシーンもさることながら、そのあとの「Tips」の語りがまたここでは凄く優しいんですよね。ただの説明文のはずなのに、ヘルガの想いを伝えてくれているようで。
ここに限らず「Tips」は時にウィットに富んでいたり、アイロニーをきかせていたり、と実に表情豊かで、話の余韻を際立てせてくれる。この作品の色彩の鮮やかさを担う特徴の一つでもあるんですよねえ。

さて、次こそはようやく魔都たる帝都を舞台にシティーアドベンチャー! まではいかないか。それでも、この世界の不可思議で魅力的で怪しげな設定群の精髄が詰まったような都市であり、その情景描写、街を歩き人と出会うシーンだけでも凄まじい情報量が飛び込んできてワクワクしてしまうような舞台がここからはじまるわけです。いやあ、ここまでで楽しかったという余韻に浸るまもなく、ついつい次回に思いを馳せてしまいます、ワクワク。


TRPGプレイヤーが異世界で最強ビルドを目指す 1 〜ヘンダーソン氏の福音を〜 ★★★★★  



【TRPGプレイヤーが異世界で最強ビルドを目指す 1 〜ヘンダーソン氏の福音を〜】 Schuld/ランサネ  オーバーラップ文庫

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データ廃人(マンチ)、異世界を命がけで遊び尽くす!

「データマンチ」――それは、データ上可能であれば神殺しにさえ興じる変人。
そんな「データマンチ」だった前世を持つ少年・エーリヒは、異世界への転生時に授かったキャラビルドの権能を活用して理想の強キャラにならんと画策する。
妙に蠱惑的な幼馴染との遊戯やブラコンな妹のお世話をする中、頭を捻ってデータを隅まで舐め回し、熟練度をやりくりしながら極悪コンボを模索していくエーリヒ。
しかし彼が思うよりも早く物語(セッション)が動き出し、エーリヒは大切な者を守るため戦いに身を投じる(サイコロをふる)ことになり……!?
ヘンダーソンスケール行方不明のデータマンチ冒険譚、ここに開幕!
うははは、これ相当に加筆とかしてますよね。
それでなくても、一気に読むとこの作品の凄まじい「濃厚さ」に酔っ払いそうになる。読んでても、文章内の情報密度が半端なくてそれでいて目が滑る事無くグイグイと読み込ませてくれるだけに、読み応え歯応えが尋常ではないんですわ。
お陰で満腹感満足感がまたとんでもねー事になってます。

事前に書いたピックアップの記事でも書きましたけれど、キャラビルド、ステータスやスキルの数値を貯めた熟練度から好きに振り分けられるという展開は転生モノでは珍しくもないけれど、それを生粋にして屈指のTRPGプレイヤー。人生の趣味の時間の大半をTRPGに捧げた粋人、それも和マンチなどと言われるシナリオとルールとデータ傾向を舐め尽くすように吟味して、常識にとらわれずにやらかす人種が異世界転生して自分のキャラビルドをはじめてしまったら、というTRPGを嗜む人には垂涎の作品なんですよね。
サブタイトルの「ヘンダーソン氏の福音を」とかTRPGを嗜んでる人でなかったら意味わかんないんじゃないだろうか。ちなみに私はこの作品読むまで知りませんでした。あいにくとTRPGはやった事ないもので。でも、リプレイなんかは読んでても腹抱えて笑い転げたり手に汗握ったりとメチャクチャ面白く楽しめるものが多々あるだけに、色々と追いかけたものですのでどういうモノかというのはわかっているつもりなんですけど。
ヘンダーソンというのは作中の人物でなく、TRPGというジャンルにおける、プレイヤーを全殺しするつもりしかなかったGMのシナリオに参加して、その物語を見事にきれいな形で完結させた伝説のプレイヤーであり、彼の名を元にした「ヘンダーソン・スケール」というストーリーがシナリオの本筋からどれだけ離れてしまったかを示す指標のもとになった人物だそうです。
このヘンダーソンスケールは作中でも幕間でたびたび登場し、サブストーリーの展開やシナリオの展開が完全に本来のエンディングから逸脱してしまったいわゆる「IFストーリー」を示すものとして登場します。
本巻でも「ヘンダーソンスケール 1.0」という「IFストーリー」が描かれていて、これ今後もストーリーがもしこんな風に転んだら、こんなエンディングが待っている、という風に描かれるので続刊出たらお楽しみに♪

さて、この1巻ではデータマンチであるエーリヒ、データマンチってのがどういう輩なのかはあらすじ以上に本編で熱く語られているのでそれを参照してもらうとして、そんなビルダーな彼の幼少期から少年期の田舎の農村での生活が描かれることになります。
実のところ、派手な立ち回りが要求されるイベントはラストの一幕だけだったりするのですけれど、ただ辺境の農民の四男坊であるエーリヒの日々の生活、これがまたメチャクチャ濃厚なんですよ。
というのも、世界観の設定がとてつもなく緻密なのである。ライン三重帝国というエーリヒが暮らす国において、農村部の人々がどんな風に暮らしているのかというのが風俗風習からわりとシステマティックな社会体制、統治の仕組み、子供の育ち方や教育方針など様々な観点から緻密かつ非常に面白おかしく描かれていて、エーリヒを含めた子どもたちが成長していく様子を見ているだけでもこれめちゃくちゃ面白くて読み応えあるんですよね。
エーリヒたち家族のヒト種のみならず、この三重帝国は様々な種族が混在して当たり前に共存している、というごった煮感も素晴らしく、幼馴染でこの巻のメインヒロインともなるマルギットなんか、アラクネだったりしますからね。その蜘蛛人であるアラクネですら幾つかの人種があって、マルギットは蝿取り蜘蛛のアラクネという事で小柄で俊敏に飛び回る天性の狩人、という側面があり、ある意味凄まじい観点での種族あげての合法ロリだったりします。合法? もう尋常じゃなく色っぺーんですよね、この幼女風幼馴染。二歳年上の姉さんではあるんだけれど、見た目は幼く、しかし幼い容姿とは裏腹の妖艶さと一途さの持ち主で、幼女にして既に男の狩り方を母君から教授されており、エーリヒとの関係はもう小さい頃からたまらん状態だったりします。
「ヘンダーソンスケール 1.0」でああなってしまうのも、まあ仕方ないかなあ、と思わざるを得ない!
とは言え、マルギットがエーリヒに夢中なのもよくわかるんですよ。この主人公、可愛げの塊みたいな所がありますし。まさに人生を謳歌しているというか、周りを巻き込んで楽しそうに遊んでいるわけですよ。決してこの人生をゲームだと想っているわけではなく、家族を含めて知人友人への愛情タップリですし、最強ビルドを目指すぜーと人生の目標を立てているわけですけれど決して効率厨になっていなくて、ついついその場のノリで余計なスキルやらに熟練度を消費してしまって、素敵な笑顔を浮かべながら無駄な言い訳を自分に繰り返しちゃってるところなんぞ、まあ愛嬌たっぷりなんですよ。あるある、わかるわかる、と思わず頷いちゃう欲望に流されちゃうスタイルは共感すら覚えますし。でも、子供同士の隠れんぼで隠蔽系スキルをあれこれとっちゃったりするのは大人げないぞw

今はまだ辺境の田舎から見た世界という視点からの世界観描写ですけど、その時点でこれだけ密度濃く社会の仕組みの重厚さ、巧みさ、歴史の奥深さを感じさせてくれるのですが、これが先々またエーリヒが置かれる立場から、三重帝国の国家構造や民族、都市部の社会体制や人々の暮らし、娯楽風俗なんぞがまたたっぷりと描かれていくので、もう堪能し甲斐があるのなんの。
また世界観の解説として挟まれる「TIPS」と呼称される解説文章も、これ単なる説明文じゃなくてその場面に応じた諧謔、ウィットに富んだ詞になっていて、作中の雰囲気をより弾ませ撹拌し、匂い立たせることに一役買ってるんですよね。物語を綴る上での「間」を取る作用にもなっていて、読むテンポを調節する上でも重要な役割を負っているようにも見えます。この「TIPS」の使い方も何気にセンスの塊に思えるんだよなあ。思わず、ニヤリとさせられることも度々ですし。

いやあ、面白かった。この濃厚さは物語の世界の中に首まで浸かって思う存分スイミングしているような満足感を与えてくれます。掘れば掘るほど、掘っても掘っても宝がザクザク出てくるような、それがいつまでも終わらないような濃密さ。まだ村から旅立ちすらしていないにも関わらず、並のシリーズなら第一部完、までやっとこ読み切ったような読み応えでありました。うん、ウェブ版既読済みで、書籍化なる前からイチオシの作品だったのですけれど、こうして一気に読むとまた密度の濃さを改めて思い知らされた感があります。読んでるあいだじゅう、楽しい楽しい時間だった。
まだまだ、この世界を、エーリヒの愉快な旅路を堪能し続けたいと思わせてくれる作品でした。
まさに、至福の時間でしたよ〜。最高♪

 
12月2日

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